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創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

(GL小説)風のゆくえには~光彩2-2

2015年02月26日 11時28分37秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 裁縫をしている綾さんの姿を見ているのが好きだった。
 手縫いでもミシン掛けでも、一心不乱・戦闘状態の綾さん……めちゃめちゃそそられる。

 たいてい我慢できなくて、後ろから抱きついたり、その手にキスしようとしたりして、
「…………刺すよ?」
と、本気で射しそうな目で睨まれるのがオチなんだけど、その中でもたまーに、本当にたまに応じてくれることがあって、そんな時は、そりゃもう激しい………


「先生! ママ連れてきたよ!」
「!」

 妄想中のご本人登場で、ハッと我に返る。いかんいかん。ここは学校。
 記憶の中の綾さんよりさらに艶やかになった綾さんが、娘さんの美咲と一緒に家庭科室に入ってきた。

「すみません、この2着を使って1着作っていただきたく……見本はこれです」
 多くは語らず、現物を見せると、頭の良い綾さんは一つ肯き、

「何分ありますか?」
「!」

 うわあああっ。ぞくぞくぞくっと来た。
 綾さん、戦闘モード! きたーーー!!

「17分……いえ、移動を考えると15分」
「わかりました。はさみください」
「は、はいっ」

 慌てて裁ちばさみを渡す。

「あのぉ、ミシン糸通し終わりましたぁ」

 家庭科の由衣先生がか細い声で言う。
 さっき、私が「家庭科室開けて!」と頼んだら「私、無理!直せません!」と半泣きになった由衣先生。まだ先生になって2年目の23歳。そういう女の子女の子したところ嫌いじゃない。というか、けっこう好き。というか、かなりタイプ。

 私は子供の頃からこういうフワフワした女の子が大好きだった。(唯一恋をした綾さんはまったくタイプが違うのだから不思議)

 で、昨年の歓送迎会の帰り、酔った勢いで思わず手を出してしまい……。職場恋愛は面倒だから、こっちは一晩限りと思ったのに、由衣先生の方はそうではなかったようで、その後もゴチャゴチャしていて、今も油断するとモーションかけられる。……という、いわくつきの同僚。

 でも、こうして、綾さんと由衣先生が並ぶと、私なんで由衣先生に手出しちゃったんだっけ?ハテナ?となる。やっぱり綾さんには誰もかなわない。
 昔からそうだった。綾さんと付き合っていたころも、ちょいちょいつまみ食いしていたけれど、綾さんに会うと、その女の子達が全部色褪せてしまって、綾さんの魅力を再認識させられていたのだった。
 じゃあ、綾さん一筋でいればいいじゃんってツッコミたいところだけど、それはまあクセというかなんというか………

「こっちから首元の花を5つ取っておいてください」
「は、はい」

 もう、裁断が終わっている。ミシンに移動しながら、綾さんがこちらに布を投げよこす。

 本当に、魔法の手だ。よどみなく、迷いもなく、2つの壊れたドレスから、1つの新たなドレスができようとしている。

 
(ああ……)

 うずうずする。あの手にしゃぶりつきたい。あの白いうなじに印をつけてやりたい。

(いかんいかん……)
 邪念を追い払い、由衣先生と協力して花を取り始める。

(………おっと)
 由衣先生がさりげなく膝を寄せてこようとするのを、すいっとやり過ごす。
 もう、由衣先生と関係を持つ気はない。
 と、いうか、3月に綾さんを発見してからは、誰とも寝てない。すごくない?私!

「あかねっ……先生」
「は、はい!」

 綾さんに呼ばれて、ドキッとして慌てて立ち上がる。
 いやいや、やましいことはないっ。私は何もしてないっ。

「な、なに?!」
「黄色い糸、針に通しておいてください」

 綾さんは一瞬だけ視線をこちらに向けたが、すぐに手元に戻した。もう仕上げに入るようだ。

「………由衣先生」
「はぁーい」

 由衣先生が裁縫箱から黄色の糸をだしている。
 思えば、あの当時の綾さんよりも今の由衣先生の方が年上だ。でも当時の綾さんの方が断然大人っぽい。色っぽい。そして今、年齢を重ねてさらに色っぽくなっている。

「花、5つ、取りました」
「ありがとうございます」

 ミシンの前から綾さんが戻ってきた。もうワンピースができている。片方の後ろ身ごろを前身ごろに作り直し、合体させたらしい。すごい。見本と全く変わらない。あとは首元に花をつけるだけだ。

「ママ………すごい」
 あっけにとられていた美咲がつぶやいた。鈴子もその横でお祈りのポーズをして肯いている。
 菜々美とさくらは先に会場に戻らせてある。万が一時間までに美咲と鈴子が戻ってこなかったら、他の先生に知らせてほしい、と頼んであるが、それも必要なさそうだ。
 子供たちが苦労してつけていた花を、綾さんはいとも簡単につけ終えてしまった。
 これで出来上がり。綾さんが家庭科室にきてから8分しかたっていない。

