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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係22

2018年11月30日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】

 松浦暁生を殴ったことにより、自宅謹慎処分となった。

 ……ということになっているけれど、正確に言うと、「昨日の今日で学校に出てくると騒ぎになるから」と、担任の国本先生から欠席することを勧められて、金曜日と土曜日を休むことにしただけだ。処分ではないから、内申書には書かれないので安心して、と言われた。

「村上君が暴力をふるうなんてよほどのことがあったのよね?」

 先生にだけは本当のこと話して? なんて、目をウルウルした国本先生にも聞かれたけれど、本当のことなんて言うつもりはない。

「松浦君は『言葉の行き違い』って言ってるけど、そうなの?」
「…………」

 言葉の行き違い、か。じゃあ、そういうことにしておけばいい。

 あの時、保健室に移動する前に、松浦はさりげなくオレの横に身を寄せて、オレにだけ聞こえるように低く言い放ったのだ。

『余計なこと言うなよ? まあ、言ったとしても、オレの言うこととお前の言うこと、みんながどっちを信用するかなんて、分かり切ってることだけどな?』

 松浦の言うことはもっともだ。でも、そんなこと言われなくても、本当のことなんて言うつもりはなかった。そんなことをしたら、村上哲成が傷つくだけだ。


**


 週が明けた月曜日……
 案の定、オレが入るなり、教室の中は、一瞬、シンッと静まり返り、それからコソコソコソっとあちこちで内緒話がはじまった。……けれども。

「おー! キョーゴ! 良かったー。謹慎とけたんだ?」

 そんな嫌な雰囲気をものともせず、ぴょんぴょん跳ねながら村上哲成がこちらにやってきた。松浦を殴った後は、先生と親がいて何も話せなかったので、話すのも少し久しぶりだ。

「休んでた間のノート、貸してやろーか? 数学けっこう進んだぞ?」
「…………ありがとう」

 眼鏡の奥のクルクルした目が、なんの惑いもなく見てくれることが嬉しい。

「享吾君、これ、金曜日の学級委員会で配られたプリント」
「……西本」

 同じく眼鏡の西本ななえ。こちらの眼鏡の奥の鋭い瞳も、いつもと変わらず真っ直ぐに向いてくれていることが有り難い。……と、思ったら、

「で? 松浦君との喧嘩の原因は、テツ君を巡っての三角関係のもつれってことでいいんだよね?」
「は?!」

 いきなりのわりと核心をついた言葉に、思いっきり叫んでしまった。三角関係というのは語弊があるけれど、村上哲成を巡って、というのは本当のことで……

「えっそうだったんだ?!」
「何それっマジの話?!」

 まわりでオレのことを遠巻きにみていたクラスメートから、ドッと笑い声があがった。

「うわー知らなかったー」
「でも享吾に勝ち目はないかなーテツと松浦は小学校からの仲だもんなー」
「いやいや、同じクラスっていう利点は大きいかも」

 一気に嫌な雰囲気が笑いに変わってくれて、ホッとする。

「で? 本当のところは?」
「……………」

 西本に聞かれ、肩をすくめてみせる。

「ノーコメント」
「えー」

 ムッとしている西本を置いて自分の席にいく。当たらずといえども遠からず、なんて言えるわけがない。

「なー、キョーゴ」
「……………」

 原因の張本人の村上哲成がオレの机の前に座りこんで、机の上にアゴをのせてきた。

「お前、何で暁生のこと殴ったんだよ? 暁生に何言われたんだ?」

 ……………直球だな。

「暁生に聞いても、ハッキリしたことは教えてくれなくて」
「…………そうか」

 ハッキリしたことは教えてくれない、ということは、漠然としたことは言ったということだろう。

「松浦は何て言ってた?」
「んー……」

 何かの置物みたいに、村上の頭が机の上でユラユラゆれるのが面白い。思わず、人差し指でこめかみのあたりをつついてやると、村上がニヘラッと笑った。

(ああ……いいな)

 胸の奥の方が温かくなる。やっぱり、村上の笑顔はいい。……と思っていたのに、村上はふっと眉を曇らせた。

「なんかな……暁生が、キョーゴは嘘つきだから仲良くするなっていうんだよ」
「…………」
「でもオレ、お前に嘘つかれたことないし、仲良くしない意味わかんねえし」

 眼鏡の奥の瞳がクルクルしている。

「だから、暁生の前ではあんま仲良くできないけど、他では今まで通りにしたくて……」
「……………」

 松浦の頼みは何でも聞きたい、と言っていた村上の最大の譲歩なんだろう。

(やっぱり村上の一番は松浦なんだな……)

