創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶⑤

2007年05月31日 15時02分15秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
「ちょうどメールしようとしてたところに電話がかかってきたからビックリしたよ」
電話越しで聞くのは久しぶりな彼の声。
「あと一時間くらいいるから、せめて一目だけでも会えないかな、と思って」

頭の中で素早く計算する。
これから着替えてお化粧して、子供を預けにいって・・・

「・・・・・・・・・・無理」

結局。
それから一時間近く電話で話した。

結婚する相手の人との馴れ初めとか聞いてみた。
結婚式の準備のアドバイスなんてしてみた。

一番たくさんの時間を割いたのはやっぱり思い出話だった。
花火大会のこととかスキーのこととか石垣島の旅行のこととか。

そんな中で“ヘブン”の話しになった。
“ヘブン”というのは、ラブホテルの名前。
いつ行っても、待合室も人で溢れている、超人気のホテルだった。
雑誌に掲載されたこともある、部屋にプールやらブランコやらあるらしい、オシャレなホテル。
結局一度も行くことができなかった。

「それだけが心残りなんだよね~」
と、ふざけていうと、
「そうだね」
「・・・・・・・」
妙に真面目に返されたので、しばらく無言が続いてしまった。


その後、たわいもない話をしていたら、
子供達がケンカをして騒ぎだしたため、
慌ただしく電話を切ってしまった。


『今日・・・会わなくて正解だったのかもしれない』

その夜、メールがきた。

『会って、あんな話をしていたら“じゃあ、これからヘブンに行ってみよう”って、誘っていたかもしれない』

・・・うん。
会わなくて正解だったよ。
誘われてたら、きっと、私・・・
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ある平凡な主婦の、少しの追憶④

2007年05月29日 11時41分44秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
特に何ってことではなかったんだけど、
自分の結婚式までに、上京する機会は今回が最後だから、
会えたらいいなと思ったんだ。
勝手な言い分でゴメン。

っていうのが、私の断りメールに対する彼からのメールだった。

特に何ってことではない、ってさ。
会えたらいいな、だってさ。
・・・・。

やっぱり、どうにかして会いにいけないかな・・・。
でも、そんなのダメだよね・・・。

ぐるぐるぐるぐる頭の中を回ってたけど、
結局何をすることもなく、土曜日になってしまった。

土曜日の朝、夫は出かけていった。
子供達と過ごす、いつもの休日。

せめて、電話だけでもしてみようかな。
でも・・・。

携帯に表示された彼の名前とにらめっこしながら、
頭の中をぐるぐるぐるぐる・・・。

「ママ~、電話ちょうだい!」
「え?」

止める間もなく、娘が携帯をいじりはじめた。

「プルルル~だって」
「え?!」

あわてて取り上げて、電話を切る。
発信記録を見て、血の気が引いた。

彼にかかってしまったんだ!!

ど、どうしよう・・・。
いや、すぐ切ったから、ほんの一秒くらいのことだから、向こうにはかかっていないかも・・・。

おろおろする間もなく・・・手元の電話が鳴った。

ディスプレイ表示は・・・彼だった。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶③

2007年05月28日 10時48分19秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私は今、東京に住んでいる。
彼は5年ほど前から北海道で勤めている。

週末に友人の結婚式があるから上京してくるらしい。
だから結婚式が始まる土曜の夕方まで時間があるから、会えたら会いたい、という。

・・・・・・どうしよう。

土曜日、夫はちょうど会社の女の子と出かける予定だった。
(私は夫が女の子と2人で出かけることについて、特に異論はない。男女の友情というものは存在する、という持論があるからだ)

問題は子供達だ。
出かけるとしたら・・・実家に預ける?
いや、実家の両親は確か午後から予定があるといっていた。
でも午後までなら預かってもらえるかも・・・?

でも、何て言う?
夫は、私が彼と会うと言ったら怒り出すに決まっている。
今となって考えると、8年前のことを夫に話すべきではなかった。
夫は私を傷つけた彼のことを憎んでいるのだ。
話していなければ、ただの高校の同級生ということにしていれば、会っても文句は言われなかっただろうけど・・・。

実家の両親も、8年前の一件を知っているので、私が彼と会うといったらいい顔はしないだろう。
たぶん、子供を預かってほしいといっても断られる。

他の友達と会うといって出かければいいのかな・・・。
でも、誰ということにしたら自然だろう?
子供を預けるのに自然な理由・・・。

と、ここまで考えて、ふと我に返った。

みんなに嘘をついてまで、会うの?
そんな後ろ暗い思いをしてまで会いたいの?

そんな思いをしてまで会いたいなんて・・・。
まさか、私が・・・?

・・・やめた。
やめたやめた。

今の幸せな生活を壊すようなことはしたくない。
そんなのは間違っている。

結局、断りのメールを出した。
これでいい。これでいいんだ。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶②

2007年05月25日 10時21分31秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼とは、この8年間、まったく音信不通だったわけではない。

別れた二年後に、共通の友人の結婚式で再会した。
この時は一言も言葉を交わさなかった。
人づてに、私達が別れる原因となった彼女と別れたということを聞いた。

その後も、そういった結婚式だの同窓会だので、何度か会った。
最近になって、ようやく少しだけ直接話をするようになった。

昨年末に共通の友人の結婚式で会ったときに、
「こうやって、君と普通に話せるとは夢にも思わなかった」
と言われた。
彼は私にした仕打ちのことで、ものすごく自分を責めているらしい。

私といえば、確かに当時は辛かったとは思うのだけれど、
憎しみの感情というのは続かないもので。
今となっては、楽しかったことしか思い出せないから不思議だ。

でもそれが逆に苦しかったりもする。
楽しかった記憶が、何かの拍子にリアルに蘇ってきたときなど、苦しくて息が詰まる。
もうこの切なさが手元にはないものだと実感する。

もしかしたら、今も憎めていれば、もっと楽なのかもしれない。

彼は今年の秋に結婚するそうだ。
私の次の彼女と別れたあと、自己嫌悪から5年以上恋人を作れなかったという彼。
その彼を救い出した新しい彼女と人生を共にする決意をしたらしい。

もちろん、心から祝福する。祝福できる。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶①

2007年05月23日 14時04分59秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼と別れたのは、もう8年も前のことになる。
こちらが一方的にフラれた形。
別れた後も色々あった。
詳しくは書かないけど、この時の話を人にすると、皆一様に「それは酷い!」という。
だから一般的に言っても、酷い仕打ちを受けたと言っていいらしい。

それなのに、まだ彼のことを好きな私は、よっぽどおめでたいのかもしれない。


とは言っても。それはみんな過去の話。
私は今、別の男性と結婚して子供にも恵まれて、幸せな結婚生活を送っている。
何も不足のない毎日。これが幸せというものだろうと自分でも思う。

それなのに、全身を覆うこの空虚感は何なのだろう?

この季節が来ると、特にひどくなる。
ふうっと過去に引き戻されることが多くなる。
そして我に返った時に、とてつもない空虚感に襲われるのだ。


そんな毎日の中、突然、メールが、きた。

「今度の土曜日、会えないかな?」

8年前に別れた彼からだった。




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なーんておもむろに始めてしまいました
更新していないのに見に来てくださっていた方々、本当にありがとうございます~。
毎日は更新できないかもしれませんが、ぼちぼちやっていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
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