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BL小説・風のゆくえには〜記念日追加

2024年11月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

 11月3日は「初めてキスした記念日」であると同時に、「愛してる記念日」でもある。あの恥ずかしがり屋の慶が「愛してる」と初めて言ってくれた日なのだ。

 5年前に、ひょんなことから、毎年この日には「愛してる」と言う約束をしてくれた慶。それから3年間は順調に毎年言ってくれていた。でも……


(……あ、12時過ぎた)

 11月3日が終わる少し前から、リビングで本を読んでいるフリをしながら時計を見ていたのだけれども……
 慶から「愛してる」の言葉を聞けないまま、日付が変わってしまった瞬間、

(これで良かったのかも……)

と、心にのぼってきた感情が「安心」だったことに、少し戸惑う。

(そりゃ、言ってほしいは言ってほしいけど……)

 記念日に無頓着な慶に、それを強要するのは申し訳ない、という気持ちが大きかった、ということだ。

(今後は、まあ……思い出したら言ってくれる程度で……)

と、いうか、日常的に言ってくれれば、記念日に必ず言う必要もないんだけどね?というツッコミもあったりしますが……

 なんて思いながら、本に目を戻して、数十分後。

「悪い、もう寝るよな? おれ、こっちでやるから、寝ていいぞ?」

 慶がノートパソコンを持って、寝室兼作業場から出てきた。
 慶は明日の講演会のことで、身体も心もいっぱいなのだ。

「慶、まだかかりそうなの?」
「あー、どんな質問飛んでくるかわかんねえから、できるだけ想定問答は多く作っておきたくて……」
「……そっか」

 眼鏡の慶がかっこよすぎて、必要以上に目で追ってしまう。老眼鏡なのにこんなにかっこよくなるなんて、もうズルいというかなんというか……

(あー、やっぱり、おれも見に行きたいなー)

 明日の講演会は、慶の勤める病院の近くの小学校の体育館で行われる。自治会と小学校PTAの共催イベントだそうで、小学生の発表などがいくつかあった後、慶はゲストとして一番最後に登壇することになっている。

 例年のゲストは、音楽やダンスを披露する人たちらしいのに、なぜか今年はお医者さん……

『お客さん、おれの番になったら帰っちゃうよな。知らねーぞホントに……』

と、慶はブツブツ言っていたけれど、絶対にそんなことはない。というか、むしろ増えると思う。

(だって、このチラシの写真……)

 小学校のホームページに載っているイベントのチラシをスマホ画面に呼び出し、あらためて見て、あらためて思う。

(慶、かっこよすぎる)

 白衣姿で、子どもに何か話している様子。優しい目、完璧な美貌。
 絶対、主婦層の集客ねらってるよなこの写真。こんなイケメン、生で見てみたいよな……

(あー、講演する慶。おれも見たかったなー)

 でも、以前、見に行きたいと言ったら、却下されたのだ。恥ずかしいらしい。

(やっぱり、こっそり見に行こうかな……)

 チラシをみる限り、特に入場するにあたり制限はない。近所の人を装っていけば、たぶん問題は……

「あ、ちょうどよかった。そのチラシ、ちょっと見せてくれ」

 資料を持って、作業場とダイニングテーブルを行き来していた慶が、通り道のリビングのソファに座っているおれの肩口から、ひょいと顔を出した。

「おれ、午後一に来いって言われてんだけど、このイベント自体、何時からやってんだっけ?」
「ああ、えとね、10時だったかな……」

 言いながら、開催日時のところを、画面を大きくして見せる。

と、同時に、

「あああああ!!」
「え!?」

 いきなり耳元で叫ばれた。

「え、なに?どうし……」
「うわ、そうだよ……4日だよ……一週間くらい前までは覚えてたのに……」

 慶が、「あー…」といいながら額を押さえている。

 これは……

「……思い出したんだ?」

 開催日時の11月4日、という字を見て、11月3日が前日であることを思い出した、とみた。

「…………悪い」

 慶は、しょぼん、としている。可愛い可哀想な感じに、申し訳ない気持ちとちょっと嬉しい気持ちが入り混じる。

「別にいいよ」
「別にって……」
「記念日気にしない慶に覚えててもらうの申し訳ない気もしてたし」
「そんなこと……、約束してたのに……」

 うなだれた慶。そう思ってくれてるだけで充分だ。

「それじゃあさ」

 その白い頬にそっと触れる。

「明日、見に行ってもいい?」
「え」

 きょとんとした慶に、にっこりと言ってみる。

「それでチャラってことで」
「あー……」

 慶は、あーーーーと長く言った後、「分かった」と渋々うなずいた。

 そして、渋々、な感じにボソリと付けたした。

「……愛してるよ」

 …………。

 …………。

 …………。

 なんか、渋々過ぎて、全然嬉しくないんですけど………。



 でも、そんな不満は翌日に全部吹っ飛んだ。

 講演会の慶が素晴らしくかっこよかったのはもちろんなのだけども、それよりも何よりも、

「私のパートナーです」

と、おれのことを主催者の人たちに紹介してくれたのだ!

(パートナー、だって!)

 その呼び名にグッときてしまった。「彼氏」や「恋人」ももちろん嬉しかったけれど、「パートナー」って、なんか公的な感じがして、良い。

「渋谷先生、馴れ初めとか教えてよー!」
「いや、藤木さん、もう勘弁してくださいよ……」

 主催の女性に盛大にからかわれて、顔を赤くしている慶を見ながら、

(11月4日は「パートナー記念日」だ)

と、心のメモ帳に書き加えたことは、まだ内緒にしておこう。




---

お読みくださりありがとうございました!
月日がたつのが早すぎる!前回の更新から2ヶ月たってることに先ほど気が付きました……。

ということで、記念日一日増えちゃった♥のお話になりました。
本当は、「愛してるってこの日に言うことを強制しないことにする」って話のはずだったのに、記念日増えててビックリだよ……。さすがアニバーサリー男……。

ということで…
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「風のゆくえには」シリーズ目次1(1989年~2014年) → こちら
「風のゆくえには」シリーズ目次2(2015年~) → こちら
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