(2015年11月24日に書いた記事ですが、カテゴリーで遭逢(そうほう)のはじめに表示させるために2016年1月6日に投稿日を操作しました)
目次↓
遭逢1(慶視点)
遭逢2(浩介視点)
遭逢3(慶視点)
遭逢4(浩介視点)
遭逢5-1(慶視点)
遭逢5-2(慶視点)
遭逢6(浩介視点)
遭逢7(慶視点)
遭逢8(浩介視点)
遭逢9-1(慶視点)
遭逢9-2(慶視点)
遭逢10(浩介視点)
遭逢11(慶視点)
遭逢12(浩介視点)
遭逢13-1(慶視点)
遭逢13-2(慶視点)
遭逢13-3(慶視点)
遭逢13-4(慶視点)
遭逢14(浩介視点)
遭逢15・完(慶視点)
遭逢・クリスマス(浩介視点)
遭逢・初詣1(浩介視点→慶視点)
遭逢・初詣2(浩介視点)
遭逢・初詣3(慶視点)
人物紹介↓
主人公1:渋谷慶(しぶやけい)
高校一年生。身長159cm(高3時164cm)
中性的な顔立ちと背が低いことがコンプレックス。そのせいか、口が悪く、喧嘩っ早い。
ものすごい美少年。でも、本人に自覚ナシ。
中学時代はバスケ部在籍。その顔の上に、スポーツ万能で頭もそこそこ良かったため女の子に非常にモテた。けれども、理想の女の子がいない、と言って全部お断りしていた。
8歳年上の大好きな姉に恋人ができてしまって以来、現在家では常に機嫌が悪い。
2歳年下(学年は一年下)の妹がいる。両親共働き。
主人公2:桜井浩介(さくらいこうすけ)
高校一年生。身長174cm(高3時176cm→177cm)
人の記憶にあまり残らないような平凡な顔立ち。
中学まで通っていた都内の私立男子校でいじめを受けていた影響で、高校ではとにかく笑顔でいることを心掛けている。
頭が良く、特に英語は学年首位の座を守り続けている(理数を含めると学年順位は8位程度)。
威圧的な弁護士の父と過干渉な専業主婦の母がいる。一人っ子。
あらすじ的なもの↓
☆慶視点
学区内トップ校である白浜高校に入学して以来、勉強ずくめの毎日を送っていた渋谷慶。
あるとき、体育館で一人でバスケットの練習をしている男子生徒を偶然見かけ、その一生懸命さに心を打たれる。その後、その男子生徒、桜井浩介と友人になるのだが……
☆浩介視点
中学3年生の時にバスケの試合で見かけた<渋谷慶>に憧れ、彼に会うために県立高校に入学しバスケ部に入部した桜井浩介。
皆に追いつくため、練習日以外にも自主練をしていたのだが、そこで偶然、憧れの渋谷慶に出会う。
彼にバスケを教えてもらうことになり、それから二人は友人となって……
慶はわりと早い段階で浩介に対する恋愛感情に気がつきますが、
浩介は今まで友達がいなかったため、人付き合い自体が手探り状態。<友達>そして<親友>になることからはじまり、遠い遠い回り道をしちゃいます。
慶と浩介は現在、41歳。その二人の高校時代のお話になります。
私が高校生の時に書いたお話のリメイクですので、更にどっぷり日常生活的になると思われます。
そして……
昨日の「あいじょうのかたち」最終回お読みくださった方々、ありがとうございます。
クリックしてくださった方々、本当に本当にありがとうございます!!
この場をお借りして、お礼を述べさせていただきます。ありがたすぎてもうどこをどうしたらいいのかわかりません。
この最終回から25年半ほど時を遡り……
高校時代の初々しい彼らを書きたいなあと思っておりますので
って、あ……。今気が付いてしまいました……
この2人、一年半は友達のままなんですよね~~イチャイチャしないじゃん!!
イチャイチャさせたくなったら現代に戻ってくるかもしれません。
そんな感じではありますが、どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
浩介と一緒に鶴岡八幡宮で初詣をしたあと、ボチボチ歩いて由比ガ浜まで出た。
冬の海……日も照っていない曇り空なので余計に寒いけれど、心は真夏並みに暑い!
鶴岡八幡宮はものすごい人だった。途中、中学生の団体のせいで、おれ達は一度はぐれてしまったのだけど、
(今となってはあの中学生たちに感謝感謝だな)
なぜなら、無事に会えたあとで、浩介が泣きそうな顔をしておれの腕を掴んできたんだ。その必死な様子が……
(かわいすぎだろっ!)
人目がなかったらぎゅーぎゅー抱きしめていたところだ。我慢したおれエライ。
でも、どさくさに紛れて手を握ってしまった。
(浩介の手、冷たかったな……)
温めてやりたかったけど、いくらなんでもマズイかなと思ってすぐに離した。
でも、浩介はお賽銭の場所につく寸前までずっとおれの腕を掴んでいた。小さい子みたいでホントかわいかった……
あーあ。普通に手を繋いだり腕を組んだりして歩いているカップルが羨ましい。ああいう風にお前と歩けたらどんなに嬉しいだろうな……。
「お前さ……」
「ん?」
波打ち際、横を歩く浩介が振り返る。
(くそー……)
いちいちドキドキするのをどうにかしたい……。
内心のドキドキを押さえて、何とか普通の顔で聞いてみる。
「お前、さっき何お願いしたんだ?」
浩介は真剣な様子で手を合わせていた。何か願い事があったんだろう。
おれは一つだけ一生懸命お願いしてきた。それは、
『二年生では浩介と同じクラスになれますように』
12クラスもあるけれど、芸術科目の選択が一緒なので、同じクラスになれる可能性はないわけではない。同じクラスになれればいつでも一緒にいられる。そうなったらどんなに毎日楽しいだろう……
浩介は、何を願ったんだろう。バスケのことかな。勉強のことかな……。
同じことを願っててくれてたら嬉しいのにな……。
「あー……」
浩介は言いにくそうに、あーとかうーとか言った挙句、
「慶は? 何お願いしたの?」
質問返ししてきた。なんだ。言いたくないってことか……。
がっかりした気持ちのまま、ザクザクザク、とわざと足を埋めるように力強く砂浜を踏みしめる。
「………おれは」
立ち止まると、浩介も立ち止りこちらを振り返った。
波の音がやけに大きく聞こえる。
「おれは……」
きょとんとしている浩介を見上げ、やけくそ気味に言ってやる。
「お前と同じクラスになれますようにってお願いした」
「え……」
浩介が驚いたように目を瞠った。
(だよな………)
……凹む。当たり前だけど、やっぱり浩介の願いは違うんだな。
ああ、いいよ、別に。もっと他にあるよな。そうだよな。
当たり前のことなんだけど、浩介と自分の温度差を再認識して、落ち込んでくる。
そりゃそうだ。おれ達はただの友達で親友でそれ以上でもそれ以下でもなくて……
くそー……と、落ち込んでいたところへ、
「そっかあ……」
「?」
感心したようにため息をつかれた。振り仰ぐと、
「すごいな。慶って、現実的だね」
「え?」
現実的?何の話だ?
「やっぱりおれとは全然違うなあ。慶は」
「……何が」
意味が分からない。
浩介は感心したように肯き続けている。だから意味が分からない。
「お前、何言って……」
「おれね」
ふっと浩介が笑った。ドキッとするくらい優しい笑顔……
「おれ……」
「……っ」
手が伸びてきて、風で乱れたおれの髪を直してくれる。
うわ……っ それ反則……っ
内心パニックになりながら、浩介の言葉の続きを待つと、
「おれね」
浩介は優しく微笑みながら、ささやくように言った。
「『慶とずっと親友でいられますように』ってお願いしたの」
「え……」
え?