「はい。これでどうでしょう?」
「か………完璧です!!」

 抱きつきたい気持ちをぐっとこらえてワンピースを受け取ると、
「はい、美咲さん」
 パサッと美咲に着せてやる。ピッタリだ。

「うん。かわいいかわいい。花の精みたい」
「ホントに?!」
 嬉しそうに美咲が声を弾ませる。

「で、こっちは鈴子さんね」
 見本のワンピースを鈴子に着させる。
「よし。こちらもオッケー! かわいい!」

 よかった。これで無事に二人とも参加できる。

「じゃ、二人とも、急いで行って!」 
「はーい」

 キャッキャッとはしゃぎながら二人が走っていく。
 やれやれだ。ホッと一息つく。

「じゃ、由衣先生、申し訳ないんですけど、片付けと戸締りお願いしていいでしょうか? 2年生の演目に間に合わなくなってしまうので……」
「はーい。わかりましたー」

 つまらなそうな由衣先生。いやいや、構っていられません。
 綾さんを促し、早々に家庭科室を出る。

 誰もいない廊下。聞こえてくる歓声。

「綾さん……昔よりもさらにスピード上がってるよね? 今も何かやってるの?」
「やってるというか……」

 綾さんは肯くと、

「古着のリメイクのボランティアをしてるの」
「なるほど……」
 通りで洋服を崩すのも手馴れていたわけだ。

 階段の踊り場にきたところで、綾さんが急に立ち止まった。

「あの、一之瀬先生」
「はい?」

 口調があらたまっている。綾さんは心配そうな顔をしてこちらを見上げた。

「美咲はイジメられてるんでしょうか? あんな風に衣装を切られてしまうなんて……」
「あ……いや……」

 おそらく、ターゲットは鈴子一人。見本の一着を美咲が着るよう仕組むために、美咲の衣装も切ったのだろう、という推測を話すと、

「そんな……」
 綾さんは両手でこめかみのあたりをおさえてうつむいた。

「美咲が首謀者なんでしょうか……?」
「たぶん違うと思います。美咲さんはのせられてしまっているというか……」
「そう…………」

 大きくため息をつく綾さん。すっかりお母さんなんだなあ……。

「『自分の大切な人に胸を張って言える行動かどうか考えなさい』」
「え?」

 聞き覚えのあるセリフ。私が子供たちにいった言葉だ。
 綾さんが独り言のようにつぶやく。

「その言葉、美咲の心に響いていたようだったのに……」
「それは……」

 難しいところなのだ。

「例えば……こう言われたらどうでしょう? 『鈴子ちゃんはダンスが下手。あの子がいると迷惑。だから出ないほうがみんなのため。でも、出ないでなんていえない。だったら衣装が壊れたことにしてしまえば誰も傷つかない。鈴子ちゃんだって恥をかかずにすんで感謝するに違いない』」
「そんな……」

 おそらく、彼女たちの中ではそういう話になっているのだろうと容易に想像がつく。

「中学生の正義なんてそんなものです。だから今後、美咲さんに矛先がむくかもしれない……」
「え?」

 綾さんが眉を寄せた。
 そうなのだ。私が考えなしだった。
 途中で気がついたのだが、時間がなくて気がつかなかったフリをしてしまった。

「もしそうなってしまったら、本当に申し訳ないです」
 深々と頭を下げる。
「全力で美咲さんのことは守りますので……」

「え、ちょっと、待ってください。美咲に矛先がむくって?」
「今回の計画、美咲さんのお母さんのせいで失敗に終わったってことになりますから……」
「ああ……そういうこと」

 綾さんが軽く首を振った。

「それはしょうがないです。鈴子ちゃんがダンスに参加できなくなる方が、大人になって思い出したときに必ず後悔するに違いないし」
「…………」
「そんな後悔をするくらいなら、矛先向けられた方がマシです。それにあの子、そんな矛先へし折るくらいの強さはあるから」
「…………」

 綾さんの意思の強い目。本当に変わっていない。
 ああ、今すぐ抱きしめたい……。

「あ、前の競技終わったみたいですね。音楽が退場の……」
「……綾さん」

 我慢できなくて、踊り場の小さな窓から外をのぞいた綾さんを、後ろからそっと抱きしめた。
 ああ、しっくりとくるこの感触……。幸せ……。

 抵抗するかと思いきや、綾さんはジッと立ち尽くしていたが……

「由衣先生が今の彼女?」
「え?!」

 いきなりとんでもないことを言われて、パッと手を離す。

「な、なんでっ」
「あかね、好きでしょ?ああいう子。昔っからそうよね」

 ここここ怖いっ。

「いやいや、由衣先生とは前にちょっとその……、でも、今は何もっ」
「彼女のほうはそうでもなさそうだったけどね」
「…………」

 さ、さっきの、やっぱり見られてたんだっ。

「いやいや、本当に彼女とはもうなんでもなくてっ。ていうか、3月に綾さんを見つけてからは、全員手を切って、本当に、今は誰とも何も……っ」
「どうして?」
「!」

 綾さんの目。……何? どうしてこんなに、冷たい……。

「……綾さん?」
「あかねが誰と何をしようと、私には関係のない話よ? 私達、もう付き合ってるわけでもないんだし」
「…………」
「それに」

 綾さん、怖いくらいの無表情……。

「付き合ってたころだって、あなたは散々遊んでたものね? それなのに、今さらそんな……」
「綾さん……」
「………………」

 ふいっと綾さんは背を向け、階段を降りていってしまった。
 残された私は、二年生のダンスの音楽がかかるまで、その場に立ちすくんでいた。



--------------------------------------------



とりあえず、あかね視点終了。
次回から再び綾さん視点。

また来週、3月2日(月)に更新しまーす。

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(GL小説)風のゆくえには~光彩2-1

2015年02月23日 12時23分23秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 綾さんと初めて話したのは、私が大学一年生、綾さんが大学三年生の11月。

 綾さんと私は同じ演劇サークルに所属していたけれど、私は役者チームで、綾さんは衣装チームだったし、学校も学年も違ったのであまり接点がなく、それまでは挨拶しかしたことがなかった。
 だからあの日までは、小柄で、銀縁の眼鏡をかけた真面目そうで大人しそうな先輩、という印象を持っていただけだった。

 それがあの日、一気に覆された。

 定期公演の本番。
 私の役柄は『氷の姫』。出番はそんなに多くないが、印象的な役だった。
 主人公の女の子の脳内に存在する、彼女のネガティブな考えの化身。恋愛に臆病で男嫌い。だけど最後に氷は溶けていく。

 衣装は白のタイトドレスに、白の大きなショールを身にまとったもの。長身の私に良く似合っていた。
 まわりからもハマり役だと絶賛され、すっかりあだ名も『姫』に定着してしまった。

 終演近く。あと数分で、私の最後の出番。
 舞台袖で軽く身をほぐしながら出番を待っていた時のことだった。

「…………え?」
 濁点付きの「え」で叫んでしまった。
 ビリッという不吉な音が、自分の後ろから聞こえてきたのだ。

「うそ………」
 備え付けの鏡に写してみたら……お尻のあたりが……思いきり破れている。そんなに激しく体を動かしたつもりはなかったのだけれど、負荷がかかってしまったらしい……。 

「やだっ姫っ破れてる!!」
 舞台進行の愛美ちゃんが真っ青な顔をして小さく叫んだ。

「目立つ?」
「目立つというか……かなりいっちゃってるよ。破れてること分かるよこれ絶対」
「んー、ショールで隠れない?」
「この状態なら、隠れてる。でも、ショールを上にあげたら見えちゃうよ」
「んー、じゃ、あげないようにするか。もう出番だもんね。直す時間ないし…。監督今下手にいる?」

