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BL小説・風のゆくえには~旅立ち 目次・登場人物・あらすじ

2018年02月02日 08時00分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

(2017年11月28日に書いた記事ですが、カテゴリーで「旅立ち」のはじめに表示させるために2018年2月2日に投稿日を操作しました)



目次↓

0(浩介視点→慶視点)
1-1(慶視点)
1-2(慶視点)
2(浩介視点)
3(慶視点)
4-1(浩介視点)
4-2(浩介視点)
4-3(浩介視点)
5(慶視点)
5のおまけ(山崎視点)
6(浩介視点)
7-1(慶視点)
7-2(慶視点)
8(慶視点)
9-1(浩介視点)
9-2(浩介視点)
9-3(浩介視点)
10(慶視点)
読切「R18・君の瞳にうつる僕に」(浩介視点)
11(慶視点)・完



人物紹介↓

主人公1:渋谷慶(しぶやけい)

高校3年生。身長164cm(←伸びた!)
中性的な顔立ちと背が低いことがコンプレックス。そのせいか、口が悪く、喧嘩っ早い。
人懐っこく友達は多い。でも交遊関係は典型的な『広く浅く』。浩介は初めての『親友』といえる。

ものすごい美少年。でも、本人に自覚ナシ。
中学時代はバスケ部在籍。
8歳年上の姉・ほぼ2歳年下(学年は一年下)の妹がいる。両親共働き。

高校1年の秋に浩介への恋心を自覚。以来ずっと気持ちを隠しながら健気に片想いしていた。高2のクリスマスイブ前日、ようやく想いが通じ両想いに。

高2の終わり頃、姪の主治医である島袋先生に影響され、医者になることを決意。医学部志望。



主人公2:桜井浩介(さくらいこうすけ)

高校3年生。身長176cm
小・中学校時代、都内の私立男子校でいじめを受けていた影響で、人と接することが苦手だったけれども、慶の支えもあり、高校2年生からはクラスにも馴染めるようになった。
バスケ部所属。

バスケ部の先輩・美幸さんに片思いをしていた時期もありつつ………高2の12月中旬、親友・慶に対する恋心にようやく!気が付き、クリスマスイブ前日に告白。晴れて『親友兼恋人』になる。

頭が良く、特に英語は学年首位の座を守り続けている(理数を含めると学年順位は毎回10位以内)。
威圧的な弁護士の父と過干渉な専業主婦の母がいる。一人っ子。
現在、母親の希望である法学部志望。




<元・2年10組>

溝部祐太郎(みぞべゆうたろう)
身長169cm。ちょっと太め。お調子者。野球部所属。理系私立大学志望。

山崎卓也(やまざきたくや)
身長172cm。ヒョロリとしている。真面目で大人しい。鉄道研究部所属。国公立大学志望。

斉藤健一(さいとうけんいち)
身長170cm。明るく社交的。バスケ部所属。文系私立大学志望。

長谷川章人(はせがわあきと)
身長175cm。元クラス委員長。吹奏楽部所属。国公立大学志望。


<バスケ部>

篠原輝臣(しのはらてるおみ)
身長173cm
部活内で浩介と組まされることが多く、二人セットで『しのさくら』と呼ばれている。
高3では浩介と同じクラス。
平均的男子。恋愛話大好き。常に彼女絶賛募集中。文系私立大学志望。

上岡武史(かみおかたけし)
身長176cm(←浩介追いつかれた!)
慶と同じ中学出身。中学時代は慶と犬猿の仲だった。高2の体育の授業で再びコンビを組んで以来、なんとなく仲直りした感じ。国公立大志望。


<元・文化祭実行委員>

安倍康彦(あべやすひこ)
身長170cm
慶と1年生と3年生で同じクラス。浩介以外で慶が一番仲の良い男子。通称ヤス。帰宅部。中学時代水泳部。理系私立大志望。

鈴木真弓(すずきまゆみ)
慶達の一学年上の先輩。身長172cm
元・文化祭実行副委員長。現在社会人。



あらすじ

高校1年生で友達になり、親友になり、紆余曲折ありつつも、高校2年生の冬、無事に両想いになり付き合いはじめた慶と浩介。(詳細はこちら→「遭逢」・「片恋」・「月光」・「巡合」・「将来」)

高校3年生では違うクラスになってしまったものの、ラブラブな学校生活を送っていた……はずなのに、まさかの!浩介浮気疑惑!?

………なんて話もありつつ。
高校3年生。将来の道を決める大切な一年の物語です。


----

1992年4月4日~16日、当時高校3年生だった私が書いた「旅立ち」のリメイク版になります。
(前に要約読んだよ!という方には申し訳ありませんっ)
何の事件も起きない普通の物語ですが、友達の友達の友達の話、くらいのつもりでお読みいただければと………どうぞよろしくお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~旅立ち11・完

2018年02月02日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

【慶視点】


1993年3月4日(木)

 卒業式はあっけなく、あっさりと終わった。
 卒業証書も、小学校や中学校の時のように一人ずつもらうのではなく、12クラスそれぞれの学級委員が受け取るだけだし、式の準備も、指定校推薦で早くに進路が決まった人達がやってくれたため、すっかりお客さん状態で、気がついたら終わっていた、という感じ。でも、他のクラスメートもそうみたいで、泣いている人は本当に少数。みんな晴れ晴れとした顔をしている。

