***
それからたくさん、キスをした。
お互いの肌を撫でて唇を這わせた。
モノ自体に直接触れるのを避けたのは、「イチャイチャ」を満喫したかったからだ。言葉にだして言ったわけではないのに、諒も同じように、モノには触れず、じゃれるようなキスをたくさんくれて嬉しくなる。
胸がないからと言って性懲りもなく隠そうとした手を外して、そこに舌を這わせると、くすぐったいっと言って少し高い声で諒が笑いだした。それが可愛すぎて……
「なんか悔しいなあ……」
ついつい愚痴めいた言葉がでてしまう。
「お前のこういう可愛いとこ、何人の女がみてるんだ?」
「みてないよ?」
肌と肌が溶け合うくらいくっついて諒が言う。
「オレ、基本的に服、下しか脱がなかったから」
「え」
「だってやるだけなんだから、上脱ぐ必要ないじゃん?」
「……………。なんかお前ホント鬼畜だよな」
「そうかな……」
首を傾げた諒。
「女の子達も別にオレのことなんか好きじゃないからお互い様だと思うけど」
「何言ってんだよ、あんだけモテてて……」
「彼女達にとってオレはアクセサリーみたいなもんだし。そうじゃなかったのは、侑奈と……ユミさんだけ」
「ユミさん?」
誰だそれ?
聞くと諒はちょっと気まずそうに答えた。
「中一の時のお手伝いさん」
「ああ……あの」
前に聞いたことがある。諒の初めての女、だ。20歳くらい年上の人。
諒の初めてがその人で良かった、と思ったんだ。同年代の女と初めて同士、とかだとすごく重い感じがして嫌だけど、20歳も年上の女性なら「手ほどきを受けた」って感じで何か納得ができる。
そんなことを言うと、諒はホッとしたように「うん。そう、手ほどき」とうなずき、
「それでね、ユミさんに言われたんだよ」
「何を?」
言いながらもキスをせがむように顔を寄せてきたので、軽く唇を合わせる。すると、この上もなく嬉しそうな笑顔を浮かべた諒。
「唇へのキスは本当に好きな人としなさいって」
「あ、それで……」
散々色々な女とやりまくっていたくせに、キスはしたことがなかった、というのはそれでだったのか。
諒のファーストキスはオレがもらった。そんなアドバイスをしてくれた「ユミさん」に感謝だな。
諒は今度は自分から唇を寄せてくると、にっこりとして、
「オレの初めては優真にあげるから」
「………」
諒の言葉にドキッとする。ずっと素っ裸で肌を合わせあっていたので、もちろんモノはずっと兆したままだったけど、そんなこと言われたら、もう……
「優真……」
それを察したように、諒が「いい?」と上目遣いで言いながら、そっとオレを包み込んだ。
そして……
キスをしながらお互い扱きあって、それから、諒が手際よくゴムを付けてくれて、潤滑のジェルも塗ってくれて……
自然な流れで諒が上になり、繋いだ手に力をこめた。騎乗位、というやつだ。ゆっくり、ゆっくりとオレのものを包み込みながら降りてくる。
「……っ」
温かい、というより、熱い。すごい締め付けに声が出そうになる。
後から聞いたんだけど、諒はこの日のために毎日入れる練習をしてくれていたらしい。シャワーが30分以上かかったのも、中をキレイにしたり、すぐにできるようにしていたからだったそうで……
そんな努力のおかげで、スムーズにオレは諒の中に入っていけて……
「入っ………た」
諒の尻がオレの股までおりてきて密着した。全部入った、ということだ……。
(諒と繋がってる……)
心臓が高鳴る。感動と、初めての自分の手以外による刺激の気持ちよさに、思わず眉間にシワが寄ってしまう。
「優ちゃん……」
「え……」
こちらを見下ろしている諒。……なんだ? 不安そうな……
「諒……?」
「優ちゃん………気持ち良くない?」
「何言ってんだよ?」
「だって……」
「こんなになってんの、分かんない?」
下から思いきり突き上げると、「あ…っ」と諒が悲鳴じみた声をあげた。それに刺激され、衝動をこらえきれず数回突きあげたら、すぐに、イク寸前まで持っていかれてしまい、慌ててやめる。……と、
「諒?!」
諒の両頬に涙が伝っていることに気が付いて、ハッとする。
もしかして、痛いのか?!
