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BL小説・風のゆくえには〜親切な人(前編)

2022年11月29日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切
【慶視点】

 ここ数週間、浩介の様子がおかしい。
 外に出たがらない。近所の買い物は避け、遠くに行こうとする。しかも夜に出かけようとする。

 前に理由を聞いた時には「なんとなく…」と返され、その時は深く考えもせず、それ以上のツッコミはしなかったけれど、今日は、普段は歩きで行っているスポーツジムに「車で行く」と言いだしたので、さすがに見逃せなくなった。

「お前、本当は何かあるだろ?」
「…………うーん」

 聞いてみると、浩介は困ったように、こめかみのあたりに手をやった。

「ちょっと……頭痛いというか……」
「は?」

 頭痛い?

「それならジム行ってる場合じゃないだろ」
「あー……、て、わ、慶っ」

 力ずくでソファーに座らせ、おでこに手を当ててやる。

「……熱はないな」
「…………うん」

 コクリとうなずいた浩介。顔色も悪くはない。

「どんな風に痛い?」
「あの……」

 浩介は何かいいかけて……それから、「ごめんなさい」と謝ってきた。

「お医者さんに紛らわしいこと言っちゃダメだよね」
「紛らわしい?」
「うん……痛いっていうのは、比喩表現的に痛いっていうか……」
「…………」
「だから、大丈夫。ごめんね」
「…………」

 ……こいつ、適当なこと言って誤魔化す気だ。そうはさせない。

 ばんっとソファーの背もたれに手を付き、真正面から見据える。

「じゃあ、答えろ。何があった」
「………」
「………」

 無言で見つめていたら、浩介が軽く両手を上げた。降参、のポーズだ。

 よし、と思って、隣に座った。が、

「やっぱり言いたくないかも……」

 なおも言い淀む浩介。

「なんでだよ?」
「言っても解決しないというか……慶が不快な思いするだけというか……」
「は?」

 なんだそれは。

「いいから言え。余計気になるだろ」
「うーん……、やめてやめて!くすぐったい!」

 脇腹を掴んでやったら、浩介はすぐにまた降参のポーズをした。

「分かった。話すけど……気にしないでね?」
「…………」

 そんなのは聞いてからじゃねえと分かんねー、と思ったけれど、ああ、とだけうなずくと、浩介はようやく話しだした。

 ここ数週間の、困った話を。


 今おれたちが住んでいるマンションの部屋は、浩介の友人のあかねさんの持ち家で、浩介があかねさんと賃貸契約を結んで、格安で借りている。(一部屋はあかねさんの荷物部屋になっているので、その差引分ということもあるらしい)

 町会(おれの地元では「自治会」とか「町内会」という名称だったけれど、このあたりでは「町会」というらしい)にも、浩介だけが入っている。あかねさんが入っていた関係で、入れ替わりで入ることになったらしい。おれと浩介は世帯が違うので、本来はおれも別で入会すべきなのだろうけれど、なんとなくそのままになっている。
 
(ちなみに、マンションの管理組合は賃貸のおれたちには関係ない。あかねさんは、おれたちに貸す2年前に理事をやったそうなので、理事もしばらくは回ってこないらしい)

 全国的には年々加入率が低下している自治会・町内会だけれども、ここの町会はそれなりの加入率を誇っているそうで、活動も活発。コロナ禍でもできる限りのイベント等を開催している。

 浩介は今年度は班長をしているため、回覧板を回す以外にも時々仕事を振られている。数週間前の11月3日も祭りがあって出かけていたけれど……

「11月3日のお祭りの受付をね、担当だったおばあさんが、やりたくないっていうから代わりにやったんだけど……」
「ああ、そういやそんなこと言ってたな」

 あの日は帰ってきてから妙に元気がなくて、「ものすごく疲れたから出かけたくない」というので、結局、出前を取ったんだった。

(記念日なのに珍しく出かけなかったんだよな……)

 それで妙に甘えてくるので、今年の「愛してると言う」ミッションは、その流れでわりとすんなりできたのだった。(浩介は色々な記念日を作っている。11月3日は「愛してる記念日」だそうで、毎年「愛してる」とシラフで言う約束なのだ…)

「実はね……それでおれ、役員の男の人にものすごく怒られちゃって」
「?怒られた?なんでだ?」

 代わってあげたのに?

 首をかしげると、浩介はコクコクとうなずいた。

「そうやって代わってあげたら、外に出てこなくなるだろうって。フレイル予防には、外との繋がりが大切なのにって」
「あー……」
「やるなら、全部代わるんじゃなくて、本人も来るようにして、その上で手伝うべきだって。出来ることを奪うなって」
「あー……なるほどなあ……」

 それは確かに。フレイル(虚弱)にならないためには、栄養・運動・社会参加が大切、と言われている。フレイル予防には医師会も取り組んでいて、健康長寿を……って、フレイル予防はひとまず置いておいて。

「で?その話が、お前が出かけないこととどう繋がるんだ?」
「うん………」

 浩介は大きくため息をつくと、言いにくそうに言葉を継いだ。

「あの……ご本人はそのつもりないんだろうけど、その人、高圧的に怒鳴る人で……」
「…………」

 怖い、ということか。
 浩介は昔から高圧的な男性が極端に苦手だ。おそらく子ども時代の記憶のせいもあるのだろうが……

「……なるほどな。その人に会いたくないから、近所を歩きたくないってことか」
「うん………」

 膝に置かれていた手を両手で包み込む。

(それじゃあ、しょうがねえな……)

 大丈夫。大丈夫。と念が伝わるように、包み込む。

「分かった。まあ……確かにお前が嫌な思いをしてるってことに『不快』にはなるけど、気にしないようにはできるぞ?」

 さっきの浩介のセリフを思い出し、振り仰いで言うと、

「あー……あの……」

 浩介は困ったように眉を寄せて、手を握り返してきた。

「この話、続きがあって……」

 さらに大きくため息をついて浩介が話しだしたことは、確かにおれがものすごーく『不快』で『気になる』話、だった。


後編に続く



---

お読みくださりありがとうございました!
気がついたら8000字越してしまっていたので、分けることにしました💦
いつもながらの「日常」のお話で。友達の友達の友達の話、くらいな感じでお読みいただけていると嬉しいです。

読みにきてくださった方、クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!続き……まだ何も書いていないのですが、そのうちに………


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お礼

2022年11月22日 21時48分39秒 | ご挨拶・作品紹介
こんばんは。
今日がいい夫婦の日だということを今朝同僚に言われて気がついた私……。

帰宅後、書きたい!って思って、今、gooブログにログインしたところ、どなたかが今、「片恋」を読んでくださっていることに気が付きました。
わーん😢更新止まっている中、過去のお話を読んでくださってありがとうございます!

私は先日、嘘の嘘の嘘と閉じた翼を数日かけ一気読みしました。自分で書いたものでハラハラしている私、めっちゃ安上がり。地産地消。

ええと、数日前から、慶と浩介の書きかけているお話がありまして。
亀の速度なので何日かかるかわかりませんがそのうちあがります。いつもの日常話ですが💦
どうぞよろしくお願いいたします。

(あまりにも更新なさすぎて、「この人ブログやめちゃったのかな?」と思われてるかも!?と思い慌てて更新💦)


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