 オレが松浦を殴った時に、真っ先に松浦に駆け寄った村上の横顔を思い出して、胸が痛くなる。あんな奴でも、村上は松浦の方が大切なのだ。オレは余計なことをしただけで……

「オレ、暁生ともキョーゴとも仲良くしたくて、だから、その……」
「村上」

 なおも言い募ろうとした村上の顔の前に手をかざし、止める。

 別に、村上を困らせるつもりはない。

「別に今までと変わらないだろ」
「え?」

 きょとんとこちらを見返した村上に肩をすくめてみせる。

「元々、オレと村上は仲が良いわけでもないし。今までと変わらない」
「えー……」

 途端に、村上は分かりやすくショボンとうつむいた。

「オレは結構仲良しのつもりだったんだけど……」
「…………」

 きゅっと胸が締め付けられる。
 オレだって結構仲良しのつもりだった。特に、村上の前でピアノを弾く時間は、自分自身に戻れる大切な時間で……。でも、オレにとって大切でも、村上にとっては松浦との時間の方が大切で……

 だから。だから……

「オレは、仲良しのつもりはない」

 きっぱりと言い切ってやる。と、

「……そっか」

 村上は小さく言って、少し笑った。その笑顔は切ないほど寂しそうで……

(………村上)

 抱きしめたくなったけれど、そんなことはしない。



------

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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係21

2018年11月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【哲成視点】

 村上享吾が松浦暁生を殴った件は、あっという間に学校中に知れ渡った。
 タイミング悪く、殴った瞬間を学年主任の先生に見られてしまったことと、お喋り女子二人がたまたまその場を通りかかったことは、もう運が悪かったとしか言いようがない。


「三角関係のもつれってやつ?」
「は?」

 翌日の昼休み、西本ななえに大真面目な顔で問われて、意味が分からず「は?」としか言えないでいると、

「テツ君のことを、享吾君と松浦君で取り合ったんでしょ?」
「……………。誰がそんなこと言ってんだ?」
「一部の女子」
「…………」

 意味が分からない……。と思っていたら、西本はちょっと笑って、

「まあ、冗談はさておき」

といって、また真面目な顔に戻った。

「享吾君、まずいね。渋谷君を怪我させた件に引き続きだから、ちょっと……」
「だからそれはわざとじゃないって」
「わざとじゃないにしても、関係してることは確かでしょ」
「………」

 ピシャリと言われて黙ってしまう。そうだけど……

「それに、今回の件、松浦君は『享吾は悪くない。ちょっとした言葉の行き違いだ』って言ってるじゃない?」
「うん………」
「それで余計に、松浦君の評判が上がって、享吾君の評判が下がってるのよね」
「…………」

 二人は具体的に何を言い争っていたのかは教えてくれないので、どちらが悪いのかは結局、誰にも分からない。でも、理由はどうあれ、暴力をふるったのは村上享吾だけなので、村上享吾の方が分が悪い。

「で?」
「え?」

 メガネの奥の鋭い目で見られて、ドキリとする。心の中をのぞきこむような光で、西本がこちらをのぞき込んできた。

「テツ君はさ」
「………うん」
「どっちの味方なの?」
「え」

 どっちの、味方?

「やっぱり、昔からの親友の松浦君? それとも、最近やたら仲の良い享吾君?」
「…………。そんなの……」

 そんなの………決められない。オレは、どっちの味方もしたい。それじゃダメなんだろうか。





【暁生視点】


 村上享吾という男が嫌いだ。
 享吾に関わると、せっかく作り上げてきた完璧な『松浦暁生』にヒビが入っていく。『松浦暁生』は完璧でなくてはいけないのに。いつでも、何に対しても、完璧でいなくてはならないのに。


