福岡は地理的に春の訪れが早く、初売りに冬のセールを連動させても、在庫処分にはそれほど繋がらない。今年の初売りでは、三越伊勢丹グループの岩田屋はセール前倒しで前年より好調だったが、Jフロントリテイリングの福岡大丸は1月4日が正月休みの企業があり、客足が鈍く前年割れと発表した。共通して売上げを押し上げたのは企画内容で釣る福袋で、売場を見る限りではやはりセール自体は盛り上がりに欠けるようだ。
ただ、「ここだけは違う」と言わざるを得ないのが、新宿の伊勢丹本店である。大西洋元社長時代にセールの後ろ倒しを実施した時でも、お客はわざわざ伊勢丹のセールを待っていた。今年は7年ぶりに1月3日に初売りをスタートし、同時に冬のクリアランスセールも開始したため、昨年の1.4倍となる1万人以上が開店前に長打の列を作っている。
筆者の目算では、行列の7〜8割がセール目的のお客ではないかと思う。おそらくオンリーショップの次に充実している国内デザイナーブランドや伊勢丹が単独で仕入れている欧米のインポートがお目当てだろう。毎度のことながら、メディアがお客に取材し聞き出した答えでは、「コムデ・ギャルソンのニットを買うために、朝の5時に都外から来た」なんてベタな内容を見かける。
しかし、これは目的語を代えると、ほとんどのセール客に共通するのではないか。国内外の価値あるブランドが伊勢丹本店には揃うからだ。そうした商品が3〜5割引で買えるのなら、お客は寒冷下に早朝から何時間も並ぶ苦行も厭わないのである。
「セールの時だけやってくる」と思われる後ろめたさも、これだけの人出ならかき消されてしまう。この時ばかりはプライドも羞恥心も糞食らえで、欲しいブランドをゲットすることに集中する。ブランドハンターにとって、まさに売場は戦場なのだ。大半のお客はブランドの違いこそあれ、同じ気持ちではないかと思う。
ところで、今年の経営課題について、業界誌は識者の言説として「おしゃれ需要はさらに減っていく」「流通在庫とたんす在庫が新品市場を追い詰める」を突きつけ、「服はもうファッションではない」と、 消費者の心理を解説した大学教授の持論を取り上げている。確かにプロパー商売やマスファッションのビジネスは、そうなのかもしれない。
しかし、伊勢丹本店の冬のセールを見る限りでは、寒空のもと早朝から1万人が列を作るわけだ。お洒落か、そうでないか。ファッションか、服なのかは別にして、やはり上質で感度、デザインともに優れるブランドが欲しいお客は、まだまだ相当数いるのだ。
昨年は1月4日の初売りに8000人が並び、開店を20分繰り上げたものの、凄い混雑だったと聞く。訪れた友人の話ではメンズもレディスも売場はお客で溢れかえり、お目当てのブランドを手にしても試着をするのに1時間以上待たされたとか。これではせっかく割引で大量に集客できても、あまりの客の多さが販売ロスを生むというセールの徒を見せつけられた感じだ。
報道によると、杉江俊彦三越伊勢丹HD社長は「お客さまの安全確保と混雑緩和」のために、「今年は福袋を年末にECで受注する形に変え、本館では在庫の約4割、メンズ館では在庫のほぼ全てをECで先行販売した」と語っている。しかし、本館在庫の4割をECで先行販売したとは言え、昨年を超える1万人が並んだのを考えると、魅力的なブランドは直に売場に行かないと買えないと、お客がしっかり認識しているからではないのか。
混雑緩和には抜本的な対策が必要で、セールVMDやお客の整理・誘導、専用レジの導入などいろんな手法があると思うが、ここでは詳細は控える。一方で、昨年秋からプロパー販売が苦戦し、何度もセール催事を仕掛けているのがユニクロだ。昨年の年末から今年の年頭にかけて、これほどチラシが新聞に折り込まれたシーズンは記憶にない。暮れから何度か売場をチェックしてみたが、セールの状況もかつてのようにお客が溢れかえっていた時とは、明らかに異なる感じだ。
