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風のゆくえには~片恋 目次・人物紹介・あらすじ

2016年02月06日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋
(2016年1月7日に書いた記事ですが、カテゴリーで片恋のはじめに表示させるために2016年2月6日に投稿日を操作しました)


目次↓

片恋1-1(慶視点)
片恋1-2(慶視点)
片恋2-1(浩介視点)
片恋2-2(浩介視点)
片恋3(慶視点)
片恋4(浩介視点)
片恋5-1(慶視点)
片恋5-2(慶視点)
片恋6(浩介視点)
片恋7(慶視点)
片恋8(浩介視点)
片恋9(慶視点)
片恋10(浩介視点)
片恋11-1(慶視点)
片恋11-2(慶視点)
片恋12(浩介視点)
片恋13(慶視点)・完



人物紹介↓


主人公1:渋谷慶(しぶやけい)

高校2年生。身長160cm(高3時164cm)
中性的な顔立ちと背が低いことがコンプレックス。そのせいか、口が悪く、喧嘩っ早い。

ものすごい美少年。でも、本人に自覚ナシ。
中学時代はバスケ部在籍。その顔の上に、スポーツ万能で頭もそこそこ良かったため女子に非常にモテた。けれども、理想の女の子がいない、と言って全部お断りしていた。
8歳年上の姉・2歳年下(学年は一年下)の妹がいる。両親共働き。

高校1年の秋に、浩介への恋心を自覚。以来ずっと、気持ちを隠しながら片思い中。


主人公2:桜井浩介(さくらいこうすけ)

高校2年生。身長175cm(高3時176cm→177cm)
人の記憶にあまり残らないような平凡な顔立ち。
中学まで通っていた都内の私立男子校でいじめを受けていた影響で、高校ではとにかく笑顔でいることを心掛けている。
頭が良く、特に英語は学年首位の座を守り続けている(理数を含めると学年順位は毎回10位以内)。
威圧的な弁護士の父と過干渉な専業主婦の母がいる。一人っ子。

憧れの渋谷慶と『親友』になれて嬉しいけれど、何だかんだと常に暗~いことを考えてしまうネガティブ男子。


渋谷南(しぶやみなみ)
高校1年生。身長155cm
慶の妹。今で言う『腐女子』。陰となり日向となり勝手に兄の恋を応援している。
せっかく美人なのに自覚がなく洒落っ気もないため、隠れ美人止まり。


橘真理子(たちばなまりこ)
高校1年生。身長149cm
南の友人。ふわふわした可愛らしい容姿。


橘雅己(たちばなまさき)
高校3年生。身長174cm
真理子の兄。写真部部長。学年首位。


田辺英雄(たなべひでお)
高校三年生。身長178cm
バスケ部部長。学校のアイドル的存在。


堀川美幸(ほりかわみゆき)
高校三年生。身長160cm
女子バスケ部員。


篠原輝臣(しのはらてるおみ)
高校二年生。身長171cm
バスケ部員。部活内で浩介と組まされることが多く、二人セットで『しのさくら』と呼ばれている。


荻野夏希(おぎのなつき)
高校二年生。身長158cm
バスケ部員。慶と同じ中学出身。高1のとき浩介と同じクラス。


上岡武史(かみおかたけし)
高校二年生。身長173cm
バスケ部員。慶と同じ中学出身。中学時代は慶と犬猿の仲だった。


安倍康彦(あべやすひこ)
高校二年生。身長169cm
慶の元同じクラス。浩介以外で慶が一番仲の良い男子。通称ヤス。石川さんに片思い中。


石川直子(いしかわなおこ)
高校二年生。身長159cm
慶の元同じクラス。慶に片思い中。



あらすじ↓

高校二年生になり同じクラスになれた慶と浩介。
出席番号も隣同士だったり、妹・南に頼まれ、二人一緒に写真部に入部したり、浩介に片想いをしている慶にとって、嬉しいことばかりの順風満帆な高校生活がはじまった。
と、思いきや、浩介が女子バスケ部の美幸さんのことを好きになってしまい……

慶の片恋、浩介の片恋。そのゆくえは……




----------------------------------------


明日からはじまる『片恋編』の人物紹介とあらすじでした。
お読みくださりありがとうございました!

新キャラは橘兄・妹。
実は私が高校生の時(今から20数年前……)に書いた第一部のラストは、慶が恋心を自覚してから、話が半年ほど飛んで、写真部に入部するところまでだったので、橘兄・妹はすでに出てきていたのでした。
「物理の実験の班」とか、現役女子高生だったからこそすんなりでてきてた言葉が懐かしすぎます。

そういうわけで。また明日、よろしくお願いいたします!

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます。嬉しすぎて泣けます。。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!


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BL小説・風のゆくえには~片恋13(慶視点)・完

2016年02月05日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋

 浩介が、涙を目にいっぱいためて、

「おれ……頑張ったよ」

 なんていうから、てっきり、

 美幸さんに告白して玉砕した(←おれ的にはこちら希望)
 美幸さんに告白してOKをもらえた(←そんなことになったら発狂する)

 のどちらかなのかと思った。

 でも、どちらでもなかった。浩介の愛はもっともっと深いところにあった……



「何があった?」
 緊張して聞いたおれに、

「おれね……」
 浩介は妙に清々しい表情になると、えへ、と笑ってから言った。

「美幸さんを田辺先輩のところに送り届けてきたよ」
「………は?」

 意味が分からない。田辺先輩というのはバスケ部のキャプテンだ。

「送り届けてきた?」
「うん。明日引退試合だから、今日中にお守りを渡さないと、と思って」
「お守り?」
「知らない? 引退試合の前に好きな三年生に渡すんだよ」
「………知ってるけど」

 えーと? ということは……なんだ?