波の音が一瞬で消えた。
「ずっと……親友で?」
「うん……」
照れたようにうつむく浩介。
「でも、なんかすごく漠然としすぎてる感じだね。それに比べて慶はしっかり先を見据えてる感じ」
「そんなことは……」
ずっと親友で……
「浩介……」
ずっと親友で……
「慶?」
「………あ」
涙が出そうになって、あわてて目をそらす。
ずっと親友で。
そんなこと願ってくれてたなんて……
浩介の中におれの存在がちゃんといてくれたなんて……
「お前、バカだなあっ」
「えええっ。痛い痛いっ」
泣きそうなのを誤魔化すために、浩介の腕をバンバンたたいてやる。
「なんでバカなのー!?」
怒った浩介に、さらに「バーカ」と言ってから、言い放つ。
「だって、そんなの!」
波の音が再び聞こえてくる。
バカだ。お前。だって、そんな願いは……
「そんなの、神様にお願いしなくたって!」
波の音に負けじと叫んでやる。
「おれ達ずっと親友に決まってんじゃねえかよっ」
「え……」
今度は浩介が呆ける番だった。
「………ずっと親友?」
「あったり前だろっ」
我慢できなくて、冷たいその手を両手でぎゅーっと包み込む。ぎゅーっぎゅーっと握りしめる。おれはいつでもお前のことあたためてやりたいっ。
「おれ達はずっとずっとずーっと親友だっ」
「………慶」
泣きそうな顔をして笑った浩介。
抱きしめたい………けど、さすがに我慢っ。
「……あっちまで行ってみようぜ?」
手を離して、気持ちを落ち着かせてから再び歩きだした、けど、
突然、浩介が「あーっ」と叫んだ。なんだなんだ!?
「ど、どうした!?」
「ちょっと、鶴岡八幡宮戻ってもいい!?」
「へ?」
浩介、なぜか頭を抱えている。
「何、忘れもの?」
「うん。忘れものというか……」
あー……と長く伸ばしてから、浩介はボソッと言った。
「おれ、さっきお賽銭、500円もいれちゃった……」
「ご、500円!?」
ま、まじか!?
「うわ、太っ腹ー……」
「ちょっともう一回行って、願いごとの変更お願いしたいっ」
「変更?」
聞くと、浩介はこくこくと激しくうなずき、
「おれも『慶と同じクラスになれますように』ってお願いに変更する!」
「……………」
浩介……。
浩介、浩介。大好きな大好きな浩介。
「よし!行くか!」
「うん。ありがとー」
ザクザクザクと来た道を戻る。
「お前、担任、誰がいい?」
「んー、中森は嫌だなあ」
「いえてる。あ、おれ、水戸ちゃんがいい。若いし可愛いし」
「でも水戸先生、怒るとヒステリックで支離滅裂だよ」
「げ、まじか」
たわいないのない会話。それがとてつもなく幸せ。
「おれ達、さくらい、と、しぶや、だから、出席番号前後になれるかもな」
「あ、そうだね! んー……佐藤とか真田とかいなければ、前後になれる!」
「佐藤………いそうだな」
「日本の名字トップ2だもんね」
「今、佐藤と鈴木、どっちが多いんだ?」
浩介と一緒だと話がつきない。かといって、沈黙も苦にならない。
こんな奴がいるなんて。こんなに一緒にいて嬉しくて安らげて、愛しくて大切で大好きで………。
「もし、一緒のクラスになれなくてもさ……」
「うん」
振り返った浩介を見上げる。
「いっぱい一緒に遊んだり勉強したりしような?」
「うん!」
浩介もニコニコと笑ってくれる。
「でも、500円も出したんだから叶えてほしいなあ」
「おれ、100円だったから合わせて600円だな」
「おれもう100円出しとく!」
「じゃ、おれも。そしたら二人で800円か。………キリ悪いな。じゃあおれ、あと200円出して合わせて千円にしよう」
お賽銭に400円。大盤振る舞いだ。浩介なんて600円だぞ。
「これで同じクラスになれなかったら……」
「もう二度と来ねえぞ!!」
「ホントだよ!!」
二人で顔を見合わせ笑いだす。
ああ……お前と一緒にいると笑ってばかりだ。楽しくてしょうがない。
どうかどうか同じクラスになれますように!
***
それから約3ヶ月後……
合わせて千円の甲斐あって、おれ達は同じクラスになれた。出席番号も見事に前後。席も日直が一巡するまでは前後ろ!
「お礼参りに行こうぜ」
「行こう行こう」
お礼参りにかこつけて、またデートみたいな鎌倉観光をしたり、おれの誕生日には遊園地に行ったり、幸せで順調すぎる高校二年生の生活がはじまった。
………と、思えたのはゴールデンウィークが終わって数日までだった。
それからおれは、片想いの苦しみを嫌というほど味わうことになる。
----------------------------------------
お読みくださりありがとうございました!
高校一年生のお正月。初詣編。
まだ恋心自覚して2か月、好き好きモード全開の慶視点。
かーらーのー、次の『片恋編』予告でした。
実は同じクラスになれたのは、慶の知らない裏事情があったりするんですが、まあ、そんな話も近々出てきます。
また明後日、よろしくお願いいたします!
クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!感謝感謝でございます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!
ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「遭逢」目次 → こちら
もう3日なので、少しは空いているのかと思いきや、鶴岡八幡宮は人、人、人……の波だった。
でも、渋谷は全然混雑を気にする様子もなく、物珍しげにキョロキョロしたり、屋台のチョコバナナを見て「食べたい!」と言ったり、小さな子供みたいで可愛らしい。
「慶」
あんまりキョロキョロしてるとはぐれちゃうよ、と言おうとした矢先、
「痛っ」
いきなり押された。中学生くらいの団体が騒ぎながら人波をかき分けて進んでいて、あちこちでおれみたいに押されて文句を言っている人がいる。迷惑極まりない。…………と、
「慶?」
しまった。本当にはぐれてしまった。渋谷の姿が見当たらない……。
と、思ったけれど、屋台の方へ渋谷の白いマフラーが動いていくのを発見して、ほっとする。急いでそちらに向かっていったのだが、
「…………え」
違う! 渋谷じゃない!
白いマフラーが同じだけのまったくの別人だった。慌てて元いたあたりに戻ったけれど、もう人波が流れていて、渋谷がどこにいるのか………
「慶………」
端によけて、途方に暮れて人波を見ていたら、急に思い出した。昔同じなようなことが………
「あれは……」
鶴岡八幡宮には小学生の時にも来たことがある。あの時もこんな風に両親とはぐれてしまって……
(………まずい)
すうっと指先が冷たくなってきた。
その時の感情がよみがえってきて、息苦しくなってくる。
あの時おれは、普通の小学生が感じるような「親と離れてしまったことへの不安」ではなく、ただひたすら恐怖を感じていた。
(怒られる……)
叱責されることへの恐怖。親に見つけだされる前に、自分で親の元に戻らなければ……
(……戻る?)
