注:具体的性表現を含みます
------
「桜井先生はちゃんとゴムつけてる?」
「………は?」
突然聞かれて、素で聞きかえしてしまった。
今日はバスケ部の夏合宿最終日。
あと数分で就寝時間だというのに、OBが遊びに来ているせいか男部屋が妙に盛り上がっているため、注意をしにきたのだけれど……
「君たち、なんの話してんの……」
「避妊は男の義務って話だよ。大事な話でしょ?」
昨年までキャプテンだった大野君。背も高くて顔も良くて女の扱いにも慣れているため、在学中も非常にモテて、しょっちゅう違う女の子と歩いているところを見かけた。
「先生、高校の時から付き合ってる彼女がいるんだよね?」
「あー……まあ……」
正確には彼女ではなく彼氏です。なんて言うわけにはいかず、大野君の質問に適当に肯く。
「高校の時、買うの緊張しなかった?」
「んー……高校の時は買ったことないからなあ」
「え!」
思わず普通に答えてしまって、あ、と思ったけれど遅かった。
大野君たちOB含め、現役高校男子まで話に食いついてきてしまった。一年生はへばって全員もう寝ているので助かった。こないだまで中学生だった子に聞かせる話じゃないだろ、と思ったりして……。
「じゃ、生で……」
「あ、ううん。高校の時はしなかったから」
「えー………」
疑いの目を向けてくる男子たち……。なんだかなあ……。
「本当に、全然、何もしなかったんですか?」
「えーと……」
ぐるぐるぐるっと7年ほど前の記憶を呼び起こす。何もしなかったって、いや……
「入れること以外のことはしてたかな……と」
「おおっ」
どよどよっとどよめきがおこる。
なんだろうなあ。この高校生男子のノリって昔から変わらない。おれが高校の時の合宿の夜もこんな感じだった。
「よく我慢できたね。オレ絶対無理」
「うーん。コンドームだって、正しくつけないと避妊に失敗することもあるしね。入れないことが絶対の避妊だよ」
「じゃあ、いつからちゃんとするように?」
「大学入ってから。高校生じゃ何も責任とれないけど、まあ大学生なら……って思って」
なんて、適当なことを言ってみる。やろうとしたけど痛そうでできなかった、っていうのが本当のところなんだけど、ここは先生らしく言ってもいいだろう。なんてね。
「でもさ、ゴムするタイミングって難しいよな」
「なー」
OBの子達がうんうんと言い合っている。知った風の大野君が「だ、か、ら」と高校生に指を突き刺した。
「だから今のうちから練習しとけって言ってんだよ。もたもたしてたらかっこ悪いだろ」
「そりゃあ……」
「で、今、桜井先生も言った通り、正しくつけないと意味ないんだからな」
「正しくって……」
高校生たちが興味津々におれを振り返る。
「正しくって、どうやって?」
「え」
「ほら、先生」
大野君がポイッと一つ、コンドームを投げ渡してくる。
「みんなに教えてやってよ」
「え………」
うーん………困った。
「最近してないから忘れちゃったなあ……」
「え、最近ご無沙汰なの?」
ニヤニヤした大野君に、いやいやと首を振る。
「そういうわけじゃないんだけど」
「え! それはさっ」
今度は現キャプテンの柳沢君が食い込んでくる。
「歳も歳だし、結婚を視野にいれて生でしてるってこと?」
「いやいや。だいたい歳も歳って、そんな歳じゃないよ」
「じゃあ、何?」
「何って……」
メンバー全員に注目される中、肩をすくめてみせる。
「いつも付けてもらってるから、おれ、自分では付けないんだよね」
「…………」
「…………」
10秒ほどの沈黙のあと……
「なんだとー!」
「くっそー!うらやましすぎる!」
「オレ、今初めて桜井先生のこと尊敬したー」
一斉に口々に叫んだ男子達。
わあわあぎゃあぎゃあ盛り上がりすぎて、
「男子うるさい! って、桜井先生まで何やってるんですか!」
女子部の顧問の先生に怒られた。
**
と、いう話をしたところ、
「お前、子供相手になんの話してんだよ……」
心底呆れたように慶に言われた。
「いやあ、つい本当のことを。ちょっとした自慢話?」
「………アホだな」
慶の冷たーい目。ゾクゾクする。この冷たい目が、あと数分後には熱を帯びた切ない光に変わると思うと更にたまらない。
慶がコンドームの袋をプラプラと指でつまみながら、
「で? 付け方のコツを教えろって?」
「うんうん」
現在、している真っ最中。
慶が騎上位になるというので、それならゴムつけて、と言うついでにバスケ部の話をしたのだ。そうしたら慶が渋々コンドームを出してきた。
今までに何度か中で射精してしまったことがある。そのほとんどが騎上位の時。
慶は「別に中で出してもいいのに」と言ってくれるんだけど、そうすると後から全部出さないといけなくて慶が大変そうで……。
そりゃ、中出しの気持ち良さといったら筆舌に尽くしがたいものがあるから、できるものならしたい。けれども、慶が大変なのはやっぱり避けたい。そういうわけで、かなり高級といえるコンドームを購入して常備している。
寝そべったおれの腿の上に座った状態で、慶の指がゆっくりとおれのものをしごいてくる。天使のように美しい慶にジッと見られながらしごかれると、恥ずかしいくらいすぐに固く大きくなってしまう。
慶が真面目な顔をして言う。
「まあ、まず、本勃ちの状態でつけるということが第一条件」
「………っ」
先走りのぬるぬるを細い人差し指になぞられ、ビクビクっと震えてしまう。
「半勃ちでつけると途中で取れるからな」
「うん……」
そう、それで前に取れてしまったことがある。考えてみたら、慶が付けてくれるようになったのは、それ以降のことだ。
「あとは……ゴムは乾くと破れやすくなるからサッサとつけること」
「……………」
「袋から取り出すときも破らないように気を付けて」
器用に袋を破いて取り出したものを、亀頭にポンとのせられる。
「ここで注意しないといけないのが、この精子溜まりに空気が入らないように潰すこと」
「………」
なんだか……実験めいてきたな……。
「毛を挟みこまないように避けてから、下までおろす」
「………」
するするとあっという間に透明な膜に覆われたおれのもの……。
はい。できあがり、といって慶が肯いた。
「で、お前は大丈夫だけど、包茎の奴は一回上に戻してからもう一度下に下げた方がいいらしいぞ」
「…………うーん」
思わずうなってしまうと、慶が眉間にシワを寄せた。
「何だよ?」
「………なんか違う」
「は?」
ますます眉を寄せた慶に、口をとがらせてみせる。
「なんか……事務的すぎ。色気がない。ムードがない」
「…………なんだそりゃ」
あ、今、鼻で笑った。鼻で笑ったなー!