 首を傾げると、「あ、そうか」と浩介は手をたたき、拝むように両手を合わせた。

「ごめんね、慶」
「え?」
「せっかく応援してくれたけど、おれ失恋しちゃったよ」

 失恋って、それじゃやっぱり……

「告白、したんだな?」
「告白? ううん。してないよ」
「え?」

 なんでそれで失恋したことになる? 意味分かんねえ。

 言うと、浩介はちょっと笑ってから話し出した。

 田辺先輩と美幸さんは中学時代に付き合っていた、ということ。
 一昨日は田辺先輩と、昨日は美幸さんと一緒に帰って、それぞれと話しをして、まだお互い想い合っているということに気がついた、ということ。
 そして、今日。美幸さんにお守りを渡させるために、二人を引きあわせた、ということ。

「やっぱり、お似合いだったよ二人」
「………」 

 嬉しそうに言う浩介。
 色々な思いが頭から吹き出しそうだ。

「なあ……お前、それで良かったのか?」
「良かったって?」

 きょとんという浩介の胸のあたりをグーで軽く押す。

「だって……これで美幸さん、たぶん田辺先輩とヨリ戻すことになるだろ。そしたらお前……」
「ああ、いいのいいの」

 浩介が軽く手を振った。

「だって、慶、ずっと言ってくれてたでしょ?『お前がどうしたいか』って。それでおれ考えたんだよ」
「…………」

 浩介の優しい瞳がまっすぐにこちらを見下ろしてくる。

「おれね」

 浩介の心地よい声が体中に染みわたってくる。

「おれ………美幸さんには笑顔でいてほしいんだ」
「………」
「そのためだったら、おれの気持ちなんてどうでもいい」

 浩介の微笑み……

「そう決心できたのは慶のおかげだよ。本当にありがとうね、慶」
「………浩介」

 胸が、締めつけられる。
 その深い愛情……
 おれみたいに利己的じゃなくて、ちゃんと相手の幸せを考えている愛情……

 おれなんか、お前が美幸さんと上手くいかなくなることをずっと願ってた。
 今だって、お前が失恋したって聞いて安心してる。

 おれは酷い奴だ。本当に好きだったら、相手の幸せを願うべきなのに。

 それに比べてお前は……。お前は……お前は、本当に……

「お前、本当に美幸さんのこと好きなんだな」

 言葉に出してしまってから、涙が出そうになり、あわてて背を向けた。

 本当に、本当に、美幸さんのこと好きなんだ。
 おれなんかが入る余地がない、深い深い愛……

「慶?」
 優しい浩介の声……胸が苦しくなる。

「慶、どうかした?」
「どうもしねえよ」
「どうもしないって……、慶?」
「!」

 腕を掴まれ、振り返させられた。とっさのことで抵抗できなかった。まずい、と思って顔を背けたけれど遅かった。

「どうしたの?」

 浩介の驚いた顔。

「何で慶が泣きそうになってるの?」
「う……うるせえっ」

 バッと腕を払い落す。

「お前が泣きそうだからつられてんだよっ」
「けい~」

 あはは、と浩介が笑いながら抱きついてきた。

「じゃあ一緒に泣こうよ~」
「………ばーか」

 思わずおれも笑ってしまう。
 浩介が笑っている。浩介のぬくもりがここにある。

(……ごめんな)

 おれ、お前の失恋を喜んでる酷い奴だ。
 

「あー久しぶりに全速力で自転車漕いだから足パンパンー」

 浩介が明るくいって、土手にごろんと寝転んだ。

「お疲れ」

 おれもその横に並んで寝転ぶ。

 空が、赤く染まりはじめている。

「キレイだねえ」
「……そうだな」

 お前の心は本当に綺麗だ。
 それに比べておれは、醜い独占欲の塊だ。

 でも、ごめんな。おれ……おれ、それでも、どうしてもお前と一緒にいたい。


***


 翌日は朝から、うちの高校に一番近くて一番交流のある花島高校で、恒例の交流試合が行われた。部活によってはこれが引退試合と位置づけられる。
 今年は午前中に野球部、バレーボール部、テニス部、午後にサッカー部、バスケ部の試合があった。

 おれは写真部として、午前中からずっと写真を撮って回っていた。
 なんとなく、バスケ部に顔を出すのが気が進まなくて、サッカー部の方に張り付いていて、終わったころに行ってみたんだけど……

「なんだ?」
 バスケ部、男子も女子もざわついている、というか、みんなはしゃいでいる。騒ぎの中心には……

(こ、浩介?!)
 真っ赤な顔をした浩介と、田辺先輩と美幸さん……?

「あ、渋谷くーん」
「荻野っ」

 同じ中学だった荻野が声をかけてきてくれたので、あわてて問いただす。

「何?! 何かあったのか?!」
「あったなんてもんじゃないよー! 衝撃の交際宣言!」

 荻野が興奮したようにおれの腕を叩いてくる。

「田辺先輩と美幸さん付き合うことになったんだってー!」
「痛い痛い。で、なんで浩介が……」
「桜井君がキューピットなんだって! あ、知ってたか」
「あー……うん」