ふ、と思いつき、ストンと身に落ちてくる思い。
(このまま戻らないで、自由になれたら……)
一瞬、目の前が明るくなる。
……でも、自分は知っている。自分はまだ親元から離れては生きていけない。だから……
(怒られる前に探さないと……)
でもいない。人の波、波、波……
(……あ。まただ)
ブラウン管の中に放り込まれた。目の前にスクリーンが現れ、人波が遠くなる…色褪せていく世界……
(………苦しい)
空気が入ってきてくれない。苦しい。苦しい……
「………渋谷」
ぎゅうっと胸に手をあてる。この1年半続けてきたおまじない。
「渋谷、渋谷……」
あの光を思いだす。ゆっくりと呼吸をする。
(大丈夫。大丈夫……)
おれには渋谷がいるから……
(でも、いない)
すっとまた背中に冷たい物が走る。
(渋谷が……いない)
いなくなってしまう。
今みたいに、こうして、おれなんかの元からはいなくなってしまうだろう。あの光はおれなんかにはふさわしくないから、だから……
(でも、渋谷……)
おれは一緒にいたいよ。渋谷……
(苦しい……)
ブラウン管の中、空気が入ってこない。
苦しい、苦しい……
しゃがみこみそうになった、その時。
「浩介! 見つけた!」
「!」
いきなり腕にしがみつかれて、つんのめりそうになる。
と、同時に、
(明るい……)
急に視界が明るくなる。空気が普通に入ってくる……
(………渋谷)
左腕にぶら下がるようにくっついている渋谷が安心したように息をついている。
「あーびっくりした。いきなりいなくなるんだもんよー」
「…………」
記憶よりもキラキラしている渋谷……この人はいつもそうだ。見るたびに感動を覚える。
触れてくれている腕から温かいぬくもりが伝わってくる………
「あ、わりい」
「え」
おれがじっと腕のあたりを見下ろしていたからか、渋谷があわてたように手を離した。
「野郎同士で腕組んだりしたら気持ち悪いよな」
「え」
「じゃ、行こうぜ」
すっと人波に入っていく渋谷……
また、スクリーンが現れる……
行かないで。一緒にいて……
「慶………」
行かないで。行かないで……
「慶!」
「あ?」
思いのまま、とっさに渋谷の腕をつかむと、渋谷がキョトンと振り返った。
「どうした?」
「あの……」
ぎゅっと腕を掴む手に力を入れる。
「腕、つかまってても、いい?」
「え」
目を見開いた渋谷。
あ、そうか。男同士で腕組んでたらって、今……
「あ、ごめん、ダメ、だよね…」
「いや、大丈夫! 全然大丈夫だぞ!」
渋谷はビックリするくらい元気に言うと、渋谷の腕を掴んでいるおれの手を上からぎゅっと強く握ってくれた。温かい………。
「またはぐれたら大変だからな。ちゃんとつかまっとけ」
「……うん」
お言葉に甘えて両手で掴む。渋谷のオーラが伝ってきて、ブラウン管が消えていく。空気が清涼なものに変わっていく……
慶………慶。
おれの親友………
「階段、急だなあ」
「うん」
「まだまだ並んでるな」
「うん」
だけど、渋谷と一緒だから少しも嫌じゃない。
境内まで続く人波にもまれながら、ようやくおさい銭の場所まで到着する。
今年、神様にお願いすることは一つだけだ。
「神様……」
どうかずっとずっと渋谷と『親友』でいられますように……
----------------------------------------
お読みくださりありがとうございました!
高校一年生のお正月。初詣編でした。浩介視点、やっぱり暗い^^;
このあと、海にいきます。続きは明後日5日に更新予定です~。
よろしかったら次回もよろしくお願いいたします。
クリックしてくださった方、ありがとうございます!嬉しすぎて泣けてきます。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします!
ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「遭逢」目次 → こちら
<浩介視点>
1月3日。渋谷と初詣にいく約束の日。
渋谷と会うのは12月28日の部活の帰りが最後だから少し久しぶりだ。
おれのうちと渋谷のうちの最寄り駅は隣なので、ホームで待ち合わせしていたはずなのに、
「こーすけー!」
駅に向かう人道橋をおりている途中で、聞き覚えのありすぎる涼やかな声が聞こえてきた。見ると、駅の切符売り場の前あたりに渋谷がいる。
「しぶ………」
渋谷、と言いかけて飲みこむ。違う違う。今度渋谷と呼んだら腕立てって言われてるんだった。
「けいー?」
「おー」
すごい。まぶしい。その笑顔。久しぶりだから余計に目が慣れない。
道行く人もチラチラみている。そりゃそうだ。渋谷は芸能人ばりの美貌とオーラの持ち主なのだ。
「どうしたのー?待ち合わせホームでって……」
「ちょっと運動不足だったからここまで走ってきたー」
「走って……」
渋谷の家からだと2キロくらいか。そのくらいの距離じゃ、なんてこともないのだろう。全然涼しい顔をしている。
紺のダッフルコートに白い大きめのマフラーをグルグルに巻いた姿は、一瞬ショートカットの女の子にも見える。……なんてこと言ったら怒られるから絶対言えないけど。
「浩介♪」
目の前までくると、渋谷はにーっこりと笑っておれを見上げた。
「あけましておめでとー」
なんだなんだ。渋谷、めちゃめちゃ機嫌がいい。ニコニコだ。キラキラオーラが眩しすぎて直視できない。それを誤魔化すためにわざと深々と頭をさげる。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくなっ」
「うん。よろしくね」
顔をあげてもう一度渋谷の顔を見る。うわ……やっぱりキラキラすぎる。直視できない。しょうがないので、切符の料金表に目を移す。
「んーと、予定通り鶴岡八幡宮?」
「うんうん。その後、海行きたい!」
「海? 由比ガ浜?」
「そうそう♪」
渋谷が機嫌よく「切符どこまで買えばいいんだ~?」といっているのを、横目でみる。幸せな気持ちが押し寄せてくる。
(こんなキラキラな人が、おれの『親友』……)
心が温かい。
「鎌倉だから、えーと……」
「横浜乗換でー……」
二人で並んで線路図を指さしながら駅を探していたところ……
「浩介!」
「!」
ビクッと跳ね上がってしまった。この声……
ゆっくりと振り返ると……
「お……かあさん」
なぜか母が……母が青い顔をして立っていた。ぶるぶると震えている。
なんでこんなところに……
「浩介……っ、あなた友達と出かけるって言ってたのに……っ」
「お母さん!?」
「え?」
渋谷がきょとん、と振り返った。
「お母さん?」
「あ、う……」
「ちょっと、あなた……っ」
まずいっ。母が暴走する……っ
「浩介とはどういう……っ」
母がすごい勢いで渋谷に詰め寄りかけた……けれども。
「あ、はじめまして!」
まったく動じず、渋谷がニッコリと母に笑いかけた。その爆発的な笑顔にこの母が言葉を止めた。すごい。渋谷はにこにこと続ける。
「浩介君と同じ学校の、渋谷です。いつも仲良くしてもらってます」
「………あなた」
母がマジマジと渋谷を見て……
「男の子、なの?」
「え」
「お母さん!!」
失礼すぎる!!
あわてて渋谷と母の間に割って入って、強めの口調で母を制する。
「お母さん、何か用ですか!? 僕たちこれから出掛けるので……っ」
「……あらそう」
母はマジマジと渋谷を見ていたけれど、納得したのか急に作りものの笑顔を浮かべはじめた。
「渋谷君、って言ったかしら?」
「はい」
渋谷が笑顔のまま肯いてくれている。
「浩介は学校ではどうかしら? みんなと仲良くして……」
「お母さん、そういうのやめてください」
ホントこの人どうにかしてほしい。
「だって、あなた学校でのこと何も話してくれないから」
「だから……」
「こんなかわいらしいお友達がいたなんて、お母さん全然知らなかったし」
「お母さん!」
男子相手にかわいらしいなんて失礼すぎる!渋谷がどう思うか……っ。
でも渋谷はにっこりと、
「浩介君は友達も多いし、先生からの信頼も厚いし、僕もいつも助けてもらってます」
「あら、そう?」
途端に嬉しそうな顔になった母。ホント単純だよな、この人………。そんなのただのお世辞だってのに……
「渋谷君、今度是非うちに遊びにきてね?」
「ありがとうございます♪ 是非」
渋谷が終始ニコニコしていたおかげか、母は満足したようにうなずくと、
「それじゃ、気をつけてね」
作り物の笑顔のまま、人道橋の方へ歩いていった。そっちに行ったら家に帰るだけだ。
(おれのあとをつけてきたんだ……)
ゾッとする。買い物のついでに見た、とかでもなんでもなく、ただ、おれが誰と出かけるのかチェックしに来たということか。遠目からみて、渋谷が女の子だと思って慌てて止めにきたんだな………
(ホントいい加減にしてほしい………何が何も話してくれない、だ。あんたに話したらこういう風に何しでかすか分かんないから話さないんだよっ)
心の中で口汚く罵っていたのだが、
「あ、鎌倉あった!」
「え」
渋谷の声に我に返った。母の失礼な発言の後にも関わらず、渋谷は機嫌の良いままだ。
「結構電車代かかるんだな~。でも大丈夫! おれ今日、おっ金っ持ち~♪」
「あ、そうなの?」
「京都のばあちゃんちを拠点に親戚回りしまくったからお年玉たっぷりなんだ~」
「………」
それで機嫌が良いのかな?
