創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係29-2

2018年12月28日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 ほとんど無意識の行動だった。
 隣で眠っている村上哲成の額に、そっと唇を落としてしまって……

(…………。何やってんだオレ)

 即座に我に返り、自問自答したけれど、答えなんか出てこない。よって無理矢理、一つの結論を導きだした。

(こんな無邪気な笑みを浮かべて寝ている村上が悪い)

 そうだ。すべては村上哲成のせいだ。


***

 中学3年生のクリスマスイブ。
 松浦暁生に誘われて、村上哲成の家に泊まりにいった。

 誘われて、というのは語弊がある。あれは交渉……、いや、強制だった。


「テツの部屋を借りるのやめろって話、聞いてやってもいいぞ」

 22日の放課後、松浦に呼び出され、唐突に言われた。

「条件は、クリスマスイブにテツの家に泊まること」

 話が繋がらず、押し黙ってしまうと、松浦は少し肩をすくめた。

「元々、テツは毎年クリスマスイブはオレの家に泊まりにきてたんだよ。テツのお父さんが朝まで仕事だから」
「…………」
「でも、今年は逆に、オレが泊まりにいくことにしたくて」
「…………」

 それでどうしてオレまで泊まることになるんだ? という疑問を口にする前に、松浦は「いち」と言ってゆびで1を作った。

「この提案は一石三鳥だから。その一。オレは夜から、彼女と一緒に出掛けたい。でも親には言えないからアリバイが欲しい」

 アリバイ……

「二。3人で泊まりのクリスマス会をしたら、オレ達が仲直りした証拠になって親が安心する」

 確かに……。父は「男同士は殴り合って仲良くなっていくものだ」なんて呑気なことを言っているけれど、母はまだまだ気に病んでいる。これでクリスマス会をするくらい仲良くなった、と言ったら、母は喜ぶだろう……

「三。三は……」

 松浦は少し言い淀むと、心を決めたように顔をあげた。

「テツの部屋はもう使わない。だから、テツには部屋で寝られるようになってほしい」
「………え」

 驚いた。以前、意地の悪い顔で、彼女と村上のベッドを使っていることを得意げに話していたのに……。

「だから、お前がどうにかして、テツが部屋で寝られるようにしろ」
「どうにかって……」

 そんなこと言われても……

「頼んだぞ?」
「……………」

 突然過ぎて、目をしばたたかせることしかできない。と、松浦がポンと手を打った。

「ああ、それから、当日、ジャンパーかコート貸してくれ」
「え」
「親に見つからないための変装だよ」

 変装? と、目を見開くと、松浦はフッと笑ってからいってしまった。

「…………」

 良いとも悪いとも言っていないのに、勝手に予定を決められてしまった……。村上はこんな調子で松浦の言うことをホイホイ聞いているんだろうなあ、と思う。本当に勝手な奴だ。…………でも。

『テツには部屋で寝られるようになってほしい』

 そういった松浦はとても真剣で、そして瞳に少し懺悔の色が灯っていて……。

 この、村上のことを本当は心配している松浦と、みんなに見せる優等生の松浦と、オレに見せる意地の悪い松浦と……。どれが本当の松浦なんだろうか。


***


 ケーキを食べ終わって早々に、松浦は予定通り出かけていった。彼女も友達とのパーティーがあって、その後に二人で朝まで過ごす約束をしているらしい。25日は村上の家から登校する予定なので、始発電車で帰って来るつもり、と言っていた。

「……オレだけじゃ不満か?」

 取り残された村上に、思わず聞いてみると、村上はビックリした顔をしてから「そんなわけないだろ」とケタケタ笑いだした。その笑顔にホッとする。

「んじゃ、ピアノ弾いてくれよー。せっかくだからクリスマスソング!」
「……ああ」

 いつものような穏やかな時間が流れてきて、正直、嬉しい。やっぱり、松浦と一緒は息が詰まる。それに……

(村上って、松浦がいると、妙にはしゃいでるんだよな……)

 オレと二人でいるときの村上の方が、無理してない『素』の村上なんじゃないかな……と思うのはオレの驕りだろうか。



 この日の料理とケーキは、お手伝いさんが用意してくれたらしい。お手伝いの田所さんは、無口で不愛想なお婆さんだ。オレも何度か会ったことがあるけれど、一度も話したことはない。でもその、こちらに踏み込んでこない感じが気に入っている、と村上が以前言っていた。

「お手伝いさんはお手伝いさん。母ちゃんの代わりとか、絶対してほしくないから」

 あっさりと言ったけれど、きっとこの4年の間に色々な葛藤があったのだろうと思うと、胸が痛くなる……


 その田所さんが、村上の部屋に二組の布団をキツキツで引いてくれていた。村上はベッドで、客二人が布団で、というつもりで用意してくれたのだろうに、村上は部屋に入ると、布団の上にちょこんと座った。

「…………。ベッドで寝ないのか?」
「あー……うん」

 言いにくそうに肯いた村上。風呂上がりの頬が赤くなっている。

「ちょっと……うん」
「……………」

 村上の親友の松浦が、このベッドで彼女としていたところを目撃してしまったために、ベッドで寝られなくなった、というのは憶測上のもので、本人に確認したことはない。でも、おそらくきっと、合っているのだろう……

