*今回は若干具体的性表現があります。苦手な方ご注意ください*
渋谷慶……大学一年。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。
桜井浩介……大学二年。身長177センチ。外面明るく、内面病んでる。慶の親友兼恋人。
☆前回までのあらすじ☆
高校2年生のクリスマス前日から晴れて恋人同士となった慶と浩介。
慶は一年間の浪人生活を終え、無事に医大生になり、部活とバイトと浩介漬けの日々を送っている。
浩介は、慶がバイト先の喫茶店『アマリリリス』で女性客にモテモテなことが心配だけれども、慶との関係を知られてはならないため、一度行ったきり見に行くこともできず、イライラモヤモヤ……。
そんな4月末の日曜日。
待ち合わせ場所にいる慶を遠くからうっとりと眺めていた浩介。
その後偶然、高校の同級生で同じバスケ部だった上岡武史とその彼女のミコちゃんに出会う。
実は昔、ミコちゃんは慶に片想いをしていたそうで、そのことに対する嫉妬から、中学時代、武史は慶に嫌がらせをしていたらしい……ということが発覚。
浩介は、慶と武史の絆を思い出して不快になってくる。
その美しい容姿でまわりから視線を集めてしまう慶。浩介は不安でたまらず、独占欲の渦に飲み込まれていく……
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ホテルに入るなり、どうしても我慢できなくて早急に求めた。
「腹減った! 飯食ってから!」
慶にはそう文句を言われたけれど、実力行使で黙らせた。
嫉妬心と独占欲で心の中がぐちゃぐちゃで、行為も少々乱暴になってしまい………
「………ごめん」
欲望を吐き出した数分後……
猛烈反省モードに入り、ベッドの上に正座で慶に頭を下げた。
「ホント、ごめんなさい。お腹空いてるって言ってたのに……」
「…………」
「しかも、強引に、その……」
「…………あほか」
寝転んだままの慶が、呆れたように言う。
「謝るな」
「だって……嫌だったでしょ?」
「…………。浩介」
おいで、というように両手を伸ばしてくれたので、遠慮なく横に寝そべり、慶の肩口に顔を埋めながら、細い腰に腕を回す。素肌の触れ合いが気持ちいい。
「ごめんね」
「だから謝るな」
慶が頭を撫でてくれる。
「別にヤじゃなかったぞ?」
「え」
耳元で慶の優しい声が聞こえる。
「全然ヤじゃなかった」
「…………ホントに?」
「ん」
慶は優しい。優しい慶……
「お前、どうかしたのか?」
頭を撫でてくれながら聞いてくれる。
「まさか、武史に何か言われたのか?」
「ううん」
首を振ってますますぎゅうっと抱きつく。
「ただ……慶がモテモテなのが心配なだけ」
「なんだそりゃ」
意味わかんねーな、という慶。
おれも自分の心がシーソーのように揺れていて、よく分からなくなる。
片方は、モテモテの慶がおれだけを見てくれていることに対する優越感。もう片方は、慶を誰にも見られたくないという独占欲。
つまるところ……やっぱり慶がモテモテなのがいけないんだ。
「だって、慶モテモテなんだもん……」
「別にモテモテじゃねーよ」
「バイト先でも散々声かけられてたじゃん」
「それはウェイターだからだろ」
普通のウェイターは声なんかかけられませんっ。
思わずブツブツ文句を言ってしまう。
「上岡の彼女だって慶のこと好きだったっていってたし」
「中学の時の話だろ」
だから、それも中学の時もやっぱりモテてたって話じゃん、とムッとしてしまう。
それに、さっきだって……
「さっきの待ち合わせの時だってさ、何人もの人に声かけられててさ……」
「それは変な勧誘………」
言いかけて、慶が「あ?」と頭を撫でてくれていた手を止めた。
「お前、なんで知ってるんだ?」
「……っ」
(しまった!)