「じゃ、行こうぜっ」
「うん」
渋谷のキラキラで、膨らんでいた母への憎悪が沈まっていく。
(せっかく渋谷と一緒に出かけるんだ。嫌なことは忘れて楽しまないと)
渋谷の背中にそっと触れると、振り返った渋谷がこれでもかというくらいのキラキラな笑顔を向けてくれた。
******
<慶視点>
久しぶりに浩介に会えると思ったら気持ちが高ぶりすぎて落ちつかなかったので、早めに家を出て、浩介の家の最寄りの駅で待つことにした。
待ち合わせの時間まであと30分。隣の駅なのに降りたことがなかったので、もの珍しくてキョロキョロしてしまう。
浩介は中学まで都内の学校に通っていたらしい。ということは、中学まではこの駅を毎日使っていたということになる。
(中学生の浩介……)
どんな生徒だったのかな……。中学生の浩介が駅に向かっていくところを想像していたら楽しくなってきた。
おれの知らない浩介……どんな風だったんだろう……あの橋の階段を下りてたのかな……と思っていたら、本人が下りてきた。
(わ)
久しぶりの浩介。心の中にふわ~と温かいものが広がっていく。
「こーすけー!」
大声で呼ぶと、浩介はビックリした顔をしてこちらに向かって手をあげた。
「けいー?」
「おー」
けいー? だって。きゅううっと胸が締め付けられる。けど、
(いかんいかん)
自分を戒める。こんな好き好き全開ではだめだ。おれ達は親友。ただの親友。
……だけど、心の高ぶりは静められない。好きという気持ちは止められない。
「今年もよろしくなっ」
「うん。よろしくね」
にっこりとしてくれた浩介にますます気持ちが上がっていく。
「んーと、予定通り鶴岡八幡宮?」
「うんうん。その後、海行きたい!」
「海? 由比ガ浜?」
「そうそう♪」
初詣の後、海! まるでデートだ~♪
………ああ、だめだ。おれ、久しぶりだからか、おかしくなってる……。
その後、浩介のお母さんが現れた。文化祭の時に遠くからチラッと見たけれど、話したのははじめてだ。ちょっと浩介に似ている。
普段の話しぶりや、今の様子を見ても、浩介は母親とうまくいってないって感じがする。あまり触れない方がいいかな、と思って、話をそらしてから、
「じゃ、行こうぜっ」
「うん」
切符を買って改札に向かおうとしたところ、
「!」
浩介の手がおれの背中に触れた。
うわ………
そこから温もりが伝わってくる。愛しいぬくもり。
振り返って、笑いかけると、浩介も微笑み返してくれた。
新年早々、おれ………幸せ過ぎるー!!
----------------------------------------
お読みくださりありがとうございました!
明けましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ということで、高校一年生のお正月。
慶は恋心自覚してまだ2ヶ月なので、好き好きモード全開です。可愛いです。
浩介と慶、慶の方が背が低いし中性的な顔をしてますが、浩介は慶が女扱いされるのをものすごく嫌がります。
本人、慶のことを「可愛い」と思ったり言ったりしますが、それは単純に「可愛い」ということであり、「女の子みたいで可愛い」という意味ではありません。
浩介にとって慶は永遠の「憧れの人」です。かっこよくて男らしくて、こうありたかった自分の姿でもあります。
この続き、初詣&海、の話は明後日3日に更新予定です♪
クリックしてくださった方、ありがとうございます!感謝感謝でございます。
今後とも、何卒何卒よろしくお願いいたします!
ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「遭逢」目次 → こちら
1月3日。渋谷と初詣にいく約束の日。
渋谷と会うのは12月28日の部活の帰りが最後だから少し久しぶりだ。
おれのうちと渋谷のうちの最寄り駅は隣なので、ホームで待ち合わせしていたはずなのに、
「こーすけー!」
駅に向かう人道橋をおりている途中で、聞き覚えのありすぎる涼やかな声が聞こえてきた。見ると、駅の切符売り場の前あたりに渋谷がいる。
「しぶ………」
渋谷、と言いかけて飲みこむ。違う違う。今度渋谷と呼んだら腕立てって言われてるんだった。
「けいー?」
「おー」
すごい。まぶしい。その笑顔。久しぶりだから余計に目が慣れない。
道行く人もチラチラみている。そりゃそうだ。渋谷は芸能人ばりの美貌とオーラの持ち主なのだ。
「どうしたのー?待ち合わせホームでって……」
「ちょっと運動不足だったからここまで走ってきたー」
「走って……」
渋谷の家からだと2キロくらいか。そのくらいの距離じゃ、なんてこともないのだろう。全然涼しい顔をしている。
紺のダッフルコートに白い大きめのマフラーをグルグルに巻いた姿は、一瞬ショートカットの女の子にも見える。……なんてこと言ったら怒られるから絶対言えないけど。
「浩介♪」
目の前までくると、渋谷はにーっこりと笑っておれを見上げた。
「あけましておめでとー」
なんだなんだ。渋谷、めちゃめちゃ機嫌がいい。ニコニコだ。キラキラオーラが眩しすぎて直視できない。それを誤魔化すためにわざと深々と頭をさげる。
「あけましておめでとうございます」
「今年もよろしくなっ」
「うん。よろしくね」
顔をあげてもう一度渋谷の顔を見る。うわ……やっぱりキラキラすぎる。直視できない。しょうがないので、切符の料金表に目を移す。
「んーと、予定通り鶴岡八幡宮?」
「うんうん。その後、海行きたい!」
「海? 由比ガ浜?」
「そうそう♪」
渋谷が機嫌よく「切符どこまで買えばいいんだ~?」といっているのを、横目でみる。幸せな気持ちが押し寄せてくる。
(こんなキラキラな人が、おれの『親友』……)
心が温かい。
「鎌倉だから、えーと……」
「横浜乗換でー……」
二人で並んで線路図を指さしながら駅を探していたところ……
「浩介!」
「!」
ビクッと跳ね上がってしまった。この声……
ゆっくりと振り返ると……
「お……かあさん」
なぜか母が……母が青い顔をして立っていた。ぶるぶると震えている。
なんでこんなところに……
「浩介……っ、あなた友達と出かけるって言ってたのに……っ」
「お母さん!?」
「え?」
渋谷がきょとん、と振り返った。
「お母さん?」
「あ、う……」
「ちょっと、あなた……っ」
まずいっ。母が暴走する……っ
「浩介とはどういう……っ」
母がすごい勢いで渋谷に詰め寄りかけた……けれども。
「あ、はじめまして!」
まったく動じず、渋谷がニッコリと母に笑いかけた。その爆発的な笑顔にこの母が言葉を止めた。すごい。渋谷はにこにこと続ける。
「浩介君と同じ学校の、渋谷です。いつも仲良くしてもらってます」
「………あなた」
母がマジマジと渋谷を見て……
「男の子、なの?」
「え」
「お母さん!!」
失礼すぎる!!
