HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

高利少売の行き詰まり。

2019-12-25 05:50:11 | Weblog
 自力再建を目指していた「IDC大塚家具」(以下大塚家具)が家電量販店「ヤマダ電機」の傘下に入ることになった。ヤマダ電機が第三者割当増資43億円を負担するのだが、高級家具を販売してその地位を築いた大塚家具と、家電を1円でも安く売ってのし上がったヤマダ電機は、培った経営観も育んだ企業文化も違う。果たして、シナジー効果を発揮できて、本当にウィンウィンの関係になれるのだろうか。

 大塚家具のかぐや姫こと、久美子社長は今年2月にヤマダ電機と業務提携している。これにより、ヤマダ電機の店舗に商品を供給し、共同展開することで協業を進めてきた。だが、それで大塚家具の業績が回復しそうな兆しは一向に見えない。久美子社長としては、今回の増資受け入れで当面の資金繰りに目処を立て、何とか経営を建て直しを図る狙いだろうが、業績回復は厳しいとの見方が多数を占める。

 筆者は過去に仕事で家具・インテリア企業の販促を担当し、商品やお客、市場を細かく見てきた。また、広大な売場や幅広い品揃え、きめ細かいサービスを提供する「ディスティネーションストア」の家具店版に接したこともある。個人的には自ら事務所のデスクやシェルフ、カップボードをデザインしたので、家具産地・大川のメーカーと懇意になった。もちろん、大塚家具ではコンシェルジュに売場を案内してもらったこともある。今回はいろんな経験則から、同社が再建する上での課題を考えてみたい。

 ことの発端は、久美子社長と創業者で父親の勝久氏との経営をめぐる確執。「お父さんのやり方は時代遅れだわ」と、 勝久氏が築いた会員制の販売スタイルに疑問を呈したのだ。同社長は「中価格帯の商品」を増やして品揃えを拡充し、「富裕層以外」にも顧客を広げる改革を断行した。しかし、国内ではすでにニトリやイケアなど、製造小売り業の家具店が台頭。中価格帯の商材では競争力を持てず、結果として販売不振に陥ったと言われる。

 大塚家具が凋落した原因は、そんな単純なものではない。そもそも同社とニトリやイケアは直接は競合しない。だから、原因はもっと他にある。いちばん大きいのは、同社の不振以前から起こっている家具業界を取り巻く環境変化だ。1970年代までは消費者が家具を購入するのは、婚礼や転居が主流だった。しかも、家具は一生ものという意識が強く、そこそこ高額の商品が売れるため、「高荒利」が取れて「少売」でも家具店は商売が成り立ってきたのである。

 ところが、80年代以降、核家族化が進んで新婚夫婦がマンションなどの集合住宅で生活するケースが増え、スペースの関係から婚礼家具へのニーズが加速度的に減少した。さらに進学や就職でアパートや寮住まいとなれば、家具を置ける余裕はない。必要とされるのは、せいぜい家族でテーブルセットやベッド、子供机、単身でキャビネットや椅子くらい。タンスや食器棚へのニーズは一気に落ちていったのである。

 80年代後半くらいまでは、どんな地方都市でもフルアイテムを揃える大型の家具店が路面展開していた。しかし、90年代には消費者側のライフスタイルの変化で一気にマーケットが縮小し、撤退を余儀なくされていった。一部は郊外展開の安売り業態として生き残ってはいるが、メーカー仕入れの薄利では多店舗化などできるはずもない。昨今は毎年のように起こる地震や風水害で被災する家庭が多いことから、買い替え需要で何とかもっている状況だ。

 90年代に台頭したのは、高感度な生活雑貨や食器、キッチングッズ、ラグなどを主力に、家具はあくまで補完という「インテリアショップ」だ。消費者のライフスタイル変化にいち早く対応して業態を構築。回転のいい雑貨類を販売して売上げを稼ぎ、家具は高級品というより、センスの良さを打ち出す。北欧やイタリアなどのキャビネット、ソファや椅子などに絞り込むものだ。しかも、出店場所は路面ではなくビルイン。都市部の百貨店やテナントビル、郊外のショッピンモールで、抜群の集客力に支えられた。



