創作小説屋

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BL小説・風のゆくえには〜ありがとうを伝えたい

2024年12月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】


 2024年12月。
 とうとう、新型コロナウィルス感染症に罹患したようだ。(「いままで感染していないなんて珍しい」と周りからは言われたけれど、うちは慶もまだかかっていない)


 月曜日。少し咳の出ている生徒と、長時間の面談を行った。
 火曜日。その生徒が高熱で学校を欠席。コロナ陽性の検査結果が出たそうだ。
 水曜日の夜、若干、喉に違和感が……

(もしかしたらもしかするかも……)

 そう思って、念のため、月曜の夜から慶と寝室を別にしていて大正解だ。

 木曜日の朝、微熱がでたので、念のため、仕事を休んだ。
 大人しく横になって様子を見ていたら、あれよあれよと熱が上がっていき、昼過ぎには、体温計に39.8度と表示されて驚いた。

(39.8って、あと0.2で40度じゃん……)

 ひどい頭痛と金縛りにあっているような固さで、体が動かない。

『水分だけは取れよ?』

って、朝、出勤前に言っていた慶の声が頭をよぎる。

(水分……無理。取りにいけない……)

 まだ元気な午前中のうちに枕元に用意しておけばよかった……
 それか、持ってくると言ってくれた慶のお言葉に甘えて、用意してもらえばよかった……

(だって、朝はまだ元気だったんだもん……)

 こんな数時間で、こんな急激に悪くなるなんて……。これがコロナ。恐ろしい……

(慶には絶対にうつしたくない。今晩からホテルに泊まってもらおうかな)

 以前、おれがインフルエンザになった時には、高校の友人の溝部の部屋に泊まりにいってもらった。でも溝部は結婚したので、さすがにそれは無理だ。ホテルにでも……

(でも……)

 でも。慶……

(会いたい)

 頭が痛すぎるし、動悸もするし、このままこれが続いて心臓止まってしまったら、慶にもう会えない。そう思ったら……

(伝えないと)

 ふいに切迫した感情に囚われた。

(ありがとうって、伝えないと……)

 今までたくさん「好き」って気持ちは伝えてきたけれど……

 感謝の気持ちを伝えきれていない。

 日頃の……例えば、お風呂洗ってくれてありがとう、とか、買い物してくれてありがとう、とかそういうことは言っているけれど。
 そういうことではなくて、

(慶のおかげでおれは………)

 おれは。

 慶がいたから、生きてこられた。
 慶がいなかったら、今、この世にはいないだろう。

 慶……おれのすべて。

(慶……会いたい)

 ありがとうを伝えないと……

 でも、うつしたら大変だから、帰ってきちゃダメだ……

 朦朧とする中、眠りかけては辛くて起きるということを繰り返し……



 人の気配にぼんやり目を開けた。

(…………慶?)

 ぼやけた視点の中に愛しい姿が見える。

「浩介」

 優しい……優しい慶の声。
 涙が出そうになる。

 慶、今朝していたものと同じネクタイだ。マスクもしてる。外はまだ明るい。もしかして早退してきてくれた……?

「大丈夫か?」

 そっと手を取られた。

 いつでも包んでくれる、優しい、温かい手。
 何ものにも代えられない、慶のぬくもり。

 嬉しくて、愛おしくて、涙が出そうになる。

(…………慶)

 心をこめて、口には出さず名前を呼び、見つめ返し、その手を……と?

「?」

 パチリ、と何か人差し指に感触があった。
 見ると、小さな機械がはめられてる……

「96……、大丈夫そうだな」

 慶はボソッと言うと、機械を外し、布団の中におれの手を戻して立ち上がった。

「飲み物持ってくるからちょっと待ってろ」

 …………。

 …………。

 …………。

(ですよねー……)

 はあ……と大きなため息をついてしまった……。

 手を取られて、甘い気持ちになっていたおれ………

(バカだなー……)

 これはあれだ。酸素飽和度を測る機械だ。一時期テレビでよく取り上げられてたから見たことがある。

(あーあ。この状況で慶が手を握ってくれるなんて、あるわけないもんなー)

 ちぇーと、思ってしまうくらいには、なんだか元気になってきた。慶という特効薬は何よりも効く。

「とりあえずこれ飲め。それから着替えるぞ」
「…………」

 戻ってきた慶にコップを差し出された。慶はこういうとき、とことん事務的だ。余計なことをしたら怒られるので、大人しく言うことをきくことにする。

「大丈夫か? 身体拭くぞ」
「…………」

 世話を焼いてくれる慶の温かいぬくもりを感じて、心がホカホカしてくる。


(治ったら…………)