「だって大切なことだよ!」
「うるせえなあ」
またまた呆れたように慶が言う。
「そんなのやることやるときゃ関係ねえだろ」
「関係あるよ! ほら、せっかくゴムつけてくれたのに、萎えてきちゃったじゃん!」
「ああ?」
慶がジッと見てくる。
すると、むくむくと復活してきてしまった……。正直すぎるおれの息子……。
「萎えてねえじゃん」
「そーれーはー慶が……んんんっ」
いきなり唇を重ねられ、文句の続きは言えなかった。
舌が乱暴に押し入ってくる。口内をかき回され、唇を吸われ、思わず声が出てしまう。
「慶……っ、あ……っ」
慶の腰がおりてくる。おれのものの上に確実に。ゆっくりとからめ取られる。そしておれたちは一つになる……。いつもながら、すぐに快楽の頂点に連れていってくれそうな締め付け。苦しいほどだ。快楽と苦痛は似ている。
慶の手がおれの手を強く握ってくれる。
「ゴチャゴチャうるせーんだよ。お前は」
「だって………っ」
言葉とは裏腹に、おれを見下ろす慶の瞳に、愛おしさの光が灯っている。瞳が「好きだよ」と言ってくれている。
「浩介」
「………っ」
ぎゅっと心臓が握られたようになる。おれの名前を呼んでくれるその声に愛があふれている。愛しすぎて体が破れそうだ。
細かく腰を揺り動かしはじめながら、慶がボソッと言う。
「やっぱ、生でやりてえなあ」
「……だめだよ」
誘惑にかられそうになるのを押しとどめる。
「慶、あとで、大変、に……」
「わかってるけど……」
動きをとめた慶。切なげに瞳が揺れている。
「もっと近くでお前を感じたい」
「慶……」
ああ……おれはなんて幸せなんだろう。
ゆっくりと体を起こす。繋がったまま、その美しい額に口づける。
「近くに、いるよ?」
「たりない」
せがむように、慶の唇が求めてくる。
「全然、たりない」
「ん……」
そして……唾液が滴り落ちるほど激しく、舌を絡め、吸い尽くす。苦しいほどに。まるで唇が快楽の頂点に向かわせてくれるかのように、重ね合い、求め合う。自然と腰も動いてくる。
求められる充実感に頭が破裂しそうになったところで、
「あ……っ」
緩やかに頂点に達してしまった。慶の中にドクンドクンと放出されていく。
「浩介……っ」
同時にぎゅうっと背中にしがみつかれた。腹に生温かいものが伝ってくる。
「あ……いっちゃった」
「慶……」
いっちゃった、って! 普段は言わない可愛い言い方に、きゅんとなる。慶、キスと後ろの刺激だけでいけたんだ。嬉しい。
「慶、大好き」
「ん」
かわいい慶の頬にキスをしてから、ゆっくりと引き抜く。
コンドーム、無事に役割を果たしてくれたようだ。
「漏れてない。慶先生、完璧です」
「だろ」
慶が柔らかく笑う。
「これが正しいコンドームのつけ方だ。覚えとけ」
「それは……キス付きってこと?」
「そういうこと」
軽く頬にキスされる。幸せすぎる。
「もう一回やろーぜー」
「だから慶、その誘い方どうなの……。ムードってものが………」
「分かった分かった。今度は生でな。外出しすればいいだろ」
「本当は外出しも危険なんだよ。先走りとか出ちゃってるし、それに……」
「分かった分かった」
「んんん」
再び唇を重ねられ、流される。
ゴム一枚挟んでいてもいなくても何も変わらない。慶の一番近くにはおれがいる。
-- -- -- -- -- --
以上でやめときます^_^;こいつらキリがない^_^;
前回暗かったので、明るい話をと思ったら、なんだかアホらしいお話しになってしまいました。
お読みくださりありがとうございました!
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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
今回は少しシリアスな話。
若干イジメの描写含みます。トラウマに抵触する恐れのある方は回避願います。
大学3年時の浩介視点です。
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『風のゆくえには~君がいてくれる』
慶に触れているときだけ、自然に息ができる。
慶を抱いているときだけ、心の底から安心できる。
今の幸せは夢の中の出来事で、目覚めたらまた、あの薄暗い部屋の中で母の金切り声を聞いているのではないか、父の怒鳴り声に怯えているのではないか、教室の狭い掃除用具入れの中に閉じ込められているのではないか……そんな考えに囚われがんじがらめになってしまう時がある。
慶がそばにいるときでさえ、触れていないと、ふとしたときに、手の先が冷たくなって息苦しくなるときがある。そんな時は、ほんの少しでいいから慶に触れる。そうすると、温かいものが体中を巡回しはじめる。それでようやく普通に息ができるようになる。
高校の時は比較的大丈夫だったのは、慶に会える時間が多かったからだろうか。大学一年、二年の時もまだマシだった。
でも、おれが三年になり、慶が二年になった途端、忙しくて予定も合いにくくなってきて、その上、おれの両親を黙らせるために、友人のあかねに恋人のフリをしてもらうようになって、変なストレスも増えてしまい……。外界と自分の間に壁ができているような、ブラウン管の中にいるような感覚にとらわれる回数が、激増してしまった。
それでも、おれには慶がいるから大丈夫。大丈夫だと思った。
昔のことは忘れよう。忘れよう。慶がいてくれるから大丈夫。
そう、思っていた矢先のことだった。
「桜井? お前、桜井じゃねえ?」
「!」
記憶よりも低くなった声。でも口調は昔と同じ。
振り返ると、中学時代の面影を残したままの男子学生が立っていた。
「筒井……君」
「やっぱり、桜井ー。懐かしいな、お前。元気だったかー?」
チャラチャラした、という形容詞がよく似合っている。茶髪で、派手な服で、ピアスまでしていて……
筒井は昔の記憶のままのニヤニヤとした顔で話しかけてくる。
「お前、いきなり学校やめたからみんなビックリしてたんだぜー?」
「ああ……うん」
言葉が……出てこない。ブラウン管の中に入れられたみたいに景色が遠くなる……。
「何、筒井、友達?」
筒井の隣の、似たような感じの男子学生が筒井に言うと、筒井は軽く肯き、
「おれら小中一緒だったんだよ。でもこいつ、高校上がんなかったから、もう5年以上ぶりになんのか?」
「そう……だね」
おれは小学校から大学までエスカレーター式で上がれる学校に通っていた。中学卒業と同時に退学して、高校は地元の県立高校に進学したのだ。
「今、何してんだ? ボランティアサークル?」
「うん……」
今日はおれの通っている大学の学祭。参加しているサークルが屋台を出しているため、その宣伝の看板持ちをしている。サークルには他学の学生も多く参加している。
これだけたくさんの人がくるのだから、知り合いに会う確率は高い。現に、高校時代のクラスメートには何人か会った。でも、中学時代の知り合いに会ったのは初めてのことだった。絶対に会いたくなかった……
「へえ。お前今大学行ってんの? つか、高校どうしたんだよ? どっか通ってたのか?」
「あ……うん」
「へえ? 中学ほとんど来なかったのに、高校は通ったんだ?」
「……………」
あいかわらずの嫌味な言い方。上から目線。蛇のように執拗な目線。吐き気がする。
「え? ほとんど来なかったってなんで?」
筒井の隣の男子学生がきょとんと聞いてくる。
「病気?」
「いや、登校拒否。なあ? 桜井」
「…………」
ぐあっとフラッシュバックが起こる。
異臭のする掃除用具入れ。狭い。暗い。出してくれ、と叫ぶ自分の声。外から聞こえてくる笑い声……。
助けて。助けて。誰か助けて……
「…………」
汗が噴き出てくる。頭が破裂しそうだ。
助けて。助けて。息ができない……。
「あ………」
筒井のニヤニヤした顔を前に、意識が遠のきそうになった、その時だった。
「浩介っ」
「!」
いきなり背中から抱きつかれ、よろめいてしまった。おんぶするみたいに飛び乗ってきた、その温かい温かいぬくもり。途端に霧が晴れるみたいに視界が明るくなる。
「お前、何さぼってんだよー。呼び込みしろって言われてんだろー?」
「………慶」
耳元に聞こえてくる優しい声。清涼な空気に包まれる。息が、できる……
「何? 知り合い?」
慶はするするとおれからおりると、おれの腕を掴んだまま、筒井を見上げた。
筒井は突然現れた超美形な慶の姿に呆気にとられていたが、問いかけられ、我に返ったように高飛車な態度を取り戻した。
「あー、おれ、桜井と小中一緒だった……」
「あのっ」
そんな筒井の言葉にかぶせて、筒井の後ろでなにかコソコソ話していた女の子二人が、ずいっと前に出てきた。
「渋谷慶さん、ですよね? アマリリリスでバイトしてた……」
「あ、いつもケーキセット注文してくれた……」
「え! 覚えててくれたんですか?!」
きゃあっと悲鳴をあげる女子2人。昨年まで慶がバイトしていた喫茶「アマリリリス」には慶目当ての客がたくさんいた。彼女たちもそのうちの2人らしい。
「そりゃ覚えてるよ。よく来てくれてたもんね」
「きゃあ~嬉しい~」
「あの……それで、もしかして、こちらは、よくカウンターでコーヒー飲んでた……」
「そうそう。こいつ、あれでしょ。カウンターの君、だっけ?」
「わあっやっぱり!」
女の子二人が手を取り合って喜んでいる。そう、おれもアマリリリスに通いつめていたため、常連客に「カウンターの君」とあだ名されていたらしい。
「お二人はお友達になったんですね?」
「いや、違うよ。元々友達。ていうか、親友。大親友」
「慶!」
慌てて止めたが遅かった。ケロリとしている慶。それは言わない約束だったんじゃないの?
