登場人物
桜井浩介:高校2年生。表はニコニコ裏はものすごい後ろ向き。人生初の友人である慶と、ずっと親友でいられることを願っている。
渋谷慶:高校2年生。天使のような容姿だが性格は男らしい。親友浩介に密かに健気に片想い中。
浩介と慶、まだ高校2年生の時のお話から始まります。
時系列的には、片恋2-2と3の間。
この数日後に、浩介が美幸さんに片想いをはじめるわけです。
あー慶、可哀想に……。
そんな可哀想な慶君になる寸前のお話。
まだ浩介が慶のことを心の中では「渋谷」と呼んでいた時代です。
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【浩介視点】
「渋谷ー! お前、明後日、誕生日なんだってな?」
金曜日の放課後、クラスのムードメーカーである溝部という男子生徒に、渋谷が声をかけられた。
(誕生日?)
そのセリフに、ハッとした。
そういえば、渋谷は4月生まれだと以前聞いたことがある。何日かまでは聞いていなかったし、ここのところ、球技大会やらなんやらで忙し過ぎて、すっかり忘れていた。
(9月のおれの誕生日はお祝いしてもらったのに……)
渋谷はハンバーガーのセットを奢ってくれたのだ。二人きりの誕生日会。生まれて初めて、友達に祝ってもらえて、ものすごく嬉しかった。それなのに、
(それなのに、渋谷の誕生日のこと忘れてたなんて!)
ああ、「親友」失格だ。渋谷も言ってくれればいいのに……と思っていたら、
「え、今日、26日? そうか明後日か。忘れてた」
ケロリと渋谷が言うから驚いた。誕生日って忘れるものなのか?!
溝部も同じことを思ったようで、渋谷に詰め寄っている。
「んだよそれ! 誕生日は一年に一度しかないんだぞ! 忘れるなんてありえねえだろっ」
「えー、おれ、毎年忘れるんだよなあ。この時期忙しいだろ」
「はあ? ありえねえ」
(誕生日?)
そのセリフに、ハッとした。
そういえば、渋谷は4月生まれだと以前聞いたことがある。何日かまでは聞いていなかったし、ここのところ、球技大会やらなんやらで忙し過ぎて、すっかり忘れていた。
(9月のおれの誕生日はお祝いしてもらったのに……)
渋谷はハンバーガーのセットを奢ってくれたのだ。二人きりの誕生日会。生まれて初めて、友達に祝ってもらえて、ものすごく嬉しかった。それなのに、
(それなのに、渋谷の誕生日のこと忘れてたなんて!)
ああ、「親友」失格だ。渋谷も言ってくれればいいのに……と思っていたら、
「え、今日、26日? そうか明後日か。忘れてた」
ケロリと渋谷が言うから驚いた。誕生日って忘れるものなのか?!
溝部も同じことを思ったようで、渋谷に詰め寄っている。
「んだよそれ! 誕生日は一年に一度しかないんだぞ! 忘れるなんてありえねえだろっ」
「えー、おれ、毎年忘れるんだよなあ。この時期忙しいだろ」
「はあ? ありえねえ」
溝部は呆れたように言葉をついだ。
「いくら忙しくてもありえねーよ。アッサリしてんなーお前」
「んな、ガキでもあるまいし、誕生日なんて……」
「いーや!誕生日は大事だ!」
溝部は叫ぶと、バンッと渋谷の肩を叩いた。
「だからさ!パーティーしようぜ!パーティー!みんなで集まってさ!」
「え」
溝部の明るい声に、ドキッとなる。
(みんなでパーティー……)
みんなで集まって、お祝い。
ふと、球技大会で、みんなに頭をぐちゃぐちゃにされて笑っていた渋谷の姿を思い出す。
渋谷は明るい光で、みんなに囲まれてて……おれには手の届かない人、で。
(………渋谷)
おれの誕生日は、二人きりでお祝いしてくれた。でも、渋谷は……みんなでお祝いの方が、楽しいよな……
と、思っていたら、やっぱり、
「おー、サンキュー」
渋谷が、ニッとして手を挙げた。
(そうだよな……やっぱり、みんなで、だよな)
と、ちょっとガッカリしていたら、
「そしたら、明日は?土曜だから、部活終わるの早いだろ?」
渋谷が言ったので、え、と思って振り返った。
(明日?)
