(2017年9月10日に書いた記事ですが、カテゴリーで「翼を広げて」のはじめに表示させるために2017年11月24日に投稿日を操作しました)
目次
一年目(浩介視点・吉村さん視点)
二年目-1(早坂さん視点・浩介視点)
二年目-2(慶視点)
二年目-3(浩介視点)
三年目-1.1(長谷川委員長視点)
三年目-1.2(長谷川委員長視点)
三年目-2(浩介視点・早坂さん視点・ルナ視点)
三年目-3(浩介視点)
三年目-4(南視点)
三年目-5(浩介視点)
三年目-6(慶視点)
三年目-7(浩介視点)
三年目-8.1(慶視点)
三年目-8.2(慶視点)
後日談1(浩介視点)
後日談2(慶視点)
後日談3(浩介視点)
後日談4.1(慶視点)
後日談4.2(慶視点)
後日談5(慶視点)
後日談6(浩介視点)
エピローグ(慶視点)
人物紹介
桜井浩介(さくらいこうすけ)
29→31歳。身長177cm。元高校教師。国際ボランティア団体所属。
表は明るいが、裏は病んでいる。慶に対する病的な独占欲、両親との確執、理想の教師像との相違に悩み、慶を置いて一人ケニアへ……
渋谷慶(しぶやけい)
29→31歳。身長164cm。小児科医。
道行く人が振り返るほどの美形。芸能人ばりのオーラの持ち主。だけど本人に自覚ナシ。
「自分の可能性を試したい」と言った浩介を応援しよう、自分も頑張ろう、と気を張っているけれども……
一之瀬あかね(いちのせあかね)
29→31歳。中学校教師。浩介の友人。
人目を引く超美人。恋愛対象は女性。女関係はかなり派手。
大学の時から、浩介の両親の前では、浩介の恋人のふりをしている。
(初出の『自由への道』では、名字「木村」でしたが、大学卒業と同時に親が離婚し「一之瀬」になりました)
アマラ
21→23歳。大学生。
浩介のケニアでの下宿先の娘。
母親のシーナは、浩介の所属する国際ボランティア団体のケニア支部の責任者になったばかり。
峰広明
41歳→43歳。小児科医師。慶の頼れる先輩。
吉村亮子
29歳。慶の同期の小児科医師。
浩介曰く「慶のことを狙っているのがミエミエな女性」
早坂あずさ
24→26歳。小児科の看護師。
浩介曰く「一生懸命な良い看護師さん」
山田ライト(やまだらいと)
19歳→21歳。ケニア人の父と日本人の母を持つハーフ。浩介の日本語教室での教え子だった。
現在は、父と父の奥さんと一緒にアメリカで暮らしている。
(初出は『嘘の嘘の、嘘』)
あらすじ
高校二年生の冬、無事に両想いになり付き合いはじめた慶と浩介。
(「遭逢」・「片恋」・「月光」・「巡合」・「将来」)
大学時代、浩介の母親の暴走を止めるため、浩介の両親の前では、表向きは別れたことにしたが、裏では交際は続けていた。
(「自由への道」)
仕事のため、なかなかゆっくり会えないという不満はあるものの、幸せな日々を送っていたはずの二人。母親の束縛と真木の出現により、浩介の慶に対する思いが更に歪んだものになっていき……
(「嘘の嘘の、嘘」「その瞳に*R18」)
愛するからこそ、一緒にはいられない。そう思い詰めて、浩介は一人、日本を離れる。
(「閉じた翼」)
こうして、離れ離れになった二人の、3年間の物語。
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お読みくださりありがとうございました!
私が現役高校生の時に書いた「翼を広げて」をベースにした暗~い真面目なお話ですが、お付き合いいただけますと幸いです。どうぞよろしくお願いいたします!
クリックしてくださった方、見にきてくださった方、本当に、本当にありがとうございます!
有り難い~有り難い~と拝んでおりました。今後ともよろしければどうぞお願いいたします。
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【慶視点】
2012年2月
妹の南から電話がかかってきた。
「あとからお姉ちゃんからも詳しい連絡がいくと思うけど、先に伝えていいっていうから言うね!」
「?」
珍しくテンション高めの南。なんだなんだ?と思ったら、
「桜ちゃんが結婚するんだって!」
「えええええ?!」
おれも叫んでしまった。桜ちゃんというのは、姉の娘だ。確か来月で20歳になるはず……
「お兄ちゃん結婚式きてね? 来月の24日」
「来月ってそりゃまた急だな」
「そうそう。お腹が大きくなりすぎちゃう前にってさ」
「お腹が大きく……って!」
妊娠してるってことか!
