創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~将来2-2(浩介視点)

2016年03月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


 おれが自転車をとばして慶のうちにたどり着くと、慶の妹の南ちゃんが玄関前で待っていてくれた。

「ちょうど今、うちのお父さんにも絵の教室から戻ってきてもらったところなんだー」

 慶のお父さんは趣味で絵をならっていて、日曜の午前中は教室に行っているのだ。わざわざ戻ってきてもらったなんて申し訳ない……

「今また、浩介さんのお母さんがお父さんに説明してるとこ。昨日、キスしてるとこ見られちゃったんだってね~。いいなあ私も見たかった」

 ニヤニヤしている南ちゃん。でもそんなことには構っていられない。

「慶はどうしてる?」

 一番聞きたいことを聞くと、南ちゃんは両手をヒラヒラと振った。 

「お兄ちゃんは現在、黙秘権を行使中です」

 黙秘権? なんだそれは……
 わからないまま、中に入れてもらい………

(………慶)
 開いていたリビングのドアから見えた光景に立ちすくんでしまう。

 まるで石像のように、その美しい顔をピクリともさせていない慶……。こんな時にもかかわらず、その完璧な美しさに見惚れてしまう。
 そして、その斜め前には………延々と喋り続けているおれの母……。その前に、軽くうなずきながら聞いてくれている慶のお父さん。眉間に皺がよっている慶のお母さん。

(異物が混入している……)

 いつもの居心地のいい、慶のうちのリビングじゃない。異物が一つあるだけでこんなに変わるなんて……

「あら、浩介君」
「椿さん」

 コーヒーがのったお盆を手にした慶のお姉さんの椿さんが、おれを見てにっこりと笑ってくれた。慶とよく似た笑顔。そういえば椿さんは、お正月は旦那さんの実家に行っていたので、昨日の夜から今日まではこちらに帰ってくると昨日いっていた。

「浩介!」
 おれの姿を認めた慶が驚きの声をあげた。途端に石像に血が通い、力強い生命力が溢れだす。

「なんでお前……って、南!お前か!」
「本人いた方が話しやすいかな、と思って」

 えへと笑った南ちゃんに、慶は苦虫潰したような顔をしてから、おれに自分の隣に座るように合図を送ってきた。

「浩介……なんであなた」
「………」

 驚いた顔をした母に一瞥をくれてから、慶の隣に座る。

(………慶)

 泣きそうになってしまう。
 慶がさりげなく座り直して、膝をおれにくっつけてくれたのだ。

『何があっても嫌いになったりしない』

 信じられるぬくもり……。慶は、おれを嫌いになったりしない……

『お前はおれが守る』

 慶の思いに包まれていることを実感できる……

 慶にうなずきかけてから、慶のご両親に視線を向ける。

「おはようございます。朝早くから、母がご迷惑をおかけして申し訳ありません」

 頭を下げると、ご両親が何か言う前に母がカッとなったようにおれに向かって叫んだ。
 
「何言ってるの! お母さんはあなたのためにわざわざお話をしにきたっていうのに!」
「………」

 我が母ながら、本当に嫌気がさす。あなたのため、あなたのため……そういってこの人はさんざんおれを苦しめてきた。

「おれのためってなんですか。おれは何も」
「何もって、あんなことしておいて!」
「だから……っ」
「まあまあ」

 慶のお父さんの飄々とした声に遮られた。見返すと、さっきの南ちゃんみたいに両手を振っている。顔もだけれど、飄々としたところもお父さんと南ちゃんはよく似ている。

「お話はよく分かりました。ま、桜井さんのご心配もわかりますが、そんな大した問題じゃないんじゃないですか?」
「は?!」

 母の顔色がザッと赤から青に変わった。

「何をおっしゃってるんですか?! 男の子同士であんな……」
「興味本位でしてみた、ってことでしょう? 子供の頃にはありがちですよ。むしろ、女の子相手でなくて良かったとも言えますね。女の子相手にそれ以上のことにまで興味を持ってしまって、万が一のことがあったりしたほうが問題でしょう」
「…………」

 母が、ハッとしたように黙った。「女の子相手で万が一のことがあったら」という言葉はかなり効果的だったようだ。

「ご主人はこのことご存じなんですか?」
「え、ええ……」

 慶のお母さんの問いかけに、母が軽く肯く。

「昨日話したので……」
「……」

 話してたんだ! ちょっと驚いてしまう。

「ご主人はなんて?」
「…………。一過性のものだから放っておけ、と……」

 放っておけ、か。いいそうなことだ。あの人はおれの成績にしか興味はない。有り難いといえば有り難い。

「でも、私は心配で。これでもし、息子があらぬ道にそれてしまったらと思ったら……」
「あらぬ道?」
「だってそうでしょう? これで女の子じゃなくて、お、男の子に興味を持つようになったら困ります」

 困る? 何が困るんだ?

「お宅は、他にお嬢さんが二人もいらして、しかももうすぐお孫さんまで生まれるからいいですよ。でもうちはこの子しかいないんです。ここでこの子が変な方向に進んで、孫の顔も見れなくなったら……」
「……なんだそりゃ」