あわてて渋谷と母の間に割って入って、強めの口調で母を制する。
「お母さん、何か用ですか!? 僕たちこれから出掛けるので……っ」
「……あらそう」
母はマジマジと渋谷を見ていたけれど、納得したのか急に作りものの笑顔を浮かべはじめた。
「渋谷君、って言ったかしら?」
「はい」
渋谷が笑顔のまま肯いてくれている。
「浩介は学校ではどうかしら? みんなと仲良くして……」
「お母さん、そういうのやめてください」
ホントこの人どうにかしてほしい。
「だって、あなた学校でのこと何も話してくれないから」
「だから……」
「こんなかわいらしいお友達がいたなんて、お母さん全然知らなかったし」
「お母さん!」
男子相手にかわいらしいなんて失礼すぎる!渋谷がどう思うか……っ。
でも渋谷はにっこりと、
「浩介君は友達も多いし、先生からの信頼も厚いし、僕もいつも助けてもらってます」
「あら、そう?」
途端に嬉しそうな顔になった母。ホント単純だよな、この人………。そんなのただのお世辞だってのに……
「渋谷君、今度是非うちに遊びにきてね?」
「ありがとうございます♪ 是非」
渋谷が終始ニコニコしていたおかげか、母は満足したようにうなずくと、
「それじゃ、気をつけてね」
作り物の笑顔のまま、人道橋の方へ歩いていった。そっちに行ったら家に帰るだけだ。
(おれのあとをつけてきたんだ……)
ゾッとする。買い物のついでに見た、とかでもなんでもなく、ただ、おれが誰と出かけるのかチェックしに来たということか。遠目からみて、渋谷が女の子だと思って慌てて止めにきたんだな………
(ホントいい加減にしてほしい………何が何も話してくれない、だ。あんたに話したらこういう風に何しでかすか分かんないから話さないんだよっ)
心の中で口汚く罵っていたのだが、
「あ、鎌倉あった!」
「え」
渋谷の声に我に返った。母の失礼な発言の後にも関わらず、渋谷は機嫌の良いままだ。
「結構電車代かかるんだな~。でも大丈夫! おれ今日、おっ金っ持ち~♪」
「あ、そうなの?」
「京都のばあちゃんちを拠点に親戚回りしまくったからお年玉たっぷりなんだ~」
「………」
それで機嫌が良いのかな?
「じゃ、行こうぜっ」
「うん」
渋谷のキラキラで、膨らんでいた母への憎悪が沈まっていく。
(せっかく渋谷と一緒に出かけるんだ。嫌なことは忘れて楽しまないと)
渋谷の背中にそっと触れると、振り返った渋谷がこれでもかというくらいのキラキラな笑顔を向けてくれた。
******
<慶視点>
久しぶりに浩介に会えると思ったら気持ちが高ぶりすぎて落ちつかなかったので、早めに家を出て、浩介の家の最寄りの駅で待つことにした。
待ち合わせの時間まであと30分。隣の駅なのに降りたことがなかったので、もの珍しくてキョロキョロしてしまう。
浩介は中学まで都内の学校に通っていたらしい。ということは、中学まではこの駅を毎日使っていたということになる。
(中学生の浩介……)
どんな生徒だったのかな……。中学生の浩介が駅に向かっていくところを想像していたら楽しくなってきた。
おれの知らない浩介……どんな風だったんだろう……あの橋の階段を下りてたのかな……と思っていたら、本人が下りてきた。
(わ)
久しぶりの浩介。心の中にふわ~と温かいものが広がっていく。
「こーすけー!」
大声で呼ぶと、浩介はビックリした顔をしてこちらに向かって手をあげた。
「けいー?」
「おー」
けいー? だって。きゅううっと胸が締め付けられる。けど、
(いかんいかん)
自分を戒める。こんな好き好き全開ではだめだ。おれ達は親友。ただの親友。
……だけど、心の高ぶりは静められない。好きという気持ちは止められない。
「今年もよろしくなっ」
「うん。よろしくね」
にっこりとしてくれた浩介にますます気持ちが上がっていく。
「んーと、予定通り鶴岡八幡宮?」
「うんうん。その後、海行きたい!」
「海? 由比ガ浜?」
「そうそう♪」
初詣の後、海! まるでデートだ~♪
………ああ、だめだ。おれ、久しぶりだからか、おかしくなってる……。
その後、浩介のお母さんが現れた。文化祭の時に遠くからチラッと見たけれど、話したのははじめてだ。ちょっと浩介に似ている。
普段の話しぶりや、今の様子を見ても、浩介は母親とうまくいってないって感じがする。あまり触れない方がいいかな、と思って、話をそらしてから、
「じゃ、行こうぜっ」
「うん」
切符を買って改札に向かおうとしたところ、
「!」
浩介の手がおれの背中に触れた。
うわ………
そこから温もりが伝わってくる。愛しいぬくもり。
振り返って、笑いかけると、浩介も微笑み返してくれた。
新年早々、おれ………幸せ過ぎるー!!
----------------------------------------
お読みくださりありがとうございました!
明けましておめでとうございます!
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
ということで、高校一年生のお正月。
慶は恋心自覚してまだ2ヶ月なので、好き好きモード全開です。可愛いです。
浩介と慶、慶の方が背が低いし中性的な顔をしてますが、浩介は慶が女扱いされるのをものすごく嫌がります。
本人、慶のことを「可愛い」と思ったり言ったりしますが、それは単純に「可愛い」ということであり、「女の子みたいで可愛い」という意味ではありません。
浩介にとって慶は永遠の「憧れの人」です。かっこよくて男らしくて、こうありたかった自分の姿でもあります。
この続き、初詣&海、の話は明後日3日に更新予定です♪
クリックしてくださった方、ありがとうございます!感謝感謝でございます。
今後とも、何卒何卒よろしくお願いいたします!
ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「遭逢」目次 → こちら
渋谷慶は、芸能人みたいなオーラと美貌の持ち主で、性格も明るくて社交的で友達も多くて、本当ならおれなんかが友達になれるような人ではない。
それなのに、渋谷はなぜかおれのことを気にかけてくれて、おれのことを『親友』とまで言ってくれている。
だからおれは渋谷の『親友』のままでいられるにはどうしたらいいんだろう、とずっと考えている。
**
『親友』と言われてから一か月半ほどたった、12月23日。
この日、渋谷のお姉さんの結婚式があった。渋谷はお姉さんとすごく仲が良かったらしいから、落ち込んでいるかもしれない。そう思って、渋谷が帰ってくる時間を見計らって渋谷の家の近くをウロウロしていたら、渋谷に会うことができた。
案の定、落ち込んでいた渋谷……。
即座に、抱きしめたい! と思った。
前におれがバスケ部のレギュラーメンバーに選ばれなくて落ち込んだとき、渋谷はおれのことを抱きしめてくれた。それでおれはすごく救われた。だから抱きしめたいなんて思ったのかもしれないな、と思いつつ…
「慶……さみしいね」
おれも渋谷のことを抱きしめてみた。ぬくもりが気持ちいい……。
すると、渋谷もおれの肩口に額を押しつけて、ぎゅーっと強く抱きついてきてくれた。
ちょっとホッとする。これは正解? 嫌じゃないってことだよね?
