2024年5月10日(金)朝のお話です。
【浩介視点】
5月10日は、高校生になって、慶と初めて話した記念日だ。
あの体育館の入り口での出会いは、今でも昨日のこと……まではさすがに大げさだけれども、かなり鮮明に覚えている。
(慶は覚えてないだろうな……)
出会い自体は覚えているだろうけど、今日が記念日だということは覚えていないだろう。
記念日を気にしない慶にそれを強要するのは申し訳なくて、「付き合いはじめ記念日」の12月23日と、「愛してる記念日」の11月3日以外の記念日は、自分だけで振り返ることが多い。
(あの時、「よろしくお願いします」って握手した)
勇気を出して、あの高校に入学して、バスケ部に入って、本当に良かった。
そんなことを思いながら、横で寝ている慶の寝顔をジッと見ていたら、その綺麗な長いまつ毛がゆっくりと持ち上がり、湖みたいな瞳がこちらを見返してきた。
「…………何時だ?」
「ごめん、起こした?」
「いや……、5時半、か」
慶の視線が棚の上の目覚まし時計に行ってから、おれのところに戻ってきた。
「もう起きるのか?」
「ううん。まだ、慶の寝顔みていたい」
「………なんだそりゃ」
慶はふっと笑うと、また瞼を閉じた。今日は、洗濯をしない日なので、あと一時間は眠れるのだ。
(……………)
至近距離の慶……
綺麗な顔だな……とあらためて思う。あの時もそう思った。そして、握手したその手がすごく温かかったこともよく覚えている。
(……手、触ったら起きちゃうかな……)
握手したいな……
あの時を思い出して、強烈にそう思う。
でも、起きちゃうかな……
(ううう………、我慢我慢……)
と、布団の中でモゾモゾと手を動かしながらも、我慢していたら、
「!」
いきなり、手をつかまれた。
「…………慶?」
見返すと、慶は、ちょっと笑ってから、小さく言った。
「…………よろしくお願いします、だろ?」
「!」
びっくりして強く握り返してしまった。
慶、覚えててくれたんだ! 嬉しい!
「うん! よろしくお願いします!」
「……おお」
慶は照れた表情を隠すためのように、すいっとこちらに身を寄せてきて、おれの胸のあたりに顔をうずめた。
「……まだ寝る」
「うん」
右手は握手をしたまま、左腕でギュッと抱きしめる。
(あの日から何年たったんだっけ……)
あの頃は、こんな幸せが手に入るなんて想像もできなかったな……
(慶………)
覚えててくれてありがと。これからも、よろしくね?
そんな気持ちをこめて、そっと額に口づけると、慶の温かい腕がギュッと抱きしめ返してくれた。
終
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あいかわらずなんのオチもない小話、お読みくださりありがとうございました!
5月10日(金)の朝に上げようと思ってたのに、書き終わらず、結局一週間の遅刻となりました。
慶君、「覚えてた」というより、浩介が手をモゾモゾしているのを見て「思い出した」のでしょうね。5月10日の話は前にもしたことあるので…
高校1年生、慶と握手した直後の浩介君の様子がこちら→遭逢4(浩介視点)
今でいうところの「推し」に会えちゃったあとのアワアワ感がなんか可愛いのです。
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