 二人でボソボソと話していたところに、

「姫の出番まであと何分?」
 鋭い、冷静な声が後ろから聞こえてきた。振り返ると、衣装チームの3年の先輩……国中綾さんが無表情に立っていた。

「あと……5分、くらいです」
 愛美ちゃんがストップウォッチと台本を見比べながら答えると、綾さんは、ニコリともせずに私を見上げて言った。

「じゃあ、脱いで」
「は?!」
「早く」
「こ、ここで?!」
「………………」

 これ以上なんか言ったらぶっ殺すぞお前、って目をした綾さん。こ、こわい……。

 おとなしくドレスを脱ぎ、すでに糸を通した針を持っていた綾さんに渡す。
 それからは、本当に魔法のようだった。
 ものすごい早さで布を縫い合わせていく綾さんの手。ひたすら手元を見ている真剣な眼差し。戦っているかのようだ。オーラがほとばしっている。
 薄暗い舞台裏で、彼女のいる場所にだけ光彩が放たれている。

 すごい……綺麗……

 見とれてしまった。大人しい印象しかなかった綾さん。実はこんなに美しいオーラを持った人だったなんて。
 ドクンドクンと鼓動が高鳴ってくる。
 なんて、なんて、綺麗な人なんだろう……

「あと、2分……です」
 おどおどと愛美ちゃんが言いにきたのと、綾さんが糸を切って、立ち上がったのはちょうど同時だった。

「着て」
「は、はい……」

 羽織っていたショールを取り、急いでドレスを着ると、綾さんがファスナーをあげてくれた。そして背中越しに言われた。

「もう大丈夫だから、最後、ショールをもつところ、練習通りにやって」
「………はい」
「あのね、私たちは客席から効果的に見えるようにデザインを考えて衣装を作っているの。簡単にショールをあげなければいい、なんて言わないで」
「…………っ」

 頭を殴られたような衝撃を受けた。
 そうだ。私はなんて傲慢なことを………。舞台は役者だけでは成り立たない。監督、衣装、大道具、小道具、照明、音響……表に立たない人たちの支えのおかげで役者は安心して舞台に立てているのだ。

「あの、すみません、私……っ」
「ああ、ごめんなさい。本番前に」
「!」
 ドキリとする。さっきまでの殺し屋のような視線はどこへやら、綾さんはふんわりとした笑顔で微笑むと、背伸びしてショールをかけてくれた。

「私、姫の最後のシーン大好きなの。光が効果的にショールにあたって、想像以上に舞台映えしてる。この衣装を作って良かったって誇りに思える。ありがとうね、姫。あなたが着てくれるおかげよ」
「綾さん……」
 綾さん、こんな優しい笑顔もできる人なんだ……。鼓動がさらに早くなる。

「姫、出番くるよ!」
 愛美ちゃんの泣きそうな声に、軽く手をあげてから、再び綾さんに振り返る。

「綾さん、ありがと」
「頑張って」
「はい」

 そして…………

 どーーーーしても、我慢できなかった。衝動に負けてしまった。
 すばやく、綾さんの小さな唇に顔を寄せる。

「ちょ?!」
「ごちそうさまですっ」

 真っ赤になった綾さんに手を合わせると、舞台に向かって走っていく。

『ああ、私はなんて幸せなの! あなたに出会えた! これが恋なのね!』
 心をこめて、舞台で叫ぶ。 
 セリフ通り、まさに今、恋がはじまった私を、スポットライトが照らし出す。

(綾さんの唇、柔らかかったなあ……)
 気を抜くとふやけてしまいそうな顔を引き締め、歌いだす。

(綾さん、あなたのためだけに、今このシーンを演じるよ)
 白いショールを大きく広げ、私は舞台を舞った。


***


 今日は運動会。6月第2土曜日は晴天に恵まれ、気温も30℃近くまで上がり、子供たちの声もいつも以上に明るく響いている。

「先生ーーー!大変大変大変ーーー!!大事件ーーー!!」

 佐藤美咲がいつものようにワーワーと騒ぎながら走ってきた。
 あの冷静沈着な綾さんの娘とは思えない、いつでもテンション高めのにぎやかな子だ。

「はいはい、どうしたの?」

 放送ブースにいた私は、近くの先生にあとをお願いすると、美咲の方へ向き直った。

 瞬間、嫌な予感がした。
 美咲と仲良しの菜々美、さくらと一緒に、白井鈴子がいる。
 鈴子は派手目なこの3人とはタイプが違い、地味目で大人しい女の子だ。それなのに出席番号が近かったせいか、二年生になってすぐに美咲たちと仲が良くなった。でも案の定、メンバー内で浮いてきてしまった。すこし天然ぽいところのある子なので、美咲たちのようなチャキチャキとしたタイプの子をイラつかせてしまうのだろう。次第にイジメともとれる言動も見られたため、かなり注意して監視するようにしていた。
 私はクラス全員と仲良くなる必要はどこにもないと思っている。合う人間合わない人間がいるのだから、自分が一緒にいて居心地の良い子達と仲良くすればいい。鈴子には鈴子とあう友達がいるはずなのだ。
 早々に席替えをして、鈴子と合いそうな子を近くの席にしてみたり、色々試してみて、ようやく最近、美咲たちと離れたように見えたのに……。

「これ見て! 私と鈴子ちゃんのダンスの衣装……」
「!! ちょっ、これ……なんで……」

 声を失ってしまった。美咲が持ってきたのは、2年生全員によるダンスの衣装。家庭科の授業でそれぞれ自分たちで作った、白地のひらひらとした短い丈のワンピース。黄色い花の飾りが首元と裾にちりばめられている。
 そのワンピースのお腹のあたりが………ぽっかりと切り取られてしまっているのだ。

「どういうこと………」
「わかんない。次の次の番だからみんな着替えはじめたんだけど、私と鈴子ちゃんのだけこんなになっちゃってて。どうしよう、先生」
「…………………」

 誰がこんなこと……、いや、犯人捜しは後だ。それよりもこの場をどう乗り切るかだ。
 今、ダンスの前の前の種目の真っ最中。ということは、あと25分くらいしか時間がない。

「先生、確か、見本が一着あったよね?」
 菜々美が言う。

「とりあえず、美咲はそれ着ればいいんじゃない?」
「…………」
「だって、美咲、最後センターじゃん。センターが穴空いた衣装着るわけにはいかないでしょ?」
「………」

 ああ、なるほど。そういうことね。鈴子の衣装をダメにしたところで、見本の衣装がある。美咲の衣装も一緒にダメにすれば、見本の衣装はセンターの美咲に回る。そうすれば鈴子だけが衣装を着られなくなる……ってことね。

「………」

 くっそー、こいつら全員体操着で出してやろうか!

