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BL小説・風のゆくえには~平成の終わりに

2019年04月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【慶視点】


 浩介は『記念日』が大好きだ。

 おれはトンと興味がないので、ほとんど覚えていないけど、浩介はとにかく色々な『記念日』を設定?しているらしい。

 良く覚えているから、何かに書いてるのか?と聞いてみたら、答えは『否』だった。恐ろしい記憶力だ……

 しかし。その超人的記憶力を持ってしても、どうしても分からない日があるそうだ。

 それは『初めて出会った日』記念日。

 おれ達は、小学校3年生の時に一度だけ一緒に遊んだことがあるらしい。おれの幼児教室かなんかで一緒だった友達が引っ越しするとかで、浩介の最寄駅近くにあったその友達の家にいった際、バスケをして遊んでいたところ、偶然通りかかった浩介を、おれが仲間に誘った、らしい。

 おれのわずかな記憶と、浩介の記憶と、当時高校生だった姉の記憶が一致しているので、本当のことだと思われる。


「やっぱり、その時の写真なんてないねえ…」

 うちの実家でおれのアルバムを引っ張り出して、おれの小学校時代の写真をくまなく見ていた浩介が、心底ガッカリしたように言うから、なんだか気の毒になってきた……。前にも同じことで写真を探したことがあるけれど、諦めきれず、また探していたらしい。

「あーあ。平成が終わる前に昭和のこと知りたかったのに……」
「なんだそりゃ」

 意味が分からない。

「前にお母さんと椿さんにも聞いたんだけど、覚えてないって言われたんだよね……」
「南は?南には聞いてないのか?」

 意外だ。浩介と妹の南は仲が良いのに。
 すると、浩介は「んー」と唸ってから、

「あの時、椿さん以外に女の子はいなかったんだよ。だから、もしかしたら、南ちゃん、入院とかしてて来られなかったのなら、この話するの悪いかなって思って、昔からずっと聞けずにいて……」
「あー……」

 南は小さい頃は体が弱くて、入退院を繰り返していたのだ。でもそれも昔の話だ。

「もうすぐ南達も来るし、聞くだけ聞いてみようぜ」

 せっかくのゴールデンウィークなので、実家にみんなで集まることになったのだ。

「でも……」
「あいつ全然気にしてねえよ。お前の気の遣いすぎだ」
「でも……」

 浩介は相変わらず『きーつかいー』だ。おれの家族にまでそんな気を遣わなくていいのに……

「南様のことだから、何か知ってるかもしんねーぞ」
「うん…………」

 心配気な浩介の頭をヨシヨシと撫でてやる。

 おれが浩介の頭を初めて撫でたのは、高校一年生、平成の始めの頃のことだ。そうして一緒に過ごした平成が終わりを告げようとしている。


***


「何それ!運命的に小さい頃出会ってた、なんて美味しい話、なんで今まで教えてくれなかったの!?」

と、いうのが、南の第一声だった。そしていつもながらの切り替えの早さで、母を振り返った。

「お母さん、それ、ユリエちゃんちのこと?」
「ああ、そうそう」

 みんなの分のお茶を入れてくれながら、母が適当な感じにうなずいた。

「慶と同じ歳だったのがケンゴ君で、妹のユリエちゃんは3つ下だったかしら? 南といつも遊んでたわよね」
「うん。確かその日に撮った写真、あったよね」

 あっさりと言った南に、浩介が「えええええ!?」と物凄い勢いで食いついた。

「その写真、見せて!」


 と、いうことで、南が元南の部屋からアルバムを持ってきた。

「んーと、これ」

 指さされたのは、子供達がご飯を食べている様子の写真。南とユリエちゃんはカメラ目線だけれども、おれとケンゴは食べるのに夢中でカメラなんか向いてない。だから、おれのアルバムには貼ってなかったんだ……。

 でもあいにく、日付は入っていないので、日にちまでは分からない。

「みんな半袖ってことは夏だね……」
「そうそう、夏休み入ってすぐに引っ越したのよ」
「これ、昼ご飯だよな?ってことは、土曜日かなあ? 浩介、学校の帰りだったんだろ?」
「うん……」

 浩介は、小学校と中学校は都内の私立校に通っていたのだ。

「でも、一緒にバスケしたの、夕方近くだったよね……。おれ、昼も食べないで夕方までウロウロしてたのかなあ?」
「それは変だな……」
「あ、お兄ちゃん、この後ろ、見て。たぶん人生ゲーム。これやり途中っぽくない?お金散らばってるし」

 南、やっぱり目のつけどころが違う。

「土曜日、学校が終わってから行ったとしたら、到着は1時は確実に過ぎてるよね? なのに、お昼食べる前にゲーム始めるかなあ」
「確かに……」

 そう考えると、学校が休みだったと考えるのが自然だ。

「あ、分かった!慶達の学校の創立記念日だったとか!?」

 パチン!と手を叩いた浩介。でも、「それはないわね」とアッサリ母が手を振った。

「慶達とケンゴ君、学校違うから。ケンゴ君はそっちの学区の小学校」
「あーそうか……」

 ガッカリ、と浩介が肩をおとす。
 南がふと気がついたように、姉を振り返った。

「そいえば、お姉ちゃん写ってないけど、お姉ちゃんもいたんだよね?」

 椿姉は、「んー……」と首をかしげると、

「全然覚えてないけど……お昼は食べてないのかもしれないわね。この場にいたら写真一緒に写るでしょ」
「いえてる」
「そうだとしたら、私も学校の帰りに寄った可能性が高くない?」
「あ、じゃあ、夏休み入りたてとか?」

 ポン、と手を打った南。

「高校とか私立の小学校は、ここいらの小学校より夏休みの始まりが遅かったとか」
「なるほど」
「ううん! 違う違う!」

 ジーっと写真を見ていた南の娘の西子ちゃんが、トントントン、と写真の端の方を叩いた。

「これ。このカレンダー、下半分しか写ってないけど、6月だよ。30日までしかない」
「おおお~」

 大人たちみんなで拍手してしまう。さすが若い。こんな小さな文字に目がいくとは!

「と、いうことは。情報をまとめると……」

 西子ちゃんが、ピッと人差し指を立てた。

「お母さんと慶兄の小学校とケンゴ君の小学校は、お休み。浩兄の小学校と椿姉の高校は普通に学校があった」
「うん」
「そして、これは、6月」
「うん」
「ってことは」

 ニッと笑った西子ちゃん。

「あ」
「あ」

 つられたように、南と椿姉が一緒に「あ」と叫んだ。

「そしたら、あの日しかないじゃん」
「だよね」
「そうね」

 え、え、え?