見ると諒のモノはたいした力ももたず、オレの腹の上に乗っているだけだ。それなのにオレ、自分の欲求に任せて……っ
「ごめん、オレ調子に乗って……っ」
「……違っ」
ブンブン、と諒は首をふった。
「違う……」
そして、ポロポロと涙をこぼしながら、やさしく微笑んだ。
「優ちゃんが、オレの中にいる……」
「え……」
「それが、嬉しくて……」
ぎゅうっと握った手に力がこもっている。
「夢、みたい……」
「……諒」
愛しい……愛しい諒……
「お前の中、すっげー気持ちいいよ」
「ホントに?」
「うん」
体を起こし、繋がったまま、唇を重ねる。まだ涙を流し続けているその頬にキスをする。
「大好きだよ、諒」
「優真……」
諒は、本当に幸せそうに、幸せそうに、微笑むと、
「誕生日おめでとう」
そう言って、きゅっと抱きついてきた。
***
誕生日当日の夜は、例年通り、諒と侑奈も招いて、うちの家族全員と一緒にご飯を食べた。
普段は店があるため、家族全員揃ってご飯を食べることはほとんどないのだけれども、誰かの誕生日の時だけは、全員集まることが義務づけられている。
うちは、今時珍しいくらい厳格な家長制なので、祖父の言うことは絶対なのだ。その祖父がなぜか誕生日にこだわる人なため、両親・兄・姉2人・妹、誰一人文句も言わず集まっている。だから、友達や恋人と過ごしたい、という場合は、その友達や恋人を家に連れて来るしかないわけで……
「お誕生日おめでと~」
畳の部屋。ちゃぶ台とローテーブルの上には、和洋折衷の料理とケーキが並んでいる。
この歳になって、家族に囲まれてローソクを消すのは、ちょっと恥ずかしい。でも、隣に座っている諒が去年よりもずっと諒らしい顔でニコニコしてくれているのが、ものすごく嬉しい。
「幸せそうな顔しちゃって」
うちの家族の騒がしい食事風景の中、右隣に座った侑奈が小さくいって、脇腹を小突いてきた。
「おめでとう、ございます?」
疑問形で言う侑奈。その「おめでとう」は、誕生日のおめでとうではないな……
「……おお。色々ありがとう」
察して素直に言うと、
「わ、ホントに?良かった!おめでとう!」
侑奈ははしゃいだように笑ってくれた。
やっぱり侑奈はオレの救いの女神だと、あらためて思う。
と、そこへ……
「おめでとう、の相手は、もしかして諒君か?」
「!」
耳元で聞こえてきた言葉にバッと振り返ると、兄が真面目な顔をしながらオレとオレの左隣にいる諒を見比べていた。
「え、あの」
「うん」
戸惑ったような諒が何か言い出す前に、大きく肯いてやる。
「兄ちゃん、よくわかったな」
「わかったっていうか……」
兄はちょっと呆れたように、
「お前さ、オレのパソコン勝手に使っただろ」
「え」
「閲覧履歴消したからバレてないとでも思ったか?」
「え」
履歴消せば大丈夫なんじゃないのか?!
「閲覧履歴消したって、検索履歴は残ってるからな」
「………え」
検索……履歴? 検索って、オレかなり恥ずかしい言葉を入れたような……っ
「え、えええええ?!」
「ええーじゃねえよ。馬鹿優真」
ゴン、と頭を小突かれる。
「とりあえず、大人になるまでは、じいちゃんと父さんにはバレないようにしろ」
「え」
「認めてもらうのは、成人して、家を出てからでいいだろ」
「…………」
確かに頭の固い二人に理解してもらうのは難しいだろうけど……
でも、まだ、嘘をつかないといけないのか……
「諒君、侑奈ちゃん、こんな馬鹿だけどこれからもよろしくね」
「………」
兄は二人に頭を下げると、立ち上がって台所に行ってしまった。侑奈が慌てたように兄の後を追っていって、何かコソコソ話して笑っている。絶対オレのこと話して笑ってる……
「………」
「………」
残されたオレ達、顔を見合わせた。
「まだ、嘘つかないといけないんだな……」
「……しょうがないよ」
「でもさ」
諒の手に、テーブルの下でそっと触れる。
「大人になったら、ちゃんと言うからな」
「……うん」
ぎゅっと手が握り返される。
オレは今までずっと嘘を重ねてきた。
そのせいで、諒のことも侑奈のことも傷つけた。
でももう、二度とそんなことはしないって決めたから。
出会った頃に誓ったように、今、心から誓う。
「お前のことは、オレが一生守ってやるからな」
言うと、諒はあの頃と同じように、嬉しそうにうなずいてくれた。
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お読みくださりありがとうございました!
泉視点最終回でした。お幸せに~^^な感じで!!
作中2001年8月。スマホはもちろんないので、お兄ちゃんのパソコンを借りた泉君なのでした~^^;
昨日もお知らせさせていただきましたが、あと2回くらい?でこの「嘘の嘘の、嘘」は終わりなのですが、
しばらくバタバタで書く余裕がないため、2月6日(月)から再開しようと思っております。
物語内も数ヵ月時間が過ぎてからのお話になると思います。
もしよろしければ、また遊びにきていただけると嬉しいです!!よろしくお願いいたします!
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よろしければ、次回もどうぞお願いいたします!
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