 慶が小さくつぶやいた。ほんと、なんだそりゃ、だ。おれは母に孫の顔をみせるための道具か。

 慶のお父さんは「なるほどなるほど」と肯いてから、

「でもまあ、ご主人もおっしゃる通り、放っておいていいんじゃないですか? なあ。二人とも」
「え」

 いきなりニコニコと話を振られ、ドキマギしてしまう。

「ようはあれだろう? 練習、だろ?」
「え……」
「そうなの? 浩介」

 ここで「はい」と肯いてしまえば、一件落着だ。母も納得するだろう。
 おれ達は仲の良い友人でしかない。あれはただの練習。そう言えばいい。そう言えば……

 だけど……だけど。

(………慶)
 慶の方を見ると、慶の透明な瞳と目が合った。……たぶん、おれと同じこと考えてる……

「浩介」
 慶の手がそっとおれの手に重なる。

「慶」
 絡めるように繋ぎ直すと、ぎゅっぎゅっぎゅっと温かい手で包みこんでくれた。繋いだ手から気持ちが伝わってくる。

「慶……いいかな」
「………」

 こっくりと肯いてくれた慶。愛しい慶……

「ちょっと、あなたたち、そんな風に手をつなぐなんて……」
「お母さん」

 目ざとくおれ達の手に気が付いて眉を寄せた母をまっすぐに見る。

「おれ……渋谷君のことが好きなんです」
「は?!」

 呆気にとられた顔をした母。
 今度は慶が、慶のご両親に向かってきっぱりと言ってくれた。

「今ここで、練習だったって言えば、この場が丸く収まるってことは分かってるんだけど………おれ、お父さんとお母さんにまでウソつきたくない」

 繋いだ手にぎゅっと力がこもる。

「おれ達、つき合ってる。興味本位とかそういうことじゃなくて、普通に、真剣に」

 慶の瞳に情熱のオーラが灯っている。

「それが悪いことだとは思ってない。世間的にはあまり認められないことかもしれないけど、お父さんとお母さんには分かってほしい」
「……………」

 シンッとその場の空気が止まる。
 そのままの状態で、何秒……何十秒たった時だっただろうか……

「………ふざけないで」
「!」

 地の底から聞こえてくるような低い声。まずい……っ

「お母さん……っ」
「冗談じゃないわよっ」

 勢いよく母が立ち上がった。テーブルに膝があたり、のっていたコーヒーカップが揺れ、カチャカチャと音がなる。

「男の子が好きなんて許されるわけがないでしょう!」

 母のヒステリックな叫び声が響き渡る。

「ああああ!男の子同士なんてありえない!ありえない!ありえない! やっぱり渋谷君がこんな可愛い顔してるから惑わされてるのよっ。そうじゃなかったら……っ」
「お母さん!」

 おれも立ち上がり母の両肩を思いきり上から押さえつけた。

「やめてください!」
「何するのっ」

 母の手がおれの手を剥がそうとする。でも、剥がさせない。力任せにもう一度ソファーに座らせる。

「ちょっと浩介……っ」
「………っ」

(黙れ……黙れ魔女っ)

 憎しみが募って、押さえつけた肩をギリギリと握り潰したくなる。

(粉々になってしまえばいい……っ)

「痛……っ」

 母の顔が苦痛に歪んだ、その時。


「浩介」
「!」

 慶に手をつかまれ、ハッとする。

「慶……」

 おれは、何を………


「まあまあまあ」

 この重苦しい空気を一掃するかのように、ポヤンとした女性の声が響き渡った。

「とりあえず、様子見ってことでいいんじゃないですか?」
「え……」

 おれと母のやりとりに呆気に取られていた風の慶のご両親も、我に返って声の主を見上げる。
 声の主、椿お姉さんは、おれの母に向かってニッコリと笑った。

「ここで無理に別れさせようとしたって、同じ学校なんだし無理ですよ」
「でも……っ」
「ご主人は、放っておけっておっしゃったんですよね? だったら、奥様はそれに従うべき、では?」
「………」

 すごい。あの母が黙ってしまった。追い打ちをかけるように椿さんが言う。

「ご主人は、今日奥様がここにいらっしゃることご存じなんですか?」
「!」

 痛いところを突かれた、という顔をした母。そして、はっとしたように時計を見た。父に帰ると約束した時間なのだろう。

「……わかりました」
 母は不承不承という顔を隠しもせず肯くと、

「それでは、とりあえずは様子見としますが……」
「…………」
「許すことは絶対にできません」

 言い放ち、挨拶もせずに部屋を出て言ってしまった。見送りに南ちゃんが追いかけて行ってくれる。

「………」
「………」
「………」
「………」

 嵐の去った後の静けさ、とでもいったような長い沈黙の後、慶のお父さんが「あーああ」と茶化すような口調でため息をついた。

「二人ともバカだなあ。あそこで肯いておけば、全部丸くおさまったのに」
「え………」
「お父さん……」

 わかっていて、ああ言ってくれてたのか……?

「あー、もう、どうでもいいわ」

 今度は慶のお母さんが、さも面倒くさそうに言うと、勢いよく立ち上がった。

「ようは、すごく仲良しの友達ってことでしょ? いいんじゃないの?」
「だから、友達じゃなくて」
「あーー面倒くさい。聞きたくない聞きたくなーい」

 お母さんは耳をふさぎながら行きかけて、

「お腹空いたわね。早めにお昼にしましょうか。浩介君も食べてけば?」
「え」
「お好み焼きにするから。慶、ホットプレート出してきて」
「あ、うん」

 慶も立ち上がり、おれを振り返ると、

「食べてけよ?」
「あ……」
「そうしなさい」

 返事をする前に、慶のお父さんまでもが声をかけてくれた。それから、お父さんはお母さんに向かって「おーい」というと、

「オレは絵画教室戻るから。それで、帰りに一杯って誘われてて」
「また真っ昼間から!ずるいっ」

 ぶーぶーいうお母さんを、お父さんが「君もくればいい」と誘っている。
 そこへ、慶が大きなホットプレートを持って戻ってきた。

「ホットプレート、ここにおけばいいー?」
「お母さん、こないだの桜えびどこにしまったのー?」
「私チーズのせたい。とろけるチーズまだある?」

 3人の子供達が口々に、お母さんお母さん、と言っていて、あちこちで笑いが起こっていて……。ああ、すごいな……と、感動さえおぼえる。

(これが普通の家……)

 おれのうちとは全然違う………
 
(でも……)

 昨日、久しぶりにアルバムをみて気がついた。
 おれが3歳になる前くらいまでは、うちの家族も普通に笑って写真に写っていた。どうして今みたいに誰も笑わない家になってしまったんだろうか……


**


 お好み焼きをお腹いっぱいいただいてから、帰路についた。慶が「運動がてら」といって着いてきてくれたので、自転車を押して歩く。

「……大丈夫か?」
「うん」
 心配げに言ってくれた慶に、笑顔で肯いてみせる。

「父が放っておけ、って言ったっていうから大丈夫だと思う。父の言うことは絶対だから」
「……そっか」

 慶の手が、ハンドルを握っているおれの手の上にそっと重なる。温かい手……
 慶が下をむいてボソッと言った。

「おれ、何もできなくてごめんな」
「え?」

 真剣な声にぎょっとする。何を言って……。
 慶はポツポツと続ける。

「守るって言ったのに、何もできなかった」
「慶……」

 歩みをとめ、慶が重ねてくれた手の上に、もう片方の手をのせる。

「そんなことないよ。慶、守ってくれたよ」
「守ってないじゃん」
「守ったよ」

 ぎゅううっと手に力をこめると、ビックリしたように慶がこちらを見上げた。

 愛しい慶。大好きな慶……

「慶は、おれの心を守ってくれてる」
「…………」

 慶がいてくれるから、おれは壊れないでいられる……

 しばらくの沈黙の後……

「……ばーか」

 慶が照れたように言って、重ねていた手にぎゅっと力をこめてくれた。


 慶がいてくれるから大丈夫……
 おれはずっとずっと、慶と一緒にいたい。それは叶えられない夢なんだろうか……




----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
慶の父は、アメリカに本社のある製薬会社の営業マンです。慶の母は、薬剤師。最寄り駅近くのクリニックにお勤めです。慶の姉は、看護婦(作中92年なので、看護師ではなく看護婦)です。
また明後日よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!どれだけ励まされていることか……。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「将来」目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~将来2-1(浩介視点)