「え?! そうなんですか?!」
「そうだよ」
「ちょっと、慶」
「いいじゃねえか。もうバイト辞めたんだからよ」
慶が肩をすくめる。いや、確かにバイトをする際の約束ではあったけど……
「親友って、いつからですか?!」
「高校一年から。な?」
「高校って、同じ高校だったんですか?! ちなみにどちらの……」
女の子達、めちゃめちゃ食いついてきている。慶は何の躊躇もなく、
「白浜高校。って言っても知らないか。神奈川県立白……」
「白高?! 偏差値高!!」
ぎょっとしたように一人の子が叫んだ。知ってるんだ? もう一人の子が問いかけてくる。
「渋谷さんは今、〇大の2年生ですよね? 桜井さん?も?」
「いや、こいつは、ここの大学の3年。おれは浪人したけど、こいつは現役で入ってるから」
「えーそうなんだー二人とも頭良いー」
女の子達がきゃっきゃっとはしゃいでいる横で、筒井が強引に口を挟んできた。
「へえ~桜井、あいかわらず頭いいんだな。学校きてなくても関係なかったな」
「…………」
筒井の声に体が固まってしまう。
ジッと慶が無表情で筒井を見つめる。慶の無表情は迫力がある。筒井が負けじと乾いた笑いを浮かべた。
「現役でここの大学? さすがだねえ」
筒井の威圧的な目……。
おれが何も言えず押し黙ると、慶がふいっと女の子二人に目を移した。
「君たち、この二人の連れ?」
「え、違いますっ」
女の子二人、慌てて首を振った。
「そこで声かけられただけで、何も約束は」
「ああ、そうなんだ。じゃ、よければそこでお茶していってよ。本場のチャイとかあるよ」
「わあ。是非!」
「行きます行きます~」
女の子達は嬉しそうに肯くと、引き留めようとした筒井には見向きもせず、筒井じゃないほうの男に「じゃ、ごめんねー」と声をかけ、おれの所属するサークルがやっている屋台の方へと歩いていってしまった。
「おれも行く~」
筒井の友人が、チラリと筒井を見てから女子のあとをついていく。
取り残された筒井が、敵意のこもった目で睨みつけてきた。見覚えのある眼差し。奴が攻撃してくる前の目……。
「桜井~」
耳を塞ぎたくなる声。
「中学にもなって小便もらしてたやつが偉くなったもんだよなあ」
「!」
それを言う……いや、言うだろうな筒井だったら。本当に変わらない……
蘇ってくる記憶……
慶に聞かせたくない。逃げ出したい。でも、足も口も動かない……
「なあ? ふざけて掃除ロッカーに閉じ込めたくらいで、パニくって漏らして……」
筒井が嬉々として続けようとしたところ、
「最っ低だな」
切りこむように、慶の声が筒井の口を止めた。一瞬止まった筒井が、ああ、とニヤリと笑った。
「そうなんだよ。最低だろ? 普通中坊にもなって……」
「ちげーよ。てめーが最低だって言ってんだよ」
慶、体から怒りのオーラが立ち上っている。
「そんなことをしたことも最低だし、今、こうやって自慢話みたいにそれを話してることも最低だよ。ばかじゃねえの」
「な……っ」
筒井がカッとなったように一歩近づいてきた。
「こいつはなあ中学の時……」
「中学の時中学の時うるせーよ。何年前の話してんだよ。ああ?」
慶が筒井を睨みつける。
「てめーの頭、中学で止まってんのか?」
「何を……っ」
「昔のことなんてどーでもいいんだよ。こいつは今、楽しい毎日送ってんだよ。昔のことなんて関係ねえよ」
慶の強い瞳。慶からたちこめるオーラ。なんて綺麗な……
そこへ、今度はふわりと良い匂いがしてきた。
「こーすけ先生、休憩入っていいわよー」
「……あかね、サン」
人目を惹く美女。木村あかね。おれが唯一本音を話せる友達。
筒井が突然の美女登場に驚いた顔をしてあかねを見ている。
慶が軽く手をあげた。
「あかねさん。あと、お願いします」
「オッケーよ。ほら、こーすけ先生?」
「あ……」
慶とあかね、二人を見返す。大切な大切な二人……
「んじゃ、行こうぜっ。おれたこ焼き食いてえ」
「え……とと」
いきなり、また、慶に飛び乗られてよろけてしまう。おんぶ、ということらしい。慶が首にぎゅっとしがみついてくる。
「慶……」
「はい。しゅっぱーつ」
大好きな慶の声が耳元から聞こえてくる。背中から体温が伝わってくる。
ほら、大丈夫。おれには慶がいるから大丈夫……。
「桜井……」
「筒井君」
慶をおんぶしたまま、筒井を見返す。
「おれ、あのまま高校上がらなくて正解だったよ。おかげでこの2人に会えた」
「え……」
「おれ今すごい幸せだよ」
「は………何言って………」
戸惑った表情をした筒井に、ニッコリと笑いかける。ほら、おれ、笑える。
「じゃあね」
そして、いつも支えてくれるあかねに頷きかける。
「じゃ、あかねサン、 30分で戻るから」
「りょーかい」
「桜井………っ」
筒井の声を背に歩きだす。もう振り向かない。振り向かない。
たこ焼きを買って、空いているベンチに二人並んで腰をおろしたところで、慶が「あーあ」と大きくため息をついて、ボソッといった。
「おれ、お前と同じ中学だったらなあ」
「え?」
見返すと、慶は口を尖らせて言ってくれた。
「あんな奴、ボッコボコにしてやったのに」
「慶………」
慶の気持ちを思って心が温かくなってくる。でも………
「でも、中学の時に会っても、慶はおれのこと好きになってくれてないと思う。友達にもならなかったと思うよ」
中学生のおれは、暗くて愛想がなくて卑屈でいつも下を向いていて………
あんな奴、誰からも好かれない。本当のおれの姿………。
「……っ」
深淵に沈みこみそうになったところを、温かい手に掴みだされる。
「ばーか」
明るい声。
「おれはどんなお前でも好きになった自信あるぞ?」
「…………慶」
慶の笑顔。胸がしめつけられる。
こんな人にこんなこと言ってもらえるなんて、おれはなんて幸せなんだろう。泣きたくなってくる。
慶はいたずらそうにイヒヒと笑うと、
「何しろおれは健気に一年以上お前に片思いしてたくらいだからな。その間、お前は先輩を好きになったり………」
「わー、その話、まだするー?」
この話をされると困ってしまう。
一年以上片思いしてたっていうのは、本当にビックリなことで、高2の冬におれが告白した時に聞かされたけどいまだに信じられないし、全然気がつかなかったし、ものすごく嬉しいんだけど………でも、美幸さんの話の方はもう忘れてほしい!
「ねー、その話はそろそろ忘れてくれない?」
「無理。あの時どれだけおれが苦しんだか………」
「も~~慶~~」
「わ。やめろっ」
頭をぐしゃぐしゃとかきまぜてやると、慶がくすぐったそうに笑った。愛おしい慶。いますぐ抱きしめたいけれど、人目があるので我慢我慢。
「あ~、あのときはつらかったなあ~」
「だからごめんって。でも、慶、昔のことなんてどーでもいいって言ってくれたじゃん。今、楽しい毎日送ってるから関係ないって」
さっき慶が筒井に言ってくれた言葉を言うと、慶は「いやいや」と首をふり、
「それはそれ、これはこれ」
「じゃあさっ」
最後の手段!