「卒業の感動より、受験が終わった!っていう解放感のほうが強いんだよなあ……」

 ポツリと言ったのは同じクラスの安倍康彦、通称ヤス。その肩をバシッと叩いてやる。

「おれは終わってないけどな!」
「あ、わりいわりい」

 あはは、と悪びれもせず笑うヤス。

「くそー……おれも解放されたかった……」

 そう……。おれの受験は終わっていない。来年以降に持ち越しとなった。でも、浪人組もわりとたくさんいて、ちょっとホッとしていたりする。

 うちの親なんか、おれが当然浪人すると思っていたそうで、試験が終わって早々に医学部予備校のパンフレットをいくつか持ってきた。

「合格発表まだなんだけど……」
「大丈夫よ。絶対受かってないから」

 うちの母は、ものすごくバッサリと言い切ることがある…。まあ、その言い切り通り、本命の受験にも失敗して、浪人生になったわけだけど……


「あー……浪人かあ……」

 わざとらしくガッカリとした口調でいうと、ヤスは「まあまあ」と手を振って、

「息抜きにまた泳ぎに行こうぜ? 連絡くれよ」
「おお。よろしく」

 手を振り返す。思い返せば、高校入学後、一番はじめに話した相手はヤスだった。そして、帰宅部なことと泳ぐのが好きっていう共通点があって仲良くなった。一緒にいて気楽な奴なので、これからも繋がっていけたらいいな、と思う。

(この高校に入って良かったな……)

 浩介と出会えたのはもちろんのこと、ヤスをはじめ、たくさんの面白い奴らと知り合えた。
 文化祭、体育祭、球技大会、修学旅行等々、各イベントも、生徒の自主性を重んじる校風のおかげで、すべて自分たちで作り上げるという経験もできた。

(3年の文化祭は何もしなかったけど、それはそれですげー楽しかったしな……)

 3年の文化祭は、クラスが文化祭不参加で何の係もなかったおかげで、ずっと浩介と二人で一緒に回ることができたのだ。必要以上にくっついて歩いたオバケ屋敷とか、一等を当てた射的とか、半分こしたお好み焼きとか……4ヶ月前のことなのに、ずいぶん前のことのような気がする。

(あれからの4ヶ月はまさに受験地獄だったからな……、っておれ、まだ終わってないんだった……)

 受験が終わったら、旅行に行こうって言ってたのに………

 元2年10組で行くスキー旅行は、合格発表より前に申し込みをしたので、行くことは決定だけれども、浩介との二人きりの旅行までは、親の手前………

(行けない……よなあ……)

 浩介は無事に第一志望の大学に合格した。元々、緊張さえしなければ楽々受かるはずだったので、当然といえば当然だ。

 4月から、浩介は大学生。おれは予備校生。浩介の通学経路の途中に最寄り駅がある予備校を選んだ、ということに、たぶん両親は気が付いている。でも、何も言わないで許可してくれた。そんな両親にこれ以上の不義理はできない……


「お。もう、片付け終わってる」

 浩介のクラスはまだホームルームが終わっていなかったため、時間つぶしに体育館に立ち寄ってみたところ、もう卒業式の後片づけがすっかり終わっていることに驚いた。並んでいた椅子も紅白の幕もすべて撤去され、いつもの体育館に戻っている。空気の入れ替え中?なのか、誰もいないのに、すべてのドアや窓が開けっぱなしで、鍵もかかっていなかった。

(ああ……)

 ふっと記憶がよみがえってくる。

(ここからはじまったんだよなあ……)

 高1の4月、この体育館の入り口から、シュート練習をしている浩介の姿を見たことが全てのはじまりだった。
 それから友達になって、親友になって、恋人になって……

 巡る思い出と共に立ちつくしていたところ……

「……慶」
「わっ」

 後ろからフワリと抱きしめられた。浩介……

「…………。よくここだって分かったな」
「ん。教室の窓から、歩いてくとこ見えたから」

 浩介はますますギュウッと強く抱きしめてくる。背中から伝わる温もりが愛おしい。
 いつもなら学校内なのでやめさせるところだけれども、その温もりに抗えず、そのままでいたら、浩介がため息まじりにつぶやいた。

「おれたち、ここから始まったよね」
「……おお」

 同じこと思ったのか、とちょっと嬉しくなる。

「ここではじめて一緒にシュート練習して……」
「はじめて握手して」
「はじめて名前聞いて」
「はじめて……うーん……、あ、お説教された」
「お説教?」
「うん」

 浩介はクスクス笑いながら、後ろから頬を寄せてきた。

「ほら、おれが上岡に嫌味言われて凹んでた時に、慶が言ってくれたことあったでしょ。『まわりと比べるな、昨日の自分と比べろ』ってさ」
「………そんなこと言ったっけ」
「言ったよー。おれ感動したのに、覚えてないの?」
「んー……」

 覚えてない。いつの話だろう……

「そうやって慶は、覚えてないくらいの自然さですごいこと言ってくれたりするよねえ」
「なんだそりゃ」
「おれ、そうやって、いっつも慶に助けられてた」
「………」

 くるり、と体を半回転させられ、コツンとおでこをぶつけられる。

「だから、今度はおれに慶のサポートさせて?」
「サポートって………勉強教えてくれるってことか?」
「うん。英語だったらおれでも役に立てるかな?と思って」

 おおっそれはありがたい!