2016年03月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来


『何があったって嫌いになんかなるわけねえだろ?』

 おれの親友であり、恋人でもある慶が、その揺るぎない瞳で言ってくれた。

『安心しろ。何があっても大丈夫だから。お前はおれが守るから』

 愛に包まれていると実感できる言葉……

(そういえば)
 ふいに思い出して、笑いそうになってしまった。

(合宿の時、慶ってば五十嵐先輩に飛び蹴りしたんだよなあ)

 おれが写真部OBの五十嵐先輩に突き飛ばされたのを見て、慶は問答無用容赦なく、先輩を飛び蹴りで吹っ飛ばしたのだ。あの小柄な体にどれだけパワーがあるのか、あの中性的で美しい顔からはまったく想像できない。

 慶はいつでも守ってくれる。精神的にも肉体的にも。その揺るぎない瞳で。

(今日も会いたかったなあ……)

 でも、用心して止めておいた。
 明日はバスケ部の冬休み最後の練習が朝からある。親に文句を言わせないため、今日は一日家で勉強していなくては………というのもあるのだが、最大の理由は、昨日、慶とキスしているところを、母に見られてしまったからだ。

 ほとぼりが冷めるまで待ってから帰宅したところ、母は普通に夕食の用意をしていた。父も帰宅していたけれど、食事の席でも何も言われることはなく安心したのだが……


(あそこまでの悲鳴は久しぶりだったな……)

 思いだして、うんざりしてしまう。
 慶とおれのキスをみて、母は金切り声で叫び続けた。
 あそこまでの声は、中学三年の夏休みに「高校からは地元の公立高校に行きたい」と話した時以来だと思う。

『今の学校に入学するのがどれだけ大変だったか分かってるの?! 今だって、保健室登校と定期テストだけで進級させてもらうために、お母さんがどれだけ大変な思いをしてるか……っ』

 中3のあの時……母が恩着せがましく騒ぎ立てた上に、いつものように手を振り上げてきたので、

『やめて』
『!』

 はじめて、母の手を掴んだ。すると簡単に母の手は止まった。
 今まで恐怖のため体が動かず母からの暴力を甘んじて受け続けていたけれども、もう、おれはその気になれば、母を止めることができる、ということに、この時初めて気が付いた。背も、とっくに母を越していたのだ。

 母は一瞬怯えたような表情をしたものの、手で敵わないなら口で、と言わんばかりに暴言セリフを大声で吐き続けていた。でも、おれはもう怖くはなかった。


「あの時も……」
 中3のあの時、母に反抗しようと思えたのは、『渋谷慶』のおかげだった。偶然見かけた『渋谷慶』の光がおれを救ってくれた。

「慶は本当に、おれの救世主だな」
 鉛筆をプラプラさせながら一人ごちて、勉強を再開しようとしたところ、

「………?」

 階下から電話の呼びだし音が聞こえてきた。
 3回、4回……とコールするのに、母が出る気配がない。

 なんだろう? 出かけているのだろうか?
 日曜の朝10時過ぎに外出? 珍しい………

 と、そこへ。

「!」
 バンッと隣の部屋のドアが開く音がして飛び上がった。そして、

「おい! 電話!」
「!!」

 廊下に響く怒鳴り声。……父だ。

「は、はい!!」
 一瞬で血の気が引く。転がるように椅子からおり、部屋からでる。と同時に、

「!」
 バンッと、今度はドアが閉まる音。そしていらついたように物を叩きつけたような音が聞こえてきて身を縮める。

「す、すみませんっ」
 慌てて下までかけおりて、玄関に置いてある電話の受話器を取り上げる。

(こわい……)
 父の機嫌を損ねるのは何よりも恐ろしい。それは小さい頃から変わらない。

(母がおれを支配下に置こうとするのは、おれを父が望む子供にするため)

 そのことにも小学生の時には気が付いていた。おれも母も、父の駒にすぎない……


「はい。桜井です。……え」

 日曜の朝から誰だよ、と心の中で毒づいてから名乗ったのだが、その電話の相手の意外さにビックリしてしまう。

「み……みなみちゃん?」
 慶の妹、南ちゃんだった。南ちゃんはいつものように飄々とした口調で恐ろしいことを言った。


『今ねえ、浩介さんのお母さんがうちに来てるよー』
「え?!」

 うちにって、慶のうちに? おれの母が?!

『それで、うちの子を誘惑するのをやめさせてください!とかうちの親に言って、面白いことになってる』
「!」

 なんてこと……


 フラッシュバックがおこり、一瞬倒れそうになる。

 あれは幼稚園の時……
 せっかく仲良くなれそうだった同じ班の男の子。子供同士のたわいもないやり取りの中で、引っ掻き傷をつけられた。そんなのは痛くもなんともなかったのに、

『人に怪我させるなんて、いったいどんな教育してるんですか!』
 母に引きづられるようにその男の子の家に連れて行かれ、母がその子のお母さんを散々罵り、最後には土下座をさせたのを見てどれだけショックだったか……

 そしてその次の日から、その男の子どころか、他の子からも話かけても避けられるようになった。

『浩介君と遊んじゃだめってママに言われてるの。みんなそうだよ』
 お喋りな女の子が教えてくれた。おれと遊ぶと大変なことになるから遊んじゃダメだって。そして……

『みんな浩介君のこと嫌いになったんだよ』



 慶……
 慶は……何があっても嫌いにならないって……


「今すぐ行くから!」

 南ちゃんの返事を待たずして、受話器を乱暴に置く。


 慶……慶。

 慶、お願いだから……お願いだから、おれを嫌いにならないで。





----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
また明後日よろしくお願いいたします!(あー本当は明日更新したいー。本当は一回で終わるはずが、書き終われなくて二回に分かれてるから……)
クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!背中押していただいています!今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「将来」目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~将来1(慶視点)

2016年03月26日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 将来

 昨年と同じく、今年も初詣は浩介と二人で鶴岡八幡宮に行った。

 昨年は『親友』だったおれ達。
 今年は『親友兼恋人』。そう『恋人』……

 ああダメだ。ニヤニヤが止まらない。

 今年は4日に来たので、3日に来た昨年よりは空いている気はするけれども、それでも人は多い。

「去年、一回はぐれちゃったよね」
「そうそう。それでその後、お前、おれの腕ずっと掴んでて、なんかすげーかわいかったんだよなあ……」
「じゃ、今年も掴んでる~」

 浩介がピッタリとおれにくっついてくる。
 どうするおれ。正月早々こんなに幸せでいいのか?