 よくよく見ていると、浩介が皆から頭をなでられて、嬉しそうに首をすくめたりしている。
 その様子を複雑な思いで見ていたら、

「あー渋谷ー」
「篠原」

 恋愛話大好きの篠原がコソコソっとおれに耳打ちしてきた。

「桜井、偉いよねー。自分の気持ち隠して二人をくっつけたってことだよね? ホント偉い」
「………だよな」

 心から肯く。でも篠原はちょっと肩をすくめて、

「でもさ、ってことは、そんなにすっごく好きじゃなかったのかもね」
「へ?」
「だってそうでしょー。本当に好きだったらそんなことしないって」
「…………」

 篠原……お前が浩介の深い愛情を理解するのは百年かかっても無理そうだな。
 でも、篠原のそういうところ、嫌いじゃない。

「慶ー、篠原ー」

 しばらくしてから、浩介がヘロヘロになってこちらにやってきた。

「一緒に帰ろー」
「おお」

 うなずいたところで、篠原が今度は浩介にまとわりつきはじめた。

「桜井、元気出して! 失恋には新しい恋が一番だよ! 次いこう次!」
「あはははは」

 浩介は楽しそうに笑うと、

「恋はもういいよ。疲れちゃった」
「疲れたって! 何いってんのー!」
「だって」

 バシバシと両腕を叩かれながらも、浩介はニコニコ笑いながら、

「もういいんだよ。それにおれ、恋より友達と遊んだり部活したりしてたほうが楽しいし」
「………」

 それ、おれが前にいったセリフだな……と思っていたら、浩介がこちらをくるりと振り返った。

「ね? 慶」
「え? お、おお」

 まあ、おれはお前に恋してるけどな。永遠の片思い、だけどな……

 なんておれの内心を知るはずもない浩介は、機嫌よく篠原を叩きかえした。

「だから篠原も! これからもよろしくね!」
「えーやだー」

 篠原はあっさりと浩介を押しのけると、

「オレは彼女欲しいから! 男同士で帰ってる場合じゃないから! じゃあね!」

 元気よく女バスの群れの中に飛びこんでいってしまった。

「…………」
「…………」

 浩介と顔を見合わせ、苦笑いしてしまう。

「帰ろっか」
「ああ」

 二人で並んで歩きだす。

「自転車こっち! ここからだとずっとずっと川べりでいけるよ」
「そうなんだ……って、お前、昨日足パンパンとか言ってたよな。大丈夫なのか?」
「んーまだあんまり」

 ぷらぷらと足を揺らしながら歩く浩介。なんかダルそうだ。 

「じゃ、おれバスで帰るから大丈夫だぞ?」

 言うと、浩介は途端に鼻にシワをよせた。

「やだ。一緒に帰りたい」
「…………」

 …………。

 どうしてくれるんだ。いちいち可愛い過ぎるんだよお前はっ。

「じゃ、歩いて帰るか?」
「うんうん。お散歩お散歩~」

 歩いたらかなり時間がかかりそうだけれども、川辺を散歩気分で歩くのも楽しそうだ。雲が太陽を隠してくれているので暑さも何とか耐えられる。


 自転車をおすカラカラカラ……という音を響かせながら、サイクリングロードを歩く。川の流れる音が心地いい。

「美幸さん、幸せそうだったよね?」
 浩介がウキウキしたように言う。

「おれ、無理してるでもなんでもなくて、本当に心から嬉しくて」
「………そうか」

 相手の幸せを願う愛……
 おれもその境地にまで行けるようになるのかな……

「お前……本当に偉いよな」
「偉い? そう?」

 わ~褒められた。嬉しいな~と無邪気に笑う浩介を見ていたら………

「やっぱ絶対無理」
 思わず本音が出てしまった。

「ん? 何が?」
「うん……」

 きょとんとした浩介の顔を見上げる。
 お前を誰かに譲るって? そんなの……

「無理。おれは譲れない。好きな人は譲れない」
「そっかあ………」

 浩介は一瞬立ち止り、なぜかうんうん肯くと、また歩きだした。

「おれはさー……もし、慶と同じ人好きになっちゃったら絶対譲るから」
「は?」

 なんだそりゃ。

「まあ、慶と張り合って敵うわけないんだけどさ……」
「………」
「それ以前に、慶には幸せになってほしいし」
「……………。バカじゃねーの」

 お前が幸せにしろってんだよっ。……なんて言えるわけがない。

「ありえねー。お前とおれ、女の趣味全然違うし」
「あ、そうなの?」
「そうだよっ。少なくとも、おれは美幸さん、ぜんっぜん趣味じゃねー」
「あははは」

 なんかいいなーこういう話できるの嬉しいなー、と浩介はご機嫌だ。

「まあ、でもさ、しばらく恋はいいや、おれ」
「そっか」

 しばらくといわず、ずっとしないでくれると有り難い。

 なんて、心の声は押し隠して、浩介の背中をバンバンたたく。

「じゃーたくさん遊ぼうなー」
「うん! あ、でも、来週から期末一週間前で部活停止だ。また一緒に勉強しようね?」
「あーそうだった……」

 思えば……中間テストのために勉強している最中に「好きな人ができた」って言われたんだよな……。長い一か月半だった……

「期末は真面目に勉強しないとなあ……中間はお前のせいでボロボロだったし」
「え?」
「……なんでもない」

 とりあえず、浩介の恋は終わったんだ。一件落着だ。もう忘れよう。

「慶、明日空いてる? 遊べる?」
「おお!」

 浩介の明るい誘いに嬉しくなる。

「テスト勉強する前に遊びおさめだな。どっか行きたいところあるか?」
「うん! おれね、プラネタリウム行きたいんだよ」
「プラネタリウム?」

 プラネタリウム……デートかよ。
 忘れようと決めたそばから、ひねくれたことを言ってしまう。

「……お前、ホントは美幸さんと行きたかったんじゃねーの?」
「え?」

 目をパチパチさせた浩介。

「だって、プラネタリウムって、デートかよって感じじゃん」

 自分でも嫌になるくらいトゲトゲしい言葉。でも、浩介は「あー……」と長く伸ばした後、

「あー、そんなこと全然思いつきもしなかった……」

 そして、照れたように頬をかいた。

「図書館でチラシみて、すぐに慶と一緒に行きたいって思って……。やっぱおれ、恋愛向いてないんだね」
「……………」

 そ、それは……。嬉しいかも……

「あ、ごめん。そっか、デートっぽいもんね。慶、ヤダ?」
「いやいやいやいや、全然嫌じゃない!」

 あわてて手をブンブンふる。嫌なわけがない。

「図書館のチラシのって、あそこだろ? 科学館のだろ? 小6の時いったことあるぞおれ」
「あ、ほんと? おれ行ったことないんだよ」
「よし。じゃあ、連れて行ってやる!」
「わあ。ありがとう」

 浩介は嬉しそうに笑うと、

「デートだデート。慶とデートだ~」
「デート言うなっ」

 ビシッと腕を叩くと、浩介はさらに楽しそうにケタケタ笑いだした。


 浩介が笑ってる。その横におれがいる。それで充分だ。

 ずっとずっと片思いを続けるしかないのは分かっている。

 今後浩介にまた好きな人ができて、それで今度は両想いになったりする日がくるのかもしれないけど……
 でも、せめてそれまでは、おれがお前の横を独占していてもいいよな?