「よろしく浩介先生!」

 はしゃいで言ってから、あ、と気がついた。

「もしかして、おれってお前の初めての生徒、じゃね?」
「うん!初めての生徒!」
「あとは……初めての親友?」
「うん。それから、初めての恋人、初めてのキス!」

 初めてがいっぱいだ。

「あとはー……初めてー……」
「まだ続くのか?初めて探し」

 笑いながら聞くと、浩介は「うん」と肯いてから、

「自転車の二人乗りも慶が初めてだし、食べ放題行ったのも慶と一緒が初めてだし……。あ、あとはー……」
「え」

 軽く触れるだけのキスがおりてきた。

「今日はじめてキスした」
「……それ、反則っ」

 ぷっと吹き出す。

「行くか?」
「うん!」

 そして、並んで歩き出す。

 ここからはじまったおれ達。これからもこうして一緒に歩いていく。



***



 昇降口の先には、下級生たちがたくさん待ち構えていた。

(そういえば、おれも昨年は写真部の橘先輩の見送りにきたんだったな……)

 今は写真部もなくなってしまったので、おれを見送る下級生はいない。……けど、あれ?バスケ部は? ふと気が付いて、隣を歩く浩介の腕を叩く。

「お前、後輩の見送りとかないのか?」
「あー、あっち。ほら、校庭のゴールのとこ」

 指のさされた先には、上岡武史や篠原といった見知った顔を含んだ生徒の群れがいた。

「行かなくていいのか?」
「うん。先週、追いコン出てるし」
「でも」
「だって」

 ふっと真面目な顔になった浩介。

「今日で卒業だよ? バスケ部の仲間よりもおれは………」
「分かった分かった」

 あわてて手で制する。さっきと違って、人がたくさんいるっての。

「分かったから人前で言うな」
「……なにも言ってないじゃん」
「言わなくてもわかるっ」

 そんな言い合いをしながら、門を出たところで……

「きゃあああっ」
「来た来た!」

 黄色い声にビックリして立ち止まってしまった。

 な、なにごとだ?!

「ご卒業おめでとうございまーすっ」

 そろった声と共に、あっという間におれ達を取り囲んだ女の子たち。その中心に……

「み、南!?」

 妹の南がニヤニヤしながら立っている。

「何なんだ?!」
「やぁねぇ、卒業のお祝いじゃないのっ。はい。卒業おめでとう。お兄ちゃん。浩介さん。これ私達から」

 南の両脇にいる女の子に、花束を渡され、思わず受け取ってしまった。

「わ……私達って?」

 おれがいうと、女の子達(10人はいるぞ)が、華やかに笑い出した。うちの制服の子が数人。あとは私服……ということは、他校の生徒か? 何が何だか……

「私達、お兄ちゃん達のファンクラブ作ってたのよ。ちなみに会長は私です」
「は!?」
「ファン……クラブ?」

 浩介もポカーンとしている。当たり前か。

「なに、それ?」
「だからファンクラブ。お兄ちゃん、浩介さん。卒業してからも仲良くね。世間の目に負けちゃだめよっ。私たちはいつまでも二人の仲を応援してるからねっ」

 ………………。

 ………………。

 ………………。


「なんだそれはーーー!!!」

 おれが叫んだことにはものともせず、南はニッコリとカメラを構えると、

「はい。写真とってあげる。二人とも門の前に」
「はああああ!?」

 い、意味が分からない!!
 なんなんだ!なんなんだ一体!!

「浩介さん、自転車そこ停めて?」
「え、あ、うん」
「って、浩介! お前も言うこと聞かないでいいから!」
「え、でも」

 浩介はキョトンとした顔をすると、

「おれ、慶との写真、撮ってほしい」
「は!?」

 何を言ってんだ!?

「撮ってもらおうよ。記念になるし」
「そんなの………っ」
「だって、今日で卒業だから、制服着た写真も最後だよ?」
「………………」

 そういわれてみればそうだけど……

 でも、なぜに妹に? なぜにファンクラブ? なぜにおれと浩介のことをバラされてる?

「ほら、お兄ちゃん」

 ぐるぐるしたまま、南にせかされ、二人で門の前に並んで立った。それに対してそのファンクラブとやらから注文がつけられた。

「もっとくっついてくださーいっ」
「は!?」

 何を言ってるんだこいつら!?

 でも、南はうんうんうなずいて、

「浩介さん、お兄ちゃんの肩抱いてっ」
「え」
「南、お前……っ」
「ほらっ早くっ」

 浩介は困ったように、首をかしげると、

「慶、どうしよう?」
「………………」

 どうしよう? どうしようって……

「おれは慶とくっついて写真撮りたいなあ」

 ケロリという浩介………
 まるでアワアワしているおれがアホみたいじゃないか………

 ……………。

 ……………。

 ……………。

「あーもう!勝手にしろっ」

 おれが叫ぶと、浩介は優しく微笑んでから、おれの肩に手をまわしてきた。浩介に触れられた部分が火が付いたように熱い。

「二人とも笑ってっ」

 笑えと言われても……おれは顔が赤くならないよう必死だった。ちくしょうっ南っ覚えてろよっ。

「はいっチーズっ」

 カシャリッ。

「じゃ、もう一枚ねー」
「南……お前その写真どうすんだ?」

 おれの質問に南はニッと笑った。

「もちろん売るの。一枚50円。もちろん二人にはただであげるから」
「当たり前だっ。モデル料よこせといいたいぐらいだっ」
「はいはい。そんなこというならキスしてるところぐらい見せてよね。そしたら払ってあげる」
「え!?」

 途端に目をキランと輝かせた浩介。

「本当? いくらくれる?」
「アホかっ誰がするかーーーっっ」

 こいつらときたらまったく!!


