9月25日朝のことです。いつも通りに駅に向かって歩いていると、何時になく鵯が鳴きます。見あげることもなく通り過ぎようとすると、一層強く鳴きます。辺りには私以外の人影は見当たりません。
ピー ヒョッ ヒョッ ヒョッ ピーッ ピーッ
ピー ピー ピュロロ ピッ ピッ ピーッ
如何にも、
「おっちゃん こっち見て おちゃん!」
「おっちゃん!おっちゃんてば!こっち!ほら!」
と言っているかのようでした。
余りにしつこく鳴くので、どこにいるのかと朝日の眩しさを堪えて見あげ、鵯をさがすと、いました。直ぐ傍の背の高い木の枝にいました。見つけると直ぐに鵯は飛び去りました。
鵯が飛び去った後にまだ、鵯ほどの大きさの何やら楕円のものが見えます。よく見ると木のあちこちに赤い実がついています。
その樹は「朴(ほお)の木」で、私が駅に向かう道筋に植えられています。9月下旬なので実をつける時期だということを思い出しました。
木は一本しかありませんので、自家受粉しているに違いありません。
【朴(ほお)について】
朴の板は、小学校や中学校の美術の時間に版画や木彫ボックスの制作材料として親しんできました。
朴の木はモクレン科の落葉高木です。樹高30m、直径1m以上になるものもあるようです。淡黄色の花が6月頃に咲き、9月頃に果実(袋果)をつけます。始めは白色ですが、熟すと赤くなります。
葉には殺菌作用があり、朴葉寿司など食品の包に使われます。
また、枯れても火に強いため、味噌や食材をのせて、鍋替わりに直火に架けて焼く、所謂朴葉焼きや朴葉味噌といった料理に利用されています。
葉が大きいので、6世紀以前から食器代わりに食物を盛るのに用いられていたようです。
木質は堅く、切る・削るなど加工のし易さから、下駄の歯(朴歯の下駄)や木彫などの細工物に使われています。
私が学生の時には、“ホオバのゲタ”といえば高下駄の代名詞として使われていました。
更に、水に強く手触りが良いことから、和包丁の柄や俎板として利用されています。
武士の時代には、脂(やに)が少なく加工しやすいことから日本刀の鞘に用いられたようです。
樹皮は「和の厚朴」と称され、除虫剤や漢方の健胃薬、膨満感・腹痛・嘔吐などの対処薬として用いられています。