 知った風の3人に「何?何?何?」と食いつくと、その横で母が呑気に「あー分かった」とうなずいた。

「横浜開港記念日ってことね?」




【浩介視点】

 
 横浜開港記念日である6月2日は、横浜市立の小学校中学校は休みになる、らしい。

 らしい、というのは、おれは小学校中学校ともに都内の私立校に通っていたので、体験していないのだ。高校は、神奈川県立だったので、休みにはならなかった。

 なんだか悔しいなあと、昔から思っていた。そういう体験を、おれはみんなと共有できていない……

 成人式でも、慶や高校の同級生の溝部達は普通に「横浜市歌」を歌っていて、物凄い疎外感を覚えたのだ。慶達の話によると、小学校や中学校では、校歌みたいに「横浜市歌」も歌っていたそうだ。子供の頃に覚えた歌というのは不思議なもので大人になっても覚えているので、たぶん慶は今でも歌えるだろう。

 そんな悔しい思い出の象徴のような、横浜開港記念日。それが実はおれ達のはじまりの日だったなんて!

 現金なもので、今は「開港記念日ありがとう!」と叫びだしたいくらいだ。


「分かって良かったな?」
「うん!」

 家に帰ってきて、ソファでコーヒーを飲みながら、慶にピッタリとくっつく。昨日の慶の誕生日に購入した最新式のコーヒーメーカーで淹れたコーヒーは、やっぱり今までと一味違う。

「これで昭和の記念日も分かって、ホント嬉しい!」
「……って、お前、いったいいくつ記念日あるんだよ」
「知りたい知りたい?!」
「…………」

 苦笑した慶。全然興味ない感じ。でも、せっかくだから!

「じゃ、はじめから言ってくね!」
「……どうぞ」

 促してくれた手をぎゅっと掴んで、その愛しい瞳をのぞきこむ。

「まず。初めて出会って、バスケを一緒にした日! 昭和58年6月2日。小学校3年生」
「うん」
「それから、中学3年生。おれがバスケの試合してる慶を見た日。平成元年7月2日」
「あ、そうか。平成元年、だな」
「うん」

 そう。おれが『渋谷慶』という心の支えを得た日。あの日がなければおれは今ここにはいない。それが平成のはじまりだった。その平成ももう終わる……

「それから、高校1年生。慶が自主練してるおれを見たのが、平成2年4月26日。初めて話をしたのは、5月10日」
「……懐かしい」
「うん」

 あの時、高校の体育館の入り口に佇んでいる慶を見て、どれだけ驚いたことか。あの時、初めて触れた手が、今、おれの手の中にあることがどれだけ幸せなことか。

「それから、11月2日。慶が初めておれのこと名前で呼んでくれた日」
「え、そうなのか?」

 へえ~と言った慶。
 実はこの日は『慶がおれを好きだと気がついた日』でもある。慶が以前、話してくれたのだ。でもどうせ覚えてないだろうから、言わない。おれだけの秘密だ。

「それから、11月8日が、おれが慶を初めてちゃんと名前で呼んだ日」
「へ~~~」
「それに、慶がおれのこと『親友』だって言ってくれた」
「へ~~~」

 お前、ホント覚えててすげえな、と慶がいう。
 慶にとっては何でもないことかもしれないけれど、おれにとっては大事件だったんだよ?

 大事件はまだ色々あるけど、少し省いて……大大大事件。

「高校2年生。平成3年11月3日」
「あ、それは分かる。初めてキスした日、だろ?」
「当たり!」

 チュッとキスをすると、慶が柔らかく笑ってくれた。
 文化祭の最終日、後夜祭のキャンプファイヤーを見ながら重ねた唇……今も少しも変わらず愛おしい感触。

「それで、12月23日」
「付き合いはじめ記念日、な?」
「うん」

 もう一度、キスをする。クリスマスツリーの下。勇気を出して告白をした。あの時よりも、もっと、深く、あなたを愛している……

「それから……平成4年2月23日」
「2月23日?なんだそれ?」

 案の定、きょとんとした慶に、わざとにっこりと言ってあげる。

「覚えてない? 高校2年生の時、慶の部屋で初めてお互いの……」
「わー!やめろっ」

 バッと赤面した慶。いくつになっても照れ屋で可愛い。ついつい揶揄いたくなってしまう。

「お前、そんなの記念日認定するなよっ」
「えーいいじゃん。ちなみに2回目は翌年おれの部屋で……」
「もういい!」
「本番はホテルで4月……」
「だからもういいって!」
「わっ」

 どんっと肩を押されて、ソファに倒れる。のしかかってきた慶が怒ったように言ってきた。

「お前、どんだけ記憶力いいんだよっ」
「……慶との思い出はどれだけでも覚えられるんだよ」
「じゃあ……」

 すっとその綺麗な瞳が近づいてくる。

「次の令和も、意味わかんねえ記念日いっぱい作れ」
「うん」
「とりあえず、明日の平成最後の日は……」
「朝からずっとイチャイチャしてたい♥」
「……あほか」

 呆れたように慶は言うと、優しい優しいキスをくれた。

 昭和でほんの数時間だけ会って。
 平成の30年の間は、離れ離れの3年以外は一緒にいて。
 これから始まる令和では、離れ離れの時間なんて絶対に作らない。ずっとずっと一緒にいる。

「大好きだよ、慶」

 心を込めていうと、慶は蕩けるような優しい瞳で「おれもだよ」と言ってくれた。




------------

お読みくださりありがとうございました。
ものすごい日常話。お付き合いくださり本当にありがとうございます。
ようやく書けた小3の話。

平成最後の今日。二人は予定通り朝からイチャイチャしてます♥明日と明後日、慶は仕事なので、今日のうちに堪能しておかないと!

次回金曜日お休みして、連休明けからスタートしたいなあと思っております。
皆様素敵なゴールデンウィークをお過ごしください。

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BL小説・風のゆくえには~続・2つの円の位置関係 目次・登場人物・あらすじ

2019年04月23日 08時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続・2つの円の位置関係

(2019年3月8日に書いた記事ですが、カテゴリーで「続・2つの円の位置関係」のはじめに表示させるために2019年4月23日に投稿日を操作しました)


目次↓

1(西本ななえ視点)
2(享吾視点)
3(享吾視点)
4(享吾視点)
5(享吾視点)
6(享吾視点)
7(哲成視点)(→2と対)
8(哲成視点)(→3・4と対)
9(哲成視点)(→5の途中までと対)
10(哲成視点)(→5の途中までと対)
11(哲成視点)(→5の後半と対)
12(哲成視点)(→6と対)
13(享吾視点)・完


人物紹介↓


主人公1・村上享吾(むらかみきょうご)

大学2年。身長178cm。
容姿端麗。基本的に無表情で淡々としているけれど、村上哲成の前でだけは素が出る。
現在、1人暮らし中。


主人公2・村上哲成(むらかみてつなり)

大学2年。身長159cm。
ひたすら明るいお調子者。色白、眼鏡。
現在、父親と父親の後妻とその間に生まれた子供との4人暮らし。


西本ななえ(にしもとななえ)
大学2年。身長160cm。
亨吾と哲成の中学の同級生。哲成に中学3年間片想いをしていた。

森元真奈(もりもとまな)
大学2年。身長145cm。
哲成の彼女。母親が某化粧品メーカーの社長。

笹井歌子(ささいうたこ)
大学3年。身長168cm。
亨吾のバイト先の先輩。


荻野夏希(おぎのなつき)
短大2年。身長158cm。元バスケ部。
サバサバ系女子。少々強引でおせっかい。

渋谷慶(しぶやけい)
大学1年(←浪人したんです)。身長164cm。
中性的で美しい容姿に反して性格は男らしい。
哲成とは小・中・高と同じ。
『風のゆくえには』本編主人公。




あらすじ

中学卒業から4年。同窓会に、村上哲成が彼女を連れて出席したため、西本ななえは村上享吾を取っつかまえて「どういうこと?!」とにじり寄る。

享吾がポツポツと話し出した、中学卒業後の彼らの物語。

この選択は正しかったのか?二人が出した結論とは……


----

お読みくださりありがとうございました!