「お姉ちゃん、もうおばあちゃんになるんだよ。お母さんはひいおばあちゃん。笑えるよね~」
「マジか……」
椿姉、45でおばあちゃんか……若いおばあちゃんだな……
「お兄ちゃん、飛行機代なら出してあげるから、浩介さんと一緒においでよ」
「あー……」
有り難い申し出に、うーんと唸ってしまう。
「そうはいっても、おれも病院あるし、浩介も学校あるからなあ」
「えー……」
でも、せっかくのかわいい姪っ子の晴れ姿。この目で見たいなあ……
「あ、そうだ、お兄ちゃん、早坂さんって覚えてる?」
「え」
突然の懐かしい名前に一瞬思考が停止する。
「早坂さんって、前の病院の看護師だった早坂さん?」
「そうそう。私、お兄ちゃんの病院で取材させてもらった時に、連絡先交換して、時々連絡し合ってたんだけどさ」
「え」
全然知らなかった。
早坂さんは、浩介を見送る時も、ついて行くと決めた時も、おれの背中を押してくれた。前の病院をなんとか穏便に辞めることができたのは、早坂さんをはじめ、周りの人達の協力のおかげだった。感謝しつつも、看護師さん達とは疎遠になっていたのに、まさか南が繋がっていたとは……
「この前、急に連絡が来てね。結婚したんだって。それでお兄ちゃんによろしく伝えてって」
「へええ……」
早坂さんの笑顔を思い出す。あの元気いっぱいの早坂さんだったらさぞかし明るい奥さんをしていることだろう。
「渋谷先生もお幸せにってさ。私も言ってないけど、早坂さんって、お兄ちゃんの相手が浩介さんだってこと、知らないよね?」
「まあ……うん」
彼女には、「恋人」の話はしていたけれど、まさかそれが男だとは……思わないよな。普通。
「まー、その話はまた」
南があっさりと話を切り上げた。
「24日調整ついたら連絡ちょうだい」
「おー、ありがとな。お母さん達にもよろしく」
と、そのまま切ろうとしたのだけれども、
「あ! お兄ちゃん!」
「わっ」
いきなり南がでかい声をあげたので、電話を落としそうになってしまった。
「な、なんだよっいきなり」
何とか持ち直して聞くと、南は一言、いった。
「お兄ちゃん、今、幸せ?」
「は?」
何いってんだこいつ?
「何………」
「お母さんがね、「慶は幸せにしてるのかしら?」って気にしてたこと思い出したの」
「……………」
お母さん………
子供の幸せが親の幸せだって言ってたな………
「だから、お兄ちゃん、今、幸せなの?」
そう再度聞かれた時、ちょうどドアが開き浩介が入ってきた。
「あ………」
おれが電話しているのを認めると、にっこりと微笑み、静かにキッチンの方へ歩いていく浩介。
(……………浩介)
その後姿………心の底から「幸せ」が沸き上がってくる………
「幸せ、だよ。めちゃくちゃ幸せ、だよ」
気持ちをこめてそう告げると、ふふふ…と南があやしげな笑いをもらした。こいつホント変わんねえ……
「じゃ、浩介さんによろしくね」
「おお」
今度こそ本当に電話が切れた。
リビングに戻ってきた浩介がニコニコと聞いてくる。
「電話、誰からだったの?」
「南から。お前によろしくってさ」
「やっぱり南ちゃんだったか」
隣に座った浩介が、すいっと腰に手を回してくる。
「ね、慶、何が幸せなの?」
「あ、お前きいてたな」
眉を寄せてみせると、えへへ、と浩介が笑った。
「聞いてたんじゃないよ。聞こえたの。ね、何が幸せなの?」
「あー………」
愛しい頬を指でなぞりながら、じっと見つめる。
ああ、幸せだな………と思う。
お前がこうしてそばにいる。それだけで、溢れるほど幸せだ。
「今。今が幸せだなあって」
「慶……」
予想通り、浩介は目をうるうるさせながらおれを見つめてくれる。そんな浩介をこの上もなく愛おしいと思う。
「浩介、お前は?」
「ん?」
「今、幸せ?」
「もちろん。だって慶がいるもん」
「………そうか」
毎日のように繰り返される同じ会話。でもこれほど充実した日々は他にはないと言い切れる。浩介、お前といられるだけで……
「慶、大好きっ」
「なーに甘えてんだよっ」
何年も何年も同じことを繰り返す。浩介と一緒に。
「浩介……」
心をこめて、その愛する名前を呼ぶ。浩介がいつものように笑いかけてくれる。いつものように。
そして、毎日が過ぎていく。浩介がおれの隣にいて、おれが浩介の隣にいて。
浩介………浩介。いつまでも、お前と共に生きていこう。
<完>
--------------
お読みくださりありがとうございました!