溝部も顎に手を当てて、うーんと唸っている。
「土曜の夜って塾の奴多くね? 日曜はダメなのか?誕生日当日」
「悪い。当日はちょっと」
ぱっと手の平を溝部に向けた渋谷。再び、え、と思う。
(「ちょっと」? 御家族でお祝いとかするのかな。それとも……)
親友、のおれとお祝いするとか、考えてくれてないかな……。そんなのおこがましくて言えないけど……
と、思っていたら、溝部がムッとしたように、
「何だよ、まさか女か?」
「ちげーよ」
渋谷もムッとしたように即答した。
「んなのいねーよ」
「だよな?お前いないって言ってたよな?裏切んなよ?」
「なんだそりゃ…って、浩介」
渋谷は言いかけてから、おれを振り仰いだ。
「お前、時間大丈夫なのか? そろそろ部活行かないとだろ」
「あ、うん」
「帰り、うち寄れるか?」
「うん」
じゃあ、あとで、と手を振った先ではもう、渋谷と溝部が土曜日の夜何時にするかの話を始めている。
(土曜日の夜は、家庭教師の先生が来るからダメだな……)
誕生日のお祝いできないなんて、やっぱり「親友」失格だな……
なんて、落ち込みながら部活に参加し、帰りにいつものように渋谷の家に寄ったところ、
「お前、日曜日、何か用事あるか?部活は?」
「え」
玄関入るなり、いきなり聞かれて、慌ててブンブン首を振った。この日はちょうど試合もないのだ。
「ない、よ」
「お!良かった! じゃあ、一緒に遊ぼうぜ」
「え」
あっさりと、遊ぼう、と言われて、戸惑ってしまう。
「でも、慶、この日、慶の……」
「そうそう。誕生日」
コクンと肯かれ、ますます戸惑う。せっかくの誕生日、おれなんかと一緒でいいの……?
という、疑問も挟ませず、渋谷がニコニコと続ける。
「おれさー、遊園地行きてえなー。ボーリングでもいいけど、やっぱ、せっかく誕生日だから遊園地かなーと思って。お前は何がいい?」
「え……と」
それは、おれと二人ってことなんだろうか。それとも、みんなと……
「あの……みんなでパーティー、は、どうなったの?」
聞くと、渋谷はキョトン、とした。
「それは明日。え、お前も来られるか? 土曜日はカテキョー来るからダメかと思ってたんだけど」
「あ、う、うん。家庭教師の先生くる日……」
聞くと、渋谷はキョトン、とした。
「それは明日。え、お前も来られるか? 土曜日はカテキョー来るからダメかと思ってたんだけど」
「あ、う、うん。家庭教師の先生くる日……」
「だよな。土曜って塾の奴多いってホントだったんだなー」
ふむふむ、とうなずきながら、「まあ、上がれよ」と言ってくれたので、「お邪魔しまーす」と奥に向かって声をかけてから、家に上がる。返事がないところをみると、お母さんはまだ帰っていないようだ。
階段を上りながら、渋谷は機嫌よく続けている。
「みんな、誕生日をダシにして遊びたいだけだからさ、おれ、適当に一次会で抜けるから、日曜日、朝早くからでも大丈夫」
「………」
日曜日、朝早くから……
「それは……おれと、二人?」
そのために、みんなとの約束を土曜日にしてくれたの?
恐る恐る、言葉にしてみると、渋谷はアッサリと「おお」とうなずいてくれてから、ひゅっと眉を寄せた。
「まさか、お前……おれと二人、やだ?」
「まさか!」
速攻で全力で否定する。
「二人がいい!」
「………そっか」
渋谷は何故かホッとしたようにうなずくと、ポンポンとおれの腕を叩いた。
「じゃ、二人で行こうな? 場所は……」
「遊園地にしよう!」
渋谷に言われる前に大きく叫ぶ。さっき、渋谷、遊園地に行きたいって言ってた。その願い、叶えたい!