抱きしめながら頭をなでると、渋谷は小さな子みたいにされるがままになっていて、なんだかとても可愛かった。ずっとずっとこうしていたかった。
**
次の日も祝日の振替で休みなので、午前中から一緒に遊ぶことになった。
行き先は図書館。おれが図書館でもらってきたクリスマスイベントのチラシを見て、渋谷が行きたいといったからだ。
おれが中学校のころからしょっちゅう行っている図書館に渋谷が来てくれるというということが、なんだかくすぐったくて嬉しい。
「ちょ、ちょっと桜井君っ」
中に入ってすぐ、顔なじみの司書の中村さんというおばさんが、あわてておれに詰め寄ってきた。
「お友達?! まあ、どうもおはようございます。……すっごい綺麗な子ね。芸能活動とかしてる子?」
「…………」
後半はコソコソコソっとおれにだけ聞こえるように言った中村さん。
そんなことは知らずに、渋谷は中村さんに挨拶した後は、キョロキョロともの珍しそうにあたりを見回している。白いふんわりとしたタートルネックのセーターを着ている渋谷は、まるで雑誌から抜け出てきたモデルのように可愛らしい(いや、カワイイというと怒られると思うけど、今日の渋谷を形容するのに一番似合う言葉はカワイイとキレイだと思う)。
中村さんは、まあまあまあ……と感心したように渋谷を見ていたけれど、ふとおれに視線を戻して、
「今日は? また自習室?」
「あ……いえ、このチラシの……」
「クッキーもらいにきました♪」
渋谷がニッコリと中村さんに言う。
「先着50名って書いてあったから、早くきて並んでおこうかと」
「あら、やだ。そんなに気合いいれなくても大丈夫よ」
「いえ、すっごい気合い入れてきました。このために朝食の量も減らしたくらい」
「まあまあ、そんな大したものじゃないのよ~」
中村さんが破顔する。渋谷ってすごい。どうして初対面の人ともこんな風に話せるんだろう……
「あ、ねえ、もし時間あったら、クリスマス会、手伝ってもらえない? クッキー並ばないでもあげるから!」
「え」
「もちろん喜んで! いいよな?」
「え」
ニコニコの渋谷……。
「う、うん」
肯いたはいいけど、手伝うって何するんだろう?
不安でいっぱいのおれをよそに、渋谷はさっそく中村さんと打ち合わせをはじめている。
渋谷ってやっぱり………おれとは全然違う。
渋谷……。こんなおれなんかが『親友』でいいの……?
**
クリスマス会は大盛況のうちに終わり、おれたちはクッキーを2セットずつもらえた。
とくに渋谷が仕切ったビンゴ大会は、ものすごく盛り上がり、参加した子供たちも司書さんたちも大喜びだった。
「楽しかったな~~。あ、うめえぞ、これっ」
渋谷は歩きながらさっそくクッキーを食べはじめている。
「慶って……すごいよね」
「なにが?」
「なにもかもが」
「だから何なんだよそれ」
クスクス笑ってる渋谷……。すれ違った中学生の女の子達が、肘でつつきあって「きゃあ~っ」って言っている。うん……渋谷かっこいいもんね……。こんな人の隣をこんな平凡なおれが歩いてていいのかな……。
沈みこみそうになったところで、渋谷がくるっとこちらを向いた。
「で、お前がいつもいくパン屋ってのは?」
「あ、うん。あそこ」
「おーなんかいい雰囲気」
なぜか、渋谷がおれがいつも行っているパン屋に行きたいというので、昼食はパンにすることにしたんだけど……
いいのかな……こんな昔ながらのパン屋さんなんかじゃなくて、もっと違う、素敵なお店とかそういう方が……って、素敵なお店知らないけど………
「ね……ホントにいいの? パン屋さんで?」
「おお」
渋谷が機嫌よく肯いてくれる。
「お前がいつも行くところに行きたいんだよ。全部知りたいから」
「え………」
なんで………?
「いつも何食ってるんだ?」
「あ、うん。コロッケパン……」
「じゃ、おれもコロッケパンにする。こんにちは~」
渋谷が元気良くパン屋のドアを開けて、中にいたおじさんに挨拶をしている。
「…………なんで?」
おれなんかの行ってる場所を知りたいって………なんで?
***
それから、おれがいつもいく公園のベンチで一緒にパンを食べた。いつもは1人でモソモソと食べているパンも、渋谷と一緒だと何万倍もおいしい。
それから、渋谷のうちの方に戻ってバスケの練習をしていたら、渋谷のご両親と妹の南ちゃんが帰ってきた。
公園の外から南ちゃんが大声で叫んでる。
「お兄ちゃん、良かったね~。クリスマスイブを浩介さんと過ごせて~」
「うるせーよっ」
渋谷がムッとして言い返している。そうだ。今日はクリスマスイブだった。その貴重な1日をおれなんかと過ごさせてしまった……。
「ケーキあるから、適当に帰って来て~」
「わかったわかった」
渋谷はしっしっと手で南ちゃんを追い払い、おれに向き直った。
「じゃ、あと10本……」
「…………慶」
「ん?」
渋谷のまぶしい瞳………。思わず本音が漏れてしまう。
「今日、おれなんかといて良かったの?」
「は?」
キョトンと首をかしげた渋谷も抜群に可愛い。申し訳ないくらい。
「ほら……今日、クリスマスイブ、なのに、図書館行ったりパン屋行ったり……そんなので良かったの?」
「………………」
トントントンと規則的なバウンド音のあと、ぽいっとボールを投げよこされた。渋谷がじっとこちらを見ながら、ポツリと言う。
「………つまんなかったか?」
「え?」
渋谷の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。
「お前、今日おれといて、つまんなかった?」
え………渋谷、泣きそう……?
ドキッとして、あわてて否定する。
「渋谷といてつまらないなんてことあるわけないじゃん! すごい楽しかったよっ」
慌てすぎて「渋谷」と言ってしまったけれと、渋谷はそれについては何も言わず、暗い表情のままボソボソといった。
「クリスマス会も勝手に手伝うことにしちゃったし、昼もいつも行くとこに行かせちゃったし………悪かったな」
「えええ!? 悪くないよ!全然悪くないよ!」
そんなこと思わせるつもりないのにっ
「クリスマス会楽しかったよっ。渋谷が仕切り慣れててビックリしたけどっ」
「ああ………小学生のとき入ってたミニバスのチームでああいうの毎年やってて、中学のとき手伝わさせられてたから……」
「あ、そうなんだ……」
どうりで子供の扱いが上手いわけだ。
「それでつい懐かしくて、二つ返事でやるって言っちゃって」
「そっかそっか」
「お前、本当は嫌だった?」
「だから嫌じゃないって!」
バシッとボールを押し付ける。
「おれは渋谷といるだけで、何してても楽しいし嬉しいよ? 昼のパンも渋谷と一緒だったからいつもよりずっとずっとおいしかったし!」
「………………」
渋谷は、怯んだような表情をして、それから、少し赤くなって、それから、ボールをトントンとつくと、再びおれにボールを押しつけてきた。
「おれも……」
手を離さず、下を向いたままグリグリとボールをおれの胸に押し付けてくる渋谷。
「おれも、お前といると、それだけで楽しいし、嬉しい」
「…………え」
「浩介………」
ふいっとおれを見上げた渋谷の瞳に、再びドキッと心臓が跳ね上がる。
真剣で、憂いを帯びていて………
「おれ………」
「…………」
鼓動が耳にまで響いてくる。
「おれ………お前が………」
「……………」
渋谷は何かを言いかけたのに、ふっと笑って言葉を止めて、ボールからも手を離した。
何だろう?
「渋谷?」
「あ、お前今度『渋谷』って呼んだら腕立てな」
「えええ!?」
腕立て!?
「だっておれ達、親友だろ? 親友なんだから名前で呼べよっ」
「…………慶」
「そうそう」
さっきまでの憂いなどなかったかのように、渋谷は健康的な笑顔を浮かべると、
「じゃ、あと10本シュート練したら、ケーキ食べに帰ろうぜ?」
「え、おれもいいの?」
「あったり前だろっ」
パンッとおれの手元からボールを奪い、その場から綺麗なホームでシュートを決めた。
「お前はおれの親友なんだからな!」
「……………」
なんで? なんでおれなの?
言葉には出さず、ボールを取りにいった渋谷のことをジッと見ていたら、
「浩介!」
渋谷がこちらにボールを投げながら、叫ぶみたいに言った。
「おれ、お前と一緒にいるときが、誰といるときよりも、何してても一番楽しい!」
「え、お、おれもっ」
いきなりの嬉しい言葉にビックリしながらも、おれもボールを投げかえす。思いきり叫びながら。
「おれ、お前と会えて良かった」
「おれもっ」
渋谷のボールは手が痛くなるほど強い。けれども、正確におれの胸に飛び込んでくる。
「だから」
「うん」
「だから……」
渋谷が、ふんわりと笑った。
「………ずっと友達でいてくれ」
「…………慶」
ああ………抱きしめたい!
