地吹雪に前へ進めなくなったことがある。
20年近くの前のことだ。まだ、長男が3歳くらい長女が2歳になったかどうかの頃だったと思う。
公園で仲良くなったお友達の家に遊びに行った。以前住んでいた家から歩いて3分もかからない場所だった。信号を渡る場所で、もう一人のお友達と別れた。信号を渡ると、大きな倉庫をなぞるように道を中小路に入り、もう一本小路を入る場所に家はあった。太い道路に面した側をお友達と少し遠回りになるけれど行くか、より近いほうを行くかその時一瞬悩んだ。夕飯の準備が迫っていた。一緒に行ってわかれずらいとまた遅くなると考え、信号を渡った。
倉庫の陰になるところにはいったとたん、凄い地吹雪に襲われた。娘を抱いて、息子の手を握ってあるいていたが、あまりの雪と風に一歩も前に進めなくなった。その時道もほとんどなく、ラッセルして前に進むような状況だった。ほんの10メートルほどの距離が動けないのだ。泣き叫ぶ子どもたちに途方にくれた。この倉庫を回りこめば風よけになるに違いないと考えて、息子に大きな声で叫んだ。「ここに立ってて!かならず迎えに来るから!みいちゃん運んだら戻ってくるから、風に背中向けてここにしっかり立ってて!!」
必死だった。
娘をしっかり抱いて、情けなさそうな息子の顔を振り切って雪をかきわけた。ようやく、倉庫の切れる場所にたどり着いたとき、歩道用の除雪車が進んできていた。もう頭が真っ白だった。まだ、子どもがいる。除雪車にひかれる!パニックだった。息子がいる場所に入り込んでいく除雪車の脇を歩く作業員に必死で叫んだ。
「子どもがいるんです!まだ、あそこに一人で立って待っているんです!この子を運んで、置いてきているんです!」
涙が出そうだった。置いてきちゃった・・・置いてきちゃった。なんで一緒にいなかったのか。こんな怖い目にあわせちゃった・・・。大きな音で除雪車が動いていた。雪煙が上がり、その後ろに道ができている。その跳ね飛ばしている雪の向こうから、作業員の方に抱かれた運ばれてきた息子がいた。
息子はその時のことを覚えているだろうか・・・。
聞いたことはない。でも、あの時息子の手を離した自分を忘れることができない。
ほんの10メートルの恐怖だった。ほんの5分前にはお友達と笑って過ごしていた。
天国と地獄のような北国の出来事だった。