(1993年にノートに書いたものを写したものです↓)
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妹の南が突然訪ねてきた。
「まったく……いきなりくるなんて……連絡くらいしろよ」
「まぁま、突然のほうが感動が大きいでしょ?」
カラカラと南が笑う。約2年ぶりだがまったく変わっていない。容姿も性格も。
「大丈夫なのか? お前、沢村さんの出張にくっついてきたってことは、西子ちゃん家に一人でいるのか?」
「大丈夫。守に帰ってきてもらってるから」
沢村さん、というのが南の旦那さんで、西子ちゃんというのが南の娘。守くんは沢村さんの連れ子でもう社会人だ。まったくこいつが母親になるなんて夢にも思わなかった。
「で? 浩介さんはまだ学校?」
「ああ。そろそろ帰ってくると思うけど……」
「ふーん……で、お兄ちゃんたちって……どうなの?今?」
「どうって……なにが?」
「何がって決まってるでしょ。浩介さんとのせ・い・か・つ」
「別に……普通だけど? 家事も全部分担制で……」
「そうじゃなくてっ」
いきなり南がバンッと手をついたもんだから、ビビッてコップを落としそうになってしまった。
「な、なにがだよ?!」
「桜ちゃんの結婚式のときもろくに話せなかったし、電話でこんなこと聞けないから、せっかく楽しみにしてたんだからねっ。ちゃんと答えてよっ」
「だから、なにを?」
「なにをって、だから……あ、浩介さん帰ってきた?」
何やら外の方が騒がしい。浩介のご帰還だ。
「そうみたいだな」
「じゃあ、私隠れてて驚かそうっと。キッチンにいるね。突然出ていくから浩介さん入れちゃだめよっ」
「あ、おい。南……」
いう間もなく南はキッチンにかけこんでしまった。勝手なところもちっとも変っていない。
「ただいまーっ」
浩介が帰ってきた。おれをみつけてにっこりとすると、
「ごめんー遅くなって。今日オレが食事当番だよねっ。すぐ作るから待ってて。玉ねぎあったよねー」
「あ、浩介っ、ちょっと待った」
キッチンに入っていこうとする浩介を慌てて止める。
なんでおれがこんなことしなくちゃならないんだか……
「なに? どうかした?」
「いや……どうもしないんだけど……」
まったく南っ。さっさと出てこいっ。
「どうしたの? 慶、顔色悪いよ?」
「そ、そんなことな……」
「本当に悪いよ。座って。熱は?」
「そうじゃなくて……」
「大丈夫? 横になったほうが……」
「じゃなくって……っと、うわっ」
押されてバランスを失いソファに倒れこんだ。その拍子につかんでいた浩介の腕を引っ張ってしまい、一緒にもつれこんでしまった。
「わっ悪いっ浩介っ大丈夫か?!」
「平気……ごめん、こっちこそ……のっかっちゃって……」
ゆっくりと浩介の顔が近づいてくる。
「浩介……」
わずかに腕に力がこもる。
「慶……」
そして……
じゃなかった!! みっ南がキッチンに……っ。
「ちょっ待った、こう……」
「えーゴホンゴホンっ。お取込み中のところ悪いんだけど」
手遅れだった……。
南が手を腰にあてて立っている。
「南ちゃん?!」
浩介が驚いたように叫んだ。そりゃ当たり前か。
「お久しぶり。浩介さん。あいかわらず仲が良くって安心したわ。私」
「み、南……お前な……」
いいかけると、南はニッと笑みを作り、
「じゃ、私帰るわっ。お邪魔しました」
「お前きたばっかりじゃねぇか。夕飯くらい……」
「んー私もそうしたいのは山々なんだけど、沢村さんと約束してるからさ」
「そうか……」
「うん。ということで。あ、送らないでいいわよ」
南はさっさと玄関に向かって歩き出したが、
「お兄ちゃん」
ふりむいて、なんか妙に嬉しそうな顔をした。
「なんだ?」
「さっきの質問ね……その答えで嬉しかったわ」
「さっきの質問って……あ」
そういうことか。生活って。
「だってさーもうただの友人のように暮らしてますーとかだったらなんか悲しいじゃない」
「お、お前なあっ」
「じゃ、浩介さんもお元気で。じゃあねお兄ちゃん。いつまでも仲良くね」
ばたんっとドアが閉まった。
「あーびっくりして一言もしゃべれなかった……」
まだ目をまんまるくしたまま浩介がいう。
「まったく……あいつ、突然来て突然帰って……本当に変わってないよな。あの性格」
「うん。それに外見も年取ってないね」
「あいつ一生あのままっぽいよな」
顔を見合わせ苦笑する。
「ねえ、慶、さっき南ちゃんと言ってた『質問』ってなに?」
「え?ああそれは……」
説明しようとして、一人赤面してしまった。
さっきの質問? それは……
「まあ、生活について、だよ」
「生活?って?」
「だから、家事はどうしてるのかとか……」
ごにょごにょと適当なことを言ってみたが、浩介はうんうんと何度もうなずき、
「そっかあ南ちゃん心配してくれてるんだねぇ。お兄さん思いだもんね……」
「どこがだ……」
聞こえないように小さくつぶやく。
本当に、どこが、だ。あいつのあの言い方は心配なんかじゃなくって興味本位だっ。
あいつの言った、生活ってのはつまり……
「そうだねぇ、順調だよね。おれ達の生活。家事も分担してるし、今のところお金にも困ってないし、それに……」
「それに?」
「それに、あっちの生活も、ね」
「!」
こ、こいつっ南と同じ思考回路してるっ。
「お、お前なっ……と、こらっ、夕飯っお前の当番っ」
「いーじゃん。ちょっとぐらい」
「こっ、こらこらこらっ。よくないよくないって……ん…浩介…」
「慶……」
そして………
じゃないだろ!!!
