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BL小説・風のゆくえには~嫉妬の権化の二人の話

2024年03月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 母から『慶って、火曜日休みよね? 今度の火曜日空いてる?』という電話がかかってきたのは、土曜日の夜のことだった。

 なんでも、妹の息子・守君から、学習支援のボランティア活動の手伝いを頼まれたのだという。

『普段は守君以外にボランティアさんが3人いるんだけど、2人がインフルで来られなくなっちゃったんだって』
「お母さんがいけば?」

 言うと、『無理!』と母が間髪入れず言い返してきた。

『算数とか数学とか英語とか、私ができるわけないでしょっ』
「そんなのおれだって……」
『それにその時間、私は同じフロアで子ども食堂のお手伝いしてるっていったじゃないの。だからそれもあって無理』
「あ、そっか」

 そういえば、前に会ったときにそんなこと言ってたな……

「えー…、おれにできるかなあ……」
『できるわよ! コウちゃんに教えてもらいなさいよ!』
「あー……うん……」
『詳しいことは、守君から連絡してもらうから!いいわね?!』
「うん……」

 昔から、母のこの強引なところには逆らえない。

 電話を切ると同時に、浩介が心配そうにこちらを振り返ってきた。

「なんだったの?」
「あー……」

 すとん、と浩介の横に座り、今聞いた話をそのまま伝えていたところで、守君からLINEが入った。その学習支援ボランティアのチラシもついている。

「対象は、小学生と中学生。予約無しで突然きてもOKだから、何人くるのかも読めないんだな」
「いつもだいたい10人前後。高校生の子が来ることがある……か。なるほど」

 浩介はふーん、とうなずいたかと思うと、あっさりと言った。

「おれも行くよ」
「え、でもお前仕事……」
「5時からでしょ? 間に合わせるよ」
「そうか」

 正直、ホッとする。勉強を教えるなんて経験、ほとんどないので不安しかない。

「良かった。お前がいてくれたら心強い」
「…………そう?」

 浩介は気まずいような、ちょっと変な顔をして、「お茶入れるね」と立ち上がり、台所に向かった。……なんだ?

「浩介?」
「何?」

 振り向かない浩介。やっぱり変だ。

「……どうした?」
「…………」
「…………」
「…………」

 浩介、茶筒を持ったまま固まっている。

「浩……」
「…………いやになる」
「え?」

 嫌になる?

「何が?」
「自分の心の狭さが」
「え」

 心の狭さ?

 何を言って…………

「今……、わーっと、慶の先生姿を妄想しちゃって……」
「妄想?」

 なんの話だ。

「だって、こんなカッコいい先生きたらみんなテンション上がっちゃうよ。きっと小学生は親のお迎えあるし、そしたら親御さんが……」
「なんだそりゃ」

 どういう妄想だ。

 浩介は真顔で続けてくる。

「で、自己嫌悪に陥ってたの。学習支援はとても良い活動で、おれだって純粋に応援したいのに、そんなこと思って……、本当におれ、心狭すぎるよなあって……」
「…………」

 …………。
 …………。

 ええと………

「お前さあ……」

 固まっている浩介の脇腹に、軽くグーパンチをいれてやる。

「前も言ったけど……、お前、おれのこと美化しすぎだよ」
「そんなこと……」
「おれ、今年で50だぞ? 50のオッサンのこと誰もそんな風に……」
「思うよ! そもそも慶は50に見えないっ。30代でも通用するっ」
「んなアホな」

 呆れるを通り越して笑ってしまう。でも、浩介は眉間にしわをよせたまま、ぽつりといった。

「だから心配で、おれも一緒に行きたいって思っちゃったの。本当は純粋にボランティアに参加したいって思わないといけないのに……」
「あー……、ま、いいんじゃね?」

 バシバシと腕を叩いてやる。

「理由はどうあれ、お前が来てくれるのはありがたい。浩介先生」
「うん……」

 茶筒を置き振り返った浩介。

「慶……」
「なんだ」
「ごめんね」

 言葉と共に抱き寄せられた。耳元で声の続きがする。

「ごめん。いくつになっても嫉妬深すぎて」
「別に謝る話じゃねーよ」
「でも」
「でもじゃない」

 ぎゅっとこちらからも力をこめて抱きしめてやる。

「お前の嫉妬は心地良い」
「…………」
「もっと嫉妬しろ」
「…………」

 浩介はふっと笑うと、ゆっくりと唇を落としてきた。


**


 火曜日。

 学習支援ボランティアの手伝いは無事に終了した。

「さすが浩兄は学校の先生なだけあって、教えるのうまいよね」
「だろ?」

 守君の言葉に得意になってうなずいたものの……

「浩介せんせーい! これはー?」

 ボランティアの女性にまとわりつかれているところを目の当たりにして、

(もう二度と来させねえぞっ)

って思ってしまったおれは、相当に心が狭い。自覚はある。






---

お読みくださりありがとうございました!

「いいかげん長い話を書きたい病」を発症しまして……
今、頭の中を巡っているのは、守君の話なのです。
まだ全然固まっていないため書けないのですが、前回の投稿から間が空きすぎて「この人ブログやめちゃったのかな?」と思われちゃうー!と心配になって、ちょっと書いてみた!嫉妬の権化の二人のお話でした。いくつになっても嫉妬しあってて鬱陶しい笑
相変わらずの「誰得?いいの。私が読みたいからいいの……」の自問自答の末の物語にお付き合いくださって、本当にありがとうございました!

守君のことは前々から気になっていたのです。
守君は、慶の妹・南ちゃんの旦那さんの連れ子で、1985年生まれなので、今年で39! ひえー……時がたつのは早すぎます。こないだ中学生だと思ってたのに……。

ということで。
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コメント (4)
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