いやぁ、作業がね、思いのほか順調に進んで・・・。ほんとは嘘。ほんとは進んでない。
こんな想いをするのは、生まれて初めてかもしれない。
でも、かたち状は順調に進んでということになる。
作品として体を成していない状態を完成と呼んでしまえば、作業はそこで終わるのである。
こんなものをリリースして、売るってのは犯罪に近いと想ったりもするのだが、それがクライアントの強い要望であったりすると、グーの音も出ない。
おれは薄汚れた音楽家だぜ。金のために魂を売っちまったのさ。ってね。
まぁ、いいの、ほんとに時間が無いみたいだから。
魂の入っていない作品を作るってのも、おつなものだぜ。
でもね、こういうので深く傷ついてしまったら、もうこの仕事はしないかもしれないなぁ・・・と、福島市の夜景を眺めながら思うんだね。僕っていうのは、そういう存在なんだよ。
なんでもいいのなら、誰でもいいのなら、代わりを探しておくれ、とね。
売りつければいい作品を作りたいなら、それを専門にしている人なんて、そこらじゅうにいるじゃないか、とね。そういう人と手を組んで、世知辛い世の中の荒波を上手にくぐり抜けていってくれればいいと、切に切に願う。
僕はね、つまらない作品を作るために面白おかしくく生きているわけじゃない。
でも、福島のデイズは面白い。中学生たちは、目眩がするほどに騒がしい。去年よりも1人増えて、なんだか若干パワーアップしているような。
友人は、一年の間に、体が四角くなってしまった、スクエアだ。立方体だ。サイコロみたいに転がりそうだ。明日、試してみる。転がして、頭が逆さになるか試してみる。
そうそう、宿にチェックインして、夜景を眺めているんだけどね、今。
僕は、さっき叫んだんだよ。2度ほど。
「ちがーうっ!」ってね。
なんか、この宿、小洒落てるんだよ。エレベーターとか付いてるし、福島駅のロータリーの真ん前だし。おれの部屋は七階だし・・・。
えっ、温泉はどこですか?地下ですか?
「お客様、温泉なんてございませんよ、なんせここは駅前の一等地に建つビジネスホテルなんですから」
あーあーあー、聞こえません、聞こえません、温泉はどこですか、温泉はどこですか?地下ですか?
どんなに小洒落ていても、どんなにゴージャスな夜景が見えても、ベッドがメーキングされていても、ウォッシュレットがついていても・・・違うんです。
福島のきったない旅館が好きなんです。お化けが出そうな、きったない旅館が好きなんですよぉ。特に、独身の美人の姉妹がいるような、旅館がね。
僕はね、友人を問い詰めたね。問い詰めてしまったね。壁ドンで詰問だよ、詰問。
なんで美人の姉妹の温泉宿じゃないんだ!?ってね。おれの恋路を邪魔するのか?とね。
そしたらね、宿はどこもいっぱいだったんだって。
明日からは温泉宿なんだって。やったぁ!
でね、友人は言うわけ。
「ちゃんとおまえが好きな旅館をとってあるから安心しろ」ってね。
やるなぁ、さすがマイフレンドじゃないか。持つべきものは友じゃね?うきき。
「あれだろ?しんぐのお気に入りの旅館は、『ホリエモン』だろ?ホリエモンとっておいたよ。二泊。」
・・・
・・・
・・・
ちがーう!ちがーう!ちがーう!おまえ、全然覚えてないんじゃん!
悲しみのあまり、もう寝るのである。
おわり。