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BL小説・風のゆくえには~遭逢3(慶視点)

2015年11月30日 07時26分41秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 あの日以来、おれは気がつくと『あいつ』の姿を探していた。

 でも結局見つからなかった。
 バスケ部員かもしれないから、バスケ部の練習を見に行く、という手もないことはないんだけど、バスケ部には顔を合わせたくない奴がいるから顔をだしたくなくて……。
 ジャージの色が同じだったから、同じ一年生だということは確かなんだ。でも、一学年12クラスもあるから偶然会うということは無理なのだろう。休み時間にそれとなく他のクラスにも顔を出してみたけれど、結局会えず……。
 

 でも、たぶん、今日は会える気がする。おれはこの日がくるのをずっと待っていた。

 今日は『あいつ』を見た日からちょうど二週間。先週の木曜日はGWで休みだったから、あの日以来、初めての学校のある木曜日。
 『あいつ』が毎週木曜日に一人で練習しているかどうかは分からない。でも、確信みたいなものがあった。『あいつ』は必ずいる……。


 担任に頼まれた用事をすませて教室に戻ってきたら、もう5時近くになるところだった。2週間前とちょうど同じ時間だ。あわてて教室を出ようとしたところで、

「し、渋谷君っ」

 いきなり声をかけられ、立ち止まった。振り返ると、隣の席の石川さんが、緊張した面持ちでカバンを胸に抱えたまま立っている。

「……石川さん?」
「ど、どうしたの? 渋谷君がこんな時間まで残ってるなんて珍しい……」
「そう?」

 ん? そうか、珍しいか。でもそれはお互い様のような気が。

「石川さんこそどうしたの?」
「あ、私は華道部で……今日は早めに終わったんだけど忘れ物しちゃって……」
「ふーん」

 もう5時だもんな。特別届がでている部活の人間以外は5時半には下校しなくてはならない。
 だから『あいつ』も5時半までしかいられない。早く行かないと……
 おれは『あいつ』のあの心の底からの笑顔を、ヘタックソなくせに一生懸命なところを、もう一度みたいんだ。

「じゃ」
 こんなところで時間を潰しているわけにはいかない。石川さんに手を振りさっさと出て行こうとしたころで、

「おやー? お二人さん。逢引きですかー?」

 今度は同じクラスの安倍康彦、通称ヤスの調子の良い声に引き留められた。

 次から次へとなんなんだっ。

「あ、安倍君っ」

 石川さんが真っ赤な顔になってヤスにつっかかっている。

「あ、逢引きって、そんな私はただ忘れ物取りにきて、それで……」
「それだけのわりに顔赤いよー?」
「そんなこと……っ」
「…………」

 どーでもいい………

「じゃーな」

 ヤスにも手をあげ、ドアに向かう。
 こんなところで時間を取られている場合ではない。『あいつ』が帰ってしまったらどうしてくれるんだ。おれの心は体育館の『あいつ』のことでいっぱいで、それ以外のことは考えられない。が、

「なんだよ、渋谷、逃げるのかー?」

 逃げる?
 ヤスの声にピクリと立ち止まった。逃げるとは聞き捨てならない。振り返り、吐き捨てるように言う。

「あほらしくて付き合ってらんねーだけだよ。ばーか」
「え………」
「え?」

 すると驚いたことに、石川さんが真っ赤だった顔を真っ青にして、口に手をあててブルブル震えだした。

「石川さん?」
「あの……っ」
 石川さんは、おれの顔をじーっと見てたかと思うと、

「ごめんなさいっ」
 ダーッと横をかけぬけていってしまった……。

「……なんだあれ?」

 理解不能………。
 おれがつぶやくと、ヤスにあきれたように言われた。

「石川さんはお前のこと好きなのに、どうしてああいう言い方するんだよ」
「は?」
「だからー」

 ヤスの言うところによると、ヤスは石川さんの友達の枝村さんから頼まれていたそうなのだ。渋谷に好きな人がいるかどうか調べてほしい。石川さんが気にしてる、と。

 ………どーでもいい。

「興味ねえ」
 いうと、ヤスは興奮したように、石川さんといえばクラスで1、2を争うくらい人気のある子なのにもったいない!と騒ぎ立てはじめた。

 おれとしてはこんなところで時間を潰している時間のほうがもったいない。『あいつ』のことを見れなくなってしまうではないか。『あいつ』のあの笑顔を思い出して、走りだしたくなってるおれの気なんか知らずに、ヤスは一人で騒いでいる。

「あーもったいない!もったいない! あんな可愛い子、他にはいないぞっ」
「あ、そういうことか」

 ヤスのすごい剣幕を見ていて、ようやく気が付いた。

「ヤス、お前、石川さんのこと好きなんだ?」
「え?! いや、オレはそんな………っ」

 分かりやすく動揺するヤス。
 アホだなこいつ。

「だったらおれとくっつけようとしないで、自分が何とかしろよ」
「いや、だから、石川さんはお前のことがだな」
「おれは興味ねーから」
「でも」

 あーとかうーとか言っているヤスに指を突きつける。

「言っただろ。おれはおれより10センチ以上背の低い子にしか興味ねえの」

 石川さんの身長はおれとたいして変わらない。

「渋谷より10センチ以下って、150センチ以下ってことだろ? そんなこと言ってたら、彼女できねえぞ」
「ほっとけ」

 ヤスに一回蹴りを入れてから、教室を出る。

「渋谷ー、もう帰るなら一緒に帰ろうぜー? オレももう委員会の仕事終わったんだよー」
「悪い。まだ帰れない」

 背中にかかった声に振り返りもせず、後ろ手に手を振り、廊下を走りだす。

 そう、まだ帰れない。おれは『あいつ』に会うまで帰れない。


***


「慶はその男の子のことが羨ましいのね」

 体育館に向かいながら、姉に言われた言葉を思いだす。

 2週間前、『あいつ』を見たあと、走って家に帰ってきたおれは、物置の中にずっと入れっぱなしだったバスケッドボールを数か月ぶりに引っ張りだして、近くの公園にいった。
 久しぶりのボールの感触。でもすぐに手に馴染む。久しぶりなのにへそを曲げることもなく、おれのいうことを良く聞いて、素直にゴールにも入ってくれる。

 もうバスケに未練はない、と思っていたのに、ほんの少し胸がざわつく。

 時間を忘れてシュート練習をしていたら、姉が「ご飯、そろそろできるわよ?」と呼びにきてくれた。

「珍しいわね? 慶がバスケするの」
「うん……」

 バスケをするのも珍しいが、姉と二人きりで話すのも、数か月ぶりだ。……ずっと避けてきたから。

「何かあった?」
「うん……」

 パンッとパスをすると、パシュッと受け止めてくれる。そして、パンッと心地よい強さでボールを返してくれる。姉も中学まではバスケをやっていたのでそれなりの球を投げられるのだ。

 小さい頃からずっとそうだった。姉はいつでもおれのそばにいておれのことを受け止めてくれていた。

 でも……
 おれのことだけ受け止めてくれていた姉に、恋人ができた。キューピットとなったのはあろうことかこのおれだった。

 昨年の夏……
 おれは試合後の居残り練習の最中に、足に激痛が走り倒れてしまった。診断結果は『膝前十字靭帯損傷』。
 今後のことを考え、手術を選び、その後の鬼のようなリハビリにも耐えていたおれ……

