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BL小説・風のゆくえには~元祖「愛してる」記念日

2019年11月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【浩介視点】

 11月3日。
 高校2年生の時、初めてキスをした記念日。
 それと、4年前、結婚式みたいな写真を撮って、そこで、慶が初めて「愛してる」って言ってくれた記念日。

 本当はデートしたかったけれど、あいにく慶は仕事。大きな学会があるそうだ。

 普段、慶は記念日にとんと無頓着だ(って、おれがこだわり過ぎって話もあるけど……)。でも、この11月3日はようやく「なんとなく」覚えたらしく、学会に行くことが決まってすぐに、

「5時には終わるから、夜は外食しよう」

と、言って、最近人気のフランス料理店の予約までしてくれた!すごい!

 バイト時代の先輩が働いているお店だそうで、「前から一度食べに来いって誘われてたから」なんて照れたように言っていたけれど、そういう知り合いの店におれを連れて行ってくれる、しかも記念日に!ということが更に嬉しい。嬉し過ぎる。

 日中は、掃除をしたりお弁当のための作り置きを作ったり、慶がいない間にしておきたいことをして回り、あっという間に夕方になって、さあ、行く準備をしよう……とした時だった。

『ごめん遅れる』

 慶からのラインを見て、固まってしまった。

『予約変更できない』
『先食べてて』

 先食べててって……
 コース料理を一人で食べてろって言うの?
 慶の分は……

と、真っ白になって、読むだけで反応できずにいたところ、続いて入ったメッセージに、さらに固まった。

『南が代わりに行く』

 …………。
 …………。

 …………え?

 南ちゃん? 慶の妹の南ちゃんが、代わりに来る?

『肉のメインには間に合わせる』
『そこで南とチェンジする』

 チェンジって……

 ボーッと画面を見ていたら最後のメッセージが入った。

『また連絡す』

 る、が抜けてる……

 なんか分かんないけど、忙しい中、送ってくれたのは分かった。だから、

『了解。連絡ありがとう。気をつけてきてね』

 そう、送った。

 んだけど…………


「浩介さんあいかわらず甘いわねー」

と、南ちゃんには呆れたように言われた。

「これは怒ってもいいんじゃないのー?」
「仕事だからしょうがないよ」
「えー。学会自体は5時までなんでしょ?」
「まあ……そうなんだけど」

 きっと色んな人に会うから、すぐには帰れなくなったんだろう。

「怒ればいいのに」
「怒ってもしょうがないでしょ」
「何その悟りの境地」
「悟りって……」

 とにかく来てくれるというし、代わりに南ちゃんを呼んでくれたし、慶はできる限りの対応をしてくれた。それで充分だ。

 食事はさすが人気店ということもあり、どのお皿も見た目も美しく、美味しい。
 南ちゃんは一皿一皿、来るたびに写真を撮って、慶に送ってくれている。

 魚のメインを食べ終わり、もうすぐ肉……というところで、

「あ、分かった」

 南ちゃんが、急に何かを思い出したようにこちらを見上げた。

「その、悟り開いてる感じ、何かに似てると思ったらあれだあれ」
「?」

 あれって?
 見返すと、南ちゃんは、何でもないことのように、衝撃発言をした。

浩介さんが3年いなかった時のお兄ちゃん」
「え」
「最後の半年くらい、そんな感じだったよ」

 ………………………………………え。

 え?
 え?
 え?

「何それ……」

 ようやく声に出して言うと、南ちゃんはお釈迦様のポーズをして、真面目に言った。

「こんな感じ」
「………」

 意味が分からない……

「あの、もうちょっと分かりやすく…」
「えー?だからこんな感じだって」

 南ちゃん、引き続き澄ました顔でお釈迦様になっている。

「全然分からないんだけど……」
「だからー。なんか悟ってたのよ。どうとでもなれって感じ?」
「どうとでもなれって……」

 投げやりな感じ?