1992年4月2日 A.M.1:39
当時高校生だった私が↑この日時に書き終えた物語。
原型を残しながら、肉付けしつつ、リメイクしてまいりましたが、無事にこれで〈完〉となります。
25年以上たって、私以外でこの物語を読んでくださる方がいらっしゃるなんて感無量でございます。読んでくださった皆様に心より感謝申し上げます。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうこざいます!
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【浩介視点】
2006年12月23日
温かい幸せな感触を感じながら目が覚めた。
おれの腕の中で慶が眠っている。この愛しさ。この温もり。この幸せ………
「…………」
起こさないようにそっと額にキスをする。今日は慶は休みなので、まだ寝かせてあげたい。
ルームシェア、という形になっているため、それぞれ自分の部屋も自分のベッドもある。でも、ほとんどどちらかのベッドで一緒に寝ている。
昨晩も深夜まで仕事だった慶は、先に寝ていたおれのベッドにもぐりこんでくれたらしい。
『お手伝いさん雇ったらいいのに』
と、よく言われるけれど、この二人きりの生活を邪魔されたくないので、なんとか二人で頑張っている。本当は家事なんて全部やってあげたい。でも、おれも時間がなくてそれは無理なため、不本意ながら当番制にしている。
(今日は付き合って15回目の記念日だから、何か美味しいもの作りたいけど………)
何時に帰ってこられるかな、おれ……。
実は最近、慶と家ではほとんど話せていない。でも、寝顔を見られることもあるし、何より慶の気配のする家に帰ってこられるので、日本にいたときとはまったく違う。一緒に住むってこういうことだよなあ……って嬉しくなる。
(ああ、綺麗だなあ………)
もう行く準備をしなくてはならない、と思いつつも、ついつい慶の完璧に整った寝顔を見つめていたら、
「あ………」
ゆっくりと長いまつげが動き、湖みたいな瞳がこちらを見返してきた。しまった。せっかく寝てたのに………
「ごめんね、起こしちゃったね」
「いや……伝言が………」
「伝言?」
「うん……イザベラから……」
慶は眠そうに目をこすってから、言葉を続けた。
「あかねさんが来る日、年明けに変更って連絡があったって」
「あ、そうなんだ?」
「なんか、部活が忙しいって」
手がのびてきて、頬が包まれる。温かい………
「お前なんか聞いてた?」
「あ、うん。あかねの学校、今年もまたすごいらしいから、もしかしたら、とは聞いてたけど」
「そっか」
「………」
穏やかな瞳にホッとする。
あかねの話題、しても大丈夫そうだ……。
実は、こちらで暮らし始めて数日後、慶からあかねがこちらに滞在した時のことを聞かれ、おれが話をそらそうとしたら、ムッとしながら言われたのだ。
「おれに遠慮するのやめてくれ」
「え?」
遠慮? 何のことだか分からず、本気で首を傾げると、慶はますます不機嫌に、
「お前、なんか知らないけど、昔っから、あかねさんと仲良いこと、おれに隠そうとするよな」
「…………」
それは………
「本当は「あかね」「浩介」って呼びあってるくせに、おれの前では、サンとかセンセーとかつけたりさ」
「え」
げ。知ってたんだっっ。
固まってしまったら、ゲンコツで額をグリグリ押された。
「そういうの、余計ムカつくんだけど」
「ご……ごめん」
「だから、おれに遠慮しないで、普通に仲良くしろ」
「う……うん」
そういえば……、と、ふと思い出した。電話であかねが言っていたのだ。
「私の男性嫌いに関して、ちょっと大袈裟に話したから、慶君の私を見る目が少し変わってくれたかも」
そのことが、この発言に繋がっているのかもしれないな……
(それにしても………)
普通にと言われても、どこまでどうしたら……
「あの、慶……、名前のこと、いつから知ってたの?」
「ああ……」
慶はちょっと気まずそうに鼻をかくと、
「大学の時から知ってた」
「えええ?!」
言われた言葉に仰け反ってしまう。
だ、大学の時って、何年経ってるんだ!!
