Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

「それでも夜は明ける」感想

2014-03-07 18:06:00 | ベネディクト・カンバーバッチ


鞭シーンが恐くて身動きできず何度も手がしびれてしまいました。
黒人奴隷を逃がさないよう脅しと罰の鞭打ち。描き方は見る人を配慮して撮ってあるのですが、それでも行為そのものが残酷なので、想像力がなくたって充分痛い。
宗教心の強いアメリカ南部でよくもこんなことがまかり通ってたとふと疑問に思ったけど、つまりキリスト教の教えは「人間にのみ」当てはまるので、黒人は人間じゃないから家畜だから持ち主の勝手、という発想だったのですよね。それにしては、反抗できない奴隷の女性を犯すとか旨い部分だけいただいて、読み書きしたら知恵がつくからいかんとか警戒して、人間だとは心の奥で南部の白人も知ってたに違いない。だけど合法だから自分の富や立場を守るためにやっていた、と。
戦争では敵国人を多く殺すのが正義、とそれと同じで、人間が作った制度で、人が人の人権や命を奪うという・・・

メインの登場人物、主人公ソロモン(イジオフォー)、奴隷主のフォード(カンバーバッチ)とエップス(ファスベンダー)、奴隷女性の波パッツィー(ニョンゴ)以外に、私の心に残ったのが、フォードの白人使用人ジョン(ダノ)。

こいつがね、低い地位の白人にありがちな弱い者いじめで。アメリカの現在には詳しくないのですが、ヨーロッパでアフリカ人やアジア人の排斥をするのも、教養のない収入の低い白人の労働者階級に多い。彼らにとっては自分に残された尊厳が白人であるということなので、非白人を攻撃して優越感に浸りたい。私も数年のロンドン時代に出会ったのは児童公園で貧乏そうな白人の子供にChina,Chinaとからかわれたくらい。子供だからたぶん親の価値観の受け売りですね。攻撃はされなかたけど、バスで隣に座ってたおばさんが、スーパーの袋から賞味期限が近づき値引きされたサンドイッチを出して食べながら読んでいたのが外国人排斥運動の文章だったことも。

そしてもうひとり心に残った人は、名前を覚えてないけど、日曜日(キリスト教の教えにより、日曜は働いてはいけない。なぜかそれは奴隷にも適用されたいたようです)に、パッツィーがお茶に訪問していた黒人女性。会話によれば、彼女も元奴隷だったけれど所有者に女として気に入られて、奴隷労働は間逃れて、たぶん家と女中を与えられて暮らしている。そしてパッツィーに「旦那の慰み者になるつらさはわかる。夜は目をつむりなさい。」という趣旨のことを諭す。でもパッツィーの方はソロモンに「こんなふうに生きるくらいなら死んでも神は許してくれる」と殺してくれと頼むんですよ。希望を捨てずに生きるソロモンには断られちゃうけどね。

この(たぶん)妾として生きる女性は「綿を摘まなくていいんだから幸せ」とお茶を楽しんで、状況の中で少しでも幸せに生きようとしてる。彼女と、さっきの弱い者いじめの白人労働者のふたりは、奴隷とその主人は私の見渡す限りはいない(世界のどこかにはいるかもしれないけど)今の世の中にも、大勢いるんじゃないかと思ったんです。

特に元奴隷の女性なんてすごくわかるなあ。
私のバイト先の上司は、非合理な指示をしたり、社外に社会人として正しく対応できないし、いわゆるパラハラしても自分にはその概念も理解できない、尊敬できない人。そういう人とは議論しても違う理屈で生きてる人だから無駄だよなあと、バカにしながらも指示をハイハイ、と聞いてるんですよ、私。彼女に「それは違う」と反論する人も職場にいるんだけれど、マネージャーにふたり呼ばれて協力して仕事するように、って幼稚園のケンカみたいに諭されて結局その上司の非が認められることもないのを見てしまうと、処刑されないよう黙々と綿を摘んだり、サトウキビを刈る奴隷のようになってる私。

現行制度の中で少しでも自分が幸せに生きようとしたのは、「それでも夜は明ける」の奴隷主達やその奥方達、奴隷商人も同じなのかもしれない、と小さい役の登場人物達を見てて思えました。

ところで、ブラピがかっこ良かったです。もうずっと彼の出演作は見ないままなのですが、ずっと昔、12モンキーズの時はサイコな役だったけど汚い身なりでかっこ良かった。あれを思い出す長髪と髭面で、しかもソロモンにとってはものすごく重要な役、つまりなかなか美味しい役。ブラピがプロデューサーとして言いたかったこともその役の人が作中で言っていた。力とお金を持ったイケメンの底力に感服しました。昔、アンジェリーナとマイノリティ人種の養子をもらったりしてた時には、彼の考えまでわからなかったけれど、今この映画でわかったような気がします。