 ………その後、そのファンクラブの子達も加えて写真を撮ったりしてたので、すっかり遅くなってしまった。

 いつもの川べりを自転車の二人乗りで帰る。 

(いつもの道………)

 今日が最後だと思うとさすがに胸が痛くなる。卒業式では泣かなかったのに、涙が出てきそうになる…… 

「慶………」

 ふいに浩介が漕ぐのをやめ、ふりむいた。

「今日でお別れだね。この道とも」
「ああ……」

 また、同じこと思ってたな。
 でも、浩介………、でも………

「でも」
「ん?」

 ぎゅっと回した手に力をこめて、背中にオデコを擦り付ける。

「おれ達はこれからもずっと一緒だ」
「うん。ずっと一緒にいようね」
「……………」

 間髪入れずにうなずいてくれた浩介の気持ちが嬉しい。

 でも……………不安が押し寄せてくる。

「………本当に?」
「本当だよ。ずっとずっとずっと一緒だよ」

 本当……だろうか? おれ達はこれからどんどん大人になっていく。捨てなければならないものがいくつも出てくるんだろう。そんな時……おれ達は一緒にいられるのだろうか。

「ずっと一緒にいようね」
「浩介……」

 回した手に手を重ねてくれた浩介。愛しさが伝わってくる。

 ずっと一緒に。ずっと一緒に。

 呪文のように繰り返す。

 おれ達はずっと一緒にいられる。ずっと。

 そうだよな? 浩介……


<完>




-----------------------------

お読みくださりありがとうございました!

1992年4月16日 P.M4:14

↑に書き終わったお話を元に書いてまいりました。
当時と違い、こうして、皆様に読んでいただける幸せを噛みしめております。
本当にありがとうございます!

南ちゃんに関して。
当時、腐女子なんて言葉はまだなかったのですが、腐女子はいました。
たくさんいましたよ~~。私含め。
リアルに慶と浩介が学校にいたら、めっちゃ観察してたと思います私。

と、いうことで………
次回は、元2年10組のスキー旅行の話を書こうかな、と。

でも、火曜日はお休みをいただき、来週金曜日に更新したいと思っています。
お時間ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。


クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございました!
おかげさまで「旅立ち」編も無事に終了することができました。本当にありがとうございます。
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BL小説・風のゆくえには~旅立ち10

2018年01月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

1993年2月


【慶視点】


 浩介と一切会わなくなってから、3週間以上たつ。
 2月からは自由登校なので、おれも学校にいかなくなった。登校日には行ったけれど、浩介は来ていなくて………

「なんか青白い顔して電車乗ってたの見たって、バスケ部の子が言ってたよ」

 浩介と同じクラスの篠原に言われて、ますます心配になってくる。
 浩介は、ずっと様子がおかしかった。浮き沈みが激しく、精神的に不安定で………

 明日は第一志望の大学の受験日。あいつ、大丈夫なんだろうか………


 落ち着かなくて、うちのリビングでソワソワと歩き回っていたら、

「そんなに心配なら電話してみればいいじゃないの。鬱陶しいなあ」

 妹の南に、はい、と電話の子機を渡されてしまい、う………と詰まる。

(お母さんが出たら嫌なんだよなあ………)

 頼むから浩介出てくれ~~と、思いながら、電話をしてみたら、

『桜井でございます』

 げ。
 案の定、お母さんだし………

 でも、切るわけにもいかず、

「あの………こんにちは。渋谷ですけど、浩介君………」
『渋谷君!?』
「え」

 いきなり叫ばれ、思わず受話器を離す。が、すぐに耳にあてた。なんだ?

「あ、はい。渋谷で………」
『今すぐうちに来て!』
「え?」

 おばさんの慌てた声にドキッとする。まさか浩介になにかあったのか!?

『渋谷君だったら浩介も開けてくれるかもしれない』
「開けて……?」

 なんの話だ………

 分からない。分からないけど。

「今すぐ行きます!」

 慌てて電話を切り、南に投げ渡して、そのまま外に飛び出した。


***

 出迎えてくれた浩介の母親は、これ以上ないほど真っ青で……倒れていないのが不思議なくらいだった。

「浩介ね………滑り止めの大学、ダメだったの」
「え………」

 ポツリと言われた言葉に愕然とする。

 そんなバカな………
 全然実力が出せていない模擬試験ですら、A判定がでていた大学なのに……

「それから、食事も全然取らないし、部屋も開けてくれないし、もう、どうしたらいいのか………」
「そんな……」

 浩介……大丈夫かよ……。

「お願いできるかしら? あなただったら浩介ももしかしたら……」

 おばさんはそれだけいうと、買い物に行ってくる、といって出ていってしまった。その後ろ姿に疲れが感じられる。

「……………」

 階段をのぼり、シンッとした廊下を進んで………一番奥の浩介の部屋の前で立ち止まった。中から音は聞こえてこない……。

(浩介………)

 軽くドアをノックする。

 一回、二回、三回。

 でも……返事がない。もう一度、もっと強くノックする。

 一回、二回、三回……

 物音一つしない。寝てるのか?

 もう一度………

 一回………と叩いたその時だった。

「うるさいっ」

 声と一緒にドアに何かがたたきつけられる音がした。

「な……っ」

 うるさい、だと? そんな言い方、初めて聞いた。それに、物を投げるなんて………っ

「こうすけっ!」

 叫ぶように呼んで、ドアを蹴りつけてやる。

「開けろっおれだっ」

 しばらく物音がなかったが……

「……………慶」

 静かにドアが開き、ふらりと浩介が現れた。青白い顔……

「……入るぞ」

 浩介を押し込めるように中に入り、ベッドの上に座らせて、おれもその横に腰を下ろす。

 シンッとした室内………床に散乱している参考書やプリント………

「お前……やせたな」
「そう……?」

 浩介の光のない目がおれを見つめる。

「大丈夫か? 倒れそうだぞ」
「うん……」

 やつれた顔。……違う人みたいだ。
 手を伸ばし、そっとその頬に触れる。

「浩介……」
 引き寄せると、浩介は静かにおれの肩に顔をうずめた。ゆっくり、ゆっくり背中をさすってやる。

 しばらくの沈黙の後………

「………あのね」

 つぶやくように浩介が話しだした。

「こないだまでできた問題ができなくなってて………昨日覚えてたこと今日は忘れてて……合格するって言われてた学校も落ちちゃって……」
「……………」
「おれ、もう試験受けたくない……」