「慶、ムカついてたの、ずっと我慢してたってこと?!」
「あ~~、まあな」
「まあなって………」
そんな………
「そういうことは、ちゃんと言ってよ……」
思わず文句を言ってしまうと……
「………お前もな」
「え?」
ふっと、慶の瞳が怯えの光を帯びたので驚いた。……何?
「慶……?」
慶の温かい手が伸びてきて、両頬を包まれる。
「お前も、ちゃんと言ってくれ」
「え……」
真剣な表情……
「突然いなくなったりしないで、ちゃんと話してくれ」
「………」
「おれも話すから、だからお前も……」
「………」
ああ、やっぱり……
当たり前だけど、慶はまだまだ不安なんだ……
慶の中に植え付けてしまった不安……取り除くためにおれは何をすればいいのだろう。
「うん。話す。慶も話してね?」
「……ん」
「慶……」
「………」
ぎゅっと抱きついてきた慶をしっかりと包み込む。おれができることはそれだけなのかもしれない。
***
今日は15回目の記念日。
仕事も早々に終わらせて、大急ぎで帰ってきたのに……
『はーい、浩介~~』
『思ったより早かったね~~』
ドアを開けた途端、聞こえてきた英語の数々……
イザベラを含めた3人の現地スタッフが、ダイニングテーブルに食事を並べている。慶も苦笑い、といった表情でグラスを運んでいて……
『なんでみんな……』
「おっかえりー!」
「わ!」
ドアの横からいきなり日本語と共に飛びついてきたのは、
「ライト!」
「元気だった?! 浩介先生!」
山田ライト。日本にいた時の日本語ボランティア教室での生徒。ケニア人の父と日本人の母を持つハーフで、現在アメリカで大学生をしているはず……
「………何してんの?」
「何してるって、先生たちに会いにきたんでしょー! ビックリした?ビックリした?」
うひゃひゃひゃひゃ、とあいかわらずの変な笑い声のライト……。また一段と大人っぽくなった気がする。
「ほら、ライト、お前も手伝え」
「えーオレお客さんなのにー。ねーイザベラー」
慶に背中を小突かれ、ライトが今度はイザベラにまとわりつきはじめた。
その隙に、コソコソっと慶にたずねる。
「なんでライトが……」
「冬休みだから旅行してるとかいって、突然、病院に来たらしくてさ。で、イザベラがみんなを誘ってうちに……」
「えー……何でよりによって今日……」
思いっきり鼻に皺をよせると、慶は、クククと笑って、
「ライト、明日には日本に行くから、今日しかないんだってよ」
「えー………」
「まあ、いいじゃねえか。こんな賑やかな記念日、過ごしたことないし」
「えー………」
タイミング悪すぎー………
ムーッとしたおれの頭をポンポンと慶がしてくれたところで、
「あいかわらず仲良しだね~」
「!」
真後ろから声をかけられ、二人で振り返ると、ライトがニコニコで立っていた。
「安心したよー。2人が仲悪くなったら嫌だなーって思ってたから」
「なんだそりゃ」
慶が苦笑している。ライトはおれ達の関係を知らないのに、そんな風に言われるとこそばゆい。
「浩介先生、ケニアにいたときより、元気だね」
「え、そう?」
「うん」
ライトはこくりとうなずくと、
「慶君も、日本にいたときより元気」
ライトの黒曜石のような瞳が観察するようにジーっとこちらを見つめてきて………
「なんか………二人とも柔らかい」
そう、結論つけた。
「柔らかい?」
「うん。あと、自由な感じ」
ライトは、何て言えばいいかなあ………と悩むように天井を見上げてから、「わかった」と、ポンと手を打った。
「翼を広げてる感じ、だよ」
「え………」
それは………
ライトのニコニコに、ぎゅうっと胸が締め付けられる。
(翼を、広げてる………)
うん。そうだよ。おれはようやく翼を広げたんだ。
慶の元で、慶と一緒に。
自由に、翼を広げてる。
(慶……………)
泣きそうな気持ちになりながら、慶を見返すと………
「それさ………」
慶はなぜか苦笑しながら、ライトの腕をバンッと叩いた。
「お前それ、もしかして、羽を伸ばしてる、って言いたい?」
「え」
「ん? あ、そうか!」
うひゃひゃひゃひゃ、とライトが笑いながら、イザベラの方に行ってしまい………
……………。
……………。
……………。
いや、別にいいんだけどさ……………
「浩介? どうした?」
「………………」
愛しい声に我にかえる。
すぐそばに、それが普通のこと、みたいにいてくれる。それがどんなに幸せなことか……
「なんでもなーい。おれも手伝うよ」
「ん」
みんなに見えない角度で、そっと慶の背中に触れる。愛しい温もりがここにある。
『イザベラー、あと何すればいい?』
『お皿が一枚足りないんだけど、他にない?』
『分かった。新しいの出すよ』
本当に賑やかな記念日になりそうだ。
「慶」
「ん?」
大好きなその人を見つめる。振り返ったときに、いてくれる、その幸せをかみしめる。
愛しいあなたと、一緒に翼を広げている、幸せをかみしめる。
「………記念日のお祝いは、みんなが帰ってからね?」
「………おお」
慶が少し照れたようにうなずいてくれた。
----
お読みくださりありがとうございました!