「慶!」
「わわわっ何すんだよっ」
ボールを放り出して、渋谷にかけより、ぎゅーっと抱きしめると、渋谷はわたわたとおれを押しかえしてきた。思わず、ぶーっと文句を言ってしまう。
「なんで!? 昨日はぎゅーってしたら、ぎゅーってかえしてくれたじゃん!」
「あほかっそんなの時と場合によるだろっ」
「えー」
なんでー? その時と場合ってわかんない。
ぶーぶー言うと、渋谷が呆れたように、
「お前……ほんっと変な奴だよな」
「えー……」
「ほんと………おもしれえ。お前といると飽きねえ」
くすくす笑いだした渋谷は、やっぱり抜群に可愛くて。
我慢できなくて、もう一度抱きしめたら、
「お前ばかだろっ」
渋谷は文句を言いながらも、一回だけギュッと抱きしめ返してくれた。
**
この日の帰り際、パン屋に行く前に言われたことの意味を聞いてみた。
『お前がいつも行くところに行きたいんだよ。全部知りたいから』
って……どうして? と。
すると、渋谷は「ばーか。当たり前だろっ」とおれの腕をバシバシ叩いて、
「親友のことは何でも知りたいんだよっ悪いかっ」
照れたように赤くなって、言ってくれた。
(何でも……)
いつの日か、渋谷にすべて話せる日がくるのかな……
おれの親のこと、中学までのこと、全部、知ってもらえる日がくるのかな……
でも、おれの本当の姿を知られたら……
(慶……)
おれの初めての友達。おれの親友。あなたを失いたくない。だから……
おれは、醜い『おれ』なんかではなく、あなたが求めている『親友』の姿でいたい。
--------------------
お読みくださりありがとうございました!
せっかくクリスマスなので我慢できずに書いてみましたが、全然クリスマスっぽくなかった。
浩介視点にするとどうしても話が暗くなります^^;
せっかくなので、この年末に目次関係整理しようと思っております。
ちょっと確認していたら、一年前に書いた南視点が非公開のままなことに気が付いたので、公開にします。
(BL小説)風のゆくえには~南の告白(南視点)
南ちゃんの目から見た、慶の中学時代~文化祭までの話、です。
もしお時間ありましたら、ご参考までに……(なんの参考?!)
それでは皆様、素敵なクリスマスを♪♪
-----------
遭逢連載中、終了時、クリックしてくださった方々、本当にありがとうございました!毎日画面に向かって頭下げておりました。感謝感謝でございます。
そして、最近、更新していないのにもかかわらず、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!泣けてきます……
おそらく、次のまともな更新は、年明けになるかと思いますが、今後とも、なにとぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「遭逢」目次 → こちら
それなのに、渋谷はなぜかおれのことを気にかけてくれて、おれのことを『親友』とまで言ってくれている。
だからおれは渋谷の『親友』のままでいられるにはどうしたらいいんだろう、とずっと考えている。
**
『親友』と言われてから一か月半ほどたった、12月23日。
この日、渋谷のお姉さんの結婚式があった。渋谷はお姉さんとすごく仲が良かったらしいから、落ち込んでいるかもしれない。そう思って、渋谷が帰ってくる時間を見計らって渋谷の家の近くをウロウロしていたら、渋谷に会うことができた。
案の定、落ち込んでいた渋谷……。
即座に、抱きしめたい! と思った。
前におれがバスケ部のレギュラーメンバーに選ばれなくて落ち込んだとき、渋谷はおれのことを抱きしめてくれた。それでおれはすごく救われた。だから抱きしめたいなんて思ったのかもしれないな、と思いつつ…
「慶……さみしいね」
おれも渋谷のことを抱きしめてみた。ぬくもりが気持ちいい……。
すると、渋谷もおれの肩口に額を押しつけて、ぎゅーっと強く抱きついてきてくれた。
ちょっとホッとする。これは正解? 嫌じゃないってことだよね?
抱きしめながら頭をなでると、渋谷は小さな子みたいにされるがままになっていて、なんだかとても可愛かった。ずっとずっとこうしていたかった。
**
次の日も祝日の振替で休みなので、午前中から一緒に遊ぶことになった。
行き先は図書館。おれが図書館でもらってきたクリスマスイベントのチラシを見て、渋谷が行きたいといったからだ。
おれが中学校のころからしょっちゅう行っている図書館に渋谷が来てくれるというということが、なんだかくすぐったくて嬉しい。
「ちょ、ちょっと桜井君っ」
中に入ってすぐ、顔なじみの司書の中村さんというおばさんが、あわてておれに詰め寄ってきた。
「お友達?! まあ、どうもおはようございます。……すっごい綺麗な子ね。芸能活動とかしてる子?」
「…………」
後半はコソコソコソっとおれにだけ聞こえるように言った中村さん。
そんなことは知らずに、渋谷は中村さんに挨拶した後は、キョロキョロともの珍しそうにあたりを見回している。白いふんわりとしたタートルネックのセーターを着ている渋谷は、まるで雑誌から抜け出てきたモデルのように可愛らしい(いや、カワイイというと怒られると思うけど、今日の渋谷を形容するのに一番似合う言葉はカワイイとキレイだと思う)。
中村さんは、まあまあまあ……と感心したように渋谷を見ていたけれど、ふとおれに視線を戻して、
「今日は? また自習室?」
「あ……いえ、このチラシの……」
「クッキーもらいにきました♪」
渋谷がニッコリと中村さんに言う。
「先着50名って書いてあったから、早くきて並んでおこうかと」
「あら、やだ。そんなに気合いいれなくても大丈夫よ」
「いえ、すっごい気合い入れてきました。このために朝食の量も減らしたくらい」
「まあまあ、そんな大したものじゃないのよ~」
中村さんが破顔する。渋谷ってすごい。どうして初対面の人ともこんな風に話せるんだろう……
「あ、ねえ、もし時間あったら、クリスマス会、手伝ってもらえない? クッキー並ばないでもあげるから!」
「え」
「もちろん喜んで! いいよな?」
「え」
ニコニコの渋谷……。
「う、うん」
肯いたはいいけど、手伝うって何するんだろう?
不安でいっぱいのおれをよそに、渋谷はさっそく中村さんと打ち合わせをはじめている。
渋谷ってやっぱり………おれとは全然違う。
渋谷……。こんなおれなんかが『親友』でいいの……?
**
クリスマス会は大盛況のうちに終わり、おれたちはクッキーを2セットずつもらえた。
とくに渋谷が仕切ったビンゴ大会は、ものすごく盛り上がり、参加した子供たちも司書さんたちも大喜びだった。
「楽しかったな~~。あ、うめえぞ、これっ」
渋谷は歩きながらさっそくクッキーを食べはじめている。
「慶って……すごいよね」
「なにが?」
「なにもかもが」
「だから何なんだよそれ」
クスクス笑ってる渋谷……。すれ違った中学生の女の子達が、肘でつつきあって「きゃあ~っ」って言っている。うん……渋谷かっこいいもんね……。こんな人の隣をこんな平凡なおれが歩いてていいのかな……。
沈みこみそうになったところで、渋谷がくるっとこちらを向いた。
「で、お前がいつもいくパン屋ってのは?」
「あ、うん。あそこ」
「おーなんかいい雰囲気」
なぜか、渋谷がおれがいつも行っているパン屋に行きたいというので、昼食はパンにすることにしたんだけど……
いいのかな……こんな昔ながらのパン屋さんなんかじゃなくて、もっと違う、素敵なお店とかそういう方が……って、素敵なお店知らないけど………
「ね……ホントにいいの? パン屋さんで?」
「おお」
渋谷が機嫌よく肯いてくれる。
「お前がいつも行くところに行きたいんだよ。全部知りたいから」
「え………」
なんで………?