「浩介」
「ん?」

 振り返った愛しい瞳に心の中だけで告げる。

 大好き。大好きだよ……

 でも、絶対に言わない。言えない……

「……今日もうち寄ってけよ」
「え、いいの? じゃ、途中でアイス買っていこう?」
「おお」

 
 片思いのままでいいから、おれはずっとずっとお前と一緒にいたい。



<完>



---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
これで『片恋』編、無事終了です。

『あいじょうのかたち』を読んでくださった方で、記憶力のとっても良い方はお気づきかもしれません。
前半の夕暮れの川べりでの話、『あいじょうのかたち30-2』で、二人で思いだして話してた、その話です。
24年たっても、慶君、まだ美幸さんとのことムカついてます^^;

次は『月光』編。夏合宿編、ともいう。
また真面目な話になりそうですが、どうぞよろしくお願いいたします!明後日更新予定です。

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます。有り難すぎてもう言葉が見つかりません。。。今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。ご新規の方もどうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋12(浩介視点)

2016年02月03日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


『お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?』

 おれの尊敬する大好きな親友・渋谷慶に言われた言葉を反芻する。

 おれがどうしたいか……

 おれは……おれは、美幸さんに笑顔でいてほしい。


***


 土曜日の写真部の活動で、ファインダー越しに見た美幸さんは、『切ない』という表情をしていた。美幸さんは田辺先輩のことが好きなんだ、とあらためて思った。
 バスケ部の三年生は、次週土曜日の引退試合で終わってしまう。美幸さんはこのままでいいんだろうか……

 そのことを聞きたかったのに、土曜日はなぜか大勢で帰ることになってしまって、美幸さんから話は聞けず……
 月曜日も雨でみんなでバスに乗ることになってしまったので、何も話せず……
 火曜日も、なぜか男子部女子部一緒になって駄菓子屋にいったりしたので、世間話はできたけれど、そういう込み入った話はできず……

 渋谷もたぶん気にしてくれているんだろう。教室でいても、時々、問いたげにこちらを見ていることがある。でも、何も言わないでくれている。こうして陰から応援してくれている渋谷のためにも、おれは一歩踏み出さなければならない。


 そう心に決めていた水曜日。

「桜井、一緒に帰れるか?」

 こそっと、田辺先輩から声をかけられた。
 田辺先輩と二人きりで帰るなんて初めてのことだ。緊張してしまう……
 本当は美幸さんと帰りたかったけれど、この際だから田辺先輩と話すというのもいいかもしれない。美幸さんとのこと聞いてみよう……

 と、思っていたら、

「桜井って、堀川と付き合ってんのか?」
「は? え? はああ?!」

 田辺先輩からの質問で声をひっくり返してしまった。

「つ、付き合ってって……っ」
「噂聞いたんだよ。まあ最近妙に一緒にいるなって思ってたし、それに昨日も駄菓子屋で仲良さそうだったし……付き合ってんの?」
「ち、違います!!!」

 あわてすぎて、自転車のハンドルを離しそうになってしまった。

「付き合ってません! 全然付き合ってません!」
「あ、そうなんだ」
「………」

 田辺先輩……ホッとしたって顔した。やっぱり……

「あの……田辺先輩と美幸さんって同じ中学だったんですよね?」
「ああ」

 田辺先輩の男らしい精悍な顔つき。女子が騒ぐのも納得できる。

「こないだお二人が一緒にいるところみて、すごく仲良くてびっくりしました。いつもは全然一緒にいないから」
「こないだって……、ああ、堀川が寝てたときな」

 そう。寝ぼけた美幸さんは、田辺先輩を『ひでくん』と呼び、田辺先輩は『美幸』と呼び捨てにしてた。

「お二人は、本当は、すごく、仲良し、なんですよね?」
「うーん……中学の時はな」

 ちょっと困ったように頬をかいた田辺先輩……。

「どうして、今は仲良くしないんですか?」
「仲良くって……」

 田辺先輩はふっと笑った。

「オレにはそんな資格ないから」
「え」

 資格?

「それはどういう……」
「オレはさ、中学の時、堀川を守ってやれなかったんだよ」
「守って……?」
「こんな奴、あいつのそばにいる資格ねえだろ」
「???」

 意味が分からない。意味は分からないけれど……一つわかったことはある。

 田辺先輩は、やっぱり、美幸さんのことが好きなんだ。


**


 翌、木曜日、引退試合前の特別練習があった。
 いつもと違って、3年生がやたらと扱かれていたので、おれたち2年生はちょっと楽なメニューだった。しかも女子と合同なので、みんなやたらと浮ついていて、練習中にもかかわらずあちこちでお喋りの花が咲いている。

 そんな中でおれは衝撃的な事実を知った。

 田辺先輩と美幸さんは中学時代、付き合っていた時期があったらしい。

 でも、田辺先輩のファンの女子達が美幸さんに意地悪をしてきたため、結局二人は別れることになってしまったと……。

(守れなかったって、そういうことだったのか……)

 昨日の田辺先輩の言葉にようやく納得がいった。


「今は二人どうなってんの?」
「さあ? どうもなってないんじゃない? 一緒にいるところ見たことないよね」

 みんなワキャワキャ言っているけど……みんな、気が付いてないのかな……
 あの2人、今でも両想いだよね……

「で、田辺先輩へのお守り、結局誰が渡すのー?」

 篠原の呑気な声に、荻野さんが「はいはい!」と手を挙げた。

「私私! くじ引きで権利を勝ち取りました!」
「結局、くじ引きになったんだー?」

 引退試合の前に三年生全員にお守りを渡すバスケ部伝統行事。好きな人に渡して告白、というのを毎年何人かするそうで、この行事のあとに毎年何組かカップルが誕生するらしい。

「今年、告白する人誰かいるのー?」
「内緒! 男子には教えませーん!」
「えー知りたいー」

 女子と話せて嬉しそうな篠原の横で、むむむ……と考え込む。美幸さんはどう思っているんだろう……


 その日の帰り、おれは正々堂々と、美幸さんに一緒に帰ってくれるようお願いした。今まで一緒に帰っていたときは何となく流れで一緒に……とかだったので、ここまでハッキリと「一緒に帰ってください」とお願いしたのは初めてだ。