「お前、ソファで寝てるって前に言ってたよな?」
「うん」
「いい加減、もう寒いし、部屋で寝るようにしたほうが良くないか?」
「うん……」

 村上は、肯きながらも、布団の中にゴソゴソと入りこんだ。やはりベッドで寝る気はないらしい。

「……じゃ、お休み。電気消してくれるか?」
「……おお」

 電気を消して、オレも隣の布団に潜り込む。
 目が慣れて、少し周りが見えるようになったころ、村上がポツンといった。

「オレさあ……前に見ちゃった……っていうか、聞いちゃったんだよ」
「……何を」
「この部屋で、暁生が彼女とやってる声」
「…………」

 話してくれた……と少し嬉しくなってしまったけれど、冷静に「ふーん」とだけ肯く。

 暗闇の中、微妙な沈黙が続き……あまりにも長い沈黙に、寝てしまったのだろうか、と思ったところで、村上が再び口を開いた。

「キョーゴは、やっぱりまだ彼女いないのか?」
「いない」
「好きな女子とか」
「いない」
「…………」
「…………」

 前にもした会話だな、と思っていると、村上がこちらをむいた気配がしたので、オレもそちらに顔を向ける。と、思いの外距離が近くてドキリとする。でもそんなオレの様子に気が付く風もなく、村上は言葉を足した。

「西本ななえのことは、どう思ってる?」
「西本?」

 同じ学級委員の西本……。こいつは小学一年生の時から村上を知っていて、それで……

「西本って、キョーゴのことが好きなんだと思うんだけど」
「は?!」

 とんでもない発言に、思わず起き上がってしまった。

「何言ってんだよ。西本が好きなのは……っ」

 お前だ、と言いかけて、飲み込む。それはオレが言う話じゃない。それに…

(知られたくない)

 知ってしまって、村上が西本とどうこうなったら……と思うと、胸がザワザワする。

「え、キョーゴ、西本の好きな人知ってんのか?」
「…………」

 村上も起き上がり、こちらをのぞき込んできた。けれど、本当のことなんて……言わない。

「………知らないけど、好きな人がいることは知ってる。でもオレじゃないことは確か」
「えー、そうかなあ……。あいついっつもチラチラ、キョーゴのこと見てるぞ?」
「そんなことはない。それは大きな勘違いだ」

 なぜなら西本が見ているのはお前だ、なんて言ってやらない。

 すると、村上は「あーああ」と大きくため息をついた。

「あー、オレ、やっぱ遅れてんだよなー。好きな人とかそういうの、全然分かんねえ」
「…………」
「なんかな……ベッドも、そういうことに使われたって思ったら、何か……使いにくくなっちゃって」
「…………」

 言いにくそうにうつむいた村上……

「ソファーで寝るのも寒いし、疲れが取れない感じがするし、いい加減、ベッドで寝た方が良いのは分かってんだけど……」
「…………」
「田所さんがシーツも布団カバーも洗ってくれてるし、こないだマットレスだって干してくれたから、全然、気にすることないんだけど……」
「………そうか」
「え」

 立ち上がり、村上の腕を取る。その悩み、オレが解決してやる。

「気にすることないなら、寝ればいい」
「え」

 動揺したように「え、え、え」と言い続ける村上の腰を抱き、ベッドの中にもつれこむ。

「ちょ……っ」
「気にすること、ないんだろ?」

 起き上がろうとするのを、力ずくで抱きしめて阻止してやる。

「ちょ、キョーゴ……っ」
「だから寝ろって」
「でもっ」
「でもじゃなくて」
「でも……っ」
「大丈夫だから」
「でも……」

 腕の中でモゴモゴ動くのを、何とか押さえつけていると、しばらくしてようやく観念したのか、村上の力が弱まった。

「……キョーゴ」
「……なんだ」
「…………」
「…………」

 また続く沈黙……
 
 今度こそ本当に寝たのか? と確かめようとしたところで、村上がポツン、と言った。

「……ホントだ。大丈夫だ」
「……そうか」
「うん」
「…………」
「…………」
「…………」

 しばらくして、村上の寝息が聞こえてきた。

(ああ……良かった)

 ホッとして、押さえつけていた腕を解いてやる。すぐ近くにある、村上の白い頬……。眼鏡をしていない村上は、少し幼く見える。

(安心しきったような寝顔だな……)

 オレだけに見せる顔……

 体の奥の方から何か温かいものがあふれてくる。この気持ちに一番近い言葉は……『愛おしさ』。


「…………村上」

 それで、思わず、衝動的に、ほとんど無意識に……その額に唇を落としてしまった。

(…………。何やってんだオレ)

 即座に我に返り、自問自答したけれど、答えなんか出てこない。

(こんな無邪気な笑みを浮かべて寝ている村上が悪い)

 そうだ。すべては村上哲成のせいだ。



 これ以上の衝動がおきるのがこわくて、慌ててベッドから抜け出て、床の布団の中に潜り込んだ。
 でも、気持ちがモヤモヤザワザワして、ちっとも眠れない。


 結局、明け方、松浦暁生が帰ってくるまで、一睡もできなかった。

「……テツ、ベッドで眠れたんだ」

 部屋に入ってくるなり、小さな声で言った松浦。

「サンキューな、享吾」

 ホッとしたように言われて、それはそれでちょっと嬉しかったので、良かったことにする。




----


お読みくださりありがとうございました!
前回ここまで書く予定でした(せっかく偶然、29年後の12月25日の朝だったのに!)

