高校2年生のクリスマス前日から晴れて恋人同士となった慶と浩介。
それから1年9ヶ月。ちゃんとエッチするのは8回目、の二人の話。
渋谷慶……浪人生。身長164センチ。中性的で美しい容姿。でも性格は男らしい。
桜井浩介……大学一年生。身長176センチ。外面明るく、内面病んでる。慶の親友兼恋人。
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『風のゆくえには~脳内変換推奨』
ラブホテルに持ち込んだ弁当を食べて、お茶も飲んで、トイレにいって戻ってきたところで……
(………げ)
なぜか、テレビでAVがかかっていた。画面の中では今まさにコトがはじまったばかりのようだ。社長室風の部屋のソファーに押し倒された社長秘書?が、タイトスカートをめくられ、社長風親父に下着を剥ぎ取られるところが映っている。よく見えないけれど、なんとなく美人な雰囲気のある女優だ。
ソファーに座った浩介、真面目ーな顔をしてテレビを見ている……
「……何みてんだお前?」
「うん……」
浩介、上の空だ。とりあえず隣に座る。
そんな中、女優の喘ぎ声がはじまり、いたたまれなくなってきた。かといって見てるのに消すのもなあ……と思って消すに消せない。
(もしかして、はじめてみる、とか……?)
おれは中学の頃、部活の先輩の家とかで上映会があったので、何本か見たことはある。でも、多少興奮はするものの、何というか……遠い世界の話、って感じで現実味を持つことができなかった。今思うと、やっぱり自分の性の対象は女性ではなかったってことなんだろうなって感じだけど……
(浩介……)
元々浩介は男が好きだったわけではない。おれを好きになってくれる前は、女子バスケ部の先輩に片思いしていたくらいだ。女にだって興味はあるはず……
(………)
真剣な様子の浩介……。血の気が引いてくる。
浩介が本当は女を抱いてみたいと思っていたって何の不思議もない……
ドッドッドッと自分の心臓の音が耳に響いてくる。どうしよう……どうしよう……
(!)
一際大きい喘ぎ声に驚いて、背けていた目を画面に移し……
「………っ」
耐えられなくて、テーブルの上にあったリモコンを取り、電源を消した。手が、震える……
だって、だって……この女優……恍惚の表情を浮かべていた女……
(……美幸さん)
美幸さんに、似ていた。浩介が好きだった女……
「あー見てたのにー」
「!」
浩介が呑気な声で文句をいって、リモコンをおれから取ろうとしたので、とっさにリモコンを後ろのベットの方に投げつけた。ベッドからバウンドして下に落ちたらしく、ガタンッと大きな音がしたがそんなの知ったことではない。
「慶?」
「………っ」
ぎゅうっと浩介の首に手を回し抱きつく。
「慶? どうしたの? もしかして嫌だった?」
「………」
強がって首を振ると、浩介は腰に手を回して、キュッと抱きしめてくれた。けど……。……どう思ってるんだろう。おれは女みたいに柔らかくない。抱きしめても……
「慶ってこういうの見ない? あ、でもこないだAVかよーとか言ってたよね」
「……中学の時、バスケ部の先輩の家で見たりした」
「あはは。おれも高1の時バスケ部の先輩の家ではじめて見たー」
楽しそうに言う浩介……
(そのときどう思った? 女抱いてみたいって思った? 今も思ってる?)
聞きたいけど……聞けない。
そのままジッとしていたら、
「あ、じゃあ、慶、ちょっといい?」
「え?」
浩介がおれを剥がして立ち上がった。そして、
「えーと……」
「わっ」
いきなり座っているおれの右足首を掴んで引っ張りあげた。な、なんだなんだ?!