「お前っ今日夜も授業あるんだろっ。間に合わなくなるぞっ。さっさとメシ作れっ」
「ちぇーーーーーっけちっ」
「ガキみてえなこと言ってんなっ」
「どーせ精神年齢ガキだよー。もー、じゃ、カレーにしちゃうからねっ」
渋々と浩介がキッチンに入っていく。
浩介との生活は、何もかも順調だったりする。
(1993.6.13,14)
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桜ちゃんの結婚式から2年、なので、慶と浩介40才くらいかな?
これ書いた当時、私、18歳かあ……。
書きながら、慶と浩介、すっごいオジサンになっちゃうんだなーと思ってたけど、
40歳じゃ、まだまだ若いじゃん。
40歳過ぎてもこんなにいちゃいちゃしてる人いるのかなあ?
慶と浩介は仲良しだからしてるってことで!
……って思いながら書いた記憶があるけど、
別に40歳過ぎてもいちゃいちゃするときゃするので大丈夫です。と当時の私に言ってやりたい。
はあ。十代の子からしたら四十代ってものすっごい年上なんだよな~。なんて改めて思った。
あんま変わんないんだけどね。
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妹の南が突然訪ねてきた。
「まったく……いきなりくるなんて……連絡くらいしろよ」
「まぁま、突然のほうが感動が大きいでしょ?」
カラカラと南が笑う。約2年ぶりだがまったく変わっていない。容姿も性格も。
「大丈夫なのか? お前、沢村さんの出張にくっついてきたってことは、西子ちゃん家に一人でいるのか?」
「大丈夫。守に帰ってきてもらってるから」
沢村さん、というのが南の旦那さんで、西子ちゃんというのが南の娘。守くんは沢村さんの連れ子でもう社会人だ。まったくこいつが母親になるなんて夢にも思わなかった。
「で? 浩介さんはまだ学校?」
「ああ。そろそろ帰ってくると思うけど……」
「ふーん……で、お兄ちゃんたちって……どうなの?今?」
「どうって……なにが?」
「何がって決まってるでしょ。浩介さんとのせ・い・か・つ」
「別に……普通だけど? 家事も全部分担制で……」
「そうじゃなくてっ」
いきなり南がバンッと手をついたもんだから、ビビッてコップを落としそうになってしまった。
「な、なにがだよ?!」
「桜ちゃんの結婚式のときもろくに話せなかったし、電話でこんなこと聞けないから、せっかく楽しみにしてたんだからねっ。ちゃんと答えてよっ」
「だから、なにを?」
「なにをって、だから……あ、浩介さん帰ってきた?」
何やら外の方が騒がしい。浩介のご帰還だ。
「そうみたいだな」
「じゃあ、私隠れてて驚かそうっと。キッチンにいるね。突然出ていくから浩介さん入れちゃだめよっ」
「あ、おい。南……」
いう間もなく南はキッチンにかけこんでしまった。勝手なところもちっとも変っていない。
「ただいまーっ」
浩介が帰ってきた。おれをみつけてにっこりとすると、
「ごめんー遅くなって。今日オレが食事当番だよねっ。すぐ作るから待ってて。玉ねぎあったよねー」
「あ、浩介っ、ちょっと待った」
キッチンに入っていこうとする浩介を慌てて止める。
なんでおれがこんなことしなくちゃならないんだか……
「なに? どうかした?」
「いや……どうもしないんだけど……」
まったく南っ。さっさと出てこいっ。
「どうしたの? 慶、顔色悪いよ?」
「そ、そんなことな……」
「本当に悪いよ。座って。熱は?」
「そうじゃなくて……」
「大丈夫? 横になったほうが……」
「じゃなくって……っと、うわっ」
押されてバランスを失いソファに倒れこんだ。その拍子につかんでいた浩介の腕を引っ張ってしまい、一緒にもつれこんでしまった。
「わっ悪いっ浩介っ大丈夫か?!」
「平気……ごめん、こっちこそ……のっかっちゃって……」
ゆっくりと浩介の顔が近づいてくる。
「浩介……」
