というお話を以前に書いております。
1999年。まだ大学生の慶君と、就職3年目の浩介君。
若いー!可愛いー!
それから何年?25年!?きゃー!!
ということで、1999年7の月II、2024年7月のお話です。
【慶視点】
久しぶりに浩介と帰宅時間が重なって、駅から一緒に歩くことになった。
「なんか……すごい空だねえ」
「だな……」
予報では、これから雷を伴った激しい雨が降ってくるらしい。薄暗い空の中に黒い雲が見えている。
「なんか……この世の終わりって感じだね」
「この世の終わり……」
浩介の言葉に、ふっと昔の記憶がよみがえる。
『1999年7の月、恐怖の大王がおりてくるんだって』
妹の南が、友達から借りたという本を見せながら言ってきたのだ。まだ、自分も南も小学生だった。あの頃そういう話が流行ったのだ。
1999年といえば、自分は25歳になる。25歳なんてまだまだ先で、具体的な想像はできなかった。
『1999年、何してると思う?』
当時の南が、無邪気な感じで言ったことは妙に鮮明に覚えている。夏休みのリビング。宿題を広げながらの無駄話。
『私はもう結婚してると思うんだねー。だから旦那さんと一緒にいると思う』
『ふーん』
『お兄ちゃんは?』
『おれは…………』
…………。
…………。
…………。
おれは?
「…………なんて言ったんだっけ」
「え?」
思わず呟いてしまって、浩介に振りかえられた。
「なにが?」
「あ……いや……」
言ったところで、分かるわけもないけれど、誤魔化すのも変なので、話してみる。
「昔、ノストラダムスの大予言ってあっただろ?」
「ああ、うん。恐怖の大王がおりてくるってやつね」
「そうそう。その話を小学生の時に南として……ってあれ?」
なんかこの会話、前にもしたような気が……
「この話、したことあるか?」
「…………」
「…………」
「…………」
………おい。
「なにニヤニヤしてんだよっ」
「痛い痛いっ」
思わず、はたいてしまって、浩介に大げさに悲鳴をあげられた。でもこれはお前が悪い!
「なんか思い出したんだろっ」
「えー、慶、覚えてないのー?」
「覚えてねえよっ」
浩介は異常な記憶力の持ち主なので、おれが忘れていることも、よーく覚えていて、こうして一人でニヤニヤされることがよくある……
「なんだよっ言えよっ」
「えー……」
浩介は口元に手をやり、視線を左上から右上、また左上へと動かしながら「うーん……」と言っていたかと思うと、
「1999年の7月の最終日、おれたち一緒に過ごしたことは覚えてる?」
「…………ええと」
そういわれてみれば、そんな気もするけれど、そんな何十年も前のこと、いちいち覚えていない……
「そう……だっけな」
「慶はまだ大学生で、おれは働いてて……で、よくおれのアパートに泊まりにきてくれてたでしょ?」
「あー……そうだな」
浩介のアパートが大学の近くだったので、大学の最後の方はほとんど浩介の部屋から通学していた。「電車の定期、いらないでしょ」って母親に言われて、自宅からの定期券買うのやめたなあ……なんて、そんな変なことは覚えているんだけど。
「1999年7月31日も泊まりに来てくれてて……その時に聞いたよ? 南ちゃんと、1999年に自分たちがどうしているか予想したって話」
「おお。そうか」
本当に、恐るべし浩介の記憶力。
「で、南は、旦那と一緒にいるって予想したんだよな」
「うん、南ちゃん、大当たりだったね」
南が結婚したのは、1999年6月だったので、ギリギリ当たりだ。
「で、おれ、自分はなんて予想したのか思い出せなくて」
「え、そうなの?」
浩介がきょとん、とした感じに、また口元に手をやった。
「慶、あの時は覚えてたのに……」
「え、そうなのか?」
何も思い出せない……
「おれ、なんて言ってた?」
「えー……、言っていいの?」
「は? 別にいいだろ」
「えー……」
なんかもったいないなあ……、と、浩介はぶつくさと言ってから、
「じゃあ、当てて?」
「は?」
「クイズクイズ」
「えー」
めんどくせえなあ……という心の声が聞こえたのか、浩介が「もうっ」とふてくされた顔を作って、バシッとたたいてきた。
「面倒くさがらないのっ。せっかくだから当ててっ」
「えー……ヒントヒント」
「えー、やだ」
「なんでだよっ」
ノーヒントで答えられるはずがない。何も思い出せない。
「そもそも、その小学生の時のおれの予想って当たってんのか?」
「それはー……ソウデスネ」
「なんだそりゃ」
いきなりの棒読みにふきだしてしまう。
「当たってんだな?」
「うーん……おれの口からは何とも……」
「でも、当たってんだな?」
「うー……、当たってる……ってことだと嬉しい」
「ふーん……」
当たってるってことだと嬉しい……
友達と一緒にいる、恋人と一緒にいる、だと、それは事実だから、「当たってるってことだと」という言い方にはならない。……って、ことは。
「…………あ」
急に、思い出した。
小学生の時のおれ。
専門学校に通い始めた姉が、忙しくて家にいる時間が短くなって、夏休みもいつもなら宿題をみてくれるのに、全然いなくて、寂しくて……
それで、希望もこめて、『椿姉と一緒にいる』といいたかったけど、言えなくて、それで……
『大好きな人と一緒にいる』
そう、答えたんだった。
「あーーーなるほどな」
当時のおれ、ナイスだ。「大好きな人」って大雑把な括りにしてくれたおかげで、色々ごまかせるじゃねえか。
確かに、当時は「大好きな人」は椿姉だったけど……
「当たってるな……」
「え?! 思い出したの?!」
ぱあっと顔を明るくした浩介に、コックリとうなずいてやる。「大好きな人」は、高校1年生からは浩介一択だ。
「『大好きな人と一緒にいる』だろ? お前と一緒にいたんだから、大当たりじゃねえかよ」
「わ~~慶~~~」
浩介が嬉しそうに両手を広げた……けれど、こんな家の近所の往来でハグするわけにもいかず、片手だけハイタッチしてやる。
「ほら、さっさと帰るぞ?」
「え?! さっさと帰るって! それはお誘いと認識しても……」
「あほかっ。雨降りだす前に帰るんだよっ」
あいかわらずのアホな発言に笑ってしまいながら、軽く走り出すと、
「わあ、待ってよ!」
浩介もすぐに横に並んで走り出した。
1999年7の月も一緒にいたおれ達。
今も、これからも、ずっと一緒にいる。
完
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お読みくださりありがとうございました!
久しぶりの更新となってしまいました。
なんかねえ、書いては納得いかず止めて、というのがいくつかございまして。下書きばかりが増えていく日々でございます。
これじゃー、この人ブログやめちゃった?って思われてしまうー!と心配になって、急遽、短いのをパーっと書いてみました。
「大好きな人と一緒にいる」って話、9年前(2015年)に書いているのですが、その時は浩介視点だったので、慶が実は椿姉を想定してそう言ったってことは書けなかったのでした。
南ちゃんが「旦那さんといる」って言ってるんだから、慶だって「奥さんといる」っていうはずでしょ? でも、それをそういわず「大好きな人」と答えたのは、そういう裏事情があったからなのでした。本当の「大好き」な人と出会えて良かったね!
ということで、読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!またの機会にどうぞよろしくお願いいたします。