ということで。
今年一年も本当に本当にありがとうございました。
今年は、慶と浩介の高校3年生の物語から始まり、ちょこちょこ読み切り挟みつつ、真木さんとチヒロの物語が完結し、そして今の享吾と哲成の物語中……
お付き合いくださった方、本当にありがとうございました!

次回、火曜日は短い読切でも書きたいなあ……と思っていたり。また来年もどうぞよろしくお願いいたします!


ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでまた一年書き続けることができました。よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係29-1

2018年12月25日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 誰かの腕の中で眠るなんて、何年ぶりだろう。

 一人じゃないって、こんなに安心できて、こんなに嬉しくて、こんなに優しい気持ちになれるんだな……

 あまり覚えてないけれど……
 母の腕の中は、こんな感じだったかもしれない。



***


「男3人でクリスマス会をしよう」

と、松浦暁生が言い出したのは、クリスマスイブ前々日の朝のことだった。3人というのは、暁生とオレと、村上享吾のことだそうだ。

 暁生と村上享吾は、殴ったり殴られたりするくらい仲が悪いのに、3人でクリスマス会?

「えーと……、仲直りパーティーってことか?」
「そうそう。今年はテツの家に泊まりでな!」

 ニッとした暁生。

 母が亡くなってからは、クリスマスイブは毎年、暁生の家に泊まらせてもらっていた。父はレストランで働いているため、毎年クリスマスは朝にならないと帰ってこられないからだ。

 でも、暁生の妹の里穂ちゃんがもう小学校6年生だし、男のオレが泊まるのは迷惑になるから今年からは遠慮しようと思っていた。その矢先の、暁生の提案。最近、色々あったけれど、やっぱり暁生は暁生だ。オレのために考えてくれたんだ!ってすごく嬉しくなった。

「うん。しようしよう! 父ちゃんと田所さんに言っておく!」
「おーよろしく。享吾はオレが誘っておくから」

 わー楽しみだ楽しみだ!

 と、思ったものの……。

 クリスマスイブ当日。
 険悪な雰囲気の二人と同じ空間にいるというのは、なかなか居心地の悪いものだった……。

(仲直りする気なんて全然ないんじゃないか……?)

 そう疑いたくなるくらい、暁生の村上享吾に対する言葉はイチイチ棘棘しいし 村上享吾はシラッと無視しているし……


 自分のはしゃいだような声だけが、空々しく部屋に響く微妙な空気の中で、3人でケーキを食べ始めたところ、

「オレ、彼女できたんだよ」

 ニッコリと暁生が言った。

「テツには一番に教えたかった」

 なんて調子の良いことを言う暁生。相手はやっぱり例の、N高野球部マネージャー。「舞ちゃん」というそうだ。

(いまさら報告されても……ヤル事ヤッてたくせに)

と、内心思わないでもなかったけれど……やっぱり「一番に」なんて言われて嬉しくないわけがない。ヤル事はヤッてたけど、今までは彼女じゃなくて、ようやく正式に彼女になったってことだな。うん。そうだそうだ!

「おー、すげー。年上彼女!おめでとう!」

 必要以上にはしゃいで手を打ってやると、暁生は「サンキュ」とニヤリと笑ってから、なぜか立ち上がった。

「暁生?」
「初めてのクリスマスだからさ、一緒に過ごしたいって言われてて。朝には帰って来るから」
「え」

 それって……
 オレがポカンとしている中、暁生は村上享吾に向き直った。

「じゃ、コート、借りるな? 傘も借りるから。雨まだ降ってるよな……」
「………」

 村上享吾は知っていたようで、何も聞かず、暁生に向かって軽く肯いている。

 オレだけが目をパチクリさせている間に、暁生はさっさと出て行ってしまって……


「…………なんで、コート?」
「親に見つからないためのカモフラージュだってさ」

 オレの疑問に、村上享吾が肩をすくめて教えてくれた。

「キョーゴ知ってたんだ?」
「まあ……うん」

 村上享吾は言いにくそうに肯くと、

「……オレだけじゃ不満か?」

 ボソッと言った。その不貞腐れたような言い方がなんか可愛くて笑い出してしまうと、村上享吾もつられたように笑い出した。




----


お読みくださりありがとうございました!
書き終わらなかったー悔しい!せっかく偶然にもクリスマスの時にクリスマスの話だったのにー!!
とりあえず書けたところまで。

続きは次回、金曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
どれだけ励まされていることか!感謝してもしたりません!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係28

2018年12月21日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 今度は、松浦暁生が村上享吾を殴った。でもまた、理由は教えてもらえなかった。

「だから、テツ君を巡っての三角関係のもつれなんでしょ?」
「は?」
「やっぱり!って一部で盛り上がってるよ?」
「……………」

 隣の席の学級委員の西本ななえの言葉にムーッとしてしまう。

「他人事だと思って好き勝手言って……」
「じゃ、本当の理由は何なの?」
「………知らない」

 全然、分からない。あえて理由を探すと、村上享吾が渋谷慶の怪我に関係していることくらいだけど、それももう、何ヵ月も前の話だし……

「じゃ、三角関係ってことでいいんじゃない?」
「なんでだよ」

 意味が分からない。

「そもそもさ、前もそれ言ってたけど、三角関係って恋愛関係で使う言葉なんだから、使い方間違ってるだろ」
「えー、そうかな」

 西本はあくまでも真面目な顔で言った。

「テツ君、松浦君のこと恋愛対象としてみたことないの?」
「は!?」

 恋愛対象!?