 代表的な店舗は、バイヤーセレクトのCDまで販売する「アクタス」、フレンチスタイルを提案する「F.O.B COOP」、英国人のインテリアデザイナーが開業した「ザ・コンランショップ」。一方で、徹底して虚飾を排したシンプルなライフスタイルをコンセプトに衣料から生活雑貨、家電、食品、そして家具までをフルラインナップする「無印良品」も人気を集めた。その後、「タイムレスコンフォート」「ダブルデイ」などの新業態が続々と登場している。

 これらのショップでは、「雑貨を購入しようとしたら、お洒落な家具があったので、思わず衝動買いしてしまった」という意外性のある購買動向を生み出した。端から家具を大々的に売るのが目的ではないが、結果として購入に結びつく。それは家具が主ではなく、従にしたことで可能になったわけだ。バイヤーが商品を高感度なものに絞り込めるため、お客への訴求力、インパクトが増して、衝動買いを誘うのである。

 こうした手法は高級家具に特化し、会員制を敷いて「目的買いの顧客」を相手にする大塚家具とは対極にある。久美子社長が旧態依然のビジネスモデルから抜け出したのは間違いではないが、それは単にプライスラインを中・低価格帯に、商品を自由に見られるスタイルにシフトしただけ。家具以外への商品のカテゴリーの拡大に踏み込まなかったのは、やはり片手落ちと言わざるを得ない。

 2016年度の決算レポート(http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-29/h29-2-10_1.pdf)によると、大塚家具の都市部にある路面店は来店客数は増えているが、購買率が落ちている。お客に「ジャスト・ルッキング」を許したことで、成約にこぎつけられなくなっているのだ。逆に郊外の大型店は来店者数が半分に減少している。こちらはターゲット設定やエリア戦略でニトリやイケア、無印良品との競合で勝てなかったこともあるが、商品のカテゴリーをインテリアや雑貨にまで広げられなったこともあるだろう。

高コスト構造にメスを

 マスメディアはニトリやイケアが大塚家具を凌駕したような論調だが、これは正しくない。両社がお客を集めるのはインテリアや生活雑貨が充実し、日用品としての需要に支えられている点だ。さらにニトリが売れるのは、災害続きの日本で「また被災するかもしれないから、高い家具やインテリアじゃなくてもいいや」という顧客の心理変化もあると思う。一方で、「都市生活者ではドライバーを持つ人が少ない。組み立て家具のイケアは敬遠されている」という業界誌の編集長の話からすれば、棲み分けはできているのではないか。

 大塚家具の最大の課題は、「高コスト構造」にある。直営店は関東エリアが有明、銀座、新宿、横浜港みらい、南船橋にアウトレット2店の7店舗。東海エリアが1店舗。関西エリアが5店舗。北海道、九州(福岡)に各1店舗と、計15店舗になる。すべて都市部の一等地またはそれに準ずるエリアにあり、莫大な売場スペースを要する特性から、固定費である店舗賃料のコスト負担は相当額に及ぶはずだ。

 それに対し、大塚家具の売上高は業界の環境変化と競合他社の台頭で、2007年12月期の約727億円から18年12月期には約373億円と、ほぼ半減した。しかも、お家騒動で路線変更して以降、16年12月期から3期連続で大幅な赤字を出している。16年が▲45億円、17年が▲72億円、18年が▲32億円とすべて純損失だ。19年第1四半期決算を見ても▲14億円と、損失が収まる気配は一向に見えない。

 この間、久美子社長は資金繰りに奔走したようだが、銀行からの借り入れを拒まれたために資本増強に動いている。だが、ハイランドの第三者割当増資の一部が中止されるなど、思うようにはいっていない。一応、不採算店の撤退や大型店の縮小を行い、賃料などの固定費を削減したものの、ドラスティックなリストラには二の足を踏んでいる。逆に赤字という傷口を広げ出血を増やす結果を招いたのは、経営者としての判断ミス以外の何ものでもない。

 店舗は人口が多い関東と関西の都市部に集中する。これは高コスト体質を改めるには真逆だ。人口分布上は関東、関西には富裕層も多く住むと考えられるが、都心回帰と少子化で今後どこまで高級家具が必要とされるかは未知数。決算報告にあった「(都市部の路面店は)来店客数は増えているが、購買率が落ちている」ことを見ても、家具をいちばん必要とする30代〜40代が大塚家具の品揃えでは満足しきれていないことを物語る。

 一方で、一戸建ての家屋に住み、今後も家具へのニーズが高いと見られるのは、地方居住者の方だ。提携店(山梨、埼玉、広島、宮崎、群馬)はあるにしても、くまなく網羅する展開ではない。地方居住者が必ずしも高級家具を購入するとは言えないが、少なくともアプローチは必要だろう。地方で販売拠点をフリースタンディングを含めて拡充した方が広い売場の確保や品揃えの充実(雑貨やインテリアにも)が可能になるので、市場攻略には期待がもてる。なおさら賃料コストを抑えられる点でも、店舗配置の見直しは必須だ。郊外展開すれば大塚家具のブランドイメージが崩れるというのなら、業態名を変更すればいいだけ。この期において、「大塚家具のブランドを守る」どうのと言ってはいられないはずだ。

 2017年3月に発表した経営ビジョン(http://www.idc-otsuka.jp/company/ir/tanshin/h-29/h29-3-10_3.pdf)では、 営業面の回復策として「商品とサービスのオムニチャネル化」「ウェブ、店頭、自宅でシームレスに商品・情報・サービスを提供」を掲げた。これはEC対象商品を拡大し、3DやAR(拡張現実)アプリによって自宅での検討をサポート、WEB申込みによる訪問提案・採寸サービスを行うものだ。

 これも時代には合致しているように見えるが、家具という高額な買い物に対し、バーチャルな売り方がどこまで通用するかはわからない。むしろ、地方居住者が家具を購入するなら、車で気軽に行ける店舗で現物を見たいはずだから、リアル店舗は不可欠になる。都市部は高額な家賃が経営の重しになることを考えれば、在庫は最低限に絞り込み、スタッフが前出のアプリをダウンロードしたタブレット端末を携行して、コンサルティングセールスする方がいい。

 大塚家具のビジネスモデルは、高級家具を会員制でコンサルティングセールスするものだ。商業の世界で言われる「高級品を売るには、販売力が要る(優秀なセールスタッフや売れる仕組みづくり)」を地で行く手法である。端から荒利が高い商品を扱うのだから、販売点数が少なく高コスト構造でも、商売は成り立ってきた。しかし、このモデルは高級品が売れず、販売力が落ちれば、一気に崩壊する。同社はそこに陥ったのである。今の時代、家具ビジネスにおいて高利少売がどこまで通用するのかと言えば、全く不透明と言わざるを得ない。

 家具やインテリアを取り巻く環境変化は著しい。ヤマダ電機傘下入りの記者会見で、同席した山田昇会長は「荒利が高いんですよ。売上高が10%も伸びれば、来期(2021年4月期)にはたちまち黒字になる」と語った。Amazonエフェクトの影響をもろに受けている同社は、住宅リフォームや家具などを扱う新業態「家電住まいる館」を100店舗以上展開している。会見からは、大塚家具を事実上買収したことで家具事業を強化できる思惑もあると見て取れる。だが、あくまでたらればの話で、実現する保証は何もない。

 筆者が家電住まいる館に並ぶインテリアや雑貨類を見る限りでは、100円ショップの商品に毛の生えたレベルで、 中価格帯の商品を拡充した大塚家具とは言え、親和性は感じられない。ヤマダ電機は「バング&オルフセン」のような高級家電を扱っているわけではないが、インテリアや雑貨類も大塚家具に合わせるなら感度面は別にしても、アクタスやコンランショップ級のグレードがないと釣り合わない。所詮、安売り電器屋の感性では、この程度が限界なのかと思ってしまう。その証拠に大塚家具はヤマダ電機の約20店舗に商品を供給しているが、売上げ面で相乗効果がもたらされていない。やはり、ヤマダ電機の売場では、大塚家具の商品が生きないのである。

 今回の傘下入りでも、久美子社長は経営者を続けるが、成果が上がらなければその座から引きづり降ろされる可能性もある。当人もそれは十分に承知の上だから、さらなる出資先を募って自分のシンパ企業を増やし、ヤマダ電機の持ち合い比率を下げることも考えられる。しかし、肝心なのは、本業の業績回復に取り組むことだ。

 いつの時代でも言われるが、経営者に求められる資質は、計数管理と感性とクリエイティビティ。左脳では算盤をはじき、右脳ではセンスと創造力を発揮して事業を進める。果たして人も羨む一橋大出の元バンカーにそうした資質が備わっているのだろうか。
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