 ………いやいやいや、冷静に冷静に。何の証拠もない。憶測の話だ。
 とにかくこの場を乗り切らなくては………。

「先生、私でなくていいよ~。美咲ちゃんが見本の着て……」
「ダメ」

 鈴子ののんびりした申し出を強く遮る。

「みんなで一生懸命練習してきたんじゃない。みんなで出ないと意味がない!」
「先生……」
「せっかく今まで積み上げてきたものをこんな風に……」

 こみあげてくるいらだちを拳にためながら、穴の開いた衣装を見つめる。
 見本が一着。真ん中に穴の開いた衣装が二着。
 穴の開いた衣装が二着。二着………。二着?

「そうだ!!」
 思わず叫ぶと、美咲達がビクッと飛び上がった。

「な、なに、先生……」
「美咲さん、お母さん連れてきて! さっき本部左手の観客席で見かけた!」
「…………へ?」

 きょとんとした美咲の肩に手を置き、いいから早く!お母さんを連れて家庭科室に行って!と押し出す。

 破れた衣装が2着。綾さんの魔法の手があれば………綾さんなら………!


-------------------------------------------------------------



あかねと綾さんのなれそめ話を書けて嬉しかったです。
舞台が始まる前や最中の舞台袖の雰囲気が好き。

運動会も裏方仕事が好き。
あかね先生、ジャージ似合いそう。

あかね先生、運動会の人ごみの中、綾さんがいるところをちゃんとチェックしていたあたりいじらしい。

話続きなので、あまり間を空けず、26日木に更新しまーす。
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(GL小説)風のゆくえには~光彩1-3

2015年02月16日 12時16分16秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 あかねとそういう関係になったのは、私が大学3年、あかねが大学1年の冬のことだった。

「私なんかのどこが好きなの?」

 そう聞いた私に「なんかっていうのはおかしいでしょ」と口をとがらせてから、あかねは言った。

「全部」

 却下。具体的に。

 言うと、あかねはふっと笑って、私の手を取り、指先に軽くキスをした。

「まず、手。なんでもできちゃう魔法の手。お料理もお裁縫も綾さんの手にかかると魔法みたい」
「…………」
「それから目」
「目って……」

 誰もが羨ましがる完璧な形の目をした人に言われたくない。

 言うと、あかねは「わかってないな~」と言いながら私の眼鏡を取り上げ、素早く瞼にキスをした。

「綾さんの目。とっても魅力的」
「どこが?」
「世の中全部気に食わない。お前ら全員ぶっ殺してやる。……って光を帯びる時あるでしょ? そこがすっごく好き」
「……………なにそれ」

 変なの。
 でも………ちょっと気に入った。その理由。

「あと、唇。こんな小さくて可愛い口してて、すっごい毒舌なときあるでしょ? そこが好き」
「あかねって………」

 マゾなの?

 言うと、あかねは、うふふ、と笑って、私の頬に優しく自分の頬をすり寄せた。

「大好き。綾さん。大好きだよ」
「…………」

 あかね……あかね。

 私もあなたが大好きよ。

 でも、言わない。絶対に言わない。言ったらあなたは…………。



「綾さん!」

 鋭い声にビクッと体を震わせる。あかねが呼んでくれる『綾さん』と同じ4文字なのに、まったく違う単語のようだ。

「早くお紅茶入れてちょうだい。なにボーっとしてるの」
「………すみません。お義母さん」

 うるせえババア自分では何もしないくせにっ………って言葉を飲み込み、キッチンに下がる。

「わあ、ここのケーキおいしいよね。おばあちゃんありがと~」
 調子の良い美咲の声が聞こえてくる。美咲と義母は仲が良い。

「ねえ、今日の個人面談、ママが行ったのね。美咲、おばあちゃんに行ってほしかったな~」
「ごめんね、みいちゃん。どうしても外せないお仕事があったのよ」
「じゃあ来月の運動会は絶対来てね。あかね先生紹介するから!」

 美咲の声がはしゃいでいる。美咲はあかねの『大ファン』らしい。

「おばあちゃんも絶対あかね先生のファンになるよ! 女優さんみたいに綺麗でかっこいいんだから。ねえ、ママ、綺麗だったでしょう?」
「………そうね。綺麗な方ね」

 紅茶を出しながら答える。そう。あかねは綺麗よ。今も昔も。なんて言えないけど。

「おいくつなの?」
「39、だって。でね、背もすっごく高いんだよ!」

 8月で40歳。身長は174cm。と心の中でツッコミをいれてみる。

「ご結婚は?」
「してないよ! だって、去年、あかね先生のクラスだった先輩がいってたんだけどね!」

 美咲の目がキラキラしている。

「大学の時に好きだった人のことが忘れられなくて、それで結婚してないんだって。もう20年だよ! 20年も一人の人のこと好きなんて一途でしょ~素敵でしょ~」
「……っ」

 動揺してケーキを落としそうになったけれど、なんとか持ちこたえた。

 20年? あれ?19年だと思ったけど……ああ、そうか、別れてから19年、付き合ってたのは1年3ヶ月くらいだから20年ってことか………

 …………………。

 なんて冷静に計算してる場合じゃなくて。

『いつでも私のところに帰ってきて』

 19年前に言ってくれたあかね。
 今日抱きしめられた感触を思い出す。キスされた指先が熱くなる。

 記憶のあかねに浸りそうになったところを、義母の声で引き戻された。

「それで? 個人面談では何て? 成績はどう?」
「はい……成績は何も問題ないそうです。委員会活動なども頑張っていると褒めていただきました」
「へへー」

 得意そうな顔の美咲。この子がイジメなんて……

「ただ、昨今、子供たちの間でネット上でのトラブルが多いので、携帯電話の使い方を……」
「ああ、ライン、とかそういうのね? 大丈夫? みいちゃん。ネットイジメとかされてない?」
「されてないよ! みんな仲良しだもん!」

