花蓮の話をもう一つ。
花蓮の名物は、葱油餅らしい。中国語でなんと読むのからわからないから、僕はずっとネギアブラモチと呼んでいる。
葱油餅街というのがある。そこにはネギアブラモチ君の像が建っている。
葱油餅街には、二軒の葱油餅屋がある。逆に、二軒しかない。逆の逆に、二軒しかないのに、葱油餅街。
この二軒にストーリーがある。誰でも知っているストーリー。たぶん。
49年前の話。たぶん。
ある男が、伝統的な葱油餅に一手間加えたものを考え出した。
そもそも、葱油餅とは、ネギを練りこんだ生地を揚げたもの。たぶん。
その伝説の男が考えだした一手間とは、葱油餅に卵を入れる。しかも半熟。これが「うまい!」と評判になり花蓮の街は騒然となった。たぶん。
その男には娘がいて、娘には旦那がいた。つまり、婿。つまり義理の息子。英語で言うとヒズサンインロー。
その義理の息子が義理の親父の店から100メートル離れた場所に店を構えて、義理の親父が編み出した半熟卵の葱油餅を売り始めた。
義理の息子は、テレビや雑誌を巧みに操り、その店はみるみるうちに繁盛していく。話題が話題を呼び、行列が絶えることがないほどに。人々は、話題の半熟卵の葱油餅を食べるために花蓮を訪れ行列を作る。
かたや、伝説の親父の店には行列ができない。オリジナルなのに・・・。
そしていつしか、この通りは葱油餅街と呼ばれるようになった。とか?
ここまでの話は、本で読んでいた。
だからこそ興味があった。
確かめてみたいじゃないか。オリジナルの味と、人気店の味の違いを。
一日目。
片方の店しか開いてなかった。
行列。
実食。・・・めっちゃ旨い。一個30元。100円と少し。
二日目。
売り切れで閉店してしまっていた。
三日目。両方食べた。
どちらの店も行列。あれ?同じくらいの人気。
どちらの店も旨い。値段も同じ。
葱油餅街には色々なお店がある。
細い通りに二軒の葱油餅屋。行列は道にはみ出す。車やスクーターが路上駐車をするから、もう大変。時々カオスな状態になったりする。
それを目当てにしてかどうなのか?色々なお店がある。
葱油餅屋の目の前の「紅茶屋」に僕は通った。
なぜか、葱油餅を買って、紅茶を買って、その葱油餅を紅茶屋で食べるのである。食べた後の葱油餅のゴミも、紅茶屋の主人が引き受けてくれるのである。
だから、僕は、ジーユートゥモローと言って、店を去るのである。なぜなら、葱油餅、毎日食べたい。
紅茶屋の主人は、流暢な英語を話す。
僕は聞いてみた。この二つの葱油餅のストーリーを。
紅茶の主人はこんな言葉から話し始めた。
ワンスアポンナタイム・・・昔々。
話は、僕が知っているものとだいたい話同じだった。
ただ、49年前の話である。もう、どちらの店も代替わりをして、セカンドジェネレーションになっているという。
今は恨み辛みもなく・・・みたいなことを言っていた。そう、期待していたライバリーな感じではない。
僕が持っている本は7年ほど前に刊行されたものだから、情報は10年くらい前のものなのかもしれない。この10年で、どちらの店にも行列が出来るようになったのだろう。たぶん。
僕は、紅茶屋の主人に聞いた。
「明日は何時にオーブンするんだい?」
11時頃だけどなんでだ?と主人が聞く。
明日、花蓮を発つから、発つ前に、紅茶を飲みに来るよ。
葱油餅は午後の1時頃から始まる。つまり僕は、紅茶屋に別れを告げたくて来るわけだ。だって、三日もお世話になった。
紅茶屋の店先に綺麗なお姉さんが現れた。紙袋を紅茶屋の主人に差し出して何かを話している。
お姉さんが去り、紅茶屋の主人が、お姉さんから受け取った紙袋を僕のテーブルの上に置いた。
「隣のお店のお姉さんがくれたよ」
おれに?なんで?なにを?
袋の中身を見ると、金柑爆裂弾人形焼、みたいなやつだった。
つまり、隣のお店は金柑爆裂弾人形焼を売っているお店なのである。
なんでかなぁ?と思いながら、僕は人形焼を食べる。すごく美味しい。肉球の形をした可愛い人形焼。
さて、帰り際、お隣の店を覗く。
さっきの綺麗なお姉さんと、ご主人か?スーパーイケメンなお兄さんが二人で店先に立っている。
爆裂人形焼をくれた経緯が分からなすぎて、どんな顔をしたらいいのかわならすぎて、ペコリと頭を下げて、シェイシェイと言ってみた。
二人はすごく照れた顔をして、ペコリと頭を下げて手を振ってくれる。
なんか、こういうことが良くある。ような気がする。ここでは。
花蓮を発つ日。つまり今日だったのだが。
紅茶屋に寄ったついでに人形焼も買おうと思っていた。
がしかし、人形焼屋、12時まで待ったがオープンせず。
お礼を言える日が来るかはわからないのだが、優しさとその味は忘れない。そう誓う僕なのである。
花蓮・・・素敵な街だった。