「どうしたの?」
 拳2つ分くらいのスペースをあけて並んで歩きながら、美幸さんが不思議そうに聞いてきた。

「お聞きしたいことがあって」
「うん」

 美幸さんちょっと笑っている。おれの必死さが伝わってきたのだろう。深呼吸、深呼吸……
 息を吸って、はいて……、

「美幸さんは今でも田辺先輩のことが好きなんじゃないですか?」
「…………え」

 一気に吐き出したおれの言葉に、美幸さんの笑顔が固まった。

「何を………」
「田辺先輩も、今でも美幸さんのことが好きですよね? ……たぶん」
「…………」

 美幸さんは立ち止り……、そして、また、ふっと笑った。

「なにそれ」
「見てればわかります」
「………なにそれ」

 真顔になった美幸さん……

「田辺先輩、言ってましたよ。自分は美幸さんのそばにいる資格がないって」
「資格?」

 美幸さんが眉を寄せた。

「なにそれ」
「中学の時、守ってあげられなかったからって……」
「…………」

 ひるんだような瞳をした美幸さんだったけれども、次の瞬間、呆れたように言った。

「ばっかじゃないの」
「………」
「ほんと……ばかだよね」

 そして、ふんわりと笑った。おれの惹かれた、女神のような微笑み……

「美幸さんは、お守り、あげないんですか?」
「………あげない」

 微笑んだまま美幸さんが言う。

「中学の時も、作ったけど渡せなかったの。どうせ渡せないから今回は作ってもない」
「……あげればいいのに」
「あげないよ」

 美幸さんは、後ろに手を組んで、トントントンっとジャンプをしながら進むと、クルッと振り返った。

「もう、いいんだよ。辛い思いをするのはもうたくさん」
「………美幸さん」

 その微笑みは、やっぱり女神のようで……でも、悲しい色を帯びていて……

『お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?』

 渋谷の言葉が頭にこだまする。おれがどうしたいか……
 おれは……おれは。



***


 翌日は、引退試合前の最後の練習だった。

 引退式は夏休み前にあるので、一人一人の挨拶、とかそういうのは今日はない。
 ただ、恒例の、お守りを渡す会が最後にあった。

 みんな機械的にお守りを渡して行く中、志村先輩に渡した女バスの2年生だけは、顔を真っ赤にさせて手紙を添えていたので、みんなから冷やかしの声が上がっていた。

 田辺先輩に渡した荻野さんは、ニッコニコで渡しただけなので、何もないのは明らか。でも……

(美幸さん……)

 笑顔なのに、笑顔じゃない。
 美幸さん、本当は渡したかったんだよね……?

 田辺先輩も、笑顔なのに、笑顔じゃない。
 本当は、美幸さんからもらいたかったんですよね……?



 どうすればいいんだろう。どうすれば……

 そんなことを考えているうちに、解散になってしまって、何もいい案なんて浮かばなくて……

 帰りも、美幸さんは女バスの人達と一緒に行ってしまったので何もできず……


『お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?』

 渋谷……渋谷だったらどうする?
 渋谷だったら、きっと、こうやって、何もできなかった、なんてイジイジしてたりしない。
 渋谷は、いつでも言いたいことある奴にはガツンと言って、まっすぐ前を見ていて……

 おれがどうしたいか……

 おれは……おれは、渋谷。
 おれは、美幸さんに笑顔でいてほしい。


 心は、決まった。

「田辺先輩!」
 体育教官室から出てきた田辺先輩を勢いよく呼び止める。

「な、なに……」
「校門の前で待っててください! 絶対待っててください! 美幸さん連れてきます!」
「は?」

 返事も待たず、また、かけだして、自転車にまたがる。

 このままじゃいけない。このまま、あんな寂しい笑顔を浮かべていちゃいけないんだよ、美幸さん。
 美幸さんには、女神のままでいてほしい。だから……だから。

 必死に美幸さんの家に向かって自転車を走らす。何度も送ってきたから道は覚えている。

「美幸さん!」
「…………桜井くん?」

 ちょうど、家の門を開けようとしていた美幸さんに追いつくことができた。
 びっくりした顔の美幸さんにまくしたてる。

「あの、中学の時に作ったっていうお守り、まだ持ってますよね?」
「え?」
「持ってますよね?!」

 言いきると、美幸さんが怪訝な顔をして肯いた。

「………持ってるけど、それが何?」
「渡しにいきましょう!」
「え?」

 きょとん、とした美幸さんに詰め寄る。

「今、田辺先輩、校門の前で待ってます。美幸さんのこと待ってます」
「何を………」
「今日、渡さないとダメです。明日引退試合ですよ。今日渡さないと絶対ダメです!」

 美幸さんの瞳をじっと見つめる。こんな真正面で見つめたのは初めてだ。最初で最後。澄みきった青空みたいな瞳。

「美幸さん」

 見つめたまま、きっぱりと言う。

「渡しに、行きましょう」
「…………桜井君」

 泣きそうな顔をした美幸さん。でも……

「ありがとう」

 ふんわりと笑ってくれた。その笑顔はやっぱり女神様のようだった。


 その後も、必死だった。
 と、いうのは、美幸さんを自転車の後ろにのせて、坂を全力で漕ぎあがったからだ。
 いつも美幸さんと一緒に帰るときは自転車をおして歩いているので、二人乗りしたのは初めてだった。身長は渋谷と同じくらいだけど、美幸さんの方がずっと軽い。その分漕ぐのは楽は楽だった。渋谷は見た目痩せているけれど、筋肉で重いのかもしれない。