 しかし、リハビリを担当してくれた近藤先生と姉が付き合うことになったのは、計算外だった……。

 順調に回復したため、今はもう、スポーツに対する制限は何もないのだが、でも、もう、バスケはいいかな……と思ってしまった。
 元々姉がやっていたのでやり始めたバスケ。姉が喜ぶから中学もバスケ部に入っただけだし、特別バスケが大好き、というわけではなかった。それどころか、自分の背の小ささを再認識させられることも多いし、レギュラー争いでチームメートと揉めたりもしたので、自分にバスケは向いてない、とも思っていた。だからこの怪我はバスケをやめる良いキッカケになった気さえしていた。

 それなのに、入学した高校のバスケ部の顧問の上野先生は、どうしてだかおれのことを知っていて、しつこくバスケ部に誘ってきた。まあ、すべて丁重にお断りしたわけだけれども……

(でも、考えてみたら、2週間前、上野に呼びだされてなかったら『あいつ』を見ることもなかったんだよな……)

 そう思ったら上野先生に感謝したくなってきた。

 上野先生には「バスケ以外にやりたいことがあるのか?」と聞かれたけど、何も答えられなかった。

 正直にいって、今のおれには何もない。毎日勉強して寝てるだけだ。

「慶はその男の子のことが羨ましいのね」

 姉の言葉は的を射ているのかもしれない。おれは一生懸命ゴールに向かってボールをなげていた『あいつ』が羨ましかったのかもしれない……


 体育館への階段を、心臓をバクバクいわせながら、一歩一歩のぼる。
 体育館の外へ向かう扉……開いてる。誰か中にいるってことだ。

(いる……かな)

 心臓が口から飛び出そうになりながら、そっと中をのぞいたが……

「…………いねえし」

 思わず声に出してつぶやいてしまった。
 体育館の中はガランとしていて人っ子一人いない。気味が悪いほど静まりかえっている。

「ばっかみてー……」

 何をこんなに心臓ドキドキさせながら来てんだよおれ。何この二週間ずっとこの日を待ってたんだよおれ。

 ホント、ばかみてー……

「それにしても……」

 なんでこの体育館開けっ放しで電気までついてんだ? 紛らわしいな。消し忘れか?

「ま、関係ねーな」

 くるりとふりかえり……

「!!」
 ぎょっとするっていうのはこういうことをいうんだな、と思った。

「な………」

 あいつが目の前に立っている。
 思っていたよりも背が高い。優し気な目元。スッと筋の通った鼻。長い手足……

「あ………」
「あーーーーー!!!」

 おれが何か言う前に、奴が大きく叫んでおれを指さした。

 な、なんだ?!

 奴は口をパクパクさせ、一回口を閉じてゴクンと唾を飲みこんでから、また、大声で叫んだ。

「あーーーー!!」
「えええええ??」

 な、なんなんだ? なんなんだよ一体!?

 呆気に取られてるおれの前で、奴はパンパンパンっと自分の頬をたたくと、その手を頬においたまま……というか、その手がだんだん下がってきてるから、ムンクの叫びみたいになりながら、また、叫んだ。

「渋谷、慶!!」
「…………へ?」

 なんでおれの名前を?

 奴はムンクの叫びのポーズのまま、おれを見下ろしてブツブツ言っている。

「本物だ……本物の渋谷慶だ……すごい……どうしよう」
「………は?」

 何が本物? 何がすごいって? こいつ何言ってんだ??

「お前、何を……、えええっ」
「わあああああっ」

 腕に触れようとしたら、びっくりするほどの勢いで遠のかれたので、驚いてしまう。だから、なんなんだよっ。

「お前、さっきからなんなんだよっ。意味わかんねえだろっ。ちゃんと説明しろっ。なんでおれの名前を知ってる?!」
「あ……はい」

 おそるおそる……という感じに奴は戻ってくると、なぜかお祈りをするように手を組みながら、

「あの……おれ、昨年の夏に十中であったバスケの試合で、渋谷のこと見て、それからずっと渋谷のファンで、あの……その……」
「夏の十中の試合……」

 おれのバスケ生活最後の試合だな……

「渋谷も白高だったなんて知らなかった……会えるなんて感激すぎて……」
「…………」

 なんだそりゃ。

「渋谷はどうしてバスケ部入ってないの? あ、そうか、クラブチームとかそういうのに入ってるの?」
「…………」

 くらくらするほどの尊敬の眼差しを真っ直ぐに向けられ、なんだか申し訳なくなってくる……
 でも、だからこそ、生半可な答えをしてはダメな気がして正直に答える。

「おれ、バスケはもうやめたんだよ」
「え?! どうして?!」

 当然の質問に、おれ自身も惑いながら答える。

「お前が見たっていう十中での試合の後に怪我して手術したりしてな」
「えええええっ」

 いちいちウルサイ。

「ご、ごめんっおれ、全然知らなくて……っ」
「ああ、違う違う。別にもう普通に運動していいんだよ。怪我のせいでバスケやめたわけじゃないんだ」
「じゃあ、どうして?」

 首を傾げた奴に、おれも首を傾げてみせる。

「うーん。どうしてって……。まあ、バスケをやる理由がないからってとこかな」
「理由………。あ、あれ、おれ、ボールどうしたっけ」
「ボール?」

 少し離れたところにボールが転がっている。おそらく外に出てしまったのを拾いにいって、おれに会って驚いて手から離してしまったのだろう。

「お前、一人で練習してんのか?」
「うん……おれすっごい下手くそだから、みんなに追いつくために練習しないとって思って」
「ふーん」

 うん。お前が下手くそなことは知ってる。
 でもあれから2週間か……少しはマシになってるのかな。

「ちょい、やってみ?」
「えええっ」

 無理、とか、緊張する、とか奴はブツブツ言いながらゴール下に行き、シュートをした。けれどもリングにあたり跳ね返ってきた。
 まあ、でも、リングにあたっただけ、2週間前よりはずいぶんマシになったといえる。

「あーやっぱり入らなかった……」
「まあ、あれじゃあ、入らないよな」
「え」

 振り返った奴に、ボールを寄こせ、と手招きする。受け取ったボールを頭の上に構える。

「手本。見とけ」
「え?」

 きょとんとした奴の目の前で、嫌味なぐらい綺麗なフォームでシュートする。当然ボールはキレイな弧を描き、ネットの中を通り過ぎていく。

「すごい……」
 途端にキラキラした目になった奴に、苦笑してしまう。

「別にすごかねえよ。こんなのお前でもすぐにできるようになる」
「うそだあ」
「うそじゃねえよ」
「うそうそ」

 言いながら奴がボールを取りに走っていく。

 その後ろ姿を見ていたら、なぜか無性に笑いたくなってきた。

 なんだろう、おれ、今、すげー楽しいかもしれない。
 もう、楽しめないって思ってたバスケなのに、こいつとだったらやってもいいって思ってる。

「なあ……」
「ん?」

 きょとんとこちらを見返す奴。そういや名前も聞いてなかったな……。そんなことを思いながら奴に言う。

「よければ、練習付き合おうか?」
「………え」
「あ」

 奴がびっくりしたように目を見開いたので、迷惑だったかと慌てて手をふる。

「あ、いや、別にいいんだ。ただ、一人で練習するよりはちょっとは……、え」
「……いいの?」

 真剣に問いかけてくる様子がなんだかおかしい。

「いいぞ?」
「本当に?」
「だからいいって」

 こっちは笑ってしまったけれど、奴はいたって真面目な顔をして、ボールを足元に置くと、ジャージできゅっと手を拭いてから、その手をこちらに差し出してきた。

「よろしくお願いします」
「あ……うん」

 おれもつられて手を差し出すと、奴はおれの手を両手で強く握りしめてきた。なんなんだこいつ……

「お前……名前は?」
「あ……はい」

 奴は、まだおれの手をギュウギュウギュウと握りしめたまま、ふわりとした笑顔になって、言った。

「さくらい、こうすけ、です」
「…………」

 さくらい、こうすけ……

 心の中でつぶやくと、なぜかドキンと心臓が跳ね上がった。

「よろしくお願いします」
「……おお」

 奴の優しい笑顔に、なんだか頭がクラクラしてきた。




-----------------


以上です。お読みくださりありがとうございました!
会えて良かったーもーあとはラブラブしてくださーいって感じです。はい。

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BL小説・風のゆくえには~遭逢2(浩介視点)