「んなことあるわけないだろっ」

 速攻で否定すると、さらに畳みかけてきた。

「じゃ、享吾君のことは?」
「んなこと考えたこともないっ」

 と、いうか、恋愛自体、したことない!……ってことは、言わないでおく。

 すると、西本は「ふーん」とうなずいてから、一拍おいて、小さく、小さく言った。

「じゃ、私のことは?」
「え?」

 私って………、西本?

 西本の瞳がまっすぐこちらを向いている。揺るぎ無さすぎて、戸惑う。何を……

「私のことは、恋愛対象としてみたこと、ない?」
「え………」

 それは、だから……

「えと……、え?」

 答える前に、いきなり、ポンと頭に手を乗せられた。なんだ?

「なに……」
「どう? キュンッてきた?」
「………」

 西本は昔から冗談なのか本気なのか分からない時がある。今もそうだ。じっと真面目な顔をしてこちらを見ているけれど、その本心がなんなのか……

(あ……そうだ)

 ふっと、昔の記憶がよみがえってきた。西本とは小学校一年生の時も同じクラスだった。あの頃はよくこうして頭を撫でくり回されて……

「懐かしい。ななちゃん」
「…………」

 当時の呼び名で呼んでやると、西本は「うわ……そうきたか」となぜか頭を抱えた。

「テツ君……。ここは嘘でも、キュンッてきたって言ってよ」
「えええ」

 なんだそれ。
 意味が分からないけれど、とりあえずリクエストに応えておく。

「ええと、うん。キュンときた。キュンときた」
「今さら遅い!」

 アハハと西本はひとしきり笑ってから、今度は机を2列はさんだ先にいる村上享吾の方に目をやった。

「享吾君は、どうなのかな」
「どうって?」
「彼女とか、いるのかな?」
「……………」

 いないって言ってたけど、それはオレの口から言う話じゃないしな……と思って黙ってしまう。でも、西本は村上享吾のことをジッと見続けたままで……その横顔はなぜかとても大人っぽくて綺麗で……

(……………西本?)

 あれ? もしかして………

 まさか……でも……


 その時感じた予感は、その後、確信に変わっていく。

(………。あ、まただ)

 オレが村上享吾と一緒にいると、必ずと言っていいほど、西本の視線はこちらにチラチラ向いている。いままで気が付かなかった。

(西本……村上享吾のことが好きなのか)

 そうか……そうなのか。
 それは、小一からの友人として応援するべきなのか? でも……

(西本ななえと村上享吾……)

 確かにお似合いのカップルだけど……でも……

(なんだろう。モヤモヤする……)

 二人が付き合ったら、と考えると、胸のあたりがモヤモヤしてきて……


「村上?」
「!」

 いきなり頭にポン、と手を乗せられ、ドキッとする。村上享吾だ。

「どうした?ボーッとして」
「あ……うん。たまにはボーッとしようかと」
「なんだそれ」

 小さく笑った村上享吾。

(…………あ)

 その顔を見て、モヤモヤの理由に即座に気がついてしまった。

(なんだ。簡単なことだ)

 今はオレだけに見せているこの顔を、彼女になった西本にも見せるかもしれないってことが、ものすごく、果てしなく……

 嫌だ。

 理由はただそれだけだ。




【享吾視点】


 松浦暁生がオレを殴った件は、オレの時とは違って、さほど騒ぎにならなかった。松浦の人望のおかげなんだろう、と思うと複雑だ。

 でも、今回の件で、知ってしまった。
 松浦暁生は、本当に、N高の野球推薦を辞退するかもしれないらしい。最近では、全然野球に身が入っておらず、硬式野球の練習もサボりがちだと、うちに謝りにきた松浦の父親が言っていた。

(まさか、本当に、白浜高校受ける気か?)

 そう思うとゾッとする。
 せっかく、村上哲成から松浦を引き離せると思ったのに……


 それから、もう一つ、最近気になることがある。

(…………まただ)

 西本ななえの視線の先が、村上哲成に向いている。

『なれるもんならなりたいよ』

 先日、西本に、村上の彼女になれば?と冗談で言ったのに対して、西本は真剣な顔をして、そう言ったのだ。思わぬ形で知ってしまった、西本の恋心……。このことを考えると、なぜか不快な気持ちになるので、なるべく考えないようにしようと思うのに、こうもあからさまに視線を向けられると、どうしたって考えてしまう。

 なんてことを思っていた矢先……
 西本が村上の頭を撫でているところを目撃してしまった。

(………西本!)

 思わず叫んで立ち上がりかけたけれど、なんとか冷静を取り戻して座り直す。

(彼女じゃないから、頭撫でることはできないって言ってたくせに……)

 ……………。

 ……………。

 え、まさか……

(彼女になったとか……?)