「それで、肩に……」
「こ、浩介?」
真面目な顔をしておれの足をあーでもないこーでもないと引っ張ってくる浩介……いったい何を……
「お前、何やって……」
「え、だから、さっきのビデオの体勢」
「……は?」
浩介は、んーーと唸ると「やっぱりよく分かんないなあ……」と言って、おれから手を離した。ぽかーんとしてしまう。
「さっきのビデオの体勢……?」
「うん。こう、足を肩に担ぐみたいにしてたでしょ? あれどうやってんのかなあと思って」
「え……」
「もしあれで慶が気持ち良くなるんだったらやってみようかと思ったけど、やっぱり体勢的にキツイ感じがするんだよねえ。どう思う?」
「どう思うって……」
どう思うって……
「お前、一生懸命みてたのって、それ……」
「あ、うん。でも、結局よく分かんなかった」
でも、でも……
「でも、お前、初めからすげー真剣に……」
「初め? あ、うん。どうやったらあんなスムーズに洋服脱がせられるのかなあと思って。おれいつもモタモタしててかっこ悪いからさ」
「………」
「でもやっぱりそれもよく分かんなかったや。んー難しいねえ」
「………浩介っ」
バカっっ!バカバカバカバカバカバカっ
たまらなくなって、立っている浩介に飛びつくみたいに抱きついた。
「わわわっ慶?!」
びっくりした声をあげたことにも構わず、体をグイグイおして、ベッドまで連れて行き押し倒す。ぎゅうううっと抱きついていると、浩介がちょっと笑いながらおれの頭をなでてくれた。
「どうしたの?」
「……どうもしない」
「あ、わかった」
並んで寝そべる体勢に変えて、ちゅっとキスを落としてくれてから、こつんとおでこを合わせてくれる。
「刺激受けて早くやりたくなっちゃった?」
「…………ちげーよ」
なに呑気なこと言ってんだ。ばか。って言葉は飲み込んで、おでこをグリグリ押し返す。
「お前があんまり真面目に見てるから、ああいう女が好みなのかなーとか思っただけだ」
美幸さんのことは思いださせたくなくて、名前は出さないで言う。
「結構美人だったし」
「あ、そうなの? 全然顔見てなかった」
「………」
見てなかったって……
「………。たぶん好みだったと思うぞ」
我ながら自虐的だと思いながら言うと、浩介は「でもさあ……」といいながら、すりすりすりすりおれの頬をなで回してから首をかしげた。
「慶に似てるAV女優なんて、いたらすっごい人気になってて、こんなとこで無料で見れるわけなくない?」
「………は?」
おれに似てる?
「何の話だ?」
「え、だから慶に似てたんでしょ?」
「は? 似てねーよ」
何を言ってるんだこいつは。
頭の中ハテナハテナのまま、眉を寄せると、浩介も同じように眉を寄せた。
「じゃあ、好みじゃないじゃん」
「は?」
え?
浩介、「意味わかんないんだけど」と首をかしげて、おれの鼻筋を人差し指でツーッと辿ってきた。
「前も言ったでしょ? おれの好みは慶だよ? なのに似てなかったら好みじゃないじゃん」
何言ってるの? と言う浩介……
「あ………」
おれは………おれは。
「こーすけ……」
「ん?」
「お前……」
言いかけたところで、鼻筋を辿ってきた指が唇を割って入ってきた。背筋に快感が走る。歯を撫でられ舌に触れられた時点で、我慢できなくてその指をしゃぶると、
「んんん……慶っ」
自分から仕掛けてきたくせに、浩介が戸惑ったように身もだえた。
「慶、色っぽい……」
「…………」
浩介を上目遣いで見ながら指をしゃぶり続け、ベルトに手をかける。すでに大きくなりはじめていた浩介のものを取りだし、ゆっくりと扱きはじめると、浩介が慌てたようにおれの口から手を引き抜いた。
「慶、もう、無理……っ」
「? 何が?」
掴んだまま、浩介を見上げる。浩介の唇……欲しい。その思いのまま、軽く唇を合わせると、手の中のものが反応して更に大きくなった。……かわいい。
「ああ、もう、慶、無理だって……」
「何が」
もう一度言う浩介の顎に、首筋に唇でふれる。すると、浩介が大きくため息をついた。
「あ、もう、ほんとに無理……」
「だから何が」
「視覚的に……」
視覚的?
