HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

地方に欲しい業態。

2019-12-04 04:28:53 | Weblog
 11月22日、新生・渋谷パルコがグランドオープンをはたした。閉店する前はテナント集積がぐちゃぐちゃで、上層階は秋葉系を持ってきただけの末期状態。歩率家賃で稼ぐのだから四の五の言ってられないのはわかるが、お客が遠のき始めていたのも事実(公園通りを上がるほど、どこもそうなのだが)。ファッション&カルチャーの発信基地と言えど、完全に軸がブレていたのである。

 あれから3年と3カ月の歳月をかけ、渋谷パルコは生まれ変わった。もう一度、原点を見つめ直し、「世界に冠たる渋谷に相応しい聖地とは」に立ち返った。もちろん、選り抜かれ、集められたテナントは有名無名を問わず、パルコのフィルターを通せば、価値や魅力を幾重にも打ち出せる可能性がある。

 渋谷でしか通用しないもの、全国に広がるもの、逆に地方から請われ東京でブレイクするものと、いろいろあるだろう。10月の出張時には最終工事中で内覧はできなかったが、オープン前後からいろんな情報が漏れ伝わってきている。業界系メディアは識者のルポを掲載し、「世界に唯一無二のストリートファッションとサブカルチャー…」「渋谷の核となり、新しい楽しさを」などと、高く評価する。

 個人的にはメディア情報に触れるとわくわくするが、実際に見てみると「こんなものか」と落胆することも少なくない。20代から渋谷や青山、原宿に出現する数々の新業態に触れてきたので、感覚面で成熟してしまったこともあるだろう。ただ、ファッションやカルチャーに対する飢えが無くなったのかと言えば、そんなことはない。だから、なおさら渋谷パルコには期待するし、どうしても他のテナントビルと対比してしまう。


面倒な手洗いを受付け

 もっとも、筆者が新生パルコで、まず関心をもったのはファッションでも、カルチャーでもない。4階のFASHION APARTMENTゾーンにオープンしたスニーカーの洗濯専門店「Licue&Sneakers(リクエアンドスニーカーズ)」。同店は100%水洗いクリーニングのLicueなどを展開する「アピッシュ」の運営で、スニーカー専門の業態は「日本初」という。

 システムは一般のクリーニング店とほぼ同じ。洗濯したいスニーカーを同店に持ち込むと、専門スタッフが状態を確認し、汚れの程度や素材、靴の形に合わせて洗い方を提案してくれる。利用者はどの方法にするかを選択すれば、後は出来上がり次第、店頭で受け取るだけ。

 昨今、スニーカーはレアなタイプが出回り、コレクター垂涎のアイテムも少なくない。一方、足になじむものはずっと履いていたい意識が働く。しかし、スニーカーは汚れるし、傷む。だから、何とか汚れを落としたいのがユーザーの思いだ。以前は雑誌が手入れ方法を紹介していたが、自分で洗えるものは「キャンバス」と「合成皮革」に限られる。




 筆者はキャンバスのスニーカーをずっと自分で手洗いしている。洗い方は靴ひもとインナーソールを外し、乾いたブラシで土や埃を落とす。大きめの洗面器に水を張り、そこにスニーカーを浸して十分に水をしみ込ませる。専用の洗剤(ズックリンなど)は使わず、まずはブラシだけでアッパーやソールの汚れを落とす。次にブラシに洗剤をたっぷり付けて、全体をごしごし洗う。靴ひもやインナーソールも同じだ。汚れがたまりやすい内側やコバ、ソールの窪みは特に丁寧に洗う。

 あとは汚れが残っていないかをチェックし、流水で十分にすすぐ。乾燥はじっくり時間をかけて陰干しする。 You Tubeなどでアップされている「重曹」は、まだ使ったことがない。合成皮革のスニーカーも同じ要領で行けるが、型くずれしやすいので、乾燥時にはシューキーパーを使えばいい。今は100円ショップにも売っている。着なくなったTシャツをウエスにして詰めてもいい。水気を吸ってくれるので一石二鳥だ。

 この夏も、adidasの「STAN SMITH OG PRIMEKNIT」を2足ローテーションで履いた。アッパーが白のメッシュ系素材で汚れが入り込みやすいので、秋口に上記の要領で水洗いした。筆者は大学生の頃から手洗いしているので何ともないが、これが面倒だという人は少なくないと思う。Licue&Sneakersの登場は、そういう人にとって朗報ではないか。