「慶が片思いしてくれてた分まで、たっくさん愛、受け取るから!」
「受け取る? どうやって?」
「そりゃもちろん……」
コソコソコソっと慶の白い耳に唇をよせて卑猥な言葉をささやくと、慶がみるみる真っ赤になっていく。かわいい。
「………変態っ」
「えへへ」
「えへへ、じゃねえよっ」
大好きな大好きな慶。
やっぱりおれは慶がいてくれれば大丈夫。大丈夫だ。
今、幸せだから、昔のことなんてどーでもいいから。
今度、昔のおれを知っている奴に会っても胸を張って立ち向かいたい。
できるかどうかは分からないけど。でも、慶がいてくれれば大丈夫。きっと、大丈夫。
-------------
以上。真面目な話でした。
ちなみに、最後、慶にコソコソいってた卑猥な言葉ってなにかというと……
……まあ、あれですよ。フェラして飲みますって話です(←下品だ!!)。
あ、そうそう。
作中、慶は「チャイがあるよ」なんて普通に宣伝してますが、慶はサークル入ってません。ただ遊びにきただけです。
ここのサークルは、浩介とあかねが入っている、日本語ボランティア教室です。多国籍の方が参加しています。
昔、自分をいじめていた人に会うってつらいですよね。会わないで済むなら一生会いたくない。
でも、どうしても会わなくちゃならない場合は、胸を張って会おう。
今を幸せに生きて、見返してやろう。
ってお話でした。
まあ……あわなくて済むなら一生会いたくないですけどね……ほんとにね……
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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
R18にならない程度にイチャイチャさせよう第3弾。
終わった直後にベッドの中でうだうだイチャイチャしてる話。
登場人物
渋谷慶 ……医大6年生。身長164cm。天使のような美形。でも性格は男らしい。
桜井浩介……高校教師3年目。身長177cm。表、普通。裏、病んでる。
二人は高校時代からの親友兼恋人同士。
浩介は慶の大学に近いアパートで一人暮らししており、半同棲状態。
1999年7月31日(日付的には8月1日)の深夜の話。浩介視点で。
-------
セックスした直後、慶がぽや~っとしている時がある。その時の慶は本当にかわいい。たまらない。
いや、慶はいつでもかわいいし、かっこいいし、それでいて、してる最中は別人のように色っぽくて切なげ……だけれども、直後の無防備な慶は格別なのだ。
でも、毎回そうなるわけではない。ケロッとして「風呂入るぞ!」とか言うときもある。
今までの経験からいって、すごく疲れていた場合や、ジラしてジラしていかせた場合(でもやりすぎると怒りだすため加減が難しい)に、ぽやーっとなる傾向があると思われる。
今日は、疲れているところを少々乱暴気味にことを進めた上、ジラしていかせた。
そうしたら、予想以上に、ぽや~っと放心状態になってくれて……。
(たまらない…………)
心の中でつぶやく。
そっとその白い裸体を抱き寄せると、慶がおでこをきゅきゅっとおれの肩にこすりつけた。か、かわいすぎる………。
「慶………」
「ん………」
愛しすぎて、どうしたらいいのかわからない。柔らかい髪をそっと撫でて、白い額に口づける。
ポヤっとした慶を堪能したくて、無言のまま腰を抱いて頭をなでたりしていたのだが、
「…………あ」
テーブルの上に置いた慶の携帯が鳴り出した。メールだ。
「慶、メールだよ」
「ん~いい。ほっとけ」
「でも………」
今、夜中の12時を少し過ぎたところ。こんな遅くにメールしてくるなんて、相当仲が良い相手なんだろうか。今メールを見ようとしないのはおれに知られたくない相手だからなんだろうか……。
嫉妬心に支配されて苦しくなってくる。慶は友人が多い。いちいち気にしていたら身が持たない。それは分かっているのだけれど……。
携帯がまた鳴りだした。もう一通きたようだ。
「慶、見ないの……?」
「ん~……誰?」
「誰って………」
慶は面倒くさそうにタオルケットにくるまり、ペチペチとおれの腕を叩くと、
「見てくれ」
「え」
見ていいの?
「面倒くせー。読んでくんねえ?」
「う、うん」
うわ………う、嬉しい。メール読んでいいなんて、何も隠し事ないってことだよね。
「ちょっと待ってね……」
内心の喜びを押し隠して、テーブルに手を伸ばして携帯を取る。
「あ………南ちゃんだ」
ほっとする。慶の一つ年下の妹、南ちゃんからだった。
「南? なんだって?」
「えーとね………『1999年7の月、無事に終わったね』だって」
「1999年7の月……? あ~~そういやそうだな」
慶がおれの腕にぴったり頬をくっつけて、携帯を覗き込んでくる。その様子がかわいすぎて襲いたくなってしまう。でもダメだダメだ。慶は疲れている。二回目は無理だろう。衝動をおさえるため、会話に集中する。
「それってノストラダムスの大予言?」
「そうそう。1999年7の月に恐怖の大王がおりてくるだろうってやつ。小学生の頃すっげー流行ったじゃん」
「ああ……そうだね」
ふっと小学校時代の記憶がよみがえって、手足が冷たくなる。
あの時おれは………恐怖の大王がおりてくるなら、今すぐおりてきて世界を壊してくれ、と本気で願っていた。こんな世界なくなってしまえばいい、と………。
「…………」
苦しい。過呼吸が起こりそうだ。とっさに慶を抱きよせる。慶の体温。慶の匂い。大きく息を吸う。大丈夫、大丈夫。今のおれには慶がいるから大丈夫……。
「……浩介? どうした?」
「………どうもしないよ」
見上げた慶の額にキスをする。すぐに呼吸が落ちついてくる。大好きな慶……。
何も言わずに背中に手を回してくれた慶をもう一度強く抱きしめてから、再び携帯を持ち上げる。
「もう一通はね……『どう過ごしてる?私は予想通り』だって」
「あー……」
おれの腕枕の上で、慶も携帯を見上げて、あーと唸った。
「そんな話したなあ……」
「なんの話?」
「んーーーー」
慶はおれから携帯を取り上げると、何か短く打ち、送信してから、ポイッと枕元に携帯を放った。
「小学生の時、二人でこの予言の話をしたことがあるんだよ」
「予言の話?」
「自分たちは予言の時にどう過ごしてるかってさ。当時は25歳なんてまだまだ先だと思ってたんだけどなあ」
本当に。25歳なんてずっとずっとずっと先のことだと思っていた。
小学生の慶と南ちゃん、かわいかっただろうなあ。
「南は、自分はもう嫁に行ってて、旦那と一緒にいるだろうって予想したんだよ」
「わあ、すごい。確かに予想通りだね」
南ちゃんは先月結婚したばかりなのだ。
「慶は? なんて予想したの?」
「あー……まあ、なんだ。まあ、いいじゃねえか」
「え?」
なんだ?
慶はタオルケットを顔まで引き上げて、目だけ出すと、
「まあ……野郎と裸でベッドにいるってことは1ミクロンも思いつかなかったけどな」
「そりゃあそうだね」
おれだってそうだ。もっと早く地球破壊しろ、なんて願っていた。
こんな……こんな幸せな時間を過ごしているなんて、1ミクロンも想像しなかった。
「もしかして、慶も、結婚して奥さんと一緒にいるって予想してたの?」
「いや?」
さわさわと慶がおれの脇腹のあたりを触ってくる。くすぐったい。
「じゃあ、なに?」
「んーあー」
慶は言いたくないようで、誤魔化すようにヘソのあたりをグルグル触ってくる。くすぐったいって。
そうこうしているうちにまた携帯が鳴りだした。今度はメールじゃない。慶が面倒くさそうに携帯を取った。
「………なんだよ?」
相手は南ちゃんのようだ。
「んなことでイチイチ電話かけてくんなよ」
慶の眉間にシワが寄っている。何を言われてるんだろう?