『2つの円の位置関係』は、私が高校生の時に書いた物語のリメイクでした。
今回はその続編。1994年6月(19歳の時)に書いた物語を元に書き進めてまいります。

引き続き、何も特別な大事件も起こらない、平平凡凡な物語ですが、「友達の友達の友達の話」くらいのノリでお付き合いいただけたら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには~続・2つの円の位置関係13・完

2019年04月23日 07時20分23秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続・2つの円の位置関係

☆今回ほんの少しだけ具体的性描写があります。苦手な方・年齢に達していない方、ご注意いただきたく……




【享吾視点】




『好きだよ、キョウ』

 そんな言葉を聞けるなんて……

『愛してるよ……哲成』

 そんな言葉を言えるなんて……

 夢のようだ。いや、夢なのかもしれない。
 夢なら覚めないでくれ……と思いながら、哲成の頬に、耳朶に、首筋に、唇を落とし、シャツを捲りあげて、その白い素肌に……

 と、思ったのに。

「ちょ、ちょっと待った!ちょっと待った!」
「…………なんだ」

 今さらの慌てたような声に、一応手を止めてやる。
 哲成は真っ赤な顔でこちらを見返してきた。

「お前、何するつもりだ!?」
「何って……」

 何を今さら……

「何って何に決まってるだろ」
「だからその何って何?!」
「…………」
「…………」

 これは……

「もしかして……知らない、のか?」
「知らないっていうか知ってるっていうか、いや、知らない?え?知らないって何?!」

 哲成がアワアワと言葉の羅列をし続ける。 

「だって普通に考えて凹凸の凸だけなんだからゴール見えないだろ!何したら何なんだ?っていうか、何って何?!ってずっと疑問だったんだけど、なんでお前そんな普通にこと進めようとしてんだよ?!ってか、『欲しい』って何!?」
「…………」

 知らないのに煽ってたのかよ……と文句を言いそうになったけれど、知らないのはしょうがないか、とも思った。
 オレも知ったのは、大学に入ってからだ。お客さんで、男性だけどオレのことを狙っている人がいる、とかで、その話の流れで、歌子から男性同士の性交渉の方法を聞いたのだ。そうでもなければ、今も知らなかっただろう。

 聞いた時には、かなりの衝撃だった。納得してそれを妄想に取り込むまでに少し時間がかかったのも事実だ。そう考えると、おそらく、哲成に今説明しても、今すぐ「やってみよう」とは思ってもらえないだろうな……

 というか、オレの中では勝手にこっちがタチだと決めつけてるけど、それを哲成が許してくれるのか……

 だったら……

「じゃあ逆に聞くけど……お前、今、何したい?」
「え!?」

 赤い顔がさらに赤くなった哲成。……可愛い。

「えーと……あのー……」
「うん」

 チュッと音をたてて、首筋や鎖骨にキスをする。と、「わー考えがまとまらないからやめろっ」と言って、頭を羽交い絞めにしてきた。だから可愛すぎるって……

 おとなしく羽交い締めにされたまま待っていると、哲成は小さな声で恥ずかしそうに、言った。

「あのな……去年の夏にさ、プールに行った時、シャワー室の前でオレが転んだの、お前が助けてくれたこと、あったじゃん?覚えてる?」
「ああ……」

 あれはヤバかった。素肌の触れ合いが気持ち良すぎて、速攻で勃ってしまって、慌ててシャワーの冷たい水で落ちつかせたんだった……

「覚えてるけど、それが?」
「あれがいい」
「あれ?」
「うん」

 羽交い締めの腕を解いた哲成の手が、オレのシャツのボタンを外していく。

「ピタッて、ギュウウッて、くっつきたい」
「哲成……」

 やっぱり、煽ってる……

 我慢できずに、その白い額に唇を寄せながら、オレも哲成のシャツに手をかける。

 お互い上半身のシャツを脱がせあい、ピッタリと体をくっつける。温かい。鼓動が直接伝わってくる。愛しさが伝わってくる……

「……d<r-r’ 」

 突然、呪文のように哲成が言った。
 2つの円の位置関係の式だ。dは二つの円の中心間の距離で、rは半径を表している。rの差よりもdが小さいといことは、一つの円が一つの円にすっぽりと包まれている状態ということだ。

「それ、卒業式の時も言ってたな」
「うん。……こうしてくっついてると、いつもよりもさらに、丸く丸く包まれてる感じがする」
「……………」
「ピアノ聴いてる時もそう思うんだけど」
「……そうか」

 このまま溶け合えたらいいのに。涙が出るほど愛しいぬくもり……

「d=r+r’ ……」

 2つの円が雪だるまのようになる式。優しいキス。

「それから……」

 驚かせないよう、ゆっくりと、ベルトに手をかける。と、哲成もオレのベルトを外し始めた。

「パンパンなんだけど」

 苦笑しながら言った哲成の唇に、唇を合わせる。

「オレも」
「だな」

 ズボンを引きおろす。ようやく全部脱げた。何も纏っていない状態で、寝そべったまま、足と足を絡ませる。自分も当然そうだけれども、哲成のものも、しっかりとした固さでオレの足に当たっていて……。妄想の中の哲成のものよりも、少し小さめ。手の平にちょうどよく収まりそうだ。こんなところまで可愛い。

「哲成……」
「え、あ、わっ」

 そっと哲成のものを握ると、哲成が戸惑ったように腰を引こうとした。それをなだめるように、ゆっくりと扱き始める。

「わ……っ、か、かなり恥ずかしいんだけど……っ」
「そうか?」
「ん……んん」

 うなずきながら、哲成も遠慮がちにオレのものに触れてきた。温かい、手。

(うわ……っ)

 絶対にありえないと思っていた妄想が、現実化することに、くらくらしてしまう。
 でも……

(『最初で最後』……)