 そんなこと……あるか?

 不安にかられて、それとなく確認したけれど、別にそんな話にはなっていないらしい。

(紛らわしい……)

 腹が立つのと、ホッとしたのと、なんでそんなこと思うんだ?という疑問と………

 最近、自分の気持ちが、本当に分からない。



----


お読みくださりありがとうございました!

この物語は今から四半世紀ほど前、私が高校生の時にノートに書いたお話を元に書いています。で、今回あらためて気が付きました。
「相手に、嫉妬、独占欲、性欲、を感じたらそれは恋」という私の持論は、この頃から存在していたみたいです。
「嫉妬」と「独占欲」には火がついたので、あとは「性欲」‼

次回、火曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでここまで書いてこられました。よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係27

2018年12月18日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


『オレ、やっぱり、キョーゴと一緒に白高行きたい。高校生になっても、こうやって、たくさん一緒にいたい』

 その村上哲成の言葉に、グラグラと揺れていた心が一気に傾いた。

 オレも、村上と一緒にいたい。この穏やかな時間を手放したくない。
 そして……、自分の実力がどれだけあるのかを、試してみたい。村上がいてくれれば、オレは本気を出すことができる。

(お母さん、ごめん)
 学区トップ校を目指すことは、母の負担になることは目に見えている。でも……でも。オレは、村上と一緒にいたい。

『一緒に白高行こうって、背中、押してくれ』

 そう言うと、村上はパアアッと目を輝かせて、『行こう!行こう!白高行こう!』と大はしゃぎしてくれた。
 こんな時間が、ずっと続けばいい。


***



 今までは、学校で行われるテストは、成績が10位以内に入らないように、わざと空欄を作って調整してきた。でも、今回の期末テストは初めて本気をだした。結果、英語と社会が1位。国語と理科が2位、数学は3位。まあ、おおむね予想通りだ。やはり、理数が弱いな、と反省する。

「享吾、すごい順位上げてきたなー」
「…………渋谷」

 順位発表のあった翌日の放課後、下駄箱の前で、同じバスケ部だった渋谷慶に声をかけられた。

「全教科3位以内ってどんだけだよ。すげえな」
「…………。そんなことはない。理数は渋谷に負けてる」
「それ、逆いえば英国社は勝ってるってことだから!」

 あはは、と笑った渋谷はあいかわらずキラキラしてる。

「もしかして、享吾も白高?」
「…………」

 質問に無言で肯く。

 昨日の夜、期末テストの結果と共に、父と母には『白浜高校を目指したい』と伝えた。母は案の定、真っ白な顔になったけれど、父は『それはいい』と笑って賛成してくれた。

 うちの父は、母とは正反対で、物事を深く考えない楽天家だ。オレが松浦暁生を殴ってしまった時も、事情もたいして聞かず、さっさとオレを連れて松浦の家に謝りに行き、話を丸く収めてしまった。天性の営業マン、と自称しているだけのことはある。

 兄も父に似て、明るく楽しい人だったのに、中学の時にトラブルに巻き込まれてからは、すっかり大人しくなってしまったので、うちは父がいないと、火が消えたようになる。

 オレが白高に行くことにより、うちがどう変わるか、という不安から、立ち止まりそうになるけれど、村上哲成にバシバシ叩かれた背中の温もりを思い出して、一歩、一歩、と踏み出す。


「ああ。白高、目指そうと思ってる」

 決意を持って言葉を足すと、渋谷は「そっかそっか」とうんうん肯いた。

「おれもー。でもおれ、ア・テスト足りてないから、本番相当気合い入れないとでさ。今、今まで生きてきた中で一番勉強してる」
「……そうか」
「白高目指して!お互い頑張ろうなー」

 キラキラをふりまいて、渋谷慶は行ってしまった。

(渋谷も白高か……)

 同じバスケ部の上岡武史も白浜高校を目指すと聞いている。渋谷と上岡の『緑中ゴールデンコンビ』を高校で復活できるんだ、と思うと少しホッとする。渋谷はオレとの接触プレーのせいで怪我をして、夏の大会を最後まで出ることができなかったので、高校で二人の活躍を見られるなら、この罪悪感も少しは減ってくれるかもしれない……

 ふうっと大きく息を吐いて、自分の下駄箱に向かおうとした、その時だった。

「享吾。お前、白高行くのか?」
「…………」

 刺々しい強い言葉に、ギクッとして立ち止まった。振り返ると、当然、そこには松浦暁生がいた。

(村上は一緒じゃないのか?)

 瞬時にそのことを思う。村上はホームルーム終了後、さっさと松浦の教室に向かったようだったのに……

 そのオレの疑問の視線に気が付いたのか、松浦は鼻で笑って言った。
 
「テツは先生に呼ばれて職員室行った。ってか、お前、どんだけテツのこと気にしてんだよ」
「……別に」
「別に、じゃねえだろ。同じ高校まで目指すなんて、けなげだねえ」

 ククク……と笑う松浦。ムカつく……。松浦は意地の悪い視線のまま、言葉を継いだ。

「でもあいつはオレの『シンユウ』だから。お前が一番になることはないから。残念だったな」
「…………」

 それは、否定しない。こんなやつでも、村上は松浦のことをとても大切にしている。松浦の前ではオレと話すことも避ける。
 前にオレが松浦を殴った時も、村上はオレの前を素通りして、即座に松浦に駆け寄っていった。あのシーンは今思い出しても胸が痛くなる……

「あーああ。オレもN高やめて白高いこうかなあ」
「え?」

 呑気な松浦の声に我に返った。今、何て言った? N高やめる?