 諦めの言葉………

 浩介……おれは何を言ってやればいいんだろう。何を言えばお前に響く? 何を……

 そんな中……

『入っ……た』

 ふっと、高1の時に、体育館で初めて見た浩介のことを思い出した。何度投げても入らないボールを延々と投げ続けていた浩介。偶然、入ったときに見せた笑顔……

「………浩介」

 おれはあの時の、諦めないお前の姿に惹かれて、それで友達になって………

 思い出せ。思い出せ、浩介。あの時のお前を。

「浩介」

 両頬を手で包み、コツンとオデコをぶつける。

「今、急に、高校に入って、お前を初めて見たときのこと思い出した」
「……………?」

 浩介がぼんやりとこちらに視線を向けた。

「初めて見たって………、体育館の入口で会ったときのこと?」
「いや、その2週間前」
「………え?」

 ふいっと焦点があった。

「2週間前………?」
「あー………、実はあの2週間前、おれ、お前が一人でシュート練習してるとこ、偶然見かけてて………」
「練習……? え、え、ええ!?」

 さっきまでの朦朧とした感じはどこへやら、浩介は「うわ……っ」と口に手を当てると、

「もしかして、ゴールにかすりもしないとこ見たってこと………?」
「おお。ホントかすりもしてなかったな。あまりにも下手すぎてビックリした」
「うわ………知らなかった。はずかしー……呆れたでしょ?」

 浩介はコテンとまたおれの肩に顔をうずめてきた。愛しいその頭を優しく撫でてやる。

「そんなことない。おれ、そんなお前のことをもう一度見たくて、二週間後にまた体育館に行ったんだからな」
「え?」
「だからおれたち会えたんだぞ?」
「…………え?」

 ゆっくりと体を起こし、まじまじとおれのことを見てきた浩介………

「もう一度見たいって……」

 浩介が戸惑ったように言う。

「どうして?」
「んー……」

 思い出す。あの時の、心臓を鷲掴みにされた感じ……

「おれ、あの頃夢中になれるものが何もなくて……」
「…………」
「だから、諦めないで頑張ってるお前のことが羨ましかったんだよ」
「…………」
「あの時のお前、ホント一生懸命だったよな」

 その愛しい頬を包み込む。
 
「だからおれは、お前が諦めないで挑戦し続けることができる奴だって、よーく知ってるぞ?」
「それは………」
「受験だって同じ」

 何かいいかけた浩介のオデコにごちんとオデコをぶつける。

「いいじゃねえか。浪人しようが、大学生になろうが。お前はお前、だろ? やるだけやってみろよ」
「でも」
「でも、じゃなくて」

 グリグリと頭を撫でまわして、もう一度オデコをぶつける。

「どんな結果になろうと、おれはどんな浩介だって……」

 一瞬、迷ったけれど、思い切って言ってやる。

「どんな浩介だって、大好き、だからさ」
「慶……」

 浩介、ビックリしたように目をぱちくりさせている。……って、こんなこと言うなんて、おれも自分でビックリだ。でもこれは緊急事態対応だっ!

「だから!」

 恥ずかし紛れに大声で言ってやる。

「だからあの何度シュートしても入らなくてもあきらめなかったお前を思い出せ」
「あ…………」

「おれはそんなお前を好きになったんだから」
「え………」

 ポカーン……としている浩介……

 ……………。

 なんだよ、この奇妙な沈黙……。気まずいだろ。
 せっかく恥ずかしいのを我慢して言ったのに、何なんだ、この間は。

「あー………」

 いたたまれなくて、何か言おうとしたところ………

「慶……すごい」
「は?」

 浩介がにっこりと笑った。いつも見せてくれる笑顔で。

「すごい。すごいよ。すごい。すごいな……」
「へ?」

 すごいって……なんだそりゃ。

「だから……慶はすごいっ」
「わわっ」

 いきなり抱きつかれた。

「すごいすごいすごいよ!」
「だから何なんだよ?」

 何がすごいんだ? わけがわからんっ。

(でも……元気になったな………)

 その様子にほっとする。
 浩介はすっかりいつもの調子でおれの頭や顔を撫でまわしていたけれど、「あれ?」と、ふと、気がついたように、

「そうだ慶。慶もすべり止めの学校の発表あったんだよね?どうだった?」
「ああ、あれか……」

 そんなことすっかり忘れてた。

「落ちたよ」
「ええっ?!」

 浩介、口をパクパクさせてる。なんかかわいい。

「な……落ちたって……」
「やっぱり会場の雰囲気にのまれたっていうか……頭真っ白になっちゃってさー」
「なっちゃってさーって慶……」
「別にいいだろ。本命が受かればいいんだよ。あれで受験会場の雰囲気も分かったし、本命はバッチリだ」
「それはそうだけど……」

 浩介はまじまじとおれの顔を見てつぶやいた。

「やっぱりすごいな慶は。強い」
「いや、ただ単に色々考えるのが面倒なだけだけどな」
「でも……すごい……」

 小さくいうと、浩介はまたおれに抱きついてきた。

「ありがとう……慶。大好き。大好き。大好き」

 すごい、と、大好き、の大安売りだ。

 3週間以上ぶりの浩介の声が、ぬくもりが、愛しくてたまらない。溢れる気持ちを抑えきれず、背中に回した手に力をいれ、耳元にささやいてみる。

「どのくらいだ?」
「え?」
「どのくらい、好き?」

 いうと、浩介は困ったようにうなってから、

「このくらい」

 さっきよりもきつく抱きしめてきた。

「それだけか?」
「……ううん。もっと大好き」

 ぎゅーっと抱きしめられ、おれはまたくり返す。

「それだけ?」
「ううん。もっと、もっと大好き……」

 そのまま、もつれあうようにベッドに倒れこむ。目の前に浩介の瞳………

「慶……いいの?」

 その言葉に、おれは静かにうなずいた。

 そして……。




------

お読みくださりありがとうございました!