2015年11月28日 07時26分21秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢
 彼を初めて見た時の衝撃は、一生忘れないと思う。

 色褪せた世界の中で、眩しく輝いている唯一の光。

 『渋谷慶』……おれは彼のようになりたかった。


***

 県立白浜高校を進学先に選んだのは、学区内の公立高校の中で一番偏差値が高かったからだ。
 小学校、中学校と都内の私立校に通っていたのだが、高校はどうしても地元の学校に行きたいと、勇気をだして父にお願いした。父の出した条件は、学区のトップ校に進学すること。それだけだった。

「わーすごーい。桜井君、英語100点じゃん!」
「あ……うん」

 実力テストの結果にみんなが一喜一憂している中、隣の席の女子が勝手におれのテスト結果の紙をのぞきこんできた。

「うわー総合順位8位? すごっ」
「…………」

 何と答えたらいいのか分からず、とりあえずニコニコする。こういうときにはとりあえず笑っておけばいい、と本に書いてあったのだ。
 するとその女子は少し肩をすくめ、今度はおれの後ろの席の男子と話しはじめた。

「………」
 これ以上話しかけられなくて良かった、と思いながら、あらためて結果を見直す。

 やはり理数系が足を引っ張っている。英語と社会の1位で何とか8位まで引き上がった感じだ。

 父はこの結果で、おれがバスケ部に入部することを許してくれるだろうか……。


 高校生になったらバスケ部に入部するということは、外部の高校を受験することを決めたときから決めていた。というか、地元のバスケ部に入部するために、高校受験をしたのだ。

 それは、『渋谷慶』に会うため。理由はただそれだけだ。


 『渋谷慶』という光に出会ったのは、中学三年の夏のことだった。

 日曜日。おれはいつものように二駅先にある図書館に自転車で行ったのだが、この日は妙に人が多くて居心地が悪く、すぐに出てきてしまった。
 かといって、家には帰りたくなかったので、どうしようかな……、と図書館の入り口でため息をついていた時だった。

「本当にあたし、違う中学なのに行って大丈夫ー?」
「全然大丈夫だよ! おいでよ~とにかく見てよ!渋谷君のかっこよさを!」

 女の子が数人集まって騒いでいる。
 どうやら、この図書館の近くの中学校の体育館でバスケの試合をやっているらしい。彼女たちの一部は、それに出場している『渋谷慶』(ケイは慶應の慶と言っていた)のファンらしく、違う中学の友人を誘ってみんなで見に行くところのようだ。

(バスケか……)
 小学校低学年の時に、近くの公園で見ず知らずの男の子とやったことがある。詳しいことは覚えていないけれど、すごく楽しかった、という記憶だけは残っているせいか、バスケにはわりと良い印象を持っていた。

(行ってみようかな……)
 女の子達が歩きだしたので、自転車は図書館の駐輪場に置いたままこっそり後をつけていってみる。

 車通りの多い道の歩道を歩く。初めてみる景色。大きなマンション群。すれ違う中学生くらいの男子たち。前を行く女の子達の華やかな笑い声……

(………っ。またか……)

 すうっと目の前にスクリーンが張られたようになり、手で額を覆う。
 ブラウン管の中に閉じ込められて、外の世界が遠くなっていく……。

 小学校の高学年から時々起こっている現象なので、もう慣れっこといえば慣れっこなんだけれども、この状態で初めての場所を歩くのはちょっと怖い。遠近感が掴みにくいので慎重に歩かなくてはならなくなるのだ。

 ペースを落としたので女の子達からは離れてしまったけれど、何とかその中学に到着した。図書館から10分くらい。わりと近くてホッとする。

 校門を入ってすぐのところに体育館はあった。けっこう大きな体育館だが、外まで見学の人であふれていて、歓声も外まで鳴り響いている。

 吸い込まれるように入り口までいくと、ボールをつく音、人々の歓声が大きく聞こえはじめた。


 人だかりの頭の上から中をのぞきこむ。
 白のユニフォームと黒のユニフォームが入り乱れてコートの中を走り回っているのだが、

「!!」
 その中の一人の選手に目を奪われた。

(な………なに、あれっ)
 息が、止まるかと思った。

(光………)
 目に飛び込んできたのは、眩しい光。
 薄くぼやけた視界の中で、ただ一つの光。
 
 白いユニフォームを着た小柄な選手。まるで羽でも生えているかのような身軽さ。
 その選手にボールが渡るたび、女の子の黄色い歓声があがる。

「渋谷クーン!」
「きゃああああっ」

 ふわっと浮いているような柔軟さがあるかと思えば、直線をものすごい勢いで上がっていったり……目が離せない。何より、オーラみたいなものがある。どうしても皆、その選手に目が行ってしまうようだ。

(キラキラしてる……)

 おれも彼の美しい姿に釘付けになってしまった。彼の輝きを起点として、おれを覆っていたスクリーンがパラパラと崩れ落ちてくる。世界が鮮明になってくる……

(こんなに明るかったんだ……)

 世の中はこんなに明るかったのか。こんなにも物の形がくっきり見えるなんていつ以来だろう。
 心臓がウルサイくらいドキドキとなっているのを、上から押さえつける。苦しくて倒れそうだ。

「あと十秒!」
 監督らしき人の声。彼のチームは1点差で負けている。あと1ゴール入れば逆転だけど、あと十秒って……

「渋谷くん!!」
 きゃああっと一際大きい歓声が上がった。彼が敵チームの間をすり抜け、ゴール前までツッコんでいったのだ。
 ゴール下でジャンプする。でも、目の前にいた相手チームの長身の選手が、ほぼ同時にジャンプした。当然、身長差で彼が負ける……っ

(うわ………っ)
 ドキンっと心臓が跳ね上がった。

(笑った……)
 そう、彼は笑ったのだ。不敵に。ニヤリと。
 そしてその長身の相手選手から視線は外さず、ふっとボールを持つ手をさげ、斜め横にボールを落とした。そこにはいつのまに味方の選手がいた。

(か、かっこいい……)
 彼と入れ替わる形でその味方の大柄な選手がシュートをする。スルリと問題なくネットの中を通り抜けるボール。そして、試合終了のホイッスルが……

「きゃああああっ」
 一斉に歓声があがる。選手たちが挨拶を終わらせてからこちらに向かって歩いてきた。
 みんなに肩を抱かれ、頭をグリグリとなでられたりしている彼……

(すごく綺麗な顔の人なんだな。それに……)

 近くで見て、その完璧な美貌を再確認し、それから、背の小ささに驚いた。スタイルがいいから、遠目から見ていたときには、ここまで背が低いとは思わなかったのだ。こんなに小さいのに他のメンバーとまったく引けをとらないプレイをしていた彼をあらためてすごいと思う。

