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BL小説・風のゆくえには~握手記念日

2024年05月17日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
2024年5月10日(金)朝のお話です。


【浩介視点】

 5月10日は、高校生になって、慶と初めて話した記念日だ。
 あの体育館の入り口での出会いは、今でも昨日のこと……まではさすがに大げさだけれども、かなり鮮明に覚えている。

(慶は覚えてないだろうな……)

 出会い自体は覚えているだろうけど、今日が記念日だということは覚えていないだろう。
 記念日を気にしない慶にそれを強要するのは申し訳なくて、「付き合いはじめ記念日」の12月23日と、「愛してる記念日」の11月3日以外の記念日は、自分だけで振り返ることが多い。

(あの時、「よろしくお願いします」って握手した)

 勇気を出して、あの高校に入学して、バスケ部に入って、本当に良かった。

 そんなことを思いながら、横で寝ている慶の寝顔をジッと見ていたら、その綺麗な長いまつ毛がゆっくりと持ち上がり、湖みたいな瞳がこちらを見返してきた。

「…………何時だ?」
「ごめん、起こした?」
「いや……、5時半、か」

 慶の視線が棚の上の目覚まし時計に行ってから、おれのところに戻ってきた。

「もう起きるのか?」
「ううん。まだ、慶の寝顔みていたい」
「………なんだそりゃ」

 慶はふっと笑うと、また瞼を閉じた。今日は、洗濯をしない日なので、あと一時間は眠れるのだ。

(……………)

 至近距離の慶……
 綺麗な顔だな……とあらためて思う。あの時もそう思った。そして、握手したその手がすごく温かかったこともよく覚えている。

(……手、触ったら起きちゃうかな……)

 握手したいな……

 あの時を思い出して、強烈にそう思う。

 でも、起きちゃうかな……

(ううう………、我慢我慢……)

と、布団の中でモゾモゾと手を動かしながらも、我慢していたら、

「!」

 いきなり、手をつかまれた。

「…………慶?」

 見返すと、慶は、ちょっと笑ってから、小さく言った。

「…………よろしくお願いします、だろ?」
「!」

 びっくりして強く握り返してしまった。

 慶、覚えててくれたんだ! 嬉しい!

「うん! よろしくお願いします!」
「……おお」

 慶は照れた表情を隠すためのように、すいっとこちらに身を寄せてきて、おれの胸のあたりに顔をうずめた。

「……まだ寝る」
「うん」

 右手は握手をしたまま、左腕でギュッと抱きしめる。

(あの日から何年たったんだっけ……)

 あの頃は、こんな幸せが手に入るなんて想像もできなかったな……

(慶………)

 覚えててくれてありがと。これからも、よろしくね?

 そんな気持ちをこめて、そっと額に口づけると、慶の温かい腕がギュッと抱きしめ返してくれた。



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あいかわらずなんのオチもない小話、お読みくださりありがとうございました!
5月10日(金)の朝に上げようと思ってたのに、書き終わらず、結局一週間の遅刻となりました。

慶君、「覚えてた」というより、浩介が手をモゾモゾしているのを見て「思い出した」のでしょうね。5月10日の話は前にもしたことあるので…

高校1年生、慶と握手した直後の浩介君の様子がこちら→遭逢4(浩介視点)
今でいうところの「推し」に会えちゃったあとのアワアワ感がなんか可愛いのです。

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「風のゆくえには」シリーズ目次1(1989年~2014年) → こちら
「風のゆくえには」シリーズ目次2(2015年~) → こちら
コメント (2)
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