 ありがとうを伝えよう。

 そう、心から思った。

 あなたは、おれのすべて。すべてだと、伝えよう。



終 



---

お読みくださりありがとうございました!
「この人はおれのすべてだ」って、高校生の時にも思った浩介君。何十年たっても、変わらない思い。

さてさて。
実は新しいお話を書き始めております。
主人公が4人いまして、それぞれの視点の1回目を書き終わったところなのです。
でもこれ、4人それぞれ話がてんでバラバラなので、1回目を順番にあげていったら、訳わからんくなる?って気がしてきた……
ので、1人数話ずつ進めていこうかな、と思い直しました。
ということで、しばらく書きためてから、あげていこうと思います〜。

ということで…
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BL小説・風のゆくえには〜記念日追加

2024年11月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】

 11月3日は「初めてキスした記念日」であると同時に、「愛してる記念日」でもある。あの恥ずかしがり屋の慶が「愛してる」と初めて言ってくれた日なのだ。

 5年前に、ひょんなことから、毎年この日には「愛してる」と言う約束をしてくれた慶。それから3年間は順調に毎年言ってくれていた。でも……


(……あ、12時過ぎた)

 11月3日が終わる少し前から、リビングで本を読んでいるフリをしながら時計を見ていたのだけれども……
 慶から「愛してる」の言葉を聞けないまま、日付が変わってしまった瞬間、

(これで良かったのかも……)

と、心にのぼってきた感情が「安心」だったことに、少し戸惑う。

(そりゃ、言ってほしいは言ってほしいけど……)

 記念日に無頓着な慶に、それを強要するのは申し訳ない、という気持ちが大きかった、ということだ。

(今後は、まあ……思い出したら言ってくれる程度で……)

と、いうか、日常的に言ってくれれば、記念日に必ず言う必要もないんだけどね?というツッコミもあったりしますが……

 なんて思いながら、本に目を戻して、数十分後。

「悪い、もう寝るよな? おれ、こっちでやるから、寝ていいぞ?」

 慶がノートパソコンを持って、寝室兼作業場から出てきた。
 慶は明日の講演会のことで、身体も心もいっぱいなのだ。

「慶、まだかかりそうなの?」
「あー、どんな質問飛んでくるかわかんねえから、できるだけ想定問答は多く作っておきたくて……」
「……そっか」

 眼鏡の慶がかっこよすぎて、必要以上に目で追ってしまう。老眼鏡なのにこんなにかっこよくなるなんて、もうズルいというかなんというか……

(あー、やっぱり、おれも見に行きたいなー)

 明日の講演会は、慶の勤める病院の近くの小学校の体育館で行われる。自治会と小学校PTAの共催イベントだそうで、小学生の発表などがいくつかあった後、慶はゲストとして一番最後に登壇することになっている。

 例年のゲストは、音楽やダンスを披露する人たちらしいのに、なぜか今年はお医者さん……

『お客さん、おれの番になったら帰っちゃうよな。知らねーぞホントに……』

と、慶はブツブツ言っていたけれど、絶対にそんなことはない。というか、むしろ増えると思う。

(だって、このチラシの写真……)

 小学校のホームページに載っているイベントのチラシをスマホ画面に呼び出し、あらためて見て、あらためて思う。

(慶、かっこよすぎる)

 白衣姿で、子どもに何か話している様子。優しい目、完璧な美貌。
 絶対、主婦層の集客ねらってるよなこの写真。こんなイケメン、生で見てみたいよな……

(あー、講演する慶。おれも見たかったなー)

 でも、以前、見に行きたいと言ったら、却下されたのだ。恥ずかしいらしい。

(やっぱり、こっそり見に行こうかな……)