「おれ、慶のこと見てるだけでイク自信ある……」
「……なんだそりゃ」
「だって、見てるだけでもう……」
浩介のものがおれの手の中でビクビクと成長していく。
「慶……」
「………」
重ねられる唇。
「浩介……」
こんなに素直な反応を見せてくれているのに、それでも不安になってしまうのは、美幸さんの影がちらついてしまうからだ。どうしても、どうしても不安が消えない……
「慶?」
「うん……」
おれの不安がうつったのか、浩介までも不安そうな瞳になり、手の中のものも勢いがなくなってしまった。
「慶……」
コツンとおでこを合わせて、浩介が心配そうに言う。
「ごめんね。おれ変? 呆れちゃった?」
「……違う」
そんなことあるわけがない。
「じゃあ、どうしたの?」
「………ただ」
浩介の唇にそっと唇を重ねる。伝ってくる愛しさ……
「お前が女とやりたくなったんじゃないかって心配になっただけだ」
「……なにそれ」
「だってすっげー真面目にAV見てたから……」
「だからそれは体位の研究で……」
うん。分かってる。分かってるよ。でも……
「慶……」
「ん」
再び唇を重ねる。大好きな浩介……
「おれ……慶としかできないよ?」
「………」
浩介が真面目な顔で言ってくる。
「AV見ても勃たないし」
「え」
勃たない?
「慶の顔と体に脳内変換すれば勃つのかなあ? って思って変換してみるんだけど、やっぱり見てる最中は無理なんだよね。見終わってからあらためて頭の中で色々修正かけてからじゃないと……」
「え、え、え?」
何の話だ? って……
「あの……お前って、AV、そんなに見……」
「あ、うん。西崎の部屋でグループ発表の打ち合わせすると必ず最後は見させられるから」
「…………」
西崎というのは浩介の大学の同級生で、人妻と不倫をしていて、浩介に色々と下ネタ情報を流してくる奴で……
「でも、西崎の好きな女優さんのシリーズって、どれもたいして変わり映えないんだよ」
「…………」
「だから今日のは見ててちょっと面白かった」
「…………」
なんか色々ツッコミどころ満載なセリフの数々だ……
「慶? って、あ! もしかして怒ってる?!」
おれが黙っていたら、浩介は慌てたように起き上がり、脱げかかっていた下着とズボンをさっと履き直して、ベッドの上で正座になった。
「あー、西崎に怒られるから言うなって言われてたの忘れてた」
「…………」
「あの………ごめんなさい……」
深々と頭を下げてくる浩介………
なんだそりゃ……
「何がごめん、だ?」
「えーと………、なんだろう?」
「あほかっ」
おれも起き上がり、正座をする。
「別に怒ってねーし。つーか、色々謎が解けた」
「謎?」
キョトンとした浩介にこっくりとうなずく。
そう、今まで不思議に思っていたんだ。回を重ねるごとに、色々なことを仕掛けてきたり、上手くなってきたりしている浩介。何かしら情報があるんだとは薄々思っていたけれど、そういうことだったのか……
例えば、今日のこれだって……
「あ、ちょ、慶……っ」
戸惑った浩介に構わず、浩介の手を取り、指にしゃぶりつく。指の股を舌で強く舐めあげると、浩介が、我慢できない、というようにおれを抱きすくめ、首筋に顔をうずめながら押し倒してきた。
「慶……っ」
耳元で聞こえる浩介の興奮したような声に、思わず笑ってしまう。
「お前、指舐めさせるのもビデオで見たんだろー?」
「…………」
ピタッと動作が止まった浩介……
図星、だな。
「あははははっやっぱりなー」
「笑わないでよっ」
「だってお前……」
「もう意地悪っ」
笑い続けていたら、浩介が起き上がり、ぷーっと頬を膨らませたまま、おれのシャツのボタンを外しはじめた。
「じゃあ今日はたくさん慶の顔と体見る」
「は?」
「それで脳内変換の参考にする」
すーっと肩をなでられゾクゾクしてしまう。