**


 学級委員会が始まる前に、渋谷慶に笑いながら問いかけられた。

「松浦ー、お前昨日、享吾に殴られたんだってー?」

 あいかわらずのキラキラを振り撒きながら、渋谷が不思議そうに言う。

「なんで殴り返さなかったんだよ?」
「……普通、殴り返さないだろ」
「普通、殴り返すだろ!」

 シュッと拳骨を繰り出す仕草をした渋谷。渋谷は女みたいに小柄で綺麗な顔をしているくせに、昔から喧嘩っぱやくて、いまだにしょっちゅう殴り合いの喧嘩をしている。

「松浦が殴り返してれば、喧嘩両成敗だったのにさ。享吾だけ自宅謹慎になっちゃって、可哀想に享吾」
「なんだよそれ。オレ、被害者だからな?」

 渋谷の妙な言いがかりに、笑いながら肩をすくめてみせる。でも、

「でも、享吾だけ悪い、みたいになるのはオレも本意ではないんだけどな」

 なんて、思ってもないことを言ってやる。そういうとみんなが「さすが松浦は優しいな」とか言うからだ。

 と、思ったけれど……

「そうだよな」
「え」

 渋谷はあっさりと首を縦に振った。

「享吾が殴るってことは、松浦がよっぽどのこと言ったんだろ? それなのに享吾だけ自宅謹慎じゃ、松浦も寝覚めが悪いよな?」
「……………」

 渋谷……

 グツグツグツと腸が煮えた気がした。他の奴がいうならともかく、渋谷が享吾をかばうようなことを言うなんて……


 渋谷とは小学校3年生で同じクラスになったのをキッカケに友人になった。

 渋谷もオレと同じく、周囲からの期待を背負っている奴だ。頭が良くて、スポーツができて、容姿がよくて、リーダーシップも取れて。お互い、委員長職、応援団長、リレーの選手等々、ありとあらゆる「代表」と言われるものをやらされてきた。出来て当然、と言われ続けてきた。そのプレッシャーを理解し合えるのは、渋谷だけだと思う。

 それに、オレは少年野球、渋谷はミニバスで、市選抜に選ばれるほどの実力を持っていたため、中学でも野球部とバスケ部で一年生の頃からレギュラーの座を勝ち取ってきた。その苦労も渋谷とは分かち合える。その苦労を乗り越えてお互い頑張ってきた。

 それなのに、渋谷は最後の大会を、村上享吾のせいで途中から出られなくなってしまったのだ。

「……渋谷は、享吾のこと、許してるのか?」
「え?」

 思わず出てしまった言葉に、渋谷は「何が?」と首をかしげた。あいかわらずの可愛さに、余計にイライラしてくる。

「何がって、足のことだよ。享吾のせいで……」
「享吾のせいじゃねえよ」

 渋谷は盛大に眉を寄せると、バンバンバンッとオレの腕を叩いてきた。

「あれは事故。どっちのせいとかねえ」
「でも、そのせいでお前、バスケできなくなっただろ。お前だったら、あのあと大会で活躍して、バスケで特別推薦の話だって……」
「あはははは。ないない」

 再びバシバシ腕を叩いてくる渋谷。

「そもそもオレ、高校でバスケやる気ないし」
「は?!」

 何を言ってる?!

「それってやっぱり怪我のせい……っ」
「じゃない、じゃない」

 渋谷は苦笑すると、軽く手を振った。

「元々、バスケは中学までって思ってたんだって。これ以上バスケ嫌いになりたくないからさ」
「…………なんだよそれ」

 これ以上ってことは、今、嫌いなのか? でも……

「でも、親は何て言ってる? 小学校の頃からミニバスやらせてたってことは、続けて欲しいって思ってるんじゃ……」
「え? 親は関係ねえじゃん。勝手にしろって言われるだけだよ」

 ケロリと言われて愕然としてしまう。
 なんだよそれ……なんだよ……。

 うちは、野球を続けさせたい父親と、進学校に行かせたい母親の喧嘩が、いまだに続いてるのに。オレがどうしたいかなんて、二人は聞いてもくれないのに……

 渋谷………ズルいじゃないかよ、そんなの。
 理解者だと、ずっと思ってきたのに………


(………………テツ)

 思わず声に出そうになり、飲み込む。

 こういうとき、テツに……村上哲成に会いたくてしょうがなくなる。

 あのクルクルした目でオレを見上げて、

『暁生はすごいな!』

と、純粋な賛美を送ってほしくなる。

 テツは昔から、オレの言うことを何でも聞いてくれて、オレのために何でもしてくれた。テツといると、オレは完璧な『松浦暁生』を演じ続けることができる。

(それなのに………)

 中3になって、テツと同じクラスになった村上享吾が、せっかくの居心地の良い二人の関係を壊したのだ。

(テツも渋谷も、享吾のせいで……)