「松浦は、N高に野球推薦……」
「なんだけど、なんか、最近、野球もどうでもよくなってきてさ」
「…………」
「だってよー」

 松浦は二ッと笑うと、声をひそめて言った。

「野球よりも女とやってた方が気持ちいーからな」
「…………は?」
「あ、ドーテーには分からない話か。悪い悪い」
「…………」

 なんだその勝ち誇ったような言い方。バカバカしい。

「白高の野球部もそこそこは強いしなー。白高行って、野球部入って、適当にやるってのも手なんだよなー」
「……………」
「白高の方が女引っ掛けやすそうだし。やっぱそうすっか。そうすれば今までみたいにテツに雑用頼めるし。うん。オレも白高行くか」
「……ふざけんな」

 こないだ殴ってしまったときと同様に怒りがこみ上げてきた。
 
「そんな理由で……」
「別にいいだろ。テツも絶対に喜ぶ」
「!」

 何を……っ
 
「あいつはオレのことがだーい好きだからな」
「………っ」

 それはそうだけど、でも……

「だからあいつ、オレの言うことなんでも聞くぞ? 宿題もやってくれるし、テスト対策のノートも作ってくれるし、部屋も貸してくれるし」
「だからそれっ」

 思わず叫んでしまった。

「宿題とかノートとかはともかく、部屋借りるのはもうやめろよ」

 オレの腕の中に倒れた村上の苦しそうな顔を思い出してカッとなった。半笑いの松浦に詰め寄る。

 余計なことだって分かってる。でもここでやめさせなければ、こいつはずっと、村上を苦しめ続ける。

「松浦に部屋使われること、村上が嫌がってんの、知ってるだろ?」
「…………」

 スッと、松浦から笑みが消えた。
 ほんの少し考えるような顔をしてから、松浦はまた馬鹿にしたような表情を浮かべた。

「………そういや、一度そんなこと言ってたけど、今は何も言ってこない」
「……」
「言わないってことはOKってことだろ。テツも興奮して喜んでんじゃね? 女が使ったベッドで寝れて……」
「寝てねえよっ」

 我慢できず、ガンッと下駄箱を蹴りつける。松浦が「は?」と眉を寄せたので、思いきり胸倉をつかんでやる。

「村上はお前に使われてから、自分のベッドで寝てない。リビングのソファーで寝てる」
「…………え」
「…………」
「…………」

 目を見開いた松浦を見たら、少し冷静になってきた。胸倉から手を離し、一歩下がる。

「これからもっと寒くなるっていうのに、このままソファーで寝てたら、絶対体調崩す。受験のとき風邪でも引いたら、お前どう責任とるつもりだよ」
「…………」

「…………」
「……………享吾」

 松浦がかすれた声で、つぶやいた。

「テツは……お前にそんな話までしてんのか?」
「…………」
「オレが使ってから、ベッドで寝てないって……」
「…………」

 ベッドで寝ていない、という話は聞いたけれど、理由は聞いていない。でも、そんなことを教えてやる義理はない。

「…………。親友だって言うなら、親友の嫌がることするのやめろよ」
「…………」

 睨みつけてくる松浦。こんな奴が親友だなんて……

「オレだったら、絶対に、村上の嫌がることなんてしないのに」
「…………」
「!」

 ハッとした時には遅かった。

 左頬に衝撃が走り、気が付いた時には、下駄箱に背中を打ち付けていた。見上げると、顔を真っ青にした松浦が拳を握りしめて、震えながら立っていて……

「い……っ」

 痛い、と言葉に出す前に、「わーーー! なんなんだよーーーー!!」という声が聞こえてきて、そちらを振り返った。村上哲成だ。前にオレが松浦を殴った時には、オレに見向きもせずに松浦に駆け寄った村上。

 今度は……今度は、どうする? 村上?

 と、思ったら、

「キョーゴ、大丈夫か?!」
「!」

 あっさりと、松浦の前を素通りして、村上はオレのところに来てくれた。

(村上……っ)

 思わず、その腕に縋り付くと、真っ青だった松浦の顔が真っ赤になっていって……

「は……はははっはは……っ」

 こらえきれず、笑い出してしまった。村上、オレのところに来てくれた。来てくれた……っ

「お前……っ」

 真っ赤な松浦が更に真っ赤になりながら叫んだ。

「お前ムカつくんだよ!ムカつくんだよ!」
「は……はははははっ」

 松浦。傑作だ、その顔。ざまあみろ。


「なに?なんなんだよ?」

 オロオロとして松浦を見上げつつも、オレから離れない村上に、ますます笑いが止まらない。ざまあみろ、ざまあみろだ。


 この後、先生が数人やってきて、オレを保健室に、松浦を職員室に連れていくまで、オレは笑い続け、松浦は叫び続け、村上はオロオロし続けたのだった。



----

お読みくださりありがとうございました!
これで前回の終わりと終わりが合いました。
もう27回なんですねえ。中学時代は、30回くらいで終わらせる予定だったのに……。むむむ。