 聞くと、南ちゃんはニヤリと笑って「違う違う」と手を振った。 

「浩介さんが帰ってこようがこまいが、自分の気持ちは変わらないから、どんな状況も受け入れる、って腹をくくったってとこ、かな?」
「…………」
「って、いっても……まあ、自分から迎えに行って拒否られるのが怖かったっていうのも大きかったみたいだけど?」
「…………」

 おれが黙っていると、南ちゃんは真面目な顔になって問いかけてきた。

「お兄ちゃんは何て言ってるの?」
「…………何も」
「何も?」
「うん…」

 実はその三年の話は、おれ達の間ではタブーになっているところがあって、あまり話したことがない。
 以前、慶は、この時のことを思い出すと「深い穴に落ちていく感じになる」と話していて、昨年末にも、おれがまた勝手に出て行ったと勘違いしてパニックになったくらいなのだ。まだ、まだまだ、慶のトラウマは消えていない……

「なんというか……今さらその話は、掘りおこしたくないというか、寝た子を起こしたくないというか……」
「なるほど」
「あの時傷つけた分も、おれは慶を大切にしないととは思ってるんだけど……」
「え」

 キョトンとした南ちゃん。

「だから約束破られても怒らないってこと?」
「いや、そういうわけじゃ……」

 そういうわけじゃない。
 それこそ……腹をくくったってところなのかもしれない。どんな状況も受け入れる。何があってもおれの気持ちも……そして、慶の気持ちも変わらないって知ってるから。

「まあ……それは結局、惚れた弱みってやつかな」
「ふーん?」

 結局、甘いねえ……と言いながら、南ちゃんはグラスを飲み干すと、「あ」と入り口に目をやった。

「お兄ちゃん来た
「え

 視線に促され振り返ると、お店の人と話している慶がいた。スーツ姿で髪もキチッとしていて、色気だだ漏れだ。その証拠に入口近くの席の女性陣が目配せしあっている……

 注目を集めたまま、慶はツカツカとこちらにやってくると、

「悪い、待たせた」

と、軽く手を上げた。映画のワンシーンのようだ。見惚れてしまう……。

 でも、南ちゃんはまったく動じず、眉を寄せた。
 
「お兄ちゃん、遅刻のくせに手ブラなの? 花でも買ってくればいいのに」
「花屋なんか寄ったら余計遅くなるだろ」
「えーお花貰えたら嬉しいよねえ?浩介さん!」
「……え、ううん」

 言われて、慌てて首を振る。おれは正直、母を連想するため花は苦手なのだ。そうでなくても……

「お花貰うより、一秒でも早く会えた方が嬉しい」
「うわっ」

 正直に答えたのに、南ちゃんはお芝居みたいにのけぞった。

「新婚さんかっ! 二人付き合って何年よ?」

 その呆れたようなセリフに、慶は間髪入れず「ウルサイ」と冷たく言い放つと、

「お前、さっさと帰れ」

と、憮然とした表情で南ちゃんに向かってしっしっと手を振った。

「え、南ちゃん、帰らないでも……」

 席は一番端で、イスをもう一つ置けるスペースはあるのだ。でも、

「はいはい」

 切替の早い南ちゃんは、あっさりと肯いて立ち上がった。

「それじゃ、お兄ちゃん。約束通り、あれ、使うから。浩介さんにも言っといて」
「…………ああ」

 ムッとしている慶。
 あれって何だろう……

「じゃあね。ご馳走さま」

 嵐のように南ちゃんは帰ってしまった。

 慶……なんかちょっと気まずい感じなのはなんでだろう……

「あの……慶」
「今日は悪かったな。ちょっとつかまっちゃって……」
「あ、うん。大丈夫だよ」

 手を振ると、慶は引き続き気まずそうに、お店の人が用意してくれた新しいナフキンを膝にかけ、またこちらを向いた。

「まあ……とりあえず、肉に間に合ってよかった」
「うん。そうだね」
「料理、うまかったか?」
「うん。すっごく美味しいよ。慶にも食べさせてあげたかった。今度またあらためて来ようね?」
「ああ。そうだな」
「うん」
「…………」
「…………」

 なんだろう……この微妙な空気……

「慶……?」

 何か隠し事でもしてるような、微妙な緊張感が……

 沈黙に耐えきれなくて、「ああそうだ」と手を打った。

「慶、ワインのリスト……」
「いや、ちょっと待て」

 慌てたように慶が手でおれを制した。

「酒飲む前に言っておきたいことがある」
「え…………」

 なに……?