慶の冷静な声に血の気が引く。慶には内緒だったのに……っ
「お前まさか、もう来てたのか?」
「え……いや、その……」
「浩介」
肩を押されて起き上がさせられ、ジーッと覗きこまれる。美形の真顔、こわい……。耐えきれず白状した。
「…………ごめん。見てた」
「は?」
案の定「は?」と言われる。そりゃそうだ……。
「なんだよそれ」
「あのー……」
ぐりぐりと肩を拳で押されながら、なんとか答える。
「……慶って本当に目立つんだよ? 人からチラチラ見られてること、気がついてない?」
「見られてねえよ」
「見られてるんだって」
本当に気がついてないんだ……
ムッとした慶を見つめ、正直に言う。
「でね、こんなにみんなから注目されてる慶が、他の人からの誘いは全部断って、おれを待っててくれてるんだーって思ったら嬉しくて……」
「…………」
「それでつい、遠くから眺めてて……」
「………なんだそりゃ」
慶は呆れたように言うと、大きく大きくため息をついた。
「ばかじゃねーの?」
そして、おれを押し退け、ベッドからおりてしまった。
「慶……」
怒ってる……
「ごめん、慶、怒ってる……よね」
「別に」
ああ、絶対怒ってる言い方じゃん……
慶はこちらを振り返りもせず、浴室に入っていってしまった。すぐにシャワーの音が聞こえてくる。
(あー……そりゃ怒るよね……。人待たせておいて何やってるんだって話だよね……)
浴室の扉をあけると、慶は頭からシャワーを浴びながら、ジーっと下を向いていた。
「慶……」
横に立ち、再度頭をさげる。
「ホントごめん。待たされて嫌だったよね」
「…………」
「本当にごめ……」
言いかけたところで、シャワーを止められた。浴室の中が妙にシーンとなる……
「慶………」
「………別に怒ってない」
しばらくの沈黙の後、慶がうつむいたまま、小さくつぶやいた。
「ただ………おれは、お前に1分でも1秒でも早く会いたいって思ってたのに、お前はのんびり見学してたのかよって思っただけだ」
「…………え」
それは…………
「慶……」
慶、そんなこと思ってくれてたの……?
おれが醜い優越感を満たすために立ち止まっている間、慶は……慶は。
うつむいた慶の白い頬に落ちた睫毛の影……
「慶」
心が震える。
いつも見せてくれるあの笑顔は、本当におれだけに向けられてるんだ……
「慶……」
うつむいたままの慶の腕を取り、引き寄せる。
「ごめんね」
「…………もういい」
「よくないよ」
ぎゅうっと抱き締めて、濡れている慶の頭に唇を落とす。
「ごめんね………おれ、不安で……。慶がおれのものだっていうのを実感したくて」
「なんだそりゃ」
「だって……」
慶の白い頬を囲み、その柔らかい唇に唇で触れる。ああ……愛しさが伝わってくる……
「慶……」
「ん……っ」
そのまま顎に喉に鎖骨に唇を落としていく。膝立ちになって慶の腰を掴み、へその窪みに口づけると、びくっと慶の分身が反り返った。
「あ……、浩……っ」
「慶……」
その素直なものを、味わうように口に含み、舌で絡めとると、慶が途端に切ない声をあげた。ああ、たまらない……。慶はおれのものだ……
「浩介……っ」
「……っ」
慶がおれの頭を抑えながら、おれの名を呼んでくれる。その色っぽさに我慢できなくて、慶を口に含みながら、自身を扱きはじめると、
「浩……っ」
鋭く慶に咎められた。
「自分ですんな……っ」
「だって……」
「おれがする。立て」
「………はい」
素直に立ちあがる。今日は余計に逆らえません……。
慶はおれの肩口におでこをくっつけ、上半身を密着させると、おれのものをぎゅっと掴んできた。慶の引き締まった下腹に先が擦れて腰が砕けそうになる。
「ん……っ慶っ」
「んんっ」
おれも左手は慶の腰に回して、右手で慶のものを掴み、扱きはじめる。先走りで濡れた慶の感触に余計に感じてしまう。
「あ……んんっ」
「慶……気持ちいい……っ」
時折、膝を曲げて位置を合わせ、わざとお互いのものをぶつけ合う。その度に何とも言えない快感が背筋を駆け巡る。熱い慶の分身……
(慶はおれのもの……慶はおれのもの)
慶のうなじに顔をうずめ、迎えくる絶頂に備える。慶の余裕のない息づかい……おれの肩に食い込む慶の左手の指の痛み……ああ、愛しい……
「あ、も、イク……っ」
「一緒に……っ」
「あ、……んんんっ」
「慶……っ」
あ……っ
お互いの先を合わせるように扱きあった瞬間、同時に熱が最高潮に達し、吐き出された。
「慶、大好き大好き大好き……」
「あ……んんっ」
びくびくとまだ震えているものを手の中に感じながら、慶の耳元で言い続ける。
大好き、大好き……
いとおしくて、いとおしくて、どうにかなってしまいそうだ……
***
「上岡、雰囲気ずいぶん変わってたよね。優しい感じになってた」
買ってきたお弁当を食べながら、先ほどの上岡武史の様子を思い返していうと、慶もうんうんうなずいた。
「女で変わるもんなんだな」
「だね」
自分でもうなずきながら、ふと思い出す。