上記、リアル高校生の時に書いた文章を元に書き直したため、それを尊重して、

そして……。

で終わってます。ベッドシーン書けない昔の私、なんて初々しいの!!

ということで。この続きを大人になってから書いております♥→『R18・君の瞳にうつる僕に』
2015年9月に書いたのですが、ネタバレになるためしばらく非公開にしておりました。
無事、ここまで辿りついたので公開にしました。

次回、最終回になります。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでここまで辿りつきました。感謝申し上げますっ。


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BL小説・風のゆくえには~旅立ち9-3

2018年01月26日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

***


 クリスマスイブ前日。付き合って一周年記念の夜。

 二人でプラプラと、車が行き交う大きな道路の歩道を歩く。手を繋ぎたいけれど、人通りは少ないとはいえ、さすがにそれは無理で……。でも、車の騒音で声が聞こえにくいことを理由に、くっついて歩く。幸せな時間。

「あ、スケートリンク!」

 大きな建物が見えてきたところで、慶が叫んだ。

「懐かしい! 小学生の時、ミニバスの連中と時々来てたんだよ」
「へえ……。おれ、スケートってやったことない……」

 このスケート場の建物、電車の中から見るよりも大きく感じる。おれはこうして、実際には見ていないものや触れていないものがたくさんあるんだろうな……

「じゃ、受験終わったら来ようぜ?」
「でもおれ、やったことないから……」
「教えてやる教えてやる」
「でも………」

 目に浮かぶ。全然滑れないおれに付きっきりの慶の姿……。本当は滑れる人と一緒に来た方が楽しめるのにって……

「すぐ滑れるようになるぞ」
「……おれ、運動神経悪いから無理だよ」

 そう小さく言ったところ、慶はニッと笑った。

「それはそれでいい」
「え」

 そして、さっとおれの正面に回りこんできて、

「こんな感じにさ」
「………っ」

 いきなりおれの手を掴んだ。ドキッとなる。

「慶……?」

 慶はいたずらそうに目を輝かせて、右手でおれの左手を、左手でおれの右手を掴んだまま、ゆっくり歩き出した。後ろ歩きなのに全然ぶれないのがさすが…… 

 慶がニコニコしたまま言う。

「転ばないようにこうやって手、繋いでてやるからな? スケートって手繋いでても、誰も変だって思わないからな~。公然と手繋げるぞ?」
「慶………」

 慶の笑顔……優しい瞳。胸が苦しい……

「慶は………おれと手、繋ぎたいって思ってくれてるの?」
「そりゃあ………」

 きゅっと繋いだ手に力がこもる。

「繋いで歩いてる奴ら、羨ましいっていつも思ってる」
「………」
「さっき、ラブホテル入っていったカップルもいいよなーって思った。男と女ってだけで誰にも気にされないもんな」
「………。おれ達って入っちゃダメなの?」

 手を握り返しながら言うと、慶は鼻に皺を寄せた。

「そりゃダメだろ。受付で呼び止められたりするんじゃね?」
「そっか……」

 車の騒音の中に、電車の音も混じる。まわりの人達から、おれ達はどう見られてるんだろう……

「なんか色々めんどくせえよな」
「うん………」

 慶は……おれといるとできないことばかりだ。
 ラブホテルにも入れない。普通には手も繋げない。プールで競争もできない。スケートも滑れない。

「慶……本当にいいの?」
「? 何が?」

 首をかしげた慶に真剣に問う。

「本当に、おれでいいの?」
「だから何が」
「何がって………」

 立ち止まって下を向く。この手の温もりは、おれなんかにはもったいない。あなたの輝きはおれには眩しすぎて……

「おれなんかが恋人じゃ、できないことたくさんあるでしょ? おれ、慶が嫌なんじゃないかっていつも……、え」

 ぎゅっと手を強く握られ、言葉をとめた。

「お前………」

 慶の切迫した声。

「嫌なのか?」
「え」

 見上げると、不安げな瞳がそこにあった。

「お前、おれと付き合ってること、嫌になった?」
「………えっ」

 そんなこと………っ

「おれ達、普通のカップルみたいなことできないもんな? 友達にも隠さないといけないし……」
「それは……」
「そういうの、嫌になったっていうのなら……」
「…………」
「…………」
「…………」

 慶……

 何を言うんだろう。

 嫌になんかもちろんなってないけど、もし、おれがここで「嫌」って言ったら……

 別れる、とか言うの?

 そう言われたら、おれは……


「浩介」
「………うん」


 慶はものすごく真剣な瞳でこちらを見返して……真剣に、言った。


「それは、我慢してくれ」


 …………。

 …………。

 …………。


「慶………」

 ふっと、体の力が抜けて、笑い出してしまう。

 我慢してくれって……。慶……

「お前っ何笑ってんだよっおれは真剣に……っ」
「だって………」

 怒りだした慶をぎゅううっと抱きしめる。
 
「おれ、我慢なんかしないよ。今までだって、みんなの前でも慶のこと大好きって言ってるし、抱きしめてるしっ」
「でも」
「ラブホテルは行けないけど、受験終わったら、旅行行くんだもんね? だからいいよねっ」
「…………。だな」
  