 チラシをみる限り、特に入場するにあたり制限はない。近所の人を装っていけば、たぶん問題は……

「あ、ちょうどよかった。そのチラシ、ちょっと見せてくれ」

 資料を持って、作業場とダイニングテーブルを行き来していた慶が、通り道のリビングのソファに座っているおれの肩口から、ひょいと顔を出した。

「おれ、午後一に来いって言われてんだけど、このイベント自体、何時からやってんだっけ?」
「ああ、えとね、10時だったかな……」

 言いながら、開催日時のところを、画面を大きくして見せる。

と、同時に、

「あああああ!!」
「え!?」

 いきなり耳元で叫ばれた。

「え、なに?どうし……」
「うわ、そうだよ……4日だよ……一週間くらい前までは覚えてたのに……」

 慶が、「あー…」といいながら額を押さえている。

 これは……

「……思い出したんだ?」

 開催日時の11月4日、という字を見て、11月3日が前日であることを思い出した、とみた。

「…………悪い」

 慶は、しょぼん、としている。可愛い可哀想な感じに、申し訳ない気持ちとちょっと嬉しい気持ちが入り混じる。

「別にいいよ」
「別にって……」
「記念日気にしない慶に覚えててもらうの申し訳ない気もしてたし」
「そんなこと……、約束してたのに……」

 うなだれた慶。そう思ってくれてるだけで充分だ。

「それじゃあさ」

 その白い頬にそっと触れる。

「明日、見に行ってもいい?」
「え」

 きょとんとした慶に、にっこりと言ってみる。

「それでチャラってことで」
「あー……」

 慶は、あーーーーと長く言った後、「分かった」と渋々うなずいた。

 そして、渋々、な感じにボソリと付けたした。

「……愛してるよ」

 …………。

 …………。

 …………。

 なんか、渋々過ぎて、全然嬉しくないんですけど………。



 でも、そんな不満は翌日に全部吹っ飛んだ。

 講演会の慶が素晴らしくかっこよかったのはもちろんなのだけども、それよりも何よりも、

「私のパートナーです」

と、おれのことを主催者の人たちに紹介してくれたのだ!

(パートナー、だって!)

 その呼び名にグッときてしまった。「彼氏」や「恋人」ももちろん嬉しかったけれど、「パートナー」って、なんか公的な感じがして、良い。

「渋谷先生、馴れ初めとか教えてよー!」
「いや、藤木さん、もう勘弁してくださいよ……」

 主催の女性に盛大にからかわれて、顔を赤くしている慶を見ながら、

(11月4日は「パートナー記念日」だ)

と、心のメモ帳に書き加えたことは、まだ内緒にしておこう。




---

お読みくださりありがとうございました!
月日がたつのが早すぎる!前回の更新から2ヶ月たってることに先ほど気が付きました……。

ということで、記念日一日増えちゃった♥のお話になりました。
本当は、「愛してるってこの日に言うことを強制しないことにする」って話のはずだったのに、記念日増えててビックリだよ……。さすがアニバーサリー男……。

ということで…
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BL小説・風のゆくえには~今年の誕プレは京都旅行です

2024年09月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【浩介視点】


 2024年9月22日日曜日。午前3時半。
 夜行バスから降りて、外の空気を吸う。
 知らない町のパーキングエリア。

 横浜から京都に向かう夜行バスは、3回の休憩をはさむとのことで、この休憩は2回目のものだった。

 寝ている人を起こさない配慮のため、パーキングに着いても、車内の電気がつくだけで、アナウンスは一切流れない。フロントガラスに、出発時間が表示されるだけだ。降りる人もおれを含めて数人だけで、起きない人がほとんどだった。

(コンビニ……やってるんだ)

 この時間なので、食事処や土産屋は開いていないけれど、併設のコンビニエンスストアは営業している。有難いことだ。

(行こうかな……。トイレが先かな……)

 なんて思って立ち止まっていたら、

「浩介っ」
「………っ」

 いきなり、膝の後ろを押されて、がくんっとなった。いわゆる『膝カックン』だ。

「びっくりした……」

 振り返ると、ニヤニヤを抑えきれていない慶の、綺麗な瞳があった。こういう表情、高校時代と本当に変わらない。愛しい気持ちがこみあげてくる。高校時代と同じく、抱きしめたくてたまらなくなるけれど、さすがにもういい大人なので我慢できる……

「慶、起きたんだ?」
「おー、さすがに歳かな? 車止まったら目が覚めた。高校の卒業旅行の時は、朝まで起きなかった気がするんだけどな」
「……そうだね」
「でも、あの時のバスより断然快適だよな」
「うん」

 卒業旅行の時は、補助席も使うくらいに人でいっぱいのバスだった。隣に並んだ座席で、車に酔った慶を膝枕したことをよく覚えている。
 今回のバスは、一人ずつの席が通路を挟んで3列並んでいるので、そういうことはない。足元も広いし、前後も余裕があり座席も倒しやすいので、車酔いもしにくい気がする。

(くっついてないのは、ちょっと残念だけど……)

