今年(2018年)のバレンタインの夜のお話。
ラブラブ全開の二人です♥
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【浩介視点】
今年のバレンタインは、慶が食事に連れてきてくれた。
慶が勤める病院から歩いて15分くらいのところにある日本料理屋さんで、年末に院長の峰先生に連れてきてもらって知ったそうだ。
「絶対にお前も気に入る」
との言葉通り、三十席程度の店内は木目を基調とした落ち着いた雰囲気で、料理も盛り付けが美しく味も上品で、どれも和食の粋を極めていて、すっかり気に入ってしまった。おれ達はカウンターの席に通されたのだけれども、そこからは板前さんが料理しているところが見られて、これもまた興味深かった。
「バレンタインに食事って久しぶりだねえ」
「そうだなあ……去年と一昨年はうちに溝部が来たよな」
「今年はさすがにないみたい」
おれ達の高校の同級生の溝部は、昨年春に、長年拗らせた恋を実らせて、同じく同級生の鈴木さんと結婚したのだ。鈴木さんの息子の陽太君ともあいかわらず上手くやっているようで……
「さっき、ラインがきたんだよ。バレンタインのチョコの数、10対6で陽太君に勝ったってさ」
「なにを小学生と競ってるんだ、あいつは……」
慶は呆れたように言ってから、見せてあげたその後の文章を読んでくすくす笑いだした。
『数では勝ったけど、陽太は本命2つだから、なんか負けた気がする』
「って、鈴木以外から本命もらっても困るだろ」
「だよね………って、あ!」
そうだそうだ!
「慶は今年、大丈夫だった?」
「何が?」
キョトンとした慶の腕を腕で軽く小突いてやる。
「何がって本命チョコだよ。まさかもらってないよね?」
「あー……」
口ごもった慶。
え?! なんで言い淀んでんの?!
「まさか慶……」
「あー、ちゃんと断ったから大丈夫」
「は?!」
しれっと言った言葉にアワアワしてしまう。
おれ達、結婚はできないけど、結婚指輪してるし、ちゃんと周りにも言ってるし。それでもチョコ渡してくるって、どんだけ図々しい女……、って、女とも限らないのか?! まさか男?!
「ちょっと、慶、それって……」
詰め寄ったところで、慶がアッサリと言った。
「小学校2年生の女の子なんだけどな。本命チョコだって言うから、申し訳ないけど本命は受け取れないって断った」
「……………」
…………。
ああ……、そうですか。
ホッと息をついだけれど、慶は真面目な顔をしたまま続けた。
「そしたらその子、泣いちゃってさ。お母さんには謝られるし、あとから峰先生には『もっと上手くやれ』って怒られるし、散々だった」
「そっか…………」
「でも、相手が子供でもなんでも、本気の思いは受け取れないから」
慶は、淡々と、何でもないことのように、言葉をついだ。
「おれにはお前がいるからな」
「…………」
うわ……
うわ……
どうしてこの人、こういう風にアッサリと凄い言葉を言ってくれるんだろう……
「慶………」
抱きしめたい……けど、我慢我慢……。
さっきから、おれ達とは反対側の、L字カウンターの端に座っているOL風の女性二人が慶のことをチラチラ見ている。ここで変なことはできない。
慶はとにかく目立つので、こうして見られることには慣れっこだ。あの子たちにはおれ達はどう見えているんだろう? 仕事帰りのサラリーマンってところかな……二人ともスーツ着てるし。どう考えても、カップルだとは思ってもらえないだろうな。
「あとはデザートだな」
「デザート!」
コース料理の最後のデザート!
慶の声に我に返る。そうだ。せっかくのバレンタインデート。他人の目なんか気にしないで楽しまないと!
「慶、ありがとうね。素敵なお店に連れてきてくれて」
「おお。また来ような?」
カウンターの下、コンッと膝をぶつけてくれた。ああ……幸せだ。
**
店から出て、駅に向かっているところで、後ろから「すみません!」と声をかけられた。嫌な予感がしつつも振り返ると……
(………。やっぱり)
予想通り、さっきの店でカウンターの端に座っていたOL風の女性二人が立っている。これ確実に、逆ナンパだ……
「はい?」
逆ナンパされるっていうことは、まったく予想していないだろう慶が「何か?」と問いかけると、二人は顔を赤くしながら、代わる代わるに言った。
「あのっ、二軒目ご一緒しませんか?」
「この先に美味しいワインのお店があるんですっ」
…………。
…………。
バレンタインなのに、男二人で寂しく食事してる、とでも思われたんだろうなあ……
なかなか綺麗な女性達だ。こうして声かけてくるなんて、自分に自信もあるんだろう。普通の男性ならホイホイついていくんだろうけど……
「あー……」
黙っている慶に代わって、何か適当なことを言って断ろうとしたところ……
(……え?)
いきなり、慶に手を掴まれて、言葉をとめた。
(慶?)
なんだ? と、思ったら……
「すみません」
キッパリとした口調で、慶が言い切った。
「おれ達、今、デート中なんで」
「!」
け、慶……っ
「え?」
「は?」
呆気にとられたような顔をした女性達。そりゃそうだろう。っていうか、おれもビックリしすぎて息が止まった。
そんなおれに気がついているのかいないのか、慶は何もなかったかのように振り返り、
「行くぞ?」
ぐいっと引っ張ってくれた。いつでも力強く包み込んでくれる手……
「うん」
その温かい手を握り返すと、愛しいその人はふわりと笑ってくれた。
***
「そういやさあ……」
その日の夜、ベッドの中で慶がポツリと言った。
「お前はどうだったんだ?」
「何が?」
「本命チョコ。もらってないだろうな?」
「…………」
慶、口が尖がってる。かわいい……
「何笑ってんだよ」
「痛い痛いっ」
蹴られてさらに笑ってしまう。
「もらうわけないでしょ。おれには慶がいるんだから」
今日言ってもらったセリフをそのまま返すと、
「そっか」
チュッと軽いキスがおりてきた。
「じゃあ、いい」
「うん」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
手を握り合って、オデコをくっつける。いつものように、すぐに聞こえてきた寝息に幸せが広がる。
「またデートしようね?」
額にキスをして、抱き寄せると、慶からもきゅっと抱きついてくれた。
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お読みくださりありがとうございました!
あ~幸せ~♥
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