HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

施設効果は期待薄。

2017-05-31 05:37:11 | Weblog
 先週末、熊本市に出張した。地震から1年1ヵ月。街は震災前とそれほど変わった様には見えない。ただ、熊本城は天守閣の屋根に足場が組まれ、遠目に見ても再建はこれから。
 住民でも被災者でもない筆者にはわからない爪痕があるだろうし、仮設住宅などでの生活を余儀なくされている方もいらっしゃる。1日も早く平穏な暮しを取り戻せるように願うばかりである。

 ちょうど、地震発生直後に鉄骨が組まれた状態だった下通商店街のNSビル。同ビルの1〜4階を占める都市型SC「COCOSA」がオープンして1ヵ月を経過したので、帰りにチェックしてみることにした。ここでは1985年からダイエーがGMSを営業していたが、店舗の老朽化と陳腐化で撤退。その跡地を地元のデベロッパーの南栄開発とオーナーの櫻井總本店が共同で開発したものである。


 SCの運営管理は天神ヴィオロと同じく東京建物グループの「プライムプレイス」が当たり、テナント誘致も担当している。メーンターゲットを「30代女性」に設定し、コンセプトは「DESIGN OUR LIFESTYLE」。アーバンリサーチやジャーナルスタンダード、無印良品、XLARGE、ザ・スーツカンパニーなど44店舗が入るコンパクトなファッションビルだ。メディアが好きな「熊本初出店」は30店舗あり、うち3店舗が「九州初上陸」という。

 ここは1973年に死者100名以上の大火災を起こした大洋デパートがあった場所だ。百貨店の経営陣は業務上過失致死罪で起訴され、最高裁で逆転無罪となったが、百貨店自体は倒産、廃業に追い込まれた。そんな曰く付きの店舗が過去を清算するように新ビルに生まれ変わったのは、震災復興を願う地元にとっても象徴的存在となるだろう。

 だが、ビジネスのポテンシャルどうなのか。テナントの顔ぶれはターゲットに合わせたというより、既存店とのバッティングから予想通りに落ち着いたという感じだ。セレクトショップの御三家、ビームス、ユナイテッドアローズ、シップスは通町筋界隈、エディフィス(ルームド エ イエナのメンズ&レディス)は鶴屋東館に出店済みだし、ナノユニバースも熊本パルコに入る。

 残るはジャーナルスタンダード、アーバンリサーチ(UR)くらいしかなく、 URのDOORSと抱き合わせでリーシングされている。(URのメイクストアはすでに鶴屋東館に出店)

 アダストリアのBAYFLOWとHAREもセットで誘致されたようだ。他のショップはフリークスストアやチャンピオン、リーとアメカジテイストになる。目を引くのは4階フロアすべてを占める無印良品くらいだろうか。衣料品はメンズ、レディス、キッズが揃い、雑貨も充実。郊外店にはない書籍コーナーやカフェレストランが併設されている。キャナルシティ博多のメガ業態やビルごと無印の天神店に比べると、家具や家電がないくらいで、日常の買い物には十分だろう。

 ただ、見方を変えると、目新しいテナントが誘致できていないとみることもできる。BAYFLOWや UR DOORSはメンズレディスのフルアイテム展開だが、他にスペースを稼げるのは無印良品はじめ、インテリア雑貨のunicoやザ・スーツカンパニーしかなかったと、言われてもしかたない。


 COCOSAはターゲットを30代女性向けにしたものの、ファッションテナントの大半は独身や感性年齢が若い層を考慮したようで、カジュアル主体でMDに奥行きがない。テナントに取り立てて個性的な業態がないので、多様化する30代を呼び寄せるとはいかないと思う。まあ、建物の延床面積はわずか19,000㎡弱しかないこともあるが、運営にあたるプライムプレイスの力からすれば、これが精一杯だったのではないか。