 彼のまわりに人が集まってきている。光に吸い寄せられているようだ。
 たくさんの人に囲まれ……おれからは見えなくなってしまった。

(……帰ろう)
 外に出ると、再びブラウン管の中に放り込まれた。
 慎重に歩きながら、彼の姿を思い出す。すると少しブラウン管の厚さが薄くなったような気がした。


***

 地元の高校に入学して、バスケ部に入ろう、と思ったのはそれから1週間後のことだった。
 『渋谷慶』をもう一度見たくて、彼の中学の下校時間を1週間ほど見張ってみたのだけれど会えなくて……。そうしたらふと、もしここで会えたとしてもただ見るだけで終わってしまうということに気が付いたのだ。

(だって、なんて話しかければいいんだ? ファンです!とか? ………あやしすぎる)

 だったら、高校でバスケ部に入れば、共通の話題ができる。きっと試合とかで会えるに違いない。彼が県外の高校に行ってしまっていたとしても、彼のチームメートには会えるはずだ。そこから話を通してもらおう……。


 数ヵ月後、無事に県立高校に入学し、父から許可が出て、バスケ部に入部できたのは、入学して2週間過ぎてからだった。
 『渋谷慶』と同じ中学出身のチームメイトは2人いた。この2人だったら彼が今どこにいるのか知っているだろう。でも、どう話しかけたらいいのかわからないため話せないでいた。

 おれはボールを扱う競技をしたことがほとんどないこともあって、新入部員の中でも群を抜いて下手くそだった。でも、優しい先輩方はそんなおれにもきちんと指導してくれた。凹むことも多いけれども、これも『渋谷慶』に近づくためだと思うと頑張れた。

 とにかくあの光をもう一度見たい……

 その気持ちは時が経つにつれ、大きく大きく膨らんでいた。

 どうしたらあんな風になれるんだろう。練習のない木曜日、顧問の上野先生に許可を取って体育館で自主練習をさせてもらい、『渋谷慶』のことを考えながらシュート練習をしてみた。でもちっとも思ったようにはボールは飛んでくれない。何球投げても外れるばかりだ。

 そうこうしているうちに、終了のチャイムがなってしまった。結局一球も入らなかった。これでは『渋谷慶』にはなれない。やっぱり無理なんだろうか。おれなんかがそんなことを思うのは図々しいことなんだろうか……

 でも。

 半分やけくそで投げた最後のボールが、偶然にもゴールネットの中に吸いこまれていってくれた。

「………良かった」

 ホッとした。まだだ。まだ頑張っていい、と言われたような気がした。




--------------


以上です。
お読みくださりありがとうございました!!
中学生・高校生の浩介。……暗い。暗すぎる。おかげで書くのに時間がかかりました。
次は明るい慶君視点。よろしければ次回もお願いいたします!

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BL小説・風のゆくえには~遭逢1(慶視点)

2015年11月26日 08時08分08秒 | BL小説・風のゆくえには~ 遭逢

 おれが『あいつ』の姿を初めてみたのは、高校に入学して3週間目の木曜日のことだった。

 それからずっと『あいつ』はおれの中に存在し続けた。とにかく気になる。もう一度、その姿を見たくてしょうがない。

(……って、なんだそりゃ。意味わかんねえっ)

 あの時、数分見ただけの『あいつ』の姿にここまで心が支配されていることに腹立ちすら覚えていた。

 だから、とにかくもう一度、『あいつ』のことを見たい。見なくてはならない。


**

 県立白浜高校を進学先に選んだことに特に意味はなかった。
 学区内の公立高校の中で一番偏差値が高かったことと、家からバスで一本で行けることが理由だったといえば、そうなるのかもしれない。

 白浜高校は、浜という字が付くくせに海が近くにあるわけではなく、それどころかちょっと小高い丘の上にある。元々は「白浜」ではなく「白早馬」と書き、それが変化して「白浜」になったとかなんとか入学式で説明があったけれど、まあ、そんなことはどうでもいい。

 高校生活、それなりに色々と期待していたけれど、すぐに色々な意味でどん底に突き落とされた。

 まず、勉強面。
 しょっぱなの実力テストで後ろから数えた方が早い順位をとってしまい、愕然とした。中学時代、学年10位以内の成績を収めていたのは、単にうちの中学のレベルが低かったからだった、ということを思い知らされた。
 授業の進みも早いので予習復習もかかせない。帰宅後も受験勉強していたころとたいして変わらないくらいに勉強するはめになってしまった。

 それから、クラスの女子。……理想の子がいない。
 中学時代はバレンタインもたくさんもらったし、告白されたことも何度もあるくらいには、不思議とモテた。でも、全部お断りしていた。理想の女の子がいなかったからだ。

 おれの理想は、おれより10センチ以上背の低い女の子。自分より背の高い女子と付き合うのは絶対に嫌だったし、低いとしても何センチか低いだけでは、少しヒールのある靴をはいたら並ばれてしまう。だから10センチは絶対に差が欲しい。そして、優しくて気が利く女の子らしい女の子だったら文句はない。

「そんな女子、いねえだろ」
 同じクラスの安倍康彦、通称ヤスに呆れたようにいわれ、

「いないことはない」
 ムッとして答える。だって、実際にいる。すごく身近に。

「そうなのか? 同じ中学のやつとか?」
「……違うけど」

 まさか自分の姉だとは言えず押し黙る。8歳年上の姉は、おれよりちょうど10センチ背が低く、優しくて女らしくて……
 そうとも知らないヤスがニヤニヤと聞いてくる。

「じゃあ、渋谷はその女のことが好きってことか?」
「………別に好きじゃない」

 姉なんだから当たり前だ。しかも……

「それにそいつ、彼氏いるし」
「それは残念」

 全然残念そうじゃなく言うヤス。ヤスとは入学して早々すぐに仲良くなった。なぜか昔からの友達みたいな感じがして、一緒にいて居心地がいい奴だ。

「オレ、高校生になったら、キラキラした毎日が送れるのかなーって思ってたんだよなー」
「わかるわかる」

 ヤスのため息に大きく肯く。

「ホントだよ。なんか勉強ばっかしてる。おれ」
「渋谷、部活やんねえの? 中学の時、何部だった?」

 ヤスに聞かれ、ちょっと詰まる。けど、隠す話でもないから言う。

「バスケ……だけど、バスケはもういいかなあって思ってて」
「ふーん?」
「お前は?」

 つっこまれたくなくて、すぐに質問返しすると、ヤスが泳ぐ動作をした。

「水泳か」
「でも、この高校、プールないから水泳部ないしな」
「ああ。水泳部あったら水泳部でも良かったんだけどなあ」

 二人でダラダラと話しながら学校を出る。

 これから三年間、こんな感じに毎日が過ぎていくのかと思ったらゾッとした。おれの高校生活、勉強だけ? 楽しい青春は? 
 そう思いつつも、勉強におわれ、日々の生活におわれ、三週間が過ぎ………

 そうこうしているうちに、運命のあの日がやってきたのだ。


***

 入学して三週間目の木曜日。体育の上野先生に呼び出され、体育教官室でくどくどと話しをされ、ようやく解放された時には5時近くになっていた。

(さっさと帰らないと、明日の小テストの勉強が間に合わねえ)
 ブツブツ文句をいいながら、急ぎ足で体育館の前を通り過ぎようとしたのだけれど……

「?」
 中から聞こえてくるボールをつく音に足をとめた。

「なんだ?」 
 木曜日はバスケ部定休日なはず。バレー部は外のコートで練習してたし、他に体育館使う部活なんかあったっけ?