 真剣な慶。まさか転勤とかそういう話? それで今日遅くなったとか……?

「慶……」
「あの………」

 緊張が走る。
 慶は、意を決したようにこちらを見返すと、

「浩介」

 小さく、つぶやくように、でも、ハッキリと、言った。 

「愛してるよ」

 …………。
 …………。
 …………。
 ……………え?

「……え?」

 思わず、キョトン、として見返してしまう。……と、慶の顔がみるみるうちに真っ赤ーーーーになった。

「慶、今……」
「あああああーーーーやっぱ言うんじゃなかったっ」

 慶、頭を抱えている。耳まで赤い。

 え-と。えーと。えーと……

 今、「愛してる」って。「愛してる」って言ったよね?!

「慶……っ」
「いや、その……溝部が言えっていうからっ」

 溝部? おれ達の高校の同級生だ。

 と、すいっと慶のスマホがテーブルの上を滑っておれの手元まできた。
 見ろ、ということらしいので、勝手にラインを開けてみると……

 今日のお昼に溝部からラインが入っていた。

『お前、今から桜井に『愛してる』って言ってやれ!』
『今日、愛してる記念日なんだろ?』
『桜井はシラフで言われたいって言ってたぞ』
『やってる最中もダメだからなっ』

 ………えーと。
 そういえばこないだ今日が『愛してる記念日』だって話はしたけど……

「うわーー……なんだろう溝部」
「それはこっちのセリフだ!」

 慶はまだ赤くなったまま、こちらを睨んできた。

「お前、溝部と何の話してんだよっ」
「ええと……」
「さ……最中はダメとか、そんな恥ずかしい話……」
「ごめんごめん」

 手を合わせて謝ってみせると、慶は「全然悪いと思ってねえだろっ」とブツクサ言いながら、ワインリストに手を伸ばした。

「あー、もう言ったから、飲もーっと」
「えー……」

 そういうことだったのか……
 しまった……。突然過ぎて心の準備ができていなくて、全然堪能できなかった……

「慶ーもう一回言ってー」
「言わねーよ」

 慶はワインリストを見ながら小さくブツブツと言葉を継いだ。

「そりゃおれだってお前の願いは極力叶えてやりたいけど、できることとできないことがあんだよっ。んな臭いセリフをシラフで言うなんて一年に一回で充分だっ」
「………あ、そうなんだ」

 一年に一回はシラフで言ってくれるんだ?

 確認すると、慶は仏頂面のままこちらを見上げ、「覚えてたらな」と言ってくれた!

「わー来年楽しみー」
「だから、覚えてたらなっ」
「うんうん覚えててー」

 一年に一回でもいい! お酒の力も性欲の力も借りずに、全くのシラフで慶が「愛してる」って言ってくれるなんて!

(溝部にお礼しないと……)

と、思っていたら、ちょうど溝部からラインがきた。慶がワインリストに夢中になっている隙にコソッと見てみたら……


『今日はうちも愛してる記念日になりました』

 …………ふーん?