「ああ? いいけど……余計なこと言うなよ?」
慶が仏頂面のまま、おれに携帯を渡してきた。
「南がお前と話したいって」
「え」
言うと、慶はおれに背を向けて、タオルケットに小さく包まった。慶は丸まって眠ることが多い。猫みたいでかわいい。
「もしもし?」
『お兄ちゃんがなんてメールしてきたか気になるでしょ?どうせお兄ちゃん教えてくれないんでしょ?』
南ちゃん、何の挨拶もなく唐突に言ってきた。
メールももちろん気になるけど、予想の中身が先に気になる。
その心中を読んだかのように、南ちゃんが、あら? と言った。
『もしかして、お兄ちゃん、何も話してない?』
「う、うん……」
あいかわらずなんでもお見通し南ちゃん。
『あのね、私達が小学生のときに、ノストラダムスの大予言って流行ったでしょ?』
「うん………」
『それで私達、予言の日がきたときに自分たちが何をしてるか予想したのよ』
「うんうん」
その中身を教えてほしい。
『お兄ちゃんの予想はね』
「うん」
ドキドキする。
『大好きな人と一緒にいる』
「え………」
『なんかかわいいでしょ?』
「うん………」
そ、それで………
『それでさっきメールで……』
南ちゃん、言いかけたのに、なぜかやめてしまった。電話の向こうで何か話しかけられている。旦那さんだろうか。
『あ、ごめん、浩介さん。また今度会った時に話すわ』
「え」
ツーツーツー……
無情にも電話は切られてしまった………。み、南ちゃん……。
(大好きな人と一緒にいる……)
慶は南ちゃんになんてメールしたんだろう……
「………」
背中を向けている慶……眠っているんだろうか……
「………」
誘惑に負けて、コッソリと慶の送信したメールを呼び出す。そして…………
「!」
息が、止まるかと思った。
大好きな人と一緒にいる、と予想した小学生の慶。25歳の慶が書いたメールには…………
『予想的中』
予想、的中、だって。
「慶………」
後ろから、ぎゅうっと抱きしめる。柔らかい髪に顔を埋める。大好きな大好きな大好きな慶………
「………電話終わったのか?」
「うん」
「南、なんだって?」
「…………」
もぞもぞと慶がおれの指に指を絡めてつないでくれる。ああ………幸せだ。
「話してる途中で切れちゃった。旦那さんに呼ばれたみたいで」
「そっか」
指を軽くくわえられる。柔らかい唇………。ただでさえ固くなっているものがますます固くなってくる。さっき終わったばかりだというのに、我ながら困ってしまう。慶が魅力的過ぎるのがいけないんだ。気をそらすためになんとか話を続ける。
「ノストラダムスの大予言って、あれだけ大騒ぎしたのに何も起きなかったね」
「いや? 今頃、外では恐怖の大王が大暴れしてるかもしんねえぞ?」
「あはは。そうだね。でも………」
でも、もし、そうだとしても………
「もし、そうだとしても………いいや、おれ。慶が一緒にいてくれるなら」
「そうだな……」
慶はくるりと体をこちらに向けると、いきなりおれの首にパクっと食いついた。な、なに?
「慶?」
「んじゃ、恐怖の大王に地球壊される前にもう一回やっとくか」
「えええっでも………っ」
慶の繊細な指がつーっと下におりてくる。
「ちょ……っ、待って………っ」
「さっきからガチガチになってるくせに何が待って、だよ」
「…………」
バレてたのか。なるべく当たらないようにしてたのに。
「でも、慶、疲れてるんじゃ……」
「疲れてるから、今度はゆっくりな」
「………ん」
ゆっくりと唇を重ねる。足を絡ませる。
大好きな人に大好きと思ってもらえる幸せ、一緒にいられる喜びをかみしめながら、予言の最後の夜は過ぎていく。
-----------------
以上、風のゆくえには年表を見ていて、いきなり書きたくなったノストラダムスの大予言の話でした。
1999年7月なので、iモードメールがはじまってまだ半年とかそんなもんです。
慶と南はまだショートメールでやりとりしてます。
しかし……こんな一人一台携帯を持つ時代がくるとはねえ。しかも今やメールじゃなくてラインが主流だったりして……。
昔、ポケベルが出た時ですら、すっげー!!って感動したのになあ…。
ちなみに、浩介と慶はポケベルは持ってませんでした。浩介はPHSが出てすぐに買いましたが。(携帯は高くて手が出せなかったの)
って、今の若い子、PHS知らんよね^^;
1999年7月31日、私は「今日で地球終了ー!」とか言いながら仲間内で飲んでました。ちょうど土曜日だったんだよね。
携帯は持ってたけど、メールはできなかったから、ポケットボードを買ったのがこのちょっと前じゃなかったかなあ。
って、ポケットボードなんて、もっと知らんってね^^;
なんて記憶をよみがえらせつつ……
そんな過去話をちょいちょい書いていきたいと思っております。
----------
クリックしてくださった方、本当に本当にありがとうございます!
画面に向かって拝んでおります。ありがたやありがたや……と。本当にありがとうございます!
こんなに長々と書かないで(今回も、短く短くと思いつつ5000字越してますし……)、
細切れで更新すればいいのかなあ、とも思うのですが、
私の中で、やはり、一回の更新でそれなりの完結がないと……というのがありまして……
連続ドラマフリークだからかもしれません。
そんなわけで、更新頻度をあげることもできないのですが、今後ともお見捨てなきよう、よろしくお願いいたします!!
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してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
最近、エッチの話ばかり書いていたので、たまにはやらない話を書こうと思いまして。
R18にならない程度にイチャイチャさせよう第2弾。……キスぐらいはしてもいいんだよね?ね??
登場人物
渋谷慶 ……26歳。研修医。身長164cm。天使のような美形。でも性格は男らしい。
桜井浩介……26歳。高校教師。身長177cm。ごくごく普通。
二人は高校時代からの親友兼恋人同士。
慶は勤務している病院の社員寮で、浩介は以前から住んでいるアパートで一人暮らし中。
慶さん、とっても忙しいので、会えない日々が続いております。
そんなある日の話。浩介視点で。
----
約二週間ぶりに見る慶は、何だかとてもやつれていた。それで余計に色っぽくなってるあたり、さすがというかなんというか……。そこらの茂みに連れ込んで襲いたくなってしまう。
でも、連日仕事場に泊まりこんでいる恋人にそんな仕打ちをするわけにはいかないので、本能を理性で押し止める。おれももう26歳。さすがにそのくらいの自制はききます。
「慶、すっごい疲れた顔してるよ。大丈夫?」
「ああ、何とかな……あーうめー」
おれが作ってきた弁当を食べながら、慶が絞り出すように言った。
今朝、数日ぶりに電話がかかってきたと思ったら、開口一番「お前の作った飯が食いてえ」と言ってきた慶。帰って食べる時間はないというので、お弁当を作って持ってきたのだ。これまでずっと食堂のご飯と売店の弁当だったそうで……。
ついでに合鍵を使って慶の部屋に行き、着替えも持ってきた。入れ替わりに汚れ物を持ち帰って洗濯しておくよ、と言ったのだが……
「洗濯物これだけ? 少ないね」
「あー、1回コインランドリーいった」
「言ってくれたら取りにきたのに」
「んー次からは頼む。まあこんなに何日も帰れないなんてことはもう勘弁してほしいけどな」