 快適さ優先、と思うのは、やはり大人になったから、というべきか……

「まだ時間あるよな? コンビニ行くか?」
「うん」

 知らない町。明け方のコンビニ。それだけでも何だかワクワクしてくる非日常感。

「なんか……こういうの、いいよな」
「ん?」
「旅!って感じでテンションあがる」
「………うん」

 日常から離れた世界。そこに、慶がいてくれることが、何より嬉しい。

「慶……ありがとね」
「何が?」

 きょとんとした慶の頬に少しだけ触れる。

「誕生日プレゼント。本当に、嬉しい」
「それは……」

 慶はふっと笑うと、バシバシとおれの腕をたたいてきた。

「まだ、これから! 明日楽しみだな! いや、もう今日だな」
「うん」

 そう、誕生日プレゼントは、これからだ。


***


 9月10日の誕生日当日には、職場の人に紹介されたという評判のレストランに連れてきてくれた。これだけで充分だと思ったのだけれども、

「今年は節目の歳だし、旅行とかも行けたらいいのになあ」

 なんて贅沢なことを思わず言ってしまった。
 その時は、慶も「そうだな」とうなずきつつも、日程的に無理、という結論に至った。慶は土曜日も仕事だし、9月の祝日も仕事が入っていたからだ。

「でも、いつかは行きたいよなあ。お前、どこ行きたい?」
「えー……」

 問われて、パッと脳裏に浮かんだのは、先日テレビでみた……

「京都の……千本鳥居?」
「ああ、伏見稲荷大社な」
「そうそう!」

 あの朱色の連なり、慶に似合いそうで。あそこに佇む慶を見てみたいと思ったのだ。でも……

「でも、慶はおばあちゃんちがあったから、京都は行き慣れすぎてるよね……」
「あー、まあな。子どもの頃は毎年、夏休みも冬休みも行ってたからな……」

 それなのに、中学の修学旅行は京都奈良で、非常に残念だったそうだ。

「じゃあ、京都は慶が仕事の時とかに、一人旅に行ってこようかなー。京都、いいよねえ。二条城とかさ。大政奉還の舞台」
「お前、ほんと幕末好きだよな……」

 なんて話をして、しきりと盛り上がった。

 そんな話をしたなんて忘れていた、翌週のことだった。

「9月22日、仕事で京都に行くことになった」

と、慶が言った。

 そんな偶然ある!? 京都の話をしていたから、京都を呼びよせてしまったのか……

「ただ、21の土曜も23の祝日月曜も仕事だから、日帰りでな」
「わあ、そうなんだ。忙しいね」
「で、な」

 慶は、真面目な顔をして、言葉を継いだのだ。

「京都、お前も行かないか?」
「え」
「ただ、せっかく行くなら、おれもちょっとはお前と一緒に回りたい。でも、朝9時京都集合なんだよ。朝一の新幹線でも8時過ぎ到着だから、どこも行けねえ」
「う……うん」

 慶は淡々と言いながら、スマホの画面をスクロールしはじめた。

「前日入りも考えたけど、土曜の夜も打ち合わせがあって、最終の新幹線に間に合わない可能性がある」
「そうなんだ……」
「で、そんな話を事務の子に話したら……、これを勧められた」

 見せられたのは、夜行バスのページだった。

「横浜を夜中の12時過ぎにでて、京都に7時過ぎに着くバスにまだ空席がある」
「…………」
「京都から稲荷までは、電車で5、6分しかかからない。お前が最初に行きたいって言った千本鳥居、余裕で行ける。しかも朝だから空いてる」
「…………」

 すごい……
 
「どうだ? これ、誕生日プレゼント」
「慶……」
 
 思わず、慶の両手を掴んで、叫んでしまった。

「嬉しい! ぜひ! それでお願いします!」


***


 京都に到着してすぐに、朝食も取らず、電車に飛び乗ったため、7時半前には目的の伏見稲荷大社についた。雨は降ったりやんだりではあったけれど、大雨にはならず、無事に参拝することができた。楼門や本殿の美しさはもちろんのこと、やはり朱色の千本鳥居は圧巻だった。

 朝も早く、天気も悪かったせいか、タイミングをはかれば、なんとか人の映らない鳥居の写真も撮れるくらいの参拝客数で、

(いい写真とれた……)

 神秘的な雰囲気の中の、慶の姿。想像以上の美しさだった。


***

 京都駅に戻り、一緒に朝食をとってから、別行動になった。
 おれは予定通り、幕末維新のゆかりの地を巡って一日を過ごし、慶と京都駅で落ち合ったのは、夜の8時半。それから軽く夕食をとり、お土産を買ってから、夜9時半の新幹線に乗り込んだ。