 なんだろう……何があったんだろう……

 分からないけれど、とりあえず、「おめでとう」のスタンプを送ってみたら、速攻で溝部からも「おめでとう」という返事と、なぜか手巻き寿司の写真が送られてきた。巻ききれない量のお刺身がのっていて、鈴木さんと陽太君のものと思われる手も写り込んでいて……にぎやかな食卓風景が目に浮かぶ。

「お。肉きた!」

 慶、目がキラキラしてる。
 幸せだな、と思う。大好きな人と一緒の食事は本当に幸せだ。

 溝部も鈴木さんと陽太君とよつ葉ちゃんと幸せな食卓を囲んでいるんだろう。

 みんな幸せな『愛してる記念日』だ。


 ………追記。

 この日、南ちゃんが来てくれた条件の「あれ、使うから」の意味は後日教えてもらえた。

 南ちゃんが書いている雑誌の記事の挿絵に、4年前の写真を使う、ということだったのだ。うまく誤魔化されていておれ達だとはまず分からないけど……キスする寸前、みたいな写真だから、ちょっと恥ずかしい。

「初キス記念日、でもあるんだもんね?」

 そう言うと、慶は「そうだな」と言って、初めてキスした時みたいに、優しく優しく唇を重ねてくれた。





---

お読みくださりありがとうございました!

長!「おまけ」のつもりだったけれど、どう考えても「おまけ」じゃない!
ということで、題名も「元祖」に変更。
「元祖・愛してる記念日」お送りいたしました。

くしくも今日は11月22日。「いい夫婦の日」。
この二人も今日もラブラブなことでしょう♪♪

と、いうわけで。一時復帰終了いたします。お付き合いくださいまして、本当にありがとうございました!!
ランキングクリックしてくださってる方も、本当に本当にありがとうございます!どれだけ嬉しいことか……

我慢できなくなったらまた帰ってこさせてください💦
それまで皆様どうぞお元気でお過ごしください。

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BL小説・風のゆくえには~「愛してる」記念日・後編

2019年11月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【溝部視点】

「慶が初めて『愛してる』って言ってくれた日だから、『愛してる』記念日』」

 なんてアホらしい話を聞いた翌日金曜日。
 渋谷達のマンションから出勤し、普通に仕事をして、通常通りの時間に家に帰ったのだけれども……

「…………おかえりなさい」
「? ただいま」

 何となく、鈴木の様子がおかしい。元気がないというか……
 でも、聞いても、そんなことはない、の一点張りで埒が明かない。と、いうことで、息子・陽太の部屋に乱入して聞いてみた。ら、

「お母さん、今日は朝からずっとあんな感じだったよ」
「え、なんで?」
「知らね」
「えー……」

 なんで知らねーんだよー…とガッカリしているオレに陽太がアッサリと言った。

「本人に聞けばいいじゃん」
「聞いても教えてくれないから陽太先生にお聞きしているんですがっ」
「残念。オレも知らね」
「えー見捨てるなよー考えろよー」

 ガシガシと体を揺すぶってやると、陽太は「あー…」と少し唸ったあと、「関係あるかどうか分かんねーけど」と言いにくそうに、言葉をついだ。

「昔の……千葉にいた頃のお母さんは、あんな感じなことが多かった気がする」
「…………え」

 千葉にいた頃……前の旦那と結婚していた頃ってことだ。

 それは……どういうことだ?


***

 謎は解けないまま、金曜の夜は過ぎ、土曜日も終わり、日曜日。11月3日になった。
 鈴木は金曜日よりは、まあまあ元気になってきたけれど、でも、やっぱり本調子じゃない感じがする。

 それでも、予定通り、娘のよつ葉を連れて、陽太の野球部の練習試合を観に行った。

 陽太の中学の野球部には、二年生が8人しかいないということもあり、陽太は一年生の中で唯一スタメン入りしている。でも、自分の打席が来るまでは率先してファールボールを取りにいったり、道具の整理をしたり、我が息子ながら、なかなか気が利く働き者だ。

 来月一歳になるよつ葉は、先日から少しだけ歩けるようになった。今はひたすら歩いては尻もちをつくのを繰り返したがる。そして、そのうち疲れて、少し抱っこするとあっさり寝てしまう、という手のかからなさ。逆に将来がコワイ、と言われるけれど、陽太もそんな感じだったらしいので、よつ葉も良い子に育つだろう。

 試合終了後の帰り道、そんな話をしながら、よつ葉の寝ているベビーカーを押しつつ、鈴木と二人で並んで歩いていたけれど……

(やっぱり元気がない……)

 会話も盛り上がることなく、止まってしまった。
 何なんだろう。オレ、何かしたか?