 ぽんぽんぽん、と背中を叩いてくれる慶。愛しい慶。

「慶は、我慢してるの?」
「まあ………、でも、おれはお前が一緒にいてくれるだけで満足だからなあ」
「慶………」

 大好きな慶。
 我慢してくれ、だって。一緒にいるだけで満足、だって。
 別れる、なんて選択肢、全然用意していない、揺るぎない、慶の気持ちが嬉しい。

「慶」
「ん」

 コツンとおでこを合わせてから再び歩きだす。

「そこ、駅だな。バスじゃなくて電車にするか」
「うん」

 歩道橋の階段をのぼりながら、「あ、そうだ」と慶が言った。

「卒業した後に、元2年10組でスキー行こうって話が出てるって溝部が言ってたぞ。指定校推薦組が色々調べてくれてるってさ。お前行ける?」
「行きたい!」

 それは嬉しい。去年のクラス、本当に楽しかった。何より慶が一緒にいてくれて……

「お前、スキーはしたことあんのか?」
「3回だけだから、あんまり自信ないけど一応……」
「そっかそっか。おれは毎年、京都のばあちゃんちに行くと、親戚みんなで行くことになるんだよ。今年はいけないけど」

 慶は、トントントンッと階段を軽やかに上っていくと、

「じゃ、卒業したら、元2年10組でスキー。それから……」
「!」

 振り向きざま、ちゅっとキスをくれた。

「二人で旅行、な?」
「………うん」

 慶と旅行。慶と旅行。
 それはただの旅行じゃなくて、ずっとずっと夢みていた慶と一つになる日がくるってことで……

「慶……」

 ああ、早く……早く、慶をこの手に抱きたい。



 その日の夜は、慶との旅行のあれこれを妄想して、3回も抜いてしまった。

(………まずいなあ)

 こんなことしている時間なんかないのに。でも、夜勉強しているとウズウズして集中できなくなって……。でも、これはさすがにストレス発散の限度を超えている気がする。


 冬休みに入り、慶と会えなくなって、余計にその現象はひどくなっていった。自分でも呆れる……。

 年末、どうしても慶に会いたくて、「運動不足解消のためのランニング」と称して家を出て、慶のうちに遊びに行った。
 ちょうど慶の家族はみんな出かけていて、慶だけだったので、部屋に上がらせてもらったんだけど……

「浩介っ」
「わわっ」

 部屋に入るなり、慶にニコニコで抱きつかれて……理性が吹っ飛んだ。

「……慶」

 その白い頬に触れ、キスをする。舌を割り入れて、絡めとり、貪るように唇を合わせる。……止まらない。

「こ……、ちょ、まて」
「待てない」

 ベッドに押し倒し、首元に顔を埋める。慶の首筋に唇をあてると、「あ」と小さく慶が声を漏らした。その途端、下半身に半端ない量の血液が流れていく。肌に直接触れたくて、強引にズボンからシャツを引っ張りだして、慶のほどよく筋肉のついたお腹に手をすべらせる。吸いつくみたいな滑らかな肌……

「慶……慶」
「浩介………」

 ぎゅううっと背中に回された手に力が入れられてから……

「ごめん」

 グッと力強く押し返された。

「もうすぐ、親帰ってくるから、これ以上は……」
「あ……ごめん」

 しまった。会うの久しぶりな上に、毎晩の妄想のせいで、いつもより歯止めがきかなくなってた。

 慶、呆れたかな……と心配して見返したんだけど、慶は頬に手を当てながらブツブツと、

「ああ、まずい。ニヤニヤがおさまんねえ。これ絶対、南にツッコまれる」
「え……」

 ニヤニヤって……

「慶……」
「お前、こういうの、反則。嬉し過ぎんだろっ」
「え………」

 嬉し過ぎ? 嬉し過ぎ? 嬉しいんだ?!

 そんなの嬉しすぎる!!

「慶~~っ」
「わ!ばか!だからやめろって!」

 そのあとは、あまり激しくないキスと、あまり刺激的過ぎないぎゅーっをたくさんたくさんして……それから帰途についた。

 慶………慶。おれの恋人、おれの親友。大好き。


 でも、そんな浮かれた気分は、正月に叩き壊された。

 正月、例年同様、母方の親戚がうちにきて………

 おれは受験生ということを理由に、挨拶だけして部屋に籠っていたけれど、親戚が帰ったあとの母の様子から、また色々と言われたということは想像に難くなかった。
 優秀な甥・姪達の自慢話をあれこれ聞かされ、不出来な息子のことを根掘り葉掘り聞かれたであろう母は、いつもよりもさらにピリピリしていて、

「浩介、大丈夫なのよね? 第一希望以外の大学なんて、絶対許さないわよ?」

 食事中にも吐き出される母の呪文に、追い詰められていく。

(ああ、慶に会いたい……)

 慶に会いたい。会って、抱きしめて、キスをして、それから、それから……

「!」

 はっとする。父の冷たい瞳………
 見えない壁が迫ってくるようだ………

 このままじゃダメだ。ダメだ。浮かれてる場合じゃない。


 でも………

「浩介! はよーっす」
「………慶」

 新学期、バスの中で会った慶は、記憶の中の慶よりもさらにキラキラ、キラキラしていて………

(キスしたい)

 抱きしめたい。その綺麗な瞳をおれの欲望で埋めて、それから、それから………

 でも、そんな時間ないのに。そんな時間は一切ないのに………



「来週から、学校休みます」

 1月下旬にそう決断を下したのは、誰に言われたからでもない。おれ自身が決めたことだ。2月からは3年生は自由登校になるので、欠席も10日ほどしかつかないし、今まで皆勤なので、出席率には全く問題ない、と担任の迫田先生も言ってくれた。