 哲成に言われた言葉を思い出してギクリとなる。
 最初で最後……最後の交わり。

「哲成……」
「え……、うわ、それ……っ」

 哲成のものと自分のものをくっつけて、一緒に持つ。合わさった部分から伝ってくる熱……粘膜同士の触れ合いに鼓動がますます速くなる。

「キョウ……っ、なんか熱い……っ」
「d=r-r’……ってとこか?」

 想像以上の気持ち良さだ。本能的に腰を動かしたくなる。

「ああ、なるほど……円が内接してるって……んん」

 ゆっくりと手を動かしはじめる。歯をくいしばって、声を出さないようにしている哲成が可愛すぎる。

「キョウ……ッ」
「ん……」

 唇を重ねる。舌を絡ませる。唇と唇、猛りと猛り。混ざりあって、一つになる。

「キョウ……気持ちい……」
「うん」
「キョウ……好き」
「うん」

 キスの合間に、哲成がうわごとのように言う。合わさった二つのものもクチャクチャといやらしい音をたてている。自分の手と哲成の手と重なっている熱と、すべてが一つになっているみたいだ。

「哲成……」
「ん」
「哲成……」
「うん」
「………愛してる」
「………ん」

 愛してるよ。

 哲成の蕩けるような瞳。愛しくて愛しくて溢れていく……


 こうして、ずっとグチャグチャになるまでくっついて、達してもまた、すぐに再開して、「好き」「愛してる」と数えきれないほど言い合って、このまま溶け合うんじゃないかっていうくらいくっついて……


 ふっと目が覚めた。いつの間に眠っていたらしい。窓の外が明るい。朝か……

「……哲成?」

 隣にいたはずの哲成がいない……カバンもない。

「帰った……のか」

 スッと心臓が冷える。これでもう会えなくなるのか……?
 いや、違う。これからも会えるための、最後の夜……だったんだよな?

「………そう、だよな?」

 そう思いながらも、心臓のドキドキという音が静かな部屋の中に響いてくる気がしてきた。苦しいくらいだ。……と。

 起き上がってみて、テーブルの上の折りたたまれたレポート用紙に気が付いた。書き置き……?

(こんなの初めてだな……)

 緊張しながら開いてみて……

「ああ……」

 思わず笑いと、涙が、出てきてしまった。
 マジックで書かれた数式。

「d=r-r’=0」

 半径rの差が0ということは……2つの円は合同ということだ。

「哲成……」

 そうだな。オレ達の円はぴったりと重なりあってるよな。これからもずっと……

 紙を抱きしめて、深い深い思いに浸っていたところ、ふいに、ガチャガチャッと鍵の開く音がした。ガサガサとビニール袋の音と共にドアが開き……

「……哲成」
「おー起きたかー?」

 哲成がいつもと変わらない笑顔を見せてきた。

「何も食うもんねえからパンとか買ってきたー」
「……ありがとう」

 さっさと目の前に朝食が並べられていく。

「ほら、んな格好でウロウロすんな。さっさと着替えろ」
「ああ……うん」
「お前、あいかわらず朝飯食わねえのか? そんなんじゃ大きくなれねえぞ」
「……もう20なんだから、大きくならないだろ」
「オレはまだ十代だからな!まだ伸びるからな!」

 ニカッと笑った哲成。いつもの、哲成……

「今日、バイト?」
「うん。お前は?」
「オレもー。ほら、こないだ言ってた、研究所のさ……」

 いつもの、朝……

 一緒にいられる幸せ……

 これを得るために、オレ達は最後の夜を過ごしたんだ。



***


 そして、半年の月日が流れ……


「今日はカクテル? 初めてじゃない?」
「ああ」

 オレのアルバイト先のレストラン。
 哲成のテーブルのオーダーのグラスをみた歌子が、目ざとく気がついて聞いてきたので、コクリと肯く。

「あいつ、今日誕生日」
「なるほど。ハタチね」
 
 白いカクテルが運ばれて行くのを目で追う。差し出され、「わあ」と頬を緩ませた哲成の姿が目に入り、キュッと胸がつかまれたようになる。

「あれ、ムーングロー?」
「あたり」
 そう。哲成の初めてのアルコールは「ムーングロー」…月光、と前から決めていた。

「なるほど」
 再び「なるほど」と肯いた歌子。歌子は1言えば10わかってくれるので、話していて楽だ。

「時間」
「ああ」

 歌子に促され、楽譜一式を持って、ピアノに向かう。
 弾きはじめる前に、哲成と一瞬だけ目を合わせる。愛おしい気持ちを手の平に包み込んで、鍵盤に手を乗せる。そして弾きはじめる、哲成の大好きなドビュッシーの月の光……
 哲成のうちのピアノで、高校の音楽室のピアノで、二人でくっついて座りながら奏でた音を思い出す。

『丸く丸く包み込まれてる感じがする』

 愛しい声が頭の中で繰り返される。
 あの日の温もりがよみがえってくる。

『d=r-r’=0』
 
 オレ達はもう、あの日みたい触れることはないけれど……こうして気持ちは重なっている。

 一生一緒にいるために選んだ、一つの丸い円。




<完>





------------


最終回までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

……って、え?!これで本当に終わりなの?!

と、自分で自分にツッコミたくなる終わり方……

でも、私が19歳の時(1994年6月)にノートに書いたお話を元にリメイクしながら書いているので、結末の変更はできず…。19歳の私、何があった?!

この数年後にも、読み切りで、亨吾と歌子と哲成と真奈の四人で、真奈のうちの別荘に行く話を書いてるんですけど、そこでも二人の関係は変わらず、でした。

それから20年以上経った今、この物語をあらためて「書こう!」と思ったのは、この結末がずっと引っかかっていたからなのでした。
だって、本編主人公の慶と浩介は、今やクラスメートにまでカミングアウトして幸せに暮らしているというのに、同じ学校出身の享吾と哲成がこのままなのは、ちょっと、ねえ……

あ、あと、19歳の乙女の私は、前回の「そして……」のあと、

(改行)
(改行)
翌朝、書き置き発見。

だったもので、改行の中身を書きたかった、っていうのもあったりして。超自己満足。

ということで。次回金曜日はお休みをいただきまして。
4月30日(火)平成最後の日!に、慶と浩介の短い現在話をあげて。
「続・2つの円の位置関係」の続きを、5月の連休明けくらいからスタートさせたいなあ(希望)。

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BL小説・風のゆくえには~続・2つの円の位置関係12

2019年04月19日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続・2つの円の位置関係

【哲成視点】


「もう終電間にあわないから、今日は泊まる」

 アパートの前で待ち伏せをして、帰ってきた亨吾に、内心ドキドキしながら言うと、享吾はアッサリと何でもないように「分かった」とうなずいた。
 でも、ほんの少し、瞳が動揺したように揺れたのを、オレは見逃さない。
 でも、買ってきたチーズケーキとエクレアを包丁で半分こしていたら、アップルティーをいれてくれたのは、いつも通り。こうして享吾は「いつも通り」をオレにくれる。

(やっぱり、居心地がいい……)