わずかに腕に力がこもる。
「慶……」
そして……
じゃなかった!! みっ南がキッチンに……っ。
「ちょっ待った、こう……」
「えーゴホンゴホンっ。お取込み中のところ悪いんだけど」
手遅れだった……。
南が手を腰にあてて立っている。
「南ちゃん?!」
浩介が驚いたように叫んだ。そりゃ当たり前か。
「お久しぶり。浩介さん。あいかわらず仲が良くって安心したわ。私」
「み、南……お前な……」
いいかけると、南はニッと笑みを作り、
「じゃ、私帰るわっ。お邪魔しました」
「お前きたばっかりじゃねぇか。夕飯くらい……」
「んー私もそうしたいのは山々なんだけど、沢村さんと約束してるからさ」
「そうか……」
「うん。ということで。あ、送らないでいいわよ」
南はさっさと玄関に向かって歩き出したが、
「お兄ちゃん」
ふりむいて、なんか妙に嬉しそうな顔をした。
「なんだ?」
「さっきの質問ね……その答えで嬉しかったわ」
「さっきの質問って……あ」
そういうことか。生活って。
「だってさーもうただの友人のように暮らしてますーとかだったらなんか悲しいじゃない」
「お、お前なあっ」
「じゃ、浩介さんもお元気で。じゃあねお兄ちゃん。いつまでも仲良くね」
ばたんっとドアが閉まった。
「あーびっくりして一言もしゃべれなかった……」
まだ目をまんまるくしたまま浩介がいう。
「まったく……あいつ、突然来て突然帰って……本当に変わってないよな。あの性格」
「うん。それに外見も年取ってないね」
「あいつ一生あのままっぽいよな」
顔を見合わせ苦笑する。
「ねえ、慶、さっき南ちゃんと言ってた『質問』ってなに?」
「え?ああそれは……」
説明しようとして、一人赤面してしまった。
さっきの質問? それは……
「まあ、生活について、だよ」
「生活?って?」
「だから、家事はどうしてるのかとか……」
ごにょごにょと適当なことを言ってみたが、浩介はうんうんと何度もうなずき、
「そっかあ南ちゃん心配してくれてるんだねぇ。お兄さん思いだもんね……」
「どこがだ……」
聞こえないように小さくつぶやく。
本当に、どこが、だ。あいつのあの言い方は心配なんかじゃなくって興味本位だっ。
あいつの言った、生活ってのはつまり……
「そうだねぇ、順調だよね。おれ達の生活。家事も分担してるし、今のところお金にも困ってないし、それに……」
「それに?」
「それに、あっちの生活も、ね」
「!」
こ、こいつっ南と同じ思考回路してるっ。
「お、お前なっ……と、こらっ、夕飯っお前の当番っ」
「いーじゃん。ちょっとぐらい」
「こっ、こらこらこらっ。よくないよくないって……ん…浩介…」
「慶……」
そして………
じゃないだろ!!!
「お前っ今日夜も授業あるんだろっ。間に合わなくなるぞっ。さっさとメシ作れっ」
「ちぇーーーーーっけちっ」
「ガキみてえなこと言ってんなっ」
「どーせ精神年齢ガキだよー。もー、じゃ、カレーにしちゃうからねっ」
渋々と浩介がキッチンに入っていく。
浩介との生活は、何もかも順調だったりする。
(1993.6.13,14)
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桜ちゃんの結婚式から2年、なので、慶と浩介40才くらいかな?
これ書いた当時、私、18歳かあ……。
書きながら、慶と浩介、すっごいオジサンになっちゃうんだなーと思ってたけど、
40歳じゃ、まだまだ若いじゃん。
40歳過ぎてもこんなにいちゃいちゃしてる人いるのかなあ?
慶と浩介は仲良しだからしてるってことで!
……って思いながら書いた記憶があるけど、
別に40歳過ぎてもいちゃいちゃするときゃするので大丈夫です。と当時の私に言ってやりたい。
はあ。十代の子からしたら四十代ってものすっごい年上なんだよな~。なんて改めて思った。
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