「慶、今年の願い事、何にする?」

 昨年は「2年生では同じクラスになれますように」ってお願いをして、見事に叶えてもらえた。
 今年は、文系と理系でコースがわかれるので、同じクラスは絶対に無理……

「うーん……」
「クラスが違くなっても、たくさん会えますように、とかどう?」
「おお、それいいな」

 うんうんうなずいてから、あ、と思いついた。

「委員会同じのやろうぜ」
「あ、そうだね! また体育委員?」
「体育委員は活動がクラスごとだからなあ……。クラスごとじゃない委員会……図書委員とか?」
「図書委員?!」

 盛大に吹き出して笑いだした浩介にムッとする。

「なんでそこで笑う」
「だって、図書委員って! 慶、似合わない~」
「なんでだよっこれを期にすっげえ本好きになるかもしんねえぞ!」
「ならないならない」
「うるせえ」

 頭を撫でてきた手を上からぎゅーっと押さえつける。

「なんでもいいんだよっ。お前と一緒にいられるならっ」

 そう。なんでもいいんだ。ただ、少しでも一緒にいたいだけなんだ。

「…………慶」
 浩介の目がうるうるしはじめた。

「そんな嬉しいこと言われたら泣いちゃうよ」
「なんだそりゃ」

 今度はおれが吹き出すと、浩介が後ろから抱きつくみたいにおれの肩に手を回してきた。
 どうしようもない幸福感に包まれて倒れそうになる。でもなんとか真面目に返す。

「こら、歩きずらい」
「我慢我慢」
「我慢てお前がいうか」

 二人でクスクス笑い合う。

『三年生になってもたくさん会えますように』

 願い事はそれに決定した。


***


 帰りに浩介のうちに寄った。
 家の前までは何度か来たことはあるけれど、中に入るのは初めてだ。

 詳しくは聞いていないが、浩介は親とうまくいっていないようで、言葉の端々に、親を避けたい、親とおれを関わらせたくない、と思っていることが滲みでている。

 今日は、父親は仕事で母親は外出しているから上がっても大丈夫、というので、昔のアルバムを見せてもらうことになったのだ。

「広っ! 天井高っ!」

 外から見た予想通り、家の中も広かった。玄関に活けられた花も吹き抜けの玄関に下げられたシャンデリアも飾られた絵も豪華そのもので、金持ちなんだなあ……って感じがする。
 でも、何というか……まるでモデルルームみたいに完璧で生活感がなくて寒々しい……

 階段をのぼっていき、いくつかある部屋の一番奥が浩介の部屋だった。
 入っていき、ちょっと安心する。この中だけは浩介の匂いがしてあたたかい。

「なんか……お前らしい部屋だな」
「そう?」
「本がいっぱいある」

 ベットと机と大きな本棚があるだけのシンプルな部屋。その本棚には浩介の世界が詰まっているようで、それを見られることが嬉しい。

「慶の中のおれって本ってイメージ?」
「うん。いつも本読んでる感じがする」

 本読んでる時の横顔も好き。なんて恥ずかしいから言わないけど。

「アルバムっておれも見るのすごい久しぶり……」

 浩介がテーブルを出してくれ、その上にアルバムを2冊積み上げた。

 1冊目は赤ちゃん時代。めちゃめちゃかわいい!
 お母さんは常に柔らかい笑顔を浮かべていて、お父さんもほとんど仏頂面ながらも数枚は笑顔じみたものもあって、浩介はこれでもかというくらいニコニコしていて。幸せそうな家族3人の姿が写しだされた写真の数々だ。

 でも………三才くらいからだろうか。笑顔がひきつったものに変わってきて、写真の枚数も激減してきて……小学校入学以降はその笑顔すらほとんどなくなった。無表情………瞳に何も写していないかのような無表情……。

 そのアルバムを見ている今の浩介も、何を考えているのか分からない無表情だ。見ているのが辛くなってくる。アルバムを見せてほしい、なんて言うんじゃなかったな……。
 でも、そんな気持ち、浩介に悟られてはならない。明るく、浩介の腕をバシバシ叩く。

「お前、大人っぽいなー! 小学校入学くらいから今とあんまり変わんねえじゃん」
「そう……かな。あ、この頃だよね。慶に会ったの」

 おれ達は、小学校低学年の時に一度だけ会ったことがある。2ヶ月ほど前に姉に指摘されるまでまったく気がつかなかったのだけれども……

「あー、そういやこんな顔してたなお前」
「うそうそ。覚えてないくせに」

 クスクス笑いだした浩介の笑顔にホッとする。

「あ、外国だ。これどこ?」
「イギリス。こっちはシンガポール。それでこれが………」

 あとは海外旅行の写真ばかりだった。毎年、海外にいっていたらしい。でも、その中の浩介はやはりどれも無表情。何を思っていたんだろう……。

「これ、もう中学生?」
「そう……だね」

 大人っぽい。背も高いせいか高校生に見える。

「なんかすげー大人って感じするな。モテただろ?」
「…………」

 えいっとつつくと、浩介は苦笑を浮かべた。

「中学、男子校だから」
「あ……そうなんだ」

 浩介の小中学校時代に関しては、触れてはいけない感じがして、あまり話題にしたことがない。都内の私立校とは聞いていたけれど、男子校とは知らなかった。どこの学校だったんだろう。何となく聞きずらい……

(あ、卒業アルバム見せてもらえばいいんだ)