もぐもぐもぐもぐ……一生懸命食べてる慶、たまらなくかわいい……。
ここは慶の勤務する病院の一角。背もたれのない二人掛けのベンチがある。行き止まりと錯覚する茂みの奥にあるため、めったに人はこないそうで、おれに電話をかけるときなどはいつもここを利用しているらしい。
慶は、ふと思い出したように、あ、と言った。
「先週もサンキューな。留守中うち掃除してくれて」
「あ、うん。メールありがとね。気にしなくて良かったのに」
「いや、あれは本当に感動して泣きそうになった。散らかった部屋に帰るのやだな~と思いながら帰ってきたら、全部きれいになってて、おまけにシーツまで洗ってくれてて」
「いや…………」
後ろめたさから口ごもってしまう。
時々、慶がいない時に部屋に行って掃除することがあるのだが、先週は片付け魔の慶にしては珍しく、使った食器もそのままで、寝坊したのか布団も起き抜けの状態でグチャグチャで………。そのグチャグチャ具合にそそられ、誘惑に負けてその布団で慶の匂いを感じながら会えない寂しさを自分で慰めていたら、うっかり汚してしまい、シーツも布団カバーも洗濯することになった……なんてこと絶対に言えない……。
「あーうまかったー……」
「良かった。夜の分も作ってきたから食べてね」
「おーサンキュー助かるー」
「…………」
ペットボトルのお茶をごくごくと飲む慶の白い喉に釘づけになってしまう。でも我慢我慢……。
無心で弁当箱をしまってふり向くと、慶が眠そうに目をこすっていた。
「なんか眠くなってきた……」
「お腹いっぱいになると眠くなるよね」
「んー………今何時だ?」
「!」
いきなり時計をしている左手首を掴まれドキッとする。眠さで目が半分しか開いていない慶がおれの腕時計をじっと見て、
「うーん……あと10分、15分ってとこか」
「戻る?」
「んー寝る。10分したら起こしてくれ」
「え……」
慶、おれの左手首を掴んだまま、もぞもぞと上半身だけ横になり、おれの腿の上に耳をつけて頭を預けてきた。膝枕、だ。そのままおれの左手を口元に抱え込んでぎゅっと握っている。慶の細くて繊細な手。柔らかくてそれでいて弾力のある唇。左手に触れている部分が熱くなってきて平常心を保てなくなりそうだ。
でも、数秒で眠りに落ちた慶の規則的な寝息を聞いていたら、そんな邪な思いは奥の方に引っ込んだ。
「慶……」
反対の手でそっとその柔らかい髪をなでる。
美しい横顔。まるで絵画のようだ。木漏れ日の中の天使………。
おれの腕の中で安心したように眠っている愛しい人。おれだけの天使………。
このまま時が止まればいいのに……
そんな願いも虚しく、寝顔に見とれていたらすぐに10分なんて過ぎてしまった。よく寝ているところかわいそうだけれど、その白い頬を優しくさする。
「慶、慶。10分たったよ」
「んー…………」
ぼんやりと目を開く慶。
「即寝だったな……でもちょっとスッキリした……と、あ、ごめん」
「え?」
起き上がった慶がゴソゴソとポケットから何か出そうとしてる。
「あ」
で、気が付いた。慶が抱えていたおれの左手に、透明な滴。
「わりい。よだれたれて……、わーーーー!お前何してんだよ!!」
「え」
ほとんど無意識に、そのよだれをペロリと舐めたら、わーーっと慶が真っ赤になって叫んだ。
「バカかお前はーー!汚ねーだろー!!」
「別に汚くないし……」
「バカバカバカッ拭けっ」
「え、やだ」
「お前ーーー!!」
面白い。慶。真っ赤になってバタバタしてる。かわいい。
「ホントにお前、年々変態度が増してるぞっ」
「変態度って」
シーツを汚した件を思い出してグッと詰まると、無理やり左手を掴まれハンカチでゴシゴシと拭かれてしまった。
「あーあ……」
「あーあ、じゃねえよ。変態」
「えー」
眉間にしわを寄せた慶に、ぶーっとふくれてみせる。
「だってー……もう2週間もキスもしてないんだから、唾液くらい」
「唾液言うな!恥ずかしいっ」
ったくしょうがねえ奴だなあ……と、慶はブツブツブツブツ言うと、立ち上がり、茂みの向こうを確認してから、こちらを振り返った。
「一分だけだからな」
「え」
慶の細い指がおれの頬を包みこんだ。ゆっくりと唇がおりてくる。
「…………あ」
ビクリと震えてしまう。二週間ぶりの唇。記憶していたよりもずっと柔らかくておいしい…………。
「慶…………」
腰を抱くと、慶がおれにまたがってきた。胯間が重なりゾクリとなる。慶、大きくなってる……。
侵入してきた慶の舌に舌を絡める。伝ってきた唾液を飲み込む。あんな一滴のよだれどころじゃない。
慶の腰がゆっくりと動き、股間が服越しに擦り合わさる。
「やべえな」
キスの合間にポツリと慶がつぶやいた。
「止まんねえ」
「んん……」
慶の唇、もっと欲しい。止まらない、止まらない。止まらない……、と、思ったのに………。
「………あ」
ふいに慶がおれからおりて立ちあがった。慶のポケットの携帯がブルブルいってる……。
「……はい。はい。すぐに戻ります」
「………」
電話を切った慶と顔を見合わせる。慶がごめんというように手を挙げた。うん。しょうがないよ、慶……。
「お前、明日早い?」
「ううん。いつも通り」
「そしたらさ、あ、でもな………」
慶が言い淀んだ。……大丈夫。その言葉の続きを継いであげる。
「明日の朝、慶の部屋から出勤できるように準備して泊まりにいくね。もし、帰ってこられなかったら、それはそれでいいから」
「…………ああ」
立っている慶を見上げて言うと、慶がホッとしたように肯いた。
「ごめんな」
「ううん。全然大丈夫」
「………」
「………慶?」
いきなり頭をかき抱かれ、ドキリとする。耳元で慶の優しい声がする。
「会いたかった」
「………うん」
「会えて嬉しかった」
「うん」
伝わってくる慶の体温……。
「弁当うまかった」
「うん」
「なんとか時間作って帰るから」
「うん」
「そしたら続きしような」
「うん」
ああ、おれは愛されてる……。
慶の腕の中……幸せでとろけそうになる。
慶は新しい着替えと夕飯の弁当の入った紙袋を持つと、
「じゃあ、これサンキューな」
「ん」
幸福感でいっぱいでベンチから立ち上がれないおれに、とどめをさすように額にキスをくれてから、足早に茂みの向こうに消えていった慶……。
「…………幸せ過ぎる」
慶が働きはじめてこの数ヶ月、会えない日が続いているけれど、その分会えたときに甘々をぎゅうぎゅうに凝縮してくれている気がする。
今日もおそらく慶は帰ってこられないだろう。でも待っているだけでもいい。せめて慶のことを思って慶の存在を感じながら慶の部屋にいたい。
「帰ってこられるといいな……」
ぎゅうぎゅうに凝縮された甘々を胸に、慶を待とう。ずっとずっと待とう。
ーーーーーー
以上。慶が働きはじめて半年くらいのお話でした。
26歳なので、今から15年前ですね。浩介はもう社会人4年目です。
うーん。ラブラブだなーいいなー。
慶が男らしくていいわ~。そのくせベッドの中では切なくあえいじゃったりするんだからたまりませんなあ。(変態でスミマセン………)
ーーーーーーー
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隠れてコソコソ書いているため、(私、何してんのかしら……)と、書きたくて書いているのに、急に現実に引き戻されることしばしばなので、こうしてクリックしてくださる方がいらっしゃると、(書いてていいんだ!)と再びこちらに戻ってくることができます。本当にありがとうございます!!