 不思議に思いながら、半開きになったドアから中をのぞきこみ……

「!」

 なぜだか、心臓が跳ね上がった。
 広い体育館で、一人、バスケットボールをついている男子生徒……。なぜだろう。奴のまわりには切ないような空気が漂っている。

 ふいに奴は、ボールをつく動作をやめ、胸元にボールを抱えた。
 そして、軽い気合いとともに、ゴールに向けて球を投げたのだが……

「……………え」

 ポカーンとしてしまった。

「………なんだ、ありゃ」

 おもわず、つぶやく。

 ボールがありえないほど、まったくのあさっての方角に飛んで行ってしまったのだ。

(へ……下手すぎる!)

 いまどき小学生でも、もう少しマシな球を投げるだろう。どんだけ下手くそなんだ。

 それなのに………

「…………」

 奴はゴールに向かってひたすらボールを投げ続けていた。でも全く意味がない。基本が何一つできていないんだ。と、いうか、基本以前に、腕立て伏せでもやって鍛えろ!って感じだ。腕力も小学生並とみた。

 それなのに…………

(なんでだ?)

 なんでそんなに一生懸命なんだ? ひたすら、ひたすら、ゴールに投げては、外れたボールを拾いにいき、また投げて………

「…………」

 入らなくても不貞腐れることもなく、ただひたすらに………

 なんだか切ない……と思うのはなぜだろう。胸がしめつけられるほど、その姿は切ない……

「!」

 突然のチャイムの音に、奴もおれもビクッとなる。
 5時半のチャイムだ。もう帰らなくてはならない。

(おれ、こんな下手くそな奴のこと、30分以上も見てたってことか……)

 自分で呆れながら、もう帰ろう、と立ち去りかけたのだが、

「………っ」

 息をのんだ。
 最後の一回、とばかりに、奴の投げたボールが吸い込まれるようにゴールネットを通り過ぎたのだ。

(入っ………た)

 バンバンバン……とネットを通り過ぎたあとのボールがバウンドしている。

「入っ……た」

 奴がボソッと言った。思っていたよりも少し高めの声……
 奴はバウンドしているボールをじっと見つめていたが……

「良かった」
 奴は、大きくため息をついたあと、ニコッと笑った。その笑顔……

(……なんだそりゃ)

 ぎゅっと心臓が鷲掴みされたようになる。なんだ、お前。その嬉しそうな顔……


 その後、慌てたように後片付けをはじめた奴を背に、おれは帰途についた。

「あいつ……なんなんだ。あいつ」

 思わず言葉に出てしまう。

 あんなに下手くそな奴、見たことない。
 あんなに一生懸命な奴、見たことない。
 あんなに心の底からホッとしたような笑顔、見たことない。

「………変な奴!!」
 なんだか走りだしたくなるような、イライラするような、いてもたってもいられない気持ちが体中を廻って落ちつかない。

「走るかっ」
 どうしようもないので、バスに乗るのをやめて走って帰ることにした。
 走りながらも、どうにもこうにも、『あいつ』の姿が頭から離れてくれない。背が高めで、おとなしそうな顔してて、それでいて笑顔はあんな………

「………くっそー……」

 そういや、明日小テストがあるから早く帰って勉強しようと思ってたのに……
 明日のテストに失敗したら、全部全部『あいつ』のせいだ!!

 名前も知らない『あいつ』に頭の中で八つ当たりしながら、とにかくとにかく走った。
 でも、全然落ちつかない。

 この気持ちをどうにかするためにも、おれはもう一度、『あいつ』に会わなくてはならない。



-------


以上です。
お読みくださりありがとうございました!!
高校生の慶君。初々しい。お前さん、それは恋だよ。一目ぼれだよ……。

次回は暗い暗い浩介視点。よろしければ次回もお願いいたします。

--
クリックしてくださった方々、本当にありがとうございます!
もう、ありがたすぎて、今日も朝から画面に向かって拝んでおります。本当にありがとうございます!!
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風のゆくえには~あいじょうのかたち 目次・あらすじ

2015年11月23日 11時44分38秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

目次↓

R18・読切は、本編中の出来事ではありますが、読まなくても大丈夫です。ご参考までに載せてみました。

R18 『風のゆくえには~R18・聖夜に啼く』
あいじょうのかたち1(浩介視点)
あいじょうのかたち2(樹理亜視点)
あいじょうのかたち3(慶視点)
あいじょうのかたち4(浩介視点)
あいじょうのかたち5(樹理亜視点)
あいじょうのかたち6(慶視点)
R18 『風のゆくえには~R18・負傷中の…』
R18 『風のゆくえには~R18・リベンジ』
あいじょうのかたち7(浩介視点)
あいじょうのかたち8-1(南視点)
あいじょうのかたち8-2(南視点)
あいじょうのかたち9(慶視点)
あいじょうのかたち10(浩介視点)
R18 『風のゆくえには~R18・黒い翼』
あいじょうのかたち11(慶視点)
あいじょうのかたち12(浩介視点)
あいじょうのかたち13(樹理亜視点)
あいじょうのかたち14(慶視点)
あいじょうのかたち15(浩介視点)
読切 『風のゆくえには~あいのしるし』
あいじょうのかたち16(樹理亜視点)
あいじょうのかたち17(慶視点)
あいじょうのかたち18-1(浩介視点)
あいじょうのかたち18-2(浩介視点)
あいじょうのかたち19(戸田先生視点)
あいじょうのかたち20(浩介視点)
あいじょうのかたち21(慶視点)
あいじょうのかたち22(谷口さん視点)
あいじょうのかたち23(浩介視点)
R18 『風のゆくえには~R18・嫉妬と苦痛と快楽と』
あいじょうのかたち24(慶視点)
あいじょうのかたち25(樹理亜視点)
あいじょうのかたち26(浩介視点)
あいじょうのかたち27(慶視点)
読切 『風のゆくえには~カミングアウト・同窓会編』
あいじょうのかたち28-1(浩介視点)
あいじょうのかたち28-2(浩介視点)
あいじょうのかたち29(慶視点)
あいじょうのかたち30-1(浩介視点)
あいじょうのかたち30-2(浩介視点)
あいじょうのかたち31(慶視点)
あいじょうのかたち32(浩介視点)
あいじょうのかたち33(慶視点)
あいじょうのかたち34(浩介視点)
あいじょうのかたち35(慶視点)
あいじょうのかたち36(浩介視点)
あいじょうのかたち37(慶視点)
あいじょうのかたち38(浩介視点)
あいじょうのかたち39(慶視点)
あいじょうのかたち40-1(浩介視点)
あいじょうのかたち40-2(完)(浩介視点)


あらすじ↓

高校時代からの恋人、桜井浩介と渋谷慶。
約8年間、東南アジア某国で暮らしていたけれど、訳あって帰国。
浩介の両親との長きにわたる確執にとうとう向き合うことになる。
人それぞれの「あいのかたち」を追求しました。

私の一番お気に入りの話は、「あいじょうのかたち15」です。慶がねーもーねー……



-----------

クリックしてくださった方、本当にありがとうございます!!
今朝も画面二度見して、うおえ?!という意味不明な声をあげてしまいました。

20年前は、一人でこっそりノートに書き綴り(誰にも読んでもらったことありません)、
読み返してはただ自己満足に浸っていたわけですが(いまだにその感覚で、よく自分の書いたものを読み返してはニヤニヤしてます)…

そうして生まれでた慶と浩介の行く末を、こうして見ず知らずの方にも読んでいただけるなんて……なんて幸せなんでしょうか。夢にも思いませんでした。本当に本当にありがとうございます。

彼らは私の中にリアルに存在しているという感覚なので、特別にものすごい事件が起こったりはしません。。
なので、読みに来てくださる方がつまんないかな退屈かな……と悩んだりもしたのですが……。
でも!これまで通り、日常を綴らせていただきます。引き続き、二人が幸せになれるようお見守りいただけると嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします!