 思いついたたま言おうとしたのだけれども……

「なあ、卒業アルバム……」
「……ごめん。ないんだ。捨てちゃったから」
「え?」

 捨てた?
 あっさりと言った浩介の言葉に、驚きで絶句してしまう。卒業アルバムを捨てるって、いったいどうして………

 何を言えば……。話変えた方がいいのか? それとも理由を聞いてもいいのか?
 迷って、黙ってしまっていたところ、

「……慶」
「え」

 ふいにテーブルの下で、浩介の手がおれの手をきゅっと掴んできた。

「浩介?」
「…………おれね」

 浩介はうつむいているのでどんな顔をしているのか分からない。でも、繋がれた手から震えが伝わってくる。震えたまま浩介が小さく続けた。

「中学、あまり行ってなくて」
「…………」
「登校拒否ってやつ」

 登校拒否………

「だから卒業アルバムもね、個人写真しかなかったの。集合写真にも修学旅行とか行事の写真のところにも載ってないから、だから……」
「そっか」

 震える浩介の手を両手で包み込み、強く握りしめる。

「卒業アルバムなんて、卒業式の時見るくらいであとは見ねえからな。別にあってもなくても」
「………」

 手を絡めるように繋ぎ直し、空いた方の手で手の甲を撫でてやっていたら、震えがとまってきた。

 もっと話を聞いてやりたいという気持ちと、話したくないことを話させてしまったのではないか?という後悔とで、何を言っていいのか分からない……。

「慶」
「………え?」

 内面を見透かされたように声をかけられドキッとする。見返すと、浩介の辛そうな瞳があって………

「浩介?」
 極力普通の声で呼びかけたけれど、浩介は視線を外し、ボソッと言った。

「………変な話ししてごめんね」
「え」

 浩介の手、せっかく止まっていた震えが復活している。

「登校拒否なんてあきれた?」
「え」
「………嫌いになった?」
「…………」

 震えてる。震えてる浩介……
 震えるな。おれがいるから。おれが守るから………

「ばーか」
 たまらなくなって、頭を抱き寄せて、耳元にささやく。

「何があったって嫌いになんかなるわけねえだろ」
「…………」
「一年以上片想いしてたおれをなめんなよ」
「…………」

 顔をあげた浩介の涙を唇で拭ってやると、浩介は泣きそうな顔で笑った。



「これから慶のうちにいってもいい? おれも慶のアルバム見たい」
「おお。いいぞ」
「モテモテの慶の写真かあ」

 アルバムとテーブルを片付けながら浩介が言ってきたので、ムッとして返す。

「だから前も言ったけど、それどこ情報だよ。別にモテてねえよ」
「だって……」

 浩介がちょっとふくれて言う。

「後夜祭の時、初めてキスした時だってさ……」
「なんだよ」
「おれはもちろん初めてだったけど、慶は……」
「……っ」

 片付け終わった浩介がおれの前に立ち、指で唇をたどってきたので、血のめぐりが3倍になってどぎまぎしてしまう。
 でもそんなこと構わないように、浩介はふくれたまま言い放った。

「慶、初めてじゃなかったでしょ?」
「は!?」

 なんでそうなる!?

「だからあのあと何もなかったみたいに……」
「ちょっと待て。それはこっちのセリフだ。お前こそ、何もなかったみたいだったじゃねえかよっ」
「そんなことないよっ。すっごい緊張してたよっ」
「………………そうなのか?」

 まだ親友でしかなかった時に、うっかり(うっかり!?)キスしてしまったおれ達。でもそのあともしばらくは何もなかったように過ごしていたんだ。それで、おれはかなり凹んで………

 浩介が軽く肩をすくめて言う。

「当たり前でしょ。でも慶は全然普通だったから……。だからやっぱり経験者は違うんだなあって思って」
「待て待てっ。誰が経験者だっ」
「誰がって慶が」
「あほかっ」

 軽く蹴りを入れてやる。

「おれだって初めてだったよっ。当たり前だろっ。誰とも付き合ったこともないのに!」
「………そうなの?」

 眉を寄せた浩介にコクコクうなずく。

「ホントに?」
「ホントだよっ」

 しばらくジーっと見つめあっていたけれど………

「………嬉しい」
 浩介がふっと笑った。

「嬉しい。慶の初めての相手がおれで」
「…………」

 そっと浩介の手がおれの頬に触れる。

「慶のほっぺはいっつも温かいね」
「…………」

 それはお前の手がいつも冷たいからだ。その冷たい手をおれはいつでも温めてやりたい。

「……浩介」
 頬に触れられた手を上から手で包み込む。

「慶」
 浩介の唇が、おれの額に下りてきた。それから、瞼、頬、そして……
 
 唇に触れるだけのキス。

 もう何度もしてるのに、幸せでたまらなくなる。体中が愛しさに占領されて苦しいくらいだ。

「慶」
 コツン、とおでこを合わせ、小さく笑い合う。

「慶、おれすごい幸せ」
「ん」

 おれも………
 お前のことが愛しくてたまらない。

 もう一度、唇を合わせた………その時だった。


 ガチャーン!と食器の割れたような音が響き渡った。

「え?」
 驚いて音のした方を振り返ったところ

「あなた達………何を……何をして……」

 浩介のお母さん、だ。
 真っ青な顔をして口を押さえている。足元には紅茶のカップの破片が散乱していて……

「………お母さん」
 蒼白になった浩介がつぶやいた、のと、同時だった。

「!?」

 悲鳴? 何? なんだ!?
 なんて言っているか分からないヒステリックな女性の叫び声が、浩介の母親から発せられた。その顔はおそろしく歪んでいて……

(夜叉……)
 ゾッとした。まるで夜叉の面だ………



 それからは……あっという間だった。
 浩介がおれの腕を掴んで、母親の横をすり抜け玄関に向かい……そんな中でも浩介の母親の悲鳴じみた叫び声はずっとずっと続いていて……気がついたら、浩介と二人でおれの家に向かって歩いていた。


「ごめんね。びっくりさせて」

 浩介が気まずそうに言う。

「うちの母親、スイッチ入ると止まらなくて……」
「……大丈夫なのか? 出てきちゃって」
「うん……」

 慌てていたせいで、いつもは自転車で移動するのに、歩きで出てきてしまった。まあ徒歩でも30分程度だから大した距離ではないが。

「父が帰ってきてから帰りたいんだけど、それまで慶の家にいさせてもらってもいい?」
「もちろん。おれはお前と長く一緒にいられて嬉しい」

 わざとふざけて言ったのに、浩介はふにゃっと泣きそうな顔になってしまった。

「慶……」
「なんだ。どうした」

 背中をさすってやると、浩介は下を向いたままボソボソと言った。

「もし……おれの母が何か言ってきたり、何かしてきたりしても……」
「?」

 何か言ってきたり、してきたり?? ってなんだろう?

 首を傾げたおれに気づくこともなく、浩介は暗い声で続けた。

「それでも……おれのこと、嫌わないでくれる?」
「………」

 下を向いたままの浩介……

「………だーかーらー」
 ビシッと額を弾いてやる。

「さっきも言ったけど、何があったって嫌いになるわけないだろー?」
「でも」
「お前分かってる? おれ、一年以上男のお前に片想いしてたんだぞ? そんじょそこらの片想いとは気合いの入り方違うぞ?」
「……慶」

 泣きそうな顔で笑う浩介。そう。笑ってろ。おれがお前を守ってやる。

「だから、安心しろ。何があっても大丈夫だから。お前はおれが守るから」
「……うん」

 こっくりと肯いた浩介の頭をなでてやる。

 何があっても、おれがお前を守る。あらためて心に強く誓った。



 でも、その後、おれの力ではどうすることもできないことがあることを、思い知らされることになる。

 翌朝、日曜日。10時ピッタリ。うちの玄関のチャイムが鳴った。
 玄関を開けた先に佇んでいたのは、浩介の母親だった。黒々としたオーラが空に立ちのぼっていた。



----------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
一昨日投稿した人物紹介に引き続き、本編『将来編』になります。

生まれた時は幸せそのものだった浩介の家族、崩れはじめたきっかけは幼稚園お受験の失敗でした。
浩介と両親との確執はこれからもずっと続き、歩み寄るのは40過ぎてからになります(その話が「あいじょうのかたち」シリーズになります)。