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居酒屋のトイレから出るなり腕を掴まれた。驚いて見上げると浩介が不機嫌な顔をして立っている。
「浩介? どうし………っ」
言い終わる前に、トイレに押し戻された。一緒に入ってきて後ろ手に鍵を閉める浩介。
「ちょ……浩介?」
抱きすくめられ、強引に唇を重ねられる。
「……っ」
侵入してきた浩介の舌に舌を絡めとられ、腰がくだけそうになる。その上、股間にぐりぐりと膝を押しつけられたため、場所も構わず膨張してきてしまった。
「んん……」
思わずその激しいキスに応戦してしまったけれど、鏡に写った自分たちを見て、はたと我に返った。
今日は高校2年時のクラスの同窓会でこの居酒屋に来ている。『全員ハタチになった記念同窓会』という名目らしい。卒業して2年と少したつというのに、ほぼ全員集まったのは、幹事をしてくれたクラス委員長の人徳のおかげだろう。
わりとこじんまりとした居酒屋で、2階はおれ達38人の貸切となっている。
この階にトイレは男女各1つずつしかない。便器と洗面台がついているトイレで、当然一人用なので二人でいると狭い。新しい店なだけあってわりと綺麗ではあるけれど……
「お前、何……」
「……………」
無言でおれのベルトに手をかけ始める浩介……。
こんなに攻撃的に機嫌の悪い浩介、久しぶりだ。アルコールが入っているせいもあるのかもしれない。
「何イラついてんだよ? 珍し……」
「慶こそ。お酒弱いくせにこんなに飲んで。真っ赤な顔して」
「しょうがねえだろ。隣の……んんっ」
再び口をふさがれた。いつのまにGパンのチャックも下げられて直接触られ、ビクビクッと震えてしまう。
「こう……っ」
「そんな色っぽい顔して、隙がありすぎだよ。慶」
耳元でささやかれ、首筋に唇が添ってくる。
「女の子たちが何て言ってるか、気づいてないでしょ」
「んんんっ」
執拗に亀頭のあたりをなぞられて、ぬるぬるとしたものが出はじめてしまっている。
「渋谷君、あいかわらずカッコいいー。渋谷君、〇大の医学部通ってるんだってー。すごーい」
「………んっ」
膝が震えてきてしまう。浩介は淡々と続ける。
「渋谷君、今彼女いるのかなー。二次会のカラオケでは絶対隣に座りたーい」
「んん……っ、なんだよそれっ」
「おれのいたテーブルの女子が話してた話」
再び唇を求めてくる浩介。蕩けそうだ……。
「慶はおれのものなのに。おれだけのものなのに」
「………う、あ……」
怒ったように手を速めてくる。こんなところでいかされるなんて……
戸惑い、羞恥、快感、色々なものが入り混じって、体がどうしようなく熱くなってくる……
「渋谷ー?」
「!」
外からの声にピタリと手がとまった。委員長の声だ。
「大丈夫かー? 全然戻ってこねえから女どもがうるせえぞー」
「あ、ごめんー委員長」
浩介がしれっと外に向かって答えたので、ぎょっとする。
「え、桜井か? 悪い、渋谷かと……」
「あ、ううん。慶もここいいる。慶、吐いちゃってて」
「え」
見上げると、浩介がおれの頬に軽くキスをして、再び手を動かしはじめた。
「……っ」
こいつ………っ。
「うわマジで。やっぱ飲みすぎてたんだな。大丈夫なのか?」
「んー、今少しでたけどー、全部吐かせ終わったら戻るよー」
「分かった。何かできることあるか?」
委員長、あいかわらず気遣いができるいい奴……とぼんやり思う。
「戻ったらお水飲ませたいから、お冷お願いー」
「りょーかい。んじゃ、頑張って吐けよー」
気配が去っていく。再び唇を合わせる……
「お……前、嘘つきだな」
「嘘なんかついてないよ。全部吐いちゃおうね」
「じゃあ……お前も吐けよ」
浩介のベルトに手をかけ、すばやく脱がせる。
「もう、少し吐いてるし」
先走りをなで、ぬるぬるを広げると、浩介が小さくうめいた。
「そりゃそうだよ……となりのテーブルから慶のこと見てて……もうずっと勃ちっぱなし」
「……変態だな」
「変態だよ。慶に突っこみたくてしょうがない。我慢できない」
言いながら、浩介はポケットから何か取り出した。何だ……?
「何だそれ」
「コンドーム。ジェル付の良いやつなんだって。西崎がくれた」
西崎、というのは浩介の大学の同級生。時々会話にでてくる。人妻と不倫してる下ネタ大好きの男、らしい。
「感想教えろってさ」
「感想って……」
ゴムを装着した浩介のものは、ぬめぬめとしたいやらしい光を照らしていて……あらためて、こんなもの入れてるんだ、とドキドキしてしまう。
「狭いから……んー……」
Gパンを下までおろされ、後ろを向かされた。便座に手をつく。
本当に吐いているみたいだな……なんて冷静に思った瞬間、
「………っ」
いきなり貫かれて背中がそる。ジェルのおかげかしょっぱなから滑りよく奥まで突かれ、その圧に息を飲む。手の位置を便座から後ろのタンクに移動させると、腰をおさえられ、ぐりぐりと中をえぐるよう動かしてくるので、もう堪らない。
声が出そうになるのを必死でこらえる。ここで喘ぎ声なんてあげるわけにはいかねーだろっ。
「ジェルぬってるみたいに滑りがいい。ホテル備え付けのより装着感もずっといい」
小さくつぶやく浩介。
「でもやっぱり膜一枚挟んでる感じしちゃうよね」
「そりゃ……っ」
伝わってくる熱量が少し少ない。でも滑りよくスライドしてくる感じはこれはこれで……っ
「でも、これなら中でイケそう」
「!」
浩介の右手がおれのものに伸ばされた。
「一緒にいこう、慶」
「んんんっ」
浩介の腰の動きと、扱いてくれる手の動きが同化している。
バックでしたことはあまりないのでちょっと新鮮な上に、こんな場所でやってるっていう妙な興奮もあって、いつもよりも快楽の頂点が近くなっている気がする。
「こ……すけ、もう……」
声をおさえるために、肩に口を押しつける。
「いきそう?」
「ん………」
前も後ろも膨張して爆発しそうだ。浩介のものもいつもより大きい気がする。こんな場所で、しかも同級生たちがすぐ近くにいるような状況で、快楽に身をゆだねるなんて異常だ。でも止まらない……。
「あ……イク……っ」
ビクビクと体が震えた、その時だった。
「大丈夫ーー?」
「っ」
イク寸前で引っ込んだ。クラスの女子の声だ。
「桜井くーん、渋谷君大丈夫ー?」
「大丈夫ー」
浩介が手も腰も止めてドアに向かって叫ぶ。
「もう出るってー」
「ごめんねー。私達が飲ませすぎちゃったからさー」
「出たらすぐ戻るよー」
「うん。お願いー」
「………」
気配が遠のくのを待たずして、浩介が思いきり奥まで突いてきた。
「んんんっ」
声が出そうになり、唇をかみしめる。
「……ムカつく」
浩介のつぶやきが小さく聞こえてくる。
「なにがお願い、だよ。お願いされる筋合いなんかないよ。慶はおれのものなのに」
「こ…………」
怒りまかせといった感じの浩介の腰使い。いつもよりずいぶん乱暴で、痛さと快楽の微妙なラインに意識が朦朧としてくる。
浩介の息遣いも荒くなり、おれのものを掴んでいる手にも力が入ってきて、そして……
「……イクッ」
「ん……ああっ」
ほぼ同時、だったと思う。浩介のものが一層大きくなりおれの中で熱を吐き出し、おれから乳白色のものが便器に吐き出された。
「………」
お互いの息の音だけが狭いトイレの中で響いている……。
しばらくの間の後、浩介が無言で引き抜いた。ぶるぶるっと震えたおれの入り口をトイレットペーパーで拭いてくれる。
そして、とんっとおれを便座にすわらせ、素早く自分の衣類を整えると、若干放心状態になっているおれを静かに見下ろしてきた。泣きそうな顔……。
「浩介……?」
「………ごめんね」
ポツリと浩介が言い、再びトイレットペーパーを手に取り、おれの先の方に残った滴を丁寧に拭いてくれる。くすぐったい。
「ん……何が?」
「なんか……怒りながらしちゃった。痛くなかった?」
「いや、大丈夫……」
痛くないことはなかったけれど、これはこれでありな感じ……何てことは恥ずかしすぎて言えない……。
おれの内心も知らず、浩介はしょぼんとしている。
「ホントごめんね……」
「だから大丈夫だって。大丈夫だから出るもん出たんじゃねえかよ。あやまるな」
「ん……ありがと……」
触れるだけのキスがおりてくる。気持ちいい……。
「……やっぱりバックだと慶の顔が見えないから嫌だな」
「そっか」
おでこをコツンと合わせる。もう一度唇を合わせる。
「慶、二次会行く?」
「どっちでもいい。お前に合わせる」
「ホントに?」