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風のゆくえには~ あいじょうのかたち40-2(浩介視点)・完

2015年11月23日 08時23分31秒 | BL小説・風のゆくえには~ 愛情のかたち

 写真撮影の3日前。
 慶と二人で陶子さんのバーを訪れた。このバーは普段は女性専用なのだけれども、偶数月の最終土曜日のみ、男性のカップルも入店が許されるのだ。

「フォトウェディングっていうんでしょ?」
「そうそう。流行ってるわよね」

 偶然来ていたおれの友人、一之瀬あかねが、カウンターの中でリンゴを切っている目黒樹理亜に向かってうなずいている。あかねによると、今回のおれ達のように、結婚式はせずに写真だけ残すカップルは今多いらしい。

「いいなあ。見に行きたーい」
「ねー。私も行きたーい」
「ダメ」

 一刀両断に断ってやる。

「なんで?!」
「まず、目黒さんは絶対に慶とのツーショット写真撮ろうとするからダメ」
「ぶー」

 ぶーぶー言う樹理亜を前に、おれの右に座っているあかねが「私は?私は?」と聞いてくる。まったく何言ってんだ。

「あかねはおれの元カノでしょ。元カノが元彼のウェディングにきてどーすんの」
「えーいいじゃないの」
「え、元カノ?!」

 樹理亜がげげげっとツッコんできた。

「そうなの? え、2人そうだったの?!」
「そうよー。大学2年の終わりから10年くらい?」
「だね」
「うそー!」

 きゃーと悲鳴をあげる樹理亜に、おれの左に座っている慶が面白くなさそうに言う。

「ウソだよ。親の手前、恋人のフリしてただけ………だよなあ?」
「痛っ」

 カウンターの下で足を蹴られた。

「もー当たり前でしょっ。なんでおれがあかねなんかと」
「なんかとは何よっ」
「痛っ」

 反対側からも蹴られた。

「もー!二人とも!暴力反対! だいたい、恋人のフリする計画持ってきたの二人でしょー!」
「おお。そうだったな」
「懐かしいわね~」

 おれを挟んで2人が「ねー?」と笑い合っている。この2人、親しいのか親しくないのかイマイチわからない。

 と、そこへ

「ちょっと……いいかしら」
 静かな落ちついた声がカウンターの中から聞こえてきた。クレオパトラみたいな髪型をした、このバーのママの陶子さんだ。

「ララのことなんだけど……」
「…………」

 ララ、というのは陶子さんの姪の三好羅々のことだ。おれに睡眠薬を飲ませて、おれと性行為をしているように見える写真を撮った女の子。おれはその写真を見たことがないのだが(トラウマになるから、と慶がおれには絶対に見せないようにしてくれている)、見てしまった慶はその後しばらく様子がおかしくなってしまった。

 それ以降、おれ達の間では禁句になっている三好羅々の名前に、慶がピクリと眉を寄せた。
 そのことに気がついたであろう陶子さんは、慶には視線を向けず、おれとあかねに向かって話しはじめた。

「ララ、休学してた専門学校に復学したの」
「え!」

 思わず叫んでしまう。
 引きこもりから脱却したのか!

「それは良かったです。でも……」

 なぜ急に………。

 おれの言葉に、陶子さんがなぜかさみしげに微笑んだ。

「浩介先生のお母様の言葉が響いたらしくて」
「僕の母、ですか?」

 訳が分からない。あの人なにか言ったっけ?
 先月、父が退院するときに、羅々が突然現れ、おれの両親と少し話したは話した。でも何も心に響くようなことは言っていなかったけど………

 陶子さんは引き続き寂しげに、小さく言った。

「お母様に言われたんですって。『お嫁に行くときにこんな写真が出回ったら大変よ』って」
「…………え」

 それ?

「お嫁さんって、当然のように言われて嬉しかったんですって。女の子として認められてる感じがして」
「…………はあ」

 そんなことで? 女の子の気持ちはよく分からない………。

「それに『他に相手なんていくらでもいる』って言ってもらえて、うちにとじ込もっているのがもったいないって思えるようになったって」
「…………」

 意味が分からない……
 似たようなことは陶子さんだって何度も言ってきただろうに……

 陶子さんの寂しげな表情はそこからきてるのだろうか。今まで自分が言っても駄目だったのに、一度しか会ったことのない他人の一言で心動かされてしまったことに対するやるせなさというか……

 陶子さんは心を読まれたくないように、下をむいたままカクテル作りをしている。

「まあ……さ」
 あかねがぽつりと言った。

「言われるタイミングもあるわよね。同じセリフでも、もっと前に言われてたら受け入れられなかったかもしれないし。何がきっかけになるかはわからないわ。……ねえ、陶子さん」

 カクテルを差し出した陶子さんの手をふいに掴んだあかね。

「それを受け入れられる下地作りをしたのは、間違いなく陶子さんだよ?」

 あかねはにっこりとすると、両手で陶子さんの手を包み込んだ。

「だからそんな顔しないで。ララにとっての今のお母さんは間違いなく陶子さんなんだから」
「……あかね」

 一瞬泣きそうな顔になった陶子さんだが、すぐにいつものクールさを取り戻すと、すっと手をひっこめた。そして、からかう調子で言う。

「今さら口説いてもなびかないわよ?」
「あら。ダメだったか」

 あかねも笑って言うと、グラスを片手に立ち上がった。

「そろそろお邪魔虫は退散しまーす。樹理もおいで?」
「あ、うん」

 一生懸命リンゴの皮剥きをしていた樹理亜が、切り終えたものをタッパーにつめながら慶を振り仰いだ。

「慶先生、写真できたら見せてね?」
「わかった」

 慶が肯いている。あいかわらず慶と樹理亜、仲が良くてムカつく。

「じゃ、二人とも撮影頑張ってね」
「うん。紹介ありがとね」

 テーブル席に移動するあかねに手を振り、振り返ったところで、

「色々とご迷惑をおかけして、本当にごめんなさいね」

 陶子さんがあらたまった感じに、おれ達に頭をさげてきた。
 慶が今度は、いえいえ、と対応すると、陶子さんは伏し目がちに話を続けた。

「ララね、カウンセリングにも通わせはじめたの」
「あ……そうなんですか」
「今、猫も杓子もカウンセリングって感じで、正直ちょっと抵抗あったんだけどね。他人の力を借りるなんて……って思って」
「…………」

 言いたいことはわかる気がする。

「でも……猫も杓子も、だからこそ、行ってもいいかもって逆に思ったりして」
「なるほど」

 それもわかる。
 陶子さんは目を伏せたまま、言葉を続けた。

「お二人には迷惑かけて申し訳なかったけれど、ようやく一歩進めた気がするの」
「……はい」
「本当に、ありがとうございました」

 陶子さん、深々と頭を下げながら、碧くて綺麗なカクテルを差し出してきた。

「これはお詫びとお礼と、ウェディングのお祝いね」
「わあ。綺麗……」

 カクテルに見惚れていたら、現れた時同様、陶子さんはすうっといなくなってしまった。あいかわらず不思議な人だ。

(……大丈夫)
 あの陶子さんがクールな仮面をかぶり切れずに心配するくらい母として愛しているのだから、羅々はきっと大丈夫な気がする。
 おれはもう関われないので、せめて、遠くから幸せを祈っていよう。