「桜井……、美幸?!」
 校門の前でちゃんと待っていてくれた田辺先輩。おれ達の姿を見て、ものすごく驚いていたけれど、美幸さんが降りてすぐに、

「じゃ、さよならっ」
 回れ右して走りだしたおれの背中に、

「桜井ーサンキューなー」
 大きな大きな声をかけてくれた。振り返ると、寄り添うように立っている二人の姿が目に入った。やっぱり、予想通り、2人、お似合いだ。



 漕ぎあがった坂を、ザーッと降りていく。風が気持ちいい。

「………あれ」

 風に吹かれながら……ふと、気が付いた。考えてみたら、おれ、失恋した?
 今さらながら気がついてしまった。おれ、失恋したんだ。

 もう、美幸さんと一緒に帰ることもできない。
 でもきっと、美幸さん、これからは笑顔でいられる。女神のような笑顔でいられる。

「渋谷………」

 おれ、やったよ。頑張ったよ。
 渋谷に報告にいかないと……と思いながら自転車を走らせていたら、

「………あれ」

 川べりの道の端に、しゃがみこんでいる渋谷の姿を発見した。

 もしかして、待っててくれたんだろうか……
 まさか……昨日も、一昨日も、待っててくれたんだろうか……

 そう思ったら、心の中が温かいものでいっぱいになってきた。

 おれ、渋谷のおかげで頑張れたよ。
 せっかく応援してくれてたのに失恋しちゃったけど、でも頑張ったよ……

 途中で自転車をとめて、渋谷にゆっくり近づく。完璧に整った横顔に、夕日の光が差し込んでいて、とてもキレイだ……


「……慶」
 声をかけると、渋谷がビックリしたように振り返り、

「浩介……どうした?」
 ゆっくりと立ち上がり、その綺麗な瞳をこちらにむけてくれた。美幸さんの瞳は青空だったけれど、渋谷の瞳は湖のようだ。光を反射してまぶしく光る水面……

「おれ………」
 その瞳にうつるおれは、渋谷の親友としてふさわしい男になれてるかな……。

「おれ………頑張ったよ」

 出てきそうな涙をどうにか引っ込めて、なんとか言いきった。おれ、頑張ったよ。




---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!

これで、11の終わりと12の終わりがそろいました。
『片恋』編、次回最終話です。
浩介君、告白もしないまま、失恋。初恋終了です^^;

続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋11-2(慶視点)

2016年02月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


 土曜日。

 会議室で行われている卓球部の活動を撮影してから、バスケ部のいる体育館へ向かった。
 中に入ると、ちょうど休み時間で……

「………げ」

 ちょうど浩介と美幸さんが話している現場を目撃してしまった。浩介、嬉しそうに頬を紅潮させてて……あんな顔、見たことない。
 ああ、くそ……腸煮えくり返る。見たくなかった……

「あっれー、渋谷君」
「………荻野」

 後ろから知った声がかかってホッとする。気を紛らわしたかったから有り難い。
 荻野とは中学が同じで、同じバスケ部だった。わりとサバサバしていて話しやすい女子だ。

「いつの間に写真部員になったの?」
「んーと、2か月くらい前」
「へえ~ビックリ。カメラ好きだったんだ?」
「いや……まあ、成り行きで」

 答えながらも、ついつい浩介の方に目が行ってしまう。グサグサ突き刺さるのが分かっているくせに見てしまうんだから、おれってマゾなのかな……

「最近、桜井君、美幸さんと仲良いよね」

 おれの視線に気がついた荻野が言う。

「付き合ってるって噂になってるけど、実際どうなの?」
「付き合ってねえよ」

 思わずムッとして即答する。噂になってんのか……。

 すると、荻野が「やっぱり」とうなずいた。

「だよね。なんか付き合ってるって感じじゃないんだよね。お姉ちゃんと弟って感じでさ」
「ふーん」

 荻野、良い奴だ………。
 
 こいつだったら何か知ってるだろうか。

「なあ……美幸さんと田辺先輩って、同じ中学だったって知ってた?」
「知ってる知ってる~。で、さあ……」

 荻野は、ちょいちょいとおれを手招きして、

「中学の時、あの二人付き合ってたらしいよ」
「えええ!?」

 ま、まじか…………

「付き合ってた……ってことは別れたってことか?」
「んーなんか色々あったらしいよ。ほら、田辺先輩モテモテだからさ、美幸さん他の女子に嫌がらせされたりとかして大変だったみたい」
「……………」

 こ、怖い世界だな………

「今は?」
「今は……どうなんだろうね? 二人が一緒にいるとこ全然みたことないし、あ、それに、美幸さん、お守り作りにも参加してない」
「お守り?」

 何の話だ?

「ほら、中学の時もあったじゃん。引退するメンバーにお守り渡すの! みんな自分の好きな人に渡したりしてさ~」
「……中学の時?」

 おれが首をかしげたら、荻野は「ひどーい!」と口に手を当てた。

「覚えてないの? 渋谷君に誰が渡すかって、女子の間ですんごい揉めたのに!」
「えーっと………」

 誰からもらったかどころか、もらったこと自体覚えてない………

「おれ、もらった? もらってねえんじゃねえの?」
「ひどい!ひどい!ひどすぎる!」

「何がひどいって?」
「…………げ」

 通りかかった上岡武史が口出ししてきたので、思いっきり顔をしかめてしまう。こいつとも同じ中学で同じバスケ部だった。

「あ、上岡くーん、ちょっと聞いてよ。渋谷君、引退の時に渡したお守りのこと覚えてないっていうんだよー」
「そりゃひでえな」
「うっせえなあっ」

 こいつに言われると余計に腹立つ。こいつとは殴りあいの喧嘩を何度もしたほど仲が悪かったのだ。

「お前覚えてんのかよっ」
「当たり前だろ。バスケットボールの形したこんくらいの大きさの………」
「あ、ああわかった!」

 思い出した!

