【浩介視点】
朝起きたら、何となく、ちょっと、頭が重かった。
でも、今日はせっかくのバレンタイン前の休日。せっかく朝から慶と一緒にチョコレートフェアに行く約束をしているのに、具合なんか悪くなっている場合じゃない。
(気のせい気のせい気のせい……)
頭痛は「気のせい」ということにして、先にベットから抜け出し、朝のコーヒーを落としはじめる。……と、コーヒーの匂いにつられたように、慶も起き出してきた。
「はよーーー」
慶は挨拶と一緒に伸びをしたかと思うと、その勢いで腕をブンブン振り回しはじめた。時々するその仕草を見る度に、なんだか子供みたいでカワイイなあ、と思っていることは内緒だ。
「おはよう。昨日のスープの残り食べる?」
「食べるーー」
「分かった」
肯いて、台所に戻ろうとした……のだけれども。
「浩介」
「え」
いきなり腕を掴まれた。慶の表情が、寝ぼけたポヤッとしたものから、真剣なものに変わっている。
(なに……)
ジッと覗き込まれ、ドキマギしてしまう。……と、
「お前、顔色悪いな」
「!」
げ。
鋭い指摘に、グッと詰まってしまう。さすが現役のお医者様だ。
慶の鋭い目が真っ直ぐにこちらを向いている。
「具合、悪いだろ?」
「……どこも悪くないよ」
ブンブンと首を振る。本当に、別に悪くない。ほんのちょっと頭が重いだけだ。インフルエンザだったら、もっとガツンと悪くなるから、絶対に違う。こんなの許容範囲のうちだ。
「全然、ホントに、悪くないよ」
「……口開けろ」
「え」
喉は……ほんの少しだけ違和感があるといえばある。ってことは、これ見られたら、外出中止?
「だから本当に悪くないから大丈夫だから。早くご飯……」
「口、開けろって」
ぐっと顎を押さえつけられた。
「んんん」
けど、ブンブンブンと首をふる。
嫌だ。絶対嫌だ。絶対開けない!
「浩介」
「んんんん」
口を結んだまま、首を振り続ける……と。
「!」
いきなり、背中に衝撃が走り、視界が天井になっていた。力任せにソファーの上にぶん投げられたのだ。あいかわらず、その可憐な顔も小柄な体型も無視した馬鹿力。
朝起きたら、何となく、ちょっと、頭が重かった。
でも、今日はせっかくのバレンタイン前の休日。せっかく朝から慶と一緒にチョコレートフェアに行く約束をしているのに、具合なんか悪くなっている場合じゃない。
(気のせい気のせい気のせい……)
頭痛は「気のせい」ということにして、先にベットから抜け出し、朝のコーヒーを落としはじめる。……と、コーヒーの匂いにつられたように、慶も起き出してきた。
「はよーーー」
慶は挨拶と一緒に伸びをしたかと思うと、その勢いで腕をブンブン振り回しはじめた。時々するその仕草を見る度に、なんだか子供みたいでカワイイなあ、と思っていることは内緒だ。
「おはよう。昨日のスープの残り食べる?」
「食べるーー」
「分かった」
肯いて、台所に戻ろうとした……のだけれども。
「浩介」
「え」
いきなり腕を掴まれた。慶の表情が、寝ぼけたポヤッとしたものから、真剣なものに変わっている。
(なに……)
ジッと覗き込まれ、ドキマギしてしまう。……と、
「お前、顔色悪いな」
「!」
げ。
鋭い指摘に、グッと詰まってしまう。さすが現役のお医者様だ。
慶の鋭い目が真っ直ぐにこちらを向いている。
「具合、悪いだろ?」
「……どこも悪くないよ」
ブンブンと首を振る。本当に、別に悪くない。ほんのちょっと頭が重いだけだ。インフルエンザだったら、もっとガツンと悪くなるから、絶対に違う。こんなの許容範囲のうちだ。
「全然、ホントに、悪くないよ」
「……口開けろ」
「え」
喉は……ほんの少しだけ違和感があるといえばある。ってことは、これ見られたら、外出中止?
「だから本当に悪くないから大丈夫だから。早くご飯……」
「口、開けろって」
ぐっと顎を押さえつけられた。
「んんん」
けど、ブンブンブンと首をふる。
嫌だ。絶対嫌だ。絶対開けない!
「浩介」
「んんんん」
口を結んだまま、首を振り続ける……と。
「!」
いきなり、背中に衝撃が走り、視界が天井になっていた。力任せにソファーの上にぶん投げられたのだ。あいかわらず、その可憐な顔も小柄な体型も無視した馬鹿力。
「え」
そして、のしかかるように、バンッと顔の両端に手をつかれた。いわゆる床ドン…ならぬソファドン?