「いつも何食ってるんだ?」
「あ、うん。コロッケパン……」
「じゃ、おれもコロッケパンにする。こんにちは~」
渋谷が元気良くパン屋のドアを開けて、中にいたおじさんに挨拶をしている。
「…………なんで?」
おれなんかの行ってる場所を知りたいって………なんで?
***
それから、おれがいつもいく公園のベンチで一緒にパンを食べた。いつもは1人でモソモソと食べているパンも、渋谷と一緒だと何万倍もおいしい。
それから、渋谷のうちの方に戻ってバスケの練習をしていたら、渋谷のご両親と妹の南ちゃんが帰ってきた。
公園の外から南ちゃんが大声で叫んでる。
「お兄ちゃん、良かったね~。クリスマスイブを浩介さんと過ごせて~」
「うるせーよっ」
渋谷がムッとして言い返している。そうだ。今日はクリスマスイブだった。その貴重な1日をおれなんかと過ごさせてしまった……。
「ケーキあるから、適当に帰って来て~」
「わかったわかった」
渋谷はしっしっと手で南ちゃんを追い払い、おれに向き直った。
「じゃ、あと10本……」
「…………慶」
「ん?」
渋谷のまぶしい瞳………。思わず本音が漏れてしまう。
「今日、おれなんかといて良かったの?」
「は?」
キョトンと首をかしげた渋谷も抜群に可愛い。申し訳ないくらい。
「ほら……今日、クリスマスイブ、なのに、図書館行ったりパン屋行ったり……そんなので良かったの?」
「………………」
トントントンと規則的なバウンド音のあと、ぽいっとボールを投げよこされた。渋谷がじっとこちらを見ながら、ポツリと言う。
「………つまんなかったか?」
「え?」
渋谷の瞳が真っ直ぐにこちらを見ている。
「お前、今日おれといて、つまんなかった?」
え………渋谷、泣きそう……?
ドキッとして、あわてて否定する。
「渋谷といてつまらないなんてことあるわけないじゃん! すごい楽しかったよっ」
慌てすぎて「渋谷」と言ってしまったけれと、渋谷はそれについては何も言わず、暗い表情のままボソボソといった。
「クリスマス会も勝手に手伝うことにしちゃったし、昼もいつも行くとこに行かせちゃったし………悪かったな」
「えええ!? 悪くないよ!全然悪くないよ!」
そんなこと思わせるつもりないのにっ
「クリスマス会楽しかったよっ。渋谷が仕切り慣れててビックリしたけどっ」
「ああ………小学生のとき入ってたミニバスのチームでああいうの毎年やってて、中学のとき手伝わさせられてたから……」
「あ、そうなんだ……」
どうりで子供の扱いが上手いわけだ。
「それでつい懐かしくて、二つ返事でやるって言っちゃって」
「そっかそっか」
「お前、本当は嫌だった?」
「だから嫌じゃないって!」
バシッとボールを押し付ける。
「おれは渋谷といるだけで、何してても楽しいし嬉しいよ? 昼のパンも渋谷と一緒だったからいつもよりずっとずっとおいしかったし!」
「………………」
渋谷は、怯んだような表情をして、それから、少し赤くなって、それから、ボールをトントンとつくと、再びおれにボールを押しつけてきた。
「おれも……」
手を離さず、下を向いたままグリグリとボールをおれの胸に押し付けてくる渋谷。
「おれも、お前といると、それだけで楽しいし、嬉しい」
「…………え」
「浩介………」
ふいっとおれを見上げた渋谷の瞳に、再びドキッと心臓が跳ね上がる。
真剣で、憂いを帯びていて………
「おれ………」
「…………」
鼓動が耳にまで響いてくる。
「おれ………お前が………」
「……………」
渋谷は何かを言いかけたのに、ふっと笑って言葉を止めて、ボールからも手を離した。
何だろう?
「渋谷?」
「あ、お前今度『渋谷』って呼んだら腕立てな」
「えええ!?」
腕立て!?
「だっておれ達、親友だろ? 親友なんだから名前で呼べよっ」
「…………慶」
「そうそう」
さっきまでの憂いなどなかったかのように、渋谷は健康的な笑顔を浮かべると、
「じゃ、あと10本シュート練したら、ケーキ食べに帰ろうぜ?」
「え、おれもいいの?」
「あったり前だろっ」
パンッとおれの手元からボールを奪い、その場から綺麗なホームでシュートを決めた。
「お前はおれの親友なんだからな!」
「……………」
なんで? なんでおれなの?
言葉には出さず、ボールを取りにいった渋谷のことをジッと見ていたら、
「浩介!」
渋谷がこちらにボールを投げながら、叫ぶみたいに言った。
「おれ、お前と一緒にいるときが、誰といるときよりも、何してても一番楽しい!」
「え、お、おれもっ」
いきなりの嬉しい言葉にビックリしながらも、おれもボールを投げかえす。思いきり叫びながら。
「おれ、お前と会えて良かった」
「おれもっ」
渋谷のボールは手が痛くなるほど強い。けれども、正確におれの胸に飛び込んでくる。
「だから」
「うん」
「だから……」
渋谷が、ふんわりと笑った。
「………ずっと友達でいてくれ」
「…………慶」
ああ………抱きしめたい!
「慶!」
「わわわっ何すんだよっ」
ボールを放り出して、渋谷にかけより、ぎゅーっと抱きしめると、渋谷はわたわたとおれを押しかえしてきた。思わず、ぶーっと文句を言ってしまう。
「なんで!? 昨日はぎゅーってしたら、ぎゅーってかえしてくれたじゃん!」
「あほかっそんなの時と場合によるだろっ」
「えー」
なんでー? その時と場合ってわかんない。
ぶーぶー言うと、渋谷が呆れたように、
「お前……ほんっと変な奴だよな」
「えー……」
「ほんと………おもしれえ。お前といると飽きねえ」
くすくす笑いだした渋谷は、やっぱり抜群に可愛くて。
我慢できなくて、もう一度抱きしめたら、
「お前ばかだろっ」
渋谷は文句を言いながらも、一回だけギュッと抱きしめ返してくれた。
**
この日の帰り際、パン屋に行く前に言われたことの意味を聞いてみた。
『お前がいつも行くところに行きたいんだよ。全部知りたいから』
って……どうして? と。
すると、渋谷は「ばーか。当たり前だろっ」とおれの腕をバシバシ叩いて、
「親友のことは何でも知りたいんだよっ悪いかっ」
照れたように赤くなって、言ってくれた。
(何でも……)
いつの日か、渋谷にすべて話せる日がくるのかな……
おれの親のこと、中学までのこと、全部、知ってもらえる日がくるのかな……
でも、おれの本当の姿を知られたら……
(慶……)
おれの初めての友達。おれの親友。あなたを失いたくない。だから……
おれは、醜い『おれ』なんかではなく、あなたが求めている『親友』の姿でいたい。
--------------------
お読みくださりありがとうございました!
せっかくクリスマスなので我慢できずに書いてみましたが、全然クリスマスっぽくなかった。
浩介視点にするとどうしても話が暗くなります^^;
せっかくなので、この年末に目次関係整理しようと思っております。
ちょっと確認していたら、一年前に書いた南視点が非公開のままなことに気が付いたので、公開にします。
(BL小説)風のゆくえには~南の告白(南視点)
南ちゃんの目から見た、慶の中学時代~文化祭までの話、です。
もしお時間ありましたら、ご参考までに……(なんの参考?!)
それでは皆様、素敵なクリスマスを♪♪
-----------
遭逢連載中、終了時、クリックしてくださった方々、本当にありがとうございました!毎日画面に向かって頭下げておりました。感謝感謝でございます。
そして、最近、更新していないのにもかかわらず、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!泣けてきます……
おそらく、次のまともな更新は、年明けになるかと思いますが、今後とも、なにとぞよろしくお願いいたします!
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「遭逢」目次 → こちら