「で、今日はどこを回ったって?」
「ええとね……」

 隣の席、ぴったりと寄り添いながら、おれの手元のスマホをのぞき込んでくる慶。

「これが二条城……本丸御殿と二の丸御殿の中は撮影禁止だから撮ってないけど……」
「あー、二条城な。懐かしい……」

 そんなことを言いつつ、写真を見ていたのだけれども……

(………あ、寝た)

 ふっと、慶の頭が肩に落ちてきたので、気が付いた。

 慶も昨晩はあまり寝ていないから疲れているのだろう。仕事もあるのに、よくこんな弾丸旅行に付き合ってくれたものだ。

(………………)

 そーっと、スマホのカメラをインカメラにして、おれの肩に頬をつけて眠っている慶の姿を映し出してみる。

(…………慶)

安心したような寝顔……

(天使だな……)

 シャッターを押して、愛しいその姿を保存した。最高の誕生日プレゼントだ。




---

お読みくださりありがとうございました!
基本、火曜と金曜に更新しているのですが、急に予定があいて書けまして……。
来週の火曜日まで更新を待つと10月になってしまうため、土曜日ですが上げてしまいます!

ということで、今年の誕生日は、京都弾丸旅行でございました。
一緒にいられればそれだけでハッピーな二人ですが、たまには非日常を味わってみるのもいいですよね!

ちなみに、伏見稲荷大社は、残念ながら上までは行けませんでした。さすがに時間が心配でね……。いつかまた行けるといいね。

更にちなみに。二人の住まいは、東京都目黒区。東急東横線ユーザーです。この夜行バスが停まる東京駅より、横浜駅の方が近いし、発車時間も遅いため、横浜出発にしました。帰りの新幹線も東京より新横浜の方が近いので新横浜で降りてます。

二人とも50歳になりました。まだまだ若い!

ということで。また……

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BL小説・風のゆくえには~節目の誕生日

2024年08月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
2024年4月末のお話。


【浩介視点】

 なんだか、もやもやした気持ちが続いている。

 昨日。4月28日は、慶の誕生日だった。
 せっかく日曜日と誕生日が重なったというのに、慶は朝から仕事関係の用事で出かけていき、結局帰ってきたのは夜の8時を過ぎていた。
 それからオムライスとケーキを食べたのだけれども、食べ終わったと思ったら、

「ちょっと仕事残ってて……」

と、申し訳なさそうに言って、パソコンとにらめっこをはじめてしまった。

(……うん。仕事……だな)

 お茶を差し入れながら、パソコンの画面を盗み見たところ、あきらかに仕事と思われたので、ちょっとホッとする。

(いや、別に疑ってるわけではないんだけど……)

 せっかくの誕生日。しかもめったにない日曜日の誕生日。

(ちゃんとお祝いしたかったな……)

 そう思ってしまうのは、贅沢なことだろうか……


 と、高校の同級生の溝部に言ったところ、

『この歳で誕生日祝いなんて、ケーキ食えば充分だろ』

と、言われてしまった。

 翌日も祝日で休みだというのに、慶はまた仕事関係で朝から出かけてしまい、鬱々と過ごしていたところに、電話をかけてきた溝部。
 用件が済んだあと、

『お前なんか元気ねーな』

と、鋭く突っ込んできたので、つい愚痴ったら、『お前、あいかわらずだなあ』と呆れられてしまったのだ。

『そもそも、渋谷なんて、高校の時も素で「誕生日忘れてた」って言ってたくらいのやつだぞ。自分の誕生日なんてどうでもいいんだろ』
「あー、あったね、そんなこと……」

 懐かしい。そうだ。思えばあの頃から慶はずっと、誕生日とか記念日に興味がない。

「溝部のうちは誕生日どうしてる?」
『外食が多いかなあ。プレゼントは、さすがによつ葉は当日に渡すけど、陽太と鈴木は近い日の何かのタイミングで買ってやるなあ』

 溝部の娘のよつ葉ちゃんはもう幼稚園の年長さんだ。陽太君は高校3年生。鈴木というのは溝部の奥さん。鈴木さんも高校の同級生なので、こちらにも分かるように「鈴木」と言っているのだろう。さすがにもう本人に「鈴木」呼びはしていないと思う。