「ちょ、慶……っ」
「具合、悪くないんだろ?」
慶の完璧に整った綺麗な顔が近づいてくる。キラキラした瞳が細められ、唇が迫って……
(………って!)
ダメだダメだダメだ! もしおれが風邪だとしたら、キスなんかしたら慶にうつしてしまう!
「ごめん!」
慌てて、自分の口を手で押さえて、慶の唇を寸前で押し戻した。
「分かった! ちゃんと口開けます!」
「最初から素直にそうしろっての」
「うー……」
体を引っ張り上げられ、ソファにちゃんと座らさせられる。あらためて「口開けろ」と言われ、素直に開けたところ……
「若干赤い……けど、まあ……」
「え! じゃあ、出かけてもいい?!」
期待を込めて叫んだけれど、「却下」と冷たく言われた。
「今日は一日家で温かくしてゆっくりしてろ」
「えーーーーーー」
「えーじゃない」
「えーーーーーー」
うちの旦那様、お医者様なもので、こういうの誤魔化せないから困ります……
「これ、風邪?」
「まあ、そうだな」
「じゃあ、やっぱりキス禁止かあ……」
「…………」
細ーい目で見られてしまった。けど、気にしない。
「ねね、じゃあさ、キスしないでイチャイチャするのはOK?」
「なんだそりゃ」
「だから、例えばフェ……、痛!」
ゴッと額にゲンコツがきた。
「痛いーーーー」
「アホなこと言ってないで、メシ食うぞ。おれが用意するからお前座っとけ」
「えーーーーー」
「えーじゃない」
「えーーーーー」
せっかくのバレンタインフェアだったのにー。そのあと、食事に行くのも楽しみにしてたのにー。
ダイニングの椅子に座り、台所にいる慶に向かってブツブツブツブツ言い続けていたら、慶が呆れたように言ってきた。
「どうせ来年もまたやるだろ。来年まで我慢しろ」
「…………」
…………来年。
来年、か。
「…………そうだね」
「おお」
うん。そうだね……。
当然のことのように、来年の話ができることが、嬉しい。
「で、お前、食欲は?」
「んー…あんまり。でも……」
答えながら、朝食を運んできてくれた愛しいその人を見上げる。
「慶を食べる食欲ならあるよ❤」
「アホか」
冷たいツッコミと共に、「ちゃんと食え」とスープを押し出された。
「えーーーーー」
「だから、えーじゃねーよ」
「えーーーーー」
「だから、えーじゃねーよ」
「えーーーーー」
「さっさと食え」
「うーー」
しょうがないのでスープを一口飲む。体が温まる……
しばしお互い無言で食べていたけれど、食べ終わりかけに、慶がポツンと言った。
「とにかく……今日はゆっくりしてろよ」
「……うん」
もう、素直に肯く。心配してくれてるのに、これ以上はふざけられない。
「……で、慶は今日何するの?」
「何って……」
慶は少し首をかしげると、思わぬ言葉を言ってくれた。
「お前の看病?」
「え!?」
思わず叫んでしまう。
看病?看病?看病って!?
それは、あれやこれやこれやあれや、的な!?
「わ〜❤」
「アホな想像するな」
慶は苦笑いの表情で言うと、食べ終わった食器を持って立ち上がり……
「とにかく……今日中に治して、バレンタイン当日、旨いもん食いに行こうな」
通りがかりのついで、みたいに、ポンポンと頭を撫でてくれた。
(…………。く〜〜〜っっ)
幸せ過ぎて変な声が出そうだ。
撫でられたところから、優しさと温かさが伝わってきて、体中がふわ〜っとなる。もうこれだけで治った気がする。
(うちの旦那様、お医者様なもので……)
そばにいるだけで、元気になる。幸せでいっぱいになる。最高の主治医だ。
「ハチミツ生姜飲むか」
「うん!ありがと」
「昼はうどんな」
「うん」
今日は一日、うちでゆっくりしていよう。二人で一緒に。
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お読みくださりありがとうございました!
今さっきのお話、でした。今日は二人で録りためているDVDを観たりしてゆっくり過ごすそうです。いいな〜✨
クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当に本当に本当にありがとうございます!!
本当は「2つの円の…」のその後の話を書こうと思ったのですが、真面目な話になりそうなので、やめときました💦
そのうちまた忘れた頃に何かしら更新すると思いますが、その際には何卒何卒よろしくお願いいたしますm(__)m
こんな不定期更新にお付き合いくださり、本当にありがとうございます!