 やっぱりこのままうやむやにして、ふわふわの優しい時間に包まれていたい……といつものように思ってしまったけれど……

『テツ君、なんで勝手に結論出してんの? それは亨吾君と話し合って決める話じゃないの?!』

 説教してきた西本の言葉が頭の中によみがえってきて、プルプルと首を振った。西本の言うことは正しい。オレは亨吾とちゃんと向き合うべきだ。

 森元真奈と付き合うことにしてから、過度なスキンシップをなくして、『友達以上恋人未満』から『友達』にシフトした。『友達』でいいから一緒にいられればいい。そういう信念で、自分の気持ちを言わないと決めた。
 でも、それでも、亨吾の視線が、ピアノの音色が、オレを包んでくれる度に、気持ちが溢れて叫びだしたくなる。その度に自制してきた。自制してきた、けど……


 ケーキを食べ終わったところで、意を決して切り出した。

「オレな、西本ななえに聞かれた」
「何を?」
「うん……」

 何から言おうか、迷いながら、話す。

「恋愛とか……分かるようになったのかって。真奈のこと、本当に好きなのかって」
「…………」

 亨吾は少し眉を寄せて、「で?」と、アップルティーを飲み干してから言った。

「お前は何て?」
「うん」

 亨吾の整った顔を真正面から見返す。 

「そんなのは分かってるって。もう中学生じゃないんだからって、答えた」
「…………」
「…………」
「…………」

 え? と思った。

 亨吾が、スッと視線をそらして、立ち上がってしまったのだ。

「お茶入れ直すけど、何がいい?」
「あー……うん」

 オレが返事をするよりも前に、亨吾はさっさと食器を持ってシンクへ行って、皿を洗いはじめてしまった。

(この話、したくないって感じかな……)

 決意が揺らぎそうになる。享吾も享吾でこのままうやむやにしたい感じなのかな……。けれど、でも、やっぱり、言わないと……

 気持ちを奮い起こして、亨吾に一歩一歩、と近づく。

「…………キョウ」
「…………なんだ」

 声をかけても、亨吾は振り向いてくれない。無表情に皿を洗い続けている。

(キョウ……、どう思ってる?)

 この半年、前みたいにはオレに触れなくなったけど……もう、触れたいとは思ってないのか?

(キョウ…………)

 でも、オレは……オレは。

「なあ…………キョウ」
「だから、なんだ」
「あの……」

 こちらを向いてくれない亨吾。

 話したくないのかもしれない。
 でもオレは、今、お前に触れたい。

(キョウ)

 衝動のまま、背中からぎゅっと抱きつくと、亨吾がビクッと震えた。久しぶりのここまでのぬくもり。愛しさが溢れてくる……

「哲…?」
「今だけ」

 声が、震える。

「今だけ、本当のこと言わせて」
「え」
「で、朝には忘れてくれ」
「何を……」

 振り向いた亨吾に、そっとキスをする。

「哲成……?」
「好きだよ」

 真っ直ぐに見つめる。

「オレ、キョウのことが、好き」

 出しっぱなしの水の音の中に声が混じる。

「ずっと、ずっと言いたかった」
「哲……」
「好きだよ」

 愛しい愛しい大好きな享吾。でも…… 

「でも…………」

 手を伸ばして水道を止める。途端に部屋がシーンとなった。静まり返った部屋の中に、自分の声が響き渡る。

「最初で最後。一生一緒にいるために、もう言わない」

 この結論は変えられない。



***




 長い長い沈黙の後……
 亨吾はようやく、言葉を絞り出すように言った。

「何を……言ってる?」
「…………」
「哲成……お前、何を……」
「キョウ」

 その頬を囲って、もう一度キスをする。

「好きだよ」

 ずっとずっと言いたかった言葉。ずっとずっとしたかったこと。

「哲……」
「好き」

 腰に手を回して、ぎゅっと抱きつく。肩に額をグリグリ押し付ける。

「好きだよ」
「…………」
「…………」
「…………」

 ………。

 ………。

 亨吾があまりにも固まっているので不安になってきた。

 まさか嫌とかじゃねえよな……?

「あの……キョウ?」

 固まっている亨吾の頬を軽く叩いて問いかける。

「もしかして、嫌、なのか?」
「え?」
「今さら告白されても迷惑、とか……」
「告白……」

 戸惑ったように目をみはった亨吾。

「告白って、どういう意味……」
「は?」

 今度はこちらが「は?」という番だ。オレのせっかくの告白を………

「お前、オレの話聞いてた?」
「え」
「だから、お前のことが好きだって……」
「え」
「だーかーらー!」

 なんか面倒くせえなあ!

「お前何なんだよ!?さっきから!」
「え……、え?」
「もう、『え』っていうの禁止!」
「ちょ、哲……っ」

 腕をつかんで引っ張ると、よろよろとついてきた。力も抜けてるらしい。だから一気に引っ張って、ベッドに投げ飛ばしてやる。

「キョウ」
「…………」
「…………」
「…………」

 馬乗りになって、両手を亨吾の顔の横につける。そして、もう一度、そっと口づける。

「好きだよ。キョウ」
「…………哲成」

 亨吾の手がおずおずと背中に回ってきて、引き寄せられた。亨吾の上に乗っかったまま、抱きしめられる。

「哲成」
「ん」
「哲成」
「うん」
「哲成……」

 耳元で聞こえる亨吾の声に熱がこもっている。くっついたまま、体勢を横にして、おでことおでこをごっちんとした。享吾の瞳にはまだ戸惑いの色が浮かんでいる。普段は冷静沈着でクールな奴なのに、今は頼りない子供のようだ。愛しくて愛しくて、ついばむようなキスを繰り返してやると、今度は泣きそうな顔になってきた。

「キョウ?」
「……信じられない」

 ポツリ、と言った享吾。

「信じられない。お前が……」
「好きだよ」

 ちゅーっと音を立ててあごに口づけると、享吾はようやく少し笑って、ぎゅっと抱きしめてきた。

「信じた?」
「………いつからだ?」
「いつから……」

 うーん、と唸ってしまう。

「自覚したのは、去年の夏の終わりくらいかなあ」
「夏?!」

 ぎょっとしたように享吾が叫んだ。

「そんな前から……って、あれ? でも森元真奈……」
「ああ、うん」

 それは当然の疑問だよな。そこから話さないといけない。

「真奈は真奈で事情があって『彼氏』がほしくて。オレはオレで家のこととかお前のこととかがあって、『彼女』がほしくて。利害一致の上での契約みたいなもんなんだよ」
「契約……」
「とはいえ、真奈のことも別に好きだけどな。かわいいし面白いし、あれで完全理系女だから話も合うし」
「…………」
「…………」
「…………」

 あ、余計なこと言った、オレ。告白してる最中なのに、他の女のこと話してどうすんだ。と、反省したけれど、享吾はジッと固まったまま、他のことに食いついてきた。

「オレのこととかがあって彼女がほしいってどういう意味だ?」
「あー……」
「そもそも、なんで自覚したのに言ってくれなかったんだ?」
「あー……」
「最初で最後、ともさっき言ったよな? 一生一緒にいるためにもう言わないって」
「あー……」
「どういう意味だ?」
「あー……」