「おれ、慶と遊園地、行きたい! すっごくすっごく行きたい!」
「…………」
バアアッと渋谷の頬が赤くなった。肌が白いから赤くなるとすぐに分かる。
「慶、どうし……」
「早く入れ!」
渋谷は隠すように顔を伏せると、さっさと部屋の中に入って行き、
「ほら、この雑誌、出かける場所、色々載ってるから!」
テーブルの上の雑誌を指差した。
「南の部屋から勝手に取ってきたんだけど……、あ、これ、デ、デートコース、とか書いてあるけど、気にすんなよ?!」
「うん」
そんなの別に気にしないのに、なぜか渋谷は慌てたように言ってから、パラパラとめくり始めた。
「で、ほら、遊園地はここのページ」
「うん」
二人で遊園地……楽しそうだ。
渋谷の誕生日。初めての「親友」の誕生日。
おれは何を用意すればいいんだろう?
「慶……何が欲しい?」
「え」
「慶、誕生日だから……ほら、おれの誕生日の時はマック奢ってくれたでしょ? 慶は……何が欲しい?」
「あー………」
渋谷はうーんと唸ってから、小さく一言何かを言った。
「え?」
聞き返したけど、「何でもない」と言って、バンバンッとおれの肩をたたくと、「考えとく」と、ニッと笑った。
(何を言ったんだろう?)
不思議に思ったけれど、渋谷がまた雑誌を指差しながら、話し始めたので、それ以上は聞けなかった。
「うん」
二人で遊園地……楽しそうだ。
渋谷の誕生日。初めての「親友」の誕生日。
おれは何を用意すればいいんだろう?
「慶……何が欲しい?」
「え」
「慶、誕生日だから……ほら、おれの誕生日の時はマック奢ってくれたでしょ? 慶は……何が欲しい?」
「あー………」
渋谷はうーんと唸ってから、小さく一言何かを言った。
「え?」
聞き返したけど、「何でもない」と言って、バンバンッとおれの肩をたたくと、「考えとく」と、ニッと笑った。
(何を言ったんだろう?)
不思議に思ったけれど、渋谷がまた雑誌を指差しながら、話し始めたので、それ以上は聞けなかった。
結局、遊園地でのお昼ご飯を奢ることが誕生日プレゼントとなった。こんな誕生日でいいのかな?と心配だったけど、
「こんな楽しい誕生日、初めてだ!」
ものすごい怖いジェットコースターを乗り終わって、二人でヘロヘロになっている最中に、渋谷がものすごく嬉しそうに言ってくれたので、良かったな、と思った。
追記。
それから約一年後……
今年の慶の誕生日をどうするか話そうとして、ふと、去年、欲しいものを聞いた時に、慶が何かを言ったのに誤魔化したことを思い出した。
「あれ、何て言ったの?」
覚えてないかな?と思いつつ、ダメ元で聞いてみたら、
「あー……あれな」
慶は「あー……」と唸ってから、「当ててみろ!」と言い放った。覚えてたらしい。
1年前の、慶の誕生日。
あの時の慶は、おれに片想いをしてくれていた。だから……欲しいもの、といったら……
「『お前』、とか?」
「一発で当てんな!」
バッと赤面した慶に、グーで叩かれた。
そうか。そっか……おれ、か。
嬉しくて顔がニヤけてしまう。
「今年の誕生日は平日だから遠出できないね」
「だなー。しかもお前、部活だよな? 帰りにうち寄れよな?」
「うん。速攻で行く」
それで、二人きりで誕生日を祝おう。恋人になってから初めての誕生日。
大好きな大好きな「親友兼恋人」の誕生日。
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お読みくださりありがとうございました!
浩介の心の中の「渋谷」呼びを書きたくなったため、高2の4月を切り取ってみました。(追加で高3の4月も書いてみた)
はじめは、バレンタインの話にしようかと思ったのですが、あまりにも季節外れのためやめときましたー。
(って、今日はせっかく七夕なのに、七夕何も関係なくてm(__)m💦)
そんな感じで。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当にありがとうございます。感謝してもしきれません。おかげさまでまだ、書いております。
休載宣言をしてから早いものでもう10ヶ月になります。コロナの件もあり、色々なことを手放してきましたが、やっぱりここだけは手放せないなーと最近あらためて思ったのでした。
やはりまだ長編を手掛ける余裕はないため、小話ばかりで恐縮ですが、お時間ありましたらお付き合いいただけますと幸いです。
具体的なお約束はできませんが、また、次回!どうぞよろしくお願いいたします。