 それに何より、享吾の『才能を隠しているところ』が気に入らない。完璧を維持しようとしていることをバカにされている気がする。

(ああ、腹が立つ……)

 テツは何であんな奴と仲良くするんだ。仲良くするなと言ったのに。言ったのに……

 その苛立ちもあって、テツに嫌な言い方をしてしまっていた。それでもテツはオレを選ぶと信じていた。信じていたのに……


 イライラしたまま、委員会の時間を過ごし、終わって早々、教室を出ようとした、その時。

「……暁生」

 廊下から、小さく声をかけられた。

「……一緒に帰ろ?」
「テツ……」

 眼鏡の奥のクルクルした瞳を見て……なぜか心底ホッとした。



------

お読みくださりありがとうございました!

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BL小説・風のゆくえには~初詣の願い事

2018年11月23日 07時28分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
連載分、書き終わりそうもないため、潔く諦めて💦
「風のゆくえには」シリーズ本編主人公・渋谷慶(小児科医師)と桜井浩介(フリースクール教師)の高校同級生カップルの現在の小話を一つお送りいたします。


『風のゆくえには~初詣の願い事』


【浩介視点】

 生徒達から時々聞く『合唱コンクール』という行事が、どういう雰囲気のどういうものなのか、イマイチ想像ができない。
 と、いうのは、おれの通っていた私立男子中学では『合唱コン』という行事は存在せず(もし存在していたとしても、オレは中学時代、不登校児だったので、参加できなかっただろうけど)、高校でもそんな行事は無かったからだ。


「慶の中学では『合唱コン』ってあった?」
「ガッショウコン?」

 リビングのソファで、慶の髪の毛をドライヤーで乾かしてあげながら聞くと、慶は首を傾げた。

「ガッショウコン………、合唱コンクール?」
「そうそう」
「あー……」

 慶はうんうん、と肯くと、

「あったあった。でも当時は、合唱コンとは言わなかったなあ。えーと……合唱大会、だったかな」
「へえ……」

 やっぱりあったんだ。こういうことがあると、おれは色々抜け落ちているなあと思わざるをえない。中学は修学旅行も行ってないし……。ま、でも、慶と一緒にいった高校の修学旅行がすごく楽しかったから、その思い出だけで充分だけど。

「なんで急にガッショウコン?」

 慶が頭をガコンと真後ろに倒して、おれの方を見てきたのが可愛すぎて、我慢できずにチュッとオデコにキスをする。と、慶がクルリとこちらを向いた。

「学校で合唱大会でもやるのか?」
「あ、ううん。クラスの子達がね、中学の時の合唱コンがすごく大変だったって話してたから。もちろん楽しかったって言ってる子もいるんだけど、大変だった率の方が高くて」
「あー、まーなー」

 苦笑気味の慶。

「色々揉めるんだよな。曲決めも揉めるし、練習の時、男子が真面目に歌わないのを女子がキレたり……」
「あー、それ同じこと言ってる子いた」
「だろー?」

 慶は肩をすくめると、チュッと素早くキスをくれてから、また背中を向けた。

「おれも正直、大変だったって記憶しかないなあ……」
「そっか」

 ドライヤーのスイッチを入れ、髪の毛を乾かすのを再開する。
 昔から、慶の髪を乾かす作業はすごく好きだ。気持ち良さそうに身を委ねてくれる慶を見ていると、心が満たされて幸せが溢れてくる。

「おれ、歌とか好きじゃないしな」
「そうだよね……」
「高校から音楽やらなくてすむようになってどれだけ嬉しかったことか」
「芸術科目は選択制だったもんね」

 容姿端麗で、勉強も運動も何でも出来る慶だけれども、意外なことに、音楽は苦手だったらしい。

 おれ達の高校は、芸術科目は、音楽と美術と書道の3科目から選ぶことになっていた。おれと慶は書道選択だった。

「おかげでお前と同じ書道を選択してたから、同じクラスになれる率が高まって良かったけどな」
「………………うん」

 慶の言葉に小さくうなずく。慶は奇跡的に同じクラスになれたと思っているけれど、本当はバスケ部顧問の上野先生が根回ししてくれたのだ。昔は中学時代の暗い過去を知られたくなくて、そのことを隠していたけれど……