「もらったもらった。ごめん。おれ、退院してすぐでバタバタしてて………って、おれ、荻野からもらったよな?」
「思い出してくれたんだ?」

 苦笑しながら荻野が言う。

 ………って、あれ? さっき好きな人に渡したとか言ってなかった? え、ということは、まさか………

「へえ、荻野って渋谷のこと好きだったんだ?」
「武史………っ」

 バカ、お前なにを………っ
 
 でも、荻野はケロリとして言った。

「うん。ファンだったよ。あの時の女バスで渋谷君のファンじゃない子なんていなかったでしょ」
「確かになあ」

 なんだそりゃ。
 武史までもフムフム頷いて、

「だからお前、写真部なんかやってないで、バスケ部入れよ」
「なんでそれでバスケ部に入る話になるんだよっ」

 意味わかんねえっ

 と、そこへ。

「慶」
「……お、おお」

 ニコニコと浩介が手を振りながら近づいてきた。その笑顔に今更ながらキュンとしてしまう、おれもたいがいだ……

「卓球部終わったんだ? うまく撮れた?」
「いや、やっぱ動いてる被写体は難しくて……」
「そっかあ」

 ユニフォーム姿の浩介。汗の匂い。誰もいなかったら、何か理由をつけて抱きついて、グリグリ額をこすりつけたいところだ。

「橘先輩は?」
「あー、あそこ。田辺先輩と話してる」
「…………」

 途端に顔をこわばらせた浩介。やっぱり相当、田辺先輩のこと意識してる……

(美幸さんと付き合うことは考えられないって言ってるくせに、美幸さんが他の奴と付き合うのは嫌なんだよな……)

 浩介、本当に美幸さんのこと好きなんだ……
 わかってはいるけど、その事実を突きつけられる度に落ち込む……



 バスケ部の練習開始と共に、写真部の活動もはじまった。
 一瞬一瞬を切り取る作業。その一瞬は映像として一生残すことができる。まだはじめたばかりで少しも納得のいくものは撮れないけれど、カメラの面白さは少しわかってきた気がする。


 途中、浩介も許可をもらって撮影に参加した。

「カメラはその人の内面を映し出すって……」

 浩介が複雑な顔をして、さっきまで構えていたカメラを下ろした。当然、そのレンズの先には美幸さんがいたようだ。
 おれも気がついていた。美幸さんの視線が田辺先輩に向いたときの切ない表情……

「おれ、やっぱり今日の帰り、聞いてみる」
「……そうか」

 意を決したように浩介が言った。
 さっき荻野から聞いた話は……おれから言うこともないだろう。
 噂が立つほど浩介と美幸さんは仲良くなっているのだから、彼女の口から真実が語られるに違いない……


 その日から数日、浩介と二人きりで話せなかったので、どうなったのか気にはなったけれど、知ることができなかった。

 元々、クラスでは毎日顔を合わすけれども、必ず誰かしら周りにいるので、故意に二人きりになろうとしなければ二人きりにはなれないのだ。
 でも、以前は毎日のように帰りにおれのうちに寄ってくれていたので、そこで話せていたのに、この数日それもなかったし、昨日は木曜日で写真部の活動があったのに、浩介はバスケ部の特別練習があってこれなかった。

 
 浩介……毎日、美幸さんと一緒に帰っていたのだろうか……
 雨だった月曜をのぞき、火曜、水曜、木曜、と川べりで待っていたのだけれど、通らなかったのだ。美幸さんと帰った場合はこの道は通らない。

 ここ数日、日中は30度を超す夏日になっている。気が付いたら来週からもう7月だ。でも、夕方になるとだいぶ過ごしやすくなってくる。

(今日も、来ないのか……)

 普通に帰っていればもうとっくに通っている時間だ。

(今日も、美幸さんと一緒なのかな……)

 明日が引退試合。実質、3年生の練習は今日までだ。練習最後の日も一緒に帰れたってことか……

(こんなに毎日一緒に帰るなんて、二人は噂通り、付き合いはじめたってことなのか……?)

 そんな想像をしたら吐き気がしてきてしまった。

 そうして川べりの道の横に座り込んで、夕暮れを映し出す川面を見つめ続けて、どのくらい時がたっただろうか………

「慶」
「………っ」

 優しい声……。振り返ると、浩介が、微笑んでいるような、泣きだしそうな表情をして、突っ立っていた。自転車は少し離れたところに停めてある。

「………浩介」

 何かあったな、と瞬時に思った。ゆっくりと立ち上がり、その顔を見上げる。

「どうした?」
「おれ………」

 浩介は切ないほど優しく………つぶやくように言った。

「おれ………頑張ったよ」
「…………」

 頑張った……?

 それはどういう意味………という言葉は続けられなかった。浩介の瞳に今にもあふれそうなほど涙がたまっていたからだ。
 



---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
『片恋』編、残り2話の予定です。
ああじれったい……とっととくっついてしまえ!!と思うのですが、我慢我慢です。まだくっつきません。すみません……。
お見守りいただけましたら幸いです。
続きはまた明後日!よろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~片恋11-1(慶視点)

2016年01月31日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 片恋


『おれ………フラれる、みたい』

 浩介がそう言ってから5日。
 今日は木曜日。写真部の活動日だ。

 浩介はさっきからずっと写真部の部室の窓から外を眺めている。ここからは、昇降口の前あたりとそこから校門へ続く道が見渡せる。今日は朝から雨が降っているため、窓の下には傘が花のように咲いている。

「…………」
 ファインダー越しに浩介の横顔をみる。カメラを通すとその人の内面まで見える、と、写真部部長の橘先輩がいっていた。
 今の浩介の内面は………

「……あ」
 ハッとしたように浩介が身を乗り出した。途端に、喜びと切なさが入り混じったような表情になる。
 そっと窓辺に近寄り外を見てみると……

(まあ……当然だな)
 そこには、浩介が片思いしている相手、三年の堀川美幸さんの姿があった。女友達と一緒に校門に向かって歩いている。鮮やかな赤の傘。上からみると相当目立つ。

「お前、昨日聞けたのか?」
「ううん」
 おれの質問に浩介が小さく頭を振る。そうしながらも視線は少しも美幸さんから外れることはない。

(浩介………)
 お前本当に、美幸さんのこと、好きなんだな……。



 5日前……

『おれ………フラれる、みたい』
 そういって半べそをかきながら抱きついてきた浩介を落ちつかせて、河川敷におりる階段の途中に並んで座って話しを聞いた。

 話によると、美幸さんと、バスケ部キャプテンの田辺先輩が、すごく仲が良さそうで、おそらく両想いなのではないか、と……。でもそれは浩介の勝手な予想の話であって、何の証拠もないことらしい。