 悪びれることもなく、よどみもなく美咲が答える。
 自覚がないイジメ……というやつなんだろうか。

 あかねからは、対象になっている子を美咲のいるグループから引き離す対応をしつつ、注意喚起を続けています。ご家庭でも機会をみてそういう話を……と言われたが……

「あのね」
 美咲がピッと一本指を立てた。

「あかね先生が言ってたの。『自分の大切な人に胸を張って言える行動かどうか考えなさい』って」
「…………」
「なんかね、みんなすごい納得しちゃったんだよ。ほら、大人はさ、相手の気持ちになって、とかよくいうじゃない? でも相手の気持ちなんか分かんないじゃん。でも、好きな人に言えるかどうか、だったら分かる」

「あら、みいちゃん、好きな人いるの?」
 義母がびっくりしたように言うと、美咲はまた、へへへーと笑って、
「今はあかね先生に夢中!あかね先生かっこいいんだもーん」
「それなら良かった。変な男に引っかかったのかと思って焦っちゃったわ」
「……」

 なんだか色々な意味でフクザツ……。
 でも、あかねの話が心に響いているのなら良かった。
 美咲は中学二年生にしては精神的に幼い。もしかしたら、悪気なく相手を傷つけるような言葉を言っているのかもしれない。注意していかないと……。

「あ! お兄ちゃん! ケーキあるよー」
「いらない」

 息子の健人が携帯をいじりながら入ってきた。お前の手は携帯か?と疑いたくなるほど、手と携帯が常に一体化している。
 今年大学に入学したばかりの健人は、数年前から必要なこと以外の会話を拒むようになった。難しい年頃だから、と見守ってきたが、いい加減そろそろまともに話くらいしてほしい。唯一美咲とは仲が良いので、健人に関しては何かあると美咲頼りになってしまっている。

「せっかくおいしいケーキなのにもったいなーい。美咲食べちゃうよー?」
「ダメよ、みいちゃん。それじゃ、健ちゃんはお父さんと一緒に明日食べたら?」
「は……」

 義母の言葉をきいて、健人が鼻で笑った。ぎくりとするほど冷たい笑い。

「あいつ今日はあっちの家の日だもんな? 律儀に一日おきに帰ってこないで、一生あっちにいってりゃいいのに」
「健ちゃん、みいちゃんの前で……」
「本当のことだろ」
「健人」

 さすがにたしなめると、健人がこちらを振り返った。

「お母さんもよく平気だよな? じいちゃんだって死んだんだし、もう離婚して……」
「健人」

 義母の目が気になって、話を遮ると、

「離婚なんて無理に決まってるじゃなーい」
 明るくケロリと美咲が言った。

「だってママ、ずーーーっと専業主婦だったんだよ? 働いたことない人がどうやって食べていくの?」
「あはははは、それはそうね」
「!」

 義母の高らな笑いに怒りを覚えたがどうにか押し込める。
 こっちの気持ちも事情も知らないで、美咲が明るく続ける。

「美咲はねーおばあちゃんやあかね先生みたいに自立したカッコいい女になるの!」
「じゃあ、お勉強もっと頑張らないとね」
「えー頑張ってるもーん」

 美咲と義母がケーキを頬張りながら笑っている。……紅茶のお替りを用意しなくては。

「健人、紅茶飲む?」
「…………」

 息子はこちらを一瞥すると、冷蔵庫からペットボトルを取り出しまた二階に上がって行ってしまった。
 あの目……。軽蔑?侮蔑? いつからあの子は私のことをあんな目で見るようになってしまったのだろう。

 ため息を押し殺して、紅茶のポットに手を伸ばす。

『綾さんの手は本当に魔法の手だね』
 ふいにあかねの声が脳内に響く。

『同じ珈琲でも、綾さんが淹れてくれたほうが断然おいしい』
 あかねの漆黒の瞳。心地の良い声。温かい手。涙が出そうだ。

「綾さん、お紅茶」
「……はい」

 義母の声に反射的に返事をする。

 あかね……。私は……私は、『自分の大切な人に胸を張って言える行動』なんて、ずっとできていないわ。




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このくらいで。
綾さん視点とりあえずいったん終わり。
次から、あかね視点。

前半の綾さんとあかねのやり取り……

あかね遊び人だなー口説き慣れてるなー

……って思いません?

また来週。
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(BL小説)風のゆくえには~R18・幸せな今

2015年02月10日 11時10分50秒 | BL小説・風のゆくえには~ R18・読切

単なるやおいです。やまなし・おちなし・いみなしです。自己満足です。
BLのR18です。大丈夫な方だけどうぞ。


基本情報。

桜井浩介:高校教師2年目。身長177cm。見た目ごくごく普通。優しそう。
渋谷慶:大学5年生。身長164cm。中性的で美しい容姿だけど性格は男らしい。

二人は高校時代からの付き合い。
浩介のアパートが慶の大学に近いため、現在半同棲状態。
基本、慶が受けです。受けのほうが男らしいっていうカップルが好きなの。私。
今は冬ですが、作中は夏です。


--------

『風のゆくえには~R18・幸せな今』


 最近の慶は、ものすごく忙しい。ここ2日間もほとんど寝ていない。
 今も、床やベッドの上にまで資料を撒き散らして、テーブルの上のノートパソコンに向かっている。
 おれはおれで机に設置したパソコンで、部活の練習計画表を作っていたのだけれど……。