 今日、溝部が電話をしてきたのは、陽太君の学校に提出する書類についての相談だった。

『進路についての提出物に、保護者の意見を書く欄があってさ。文章変じゃないか、見てほしいんだけど』

 とのことだった。鈴木さんに見てもらえばいいのに(鈴木さんは雑誌記者だ)、と言ったら、鈴木さんは仕事で明日までいないそうで……

『陽太のやつ、「これ明日提出だった」って今さっき出してきてさー。鈴木に連絡したら、適当に書いておいてって言うしさー。オレ、作文苦手なのに……』

 そう言ってLINEで送ってきた文章は、別にどこも変じゃない。

「大丈夫。よく書けてる。気持ち伝わってくるよ」

 子どもを信頼して、支えたいと思っている気持ちがしっかり書かれている。これを読んだら先生も「この保護者は大丈夫」と安心することだろう。

『本当に? お世辞いってないか?』
「言ってない言ってない」
『んじゃ、これで清書するわ。ありがとな』
「うん」

 じゃ、と電話を切ろうとしたところで、『桜井』と呼び止められ、

『お前なんか元気ねーな』

と、つっこまれて、誕生日の話になった、というわけだ。


『仕事なんだから許してやれよ。祝いたいならこれから祝えばいいだろ』
「うん……そうだね」

 溝部の言葉に無理やりうなずく。

「ありがとう。陽太君、受験頑張って」
『おーサンキューなー』

 じゃあまた、と電話を切ってから、再び溝部からのLINEを見返す……

 懐かしいというより、思い出すと背中が冷たくなってくる大学受験。
 当時は、保護者は印鑑を押すだけで、こんな文章を書かせるなんてことはなかったから良かった。

「第一志望宣言、か……」

 高校三年生の時、母親の希望にそって弁護士の道へ進もうとしていたところを、強引に、思い切り引っ張って、本当に行きたい道へと背中を押してくれた慶。

 おれの人生の節目節目には、全部、慶の存在がある。

「慶にとってもそうだったらいいんだけど……」

 …………。

 …………。

 ………あ。そうか。

 声に出してみて気が付いた。

 慶の人生の節目である「誕生日」。もっときっちりかっちりぎゅーっとしっかり、関わりたかったんだ。

『この歳で誕生日祝いなんて、ケーキ食えば充分だろ』

 溝部の言葉が頭をよぎる。きっと慶もそう思ってるんだろう。

 でも、おれにとっては全然足りない。そんなんじゃ足りない。

 慶の中をおれでいっぱいにしたい。
 いっぱいにして、それで、それで……

「ただいまー」
「!」

 慶! 帰ってきた!

「悪い。予定より遅く……、浩介?」
「慶!」

 思いのまま、靴を脱ぎ終わったばかりの慶に思い切り抱きついたけれど、

「ちょっと待て」

 慶は、ぱっと両手を挙げ、ぶんぶんと首を振った。

「手を洗う」
「うー……」

 最近では、以前のように「帰宅後すぐにシャワーを浴びる」までのことはしなくなったものの、引き続き感染症対策にかなり神経質な慶。しょうがないんだけどさ……

「何か食いにいくか? って、おい」

 丁寧に腕まで洗っている慶の腰を後ろから抱きしめると、慶が鏡越しに眉を寄せてきた。

「まだ洗ってる……」
「じゃあ、いっそのこと、もう、お風呂入ろうよ」
「………」

 後ろからワイシャツのボタンをはずしていくけれど、慶は構わず無言で手を洗い続けている。うがいまでしてから、

「浩介」

 くるり、とこちらを向いた。

「なんかあったか?」
「…………」

 なんか、は、あった。慶の誕生日。昨日だけど。
 でも、そんなこと言っても……

「なんかあったなら言えよ?」
「…………」

 …………。

 言ってもわかってもらえない気がする。気がするけど……

「言わないと伝わらないよね……」
「…………なんだ」

 ひるんだような表情をした慶に、そっと口づける。

「あのね」
「…………」
「あの……、慶の誕生日をお祝いしたい」
「…………。は?」

 予想通り、ますます眉を寄せた慶。

「それは昨日ケーキ食べた……」
「それじゃ足りないの!」

 わざとムッとした表情を作ると、慶は「なんだそりゃ」といつものように言ってから、ふっと、いたずらそうな笑顔になった。

「それで風呂?」
「そうそう」
「なるほど」

 じゃあ、と言って、慶はバサッとワイシャツを脱いだ。

「久しぶりにゆっくり入るかー」
「うん!あ、でも、まだお風呂ためてない……」
「やってるうちにたまるだろ。そんな早く終わらせるつもりねーぞ」
「…………」

 慶って恥ずかしがり屋のくせに、時々こういう直接的な表現をしたりする。それに今更ドキドキしてしまうおれもたいがいだ。いったい何歳になったというんだ。

 って、ときめきに年齢は関係ないか。

「慶……」

 その頬を囲み、ゆっくりと口づける。

「お誕生日おめでとう」

 心を込めて伝えると、慶は照れたように笑ってくれた。



---

お読みくださりありがとうございました!
今年の4月に途中まで書いたけれど、気に入らなくて没にしていたのですが……(気に入らない理由:浩介が鬱陶しい)
ブログやめちゃった?と思われる前に何か更新しないと!と思って、続き書いてみました。お目汚し申し訳ありませんー。