「鶴岡八幡宮で頼んだのか効いたんだよなー?」
「……うん。そうだね」

 初詣のお願いが叶ったと信じている慶が可愛すぎるので、そういうことにしておく。好意的な秘密だ。

「今度の正月、久しぶりに行くか。鶴岡八幡宮」
「あ、いいね!」

 慶の誘いに、わ!と声をあげてしまう。

「懐かしい! 行きたい!」
「だな。行こう行こう」
「うん。帰りに海も寄ろうね? デートデート」
「だな」

 くくく、と笑った慶が愛おしすぎて、ドライヤーを止めて、ぎゅうううっと後ろから抱きしめる。

「今度は何をお願いする?」

 慶をソファの上に引き上げて、チュッとキスをする。

「そうだなあ……」
「……ん」

 チュッとキスを返され、幸せすぎて蕩けてしまいそうになる。

「考えとく」
「ん」

 キスを深いものにしながら、ソファに沈んでいく。

 おれの願いは……

『この幸せが永遠に続きますように』

 だけれども……
 そう言ったら、きっと慶は「そんなの神様にお願いしなくたって、続くに決まってるだろ」って言うだろうから、他のお願いを考えないといけない。



------

7分遅刻m(__)m💦

お読みくださりありがとうございました!
オチも何もない小話……失礼いたしましたー。

次回は火曜日更新予定です。お時間ありましたらお付き合いいただけると嬉しいです。
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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係20

2018年11月20日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】

 それは、ほとんど無意識の行動だった。

「黙れ!」

 自分の怒鳴り声がどこか遠くから聞こえてきたのと同時に、ゴッと手に衝撃が走った。その瞬間、廊下の壁にぶつかった松浦暁生の姿が視界に入ってきて……

「うわ! 暁生! 大丈夫か?!」
「………っ」

 そして、オレには見向きもせずに、松浦に駆け寄った村上哲成の姿を見て、心臓の奥の方が痛くなった。殴った手の痛みよりも、心臓が痛くて痛くて……オレはその場にしゃがみこんでしまった。


***


 松浦暁生を殴ったことには、もちろん理由がある。先生にも親にも、そして、村上哲成にも問い詰められたけれど、オレも松浦も本当のことは言わなかった。言えるわけがない。


 松浦を殴った前日……

 オレは村上哲成に頼まれて、図書室で閉室時間まで一緒に自習をした。そして、かなり遠回りをしながら帰ってきたので、村上の家に着いたのは5時を過ぎていた。

 この日の村上の行動はとにかくおかしかった。帰り道でも、陽気に歌を歌っていたかと思うと、「グリコで帰ろう!グリコ!」と言ってジャンケンをさせ、でも、オレが何回か勝って前に行きすぎると、「さみしいから置いていくなー!」と言って、追いかけてきて背中をバシバシ叩いてきて……

(……不安定、だな)

 無理にはしゃいでいる感じがする。
 変な行動を決定付けたのは、帰宅後、村上の部屋についてからだ。村上は、自分の部屋にもかかわらず、恐る恐る、といった感じに中に入っていき……、なぜかいきなり、腰が砕けたみたいに倒れそうになった。

「村上!?大丈夫か!?」

 あわてて抱きとめたけれど、顔色は真っ青で……。

「ちょっと、とにかく、横に……」
「嫌だ!」
「?!」

 ベッドに寝かせようとしたら、必死の叫び声と共にしがみつかれたので、そこで行動が止まってしまった。

(嫌って……)

 だから、いったい、なんなんだよ?

 訳も分からず、途方に暮れながら、頭を撫でてやると、村上はオレの腕の中で小さく、小さく言った。

「キョーゴ……ピアノ弾いて」
「…………」

 本当に、なんだか分からない。けれども………

「………分かった」

 そう、うなずくと、村上はギュウッと抱きついた腕に力を込めてきた。同じ強さで胸の奥の方がギュウッと温かくなる。だから、ギュウッと抱きしめ返してやった。



 オレがピアノを弾く間、村上はいつもは壁に寄りかかって座っていることが多いのに、この日はやはり様子が違い、「ここ座ってていいか?」と、オレの隣に座ってきた。だから、なるべく左腕の動きが少ない曲を選んで、弾いてやる。と、

「暁生はさ、オレのヒーローなんだよ」
「…………」

 ポツポツ、と村上が話し出した。
 幼稚園の頃から、小さくて揶揄われやすかった村上は、松浦暁生にいつも助けてもらっていたそうだ。母親が亡くなった時も慰めてくれて、中学で野球部に入ってからも、優しくフォローしてくれて、大会最後の打席も譲ってくれて……