「そういえば、おれも高2の終わり頃、色んな人から変わった変わった言われたよ」
「え、そうなのか?」
「そうだよ」
慶と付き合うようになってから、少し自分に自信がついた。……そうだ。せっかく自信ついたのに……
「高2の終わり? そうかあ?」
慶は首をかしげると、
「んじゃ、おれは? 変わった?」
「うん」
即答して、慶の白い頬をつんつんつつく。
「ますますかっこよくなった。色っぽくなった」
「なんだそりゃ」
クスクス笑う慶。愛しくてたまらない。
「そんな慶がおれのものなのが嬉しい」
「………わかってんじゃねーか」
「………うん」
そう。わかってる。わかってるけど、不安になる。確かめたくなる。
素直に言うと、ぽんぽんと腿をたたいてくれた。
「んじゃ、確かめたくなったら、おれに直接確かめろよ? 遠くで見学とかしてないで」
「ん……」
うなずきはしたものの、自信はない。また優越感を満たしたくなる気がする……
おれが浮かない顔をしていることに気がついたのか、慶がおれの頭をつかんで、ゴツンとオデコを合わせてきた。
「なんだ? 何が心配だ?」
「……慶がモテモテなこと」
ボソッと言うと、慶が呆れたように言い返してくる。
「またその話か。だからモテモテじゃねえって言ってんだろ」
「モテモテだよ」
下を向いたまま、ブツブツ言ってしまう。
「慶はそういうの鈍感だから気がついてないだけだよ。上岡の彼女のことだって気がついてなかったし……」
「中学の時の話だろ。中学の時は……まあ、それなりに話があったことは否定しねーよ。でもモテモテではなかったぞ?」
「モテてたことには変わりないじゃん」
「だからモテモテではないっつーの」
「同じだよ。バイト先でだって……」
嫉妬してもしょうがないけれど、喫茶『アマリリリス』で散々声をかけられまくっていた光景を思いだして更に凹んでくる。
「慶目当てのお客さん来すぎだよ。慶が全部断ってくれるのは分かってるけど、でも心配っていうかさ……」
落ち込みながら、引き続きブツブツブツブツ言っていたら、
「あーもう、鬱陶しい!」
「痛っ」
いきなり、合わせていたおでこをゴンッと突き返された。
「じゃあ、見張りにこいよっ」
「え?」
慶、口がへの字になっている。
「よくわかんねーけど、心配なんだろ? だったら、バイト先、見にこいよ?」
「え、でも」
安倍が、おれ達の関係をお客さんには知られるなって……
「言わなきゃわかんねーだろ。他人のフリしてりゃいいじゃん」
「…………いいの?」
「いいだろ。それに……」
慶はうつむいて、おれの腕をぎゅっと掴んだ。
「お前が店にきたら嬉しいし」
「慶………」
慶……顔、赤い。か……かわいい。
「うん。行く。絶対行く。毎日行く!」
思わず叫ぶと、慶がまた呆れたように言った。
「毎日は無理だろ。お前だってバイトとかサークルとかあるし」
「バイトはともかくサークルは遅くても6時までだから大丈夫。行くね。バイトない日は毎日行くね。それで……」
女性客があっさりと慶に振られていく様を優越感と共に見届けてやろう………っていう本音は心にしまって、と。
「一緒に帰ろうね?」
「おお、いいな」
にっとして、慶が食事を再開した。慶は食べる姿もモグモグ一生懸命で可愛らしい。ついつい見とれてしまう。
(慶はおれのもの……)
愛しい横顔を見つめながら呪文のように唱える。でもいくら唱えても不安になってしまう。
いつの日か不安にならなくなる日なんてくるのだろうか。
その日がくるまで、おれは呪文を唱え続けなくてはならない。
慶はおれのもの。
慶はおれのもの。
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お読みくださりありがとうございました!
ダラダラ長いわりに内容薄くてすみません……
「いつの日か不安にならなくなる日なんてくるのだろうか」?
→はい!40過ぎてからそんな日がきます(長編『あいじょうのかたち』にそんな話があります)。まだまだ先は長い!頑張れ!
今回のお話は、長編『自由への道』が始まる少し前にあたります。
こうして浩介は他人のフリして喫茶『アマリリリス』に通いつめることになり、この数日後、あかねが『アマリリリス』に登場するわけです。
次はもう少しサクッといきたい(希望)。
次回は、浩介就職1年目のお話しにしようかな……いや、その前に大学で合コンとか行っとく?とか思ったり……。
また一週間後くらいの更新になると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします!
見に来てくださった方、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
こんな拙作をお読みくださり、もう有り難すぎてどこをどうしていいか分かりません~~ありがとうございます!よろしければ、今後ともどうぞよろしくお願いいたします!
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