ちなみに、慶が誕生日を忘れていた話はこちら→初めての誕生日
高校二年生の二人。初々しい片思い中の慶君。

なんか、長い話を書きたいなーとずっと思っているのです。
候補として、慶の妹・南ちゃんの息子・守くんの話か、慶の病院の事務の須藤くんの話か……と思っていたのですが、
ふと「一緒にしてもいいんじゃない?」って気づいてしまった。
でもそうなると、登場人物多すぎて、、、
でも、片方ずつだとなかなか妄想が進まなかったそれぞれのお話が、なんとか進んでくれそうなので、挑戦してみようかなあ?と思っております。

なんていいながら、結局、慶と浩介の小話を書いていそうな気がする今日この頃。あ、もうすぐ浩介の誕生日だしね…(9月10日です)

ということで長々と失礼しました!
また!

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(BL小説)風のゆくえには~1999年7の月Ⅱ

2024年07月09日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
というお話を以前に書いております。
1999年。まだ大学生の慶君と、就職3年目の浩介君。
若いー!可愛いー!

それから何年?25年!?きゃー!!
ということで、1999年7の月II、2024年7月のお話です。


【慶視点】

 久しぶりに浩介と帰宅時間が重なって、駅から一緒に歩くことになった。

「なんか……すごい空だねえ」
「だな……」

 予報では、これから雷を伴った激しい雨が降ってくるらしい。薄暗い空の中に黒い雲が見えている。

「なんか……この世の終わりって感じだね」
「この世の終わり……」

 浩介の言葉に、ふっと昔の記憶がよみがえる。

『1999年7の月、恐怖の大王がおりてくるんだって』

 妹の南が、友達から借りたという本を見せながら言ってきたのだ。まだ、自分も南も小学生だった。あの頃そういう話が流行ったのだ。
 1999年といえば、自分は25歳になる。25歳なんてまだまだ先で、具体的な想像はできなかった。

『1999年、何してると思う?』

 当時の南が、無邪気な感じで言ったことは妙に鮮明に覚えている。夏休みのリビング。宿題を広げながらの無駄話。

『私はもう結婚してると思うんだねー。だから旦那さんと一緒にいると思う』
『ふーん』
『お兄ちゃんは?』
『おれは…………』

 …………。

 …………。

 …………。

 おれは?

「…………なんて言ったんだっけ」
「え?」

 思わず呟いてしまって、浩介に振りかえられた。

「なにが?」
「あ……いや……」

 言ったところで、分かるわけもないけれど、誤魔化すのも変なので、話してみる。

「昔、ノストラダムスの大予言ってあっただろ?」
「ああ、うん。恐怖の大王がおりてくるってやつね」
「そうそう。その話を小学生の時に南として……ってあれ?」

 なんかこの会話、前にもしたような気が……

「この話、したことあるか?」
「…………」
「…………」
「…………」

 ………おい。

「なにニヤニヤしてんだよっ」
「痛い痛いっ」

 思わず、はたいてしまって、浩介に大げさに悲鳴をあげられた。でもこれはお前が悪い!

「なんか思い出したんだろっ」
「えー、慶、覚えてないのー?」
「覚えてねえよっ」

 浩介は異常な記憶力の持ち主なので、おれが忘れていることも、よーく覚えていて、こうして一人でニヤニヤされることがよくある……

「なんだよっ言えよっ」
「えー……」

 浩介は口元に手をやり、視線を左上から右上、また左上へと動かしながら「うーん……」と言っていたかと思うと、

「1999年の7月の最終日、おれたち一緒に過ごしたことは覚えてる?」
「…………ええと」

 そういわれてみれば、そんな気もするけれど、そんな何十年も前のこと、いちいち覚えていない……

「そう……だっけな」
「慶はまだ大学生で、おれは働いてて……で、よくおれのアパートに泊まりにきてくれてたでしょ?」
「あー……そうだな」

 浩介のアパートが大学の近くだったので、大学の最後の方はほとんど浩介の部屋から通学していた。「電車の定期、いらないでしょ」って母親に言われて、自宅からの定期券買うのやめたなあ……なんて、そんな変なことは覚えているんだけど。

