U先生の話をしたい。
うちの長男が小学校にいたときにお世話になった教頭先生です。
U先生は、私の子育で出会った先生たちの中で一番印象に残り、信頼している先生です。
U先生は大学を出られてから、ずっと離島教育に尽力されました。50代に入り体力に衰えが出て来て教頭になり、札幌に赴任されました。
U先生は息子の通う小学校に赴任が決まり、始業式までの間に在籍児童の顔と名前を覚え、始業式朝、玄関に立ち
「おはよう」と呼びかけたそうです。学校から帰った長男が「今日ね、初めての教頭先生が僕のこと知ってた」と真っ先に教えてくれました。
「校長先生にはならないのですか?」という問いに「僕は子どもの側にいたいから、校長さんになったらできないから」と、言っておられたとおり教頭先生のままで2年前退職されました。
U先生は数学の先生で、卒業を控えた6年生に必ず特別授業を開かれました。
そのテーマは「数学は美しい!」ということ。
黒板に生クリームが周りに塗られ、イチゴがのった四角いケーキが描かれている。
「これをスポンジケーキも、生クリームもイチゴも平等に10人に分けるには、どう切り分ければいいかなあ・・・」
じっくり順序立てて考えれば、子どもでも正解は出てくる。そこからがU先生の素晴らしいところです。
「そうだね、それで、ぜーんぶ平等になったね・・・ね、とっても美しいだろう?」
口の前で手を合わせ「美しいだろう?だから大きい声でいうんだよ。ああ、美しいなあ」口の前の両手が大きく広げられます。先生の顔はにっこにっこです。大笑いしながら、少し恥ずかしそうに、子どもたちは先生のまねをして大きな声で「美しいなあ」といいます。
先生はもう一度大きな声でいいます。
「数学はとっても美しんだよ!」
この授業を受けた子どもは数学が得意な子どもばかりではありません。その後の人生で数学から離れたものばかりだろうと思いますが、彼らの中に「数学は美しい」というあの時間は植えつけられています。時折、彼らの中で話題にのぼる様子を見聞きし、時間が経つごとに、あの授業の素晴らしさを実感しています。
背が低いU先生は、先生より高くなった何人かの子どもたちに、にこにこ笑いながら。
「どうだあ、先生をおいぬかしたんだぞ!凄いなあ!!」
その様子を笑って見ていた私にU先生は、
「子どもは何でもいいから大人を追いぬかしたいもので、僕はそれを背丈で一番初めに体現してやれるんです」
こういう先生がいる限り、日本の小学校教育は捨てたものではないと思います。
長男が先日研究室のブログを教えてくれたので開いてみたら、尊敬する人にU先生のことが書いてありました。わが子ながら、あの素晴らしさを感じていてくれたのだと、なんかちょっと感動しました。