「だから、暁生の頼みは何でも聞きたかったけど……」
「…………」
「でも、無理って思って……」
「…………」
「でも、叶えるべきなのかな。オレが我慢すればいい話だもんな……」
「………?」

 なんの話だ? と聞きたいけれども、村上は独り言を言っているだけで、答えを求めている様子はないので、黙ってピアノを弾き続ける。

「そうすれば、前の暁生に戻ってくれるかな……」
「…………」

 左側から温もりが伝わってくる。でも、その近さの分だけ、心の遠さを感じて、心臓のあたりがチリチリと痛くなる。

 こんなに近くにいるのに、村上の中にオレはいない……


***

 
 翌日、村上哲成は学校にこなかった。
 村上もオレと前後ろの順番で今日が三者面談なのに、どうするんだろう?と思っていたら、担任の国本先生から「面談の時間だけ来るって連絡があった」と聞かされ、ホッとした。学校に来られる元気はあるということだ。
 
 オレは一度帰るのも面倒なので、昇降口近くの廊下のベンチに座って、母親が来るまで時間を潰すことにした。

 帰宅の波が一段落して、運動部のかけ声と吹奏楽部の楽器の音が遠くの方から聞こえるだけの、静かな空間となった中で、

「よお」
「!」

 ドンッと大きな音を立てて隣に座られた。松浦暁生だ。

「面談?」
「………うん」
「オレも」
「そっか」
「……………」
「……………」

 気まずい雰囲気が流れる……。と、松浦が何でもないことのように言った。

「テツ、何で今日休んでんの?」
「………………。さあ?」

 松浦のせいじゃないのか? という言葉を飲み込んで「知らない」と答えると、松浦はあの、嫌な笑いを浮かべた。

「知らねえのかよ? お前ら『仲良し』なんだろ?」
「は?」

 思いきり眉を寄せてしまった。

「別に『仲良し』じゃない」
「毎日家に行ってんのに?」
「それは合唱大会の練習のためだ」
「ふーん?」
「…………」

 なんだその馬鹿にした笑い……。ムカつく。

「………………。仲良しなのは、松浦だろ? 親友、なんだろ?」
「あー、そうそう。シンユウ、な」
「…………」

 夏休みに話した時と同じで、松浦の「シンユウ」という言い方は冷たい。なんでそんなに冷たい言い方をするのだろうか。それに、詳細は知らないが、松浦は村上が「無理」と思うことを頼んでいるらしい。嫌がることをさせるなんて「親友」って言えるのか?

 そう思ったら、するりと言葉が出てしまっていた。

「松浦にとって、親友って何なんだ?」
「は?」

 松浦は思いきり眉を寄せた。

「何って?」
「なんか……松浦のいう『親友』と村上のいう『親友』って違うから」
「………。テツが何か言ってたのか?」
「別に何も」
「…………」
「…………」

 またしても気まずい沈黙。長い長い沈黙……。吹奏楽部の音がやけに大きく聞こえる……、と、

「あーああっ」
「……っ」

 いきなり松浦が叫んで立ち上がったので、ビクッとしてしまった。でも、そんなオレには構わず、松浦は、大きく伸びをして、それから、ふううううっと大きく息を吐きだして……くるり、とこちらをむいた。

「!」
 今までみたことのないような、卑屈な笑顔に、息を飲んでしまう。別人みたいだ……

「オレにとっての『シンユウ』はさ」
「…………」

 にやりとした松浦。 

「雑用引き受けてくれる便利屋?」
「………っ」

 何……っ

「しかも、テツはチビで運動できなくて、オレのちょうどいい引き立て役なんだよ」

 引き立て役……?

「庇ってやるとオレの株が上がるしな」
「株って……」

 そんな……っ

 昨晩の村上の言葉を思い出す。

『暁生はさ、オレのヒーローなんだよ』

 ヒーローだって……ヒーローだって村上は言ってたのに……

「でも、大事な試合で、打席を変わってくれたって……」

 思わず言ってしまうと、松浦は「アハハハハハ」とわざとらしい笑い声をあげた。

「あれは押しつけただけだし」
「え……」

 なにを……

「相手ピッチャー、市選抜のエースピッチャーでさ。しかもあの日メチャメチャ調子よくて、第二打席にヒット出たのが奇跡なくらいで」

 松浦は両手を挙げて「降参」のポーズとした。

「第一打席は三振だったから、これで勝負はタイ。次、打てなかったら対戦成績負けになるだろ?」
「…………」
「しかも最後のバッターになるのも嫌だったしな。だからテツに押し付けたんだよ」
「…………」
「なのに、テツも監督もみんなも『美談』みたいに話してて、マジで笑える」
「松浦………」

