タロコの終点から数キロ、スクーターを走らせる。そこに秘湯の入り口がある。
文山温泉という名前がついている。ちゃんと名前がついているわけだから、秘湯というほど秘湯ではない。が、行き難いという意味では秘湯といってもいいと思う。行く人があまりいないという意味でも、秘湯と呼んでもいいと思う。
そこんとこ、どうだろうか?
北海道で知り合ったコーカタにーさんはなんというだろうか?
「うーん・・・あれは・・・秘湯とは言えませんね」と言うだろうか?どうだろうか?
何年か前、コーカタにーさんとコデラーマンと三人で、那須の辺りへ秘湯を探しに行った。僕の鎖骨がまだ折れていた頃だ。
川沿いを3時間も歩いて秘湯を探し、結局秘湯は見つからなかったという・・・そんなこともあった。
秘湯の痕跡はいくつも見つけた。その痕跡を追って・・・。秘湯マニア・・・恐るべし。
話はタロコの奥へ戻る。
文山温泉の入り口に看板が立っている。
そこに文字。
「Onen is closed」
つまり、温泉は閉鎖しています。
なるほどね。温泉は閉鎖中かぁ。行っても入れないのかぁ。といってあきらめると思う?
思わないね。が、正解。「はいはい、閉鎖中ね」とつぶやいて先へ進むのが正解。
だって、温泉は、自然のものだから。人間が決めるものではない。
眼下200メートルに川が見える。けっこう高い。ここを川まで下りていくと上りがきついなぁ・・・そんなことを思いながら、トコトコと階段を降りていく。
工事現場の音みたいなセミが鳴いている。日本では聞いたことのない鳴き声だ。
細くて小さな吊り橋が、川の上にかかっている。
30メートルほど下、眼下に川、川の横に大きな窪み。なんとなく温泉の湯船のようにも見える。中身は空っぽである。
閉鎖中・・・の文字がよぎる。
なるほどね。なるほどね。
吊り橋を渡ると、大きな鉄製の門がある。門は閉まっている。施錠してある。なぜか?・・・閉鎖中だからである。
なるほどね。なるほどね。閉鎖中だもんね。
門を抜ける場所を探す。
ここは崖の上。
ここで、先へ進む道がなけれな、秘湯探検は終了するしかない。まさか、崖をボルダリングしてまでたどり着こうとは思わない。
大きな鉄製の門の横に人が通り抜けられそうな隙間がある。その隙間を抜けて、柵を越えれば門の先へと出られる。
ひょいひょいと行く。こういう道は人が作ったものだ。人が作ったということは、人が行くということだ。
さて、タロコは大理石の産地。文山温泉、ここは天然の大理石の湯船に湧き出す硫黄泉。
滑り落ちたら死ぬだろうなぁという、急階段を降りていく。
湯船があろうがなかろうが、温泉が湧き出ていようが枯れていようが・・・そんなことは、まぁ、どうでもよい。
結局のところ、こういうのが楽しいのだと思う。
「わぁ、すごい峡谷!」と感嘆するよりも、「やべぇなぁ、この階段・・・滑るなぁ」とか。
結局のところ、バカなんだと思う。ははは。
こういうのを、バカっていうんだと思うよ。僕は。
つづく。