おかげさまで、「あいじょうのかたち」で話していたあかねさんの話や、名前は出さずに話題に出たアメリカ人精神科医イザベラのことを書くことができて安心しました。
次回金曜日最終回です。迷いましたが、私が高校生の時に書いたエピローグを尊重しようと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
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【慶視点】
2006年10月
半年ぶりに浩介と再会した。
空港でおれの姿を見つけるなり、ぱあっと嬉しそうに笑った浩介。
(浩介………浩介)
即座に駆け寄りたくなったけれど、周りに大勢人がいるし、事務局の方や同僚となる先生方もいたため、手を振るにとどめておいた。誰もいなかったら確実に抱きついているところだ。早くお前を抱きしめたい。
………と、思ったけれど、結局、二人きりになれたのは、それから3日も経ってからだった。
空港につくなり、同僚達とも一緒にアパートに行って荷物を置き、そのまますぐに勤務先の病院に連れていかれ、気がついたら夜通し働いていて、その後仮眠室で仮眠を取ってから、次は診療所に連れていかれ、その後、急患が入って………
「………お疲れ様。大変だったね」
「おお」
3日後の夜、ようやくアパートに帰ってきたおれを迎えてくれた浩介も、苦笑い、だった。
おれの勤務先の病院と、浩介の学校はわりと近くにあるので、この3日間、何度か顔を合わせることはできていた。だからか、浩介も落ち着いているようだった。
「ご飯は?」
穏やかに聞いてきた浩介に、そっと近寄り、腰に手を回す。
「まだだけど………」
飯よりお前が先だな。
そう言うと、浩介はふんわりと笑って、ぎゅうっと抱きしめてくれた。
**
アメリカ人精神科医のイザベラ先生の仕事には、働いているスタッフの心のケアをすることも含まれているらしい。
初日に二人きりで話す時間を取られた際、ズバリと言われた。
『浩介の恋人だってことは、ここでは内緒にすることをおすすめするわ』
「え!?」
ぎょっとして見返すと、イザベラはニッコリと笑って、
『やっぱりそうよね?』
と、言った。………カマかけられた。
おれ達よりも少し年上で、アメリカ映画に出てきそうな金髪にグレーの瞳の美人。いかにも優秀!って雰囲気を裏切らず、本当に優秀らしい。
『周りのスタッフには、浩介には持病があるから医師である慶と暮らすって噂を流してあるから』
『………………』
『でも本当に実際、発作を起こしてるし……、一度みんなの前で嘔吐もしてしまって、ちょっとした騒ぎになったのよ。変な病気なんじゃないかって』
「え!?」
嘔吐!? そんなことは聞いていない!