 この話を誇らしげにしていた村上の顔がちらついて胸が痛くなる。

「あーああ、テツはオレの一番の『シンユウ』なのに、最近おかしいんだよなあ」

 松浦はわざとらしくため息をついた。

「オレに意見しやがって……今までどんだけ世話してやったと思ってんだよ……って、まあオレも世話になってるけどさ」

 軽く笑ってから、スッとこちらに目を向けた松浦。冷たい、目……

「お前の影響か?」
「………………え」

 オレの影響?

「なんでオレの……」
「そもそも、オレはテツに享吾と仲良くするなって言ったんだよ。なのに、あいつそれも守らなかった。生意気すぎる」
「……………」

 松浦……いつもの松浦とはまるで別人だ。

「松浦……」
「あ、あれテツだな」
「え」

 言われて外をみると、遠くの方に、村上らしき人影がこちらに歩いてきているのが見える。

「テツがオレのいうこと聞かないなら、もう『シンユウ』やる意味ないんだよなあ」
「え………」

 松浦は村上から目を離さず、独り言のように言葉を継いだ。

「もう。やめるか。面倒くせえし」
「何を………」
「あーでも、そうすると、家借りられなくなるか。それは困るなあ。毎回ラブホテルじゃ、小遣いいくらあっても足んねえし」
「ラ………!?」

 何を言ってる………、といいかけて、昨日の村上の様子を思い出した。自分の部屋で倒れそうになった村上。ベッドに寝ようとしなかったのは、そういうことか……?

『でも、無理って思って……でも、叶えるべきなのかな。オレが我慢すればいい話だもんな……』

 苦しそうに言っていた村上。そんな……そんなの……

「やっぱり、シンユウ続行だなー。まだまだオレの役に立ってもらわないと」
「…………松浦」

 どうしようもない怒りが込み上げてくる。何がシンユウ………何が、シンユウ、だ。それなのに、村上は松浦のことを本当に慕っていて、オレと一緒にいたって松浦のことで頭がいっぱいで………こんな奴なのに。こんな奴なのに……

「おーい、テツー」

 ニヤニヤしながら、松浦が昇降口の入口についた村上に向かって手を振っている。 

「明日また家借りたいんだけどー」
「……………っ」

 松浦……っ

「いいよなー?」
「松浦………っ」

 村上は、『無理』って言ってた。言ってたんだよ!

「なあ、テツ……」
「黙れ!」

 気が付いたら松浦のことを殴っていた。人を殴るなんて生まれて初めてだ。


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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係19

2018年11月16日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 合唱大会の翌日、村上哲成は遅刻ギリギリに飛び込んできた。いつもはわりと余裕をもってくるのに珍しい。顔色も悪いし元気もないし、具合が悪いんだろうか……

 ちょっと心配になったものの、休み時間は移動教室が多くて接することもできず、帰りはホームルーム終了後、村上はすごい勢いで出て行ってしまったため、何も話せなかった。でも、学級委員の仕事を終わらせて、人気のなくなった昇降口にようやく到着したところ、

「……何やってんだ?」
 傘立ての上に、村上がボーっと座っているので、驚いて声をかけた。

「帰ったんじゃなかったのか?」
「あー……うん」
「三者面談、今日に変更になって、お父さんくるの待ってるとか?」
「あ……いや。違う」

 とん、と立ち上がった村上。

「キョーゴのこと、待ってた」
「オレ?」

 なんだ?