 うーん、と考えてみる。前日は、渋谷達のマンションに泊まりにいって……

(ああ、そういや、今日は3日か。『愛してる』記念日だっけ……)

 桜井が、シラフで「愛してる」って言ってやれ、とかおかしなこと言ってたな。絶対喜ぶからって。

(うーん……)

 でもうちの場合、絶対、殴られると思うんだけど……

(でもまあ、この現状を打開するためには、そのくらいパンチのきいたことを言うのもありか)

 そんなことを思いつつ……

「なあ……」

 横を歩く鈴木の顔をのぞきこみ、一言。

「愛してるよ」

 言ってみた!
 それで、反撃に備えて身構えた。けれど…………

「……なにそれ」

 ピタリ、と鈴木の足が止まった。そして、予想に反して、顔がみるみる青ざめめていく。そして、小さく、でも鋭く言われた

「何か後ろめたいことでもあるの?」
「え?」

 後ろめたいこと?

「やっぱり、ハロウィンの夜……」
「え?」

 ハロウィンの夜って、渋谷達のマンションに泊まりに行った夜のことか?

「え?」
「おかしいと思ったんだよね。急に泊まってくるなんて。あの日……」
「ちょい待てちょい待て!」

 何を言い出すのかと思えば!

「それは夜遅くに帰ったらお前に迷惑がかかると思って、渋谷と桜井のところに……って、オレ、連絡したよな!? 疑ってるなら聞いてみろよっ。あの正義感の塊の渋谷が嘘つくわけねえし、天然桜井はそもそも嘘つけねえだろっ」
「…………」
「…………」
「…………」

 鈴木はジッとこっちを見ていたと思ったら、ボソッと、

「迷惑って何」
「何って……」

 何もやましいことはないのに、そんな目で見られてキョドってしまう。けど、何とか言葉を継ぐ。

お前、寝てていいっていうのに、絶対、顔出して『おかえり』っていってくれるじゃん? すげー嬉しいけど、起こしちゃったり、起きて待っててくれたりするの、すげー申し訳なくて……」
「……別に申し訳なくないでしょ」
「いやでも」
「なに?嫌なの?」
「いえいえいえいえ」

 今、ピキッて聞こえた……
 鈴木さん、怖い。

 でも、恐怖に打ち勝ち、なんとか言葉を続ける。

「嬉しいです。そりゃ嬉しいです。だーい好きな鈴木さんの顔見てから一日を終えられることがオレの幸せです」
「…………」
「…………」
「…………」

 今度こそ、手が飛んでくるか?! と身構えたけれど、そんなことはなく、鈴木は大きく大きく息を吐くと、

「………私も同じだよ」
「え」

 同じ?

「私も同じだから、迷惑かけてるなんて思わないで帰ってきて」
「え」
「…………」
「…………」

 同じ?って?

「ええと……」
「私も溝部の顔みてから、一日終わりにしたいの」
「ええと……」

 それは……それは。

「ええと……それは、もしかして、だーい好きなのも同じ?」
「当たり前でしょ」
「………」
「………」
「………」
「………」
「えええええええええ?!」

 思わずデカイ声を出してしまい、慌てて口を閉じる。よつ葉が寝てるんだった!
 すぐにボリュームを落として鈴木に問いかける。

「お、お前……オレのこと好きって認めるのか?!」
「は?」

 馬鹿じゃないの?

 と、心底呆れたように言った鈴木。

「好きに決まってるでしょ。なんで好きでもない人と結婚すんのよ」
「ええええええ……」

 うわ……
 こうもアッサリ言ってくれるとは……

「………」
「………」
「………」
「ホント……馬鹿だね」

 ふっと微笑んだ鈴木の柔らかい笑顔。鈴木はそのまま、優しく優しく言ってくれた。

「……好きだよ?」
「え………」

 うわ……… 

 うわ………

 うわ………

 桜井ーーーーーー!!

