結局、薫は家を出た。店に寝泊まりしているらしい。でも、休みの度に遊びにきている。本人曰く「このくらいの距離がちょうどいい」のだそうだ。
「で、いつが予定日だって?」
コーヒーをすする薫に問われ、母子手帳をめくってみせる。
「四月二十九日」
「ふーん。性別は?」
「まだ分からないわよ」
自分にはカフェインレスのインスタントコーヒーを入れる。姑からのプレゼントだ。
「ねえ兄さん、今度が男の子だったとしたら、次は女の子が欲しいとか思ってる?」
「そうだなあ……」
ソファで新聞を読みながら、薫の問いに肯く優吾さん。
「女の子もいいだろうなあ……」
「そしたらさ! オレ協力するよ!」
「協力?」
私と優吾さんが声を揃えて問い返すと、薫はにやにやと言葉を続けた。
「女の子が欲しい場合、排卵日の2、3日前にSEXをすること。でもその前に、Y精子を減らすために数日前から何度か射精して精液を薄めておく必要があるんだよ」
薫はすっと優吾さんの横に腰をおろし、あらぬところに手を伸ばした。
「だーかーらー精液を薄める協力! オレに任せてよ!」
「薫! だからそういう冗談は……」
まるで猫のじゃれあいのようだ。呆れながら、でも、微笑ましくも思いながら二人の様子を眺める。
ここに子供がいたらどんな感じなんだろう。まだ膨らむ兆しもないお腹に手を当ててみる。
「元気に産まれてきてくれよ」
いつの間にか優吾さんが隣にきて、手を重ねてくれた。その上には薫の手が。
「三人分の幸せのぬくもりがこの子に伝わりますように」
薫がニッコリと笑った。
<完>
「で、いつが予定日だって?」
コーヒーをすする薫に問われ、母子手帳をめくってみせる。
「四月二十九日」
「ふーん。性別は?」
「まだ分からないわよ」
自分にはカフェインレスのインスタントコーヒーを入れる。姑からのプレゼントだ。
「ねえ兄さん、今度が男の子だったとしたら、次は女の子が欲しいとか思ってる?」
「そうだなあ……」
ソファで新聞を読みながら、薫の問いに肯く優吾さん。
「女の子もいいだろうなあ……」
「そしたらさ! オレ協力するよ!」
「協力?」
私と優吾さんが声を揃えて問い返すと、薫はにやにやと言葉を続けた。
「女の子が欲しい場合、排卵日の2、3日前にSEXをすること。でもその前に、Y精子を減らすために数日前から何度か射精して精液を薄めておく必要があるんだよ」
薫はすっと優吾さんの横に腰をおろし、あらぬところに手を伸ばした。
「だーかーらー精液を薄める協力! オレに任せてよ!」
「薫! だからそういう冗談は……」
まるで猫のじゃれあいのようだ。呆れながら、でも、微笑ましくも思いながら二人の様子を眺める。
ここに子供がいたらどんな感じなんだろう。まだ膨らむ兆しもないお腹に手を当ててみる。
「元気に産まれてきてくれよ」
いつの間にか優吾さんが隣にきて、手を重ねてくれた。その上には薫の手が。
「三人分の幸せのぬくもりがこの子に伝わりますように」
薫がニッコリと笑った。
<完>