「聞いてみたらどうだ?」
「聞くって?」

 ウルウルした目でおれを見かえしてくる浩介。くそー……かわいすぎる……
 抱き寄せたくなるのを何とか我慢して、淡々と言う。

「だから、美幸さんに田辺先輩のこと好きなのかどうか、聞いてみりゃいいじゃん」
「………。聞いて、好きって言われたら?」
「その時は……」

 諦めろって? そんなことは言えないか。
 実際おれだって今、お前が美幸さんを好きだって知ってても、お前のこと好きなままだしな。

「……お前がどうしたいかにかかってるんじゃねえの?」
「どうしたいか?」

 この会話、前にもしたな……

「前にお前、美幸さんとはとりあえず友達になりたいって言ってたよな? 付き合うのは恐れ多いって」
「うん……」
「それは変わってねえの? それとももう友達になれたから、次のステップに進みたくなったのか?」
「…………」

 あ、否定しないんだ……
 予想以上にショックだ。この沈黙……

 耐えられなくなって、立ち上がった。浩介の前に立って頭をグリグリとなでる。

「じゃあ、もう、お前、付き合ってください!って告白するしかねーじゃん」
「………ううん。やっぱり無理」

 浩介はされるがままに頭をフラフラさせながら言った。

「美幸さんは、女神様、だもん。付き合うとかそんなの無理」
「女神様………」

 あっそーですか……

 浩介はブツブツと続けた。

「こないだ練習してもらっておいて何なんだけど、やっぱり、手繋ぎたいとか、キ……キスしたいとか、そんなことも思わないし……」
「………………」

 え? そうなのか?
 思わずニヤケてしまいそうになるのを、なんとか堪える。

「じゃあ、お前、今、何そんなに悩んでんだ?」
「え」

 はた、と気が付いたようにキョトンとした浩介。

「あ……そうだよね。何悩んでるんだっけ……」
「…………」

 ………なんだそりゃ。

 浩介はうーんとうなってから、あ、分かったとポンと手を打った。

「あ、そうそう。だから、もし、二人が付き合ってるんだったら、もう一緒に帰ったりしちゃダメだよなって思って」
「ああ、なるほど」

「それと……」
「え」

 浩介がいきなりおれの左手を両手でつかんできたので、ドバッと血液が頭に上がる。

「な、なに」
「慶、せっかく応援してくれてるのに、期待に応えられなくて申し訳なくて……」
「…………」

 ぐさっと突き刺さる。
 ごめん………応援なんかしてない………

 浩介がシュンとしたまま言う。

「おれ、本当にダメダメで……ごめんね」
「浩介……」

 浩介………大好きな浩介。
 ごめんな。騙してて。おれ、お前のこと応援なんて、これっぽっちもしてねーよ。

 泣きそうな浩介の頭を抱き寄せ、優しく優しく撫でてやる。

「おれのことなんてどうでもいいから」
「どうでもよくないよ」
「どうでもいいって」

 浩介が腕の中にいる……なんて幸福感。

「考えてみたら、3年ってもうすぐ引退だよな?」
「うん……。引退試合は今月末で、引退式は夏休み入る前」
「そっか……」

 もうすぐ終わりだな……

「だったら、もうこのまま、気がつかないふりで今まで通りに接したらどうだ?」
「でも……」

 浩介、眉間にしわが寄っている。

「あんなやり取り見ちゃったら、もう今まで通りには……」
「じゃあ、聞いてハッキリさせればいいじゃねえか」
「う………そうだよね……」

 分かった。聞いてみる。


 そう言っていたのに、結局聞けていないらしい。昨日も一緒に帰ったくせに。
 美幸さんの真っ赤な傘を目で追っている浩介の切ない表情に、胸が苦しくなってくる……。

「黄昏てるとこ悪いが」
「…………黄昏てません」

 部長の橘先輩が、シャッター音とともに声をかけてきた。この人、あいかわらずおれのこと勝手に撮ってくるんだけど……どうにかしてほしい。
 おれの溜息にも気を止めず、橘先輩がそのまま続ける。

「明後日、バスケ部と卓球部の撮影許可がおりた。出られるか?」
「明後日?」
「すみません、おれ……」

 振り返った浩介が言うと、橘先輩は軽く肯き、

「桜井はそれこそバスケ部だったな。じゃあいい。渋谷は?」
「大丈夫です」

 正当な理由で浩介のバスケ部の練習風景を見られるのはおいしい。会いたくない奴もいるけどそこは目をつむろう。

「運動部は夏休み前後で3年が引退だからな。早めに回っておいた方がいいだろう」
「ですね」

 今年の文化祭の写真部のテーマは『輝く白浜高校生~部活編』。ちなみに昨年は『輝く白浜高校生~体育祭編』だった。昨年の文化祭では、クラスメートの安倍と石川さんと枝村さんの4人で、自分たちが写ってないか見にいった記憶がある。まさか今年は自分が撮る側に回るとは……

「授業終了後、昼食持参で部室集合な」
「はい」
「で、二人ともやる気が出たら先週の続きやるから声かけてくれ」
「えええ」

 やる気が出たらって……

「やる気ありますよっ」
「ありますっ」

 浩介と二人、思わずハモったが、橘先輩は肩をすくめて暗室に入っていってしまった。

「何でもお見通しって感じ……」
「だな」

 浩介のつぶやきに、心から肯く。
 カメラのファインダーを通すとその人の内面まで見える、というのは本当なのかもしれない。

(………浩介)

 それならば、おれは今、お前のことは写したくない。お前の心の中は美幸さんでいっぱいに決まってるもんな……




---------------------------------------


お読みくださりありがとうございました!
まだ続きがあるのですが、書き終わらなかったので、とりあえずここまでをアップさせていただきます。

続きは……明日更新したいなあ、という感じです。
早ければ明日、ダメだったら明後日、いつものように朝7時21分に。よろしくお願いいたします!


クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!
もう少しで「片恋」編は終わります。お見守りいただけると幸いです。
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