「甘くておいしい」
 慶が一口飲んで、感嘆の声をあげた。そして、世間話の一つというさりげなさで言葉を継いだ。

「お前のお母さんって、良い意味でも悪い意味でも、すごい正直なんだよな。だから言われた方はその言葉が心に響いてくる」
「…………」

 おれには悪い意味しかなかったけど……

「美幸さんも……」
「え」

 慶が毛嫌いしている、おれの初恋の相手、美幸さんの名前を慶が口にしたのでビックリした。

「お前の母さんに『大丈夫』って言われて、気持ちが楽になったっていってただろ」
「………うん」

 以前、美幸さんの息子さんを遊ばせていた母の姿を思い出す……

「それってすごいことだよな。お前の母さん、ただ者じゃねえよ」
「なにそれ」

 笑ってしまう。
 でも慶は、真面目な顔で慎重に言葉を選びながら先を続けた。

「まあ、だから、なんだ。良い事は受け止めて、そうじゃないことは流せるようになればいいんだろうな」
「あ………うん」

 慶はたぶん、これを言うのに、今まで色々悩んでくれてたんだろうな……。
 そう思ったら、今すぐ抱きしめたくなってきた。けど、我慢我慢……。

「あとな……」
「うん」

 慶が迷ったように言う。

「お前の父さんと、こないだ二人だけで話したんだけど……」
「えええ?!」

 あの、恐ろしい父と二人きりで?! 慶と父のツーショット……想像できない。でも慶は、毎週火曜日に父の送迎をしてくれていたので、そんな時間があってもおかしくはない。
 おれの驚きを置いて、慶がポツポツと続ける。

「養子縁組とか考えてるのかって聞かれたから、それはないって答えたんだよ。そしたら、遺言書を作っておいたほうがいいって……」
「へえ……」

 あの人がそんなことを……

「お前の父さん、どうも、お前とどう接していいのかわからないって感じがする」
「え」

 どう接していいか?

「お父さん、あまり自分のお父さんと仲が良くなかったんだってな。だから余計に父親と息子の距離感が分からないというか……」
「そう……なんだ」

 祖父はおれが小さい頃に亡くなったからほとんど覚えていないのだけれども、とても厳しい人だったという話はきいたことがある。

 それにしても、あの父が慶とそんな個人的な話をするなんて……

 慶が、「だからな」と言葉を継いだ。

「せっかくこれだけ時間も空いたことだしさ、お前とお父さんは、大人と大人として新たな関係を築いていけたらいいなって思うんだよ」
「新たな……関係」

 そんなことが可能なんだろうか……
 想像しただけで今までの恐怖心がよみがえってきて、ぞわぞわしてくる。……が。

「浩介」
 沈み込んだおれを拾いあげるかのように、慶の優しい手がおれの左手に絡めてつないでくれた。

「大丈夫。おれがついてる。一緒に歩み寄っていこう」
「………慶」

 ぎゅっと握り返す。慶の温かい気持ちが本当に嬉しい。

 でも……。あの父と歩み寄れるものだろうか。あっちも歩み寄る気などないだろう。写真撮影も来ないって言ってたし……。


 と、思っていたのに。

「……お父さん」

 写真撮影当日……。来るはずないと思っていた父が、やる気満々(!?)でモーニングなんか着ているから、本当に驚いた。

「来て、くださったんですね……」
「ああ……渋谷君に言われてな……」

 不承不承、という顔をした父。この父を引っ張りだすなんて、慶はどんな魔法を使ったんだろう。

「先にお母様方、よろしいですか~?」
「あ、はい。じゃ、行ってますね」
「ああ」

 スタッフの声に、母がカメラの前に行くのを見送りながら、父が言葉を続ける。

「………俺ももう80を過ぎた。順番から言って、佐和子より俺が先に逝くだろう」
「…………」

 何を急に………

「俺がいなくなったあと、この写真を見返した時に、俺が写っていなかったら佐和子がさみしく思うだろう、と渋谷君が言ってな」
「…………」

 …………慶。

「だから、今日はお前のためにではなく、佐和子のために来たんだ」
「………」

 父が不貞腐れたように続けた。

「お前………俺がいなくなった後、佐和子のこと頼んだぞ」
「あ………はい」

 父が母のことをそんな風に大事に思っていたなんて意外だ。
 父はムッとしたまま言葉を継ぐ。

「俺はお前と渋谷君のことは理解できない。だが、お前がこの道しか選べないというなら、もう何も言わん」
「……お父さん」

 驚いた。事実上の容認だ。父がそんなこと言ってくれるなんて……。

「ただ、将来のことはちゃんと考えろ。金のことはきちんとしておけ」

 父はこちらを見ようともしない。

『大人と大人として新たな関係を……』

 慶の言葉を思いだし、ぐっと腹に力を入れる。

「お父さん」
「……なんだ」

 相変わらずの冷たい目にひるみそうになったけれど、その奥底に戸惑いが見えて思い直す。この人だって戸惑っているんだ……

「近いうちに、遺言書を作成したいと思っています。相談にのっていただいてもよろしいでしょうか?」
「…………。相談料とるからな」
「…………」

 ちょっと照れてる? 父は心なしか少し赤くなりながらおれの前を通りすぎ、慶と慶の父親のところへ行ってしまった。

 こうやって少しずつでいいから歩み寄っていけるだろうか……

 慶のおかげで父の愛の形が少しだけわかった今、昔とは違う気持ちで父と向き合える気がする。


「え……うわ……」
 撮影の場所を見ると、母と慶の母が並んで椅子に座りながら、裾の位置を直してもらったりしていた。その様子をみて思わず驚きの声をあげてしまう。何か小さく言い合い、クスクス笑っていたりする二人。20年ほど前、大げんかをしたらしい二人と同じとは思えない穏やかさだ。

「女なんてそんなものよ。どんなに腸煮えくり返っていても、笑顔で話せちゃう」
「……南ちゃん」

 おれの心を読んだかのように南ちゃんがいい、パシャリと二人の姿を写真に撮った。そして、あら、と気が付いたように言う。

「浩介さんのお母さん、3月に見た時よりもずっと表情が柔らかくなったね」
「………そうだね」

 母の行動にはさんざん悩まされ続けたけれども、これからは少しはマシになっていくのかな。……いや、マシになっていなくても、おれはもう逃げない。逃げないで向き合う。母の重すぎる愛に。自分勝手すぎる愛に。それが母の愛の形なのだから。
 慶が一緒にいてくれるから、向き合っていける気がする。


「では、新郎様方、お父様方もこちらへ」
「はい。じゃ、南ちゃん」
「はーい。プロとは違う視線からとるから楽しみにしててー」

 南ちゃんがニコニコと手を振ってくれる。
 南ちゃんがおれ達を撮りはじめてからもう何年になるだろう。高校卒業の時に門の前で撮ってくれた慶とのツーショット写真は、今でもお気に入りで寝室にコッソリと飾ってある。南ちゃんの写真には愛がある。


 6人での写真にはじまり、両親と息子だけの写真とか、母とツーショットの写真とか、丁寧に色々な取り合わせで撮ってくれ、かなりの時間を要したけれども、とりあえず、両親との写真撮影は終了した。

 疲れ切った様子の父と、興奮した様子で頬を赤らめている母が、着替えのために退出していく。その寄り添う姿……感慨深いものがある。おれが日本にいない間に、両親の距離はずいぶんと縮まったようだ。それだけの年月が経っている。この年月は無駄ではなかったのだと思いたい。