「何か用か?」
「用っていうか……」

 んー、と村上は言いにくそうに唸ってから、

「5時過ぎまで家帰れないから、それまで付き合ってほしいなーって思って」
「家に帰れない?」

 どういうことだ? 首をかしげたオレに構わず、村上は急いたように「それから」と言葉を継いだ。

「それからうちにきて、ピアノ弾いてほしいなーって思って」
「……………」

 ピアノはもう一切弾かない、と昨日言ったばかりなのに………

「ダメか?」
「………………」

 そんな捨てられた子犬みたいな目で見上げられたら、NOと言えるわけがない。

「……………分かった」
 うなずくと、村上はフニャッと顔を崩して「サンキュー」と言った。

(………………。違う)

 いつもの「サンキュー」じゃない。オレの欲しい「サンキュー」は、いつもの能天気なニカッとした笑顔で………

「村上」
 ポン、と頭に手を置いてやる。

「何か、あったのか?」
「………………」
「………………」
「………………」

 村上はしばしの沈黙の後、

「何も……ない」
 そう言って首を振った。そうされたらもう、聞くことはできない。

(たぶん……松浦暁生と何かあったんだろうな……)

 前に様子がおかしくなった時も、松浦が関係しているようだった。あの時とおなじ顔をしている。

 でも、結局、オレにしてやれることは、あの時と同じ。ピアノを弾くことだけだ。




【哲成視点】

 合唱大会の翌朝、暁生はいつもの待ち合わせ場所にこなかった。ギリギリまで待ったけど、こなかった。でも、帰りは、いつものように暁生の教室の前で待っていたら、「テツ!」と、笑って手を振りながら教室から出てきてくれたので、

(昨日の帰りに怒った風になったの、もう大丈夫なんだな? 朝も何か用事があったってことかな?)

 なんて、ホッとした。のも束の間……。オレの目の前までくると、スッと暁生の笑みが消えた。そして、

「今日、5時まで帰って来るなよ?」
「!」

 低く、脅すような言い方。ゾッと背筋が凍った。今までこんな言い方されたことない……

 でも、暁生は、一歩後ろに下がると、また、ニコッとして、

「悪い、オレ急ぐから。じゃあな」
「………っ」

 周りからは、いつもの暁生とオレのやり取りに見えたかもしれないけど……

(全然、違う)

 あれは、誰だ? あんなの、暁生じゃない。

(怖い………)

 ありとあらゆるマイナスの感情が押し寄せてくる。耐えられなくて、胸を手で押す。

 怖い………怖い。怖い…………

 助けて。

 助けて。

 助けて。

「……………享吾」

 ふっと言葉が口に上がって、自分でも驚いて、息をのむ。

(キョーゴ?)

 って、何言ってるんだ、オレ?

(助けてイコール享吾? ………えーと? あ、そうか。分かった)

 そういえば、この数ヶ月、何度も助けてもらったんだった。だから、思わず名前が出たんだろう。

(ピアノ………聴きたいしな)

 村上享吾の下駄箱を見てみたら、靴が入っていた。まだ校内にいるようだ。

「待つか……」

 それで、ピアノ聴かせてって言おう。きっと村上享吾は弾いてくれる。あいつはそういう奴だ。


***


 4時半まで、村上享吾と一緒に図書室で自習をして、それから、二人で遠回りをしながらのんびり下校したので、うちの前に着いた時には、5時を5分過ぎていた。電気は消えているので、暁生はもう帰ったらしい。ホッとした。

(暁生……約束守ってくれたかな……)

 オレは今朝うちを出る時に、一つ細工をしてきた。「使うのはリビングだけ」という約束を、暁生が本当に守ってくれたかどうか、確認したかったのだ。

(これで、約束破ってたら………)

 もう、家は貸さない。

 …………って言うつもりだったけれど、今の怖い暁生に、言えるだろうか。今日の暁生は本当に怖かった。昨日よりもさらに怖かった。まるで別人だった。あの冷たい目……あんな暁生は暁生じゃない。オレの知っている暁生は、優しくて、おおらかで、いつでも守ってくれるヒーローで……

(…………。大丈夫だよな? 約束破ってないよな……)

 杞憂に終わってくれ、と、心の底から願う。自分一人で確認する勇気がなくて、理由も言わず、村上享吾に付き合わせて、自分の部屋に入ったのだけれども………

「村上!?大丈夫か!?」
 倒れそうになったところを、あわてて支えられてしまった。

(……………暁生)

 身体中の力が抜けていく。

 綺麗にベッドメイクされている……と見えるけれど、オレの付けた小さな印はズレている。と、いうことは、このベッドは使われた、ということだ。 





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お読みくださりありがとうございました!

テツはリビングは使っていいって言ってるんだから、リビングでヤれば良かったのにって思うところですが。リビングには、テツのお母さんの仏壇と写真があるので、さすがの暁生さんも、そこで変なことはできなかったんです。

続きは火曜日に。お時間ありましたらお付き合いいただけると嬉しいです。
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