 オープンから1ヵ月。地震の影響で客足が遠のいていた下通の通行量は、対前年の150%、震災前と比較しても145%と、商店街組合はほくほく顔のようだ。それならCOCOSAも売上げも目標額に相当オンしてもいいはずなのに、こちらは予算対比でわずか5%上回る程度と、通行量に比べると見劣りする数字である。開業がゴールデンウィーク突入前だったため、連休に物見遊山のお客が多数訪れただけで、実際の買い物に結びついていないのだ。でも、この数字について筆者はある程度予測していたから、別に驚かない。

 理由はいろいろある。まず計画段階からSCゾーンが4フロアしかなく、ロケットスタートを切るほどのパワーを感じなかったこと。次にテナント発表の時点で、テイストが既存店とほとんど被っており、目新しさが少しもないこと。さらに2年後には交通センターがある桜町一帯にも約140店が入る大型商業施設が開業するため、テナント各社が様子見の状態であること。そして、入居テナントのほとんどがネット通販を行っており、お客にとって別に初めてではないため、現物の試着にやってきた程度であること等々だ。

 地元の人々が公言してはばからない「ファッションの街、熊本」にしては、それをリードするような店舗、業態が登場していないこともあるだろう。商業施設に出店するには、保証金や内装費などの初期投資に加え、歩率家賃が取られる。地元ファッションをリードしてきた商業者やショップオーナーからすれば、すでに顧客を捉まえ商売を成立させている。わざわざ多額の投資負担をしてまで出店する理由はないのだ。

 それ以上に地方都市のマーケットが完全に成熟しており、衣料品が個人消費を喚起する時代ではない。熊本のような地方都市は典型的で、周辺の一部がベッドタウン化する一方、中心部は人口減少に襲われている。いくらファッションの街と宣ったところで、マーケットはそこで生活する人々の身の丈以上に拡大しない。伸びシロがないのに商業施設を開業しても、起爆剤にはなりにくいということだ。

 大分市に2015年に開業にした「JRおおいたシティ」も、商業施設「アミュプラザおおいた」の初年度売上げは目標200億円に対し、224億円と予対112%となった。開業1年目は嫌が上でも集客はあるわけで、それを考えると10%程度のオンでは好業績を生んだ部類には入らない。COCOSAは開業してまだ一月しか経過していないが、おそらく予算対比では似たような数字に落ち着くのではないかと思う。

 もはや「箱ものの商業施設が地域を活性化する」というのは、自治体やメディアの勝手な願望や期待値に過ぎない。言い換えれば、地方都市のマーケットは急速に縮小しているのだから、それに対しどのような開発が必要なのか。テナントリーシングの前に業態開発から考えていかなければならない。でないと、ファッションの街、熊本も手前味噌なスローガンで終わってしまう。


 COCOSAの話とは関係ないが、取引先が地元紙の新聞広告を見せてくれた。新聞社の業務推進局が制作したカラー4連版で、My Jeans Storyをタイトルにした「企画枠」だ。ジーンズの起源や歴史を簡単に解説しつつ、熊本ファッションをリードして来たセレクトショップのオーナー夫人を始め、尾道デニムプロジェクトの熊本開催に参加する有志たちが登場している。


 年表からは70年代に流行した「カットオフ」や「継ぎ接ぎ(パッチワーク)」、ディナージーンズの「サスーン」が抜け落ちているものの、有志たちはみなテーパードの定番やヴィンテージ風を愛用しているところが熊本らしい。この広告をデニムやジーンズに詳しいファッションライターの南充浩さんがご覧になると、どう評価されるだろうか。そっちの方も気になった。

 個人的にはせっかく熊本に出張したのだから、復興応援のつもりで何か一つでも商品を買って帰りたかったが、COCOSAはもとよりストリートのショップでも、欲しい物は全く見つからない。事前にチェックしておいたムーンスターのMade in Kurume「RALY」も、ビームスの通販では取り扱われているものの、実店舗の熊本店に在庫は無し。試着ができないので、またもや購入を控えざるを得ない。

 結局、お土産はローカル紙の新聞広告のみになってしまった。まあ、次の熊本出張に期待するしかないだろう。

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