嬉しそうにふわりと笑う浩介。かわいい。さっきまでの苛立った浩介とは別人のようだ。
ついばむようなキスを繰り返したあと、浩介が耳元でささやいてきた。
「それじゃ……ホテル行きたい」
「は?」
今やったばっかなのに何を言ってるんだこいつは。
「やり直しさせて。明日休みだし泊まれない?」
「んーーーー」
そうだな……親にはクラスの奴らと朝までカラオケするって連絡すればいいか……
「んじゃ、そうするか」
「やったあ」
ぎゅーっと抱きしめられる。狭いトイレで、おれは大をするように便座に座ったままの格好で……冷静に考えると相当おかしい。
「そろそろ戻るか」
身支度をして手を洗いはじめると、浩介がわざわざ後ろから抱きしめるような形で手を出してきて一緒に洗いはじめた。そしてボソボソと耳元にささやいてくる。
「……慶、女の子とあんまり仲良くしないでね」
「してねえよ」
「してたよ」
鏡越しの浩介はまたムッとした顔をしている。相当ムカついているらしい。いや、本当にそんなつもりはなかったんだけど……。
トイレから出ると、委員長がこちらに向かって歩いてくるところに出くわした。
「お。渋谷、大丈夫かー?」
「ああ、ごめん。もう大丈夫」
気まずさを隠し、極力普通の顔をして答える。委員長、ペンと名簿を持っている。
「吐いたばっかのとこ悪いけど、今、二次会の出欠とってんだよ。お前どうする?」
「あーーごめん。おれ、パス。約束があって」
即答すると、委員長はニヤリとした。
「なんだー? 女かー?」
「まあ……そんなもん」
肯くと、委員長は愉快そうにおれの名前の横に×印をつけた。そして、聞きもしないでその上の浩介の名前の横にも×を書くと、
「どうせ渋谷がこないなら桜井もこないんだろ?」
「さすが委員長。良く分かってる」
おれの後ろで浩介が感心したように手を打った。委員長は苦笑して、
「お前ら本当に変わんないよな。なんかホッとするよ」
「え」
思わず浩介と顔を見合わせる。
「あいかわらず、渋谷は芸能人みたいにかっこよくて、あいかわらず、桜井は渋谷の後ろくっついてて。お前ら二人だけみてると高校時代にタイムスリップしたみたいだ」
「委員長だって変わってないじゃん」
「いや、おれは眼鏡変えたぞ」
「そこか」
笑ってしまう。でも確かに……大学生になって妙に派手になった奴もいる。特に女子は化粧をし始めてる子も多いし、短大出の女の子はこの春から働きはじめているので、大人っぽくなった子も多い。
「お前らは……変わんないでほしいな」
「変わんねえよ」
「絶対変わらないよ」
おれと浩介が続けて答えると、委員長はなぜか寂しそうに笑って、
「んじゃ、次は25歳で集まろうな。それまで変わんなよ」
「?」
首を傾げたが、委員長は構わず先に歩きはじめて、勢いよく部屋のふすまを開けた。
「渋谷と桜井戻ってきたぞー」
「渋谷君大丈夫ー?」
「桜井、お疲れー」
わっと一斉に皆がこちらを向く。
良いクラスだ、と思う。一人ずつを見ると変わってしまった奴も変わらない奴もいるけれど、クラス全体の雰囲気は高校時代と変わらない。ノリがよくて、許容範囲が広くて……。
「残念なお知らせー。渋谷はこれからデートだから二次会来ませーん」
「えええっ」
委員長、余計なことをっ。
「渋谷君彼女いるの?!」
「えーどんな人どんな人?!」
「桜井は来られんのか?」
ふられた浩介、ニッコリとして、
「ごめん。おれもこれからデートだからパス」
「えーーー!」
更にどよどよしはじめてしまった。浩介まで余計なことを……。
「桜井君も彼女いるのー?!」
「うそー」
どよめいている中、自分の席に戻ると、おれ達のいない間に席移動があったらしく、浩介はおれの隣の席になっていた。
「二人ともいいなあ」
「どんな人ー?」
皆が口ぐちに言ってくる中、元美術部の浜野さんがボソリといった。
「とか言って、渋谷君と桜井君、二人でデートだったりして」
「え」
す、鋭いっ。動揺して口を閉ざしてしまったところ、
「わー浜野さんすごーい」
「げ」
いきなり浩介がおれの肩を抱いてきた。
「当たりー。そうなんだよー。これからおれと慶でデートする約束してるんだー」
「お前、そういう紛らわしいこと言うなっ」
バチンッと浩介の手を振りはらうと、
「うわーっ懐かしい!」
まわりからどっと笑い声が上がった。
「今一瞬、高校の教室に戻った感覚になったっ」
「この二人のこのやり取り、よく見たよねーっ」
みんな笑ってる。
このノリ……たったの2年しか経っていないのに、本当に懐かしい。
委員長はなぜかしみじみと「いいなあ……」とつぶやいている。なんなんだ……。
「委員長、暗過ぎだよー」
「もーしつこいよー」
隣の女子たちが冷やかし気味にいっているので、「なんなの?」と聞いてみると、
「委員長ね、沙織とケンカ中なんだってさー」
「え」
そういえば、川本沙織、今日来ていない。
委員長が卒業旅行で告白してOKもらって、それからずっと付き合ってると聞いていたけれど……
「沙織、短大出たけどまだ就職決まってなくてねー。それで色々あったみたいよ」
「委員長は一浪したからようやく大学2年だしねえ……」
変わった、変わっていないという話はそこら辺からきてたのか……。
「あの二人、もう2年も付き合ってるんだよね。長いよねー」
「だよねー。私、最長1年だよ」
「えらーい。私、5か月~」
「私今、ようやく3ヶ月ー」
きゃっきゃっと話している女の子たち……。
え、みんな、そんなもんなのか?
「私、2年2ヶ月!!」
「うそ! すごーい! ながーい!!」
「でしょー?」
2年2ヶ月の女子が、長く続く秘訣を自慢げに話している中……
「おれ達、3年4ヶ月だよね」
ボソボソとおれだけに聞こえるように浩介が言ってくる。
「長く続く秘訣はなんだろうね? やっぱり愛情の深さと、あとは……」
「あとは?」
「体の相性………痛っ」
掘りごたつの下の足を思いきり蹴ると、浩介が悲鳴をあげた。
「ひどーい。本当のこと言ってるだけなのにー」
「うるせえよっ」
さっきのこと思い出すだろっ!これ以上顔赤くなったらどうしてくれる!
「いいなあ、お前らはあいかわらずで……」
委員長がブツブツいっている。
余計なことと思いながらも思わず言う。
「何があったか知んねえけど、仲直りすればいいじゃねえかよ。お前らだって根っこのとこは変わってねえんだろ?」
「簡単に言うな」
顔も上げず、二次会の名簿をチェックしている委員長。
「思いは言葉にしないと伝わらないよ?」
真面目な顔をして浩介が言うと、委員長は小さく、
「わかってるよ」
と、つぶやいて、「カラオケの予約の電話してくる」とうつむいたまま出て行ってしまった。
就職、となると色々あるんだろうな……。
「慶……」
「ん」
こっそり、テーブルの下で小指と小指をふれさせる。
二人でぼんやりとまわりを見渡す。変わった奴、変わってない奴、変わったこと、変わってないこと、色々あるけれど……
「でも、おれたちは変わらない」
「うん」
約束しよう。5年後も10年後も、おれ達はずっとずっと変わらない。
追記。
カラオケの予約の電話してくる、と言って出ていった委員長、ちゃっかり川本沙織のうちにも電話をかけたらしい。川本は二次会のカラオケから合流して、なんだかんだでその後、二人は仲直りしたそうだ。めでたしめでたし。
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以上、21歳になる年の同窓会のお話でした。
「ずっと変わらない」と自信たっぷりに言ってますが、10年後は二人、離れ離れの最中ですな~。残念。
上記の二人、まだ20歳なので初々しい感じですね。
浩介に潤滑ジェルの売り場を教えてくれたのは、今回コンドームをくれた西崎君です。ラブホテルの場所教えてくれたのも彼です。浩介の下ネタの師匠です。もちろん西崎君は浩介の相手は女の子だと思ってます。
まあ、彼とは大学時代だけの付き合いで、今は全く連絡とってませんけどね……。
あー学生時代の2年ってどうしてこんなに懐かしいとか長いとか思うんですかねー。
今なんて2年なんて、気分的には先月とかとたいして変わらん…。
だからかなあ。学生の頃って、交際のサイクル早いですよね~。
でも委員長と川本さんは途中別れたりもしますが、最終的には結婚します。
今回、ただトイレでエッチする話を書きたくて書きはじめたはずなのに、そんな余計な話も色々書きたくなって長~くなってしまいました。失礼しましたー。
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