 さすが享吾。戸惑ってばかりの様子だったのに、ちゃんと聞いてたのか……

「あのさ……」

 身を起こしてベッドに腰かけると、亨吾も横に並んで座ってくれた。何だか、中3の卒業式の日のことを思い出す……

「お前、中3の時、言ってくれたじゃん?」
「…………」
「オレと一緒にいたいって。無理に付き合ったりするより、一緒にいること優先したいって」
「…………まあ、そんなニュアンスのことを言ったな」
「うん」

 本当は「お前が欲しい」と言われたこともちゃんと覚えてるけど、恥ずかしいから言わない。

「で、今、オレも同じこと考えてる」
「同じこと?」

 訝しげにこちらを見下ろした亨吾の腿をポンポンと叩く。

「世間的に、男同士のオレ達が付き合うってのは無理がある」
「…………」
「無理して破綻して、一緒にいられなくなるのは嫌だ」
「それは……」

 何とかなるんじゃないか? と、亨吾は困ったように言った。

「別に誰にも言う必要ないわけだし、オレ達の中で納得できてれば……」
「誰にも言わない? 親にも?」
「え」

 キョトン、とした亨吾の腿をもう一度ポンポンとして、教えてやる。

「お前のお母さんは、お前が普通に結婚して孫が生まれることを望んでるぞ?」
「は!? 何言ってんだよ!」

 亨吾はビックリしたように叫んだ。

「母親の望みなんか関係ないっ。オレにはオレの……っ」
「関係なくねーよ」

 手をかざして、言葉を遮ってやる。

「関係なくない。オレはもう、オレのせいでお前がお母さんと会えなくなったりするのは嫌だ」
「そんなの……っ」
「そんな負い目を感じながら付き合っても、辛くなる」
「!」

 ハッとしたように目をみはった亨吾に、はっきりと、言い切る。

「辛くなって、一緒にいられなくなるくらいなら、今のままでいい」

 ジッと見上げる。

「今のままがいい」
「…………哲成」

 途方にくれた、という表情の亨吾に畳み掛ける。

「西本には、ちゃんと話し合えって説教されたんだけど」
「…………」
「オレの結論は変わらないから」
「…………」
「…………」

 耳が痛くなるほどの沈黙の後……
 亨吾はふうっと大きく息を吐いた。

「そうか……森元真奈と付き合い始めたのは、オレの親に会った後だったな」
「うん……」
「それで……このままうやむやにして、オレに諦めさせるつもりだったってことか」
「…………」
「…………」
「…………」

 そう。うやむやにするつもりだった。そのことも西本に怒られた。そんなうやむやは、亨吾が可哀想だと。それでは亨吾が前にも後ろにも進めない、と。

 だから、オレは……オレは。

「だから、今日だけ本当のこと言う」
「…………」
「オレはキョウのことが好き。だけど、一生一緒にいたいから、もう言わない」
「…………」
「…………」
「…………」

 亨吾は目を見開いたまま、オレを見返してきた。オレも絶対視線そらさない。そらさないでジっと見返してやる。……と、

「……そうか」
 根負けしたように、亨吾は息を吐き、「分かった」とうなずいた。

「うん……」

 愛しい気持ちが溢れだす。想いの渦にまきこまれそうだ。

 だから……どうしても確認したくて、亨吾の顔をのぞきこんだ。

「なあ…………お前は今、どう思ってるんだ?」
「何を?」
「オレのこと」
「え」

 は?という顔をした亨吾の肩を軽く指でつついてやる。

「考えてみたら、中3の時に好きって言ってくれて以来、一度も好きって言われてないんだけど」
「…………」
「オレのこと、どう思ってんの?」
「何を今さら……」

 苦笑した亨吾。でもちゃんと聞きたい。これで最後だから。

「なあ、どう思ってんの? 中3の時と変わらない?」
「………………。変わった」
「え!?」

 想定外の言葉に叫んでしまった。

 変わった!?ってもう好きじゃないってこと!?

「えええっ、うわ、そんな……っ」
「って、そうじゃなくて」
「え」

 すっと眼鏡を外された。ぼやけた視界に、亨吾の整った顔が近づいてくる。

「中3の時は我慢できたけど、今は無理」
「え……」
「お前が、欲しい」
「…………」

 真剣な瞳。胸が……痛い。

「今日だけ、本当のこと言っていいんだろ?」
「………………うん」

 小さくうなずくと、ぎゅっと抱きしめられた。
 そして、ため息まじりの亨吾の声が、耳に深く聞こえてきた。


「………愛してるよ、哲成」


 そして…………

 


------------

お読みくださりありがとうございました!
今回のお話は「続・2つの円の位置関係」の6(享吾視点) の哲成視点と、その続き、でした。

この物語は私が19歳の時にノートに書いたお話が元になっています。1994年6月のお話です。
現在だったら考え方も少し違ってたのかなあ……

次回最終回予定(←いつも終わる終わる詐欺なので「予定」としておく)

そして最終回後は少々お休みをいただこうと思っています。
でもその前に次回!よろしくお願いいたします。


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BL小説・風のゆくえには~続・2つの円の位置関係11

2019年04月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 続・2つの円の位置関係

【哲成視点】


 享吾のことが『好き』

 そんな単純なことに気がついたのは、大学一年の夏の終わりのことだった。

(今さら?)

 とも思った。今さら気がつくなんて遅すぎる。たぶん、もっとずっと前から『好き』だったのに、ずっと気が付くことができなかったのだ。

 実際、中学三年生の時に、享吾に告白された時も、『オレも好きなんだろうなあ』と思った記憶はある。享吾が西本ななえと仲良くしているのをムカムカしながら見ていた記憶もある。
 でも、これが『恋愛』の『好き』なのかと聞かれると、どうしても『よく分からない』という結論に至ってしまって………そうして何年も過ぎて、ようやくだ。ようやく、気が付いた。いや、気が付いた、というより、『自覚した』と言う方が正しいのかもしれない。

 その笑顔を、ぬくもりを、独り占めしたい。愛しくてたまらない。ずっと一緒にいたい。くっついていたい。誰にも触らせたくない。
 そこまで思うことを『好き』と言わなくて、何を『好き』というだろう。

 享吾のことが『好き』。友情なんか、とっくに超えてる。

(これ……享吾に伝えるべき、だよな)

 ……とも思ったけれど、結局、できなかった。

 亨吾がそれを望んでいるかどうかも分からない。伝えることで、今の心地の良い関係が壊れるのも怖い。

(だから、今のままでも……)