「あーーーもーーー無理。集中できねーーーー」
 いきなり慶が叫んで、ごんっとテーブルに突っ伏した。驚いて振り返る。

「だ、大丈夫……?」
「お前さ……」

 テーブルにあごをのせた状態のまま、こちらを見上げる慶。

「それ急ぎ?今やらないとダメ?」
「あ……ううん。大丈夫だけど……、あ、ごめん。うるさかったね」

 おれのキーボードを打つ音が気になったのに違いない。

「おれ、ちょっと出てくるよ。一人の方が集中できるでしょ」

 あそこのファミレス、何時までやってたかな……
 今、夜の9時。ファミレスが2時までだとしても5時間は一人にしてあげられる。

「ちょっと待ってね。保存しちゃうから……」
「そういうことじゃなくて」
 慶が立ち上がる気配がした。

「別にうるさくなんかねえし」
 そして、パソコンに向かっていたところを後ろからぎゅううっと抱きしめられた。

「我慢の限界で集中できねーって言ってんの」
「え」

 ドキッとする。言葉の意味を考えるよりも前に、後ろから耳たぶをくわえらた。

「やらせろって言ってんだよ」
「ちょ……っ」

 慶の柔らかい唇が首元に落ちてくる。

「慶、時間ないんじゃないの?!」
「ないからさっさとやろーぜ」

 こらこらこらっ。

「待ってってば。ほら、ベットの上だってプリントだらけだし、そこらじゅう本も散らばってるし、場所が……っ」
「廊下廊下」
「えええっ」

 胸倉をつかまれ引っ張られる。
 廊下に台所があるような狭いアパートなのだ。

「ここでいいだろ」
 廊下と部屋の境目あたりで、頭を引き寄せられ、有無をいわさず唇を重ねられた。求めながらも、器用におれのベルトを外している慶。

「ちょ…っ待…っ」
 なんとか押し返すと、慶は苛立ったように「ああ?」と「あ」に濁点をつけてこちらを見上げた。

「なんだよ?」
「だって、ほら、準備するものが……」
「いいよ。んなもん」
「いいよって、慶が痛く………。っっ」

 続けられなかった。どうしようもない快感が体中をかけめぐる。
 慶がおれのものを含んでいる。わざと唾液を多く含ませながら舌が味わうように動いている。軽くかまれ我慢できなくて声をあげる。

「慶……っ」
「これでいいだろ? ………こいよ?」
「…………」

 この目に抗える奴なんているわけがない。
 押し倒しながら慶のGパンを剥ぎ取ると、自分のものをゆっくりと慶の中に押し入れる。

「……っ」
 一瞬、苦痛にゆがめた慶の顔に、動きが止まってしまったが、慶が首を振ったのでそのまま進む。
 足を引っ張りあげたので、慶は肩と頭だけが床についている状態。電気もつけっぱなしだから、その綺麗な顔が良く見える。

「慶……」

 その顔を見ながらゆっくりと腰を動かす。我慢するように眉を寄せているところがたまらない。

 感じてくれているんだろうか?

 という疑問はすぐに解消された。慶のものも一つの命を持ったように大きくなっている。

「ちょ…っ浩介、触んなっ」
「うん……」
 言いながらも、優しく掴む。親指で触れる先の方にぬるぬるとした感触が伝わってくる。

「だからっ触んなってっ。お前、この角度でいったら……っ」
「うん……」

 慌てた慶の顔……。かわいすぎる。
 そうだね。このままこの角度でいったら、自分のものが自分の顔にかかっちゃうかもね?

「浩介……っ」
 腰の動きを早くすると、ぐっと慶が唇をかんだ。その上で手も激しく動かす。手の中で慶が熱を帯びてくる。
 慶が我慢のしすぎで涙目になってきている。……その顔、たまらない。
 早く早く早く動かし続け……

「…………っっ」
 声もあげず、慶が果てようとした瞬間、さっと引き抜き腰を抱くと、慶のものを口に含んだ。待たずして勢いよく口の中にあの苦味が広がってくる。
 ゆっくりと床におろし、慶のものが力をなくすまで舐め続ける。

 しばらく、呆けていた慶だったが……

「………………お前、わざとやったな?」
「…………」

 これは怒っている……相当お怒りだ……。しまった。調子に乗りすぎた……。

「いや、その…魔が差したというか…慶の困った顔があまりにもかわいすぎて……」
「……………へえ?」
「いたっ」

 肩口を蹴られ、ひっくり返った。その上に慶が乗っかってくる。

「次、お前の番な?」
「え」

 聞きかえす間もなく、慶がおれのものをしごきはじめた。さっきいきかけていたので、すぐに大きくなる。
 そこに慶が腰をおろし、ゆっくりと動かしはじめた。
 時折、中の圧縮をかけてくるので、そのたびにいきそうになる。

「待って、慶、そんなキツくしたらいっちゃうって」
「いけよ?」
「だったら、ちゃんとゴムして……」
「いいから」
「よくないよ。あとで慶が大変……」
「いいから」

 押しのけようとした手を掴まれた。絡ませるようにつなぎ、床におしつけられる。
 腰の動きが激しくなってくる。のけぞった慶の白い喉。色っぽい。凝視してしまう。

「暑い」
 視線に気がついたのか、慶がボソッと言ってTシャツを脱いだ。引き締まった身体。伝っている汗。ゾクゾクする。

 もう、限界だ。
 理性を手離し、慶の足の指にしゃぶりつく。
 脇腹のあたりに爪が食い込んだ感触がする。
 頭が真っ白になる。何も考えられない。快楽の波が押し寄せてくる。

「慶……慶っ」
 ぎゅうっと引き締まった慶の中で、一気に解放された。

「ああ………」
 ドクンドクンと心臓の音が聞こえてくる。
 繋がったままこちらを見下ろしている慶を今すぐ抱きしめたい……けど無理。脱力……。

 ふうう……と大きく息をついてから、

「………あれ?」

 気がついた。まだ抜いていない。のに?
 おれの腹の上に生温かいものが広がっている。これ、慶の……?