って、暗い話でスミマセン^^;
でも二人はラブラブだから! まだ触れるだけの軽いキスしかしてないような初々しい二人のラブラブだから!
そういうわけで、また明後日(に更新したい)。よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!こんな真面目で普通なお話にクリックいただけて本当に感謝しております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「将来」目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

風のゆくえには~巡合 目次・人物紹介・あらすじ

2016年03月22日 18時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合
(2016年2月20日に書いた記事ですが、カテゴリーで巡合のはじめに表示させるために2016年3月22日に投稿日を操作しました)


目次↓

巡合1(慶視点)
巡合2-1(浩介視点)
巡合2-2(浩介視点)
巡合3(慶視点)
巡合4(浩介視点)
巡合5(慶視点)
巡合6(浩介視点)
巡合7-1(慶視点)
巡合7-2(慶視点)
巡合8(浩介視点)
巡合9-1(慶視点
巡合9-2(慶視点)
巡合10(浩介視点)
巡合11(慶視点)
巡合12-1(浩介視点)
巡合12-2(浩介視点)・完



人物紹介↓

主人公1:渋谷慶(しぶやけい)

高校2年生。身長161cm(高3時164cm)
中性的な顔立ちと背が低いことがコンプレックス。そのせいか、口が悪く、喧嘩っ早い。
人懐っこく友達は多い。でも交遊関係は典型的な『広く浅く』。浩介は初めての『親友』といえる。

ものすごい美少年。でも、本人に自覚ナシ。
中学時代はバスケ部在籍。その顔の上に、スポーツ万能で頭もそこそこ良かったため女子に非常にモテた。けれども、理想の女の子がいない、と言って全部お断りしていた。
8歳年上の姉・2歳年下(学年は一年下)の妹がいる。両親共働き。

高校1年の秋に、浩介への恋心を自覚。以来ずっと、気持ちを隠しながら健気に片思い中。
写真部所属。


主人公2:桜井浩介(さくらいこうすけ)

高校2年生。身長175cm(高3時176cm→大学2年177cm)
人の記憶にあまり残らないような平凡な顔立ち。
中学まで通っていた都内の私立男子校でいじめを受けていた影響で、高校ではとにかく笑顔でいることを心掛けている。
頭が良く、特に英語は学年首位の座を守り続けている(理数を含めると学年順位は毎回10位以内)。
威圧的な弁護士の父と過干渉な専業主婦の母がいる。一人っ子。

バスケ部と写真部に所属。
バスケ部の先輩・美幸さんに片思いをしていたけれど、美幸さんとバスケ部キャプテン田辺先輩のキューピットをして、自らは失恋(←『片恋』編)

何だかんだと常に暗~いことを考えてしまうネガティブ男子。
でもそれではダメだ!と一念発起(←『月光』編)。
慶の隣にいるのにふさわしい男になる、と頑張りはじめるけれども……



<2年10組>

溝部祐太郎(みぞべゆうたろう)
身長168cm。ちょっと太め。お調子者。野球部所属。

山崎卓也(やまざきたくや)
身長172cm。ヒョロリとしている。真面目で大人しい。鉄道研究部所属。

斉藤健一(さいとうけんいち)
身長170cm。明るく社交的。バスケ部所属。

浜野ちひろ(はまのちひろ)
身長153cm。色白。眼光が鋭い。独特の雰囲気を醸し出している。美術部所属。


<写真部>

渋谷南(しぶやみなみ)
高校1年生。身長155cm
慶の妹。今で言う『腐女子』。陰となり日向となり勝手に兄の恋を応援している。
せっかく美人なのに自覚がなく洒落っ気もないため、隠れ美人止まり。

橘真理子(たちばなまりこ)
高校1年生。身長149cm
ふわふわした可愛らしい容姿だが、実は腹黒いしっかり者。
実兄である橘雅己に片思い中。

橘雅己(たちばなまさき)
高校3年生。身長174cm
真理子の兄。学年首位。将来は実家の家業を継ぐため写真家への道は諦めている。


<バスケ部>

篠原輝臣(しのはらてるおみ)
高校二年生。身長171cm
部活内で浩介と組まされることが多く、二人セットで『しのさくら』と呼ばれている。
平均的男子。恋愛話大好き。常に彼女絶賛募集中。

荻野夏希(おぎのなつき)
高校二年生。身長158cm
慶と同じ中学出身。高1のとき浩介と同じクラス。

上岡武史(かみおかたけし)
高校二年生。身長173cm
慶と同じ中学出身。中学時代は慶と犬猿の仲だった。


<文化祭実行委員>

安倍康彦(あべやすひこ)
高校二年生。身長169cm
慶の元同じクラス。浩介以外で慶が一番仲の良い男子。通称ヤス。石川さんに片思い中。

石川直子(いしかわなおこ)
高校二年生。身長159cm
慶の元同じクラス。一年生の時からずっと慶に片思い中。

鈴木真弓(すずきまゆみ)
高校三年生。身長172cm
文化祭実行副委員長。



あらすじ↓

高校2年生2学期。

文化祭実行委員長になってしまった慶。忙しすぎて浩介とロクに話もできずストレスマックスな日々。
一方、浩介も、文化祭クラス委員になり、苦手な人前に立つ仕事に奮闘中。

そんな中、浩介は、慶の友人ヤスから、真理子が慶の理想の女子にピッタリだという話を聞かされる……

浩介がとうとう、慶への恋心を自覚する、かも?!
そして、小中学校時代のトラウマを乗り越え、本当の意味で学校生活を謳歌できるようになるための物語。



----------------------------------------


明朝朝7時21分からはじまる『巡合(めぐりあわせ)編』の人物紹介とあらすじでした。
お読みくださりありがとうございました!