 そうグズグズと躊躇して、伝えられずにいた。
 でも、それで正解だったのだ、と、10月の2週目の土曜日の夜に、気がついた。


***

 10月の2週目の土曜日の夜……

「もしかして………村上君?」
「え、あ!」

 亨吾のアルバイト先のレストランから出てきた中年の夫婦に話しかけられて、驚きのあまり叫んでしまった。

「キョウのお母さん!」
「まあ嬉しい。覚えててくれたのね」

 ニッコリとした亨吾のお母さんは、中学の時に会った時よりも、ずっとずっと元気そうだった。少し太ったのかもしれない。

「享吾とまだ仲良くしてくれてるのね。ありがとう」
「いえいえ、そんな……っ。享吾君にはいつもお世話になってて……」

 言いながらも、心の中は「うわーうわー!」と大興奮だった。
 享吾からは、中3の終わりにお母さんが精神を病んで入院してからは、一切会っていないと聞いていたけれど、今、店から出てきたってことは、会えたってことだよな?!
 しかも、お母さんとっても元気そうだ。横にいる享吾のお父さんらしき人に、「中学三年生の時に同じクラスだった村上君。うちに遊びにきてくれたこともあるのよ」と嬉しそうにオレを紹介してくれている。享吾のお父さんも穏やかな笑みを浮かべていて……夫婦仲良さそうだ。

「あ、そうだ村上君!」

 お母さんがパチンと手を打った。

「村上君は知ってる? 歌子さんのこと」
「え、あ、はい」

 歌子さんとは、亨吾のバイト先の店長の娘さんで、亨吾と同じくこの店でピアニストをしている音大生だ。にこやかにお母さんは続けた。

「歌子さん、享吾とすごく仲良さそうだったの。もしかしてお付き合いしてるの?」
「え、いや」
「あの二人が結婚したら、すごい音楽的才能を持った子供がうまれてきそうって話してたのよ」
「あー、なるほど……」

 なんとも返答のしようがない……
 だって、享吾が『好き』なのはオレで……だから、歌子さんとどうこうなんて……

「でも、音楽の道で生きていくのは難しいから、享吾は普通の会社に勤めてもらわないとね」
「あー……」
「それで、歌子さんはピアノの先生になればいいのよ。今、私達が住んでる家の一階を改築してお教室にしたら、私が孫の面倒みてあげられるし……」
「気が早いよ」

 お父さんが苦笑して、お母さんの興奮したような言葉を止めた。

「まだ大学生なんだからそんな先のこと……」
「あら、こういうことは早め早めによ。お兄ちゃんだって……」
「うんうん。そうだね」

 慣れた調子でお父さんは受け流すと、「村上君はこれから行くの?」とこちらを向いた。

「あ、はい……」
「そう。じゃあまたね」

 はい………

 頭を下げた先でも、お母さんはまだ「結婚式をこのレストランでしてもいいわね」と、お父さんに話してて………


(……………)

 二人の背中を見送っていたけれど、視界がどんどん白くなっていって、見えなくなってしまった………

(キョウはあのとき言ってた……)

 10ヶ月ほど前の記憶を呼び戻す。

『オレの母親はオレが人と違うことをすることを怖れてて……』

 だから、目立つことはしないようにしてきた、と。普通に、平々凡々に過ごすようにしてきた、と…………

(そうだとしたら………)

 もし、今、オレが亨吾に本当の気持ちを言って、亨吾がそれにこたえようとしたら………

(結婚………孫…………)

 そんな『普通』の将来を手放すことになる。
 そして、せっかく再交流できたお母さんと、また会えなくなってしまう。またオレのせいで会えなくなる。

(せっかく会えるのに)

 オレとは違って、お母さん、生きているのに。



 店に入ると、いつもの席に案内された。
 出てきたのは、オレンジジュース。濃い綺麗な色……。ぼんやり見とれていたら、頭をポンポンとされた。

 ふりあおぐと、亨吾が柔らかな視線をこちらに向けていた。ドキッとする……

「どうした? ボーッとして」
「あ……いや」

 軽く首をふって、なるべく普通の顔をして、報告する。

「店の前でキョウのお父さんとお母さんに会ったぞ? お母さん、元気そうだった」
「ああ……うん」
「良かったな」

 良かったな。心からそう言う。

 亨吾が戸惑ったような表情をしているので、ポンッと腕を叩いてやる。

「今日も、ちゃちゃーちゃー聴きたい!」
「ドビュッシーの月の光、な?」

 少し笑って、オレの頭を再びポンポン、としてから、ピアノに向かって行った亨吾……

(…………キョウ)

 いつものように、静かに弾き始める。スーツ姿がさまになってる。本当にかっこいい……

(キョウ……)

 泣きたくなるほど温かい音……包まれる。丸く、丸く、包まれる……

(オレは……愛されてる)

 そう、思う。

 でも……でも、周りが悲しむような関係にはなるべきじゃない。そんなことをして得ても……

(いつか破綻する)

 ゾッとする。そんなのは嫌だ。亨吾と一緒にいられなくなるくらいなら……

 それなら………

 それなら、今のままでいい。



***


 そして、大学2年生の6月……

 中学3年生の時の同窓会で再会した西本ななえは、同窓会終了後、オレを強引に居酒屋に押し込んだ途端、すごく不機嫌そうに、

「彼女のこと、本当に好きなの? 恋愛とか、分かるようになったの?」

と、オレが森元真奈と付き合っていることを問い詰めてきた。だから、答えてやった。

「当たり前だろ。そんなの分かってる。もう中学生じゃないんだからな」

 そんなの、とっくに分かってる。

 すると、西本は「ふーーーーーーん」と長く「ふー」を言ってから、「何飲む?」とメニュー表を見せてきた。アルコールのページだったので速攻で首を振る。

「オレまだ19だから飲まないぞ」
「えー付き合ってよー」
「嫌だ」

 オレは決めてるんだ。

「初めての酒は、キョウと一緒に飲む」
「…………」

 すると、西本は目をパチパチとさせて、ジーッとこちらをみてから、

「テツ君さあ……」

 真剣な顔をして、言った。

「亨吾君のこと、好きだよね?」
「え」

 いきなり真実を言われて戸惑う。でも、「好き」って友達としての「好き」って意味もあるから、そういう方向で誤魔化そう……と思ったのに、

「もしかして『恋愛分かった』って、亨吾君のことを好きって気がついたってこと?」
「!」

 カアッと赤くなったのが自分でも分かった。何で……っ

「正解、だよね?」
「…………」
「…………」
「…………」

 そんなハッキリと言い当てられてしまっては、誤魔化すこともできない……

 答えに迷っていると、西本は、ふうっと息を吐いてから、驚くべきことを言った。

「さっき、亨吾君から『中学の卒業式の日に告白したけど、それからもずっと友達してる』って話は聞いたよ」
「え」

 亨吾、そんなこと西本に話したんだ……
 考えてみたら、オレは西本に「恋愛が分からない」なんて話したことないんだから、これも亨吾から西本に伝わった話ってことだ。

(ムカつく……)