思わず立ち上がると、グレーの瞳がじっとこちらを見上げてきた。
『浩介ね、落ち着くまでずっと、呪文みたいに、ケイ、ケイ、って小さく呟いてたの』
「…………」
浩介………
『発作も嘔吐も、理由は本人分かっているし、呪文の相手も来てくれたし、今後は減るとは思うけど……』
「…………」
『とにかく、たくさんの愛情で包んであげて』
真っ直ぐなグレーの瞳に真剣にいわれ、
『もちろんです』
力強く肯いた。
カウンセリングルームを出てから、イザベラに言われたことを反芻しながら歩いていたら、
『嘔吐……』
ふ、と思い出した。2か月前に浩介の友人のあかねさんと話した話……
「私、男の人に触れられると吐いちゃう体質なのよ」
食事中にごめんなさいね、こんな話。と、あかねさんは断りを入れてから、淡々と話しだした。
「幼稚園の時に、父が交通事故にあって……、その時に血まみれの父を抱きあげたの。頭が割れて、中身が出てきちゃってて、血もどんどん流れてて……」
「………」
あかねさんは何でもないことのように淡々と話し続けた。
「それ以来、男の人に触られると、その映像が蘇ってきて、気持ち悪くなっちゃって」
大人になってだいぶマシになったとはいえ、やっぱり触れられるのは苦手。と、あかねさん。
「だから、私が浩介センセーに手を出すことは、絶対にありえないので、そこは信用してください」
「………いや、別に…………」
それを疑ったことはないけれど……、いや、正直に言えば、万が一を思ったことはある、か………
「あ、でも、男がダメだから女ってことではないからね! 元々、幼稚園に入る前から、すでに女の子が好きだったし……って、私の性的志向の話はどうでもいいわね」
あかねさんは、自分でいって自分でツッコミを入れると、「本題です」と、表情をあらためた。
「私ね、元々母と折り合い悪かったんだけど、その事故で父が亡くなってから、余計に仲が悪くなって……
慶君には信じられないかもしれないけど、殺すか殺されるかっていうくらい、切羽詰まった関係だったの。
長野と東京って離れて暮らすようになっても、その感情はずっと燻っていて、時々火が付きそうになる。
そんな時、浩介センセーに出会ったの。
浩介センセーは、こんな私の殺意を受け入れてくれた。
今までも、この話を他の人にしたことはあるけれど、みんな根底には「親に対してそんなこと思うなんてありえない」っていうのがあるのが分かって、話せば話すほど、なんで?私が悪いの?って叫びだしたくなって……」
あかねさんは自嘲するような笑みを浮かべてから、軽く首をふった。
「でも、浩介センセーは違った。だから話すとすごく楽になる。浩介センセーに話して吐き出すことは、私の精神安定に繋がってる」
「………………」
浩介もご両親とは折り合いが悪い。さすがに殺意を持つということはないだろうけれど、他の人よりは理解度が高いのかもしれない。
「それにね、浩介センセーは慶君一筋っていうのが溢れてて、私の美貌にびくともしないから、そういう面でも会ってて楽」
「え」
いたずらそうに笑ったあかねさん。やっぱりすごく魅力的だと思う。
「いやホント、貴重なのよ。私をそういう目でみない人って。ほら、私、美人過ぎるから、どんな男も女も魅了しちゃってねえ。女の子は大歓迎だけど、男は困っちゃう」
「……………」
いや、否定はしない。事実だ。
「そういうわけで、申し訳ないのですが、目をつむってもらえると助かります」
ペコリ、と頭を下げたあかねさん。
ふ、と気がついて聞いてみる。
「もしかして浩介も、あかねさんに親のこと愚痴ったりとかしてますか?」
「あ~~、うん、まあ、少しはね………」
あかねさんのいい淀みに「少し」ではなく「たくさん」なのだな、と感じる。
浩介の発作の原因は、親にある。話を聞いてやりたいけれど、浩介はおれには話したがらない。どこかで吐き出せればいいのに、と心配にはなっていたのだけれども………
(そうか………あかねさんに吐き出していたのか………)
それなら………しょうがないよなあ………
しょうがない、というか………
「それじゃあ………今後とも浩介のことよろしくお願いします」
今度はおれが頭を下げた。
「いいの?」
目を見開いたあかねさんにコックリとうなずく。
おれには、浩介の「親に対する思い」を吐き出させることはできない。
おれに出来ることは浩介を包み込むことだけだから。だから………
「お話はよくわかりました。お待ちしています」
そう、うなずいてみせた。
----
お読みくださりありがとうございました!
あかねさん、浩介の親に対する思いに関しては自分の口からいうべきではない、と判断して、そこは伏せて、自分のことだけ、お話ししてます。
次回火曜日。どうぞよろしくお願いいたします。
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こんな真面目な話に………もう、本当に有り難いです。ありがとうございます!!