「………慶?」
「だーかーらーたまってたんだってっ」

 怒ったように言う慶。……かわいすぎる。

「なんか……嬉しい」
 こんな立て続けに二回も。しかも二回目は直接の刺激なしでいってくれたなんて。

「なんだそりゃ」
 慶が苦笑しながらゆっくりと引き抜き、すぐ横の棚においてあるトイレットぺーパーに手を伸ばした。

 トイレットペーパーだと、何枚か重ねでサッと拭かないとへばりついてしまう、という難点はあるものの、トイレにそのまま流せるという利点は大きい。普通のティッシュはきれいに取れはするけれど、匂いが気になる(気にしない人は気にしないんだろうけど、おれは気になる)ので、一度ビニール袋にいれないといけないのが面倒くさい。ということで、最近は行為のあとにはトイレットペーパーを使うことにしている。

 
「お前、たまってなかったのか?」
 腹の上を拭いてくれながら、慶が言う。

「あー……昨日自分で抜いた」
 正直に言う。けど、仮眠中の慶を見ながら抜いたってことは秘密にしておく。

 慶は手をとめ、眉を寄せた。

「そういうときは誘えよなー」
「だって慶、忙しそうだったから……」
「あーーーーそうだった……」

 がっくり、と慶がうなだれる。

「現実に引き戻された……」
「慶、シャワー先どうぞ? その、生でしちゃったから……」
「あー……うん」
「着替えだしておくよ。もう部屋着でいいよね?」
「うん。助かる……」

 慶はのろのろと体を起こすと、浴室に入っていった。

「……さ。掃除しよ」
 おれも現実に戻り、あたりを見回す。あちこちに残骸が…。慶が歩いたあとにもポタポタとしずくがおちている。そこらへんもトイレットペーパーで拭いて回ってから、ウェットティッシュであたり一面を何度か拭く。それから台所で手を洗って、慶の着替えの用意。

 慶が出てくるのにギリギリで間に合った。
 慶は風呂場で何か思いついたのか、ラフな部屋着にタオルを頭に巻きつけた格好で、

「あの症例を先に…………」
 ブツブツブツブツ言いながら、そのまま真っ直ぐノートパソコンの前に座った。
 スイッチが入ったらしい。これはしばらく話しかけられない。

 おれも今のうちにシャワーを浴びることにする。
 先ほどの慶の切なげな顔を思い出して再びむくむくと起き上がってくるものを、冷水浴びせて引っ込ませる。
 早く出て、慶の髪を乾かしてあげないと。飲み物も入れてあげよう。

 浴室から出ると、ちょうど慶がベッドの上に散らばった本を取ろうとしているところだった。完璧に整った横顔。見とれてしまう。

(ああ、幸せだなあ……)

 しみじみと思う。この人がおれの部屋にいてくれる。おれの用意した服を着て、おれの掃除した場所に座ってる。生活を共にしてくれている。
 
 視線に気がついたのか、慶がこちらを振り返り……、そして、ふっと笑った。
 なんだ?

「なに?どうかした?」
「んーーー」

 再び本に目を落とし、パラパラとめくりながら、慶がポツリという。

「なんかいいなあ、と思ってさ」
「何が?」
「振り返ったときに、お前がいるってのが」
「………」

 わああ、抱きしめたい!!

 と思ったけど、我慢我慢……。

「髪乾かそうか」
「んーーさんきゅー」

 なんだか難しそうな専門書を読んでいる慶。文系頭のおれにはまったく理解できない。

 慶の柔らかい髪を優しく梳かしながらドライヤーで乾かしていく。されるがままの慶が愛おしくてたまらない。

「飲み物入れるよ? コーヒー? 紅茶? ホット? アイス?」
「あったかい紅茶ー」
「了解。……ん? なに?」

 立ち上がりかけたところ、腕をつかまれた。

「浩介」
「ん?」

 身をかがめると、いきなりキスされた。
 呆気にとられたおれに、慶は何事もなかったかのように、

「紅茶、砂糖多めで頼む。甘ーいのが飲みたい」
「…………」

 再び本に目を落とす慶。

 いや…本当に…。
 幸せすぎて、おれもう死ぬんじゃないか?と思う。
 それか、このツケが回ってきて、これから不幸のどん底に突き落とされるんじゃないか?と思う。

「ちょっと待っててね」
 頭を振り、嫌な考えを追い出す。

 今の幸せを味わおう。

 愛しい慶の頭のてっぺんに口づけると、甘ーい紅茶を入れに台所に向かった。



--------------------------


今回、真っ先に私の頭の中で再生されたのは、
慶の「こいよ?」と「お前、わざとやったな?」の2シーンと、
事の後に、掃除してまわる浩介の姿でした。
エッチしたあとって、結構大変じゃないですか?
ドラマとかだとそのまま朝だったりするけど、浩介潔癖症だから、後片付けうるさいです。
そんな二人の日常が書けて満足満足。
この時点で、慶が24歳なりたて。浩介が23歳、もうすぐ24歳。
若いなーいいなー。


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(GL小説)風のゆくえには~光彩1-2

2015年02月09日 12時29分29秒 | GL小説・風のゆくえには~ 光彩
 先に我に返ったのは私の方だった。

「ねえ、ここ教室! 次の人が入ってきたりしたら……」
「ああ……大丈夫。綾さん一番最後だから。個人面談の順番決めたの私よ?」
「…………。ちょっと待って」

 なんとかあかねの強い腕から抜け出る。

「知ってたの? 私が美咲の母親だって」
「知ってたよ。だから美咲さんの担任になったんだもん」
「………え?」

 見上げようとして、やめた。真正面から顔をみられる自信がない。

「それどういう………」
「まず、二年生の担任になる希望出してそれが受理されたのね。そのあと5クラスのうちのどのクラスの担任になるかは先生たちで決めるから、それもうまいこと手を回して、無事に美咲さんのいるクラスをゲットいたしました♪」

 語尾に音符マークがついている。

「いつから………知ってたの?」
「2か月前」

 手振りで椅子をすすめられ、ストンと座る。その横にあかねも座る。
 2か月まえということは………。

「3月の演劇部の公演、見にきてくれてたでしょ?」
「うん……」
「で、最後の顧問の挨拶の時にステージに立ったでしょ?私」
「うん。でも………」

 あんな大人数の中から私を見つけたというの?

「すぐにわかったよ。綾さんの姿見たとき、心臓止まるかと思った」
「あかね……」

 それは私も同じよ?