「……するなよ」
「何を?」
「脳内変換。するな」
「どうして?」
「どうしてって……」
キスをせがむように顎をあげると、ちゅっと唇が下りてきた。微笑む浩介がかわいくてたまらない。
「変換しなくても、おれとやればいいだろ」
「それは、ビデオ見ちゃダメって話?」
「いや? ビデオ見て、情報仕入れるのはいいけど、その場で女優におれを当てはめるなって言ってんだよ」
「うん。でも……」
「………っ」
浩介の手が、おれのズボンを引き下ろし、優しく包み込んでくれる。
「おれ、女優さんを慶に変換するばっかりじゃないよ。逆に参考にしたりもするよ」
「参考?」
「どう触ってるのかなあとか、どう舐めてるのかなあ、とか」
「………っ」
浩介が素早く体をずらし、おれのものを口に含みはじめた。
「こないだ見たのはね」
「わ、浩、ちょ……っ」
「こうやって先の方だけ……」
「んん……っ」
快楽に体が支配され、腰のあたりがビクビクっとなる。
「気持ちいい?」
「ん……っ、お前、にも、同じこと、してやる」
「うん!」
にこーっと浩介が笑った。
「やっぱり男同士っていいよねー」
「んん?」
「どこが気持ちいいとか分かるじゃん」
「あ……んんっ」
呑気な言い方とは裏腹に、手と舌と唇で激しく責め立ててくる浩介。
「慶……慶、だから、たくさん、しようね?」
「ん……あ、こう、もう、イク……っ」
「ん。いいよ」
「だからイクって……っ離せ……っ」
「やだ」
拒否され、そのまま扱かれ、舌を絡めて吸い続けられ……
「……んんんっ、あぁっ」
我慢できずに浩介の口内に吐きだすと、浩介は満足したように喉を鳴らして飲みこみ、丁寧に丁寧に舌で舐めとってきた。その様子が恥ずかしくていたたまれなくて、わあわあと悪態をついてしまう。
「バカっ飲むなよ恥ずかしいっAVかよっ」
「だから、AVでやってたんだって」
笑いながら浩介が言う。
「でも、慶は飲まないでね?」
「ああ?」
「慶は……こっちで飲んで?」
「!」
スルリと後ろをまさぐられて、のけぞってしまう。
「変態っ」
「ごめん」
クスクスクスクス笑う浩介。
ああ、もう、いいよ。もう、なんでもいい。
「……浩介」
「慶」
ぎゅううっと抱きつくと、ぎゅううっと抱きしめ返してくれる。
「さっきの、やる」
「わ……慶……っ」
優しく包み込み、先の方だけしゃぶると浩介が震えた。
「慶……」
「……ん」
「気持ち良すぎる」
「……ん」
「想像以上どころの騒ぎじゃない……」
「……ばーか」
なんでもいい。浩介が全部をおれに変換してくれるんだったら、それでいい。
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お読みくださりありがとうございました!
前回、同窓会後の話を……と予告させていただいていたのですが、一回では絶対に書き終わらない構成になりそうなため、書くことを躊躇してしまい……
そんな中、ふと上記の話が下りてきてしまったため、先に書いてしまいました。
勉強家で真面目な浩介は、ビデオとか見て体位の研究とかしてるに違いない!って話から^^;
そしてこの頃の慶は、自分が1年以上片思いしてたこととか、浩介が女性を好きだったこととか、そういうコンプレックスからまだまだ抜けきれない時期なのでした。ちょっとかわいい慶。
次回こそは、現在の話…かも。もしお時間ございましたら、どうぞよろしくお願いいたします!!
そしてそして。更新していないのにも関わらず、見に来てくださった方、クリックしてくださった方、本当に本当にありがとうございます!感謝感謝感謝でございます。よろしければ、また次回も宜しくお願いいたします!
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