「ちょ、待て。今すぐ渋谷にラインを打つ!」
「は?」

 キョトンとした鈴木の横で、速攻でスマホを取り出した。

「桜井の気持ちがよく分かった!」

 渋谷とのトーク画面を開く。

『お前、今から桜井に『愛してる』って言ってやれ!』
『今日、愛してる記念日なんだろ?』
『桜井はシラフで言われたいって言ってたぞ』
『やってる最中もダメだからなっ』

 ダダダと打ち込んでから、鈴木を振り返る。
 それでダメ元で言ってみた。

「あの………愛してる、もいただけたりします?」
「は?」

 思いきり眉を寄せた鈴木。

「馬鹿じゃないの?」
「馬鹿でもなんでもいいからっ」
「寒いから早く帰りたいんだけど」
「言ってくれたら帰りますっ」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

 鈴木は「まあ……言ったことないもんね……」とボソリと言ってから、

「……愛してる、よ?」

 ベビーカーを掴んでいるオレの手を、上からぎゅうっと掴んでくれた。

 うわ……幸せ過ぎる。

 後で桜井にもラインを打とう。

『うちも今日は、愛してる記念日に決定』

 って。


---

お読みくださりありがとうございました!
これに慶たちのおまけをつけるつもりだったのですが、おまけにまで手が回らなかった……おまけは来週火曜日に持ち越します…

読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ次回おまけもどうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~「愛してる」記念日・前編

2019年11月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【登場人物】

溝部祐太郎(みぞべゆうたろう)
某大手メーカー勤務。身長169㎝。ちょっと太め。お調子者。元野球部。
長年の拗らせ片思いを叶えて、2年半前に同級生の有希と結婚。現在、有希の連れ子・中学一年生の陽太と、もうすぐ1歳になる娘・よつ葉との4人家族。

溝部有希(みぞべゆき)
雑誌記者。身長168㎝。元バレーボール部。旧姓鈴木。

渋谷慶(しぶやけい)
小児科医師。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。

桜井浩介(さくらいこうすけ)
フリースクール教師。身長177センチ。慶の親友兼恋人。




【溝部視点】

 3連休の予定を聞いたところ、

「日曜日だけあるんだ〜❤」
 
と、桜井にハート付きで返された。どこか行くのか?と聞いたら、またまたニッコニコで、

「記念日だから、二人で食事にいくんだ〜❤」

 だ、そうだ……。
 そういえば、桜井はものすごい「アニバーサリー男」だと渋谷が言ってたな……

「食事に行くほどの記念日って、付き合い始めとか?」
「ううん。付き合い始め記念日は、12月23日」

 今年から休みじゃなくなっちゃうんだよねーちょっと残念。と、全然残念そうじゃなく言う桜井。

「んじゃ、何の記念日だよ?」
「そーれーはー」

 ふふふと小さく笑っている。その視線の先には、隣の部屋のベッドで寝ている渋谷がいる。こいつらホント、幸せそうだよなあ……。

 今日は10月31日木曜日。
 職場でのハロウィンイベントの手伝いで帰りが遅くなったので、渋谷&桜井の家に泊まらせてもらいにきたのだ。来月で一歳になる娘もいる我が家。せっかく寝ているところに帰って、妻や子供達を起こさないように、という気遣いのできる偉いオレ。

「で? 何記念日?」

 振り返って聞くと、桜井はアッサリと言った。

「あいしてる記念日」
「は?」

 なんだって?

「あい……?」
「慶が初めて『愛してる』って言ってくれた日だから、『愛してる』記念日』」
「…………」
「…………」
「…………あっそ」

 アホらしい……
 聞いたオレが馬鹿だった。

 と、呆れているオレに気がついたらしい桜井が、ブンブンと手を振った。

「だって、付き合いはじめて24年でようやく言ってくれたんだよ〜!記念日にしたくもなるでしょ!?」
「はいはい」

 深夜の桜井はいつもよりさらに、惚気モードが高くなる。バタバタしながら言葉が続いた。

「あとねあとね。初めてキスした記念日でもあるんだー」
「は?」

 初チュー記念日?