 こちらの洗濯方法は、コインランドリーにある業務用の洗濯機を使用する。水洗いでは、シリコンで作られた特殊なスポンジをドラム内に隙間なく詰めて行われる。通常のスポンジよりも重くて硬いため、スニーカーとの摩擦面が増え、汚れをさらに落とせるのだそうだ。コインランドリーに限らず家庭用のドラム式洗濯機もかなり進化し、大概の汚れはキレイに落とせる。スニーカーのクリーニングでも如何なく力を発揮してくれるわけだ。

 また、洗剤は素材に合わせたものを使用するので、生地を痛める心配もないとか。洗濯後はオゾン発生の乾燥機で殺菌・防臭までしてくれるという。最もベーシックな機械洗いと乾燥だけで、料金は1足700円(税別)というから実に手頃。これなら利用する人も多いはずだ。

 スニーカーは今やビジネスマンの通勤靴に奨励されるほど、オフィシャルにも浸透した。だから、クリーニングへの需要は相当あると思う。渋谷にあるからとか、パルコのテナントだからではなく、地方の商業施設でも成り立つ業態かもしれない。パルコでの業況が全国に伝わり次第、地方のデベロッパーからも引き合いがあるのではないか。


地方にあるのは普及ブランド

 そこで考えたいのが、地方の商業開発において、本当に求められるテナントとは何かである。地方都市はどこも中心市街の地盤沈下で商業の低迷が著しい。民間だけでの再開発は難しいので、自治体の手助けを得て公共施設や文化ホールなどと複合化したり、老朽化したインフラの再生と抱き合わせたりする。また、郊外のショッピングセンターに客足を奪われているため、バスターミナルを整備して公共交通の利便性をアップさせることで、中心部にお客を集める施策も取られている。

 しかし、商業の要となる肝心なコンテンツ、テナントはどうなのだろうか。ほとんどの商品がネットで購入できるようになった今、わざわざ行くだけの価値あるものがリーシングされているかには疑問符がつく。ローカルメディアは取材も分析もせず、デベロッパーのリリースを鵜呑みにして「九州初上陸」だの、「福岡初登場」だのと冠を付ける。だが、どれもすでにあるテイストばかりだ。

 フレンチトーストやタピオカといった外食のように一時的なブームとなるものは除き、地方ではお客をピンポイントで呼べる業態が開発できていないこともある。時代がどう変わっていくか、企画開発の能力、クリエイティビティやマーケティング、生産背景などの機能を持たない地方都市では、既存業態を誘致して小売りやサービスで勝負するしかない。だから、地域商業全体の魅力を発信するにしても、新規オープンの施設と既存の商店街や百貨店とが連携し、買い回ってもらうのが精一杯なのである。

 しかし、お客にとって店舗が扱う商品やサービスに価値がなければ、行く気にはならないのも事実だ。「商店街に人出が増した」「公共交通の利用者が増えた」と言ったところで、本当にどれほどの経済効果が生まれているかは、そこで商売を営む店舗の売上げを見てみないと何とも言えない。なのにメディアに登場するコメンテーターは、「回遊性」だの、「賑わいの持続」だのと、マーケットを直視していない言道を平気で吐く。

 地方都市の店舗が東京と根本的に違うのは、マス化した「普及ブランド」しか扱っていないないことだ。新規出店するアパレル、雑貨、飲食のどれをとっても、すでに有り触れたものばかり。ピンポイントで集客できる力はない。だから、インターネットに食われているのである。確実な来店動機を生む業態がない限り、無責任なコメンテーターが言う回遊性や賑わい持続性、まして経済効果は全くの未知数。隣県の地方都市も同じような施策やリーシングを行うわけだから、人口の減少を考えると競争で優位に立てるわけがない。

 その意味で、 新生・渋谷パルコがこれから育て、インキュベートしていくテナントの中で、地方都市でも必要とされる業態のヒントをいかに見つけていくか。再開発事業、商業開発に当たる人間は、業態の動向を逐一観察していくことが必須だが、果たしてそんな感性を持ち合わせているのだろうか。

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