創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶(49/50)

2007年07月31日 10時08分44秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
豆腐10丁で、長男が喋ったお祝いをした翌週から、
平日は実家、土日はマンションに帰る、というスタイルに変えた。

あと数ヶ月後には、長女が幼稚園に上がるため、
全日マンションにいることになるのだ。
少しずつ、マンションでの生活にも慣れさせなければいけない。

それに夫が「一人静かな休日を過ごすのがさすがに寂しくなってきた」と言い始めたせいもある。
シモが限界というのも大きな理由らしいが。

でも、夫は少しずつ変わり始めている。
中古物件を見てくれたり、豆腐を10丁頼んでくれたり。
まだまだ怒鳴ってしまうことも多いし、
自分勝手な行動も多いけれど、
私や子供達に寄り添おうとしてくれているのが分かる。
その気持ちに応えよう、という気になれるので、
以前ほど、夜の相手をするのが苦痛ではなくなっていた。

マンションでの生活も、
「良い物件があったら引っ越す」
という逃げ道が出来たおかげで、少し気が楽になった。

長男も以前ほど暴れなくなってきた。
そちらも良い方向に進んでいるといえる。
でもその代わり、最近、ビデオに固執してしまって、
放っておくと一日中ビデオを見ているので、
それもそれで問題だ。

言葉は本当に少しずつだが出はじめた。
念願の「ママ」も言ってくれるようになった。
でもまだ「パパ」といわないので、
夫が躍起になって「パパ」と言わそうとしている。
その姿が何だかかわいくて、いつも笑ってしまう。


掲示板に久しぶりに彼の書き込みがあった。
新婚旅行から帰ってきたらしい。
先日の披露パーティーのお礼が書かれていた。

「幸せになります」

そう結ばれていた。

・・・・・・うん。
私も幸せにならないと。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(48/50)

2007年07月30日 09時27分46秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私が道路についた時に、目に入ってきたのは・・・

長男を抱えた夫。
その横に立っている長女。
白い割烹着姿のおじさん。

・・・おじさん?

はて、と思ったら・・・
その小さなトラックはお豆腐屋さんだった。
実家に来てからは、毎回お豆腐をこのトラックから買っているので、
長男は、トラックが目に入った瞬間に、走り出してしまったのだろう。

「大丈夫?」

私が呆然としている夫に近づいて行くと、
長男は夫の腕から抜け出して、私の元にやってきた。

そして・・・

「トーフ」

と、トラックを指さしたのだ。

「・・・・・・・・・え?」

我が耳を疑った。

トーフ?

「祐介・・・今、何て・・・?」

「トーフ」

しっかりとトラックを指さした長男。
言葉らしい言葉を言ったのは生まれて初めてだった。
指さしをしたのも初めてだった。

「祐介・・・」

夫も私も驚きのあまり声も出なかった。

気がつかないうちに、両方の目から、涙が溢れでていた。
振り返ると、夫の目にも光るものがあった。

「えーーと、毎度どうもです。木綿?絹?どっちがいい?僕?」

困ったように豆腐屋のおじさんが長男に話しかけている。

「絹。絹だよね?ママ?」

長女が代わりに答えてくれた。

「何丁お必要ですか?」

泣いている私に話しかけていいものだろうか、
と躊躇しながらおじさんが聞いてきたが、
声になりそうもなかった。

すると夫が、財布を出しながら言い切った。

「10丁ください。10丁。今日は豆腐でお祝いです」
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(47/50)

2007年07月27日 08時24分29秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
翌日は、実家でのんびりすることにした。
夕方になる少し前に夫が夕飯を食べにやってきた。
実家の隣の空き地で、私の父が子供達を遊ばせてくれていることを言うと、
父と交代をしに出て行った。
普段はまったく子供の外遊びには付き合わない夫だが、
さすがに舅だけにやらせるのは気が引けるらしい。
良い傾向だ、と内心ホクホクしてしまう。

その隙に、二階に行き、パソコンを立ち上げた。
案の定、昨日の披露パーティーの様子をアップしているブログがあった。

パーティーは大盛り上がりしたらしい。
写真も数枚アップされていた。
新郎は相当飲まされたようで、すべて顔が真っ赤で写っている。
新婦も頬を赤くしている。
披露宴の時よりも、リラックスした表情をしている。
幸せそうで・・・何よりです。

やっぱり、正視はできない。
本当に平気になるには、まだ時間がかかりそうだ。


突然、窓の外から騒がしい声が聞こえてきた。
夫の大きな声が響いている。

「祐介!こっちだ!こっちに投げるんだ!」

どうやら、長男相手にボール遊びを始めたらしい。
そんな夫の姿を見るのは初めてだ。

長男は意味が分からないらしく、
ボールを取ると、投げずに夫のところまで手で持っていっている。

「そうじゃなくて、投げるんだぞ。いいか、いくぞ」

念を押したが、やっぱりまた手で持ってくる長男。

「だーかーらー!」

まるでコントだ。
微笑ましくて笑えてくる。
長女もそれを見てケタケタ笑っている。

でも短気な夫が怒り出すのは時間の問題だろう。
そろそろ助け船を出しに行こうか、と思った時だった。

「祐介!危ない!止まれ!」

いきなり、長男が道路に向かって走り出したのだ。
夫が追いつくよりも早く、長男が道路に飛び出した。

そこへ、小さなトラックが・・・!!