文化祭……青春ですね~~。
あ、でも、一回目の明日は、プロローグ的に体育祭の話!
この学校、体育祭は9月末、文化祭は11月頭、なんです。

と、いうわけで、新章もどうぞよろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!とっても励みになります。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~巡合12-2(浩介視点)・完

2016年03月22日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 巡合


 12月25日が終業式のため、24日は午前授業で3、4時間目は大掃除だった。

 慶とおれは掃除の班も同じなため、一緒に階段の掃除を担当していたんだけど、お互い階段の端から洗剤のついたスポンジで磨いていって、真ん中あたりでぶつかる度、一緒のバケツで雑巾を洗う度、嬉しくてしょうがない。

「お前、ニヤニヤしすぎ」

 慶に苦笑して言われたけれど、どうしても止まらない。
 大好きな人がそばにいて、その人もおれのことを好きっていってくれてて。こんなに幸せなことってない。

 夜のデートの約束までずっと一緒にいたかったのだけれども、あいにく午後からはバスケ部の練習。
 でも、その前に……


「見せたいものってなんだろうねえ?」
「さあ……」

 ホームルーム終了後、おれ達は写真部の部室に向かった。
 昨日、橘先輩の妹の真理子ちゃんから、慶の妹の南ちゃん宛に電話があり、伝言されたそうなのだ。

 橘先輩が、おれに見せたいものがあるから、放課後写真部の部室に来るように言っている、と……


 写真部の部室は鍵は開いているのに誰もいなかった。暗室にもいない。

「トイレかな?」
「まあ、待つか……。あ、お前、弁当食ってれば?」
「あ……うん」

 今ごろ、バスケ部員は体育館で弁当を食べているはずだ。おれも今食べないと食べそこなってしまう。

「うわっうまそー」
「……そう?」

 弁当を開いたなり慶に言われて、複雑な気持ちになる。毎日、毎日、栄養バランスの考えられたすべて手作りの完璧な弁当。その完璧さに追い詰められて息が苦しくなる……

「……食べる?」
 思わず言うと、慶が目を輝かせた。

「やった! じゃあ……これ!」
「うん」

 ピーマンやらニンジンやらが入った肉団子を箸でつまみ、顔をあげると……

(……うわっ)

 慶が、あーんって口を開いて待っている。その破壊力抜群の可愛さにクラクラきてしまう。
 なんとか平常心をかき集めて、慶の口の中に肉団子を放り込む。

「んーーーー、んめえっ」

 肉団子を頬張った慶が嬉しそうに咀嚼している。

「もっといる?」
「うん! あ、でも、お前も食え」
「うん」

 いつもは苦しくなる弁当も、慶と一緒だとおいしい。
 慶に時々あげながら、弁当を全部食べ終わり、幸せな気持ちが止まらなくて微笑み合っていたところで、

「え!?」
「わあっ!」

 いきなりのシャッター音に飛び上がってしまう。

「た……橘先輩!」
 いつの間に、ドアを入ってすぐのところで橘先輩がカメラを構えて立っていた。いつからいた……!?

「なんだ………」
 驚いているおれ達にもかまわず、橘先輩はもう一度シャッターをきると、

「君たち上手くいったんだな……なら必要なかったか………」
「え?」
「は?」

 上手くいった………って! えええ!?

「いや……渋谷には真理子の件で世話になったから、礼をしないとと思っていてな」
「え………」

 橘先輩、真面目な顔をしてこちらにやってくると、鞄をテーブルの上に置いて何かゴソゴソ取りだしはじめた。

 世話って……慶が真理子ちゃんを慰めた件?
 上手くいったって、それは、慶とおれが付き合いはじめたことをいってる……?

 頭の中が「?」でいっぱいの中、橘先輩に見せられたのは、2枚の写真………

「これを桜井に見せてやろうと思ったんだ」
「おれに……?」

 それは合宿の最終日、帰る直前に、橘先輩のカメラで、おれが慶を、慶がおれを撮った写真だった。
 自分で言うのもなんだけど……二人ともすごく柔らかい良い表情をしている。

 これが? と首をかしげたおれ達に、橘先輩は無表情に言い放った。

「愛に溢れている写真だろう」
「え………」

 愛に溢れて………

「アングルその他は平凡そのもので何の評価もできないが、この表情はプロでも撮れない」
「…………」
「君たちが思い合っている証拠だ」

 思わず慶と顔を見合わせる。
 思い合っているって………

「桜井が自分の気持ちに気がついていないようだったから、教えてやろうかと思ったんだが………気がついたんだな?」
「あ………はい」

 素直にうなずく。
 この人は、カメラのフィルターを通すと色々なことが見えてしまうのだろう……。

「お礼って……」
「渋谷が桜井に片思いしてることは最初から分かっていたからな。お礼に桜井を自覚させてやろうかと」
「……………」

 慶は額を押さえて複雑な表情でうつむいている。

「あの……」
 この際だから聞いてみたくなった。

「先輩に聞くのも変なんですけど……、おれって、いつから渋谷君のこと好きでした?」
「おま……っ何を……っ」

 慶は赤くなって顔を上げたけれども、橘先輩は淡々と答えてくれる。

「最初から友情以上の感情はあったようだが……変化があったのは、合宿の時だな……」

 合宿の時……憧れの『渋谷慶』でなく、慶自身と一緒にいたい、と気がついた……

「あと、体育祭後くらいから、色んな感情が渦巻きはじめたって感じか……」

 体育祭後……文化祭の準備が始まったころだ。慶の隣に並ぶのにふさわしい男になりたい、と委員を引き受けて……それと同時に醜い嫉妬心と独占欲が押さえられなくなって……

「被写体としては君たちは本当に優秀だったが……」

 橘先輩は再びカメラをおれ達に向け……でも、すぐに下ろした。

「なんか面白くなくなったな……。今までは、渋谷のうちに秘めた情熱を写真に写し出すことが面白かったのに……」

 肩をすくめる橘先輩。

「今はもう、その情熱が外までだだ漏れていて、面白くともなんともない」
「だだ漏れって……っ」

 慶、真っ赤。可愛い。
 橘先輩が次におれをみてため息をついた。

「桜井も、殺意すら滲んでたのに、すっかり穏やかになって……つまらんな」
「さ、殺意……」

 おれ、そんなに酷かった?

「まあ、それじゃあ礼は別に考えよう」
「…………あ、でも」

 思わず言葉が出てしまった。

「おれ、自分の気持ちに気がつけたの、橘先輩のおかげです。こないだの木曜日に橘先輩が言ってくださった言葉がきっかけなので……」
「え、何それ」

 すかさず慶につっこまれる。おれが答える前に橘先輩が「ああ、なんだ」と言葉を継いだ。

「いや、土曜日に二人を見かけたとき状況が変わってなかったから、もっとはっきり言わないとダメだったか、と思って今日呼び出したんだが」
「あ……そうだったんですか……」