筆者がチラシを確認した年末から年頭にかけてのセール催事は、ざっと以下のようなものがあった。「歳末セール(2018.12.14〜12.20)」「年末感謝号(2018.12.30〜12.31)」「初売り半額(2019.1.1〜1.2)」「号外初トク新年祭&キッズも初売り半額(本日1.3まで)」「初特新年祭冬大特価満載号(2019.1.5〜1.10)」。
クリスマスの前後にも1回ないし2回は、催事を仕掛けただろうから、連日チラシを使って冬物の在庫処分=セールを告知していることになる。言い換えると、週末以外にもチラシを折込むのはユニクロがそれだけ大量の在庫を抱えている証左で、しかも計画通りに消化できていないからではないのか。
チラシには「制作費」「印刷費」「折込み料」と、莫大なコストがかかる。ユニクロの店舗展開は全国規模だから、1回のチラシ投下でどれほどの効果が上がっているのか。それとも効果がないから何度も投下せざるをえないのか。費用対効果、販売管理費などについては、春に発表される第二四半期(2018.12〜2019.2)のIRレポートを待つしかないが、イレギュラーのチラシ連発はあまりいい傾向ではないのは確かだろう。
現時点でユニクロに言えることは、「冬物の在庫を大量に抱えているので何とか捌きたい」。それに対し、お客側の意識は「大量の在庫を前にセール待ちだった」「欲しいものは購入済みで、安いからと不必要なものまで買わない」「いい加減、商品企画を変えてくれないと、新規に購入する気にはならない」等々だろう。
柳井正社長は日々、経営革新をしないと生き残れないと、公言してきた。そこではAIなど先端技術が前提で、それらを活用した「情報製造小売業」を目指すと言って憚らない。反面、旧態依然のいたってアナログな折込みチラシを多用しなければ、販促にもレスポンスにも期待できないジレンマ。日本では新聞をとらない家庭が増えている。当然、チラシは手元に届かない。少なくとも国内市場では販促手法として催事の仕掛け、チラシ戦略、それを構成する商品企画について一考する1年になりそうである。
ユニクロの苦戦に対し、伊勢丹本店のセールには、7000〜8000人のお客がブランドをゲットするために並ぶ。三越伊勢丹の基幹3店で見ると、今年は売上げ的には前年をやや下回ったようだが、それはECによる先行販売の影響もあると思う。店舗売りが人気なのはお客の行列が何より証明している。
当然、この中にはユニクロを利用するお客もいると思う。ユニクロがセールで割引する5000円のカシミアのニットに投資するくらいなら、伊勢丹のセールで2万円のセーターを買った方がいいとの価値観もあるわけだ。「それはあくまで仮説だ」と言われればそうかもしれないが、熟考しなければならないことでもある。
仮説にしても、ブランドを購入したいお客は全国にいるのである。御殿場のアウトレットは首都圏の中心から離れても多くもお客を集めるし、昨年に開業したイオンのジ・アウトレット広島も好調を維持している。筆者は1月3日、家族や親戚の子たちに請われて佐賀県鳥栖のプレミアムアウトレット(三菱地所・ソロモンの運営)に出かけたが、話題のブランド服袋は完売しているところが多かった。物色している人々の声に聞き耳を立てると、前年に購入してかなり良かったのでリピーターとなったようだ。
しかも、お客が求めているのは、素人騙しのアウトレット専用品ではなく、直営店では高価格帯から購入に二の足を踏むブランド群である。単にメジャーだからでなく、商品づくりにしっかりコストをかけ、品質は高くデザインはベーシックで長く使っても劣化しづらいもの。そこに価値を見出すから、オフプライスだとお客はつい手が出てしまう。もちろん、後々、メルカリなどで高値で捌けることも、頭の片隅によぎるかもしれない。
伊勢丹本店のセールにお客が殺到し、アウトレットモールが好調を維持するのは、目の超えたお客は端から安い物ではなく、上質でいい物が安いのなら欲しいのだ。その意味で商品づくりをもう一度見直し、上質でいい物をいかに市場に流し、動きを見ながら二次流通まで行っていくか。ビジネスフローを考えるべき1年でもあると思う。
ただ、「ここだけは違う」と言わざるを得ないのが、新宿の伊勢丹本店である。大西洋元社長時代にセールの後ろ倒しを実施した時でも、お客はわざわざ伊勢丹のセールを待っていた。今年は7年ぶりに1月3日に初売りをスタートし、同時に冬のクリアランスセールも開始したため、昨年の1.4倍となる1万人以上が開店前に長打の列を作っている。
筆者の目算では、行列の7〜8割がセール目的のお客ではないかと思う。おそらくオンリーショップの次に充実している国内デザイナーブランドや伊勢丹が単独で仕入れている欧米のインポートがお目当てだろう。毎度のことながら、メディアがお客に取材し聞き出した答えでは、「コムデ・ギャルソンのニットを買うために、朝の5時に都外から来た」なんてベタな内容を見かける。
しかし、これは目的語を代えると、ほとんどのセール客に共通するのではないか。国内外の価値あるブランドが伊勢丹本店には揃うからだ。そうした商品が3〜5割引で買えるのなら、お客は寒冷下に早朝から何時間も並ぶ苦行も厭わないのである。
「セールの時だけやってくる」と思われる後ろめたさも、これだけの人出ならかき消されてしまう。この時ばかりはプライドも羞恥心も糞食らえで、欲しいブランドをゲットすることに集中する。ブランドハンターにとって、まさに売場は戦場なのだ。大半のお客はブランドの違いこそあれ、同じ気持ちではないかと思う。
ところで、今年の経営課題について、業界誌は識者の言説として「おしゃれ需要はさらに減っていく」「流通在庫とたんす在庫が新品市場を追い詰める」を突きつけ、「服はもうファッションではない」と、 消費者の心理を解説した大学教授の持論を取り上げている。確かにプロパー商売やマスファッションのビジネスは、そうなのかもしれない。
しかし、伊勢丹本店の冬のセールを見る限りでは、寒空のもと早朝から1万人が列を作るわけだ。お洒落か、そうでないか。ファッションか、服なのかは別にして、やはり上質で感度、デザインともに優れるブランドが欲しいお客は、まだまだ相当数いるのだ。
昨年は1月4日の初売りに8000人が並び、開店を20分繰り上げたものの、凄い混雑だったと聞く。訪れた友人の話ではメンズもレディスも売場はお客で溢れかえり、お目当てのブランドを手にしても試着をするのに1時間以上待たされたとか。これではせっかく割引で大量に集客できても、あまりの客の多さが販売ロスを生むというセールの徒を見せつけられた感じだ。
報道によると、杉江俊彦三越伊勢丹HD社長は「お客さまの安全確保と混雑緩和」のために、「今年は福袋を年末にECで受注する形に変え、本館では在庫の約4割、メンズ館では在庫のほぼ全てをECで先行販売した」と語っている。しかし、本館在庫の4割をECで先行販売したとは言え、昨年を超える1万人が並んだのを考えると、魅力的なブランドは直に売場に行かないと買えないと、お客がしっかり認識しているからではないのか。
混雑緩和には抜本的な対策が必要で、セールVMDやお客の整理・誘導、専用レジの導入などいろんな手法があると思うが、ここでは詳細は控える。一方で、昨年秋からプロパー販売が苦戦し、何度もセール催事を仕掛けているのがユニクロだ。昨年の年末から今年の年頭にかけて、これほどチラシが新聞に折り込まれたシーズンは記憶にない。暮れから何度か売場をチェックしてみたが、セールの状況もかつてのようにお客が溢れかえっていた時とは、明らかに異なる感じだ。
筆者がチラシを確認した年末から年頭にかけてのセール催事は、ざっと以下のようなものがあった。「歳末セール(2018.12.14〜12.20)」「年末感謝号(2018.12.30〜12.31)」「初売り半額(2019.1.1〜1.2)」「号外初トク新年祭&キッズも初売り半額(本日1.3まで)」「初特新年祭冬大特価満載号(2019.1.5〜1.10)」。
クリスマスの前後にも1回ないし2回は、催事を仕掛けただろうから、連日チラシを使って冬物の在庫処分=セールを告知していることになる。言い換えると、週末以外にもチラシを折込むのはユニクロがそれだけ大量の在庫を抱えている証左で、しかも計画通りに消化できていないからではないのか。
チラシには「制作費」「印刷費」「折込み料」と、莫大なコストがかかる。ユニクロの店舗展開は全国規模だから、1回のチラシ投下でどれほどの効果が上がっているのか。それとも効果がないから何度も投下せざるをえないのか。費用対効果、販売管理費などについては、春に発表される第二四半期(2018.12〜2019.2)のIRレポートを待つしかないが、イレギュラーのチラシ連発はあまりいい傾向ではないのは確かだろう。
現時点でユニクロに言えることは、「冬物の在庫を大量に抱えているので何とか捌きたい」。それに対し、お客側の意識は「大量の在庫を前にセール待ちだった」「欲しいものは購入済みで、安いからと不必要なものまで買わない」「いい加減、商品企画を変えてくれないと、新規に購入する気にはならない」等々だろう。
柳井正社長は日々、経営革新をしないと生き残れないと、公言してきた。そこではAIなど先端技術が前提で、それらを活用した「情報製造小売業」を目指すと言って憚らない。反面、旧態依然のいたってアナログな折込みチラシを多用しなければ、販促にもレスポンスにも期待できないジレンマ。日本では新聞をとらない家庭が増えている。当然、チラシは手元に届かない。少なくとも国内市場では販促手法として催事の仕掛け、チラシ戦略、それを構成する商品企画について一考する1年になりそうである。
ユニクロの苦戦に対し、伊勢丹本店のセールには、7000〜8000人のお客がブランドをゲットするために並ぶ。三越伊勢丹の基幹3店で見ると、今年は売上げ的には前年をやや下回ったようだが、それはECによる先行販売の影響もあると思う。店舗売りが人気なのはお客の行列が何より証明している。
当然、この中にはユニクロを利用するお客もいると思う。ユニクロがセールで割引する5000円のカシミアのニットに投資するくらいなら、伊勢丹のセールで2万円のセーターを買った方がいいとの価値観もあるわけだ。「それはあくまで仮説だ」と言われればそうかもしれないが、熟考しなければならないことでもある。
仮説にしても、ブランドを購入したいお客は全国にいるのである。御殿場のアウトレットは首都圏の中心から離れても多くもお客を集めるし、昨年に開業したイオンのジ・アウトレット広島も好調を維持している。筆者は1月3日、家族や親戚の子たちに請われて佐賀県鳥栖のプレミアムアウトレット(三菱地所・ソロモンの運営)に出かけたが、話題のブランド服袋は完売しているところが多かった。物色している人々の声に聞き耳を立てると、前年に購入してかなり良かったのでリピーターとなったようだ。
しかも、お客が求めているのは、素人騙しのアウトレット専用品ではなく、直営店では高価格帯から購入に二の足を踏むブランド群である。単にメジャーだからでなく、商品づくりにしっかりコストをかけ、品質は高くデザインはベーシックで長く使っても劣化しづらいもの。そこに価値を見出すから、オフプライスだとお客はつい手が出てしまう。もちろん、後々、メルカリなどで高値で捌けることも、頭の片隅によぎるかもしれない。
伊勢丹本店のセールにお客が殺到し、アウトレットモールが好調を維持するのは、目の超えたお客は端から安い物ではなく、上質でいい物が安いのなら欲しいのだ。その意味で商品づくりをもう一度見直し、上質でいい物をいかに市場に流し、動きを見ながら二次流通まで行っていくか。ビジネスフローを考えるべき1年でもあると思う。