次回、金曜日更新予定です。どうぞよろしくお願いいたします。

ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。


↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係26

2018年12月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】


 オレの目の前で、今度は、暁生が村上享吾を殴った。

「わーーー! なんなんだよーーーー!!」

 思わず大声で叫んで、

「キョーゴ、大丈夫か?!」

と、駆け寄ると、村上享吾はなぜか、オレがものすごく面白いことを言ったかのように、ゲラゲラと笑いだしたのだった……


***


 その事件が起きる一週間前。
 2学期の期末テストを明後日に控えて、クラス中、ピリピリしていた。このテストの後に内申が決定するので、最後の追い込みで、みんな一点でも多く取りたいのだ。

 そんな中………

「って、図書室使えねえのかよっ」
「蔵書点検か……」

 放課後、村上享吾と二人で、図書室前で固まってしまった。今日はまた、暁生がうちを使うと言うので、図書室で時間をつぶしてから塾に直接行く予定にしていたのだ。

「そういえば壁に予定貼ってあったよな」 
「えー見てないー知らないーえーどうしようかなあー……」

 外寒いしなー、と、ブツブツ言っていたら、ポン、と頭に手を乗せられた。

「うち、来るか?」
「え」

 振り仰ぐと、村上享吾がなぜか真剣な顔で言った。

「親いるけど、それでもよければ」
「行く行く! わーサンキューなー」

 ここ一ヶ月ほどで、村上享吾との仲はさらに接近したけれど、家に行ったことはなかったから楽しみだ!

「……でも、うちの母親、ちょっと変だから、適当に流してくれな?」
「変って?」
「会えば分かる」
「???」

 その言葉通り、会ってみて分かった。
 村上享吾の言葉通り、お母さんは、ちょっと変……かもしれなかった。

 はじめの挨拶の時は、わりと普通だったのだけれども、部屋にカステラとお茶を運んでくれた時に、何かのスイッチが入ってしまったようだった。

「これしかなくてごめんなさいね。お口にあうといいんだけど、お茶でよかったかしら……夏ならジュースもあるんだけどこの季節は置いてなくて……でも、アップルティーがある……でも、アップルティーとカステラって合わない……だから……」
「お母さん」

 爪をかみながらブツブツと言う母親の台詞を、村上享吾が穏やかに遮った。

「カステラとお茶で大丈夫。ありがとう」
「でも、お茶なんて中学生なのに変よね。享吾が恥ずかしい……今からジュース買って……」
「お母さん」

 トントン、と優しく母親の腕を叩いた村上享吾。

「そうしたら、カステラ食べ終わった頃に、アップルティー入れてくれる?」
「でもジュースの方が」
「大丈夫だから」
「でも」
「あの!」

 続く母親の爪かみと村上享吾の困ったようなやり取りに、思わず叫んでしまった。

「オレ、アップルティーって飲んだことないから飲んでみたいっす!」

 すると、二人ともキョトンとして………それから、ふわりと笑ってくれた。その顔が妙に似ていたので、そういえば以前、村上享吾が自分は母親似だって言っていたのを思い出した。



「な? 変だろ?」

 母親が部屋から出ていくと、村上享吾が苦笑して言った。変、というか……

「すごく気にし屋さん?」
「ああ……そうだな。昔はここまでひどくなかったんだけど、ちょっと……色々あって」
「…………」

 村上享吾の横顔は、少し、苦しそうで……

「でも、カステラ美味しいし、アップルティー楽しみだし、オレは気を遣われて嬉しいぞ?」

 素直な感想を言ってやると、しばらくの沈黙の後、村上享吾は、ふっと笑った。

「そっか」
「うん。そうだぞ」

 力強くうなずいてやる。

 なんとなく……村上享吾がいつでも淡々としている理由は、いつもお母さんの相手を冷静にしているからなのかな……なんて思った。さっきもずっと穏やかに接していて……

「キョーゴは優しいな」

 思わず出た言葉に、村上享吾が首をかしげた。

「何が?」
「何がって……」

 お母さんへの接し方が、と言おうと思ったけど、やめた。自分では意識していないことだとしたら、変なことを言って意識させたくない。

「ええと……自分の分のカステラを半分オレに分けてくれるところが」
「なんだそれ」

 そんなこと言ってないぞ、と言いながらも、本当に半分分けてくれた。ほら、優しい。

「おーサンキューやったー優しー」
「変な奴」

 クスクスと笑う村上享吾。やっぱり、優しい。
 こいつのそばにいると、ふんわり包まれている感じがする。丸く丸く包まれている。以前は別々の丸だったのに、今はすっぽりと包まれているような……

「な……キョーゴ」
「なんだ?」

 優しく返され、ちょっと詰まってしまった。けれど、やっぱり、言ってしまおう。

「オレ、やっぱり、キョーゴと一緒に白高行きたい」
「え」

「高校生になっても、こうやって、たくさん一緒にいたい」
「…………」

「…………」
「…………村上」

 目を見開いた村上享吾の表情が、スッと真剣なものに変わった。

「……………あ」

 怒ったか? やばいやばい、と、慌てて手をふる。

「ごめんごめん、オレ、しつこいな。忘れて……って、え?」

 いきなり、振っていた手を上から掴まれて、驚いてしまう。

「キョーゴ? どうし……」
「…………」

 ぎゅぎゅぎゅと更に力が入っている。

 村上享吾はしばらくの沈黙のあと、ポツリとつぶやくように言った。
 
「村上さ……『できるのにやらないのはズル』ってよく言うだろ?」
「うん……」

「オレもそう思う。っていうか……やると楽しいってこと、お前が思い出させてくれた」
「え」

 思い出させた? オレが?