 ほんとすごいなこの人………何もかもお見通しなんだ。

「じゃあ、これが礼ってことでいいな? 渋谷」
「って、だから何を言ったんですか?」

 橘先輩の言葉に、慶が眉を寄せながら言うと、橘先輩は無表情のまま告げた。

「喜怒哀楽の怒って話だ」
「怒?」
「まあ、詳しくは桜井に聞け。でもそろそろ時間じゃないか?」
「あ」

 あと8分で集合時間だ。まずい。まだ着替えてもいない。

「じゃ、また休み明けにな」
「……はい」
 慶は、釈然としない、という顔をしてうなずき、おれに「行くぞ」と声をかけドアに向かった。

「あの……ありがとうございました」
 橘先輩にあらためて頭を下げると、先輩は今日はじめてニヤリと笑った。

「今は喜と楽ばかりだな」
「………はい」

 かなわないなあ……と苦笑するしかない。

「浩介、遅れるぞ?」
「あ、うん」

 ドアを開けて待ってくれている慶にかけよる。
 大好きな慶がおれを待ってくれている。本当に、喜と楽ばかりだ。


***


「で、喜怒哀楽って?」

 クリスマスデートの帰り道、駅からのんびりと慶の家に向かって歩いている最中に、ついにそのことを聞かれた。

 今日はクリスマスだからピザを食べたい、というよくわからない慶の希望を叶えるために、自転車と荷物を慶の家におかせてもらって、電車でピザの食べ放題の店に行った。

 慶は細いのに良く食べる。今日もおれの倍は食べていた。でもさすがに食べ過ぎた!と最後にはフラフラになっていて、子供みたいでおかしくて、愛しくて、何度も何度も頭を撫でた。クリスマス一色の店内のおかげですっかりクリスマス気分。幸せな夜だ。


「あの文化祭のポスター、恋愛の喜怒哀楽を表そうとしたんだって」
「え、そうなのか?」

 文化祭のポスターとは、『恋せよ写真部』という煽り文句の書かれたポスターで、柔らかい笑顔の慶と、泣き顔の真理子ちゃんの写真が使われていた。

「慶のが『喜』、真理子ちゃんが『哀』。それで、こないだの木曜日に橘先輩がおれを撮った写真が『怒』になるって」
「怒?」

 不思議そうな顔をした慶の頭を再び撫でる。

「おれ、慶と真理子ちゃんが仲良くしてるのがムカついてしょうがなくて……。橘先輩にその顔が『嫉妬に怒り狂った恋する男の顔』だって言われて……」
「怒り狂ったって……」

 撫でている手を上から押さえられた。

「お前、前から妙に真理子ちゃんにこだわってるけど、真理子ちゃんとは本当に……」
「真理子ちゃんだけじゃないよ」

 手を裏返してぎゅっと掴む。

「慶と仲良くする人はみんな嫌だった。石川さんも安倍も上岡も、みんな許せなかった」
「……………」

 慶は困ったような、でもちょっと照れたような表情になっている。

「それで気がついたんだよ。慶のことが好きだって」
「…………」

 慶の頭の上で繋いだ手が強く握り返される。愛しい体温が伝わってくる。
 慶の手はいつでも温かい。おれの冷たい手を包み込んでくれる。

「慶は……あのポスターの写真の時、何を見てたの?」

 喜怒哀楽の『喜』。柔らかい笑顔の慶の写真。何を見ているのかずっと気になっていた。

「何って……」 
 慶は目をパシパシさせながらおれを見上げると、 

「それ、本気で聞いてんのか? それとも言わせたいだけ?」
「……え? わっ」

 聞き返すよりも早く、慶が「えいっ」とおれの背中に飛びのってきた。おんぶ、だ。
 伝わってくる温かさ……後ろから耳元に唇を寄せられ囁かれた。

「あんな顔、お前のこと見てたに決まってんだろ」
「………っ」
「おれはお前のことだけ、ずっとずっと見てきたんだからな」
「慶……」
「今までも。これからもだ」

 ぎゅっと抱きついてくれる慶。背中が温かい………。

 怖いくらいの幸せ……

「おれ……慶に出会えてなかったらどうなってたんだろう……」

 思わず出た言葉に自分でもゾッとする。
 慶に出会えていなかったら今もまだあの暗闇の中に……

 深淵に沈みこみそうになったところ、慶に肩をバシバシ叩かれ引き戻される。

「そんなの愚問だ愚問」
「…………」
「おれ達は絶対に出会ってる。おれ達は巡りあう運命なんだからな」
「……慶」

 慶がするするっと背中から下りてきて、おれのことを見上げニッと笑った。

「そうじゃなかったら、こんなに好きになるわけないだろ?」

 慶、慶…………
 なんであなたはこんなに真っ直ぐ、おれなんかのことを見つめてくれるんだろう。体中温かいものに包まれていく……

「慶……大好き」

 抱き寄せて、その愛しい唇に………

 と思ったのに。

「痛っ」
 顎に頭突きされた! 本気で痛いっ!

「もー慶!」
「こんな住宅街の道ばたで何しようとしてんだお前」
「えー………」

 顎をさすりながら、ぶーっとする。

「ケチ。誰もいないじゃん」
「窓から外見てる人とかいるかもしんねえだろっ」

 慶が赤くなりながら小さく言って怒っている。その耳元に呪文のようにささやいてやる。

「キスしたい。キスしたい。キスしたい。キ………」
「うるせえっ」

 普通に蹴られた……。

「もー慶が……とと?」
 文句をいいかけたけたところを、腕をつかまれ、ずんずん引きずられるように歩かさせられる。でも家に向かう角を通りすぎてしまった。

「けいー? ここ曲がるんじゃ……」
「いいんだよっ」

 そのまま曲がらず連れて行かれたのは……昨日キスした川べりだ。

 と、いうことは………

「慶………いいの?」
「…………」

 慶、真っ赤になって、言い訳するようにボソッと言った。

「食べ過ぎたから、ちょっと休憩してから帰る。お前も付き合え」
「…………」

 真っ赤。本当に真っ赤。か、かわいい……

「いいだろ?」
「もちろん!」

 二人並んで土手を下りていく。
 この土手にも何度もきた。悔しくて泣いたことも、嬉しくて笑ったことも、すべてが慶との思い出だ。

「慶……大好きだよ」
「ん」

 そっと唇を合わせる。

「これからも……ずっと一緒にいてくれる?」

 頬を囲み、おでこをコツンとすると、慶がふわりと笑ってくれた。

「当たり前だろ。おれ達はずっと一緒にいる」
「……うん」

 巡りあう運命……
 おれ達は出えた。そして、今、一緒にいる。

 慶……大好きな慶。

 おれ……頑張るから。慶の隣にいるのに相応しい男になるから。

 だから、いつまでも一緒にいて。
 それだけがおれの願い。




<完>


-------------------


お読みくださりありがとうございました!
なんだかまったりした回ですみません。
山あり谷ありありましたが、慶と浩介、無事に両想いになりました。
そしてこの『巡合』編を経て、浩介は少しだけ自分に自信が持てるようになりました。

次回から、お正月以降~高校二年生の終わりまでのお話『風のゆくえには~将来』をお送りいたします。
『将来』の名の通り、2人の今後のこととか、進路のこととか、あいかわらず何も大事件の起きない普通のお話です……
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

そしてクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!おかげさまで無事に『巡合』最終回までたどり着くことができました。もう後は安心してラブラブさせてあげられます。
もしよろしければ今後ともよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「巡合」目次 → こちら
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする