HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

絞って作り売る。

2019-01-02 06:15:34 | Weblog
 昨年末に二つの記事を目にした。一つは、商業界オンラインで、ファッションコンサルタントの小島健輔氏が書かれていた「『ユニクロ病』のチキンレースを超えて」(https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181221-00001333-shogyokai-bus_all&fbclid=IwAR0VVk8NOgwXkWOOSP5Ci6O1saar4nkH2zaQzt80DZvYUmKIUWnKjaNhqHs)。

 結論を除いて起承転までを要約すると、一昨年は厳冬でユニクロの防寒衣料が売れに売れて品不足に陥り、昨年は十分な在庫を手配したものの暖冬で売れ残って在庫を抱えた。アパレルの需給はほんとうに読みにくい。ユニクロが好調だからと、同じように在庫を抱えて売り減らすビジネスを志向しても、それは巨大な市場を獲得したメジャーブランドの論理であり、需給ギャップに振り回されるアパレルには、必ずしも適しているとは言い難いというもの。

 もう一つは、繊研PLUSの「ネ・ネット『スターハントキャラバン』企画スタート
(https://senken.co.jp/posts/%20a-net-ne-net-star-hunt-caravan-181220)である。

 今年でデビュー13年目となるA-netのネ・ネットはブランドが大きくなり、40店以上を構える規模になっている。一時は生産のほとんどを中国にシフトして量産し始めたことで価格帯は下がったが、売れ残り在庫をセールにかけて捌き、よくシーズンを迎えるという流れを再考。ブランドの将来を踏まえ、デビュー当時のようにすべて国内生産に戻すというものだ。

 小売りスタートのユニクロとDCアパレルブランドのネ・ネットは、一見共通項はないように思える。しかし、どちらも商品開発から販売まで一貫してダイレクトに行うという「SPA(自社企画製造直売小売業)」に変わりない。ユニクロは中間業者を排除することで、その分のコストを価格に反映して安価な商品を提供している。これに対し、ネ・ネットは原点に帰って素資材の開発や企画デザイン、縫製に時間とコストをかけ、高品質やクリエーション訴求にシフトしようとしている。違うのはこれくらいだ。

 どんなマーケットを狙うかによって、SPAの手法は変わって来る。ただ、90年代には、生産コストの安い中国に製造が移転し、企画デザインと調達を担うODM(受託製造業者)が急増したため、すべてをここに丸投げするSPA事業者が主流となった。ところが、2000年代には競争の激化で、こうしたSPAはさらなるコスト圧縮や原価率の切り下げに走り、結果的に商品の劣化と似たようなブランドの乱立で、多くが販売不振に陥ってしまったのである。


 そして、2020年代を迎えようとする今、勝ち組だったユニクロにも壁が立ちはだかりつつある。18年の9~11月(19年8月期第一四半期) の国内既存店売上高(EC含む)は、95.7%と前年同期比で12.7ポイントも減少。アジア事業は好調に推移しているが、国内市場は苦戦し始めた兆候だろう。変わり映えしない素材、陳腐化した企画デザインはお客に飽かれ、売場に並ぶ膨大な在庫は、割引しないと消化できなくなっているのだ。

 お客からすれば、これまでは安さと実用性でユニクロを買っていたが、さらに安いブランドが他にもたくさんあるから、値下げを待って買えば十分だとなる。また、インターネットの発達で、オークションやC2C売買は消費者に広く浸透した。成熟したお客は選択肢が広がった分、色、素材、デザインで変わり映えしないユニクロより、もっと安くてデザインが優れたブランドに目移りし始めているのは間違いない。

 小島氏は、かねてからユニクロのビジネスモデルを「圧倒的なバリュー創造を目指して長射程(射程とは発注から納品までのリードタイム)・大ロット・ローコストの調達を行うプッシュ型で、消化率や商品回転率が低い」と、指摘されていた。完成度と価格を両立させるために時間をかけて作っても企画が当たればいいが、端から消化率や回転率が低いのだから、外せば大量に抱える在庫を値引きして捌くしかない。それはギャップも同じだ。全く痛し痒しなのである。

 そもそもユニクロは、企画から生産段階の価値創造に軸足を置いているので、必ずしもトレンドやお客の嗜好の変化に合致するものではない。同じような商品が市場に溢れると、マーケットリーダーとしてのポジションが失われる宿命なのだ。SPAの事業モデルとしては古典的だから、ついにその時が来たと言わないまでも、いずれ商品政策が限界に来てしまってもおかしくない。

 先頃、ユニクロUの2019春夏商品が発表されたが、商品企画はシルエットが太めになり、柄物、リネン(レーヨン混も)、スキッパーやサロペットが新たに加わったくらいで、色も素材感も目新しさは感じない。頭打ちになる要素はいくらも見えて来る。

 一方、デザイナーブランドのネ・ネットも、創って売り減らしていく点では、古典的SPAモデルである。「圧倒的なバリュー創造を目指す」も、デザイナーが作るクリエーションという価値を訴えて需要を創造していく意味では同じだろうか。

 SPAの直営店事業としてブランドが大きくなり、中国生産、大ロット発注、売れ残り在庫のセール消化への反省から、国内生産、小ロットに切り変えていく点は異なる。昨年はTOKYO BASEの国内生産、原価率50%が業界で話題を振りまき、注目された。

 しかし、それらはあくまで手段であって、目的であってはならないはずだ。成熟したお客が求めるのは他のブランドにはないクリエーションであり、ビジネスとしてそれが需要を創造できるかにかかっている。そのための手段としての国内生産、原価率50%に意味があるのだ。

 ただ、クリエーションが必ずしも需要を創造できるとは言い切れない。外せば在庫を抱えてしまうことには変わりなく、リスキーでギャンブルなのも同じだ。ネ・ネットは自社での企画デザインに加え、国内生産にシフトすることで、商品のクオリティを徹底することは可能だが、企画を練り直したり、サンプルを何度も作り直すため、商品化のスピードは遅くなり、1シーズン4〜5回程度しか投入できない。

 また、生地から国内の機屋と組んで作るというから、リードタイムはさらに長くなり国内生産、ロットの減少でコストは大幅にアップするだろう。それらは販売価格にはね返っていくわけだが、値段が上がっても上質さやクリエーションを求めるお客をいるはずだから、じっくり売っていけばいいのだ。

 成熟したお客は何も日本人だけとは限らない。アジアの富裕層も、そろそろ欧米のグローバルブランドから、体形が近い日本のデザイナーブランドにシフトし始める可能性は高いと思う。このまま円安が続いてくれると、ネ・ネットのようなデザイナーブランドは、インバウンド効果を十分に享受できるはず。これからがチャンスだと前向きに考えればいいのではないか。

 小島氏は常々、ファッションとは「ローカルなもの」と、仰っている。このローカルとは、地方という意味ではなく、グローバルに対してのローカルだ。ルイ・ヴィトンやエルメスといったラジュアリーブランド、ZARAやH&Mのようなファストファッションは、世界マーケットを狙うグローバルなものだが、それらが必ずしも日本人のすべてを攻略しているわけではない。体型や好みは国、民族、地域で様々だからだ。

 最近は苦戦しているものの、アダストリアやストライプインターナショナルの方がはるかに日本人には好まれているし、売れている。つまり、日本人というローカルなお客には、デザインやテイスト、素材、色などを絞り込んだローカルな手法の方が合っているという証左だ。その意味では日本人のクリエーターが創るデザイナーブランドの方が日本人の嗜好に合致するという必然性が隠れているのではないか。もちろん、ビジネスとしてはアジアの人々まで攻略していく必要はあるが。

 価格が割高なデザイナーブランドであろうが、商品を短サイクルで作って回転率を上げるチェーン店であろうが、アイテムはローカルに焦点を絞って作り、それを感じたお客に「コレ、いいね」「他は作らないよね」と思ってもらえる需要を創造していく。グローバルSPAが狙わないようなローカルでニッチな市場、自ブランドやショップのキャラを生かしてターゲットや時代の流れに合ったビジネスを追求した方が勝算は高いのではないだろうか。

 大多数のお客にとってもいろんなファッションがピンキリあって目移りする方が選ぶ楽しさはあるはずだ。2019年のアパレルビジネスはそうあって欲しいし、それが業界復活の一歩であることを願って止まない。

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