「でも、まだ一人じゃ勇気がなくて……」
「…………」

 勇気? ってなんだろう……

「だから、村上が背中押してくれたら、できる気がする」
「?????」

 背中押す? って、なんの話だ?

「んーと? 何言ってんのかよく分かんねえんだけど」
「………分からなくて、いい」

 村上享吾は、ふっと笑って、オレから手を離した。そして、優しく言葉を継いだ。

「分からなくていいから……背中押してくれ」
「背中?」

「一緒に白高行こうって、背中、押してくれ」
「!」

 一緒に白高行くって?!

「おおおお!!」

 思わず万歳したまま飛び上がってしまった。そのまま村上の後ろに回りこむ。

「行こう!行こう!白高行こう!」
「痛っ! 背中押すって本当に押すなっ」

 文句を言われながらも我慢できず、背中をバシバシ叩きまくる。

「やったーやったー!」
「って、まだ受かったわけじゃないからっ」
「キョーゴなら大丈夫だって! つか、んなこと言ったらオレだって分かんねーじゃん!」

 あはははは、と笑っていたら、村上享吾が「でも」と言って声を潜めた。

「親にはまだ内緒な。オレ、内申ギリギリだから、今度の期末で結果だして、それから説得する」
「オッケーオッケー! よし!じゃ、勉強頑張ろう!」

 残りのカステラを口に放り込んでから、参考書を引っ張りだす。

「でも、キョーゴの方が模試の結果いいのに、内申オレより悪いっていうの意味分かんないんだよなあ」
「……オレ、学校のテスト苦手だから」
「あー、そういえばそうか……」

 学校内のテストの順位は確かにオレの方が上だ。そういうこともあるのかな?

「じゃ、社会の問題出しあいっこしようぜ!」
「先攻後攻」
「じゃーんけーん……」

 いつものようにジャンケンからはじめる。勉強も、村上享吾と一緒だと楽しい。こうして高校生になっても一緒にいたい。いられる可能性がでてきたことが、ものすごく嬉しい。


***


 木、金、土曜日で行われた期末テストの結果は、翌月曜日に発表になった。
 うちの学校では、主要5科目のテストの上位10名の名前が、掲示板に貼りだされる。

 今回、みんなのどよめきは凄かった。それもそのはず。今まで、時々10位内の下の方に入る程度だった村上享吾が、英語と社会で1位。国語と理科で2位、数学3位という好成績を取ったのだ。

 そして……

「松浦君、どうしちゃったの?」

 西本が、自分が首位を奪われたことよりも、そのことを心配していた。
 オレも、自分が数学で1位を取れたことも、暁生のことが気になって喜べなかった。

 松浦暁生は、いつもは全教科5位以内に必ず入っていたのに、今回はかろうじて数学が8位にいるだけで、あとは圏外だったのだ。


 そして………

 翌日の火曜日の放課後、なぜか、暁生が村上享吾をぶん殴った。
 でも、殴られた村上享吾はゲラゲラ笑ってるし、暁生は「お前ムカつくんだよ!ムカつくんだよ!」ってずっと叫んでいるし……

 意味が分からない。




------

お読みくださりありがとうございました!

自己満足な細かい設定。期末の順位。

国語:1西本ななえ・2村上享吾・3荻野夏希
数学:1村上哲成・2渋谷慶・3村上享吾
理科:1渋谷慶・2村上享吾・3村上哲成
社会:1村上享吾・2西本ななえ・3村上哲成
英語:1村上享吾・2西本ななえ・3上岡武史

前回までのテストは、
西本ななえ・村上哲成・渋谷慶・松浦暁生・上岡武史・荻野夏希の6人で上位5位をしめておりました。

「風のゆくえには」シリーズ主役の渋谷慶くん、高校一年生の物語「遭逢」の1でこんなこと言ってました↓

【しょっぱなの実力テストで後ろから数えた方が早い順位をとってしまい、愕然とした。中学時代、学年10位以内の成績を収めていたのは、単にうちの中学のレベルが低かったからだった、ということを思い知らされた】

ということで。みんな高校行ってからも頑張ろう。

以上になりますっ。
こんな何の変哲もない青春物語にお付き合いくださり本当にありがとうございます!
次回、火曜日更新予定です。享吾君が何で殴られたのかの話になります。どうぞよろしくお願いいたします。


ランキングクリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当にありがとうございます!
背中を押していただいたおかげで書き続けることができました。ありがとうございます。
よろしければ、今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へにほんブログ村

BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!

「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「2つの円の位置関係」目次 →こちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする