HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

費用倒れの可能性?

2019-12-11 04:20:29 | Weblog
 2019年の流行語大賞が決まった。年間大賞には、ラグビー日本代表チームがスローガンに掲げた「ONE TEAM(ワンチーム)」が選ばれた。あの盛り上がりを見れば、順当なところだろう。トップ10には、災害に対する安全確保のために鉄道各社が実施した「計画運休」、消費税率のアップに伴う経過措置として導入された「軽減税率」などがランク入りした。

 先日のコラムにも書いたキャッシュレス決済も、「◯◯ペイ」としてトップ10入りしている。そこで、すこし前の日経新聞の記事(11月24日付)が気になったので、再度読み返してみた。「エコノフォーカス」というシリーズで、キャッシュレス決済が「ポイント還元で普及に弾み」「痛税感薄める」という見出しである。

 記事は冒頭で、米国のマサチューセッツ工科大学(MIT)の教授らによる分析を取り上げている。「プロバスケットボールの試合のチケットをオークションで買う時、クレジット払いの人は現金払いの人の2倍の入札金額を提示したーー」と、米国人はキャッシュレスであれば、消費が大きくなるという見解だ。これにはある程度納得できる反面、そもそも米国はカード社会だから、端から現金よりクレジットの方が使用金額は高いことも考えられる。

 米国のオークションの詳細はわからないが、クレジット払いを選択する理由として、詐欺などのトラブル発生後の処理が簡単なことも要因としてあると思う。それに人気があるバスケットボールのチケットなら、落札額が高くなるのは事前に推察できる。当然、入札者はクレジットで分割払いが利くのなら、落札する額が相当な額に及ぶのも辞さないはず。キャッシュレスだから高額な買い物をするというより、購入対象の商品にもよりけりではないだろうか。

 一方、日本人が現金払いを選んできたのは、「節約志向」と密接に絡むとも、記事は書いている。総合研究開発機構の調査で、現金払いを選ぶ理由を聞いたところ、「現金以外はお金を使っている感覚がなく使いすぎてしまう」との回答が6割を占めて最多だったという。これは節約志向だけではないだろう。バブル時代に抱えた多額のローンを払えずに自己破産が増えた教訓から、消費者が「身の丈にあった買い物」を学習した結果もあるのではないか。

 さらに平成不況で中間層が完全に没落し、消費者の大半は収入が増えず可処分所得が減っている。だから、節約志向より消費にまわすほどの余裕がない人が多いのだ。日々の生活に追われている人にとっては、現金だろうとクレジットだろうと、生活必需品以外の商品がなかなか購入できない。老後の年金や医療のことも頭の中をよぎるだろうし、貯蓄にまわすのは当然で、節約志向とは別次元の理由もあると思う。

 結局、消費税の10%引き上げは少子高齢で社会保障費が膨れ上がる中、財源確保のためが表向きの理由だった。しかし、増税は消費者の購買心理に影響を与え、せっかくの景気を腰折れさせるとも限らない。だから、苦肉の策として軽減税率が導入された。また、食品については税率8%のままだから、そこまで生活が厳しくなったと実感する消費者は多くないと思う。

 まあ、国としては税収を増やさないといけない。そのためには、増税による消費の冷え込みを和らげる政策が不可欠になる。それが「キャッシュレスによるポイント還元」なわけだ。財務省や経済産業省が冒頭のMITの分析を参考したかどうかはわからないが、現金決済じゃないと本当に痛税感が薄められるかは懐疑的だ。消費者が買い物する時、税率8%より10%の方が暗算しやすいので、高額な買い物になるほど現金だろうと、キャッシュレスだろうと痛税感はあるはずだ。


日本のキャッシュレスは少額決済


 むしろ、日本では、キャッシュレス決済のスマートフォンやFelica(ICカード)は、小銭支払いに代わる少額決済が主流と見るのが妥当と思う。それでいくらぐらい消費が増えたかについては、経済産業省が11月12日に発表した調査結果から類推できる。1日あたりのポイント還元額は「11億円強」に達するそうで、これを参考に計算してみよう。還元率はコンビニなどFC店が2%、中小の店舗が5%。もちろん、手続きが面倒で参加していない商店もある。

 キャッシュレスの利用者の日々の買い物は、コンビニなどが圧倒的に多いと思うので、これを6億円と見ると消費額は300億円。残りの5億円が中小店舗とすると、同100億円。合計で400億円となる。日本人の全員がキャッシュレス決済をするわけではない。仮に6割とすると、総人口を約1億2600万人として7560万人。単純計算すれば、1人当たり1日530円を消費した計算になる。

 これはポイント還元以前とそれほど変わらないのではないか。日本は中国のように何十万円もの買い物でもスマホ決済するのとは、キャッシュレスの環境が異なる。消費者にポイントを還元するにしても、1日500円程度の買い物では、個人消費を喚起したとは思えない。だが、消費が冷え込んだ風にも見えないから、経産省としては一応、胸をなでおろしたのではないか。

 一方で、来年6月までのポイント還元キャンペーン期間に必要となる総事業費は、当初の見込みより3000億円程度多い7000億円規模に膨らむと言われる。政府は追加の予算を確保する方針のようだが、これでは税収を増やすどころか、税金を使いまくっている感じがする。結局、ポイント還元による消費冷え込みの緩和や中小商店への支援が霞んで、キャッシュレス決済を定着させるための税金投入だったのではないかと言われても仕方ない。


マイナポイントの実効性は?

 来年はオリンピックイヤーだ。消費者に与える景況感は少なからず良くなるだろう。終了後にその反動が予測されることから、政府は9月から「マイナンバーカード」を活用して、キャッシュレス決済を行う人に対し、「25%の還元」を行うことを検討しているという。

 これはFelicaや◯◯Payなど、事前にチャージした金額に最大25%分の「マイナポイント」が上乗せされ、ショッピングで使えるもの。例えば、Suicaに2万円のチャージすると、2万5000円分の買い物ができるというイメージだ。利用者の範囲、ポイント還元率、利用可能店舗など、これから詳細が決定するとのことだが、還元の手法は地方自治体が実施している「プレミア商品券」に似ている。

 ただ、プレミア商品券は対象が低所得者と子育て世帯。しかも、低所得者は市区町村に申請し、郵便局などで購入しなければならない。共同通信が10月21日と23日に行った調査では、申請率が最も高かったのは青森市で44.3%。これに対し東京の新宿区と渋谷区は14.8%と全国最低。全国平均では30%程度だろうか。申請が低い理由としては、「低所得者にとっては購入費の工面が難しい」や「手続きの面倒くさい」などの声が多かったという。https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201910/CK2019102802000149.html

 プレミア商品券でもこの状況である。端から所得が少ない人は、5000円分お得に買い物ができるといっても、元手となる2万円にすら窮しているのだ。マイナンバーカードの発行率は14%程度と高くないため、マイナポイントも「カードを取得させる」「マイキーIDの設定」が目的なのは明らか。カードは役所に出向かなくてもいろんな申請ができたり、確定申告にも利用できる。しかし、手続きすればポイントがもらえるわけではないのだから、どこまで利用者が増えるかは全くの不透明だ。

 人手不足で人件費が上昇し、食品など原材料費も値上がりしているが、生活必需品について店頭での値上がり感は薄い。消費税が上がっても半年1年のスパンで見れば、影響はそれほどないと思う。おかしな言い方かもしれないが、デフレ禍は依然として底堅いような気がする。だから、一般庶民があの価格帯で通常の買い物しかしなければ、個人消費が増えるとは思えない。高額商品が売れなければ、税収を増えやすとまではいかないようだ。

 また、低所得者や年金暮らしの高齢者にスマホ決済の普及は厳しいと思う。日々の買い物は生活必需品、日用品だろうから、せいぜい行きつけのスーパーで勧められるEdyやFelicaではないか。だとすれば、チャージ限度額は2万円程度だから、使ってもたかが知れている。全国的に有機ELや4Kのテレビなんかへの買い替え需要が進まない限り、節約志向モードからの脱却は難しいのかもしれない。

 果たしてキャッシュレス決済がどこまで普及し、本当に消費者の通税感を薄めて、財布の紐を緩めるのか。買い物時の支払い方法よりも、消費者が高額でも欲しくなる商品、サービスを企業側がいかに提供するかの方が先決ではないかと思うのだが。果たして…


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