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あかねさんと出会ったのは、大学一年生の時。当時アルバイトをしていた喫茶店に、あかねさんがお客としてやってきたときだった。
彼女にだけスポットライトが当たっているかのような凄まじいオーラに、ポカーンとみとれてしまって……、それを目撃した浩介に、後からさんざん文句を言われた。
「あれだけのオーラであれだけの美人なら、お前だって見とれるだろ!?」
と、言い返したのだけれども、浩介はキッと目を吊り上げて、
「おれは慶で免役ついてるから大丈夫だもん!」
「は?」
免疫????
「そもそも、慶の方がオーラあるし、慶の方が綺麗だし!」
「え?」
「だから、おれは、全、然、何、も、思わない!」
「……………」
浩介はぷんぷん怒ったまま、おれに詰め寄ってきた。
「慶、誘われても絶対行っちゃダメだからね!」
「………お、おお」
何か意味がわからないことも言っているけれど、「全然何も思わない」のは結構なことだ。
そんな会話をしてしばらくしてから、あかねさんは浩介の所属するボランティア団体に入会してきた。
そのイベントに遊びに行った際、彼女の絵本の読み聞かせを見せてもらったのだけれども、そのプロレベルの素晴らしい読み聞かせにものすごく感動してしまった。その場にいた子供も大人もみんな魅せられていた。
「いやー、あかねさん、すごかったな」
「………まあ、実力は認めるけどさ」
その日の帰り道に立ち寄ったラブホテルで素直な感想をもらすと、浩介はムッとしてしまった。おれがあかねさんを褒めたのが気に入らないらしい。見ている時は、自分だって目をキラキラさせてたくせに……
「あのさあ、浩介……」
浩介とあかねさんは何となくギクシャクしている感じだった。このまま変な嫉妬でサークルの仲間と上手くやれなくなるのは困るだろう。何とかしないと、と思って、浩介の頬を両手で囲んでグリグリする。
「あかねさん、あれからも客として店に来てるけど、あれ以来、おれのこと誘ってきたこと一度もないぞ?」
「…………」
「だいたい、誘われてもおれは絶対に行かないし……」
「…………」
「なんだよ? おれのこと信用できねえのかよ?」
「………だって」
両手を上から握られる。
「慶が誰かに見とれるなんて、初めてだったもん」
「だからそれは芸能人に初めて会った的な……」
「芸能人じゃないもん」
「……浩介」
コツン、とオデコを合わせる。
「もう見慣れたから大丈夫。もう見とれたりしない」
「…………」
でも、ジーッとおれのことを恨めし気にみてくる浩介……なんなんだ。
「……お前、しつこいぞ」
「だって……」
浩介が、頬を膨らませたまま言った。
「慶は、おれに見とれたことなんてないでしょ?」
「は?」
「おれはいっつも慶に見とれてるよ。カッコいいなあとか、キレイだなあとか、カワイイなあとか」
「…………」
「それなのに、慶はあかねさんに……」
「待て待て待て」
それは聞き捨てならない。思わず浩介の額を手で押し返す。
「お前、時々忘れるみたいだけど、おれ、お前に一年以上片思いしてたからな?」
「それは……」
「その片想い期間、どれだけ密かにお前に見とれてたか……」
「えー」
浩介は「信じられない」とますます頬を膨らませた。
「おれなんかのどこに見とれてたっていうわけ?」
「どこって………」
ふっと高1の秋から高2の冬までのことを思い出す。思い出すのは……
「本読んでる時の横顔とか……」
「………」
「バスケやってる時の必死な顔とか……」
「必死って」
ちょっと笑った浩介。
「ああ、あと……英語の教科書、先生にさされて読んでるときとか、ドキドキした」
「ドキドキ?」
「うん。お前、英語喋ってるのかっこいいし」
浩介は英語を話す時、声がいつもより少し低くなるのだ。
浩介は「えーそうなのー?」と首をかしげながらも、ちょっと嬉しそうに、
「じゃあ、これから慶を口説くときは英語にしようかな……」
「口説くってなんだ。ってか、英語で言われても、簡単なのしかわかんねーぞ?」
「ん。じゃあ……」
ちゅっと頬にキスをされ、ギュッと抱きしめられる。と、耳元で浩介が低くささやきはじめた。流暢過ぎて何言ってるんだか全然分からない。でも、なんか……ゾクゾクする。
「浩介……」
たまらなくなって、背中に回した手にぐっと力を入れると、浩介はおれの頬にツーッと指を滑らせて、優しく優しく微笑んだ。