「待て。お前それ、そっちのほうが重要だろ」
「え、そうかな」
「あったりまえだろ。初チューは重要……」

 いいかけて、あ、と気がついた。

「お前らの初キスって、高2の後夜祭って、前に言ってよな」
「そうそう。よく覚えてるね〜溝部!」
「あー……」

 そりゃ覚えてる。高校2年の後夜祭。それはオレが、鈴木の泣き顔に惚れた日だからだ。そんな日にこいつらは「雰囲気に流されてキスをした」なんて話を3年くらい前に聞いて、羨ましくてムカついたから、よく覚えてる……

「そうか……文化の日だったのか」
「うん。そう。11月3日」
「ふーん……」

 オレもそれこそ「愛してる」記念日だな。オレが鈴木を愛しはじめた日……

「……で、渋谷は24年でようやく言ってからは、日常的に言うようになったのか?
「まさか」

 ブンブンと手を振った桜井。

「全然言ってくれない。ねー、溝部はちゃんと鈴木さんに言ってる?」

 桜井の頬が膨れている。「愛してる」ねえ……

「しばらく言ってねえなあ」
「なんで?」
「なんでって……」

 シラフで言えるセリフじゃないからだ。娘が生まれてからは、家で酔うまで飲むということはなくなった。あとは言うとしたら、夜の営み中だけど、こちらも娘が生まれてからはトンとご無沙汰でそんな機会もない……

 なんてことを、やんわりと言ったところ、桜井の頬がますます膨らんだ。

「なんでシラフだと言ってくれないの? 慶もさ、まれに言ってくれるのは、酔ってる時か、してる最中なんだよねー。なんで普通の時には言ってくれないのかなー。普通の時にこそ言ってほしいのになー」
「…………」

 …………。面倒くせー。

「あ!今、面倒くさいって思ったでしょっ」
「…………」

 プーッとますますますます膨れた桜井。

 いや、ホント、面倒くせー。
 渋谷に同情する……

「そんなのシラフで言えるかよ。恥ずかしい……」
「えー言ってみなよ!絶対喜ばれるよ!」
「ないない」

 うちの奥さんは、サバサバあっさりしているんだ。オレがシラフでそんなこと言い出したら、冷たい目で見てくるか、拳がとんでくるか……。そもそも、あいつだって、オレに対してそんな甘いセリフを吐いたことなんて一度も……一度も……一度も……………

 あれ?

 ………。
 ………。
 ………。

「………………………あ」

 ものすごいことに気が付いて、思わず口に手を当てた。

 そうだ……そうだよ…………

 オレ、今まで一回も、鈴木に「好き」とか「愛してる」とか、そういう言葉、言ってもらったことねえじゃねーかよ!


…ということで、後編に続く。



---

お読みくださりありがとうございました!
昨晩のお話でした。

……って、長期休載って言ってるのに何を普通に書いてるんでしょう。
だって我慢できなかったんだもん~~~

約二か月ぶりでございます。
以前お読みくださっていた方、お元気でいらっしゃいましたか?
初めましての方、初めましてです。

更新してない間もクリックしてくださった方、本当に本当にありがとうございます。
ブログ村のカウント(何も設定変えてないのに何か変なんですけど)、毎日見ては、有り難い有り難いと拝んでおりました。本当に本当にありがとうございます!!

更新していない間……私は、ひたすら自分のブログを読み返しておりました。(で、誤字脱字発見。今までも何回も読み返してるのにまだまだ出てくるー💦

それで、11月3日は「愛してる」記念日だな〜と思ったら、書かずにはいられず…

あいかわらずのまったり自己満足物語。
後編は来週の火曜日……が無理だったら金曜日に。
よろしければどうぞよろしくお願いいたします。


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