「受験が終わったら、会おうね」

 偶然、おれの第一志望と慶の第一志望の学校の試験日は同じだったので、その日の夜に会う約束をした。

 受験が終わるまでは、慶の温もりも、慶の瞳も、慶への欲望も、全部全部閉じ込めて、忘れるんだ。

 この受験だけは、絶対に絶対に失敗できないんだから。




------------

お読みくださりありがとうございました!
恋愛と受験の両立……難しいのは分かるけど、浩介さん、極端すぎます💦

ちなみに……付き合った記念日、1周年が、前回と今回。
2周年が、読切『R18・3つの約束』
3周年が、長編『自由への道』5-45-5
10周年が、長編『嘘の嘘の、嘘』20
11周年が、長編『閉じた翼』8
15周年が、長編『翼を広げて』後日談6
23周年が、読切『R18・聖夜に啼く』
25周年が、読切『インフルの日々』

ってなってました。結構あった。人に歴史あり、というか…
あ、それから、この時は「ラブホテルに行けない」と言っている二人ですが、この約4か月後にいくことになります♥(→読切『R18・受攻試行』

次回は火曜日に更新の予定です。よろしければどうぞお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
おかげさまでもうすぐ最終回。見届けていただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。



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BL小説・風のゆくえには~旅立ち9-2

2018年01月23日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 旅立ち

***


 1992年12月23日祝日

 慶とおれが付き合いはじめて1年目の記念日。

 でも、受験生であるおれに外出が許されるわけがなく……。そこでおれは、親の目を欺くために、2ヶ月前に手を打っておいた。『3日間集中特別講座』に申し込んだのだ。

 夏期講習に参加した予備校で、23日から3日間行われる講座。23日は17時終了なので、その後で慶と会う予定だ。母には、先生に質問したり自習室で勉強するから20時半頃帰宅する、と言ってある。

 疑いもなく、受講を許可してくれた母に対して罪悪感がないわけではない。……けれども、こうでもしなくては、外出できない。せめて、講義は一生懸命聞いて、お金の無駄にはならないようにして………

 17時の終了と同時に教室を飛び出した。

「慶!」
「おー、一番乗りだなお前」

 予備校の外で待ってくれていた慶が、あはは、と笑った。その笑顔が可愛くて愛しくて、ぎゅーっと抱きしめると、慶は珍しく怒らないでポンポンと背中を叩いてくれた。

「お疲れお疲れ。どうだった?」
「うん……。慶に早く会いたかった」

 素直な感想を言うと、慶は、「ばーか」と言って、照れたように笑ってくれた。



***


 
 ご飯は、一年前のクリスマスデートで行ったピザの食べ放題の店にした。おれは帰宅後、母の作った夕飯を食べなくてはならないので、ほどほどで止めておいたけれど、慶はあいかわらずものすごくたくさん食べて、

「腹ごなしにボーリングやりたい」

と、言い出した。ピザの店から徒歩5分弱のところにボーリング場があるのだ。

「でも今日って、祝日だし……」
「混んでるかな」

 言いながらも、この時間だし明日は平日だし、もしかしたら空いてるかも……なんて期待しながら行ってみたら、悪い予想通り大混雑していた。残念ながら、帰宅時間の決まっているおれのせいで、あきらめて帰ることになり……

「………ごめんね」
「いや、いいって。思いつきで言っただけなんだから」

 慶はそう言ってくれるけれど……

(慶、昨日は安倍とプールに行ったんだよな……)

 そう思ったらますます落ち込んできた。

(どうしておれはこうなんだろう。慶がやりたいって思ったこと一緒にできなくて……こんなんで『恋人』なんて言っていいのかな……)

 慶はどう思ってるんだろう。

 今日で丸一年……。慶はこんなおれで本当にいいのかな……。

 どんどんドツボにはまっていく………


 そんなおれの様子に気づいていないように、慶はパチンと手を叩くと、

「なあ、そしたらさ、ちょっと歩きたいから、バス通りずっと歩いていって、適当なところでバスに乗るってのはどうだ?」
「あ……うん」

 上の空のまま肯く。バスで帰ったことがないのであまりピンとこない。

「たぶん方向的にこっちの道なんだよな~」
「そうなんだ……」

 そのまま、ボーリング場の横道に入った慶の後をついていく。道も全然分からない。でも、慶もあまり分かっていないようでキョロキョロとしている。

「たぶんここ抜けて左……、あ」
「え? わ、ごめ……」

 慶がいきなり立ち止ったのでぶつかってしまった。何……と思ったら……

「…………え」
「あ…………」

 二人して、立ちすくんでしまった。

 目の前に現れたのは、イルミネーションに彩られた数軒のホテル。目立つパネルに書かれた【休憩】の文字……

 初めて見る風景に、落ち込んでいたことも吹っ飛んでしまった。

「ここって、もしかして……」
「わあ!」

 いきなり慶が耳を押さえて叫んだ。

「わ、わざとじゃないからなっ。さっさと通り抜けるぞっ」
「え……」

 下を向いたまま行こうとする慶の横で、おれは立ち止って看板をマジマジと見てしまった。

「休憩、2時間3500円から……。ねえ、これって、1人3500円なのかな? 2人7000円ってこと?」
「し、知るか!」
「中入って聞いてみようよ」
「アホかっ」

 腕を掴まれ、ずるずる引きずられる。

「あ、こっちは2時間3000円から。500円安い……」
「うるさいっ」

 慶、真っ赤だ。通りすがりのカップルがおれ達を見てクスクス笑いながらホテルの入り口を入っていく。

 ああ、いいなあ。2時間二人きりでいられるってことだよな……
 
「おれも行きたい……」
「ばかっ!あほっ!入れるわけねえだろ!」

 ぷりぷり怒っている慶。

「え………入れないの?」

 それは男同士だから? 高校生だから? ………両方かな………




------------

お読みくださりありがとうございました!

次回は金曜日に更新の予定です。よろしければどうぞお願いいたします。
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
今後ともどうぞどうかよろしくお願いいたします。


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