「では、お二人の写真撮りますので」

 カメラマンに呼ばれ、慶と二人でカメラの前に立つ。「目線こちら」だの「あっちを見て」だの「見つめあって」だの様々な要求をこなしていたが、

「あとはお二人の自然な感じを撮りたいので適当に話してください」
「え」

 いきなりそんなことを言われて、顔を見合わせてしまうおれ達……
 後ろのスクリーンはいつのまに教会から砂浜に変わっている。

「適当に話せと言われても……」
「あ、さっき、父に遺言書の話したよ」
「そうか。じゃあ、近いうちにお願いしような。どうせ書くならちゃんとした紙に書きたいから……」

「こらー二人ともー!」
 苦笑しているカメラマンさんの横で、南ちゃんが手を振り上げ怒っている。

「なんの話してるのよ! ちゃんとロマンティックな話しなさーい!」
「ロマンティックって」

 再び顔を見合わせ、笑ってしまう。でも、カメラマンにも促され、

「えーと……」
 顔を近くによせ、声をひそめた。たぶんこの音量ならカメラマンにも南ちゃんにも聞こえないだろう。
 
 あらためて、慶に思いを打ち明ける。

「慶、今まで本当にありがとうね」
「何が?」

 小首をかしげる慶。……かわいい。

「ずっとずっと支えてくれて。おかげで両親とこんな写真まで撮れて」
「写真、撮ることにして良かったよな」

 慶がふっと優しく笑った。

「おれも親にちょっとだけ恩返しができた気がする」
「うん………」

 慶の両親は、今日も終始楽しそうだった。慶と慶の両親のような適度な距離感が羨ましい。おれもこうなれたらいいな……

「これからもたくさんよろしくね?」
「ああ」

 慶と見つめ合う。ああ、今日の慶はいつもにも増して完璧だ。美しくて格好良くて。おれみたいな平凡な男が隣にいるのは申し訳ない……

「お前さ」
 そんなおれの気持ちを読んでいるかのように、慶の視線が真っ直ぐに向かってきて、ドギマギしてしまう。慶がふっといたずらっぽく笑った。

「実はそういう格好似合うのな。いいじゃん。王子っぽくて」
「ええええっ」

 そんな完璧王子の人に言われても、全然素直に受け取れないんですけどっ。

 言うと慶は肩をすくめた。

「何言ってんだよ。おれにとってお前は、唯一無二の王子様だよ」
「…………え」

 途端に自分が赤面したのが分かった。
 でも、慶、ニヤニヤしてる。これは……

「慶……からかってるでしょ」
「いや、そんなことねえよ。本心本心」

 いやいや、その顔、絶対からかってる! おれを照れさせて動揺させる気だなっ。それなら……

「慶……」

 真面目な顔を作って慶を見下ろす。

「これからもずっとずっと一緒にいてね?」
「当たり前だろ?」
「うん………」

 半笑いのままの慶の耳元に唇を寄せて、カメラマンと南ちゃんからは見えない角度でその白い耳に口づける。

「………大好きだよ」
「……………」

 慶、ちょっと笑った。
 ああ、愛しい慶……

「あー……」
 じっと見つめていたら、慶がいきなり大きくため息をついた。

「どうしたの?」
 聞くと、慶はボソボソと、

「あー今、すげー言いたい言葉がある」
「何? ………わっ」

 聞き返すのと同時に腕を捕まれ、引っ張られた。頬が触れ合うくらい近くに顔が寄せられ、心臓が跳ね上がる。

「慶?」

 名前を呼んだその時………耳元で優しい優しい声がした。 

「………愛してる」
「え」

 今、なんて………

 慶がゆっくり頬を離し、正面からおれを見上げ、柔らかく微笑んだ。

「浩介……愛してるよ」
「!」

 うわ……っ

 驚きのあまり息が止まりそうになる。

 愛してる、なんて、初めて………初めてだ。24年もあったのに初めて言われた。

「慶……」

 呆けたおれに、慶が少し笑った。

「………言葉にするとなんか嘘っぽいな」
「いやいやいやいやっ」

 思いきり首を振る。

「そんなことない。そんなことないよ」
「そうか?」

 微笑んだ慶。愛しい愛しい慶……。

「愛には色々な形があるって戸田先生が言ってたけど………」

 慶が静かに言う。

「おれは戸田先生みたいに一緒にいるだけ、なんて無理」
「うん………」

「愛したい。愛されたい。守りたい。そばにいたい。求めたい。求められたい。離れたくない。離さない」
「慶……」

 慶の強い目の光。なんて綺麗なんだろう。

「だから、ずっと一緒にいような?」
「うん……」

 手を繋ぎ、おでこを合わせる。

「慶……愛してるよ」
「……ん」

 気持ちが溢れて、止まらない。愛してる。愛してる……

「はい! ありがとうございました!」
「!」
「!!」

 はっとして慌てて飛び離れる。
 撮影中だということ、すっかり忘れてたーーーー!!

「ちょっと二人ともーー!」

 きゃーっという南ちゃんの声。

「すっごい良い写真撮れちゃった! やっぱり売ってもいい?!」
「売るなっ」

 はしゃいだ南ちゃんに、慶が真っ赤になって怒鳴り返している。

 ああ、昔から変わらないなあ……

「お前も何とか言えっ」
「んー……」

 ムキになっている慶にニッコリという。

「モデル料は売値の80%でどうかな」
「あほかっ」

 ガシッと蹴られた。

 慶……昔から変わらない。そしてこれからも変わらない……

「慶、大好きだよっ」
「人前で言うなっ」

 真っ赤になった慶に怒られる。


 ねえ、慶。おれ達、ずっと、ずっと一緒にいよう。一緒に生きよう。求め合おう。愛し合おう。

 それがおれの愛の形。

 おれ達の愛の形。


 

<完>




----------------



以上です。
最後までお読みくださりありがとうございました!

最終回やっぱり長くなりました。
あれもこれも書かないとと思ったら案の定……

元々、この「あいじょうのかたち」は浩介救済のためにはじめた話でした。
で、慶に「愛してる」と言わせることが最終目標でした。
だってこの人、この24年で一度も言ったことないんだよ!!
ようやく言いました。ああ無事に言ってくれてよかった。

一年前に再開した慶と浩介の物語ですが、今回書いているうちにどうしても、一番最初の物語も書きたくなってきました。
私が高校生の時は、慶視点のみで書いていたのですが、浩介視点で書いたらそれはまた趣向が変わっていいかな、なんて思ったりして…

もうくっつくことが分かっている二人の話、面白くもなんともないけど、私が読みたいので書きます(`ω´)キリッ
高校生の私が考えた話なので、今よりも更に本当に日常物語で面白くもなんともないけど、私が読みたいから書きます(`ω´)キリッ


この度は、こんな真面目な物語にお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
こうして書いてこられたのも皆様のおかげです。

おかげさまでどうにか浩介が両親と再交流できるようになり、安心しました。
これからまた色々なことがあると思いますが、二人の揺るぎない愛は変わらないので、何があっても乗り越えていってくれると思います。

私、今日はちょうど、これから代官山に用事があって出かけます。
彼らが今住んでいる、都立大学を通り過ぎるとき、ますます感慨深い気持ちになるんだろうな。
今日は二人とも休みだから、二人でジムにでも行くのかな。寒いから行きたくないーという浩介を慶が無理矢理引っ張っていくんだろうな。

なんて思いながら……

皆様本当にありがとうございました!!


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