【チヒロ視点】
「チヒロ……かわいいね」
耳元でささやかれた声に、体中の力が抜けてしまった。真木さんの優しい声。チヒロって。かわいいって。もう溶けてしまいそう……
「シャワー浴びようか?」
「あ」
うっとりとしていたけれど、続いた優しい声にハッとした。
そうだ。真木さんはいつも、部屋に外の空気を持ち込みたくないっていって、僕が来るとすぐにシャワーを浴びるように言ってたんだった。
「すぐ浴びてきます」
「急がなくて大丈夫だよ。っていうか………一緒に入ろうか」
「え」
真木さんの瞳にドキンとなる。そんなこと今まで一度もしたことない。ああ、でも………
「でも真木さん、僕、準備をしないと……」
「準備? ああ……」
真木さんはスルリと僕の腰から腿のあたりに手を下ろしてきて、首をかしげた。
「いつもちゃんとしてるんだ?」
「はい」
コクリとうなずく。
「いつもはコータがしてくれるんですけど自分でしたこともあるのでコータみたいに上手にはできないかもしれないけど頑張ってみ……、ぁんっ」
いきなり、お尻を鷲掴みにされて、声が出てしまった。
「や………、なに、真木さ………っ」
「あのね、チヒロ君」
いやらしく触りながら、真木さんが言う。
「こういう時に他の男の話をするのはNGだよ」
「え………」
真木さん、なんか怒ってる?
「他の男って、コータは友達……」
「友達は普通、セックスの準備なんかしないし、セックスもしないから」
「…………っ」
服の上から、大きくなりかけていたものをぎゅっと握られて仰け反ってしまう。
「君のその貞操観念の低さ、矯正しないとね。まあ俺も人のこと言えないけど、俺は自覚あるから。君は無自覚でそれだから困る」
「困るって……あ、んんっ」
いつの間にベルトを外され、チャックを下げられていた。押し込められていたものが解放されて、のびのびとそそりたつ。
「あ…真木さ……っ」
「触ってほしい?」
違う生き物みたいにのびあがったそれを、人指し指だけでツーッと撫でられて、ブルブルっと震えがきてしまう。
「あ……、触ってほし……」
「………。ふーん。そんなことも言うんだ?」
「……え、あ」
両脇の下に手を差し入れられて、軽々と持ち上げられ、真木さんの膝の上から下ろされてしまった。そして座ったままの真木さんに真面目な顔で問われた。
「今日はすごく積極的だね? どうして?」
「どうしてって………、んんっ」
真木さんが人指し指でぐちゅぐちゅと汁の出てくるところを弄ってくるから、腰が砕けてきて立っているのがやっとだ。でも、真木さんは怖いくらいの真顔で聞いてくる。
「実はチヒロ君って、他の男にはいつもこうなの?」
「? こうって……」
「こうやって、自分から誘ってるの?」
「! ちが……っ」
慌てて首を振る。
そんなこと一度もない。……って言いたいけど、さっき、他の男の話はNGだって言われたから、言えない。言えることは………
「僕、真木さんと、恋人でいたいから……だから……っ」
「……………」
何とか絞りだした言葉に、真木さんはピタッと指を止めた。
「……………ふーん」
しばらくの沈黙の後、真木さんはなぜか満足そうに微笑むと、おもむろに立ち上がり、
「その答え、気に入った」
「え」
「じゃ、恋人らしいこと、しよっか?」
「え、わ……っ」
僕が驚くのも気にせず、僕のことを軽々と横抱きにして、シャワー室に向かっていった。
**
中途半端に脱がされていた洋服を全てあっという間に剥がされて、気がついたら何も身に付けずにシャワー室の中の全身が写る鏡の前に立たされていた。真木さんはまだバスローブを羽織ったままだから、なんか、変な感じだ。
「……綺麗な色してる」
「え………?」
後ろに立って、包み込むみたいに腰のあたりから手を出した真木さんが、僕のものをユルユルとしごいてくれながら言った。性急じゃない優しい手が、ふわふわと気持ちいい。
「チヒロ君って、普段、自分で抜いてる?」
抜いてるって……、ええと……
「自分では、してみせてって言われた時しかしなくて、それも僕は上手にできないからいつも途中からコータが………、あ」
コータの名前を言ってしまって、慌てて口を閉じる。コータの話はしちゃいけないんだった。
でも、真木さんは先ほどと違って気分を害した様子もなく、「ふーん……」と肯きながら、納得したように言った。
「だからこんなに綺麗なのかな」
「…………」
綺麗? 鏡にうつる自分のものを見てみても、自分ではよくわからない。
「君は性欲が薄いんだろうね」
「薄い?」
「そう。その若さで、自分でしないって、珍しいと思うよ?」
「そう……ですか?」
そうなのかな? 僕は友達がコータしかいないから他の人のことは分からないけど……、今まで、自分からしたいって思ったことはない。でも……
「でも、そんな君が今日はこんなにやる気なのはどうして?」
「………ぁっ」
ぎゅっと強めに握られ、ビクッと震えてしまう。
真木さん、だって、だって、それは……
「だって、だから、真木さん……」
「俺としたいから、だよね?」
「………んっ」
亀頭の部分をクルリと撫でられて、足がカクンとなった。でも、真木さんの左腕がしっかり腰を抱いてくれている。
真木さんは何だか楽しそうにクスクス笑いながら、やっぱりユルユルと触ってくれていたけれど、
「どうしようかなあ……」
「え」
急に手を止めて、ボソッとつぶやいた。振り返ると、真木さんは頬に軽くキスをくれて、
「何だか………もったいない気がしてね」
「もったいない?」
「そう」
すっと真木さんの目が細められた。
「チヒロ君………自分でしてみて?」
「え」
自分で?