「祐介!」

私も慌てて階段を駈け降りて、外に飛び出した。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(46/50)

2007年07月26日 14時12分14秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼の結婚披露パーティーの日がやってきた。
「子供を預けられない」というのを理由にして、欠席した。

彼のことを吹っ切れてきた、と思いはするが、
やはり、実際に奥さんと一緒のところを見て、
正常でいられる自信はなかった。

だって!
きっとパーティーの最後には
「キース!キース!」とかコールして、
新郎新婦にチューさせたりするでしょ?やっぱり。
・・・・・・・・・・・・無理。
無理無理無理無理。


そんなわけで、とっても天気の良かったこの日、
家族で御殿場アウトレットまで買い物に行った。
もちろん、買い物なんてゆっくりできるわけもない。
子供を遊び場で遊ばせている間に、交代で買い物をするのだ。
それなりに安いものを買うこともでき、
子供達もたくさん遊べて、満足な時間を過ごすことができた。

帰りの車の中、子供達は疲れ果てたように眠ってしまった。
車中で音楽を聴きながらお喋りに花を咲かせていると、
子供が生まれる前の2人きりの時間を過ごしているような錯覚に陥る。

家の近くの野球場を通り過ぎた時に、ふいに夫が言った。

「オレさあ、男の子が生まれたら、野球を一緒にやりたいって思ってたんだよね」

夫は小学生のころから野球少年で、今でも会社の野球チームに入っている。

「オレも父親に野球習ってたからさ、同じように息子に教えてやるのが夢だった」

そういえば、子供がまだいない頃、そんなこと言っていたのを思い出した。

夫はミラー越しにチラリと長男の寝顔を見て、ポツリと言った。

「祐介って、野球できるようになるのかなあ」

「・・・・・・」

衝撃だった。
ああ、そうか、と思った。
夫は夫で、長男にたくさんの夢を託していたんだ。
それが障害という名に阻まれて・・・
いまだに受け入れられない夫。
期待が大きかっただけに、気持ちの切り替えは難しいのかもしれない。

「できるようになるよ、きっと」

無責任にそう答えた。
夫も夫で、そうだな、と肯いた。

ずっと「気持ちを分かってくれない」と嘆いていたけれど・・・
私も私で、障害を受け入れられない夫の気持ちに、
寄り添ってあげていないということに、今さら気がついた。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶(45/50)

2007年07月25日 10時08分48秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
夫とは私がものすごく傷ついている時に出会った。
夫からの熱烈なアプローチは、私の心の表面の傷を治すのに充分だった。
こんなにまで愛されて、必要とされることがあるのかと驚くほどだった。

こんなに愛してくれる人と出会うために、あの辛い別れはあったのだろう、
と自分を納得させた。
人生において無駄なことは一つもない。この傷も意味のあるものにしよう。
そう思った。

「結婚」の二文字がでたときにも、迷い無くOKした。
幸せにしてみせる、といった夫の言葉を信じた。
これだけ愛されるならきっと幸せになる、とも思った。

あれから7年以上たった現在・・・
確かに今でも夫はあの時と変わらず私のことを愛してくれている。
でも、正直言って、もう7年も経って子供もいるんだから、
もう少しトーンダウンしてくれてもいいのに・・・と思う。
贅沢な悩みなのかもしれないが。

私に対する愛情をもう少し子供達にも向けてくれればいいのに・・・。

夫が子供達に怒鳴ったりするのを聞く度、
「離婚」の二文字が頭の中をよぎることがある。

でも、それを踏みとどまらせているのは、
まず、子供達から父親を奪ってはいけない、という気持ち。
そして、離婚したら、夫が参ってしまうだろう、という心配。
そんな心配をしてしまうということは、
やはり私も私なりに夫のことを愛しているのだろう。


実家に帰って以来、夫とも上手くやっている。
平日は毎日メールをしあって、
休日は少しの間みんなで出かけたり、食事を一緒にしたりする。
一番のネックだった夜の生活を求められることがないので、
安心して夫と話をすることもできる。
マンションにいたときよりもずっと会話が増えた気がする。

かといって、このままずっと実家にいるわけにもいかない。
どうしたものかと思っていた矢先、夫がメールをしてきた。

「駅近くで中古の一軒家の売り出しがあるから見てくる」

それをみて、ものすごく驚いた。
夫は神経質なタチなので、中古物は絶対NGだったのだ。

結局、そこの中古一軒家は値段が折り合わず、話は流れたのだが、
それでも、「中古」というところまで妥協して
(「駅近く」というのは妥協できないらしい(笑))、
一軒家に引っ越したい、と言った私の気持ちに添えるよう
物件を探してくれた夫の行動がとてつもなく嬉しかった。
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