「大好き、慶」
「…………。それ、日本語」
「あ、ほんとだ」
笑って、唇を合わせる。
ああ、こいつのことが好きで好きでたまらない、と、あらためて思う。だからこそ、おれのせいでお前がサークル内の人間と仲悪くなるのは見過ごせない。
「なあ……浩介」
「ん?」
「おれは、ずっとお前のことしか見てないから」
「………」
目を見開いた浩介のおでこに、コンッとまたおでこを合わせる。
「だから変な嫉妬で、せっかくのサークルの仲間と仲悪くなるとか、やめろよ?」
「…………」
浩介は、ふうっと大きく息を吐くと、何か英語で言ってから……
「善処します」
「………それ、超日本語」
吹き出すと、浩介も笑ってまた抱きしめてくれた。
その後、夏休みに行った運転免許の合宿で、あかねさんにおれ達の関係がバレて……、そのあとくらいからだろうか。浩介とあかねさんは妙に仲良くなりはじめて、今度はおれがヤキモキするようになったわけだけれども……
「あの免許合宿から何年? あれハタチの時だから……」
「12年………ですね」
「わ~~お互い歳を取った……って言いたいけど、慶君はあまり変わらないわね」
「…………」
ニコニコとあかねさんが言う。あかねさんはあの頃より大人っぽくなったと思う。けど、女性に余計なことは言わない。
ここは、ボランティア事務局の最寄り駅近くの居酒屋。こんな美人が来るには少々似つかわしくない、古くて小さな家庭的な感じの店。でも、行きつけなのか、店員さんに「いつもの席空いてますよ」と言われて、一番奥の二人掛けの席に通された。
「もしかして、浩介とよく来てましたか?」
聞いたのは、メニュー表の写真の『厚揚げみぞれネギ生姜』の盛り付け方が、浩介が家で出してくれていたのとまったく一緒だったからだ。
あかねさん一瞬詰まってから、「時々ね」と、言葉を濁らせた。「よく」来てたんだろうな、と思ってやっぱり少し面白くない……。
「さて。何から話そうかな……」
あかねさん、ビールが来て、一通り注文が終わった時点で、あらたまったようにこちらに目を向けた。
(………綺麗な人だな)
あらためて思う。浩介はこんな綺麗な人と一緒にいて本当に何も思わないんだろうか………
「えーと、まずは、東南アジア行きおめでとうございます」
「おめでとう?」
唐突な祝福の言葉に首を傾げる。おめでとう、なのか?
聞くと、あかねさん、またニッコリと笑った。
「これで晴れて、浩介センセーと同棲生活スタート、だもの。おめでとうでしょ?」
「…………」
いや、形上はルームシェアなんだけど……
うーん……と引き続き首を傾げるおれには構わず、あかねさんは表情をあらためた。
「それで、お願いがあります」
「………はい」
ドキッとする。でも、あかねさんは真面目な顔をしたまま、ハッキリと、言った。
「時々、浩介センセーに会いに行かせてください」
「え」
会いに、行かせて………?
「慶君が私のことあまり良く思ってないことは知ってる。私も逆の立場だったら心中複雑だと思うし」
「いや……」
いきなりズバズバ言われて引いてしまう。何をいきなり……
「あの、別におれに許可取らなくても、あかねさんは浩介の友達なんだから……」
「でも、浩介センセーはあなたが嫌だっていったら、私に会わなくなるでしょ?」
「それは……」
まあ、浩介の性格上そうするだろうけど……
「でも、そうなると私が困るの。だから……」
「……?」
それからあかねさんがしてくれた話は、とてもとても深刻な話で……
「………わかりました。お待ちしています」
結局、そう肯くことになった。
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お読みくださりありがとうございました!
本題持ち越しでm(__)m
あかねとの出会いの話は『自由への道』になります。構想は私が高校生の時で、実際に書いたのは3年くらい前。
大学時代、浩介があかねに対して態度を軟化させたのは、慶と浩介の間で↑のようなやりとりがあったからなのでした。『自由への道』ではあかね視点だから書けなかったの。あかねさん「仲間として認めてくれたのかな?」って思ってましたが、真相は「慶に説得された」なのでした。3年もたって今さらネタの回収…。
次回金曜日。どうぞよろしくお願いいたします。
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