「でも………」
それ、僕、できないってさっき言ったのに………
「見ててあげる」
「………………」
「俺の前でだったら出来るよね?」
「………………」
真木さんの命令に慣れた声。
「それが出来たら次のステップに進もうか」
「……………」
すっと一歩、真木さんが後ろに下がった。途端にひやっと寒くなった気がする。
「………………はい」
鏡越しの目に促されて、自分で持ってみる。
鏡にうつった僕のもの………。さっきまで、真木さんの手の中で固く、気持ち良さそうにヨダレを浮かべていたのに、今は、へにょんと力を無くしている。………やっぱり無理だ。
でも頑張って手を揺らして固くしようとしてみた。でも、どうしても少しも固くなってくれなくて………
(これが出来たら次に進むって……)
逆を言えば、出来なかったら次に進まないってことだ……
(僕、恋人延長取り消されちゃう……)
そう思ったら怖くて悲しくて涙が出てきてしまった。
でも、頑張らないと。頑張って自分で出来ないと。それなのに、全然固くならない。小さいままだ。どうしよう。どうしよう………
頭が真っ白のまま、何分くらいたっただろう。
「………チヒロ君」
「!」
ふいに、耳元で優しい声がして、真木さんの手が後ろから伸びてきた。ぎゅっと抱きしめてくれる温かい腕……
「ごめん。泣かせるつもりはなかったんだけど………」
安心できる温もり………
「一緒にしてみようか?」
「………一緒に?」
「うん」
重ねられた手が、僕の手を操るようにして、ゆっくりと上下をはじめる。
「チヒロ君、鏡見て?」
「……………」
少しだけ大きくなってる……
「気持ちよくなっていくところ、覚えて? 強さは? このくらいがいい?」
「ん……っ」
ちょっと強めに握られて、ドクンと自分の手の中のものが力を持ったのが分かった。そのまましごかれて、確実な固さを作っていく。
「指でここ………ほら、ヌルヌルしてるの、分かる?」
「………ぁん」
先を刺激され、ビクッとなり、指先からも快感が走って思わず声が出てしまう。
「可愛いね」
「……っ」
チュッと後ろから耳にキスされて、ゾワゾワッとなる。
「真木さん……」
「ん?」
チュッチュッとわざと音を立てながらうなじにキスをくれる真木さんが鏡越しに見える。
真木さん………真木さん。
「真木さん。真木さん………」
「なに?」
ちょっと笑った真木さんと鏡越しに目が合う。途端にドキンとなる。
真木さん………。今、すごくすごく思う。
「真木さん」
「うん」
「真木さん……」
「なに?」
「真木さん」
ずっとずっと真木さんに包まれていたい。だって。だって………
「好きです」
「え」
ビックリした真木さんの方を振り返り、鏡越しじゃなく、直接、伝える。
「僕、真木さんのことが、大好きです」
「……………」
真木さんは、綺麗な瞳をパチパチとさせてから………
「………チヒロ」
そういって、ぎゅうっと抱き締めてくれた。
結局この日は、真木さんが僕のことを抜いただけで、それ以上のことはしなかった。
「なんかもったいないから」
と、真木さんは再び言っていた。
「続きは今度ね」
そう言っていたのに………
真木さん。どうして?
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お読みくださりありがとうございました!
本当は前回、ここまで書く予定だったのでした。皆様も体調管理にはくれぐれもお気をつけください。
次回、火曜日に更新予定です。お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
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