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BL小説・風のゆくえには~令和初・付き合いはじめ記念日・前編

2019年12月27日 07時28分57秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 12月23日は、おれと浩介の「親友」という関係に「恋人」をくっつけることになった記念日だ。
 浩介はやたらと記念日を大切にするので、やれ初キス記念日だの出会った記念日だの、その他諸々覚えている。反しておれはとんと無頓着。でも、さすがに、誕生日と、この「12月23日」だけは覚えている。昨年までは祝日だったから思い出しやすかった、ということも理由として挙げられる。

 でも、令和になった今年からは平日なわけで……

「ケーキ買っておくね」

 朝、駅で別れる時にニコニコで浩介にいわれたけれど、インフルエンザが蔓延している月曜日は残業は必至だ……

 予想通り、職場の病院を出られたのは夜の8時半過ぎになってしまった。これから帰るという連絡だけして、帰り道を急ぐ。昨日と違って、今日は雨じゃなくて良かった。

(……雨は、嫌いだ)

 浩介がおれの元を去っていった絶望的な朝にも雨が降っていた。
 あれから10年以上経つというのに、まれに、不安な気持ちが体中に蔓延して、叫びだしたくなる時がある。深い穴の中に落ちてしまいそうになる……

(忘れろ。忘れろ……)

 慌てて記憶に蓋をする。思い出さない。考えない、考えない。忘れろ。忘れろ……

 と、

『迎えに行くよ♥ 渋谷何時の電車?』
「…………」

 救い出すような、浩介からの能天気なメッセージにホッ息をつく。

(大丈夫……大丈夫)

 浩介はいる。ちゃんと、いる。おれのことを待っててくれている……

『9時1分発』
『了解。改札でね』

 何でもないことのように、そこに、いる。

 思えば、12月23日は、あの離れていた3年間以外は、必ず一緒に過ごしていた。

(いや……23日が終わるギリギリに帰ったこともあったな……)

 仕事が忙し過ぎて、なかなか会えなかったあの頃……そのせいで浩介の異変に気が付かなかったことは、もう言い訳のしようがない。もうあんなことはしない。だから、だから浩介……

 電車は少し遅れて駅に着いた。

 早く会いたい。

 人波をすり抜け、改札に急ぐ。早く、早く、早く……

「おかえりなさい!」
「……っ」

 出迎えてくれた浩介のふんわりした笑顔に、心の底から安堵する。

 浩介が、いる……

「お疲れ様。車、スーパーに停めたんだ。買い物したいんだけど大丈夫?」
「ああ」

 軽く肯くと、浩介がまたニッコリとした。体中が浩介で満たされていく。

 いつものように、二人並んで歩く。

「あのね、さっきちょっと見たんだけど、チキンが美味しそうなんだよ」
「チキン?」

 なぜ、チキン? って……

「ああ、明日クリスマスか」
「そうそう。やっぱりあの照りは家では出せないのかなあ。明日作るつもりだったけど、買っちゃおうかなあ」
「おれ明日休みだから、買うなら買ってくるぞ?」
「ホント!? じゃあ、今から下見ね!」
「ああ」

 明日の話ができる幸せがここにある。


「今日の夜ご飯は、リクエストにおこたえして、ビーフストロガノフを作ってありまーす」
「おお、やった!」

 思わずパンっと手を合わせると、浩介が目元を和らげ、おれの頭を軽く撫でてくれる。

「ケーキもあるからね」
「おお」
「あ〜良い記念日だな〜」
「……そうだな」

 記念日は、一緒にいられる幸せを再認識するためにあるのかもしれない。



ーーー

お読みくださりありがとうございました!
『渋谷何時の電車?』の『渋谷』は駅名の『渋谷』であって、慶の苗字の『渋谷』ではありません。ちょっと紛らわしい……。慶も浩介も渋谷乗換なんです。

……って、本当はこれの浩介視点の続きもあるんですけど、日にちが過ぎ過ぎちゃうのでここまでであげちゃいます。本当は24日(火)の朝にあげるつもりだったのです……
そのうち決着をつけてあげたい慶のトラウマ。でもきっと、なくなることはないんだろうなあ……と思います。思い出す頻度は減ってるんだろうけど……。まあ、反省するためには良いのかも?と思ったり?どうなんでしょう……

更新ないにも関わらずクリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!どれだけ嬉しくて有り難いことか!!
たぶんまた忘れた頃に更新させていただきますのでどうぞよろしくお願いいたします。

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コメント (6)
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