「1999年7月31日も泊まりに来てくれてて……その時に聞いたよ? 南ちゃんと、1999年に自分たちがどうしているか予想したって話」
「おお。そうか」

 本当に、恐るべし浩介の記憶力。

「で、南は、旦那と一緒にいるって予想したんだよな」
「うん、南ちゃん、大当たりだったね」

 南が結婚したのは、1999年6月だったので、ギリギリ当たりだ。

「で、おれ、自分はなんて予想したのか思い出せなくて」
「え、そうなの?」

 浩介がきょとん、とした感じに、また口元に手をやった。

「慶、あの時は覚えてたのに……」
「え、そうなのか?」

 何も思い出せない……

「おれ、なんて言ってた?」
「えー……、言っていいの?」
「は? 別にいいだろ」
「えー……」

 なんかもったいないなあ……、と、浩介はぶつくさと言ってから、

「じゃあ、当てて?」
「は?」
「クイズクイズ」
「えー」

 めんどくせえなあ……という心の声が聞こえたのか、浩介が「もうっ」とふてくされた顔を作って、バシッとたたいてきた。

「面倒くさがらないのっ。せっかくだから当ててっ」
「えー……ヒントヒント」
「えー、やだ」
「なんでだよっ」

 ノーヒントで答えられるはずがない。何も思い出せない。

「そもそも、その小学生の時のおれの予想って当たってんのか?」
「それはー……ソウデスネ」
「なんだそりゃ」

 いきなりの棒読みにふきだしてしまう。

「当たってんだな?」
「うーん……おれの口からは何とも……」
「でも、当たってんだな?」
「うー……、当たってる……ってことだと嬉しい」
「ふーん……」

 当たってるってことだと嬉しい……

 友達と一緒にいる、恋人と一緒にいる、だと、それは事実だから、「当たってるってことだと」という言い方にはならない。……って、ことは。

「…………あ」

 急に、思い出した。

 小学生の時のおれ。
 専門学校に通い始めた姉が、忙しくて家にいる時間が短くなって、夏休みもいつもなら宿題をみてくれるのに、全然いなくて、寂しくて……

 それで、希望もこめて、『椿姉と一緒にいる』といいたかったけど、言えなくて、それで……

『大好きな人と一緒にいる』

 そう、答えたんだった。

「あーーーなるほどな」

 当時のおれ、ナイスだ。「大好きな人」って大雑把な括りにしてくれたおかげで、色々ごまかせるじゃねえか。

 確かに、当時は「大好きな人」は椿姉だったけど……

「当たってるな……」
「え?! 思い出したの?!」

 ぱあっと顔を明るくした浩介に、コックリとうなずいてやる。「大好きな人」は、高校1年生からは浩介一択だ。

「『大好きな人と一緒にいる』だろ? お前と一緒にいたんだから、大当たりじゃねえかよ」
「わ~~慶~~~」

 浩介が嬉しそうに両手を広げた……けれど、こんな家の近所の往来でハグするわけにもいかず、片手だけハイタッチしてやる。

「ほら、さっさと帰るぞ?」
「え?! さっさと帰るって! それはお誘いと認識しても……」
「あほかっ。雨降りだす前に帰るんだよっ」

 あいかわらずのアホな発言に笑ってしまいながら、軽く走り出すと、

「わあ、待ってよ!」

 浩介もすぐに横に並んで走り出した。

 1999年7の月も一緒にいたおれ達。
 今も、これからも、ずっと一緒にいる。


 
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お読みくださりありがとうございました!
久しぶりの更新となってしまいました。
なんかねえ、書いては納得いかず止めて、というのがいくつかございまして。下書きばかりが増えていく日々でございます。

これじゃー、この人ブログやめちゃった?って思われてしまうー!と心配になって、急遽、短いのをパーっと書いてみました。
「大好きな人と一緒にいる」って話、9年前(2015年)に書いているのですが、その時は浩介視点だったので、慶が実は椿姉を想定してそう言ったってことは書けなかったのでした。
南ちゃんが「旦那さんといる」って言ってるんだから、慶だって「奥さんといる」っていうはずでしょ? でも、それをそういわず「大好きな人」と答えたのは、そういう裏事情があったからなのでした。本当の「大好き」な人と出会えて良かったね!

ということで、読みに来てくださった方、ランキングクリックしてくださった方、本当にありがとうございます!またの機会にどうぞよろしくお願いいたします。


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