「それでね、隣に座ってる制服着た女の子が娘さんだろうと思って、学校戻ってから速攻で集合写真チェックしたの」
 あかね。あいかわらずの整った顔。今年40歳になるとは思えない。

「あんな遠くからよく見えたわね……」
「私、視力2.0あるから」
 あかねは得意げに笑った。

「それにしたって、よく分かったわよね。私のこと……」
「分かるよ~。綾さん、全然変わってないもん」

 どこがよ。あなたとは違って、すっかりおばさんになってるっていうのに。

「……変わったわよ」
「変わってないよ。あ、眼鏡は変わったね。前の銀縁も良かったけど、今の縁無しも似合ってる……」
「そういう問題じゃなくて」
 
 思わず手で制すると、あかねはふわりと笑って、

「綾さん。私は綾さんがどこにいても、どんな姿になっても見つけられる自信あるよ?」
「………」

 すっと手を握られた。あかねの温かい手。

「……っ」
 とっさに払いのけてしまった。
 19年前は、白くて滑らかだった私の手。よくあかねが指先にキスしてくれた。
 今の節ばった私の手……見られたくない。

 ビックリしたような顔をしたあかね。
「ごめん。人妻に手出しちゃまずいね」
 おどけたように両手をあげた。でもショックを受けていることが伝わってくる。

「……ごめん。そうじゃなくて……」
 いや、そうなのか。というか……

「そういうあかねだって、人妻、でしょ?」
「私? 違うよ」

 ケロリとあかねが言う。

「え? だって、名字が……」
「ああ、母が離婚したから、母の旧姓に戻っただけだよ」
「え?」

 確かお母さんはあかねが中学の時に再婚したと言っていた。それがまた離婚したということ?

「今さら変えるの面倒だから、木村の名前で分籍しようかと思ったんだけど、母がどうしても自分の籍に入れって言ってね」
「そうなんだ……」
「私、結婚もしてないのに3回も名字変わってるんだよね~。はじめは篠原で、小学校あがるときに一之瀬になって、中学あがってから木村、それで大学卒業してからまた一之瀬」
「……」
「木村は画数少ないから気に入ってたんだけどね」

 あかねはなんでもないことのように言うが、ここまで来るのには波乱があっただろう。
 あかねはニコニコと言う。

「私が男と結婚なんてするわけないじゃなーい」
「そう……なの?」
「気にしてくれてたの? 綾さん。嬉しいな」
「…………」
 口調まであいかわらずだ。19年前にタイムスリップしたよう。何も変わっていない。

 ふっと息をつく。ようやく少し落ち着いてきた。

「あかねが教職課程取ってたのは知ってたけど、本当に先生になるなんて思いもしなかった。演劇の道にいくのかと思ってた」
「んー……母の離婚が決まって、安定した職につかないとって思ったところもあるんだけど、もう表舞台はいいかなーと思って」
「……」

 お母さんとは確執があったのに……。
 19年。19年で色々なことがあったのだろう。

「でもやっぱり先生になって正解。こうして綾さんと繋がりを持つことができた」
「…………」

 どこまで本気なのか分からない。

「でも、こんな偶然……」
「偶然じゃないよ?」

 あかねはニッコリと言う。

「5年くらい前かな……綾さんが日本に帰ってきてるって噂聞いたの。その時すぐに探して会いに行きたかったけど、追い返されたりしたら悲しいから、我慢我慢。と思って、綾さんと確実に繋がりを持てる方法を考えたの」
「え……」
「で、たぶん娘さんを母校に入学させるんじゃないかな? と思って、この学校にきたってわけです」
「え……」

 この学校に、きた……?

「ここ名門だもんね。母と子、どころか、おばあちゃんから3代続いてこの女子校って子も多いでしょ?」
「そうだけど……、でも……」
「私、演劇部の顧問としては結構有名なのよ? 前の学校でもその前の学校でも全国大会に行かせてるし。その実績をこの学校へのアピール材料に使って、一昨年、無事にこちらで採用していただきました。娘さんの在学中に間に合って良かった」

 ピースサインをするあかね。

「え……じゃ、本当に私のために……?」
「うん。もちろん。まあ、万が一、娘さんが入学してこなかったとしても、綾さんの卒アルとか見られたから、それだけでもこの学校にきた甲斐はあったけどね。中学生の綾さん可愛かった~」
「そんな……」

 呆気にとられてしまう。

「なんでそこまで……」
「なんで?」

 あかねが首をかしげる。

「なんでって決まってるじゃない?」
「え?」
「20年たったら確かめに行くっていったでしょ?私」
「………っ」

 うそ…………

「あ、ごめん。まだ19年だった。あと一年待たなくちゃいけなかったか………」
「ちょ、ちょっと待って。そういう問題じゃなくて、本当に、そんな……」

 確かに、別れる時に、あかねは言った。

 住む場所も変えない。電話番号も変えない。いつでも私のところに帰ってきて。
 それでも帰ってこなかったら、私の方から会いに行く。
 20年後、綾さんが幸せかどうか、確かめに行く。

「会いにきたよ。綾さん」
「あかね……」

 すっと手を取られる。今度は強く握られ離せない。

「綾さん……」
 あかねの漆黒の瞳が真っ直ぐに見つめてくる。

「今、幸せ?」
「…………」
 即答でうなずけない私……。あかねに気づかれてしまう……。

 
 うつむいていたら、昔と同じように軽く指先にキスされ、パッと離された。

「じゃ、佐藤さん。個人面談、はじめましょうか?」
「…………」

 あかねが机を挟んだ正面の席に移り、トン、と書類をそろえた。私もキスされた指をぎゅっと握りしめて座りなおす。
 顔をあげたあかねは、もう先生の顔になっていた。

「佐藤さん……大変申し上げにくいことなんですが」
「はい」
 ドキリとする。まるで別人だ。

「美咲さん、イジメに加担していると思われます」
「……………え」

 その言葉に一気に現実に引き戻された。

 美咲が………イジメ?

「一緒に対応を考えていきましょう」
 一之瀬先生が、力強くうなずいた。

 

----------------------------------------------------------



あかね、ストーカーみたいで怖い……。

と、思わないでもない今日この頃……。

まあでも、あかねさん、19年間散々遊んでますからね。
でも、綾さんを上回る人には出会えなかった。
というか、あくまで綾さんが本命で、他は遊びと割り切って付き合っていた。

2か月前、綾さんを発見してからは、女関係全部清算して、今は綺麗な身です。

綾さんは今つらい状況に置かれています。
そんな話が次回に続く。また来週の月曜日。


でも、その前に。
どうもこの「~光彩」長くなりそうな予感がしてきた…
終わるまで我慢できないので、明日は慶と浩介の話を書こうかなあと思ったり。
R18のね…頭の中にとめておかれてニヤニヤがとまらなくて変な人になってるから今わたし。
吐き出そう吐き出そう…。


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