 やっぱり、亨吾と西本、仲良いんだよな……

「せっかく両想いなのに、なんで付き合わないの?」
「…………」
「ねえ?」
「それは……色々あるんだよ」
「色々って?」
「…………」

 亨吾は話したんだよな……と思ったら、オレだって話してもいいよな?って思って……

 それで、促されるまま、高校生になってからのことを、色々と話してしまった(もちろん、プールの話と泊まりのトイレの話はしなかったけど)。



 西本ななえは、しばらくの沈黙のあと、

「なるほどねえ……」

と、ため息をつきながら言った。

 誰にも話さないつもりだった気持ちを打ち明けてしまったのは、やっぱり誰かに聞いてもらいたい、と、心のどこかで思っていたから、というのもあるかもしれない。

「…………そこまでは、よく分かった。一緒にいられなくなるなら言わないってテツ君の気持ち、よく分かる」
「うん………」

 西本はそうとう酒に強いのか、さっきから結構な量を飲んでいるのに、少しも顔色が変わらない。でも、中学の頃よりも強引なのは酒のせいもあるかもしれない。

「分からないのは、何で、彼女を作ったのかってこと」
「あー……」
「彼女もかわいそうじゃない?」
「あー……それはお互いさまというか……」
「は? 何それ?」
「あー……」

 言い淀んでいたら、西本に「『あー』ばっかり言ってんじゃないわよ!」と睨まれた。やっぱり酔ってる……

**

 森元真奈と付き合うことになったのは、なりゆき、みたいなものだった。

 森元真奈とは学部は違うけれど、同じ大学だったので、時々顔を合わせることはあり、時間が合えば昼を一緒に食べる程度の付きあいは続けていた。でも、夏休み明けから、アルバイト先が同じになって、会う頻度が少し増えて……

 そして、昨年の10月。亨吾の両親に会ってしまった数日後……

 まだ落ち込み気味だったオレは、アルバイト先で大きなミスをしてしまい、さらに落ち込んでボンヤリと帰ったため、翌日のゼミで使う資料の入った袋をアルバイト先に忘れてきてしまった。それを森元真奈がわざわざうちに届けてくれたのだ。

 オレは忘れたことにも気付かず、いつものように、本屋に寄って時間を潰してから帰ったため、森元真奈の方が先に家に着いていて……

「テツ君!真奈ちゃん待ってるわよ~」

と、義母にニコニコで出迎えられて、メチャクチャ驚いた。こんな風に話してくれるのは久しぶりだった。

 その後も、いつもは関わらせてくれない妹の梨華とも遊ばせてくれるし、一体何なんだ?と不思議でたまらなかったけれど、理由は、アッサリ判明した。義母が悪びれもせず、言ったのだ。

「テツ君、ロリコンじゃなかったのねー。すっかり勘違いしてたわー」

 と……。

 義母がオレを避け始めたのは、雑誌に書かれていた小児性愛者の記事を読んだのがきっかけだったらしい。

 女と付き合ったこともなく、好きな女がいる風でもなく、男とばかりつるんでいるオレが、やたらと梨華の面倒を見たがるのは、幼女に興味があるからなんじゃないか。このままでは、梨華が危ない……という、とんでもない結論を導きだしていたらしく………

「こんなに可愛い彼女がいるなら、ちゃんと紹介してくれれば良かったのにー」

 森元真奈が『一年くらい前からずっと仲良くさせてもらってます』と言ったのを、『付き合っている』と勝手に勘違いしたらしい義母は、勝手に盛り上がっていて、とても訂正できる雰囲気ではなかった。でも、森元も適当に話を合わせてくれて……助かった、と思った。なぜなら、

(これで家に帰りやすくなる……)

 亨吾とは少し距離を取った方がいいと思って、泊まり掛けで遊びにいくのはなるべく控えているのだ。だから毎日家に帰らなくてはいけなくて、それが相当のプレッシャーとなっていた。このまま義母が勘違いしてくれれば……と、ずるいことを思う。それに、

「テックン、テックン!」
「…………梨華」

 抱っこをせがんできた梨華を抱きあげて、その愛しさをあらためて思い知る。
 義母がこのまま勘違いしてくれれば、可愛い妹との時間を取り上げられないですむのだ。

 最近よく、母が生きていた頃に『妹が欲しい』とねだったことを思い出していた。
 母も『女の子がうまれたら可愛いお洋服着せたりしたいわ』なんていって、二人で『もし妹がうまれたら』の妄想を繰り広げていた。

 正直、梨華と本当に血がつながっているのかどうかはまだ疑問に思っているけれど、それでも、この家に念願の小さな女の子がいるという事実は事実としてあって。

(妹がうまれたら……)

 母と一緒にした妄想を現実にしたい、と思ってしまう。



「この勘違い、本当のことにしよう?」

 そう持ちかけてきたのは、森元真奈の方だった。

「真奈もね、今、とっても彼氏が欲しいの」
「なんだよ、それ」

 笑って聞くと、森元は真剣そのものに言ったのだ。

「ママが、真奈とパパが仲良くするのを邪魔するの。だからパパも遠慮して真奈とお出かけとかしてくれなくなっちゃって」
「???」
「真奈は、ママからパパを奪還しないといけないのに」
「なんだそれ?」
「だからー……」

 森元が、サラリと語ったことによると、森元と父親は、血縁関係はないらしい。
 父親は、元々は森元の小学校の時の担任の先生で、森元の『初恋の人』だったそうだ。それが森元が小学校を卒業するのと同時に、母親と再婚してしまったそうで……

「彼氏を作れって二人ともウルサイの。だから安心させて、油断させようと思って」
「なるほど」

 森元はまだ、父親となってしまった『初恋の人』を諦めたわけではないらしい。クリスマスにオレを紹介したのも、父親に焼きもちを焼かせようとした作戦だったらしいけれど、その作戦は失敗に終わったそうで……

 森元真奈は、父親以外の男はみんな『嫌い』らしい。でも、父親によく似ているオレにだけは、拒否反応がでないそうだ。

「テツ君のロリコン疑惑を完全に払拭できるまででいいから。ね?」
「あー……」

 うなりながらも……享吾のためにもそれがいいのかもしれない、とも思った。

 享吾はオレのために、ずっと彼女を作らないでくれている。このままだと、享吾はお母さんの願っている『結婚』や『孫』の夢を叶えることができない。

 オレに彼女ができたら、享吾もそういうこと考えるようになるんじゃないだろうか。

 でも……享吾が『好き』なのはオレ。オレだ。それに正直いうと、享吾がオレ以外を『好き』になるのは嫌だ。

 でも、享吾とお母さんはせっかく再会できたのに……

 でも、でも、でも……………

 延々と、答えのでない問題を考え続ける。


 そして、考えに考えに考えた結果……

「オレ、森元と付き合うことにした」

と、享吾に報告をした。すると、享吾は拍子抜けするくらいアッサリと、

「良かったな」

と言った。それ以来、今日まで一度もキスはしていない。中学時代の関係に戻った感じだ。


**


 でも……でも。でも。
 この話をした後、西本ななえに散々説教されて、オレは今日だけ、自分の信念を曲げることを決めた。

 今日だけ……今日だけ、享吾に本当のことを言おう。




------------

……長っ!でも、どうしても、ここまで書きたかったのです。
長文お読みくださり本当にありがとうございました!
今回のお話は「続・2つの円の位置関係」の5(享吾視点) の後半の哲成視点でした。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでここまでくることができました。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

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