HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お客は賢くなっている。

2017-07-12 07:02:54 | Weblog
 三越伊勢丹がセールの後ろ倒しを実施して5年。業界では賛否が問われたものの、一般専門店や個店のセレクトショップは、「(セールなんて)店側が勝手にやっているだけ」とか、「お客さんに責任はないし」と、端から異に介さなかった。

 そもそもセールは店頭に残った在庫を捌いて現金化し、次シーズンの仕入れの原資にして店舗を円滑に運営していくもの。いわゆる、商売を継続していくためだ。しかも、今日のように商品価格が下がり、そこそこの価値のものが恒常的に手頃な価格で買えると、セール自体はそれほど魅力を感じなくなっている。

 しかも、お客さん側の消費行動が完全に変わってしまった。お金を持たない10代〜20代前半の若者は、ファストファッションを上手く着こなしているし、アルバイトで小金が入るとネットのオークションやフリマで、ブランドの中古品をゲットできる。30代、40代はEC+リアル店で普段の買い物チャンネルで済ませ、ボーナスをもらえば自分へのご褒美として有名ブランドを購入することもできる。

 では、50代以上はどうなのか。DCブランド世代で、バブル時代にはインポートも着こなした経験をもつ。そこそこの可処分所得がある人たちは、ファッションにお金をかけることもできる。ただ、巷のマーケットに出回る商品は、価格が下がったのと並行して商品の原価率も押し下げられている。NBを中心にかつてほど(自分らが20〜30代に身につけた時代)のクオリティの商品がないという印象だと思う。

 つまり、この手の層はそうしたマーケットでのリアクションは敏感だ。一応、商品は探すが、郊外SC系ブランドのクオリティがアップしたことで、普段着ならそれで十分だと感じている。でも、お目当てのものがなければ買わない。問題はその先というか、グレードの高い商品のショッピングなのだ。

 郊外SCはファッション、雑貨はもとより、飲食サービスまでテナントのグレードがほぼ固まって来ている。飲食はファストフードから全国展開のチェーンで、メニューはもちろん、味やレベルは均一化されている。食事に興味があまりない人々なら、それでも十分だろうが、美味しい料理を食べているとセントラルキッチンの味だけでは満足できない。自分で料理ができる人には食材が買える業態もあるが、あくまで少数派だ。

 ファッションも同じで、SC系カジュアルのレベルが向上したからと、それだけではTPOでも感性的にも満足できない50代はかなりいると思う。そうした人々の買い物行動がセールにどう出ているか。ここ2〜3年、リサーチを続けている。この夏もクリアランスセールが一部では6月末、百貨店では7月1日に始まった。それが最初のピークを迎えた先週末に福岡の天神、博多駅エリアで調査をしてみた。

 対象が40代、50代(主にレディス)になるので、福岡市の中心部に店舗を構える福岡大丸(エルガーラ含む)、イムズ、天神地下街や新天町、キャナルシティ博多、博多リバレイン、JR博多シティ(アミュプラザ博多、博多阪急)、博多マルイを調査店舗とした。そこで全体的なクリアランスセール傾向を総括すると、以下のようになる。

 ●百貨店は40代、50代を集客。

 ●30代向けレディスブランドを40代も購入。

 ●海外デザイナーブランドは苦戦。

 ●国内ブランド(NB/百貨店系含む)は人気にバラツキ。


 セールになれば、最低でも30%オフになる。50代にとって、このお値打ち感は魅力のようである。日頃、買い物するSCにはない商品が安くなるからだ。それでも100%満足できないだろうが、百貨店、ファッションビルのミセス向けショップでは結構お客を集めているところがあった。三越伊勢丹系列の岩田屋、福岡三越は本日12日からセールに入るが、両店にしか展開がないブランドもあり、開店に向けて並ぶお客もいることから、似たような傾向になるのではないかと思う。

 また、40代も都市部にショッピングに出かける行動では、自分の「スタイリング」を衆人にさらすことになり、スタッフや同世代のお客の着こなしからも刺激を受ける。セールでは価格の安さも手伝って30代向けのブランド(キャリア)では、パターンのシャープさや若々しく見えるデザインから、サイズさえ合えば購入しようという40代のお客まで取り込んでいるところもあった。

 ただ、セールで集客できているブランドとそうでないところがあるのも事実だ。百貨店系、アパレルSPA系問わずである。具体的なブランド名の公表は控えるが、実際に売場を見て見るとその差が歴然としている。セールPOPが掲示されているにも関わらず、販売スタッフは暇そうにしている。「セールで売れるならまだしも、セールでも売れないものは当然、プロパーでも売れていない」わけだ。経営側はブランド閉鎖を公言するものの、ドラスティックな動きは鈍い。売場をみると、そんな状況がつぶさにわかってくる。
 
 百貨店やショッピングセンターという器を作り、そこをフロアごとを間仕切りしてブランドごとにテナントとしてリーシングする。売れれば、契約期間が延長になり、他から出店依頼が来るし、他ブランドは似たデザインやテイストを売り出し、マス化していく。そこで生き残るところと淘汰されていくところがあるが、EC販路を含めプロパーではよく見えないことがセール時には明白になる。30%オフで明暗が分かれることを作り手側のアパレルも、もっと検証すべきではないかと思う。

 買い物に賢くなった40代、50代はセールさえ選別しているのである。それは日頃のショッピング行動からハッキリしているはずだ。普段に着るカジュアルなら、価格が安いSC系ブランドで構わない。セール時には都市部の百貨店やファッションビルにある中高級ブランドをネットを含めてチェックし、気に入った物があれば並んでも購入する。

 そして、お金を出しても購入したい高級ブランドやクリエーター系デザイン、高感度な海外のファクトリー系などのブランドは、ネットを含めてワールドワイドに物色する。それでも見つからないときは…。

 かつてセール期間は3日から1週間程度だった。それで売れ残った在庫をクリアランスと称して、割引率を段階的に70%程度まで拡大して消化していた。今はセールのネーミングに窮しているのか、安さや在庫一掃を強調したのか、いきなりクリアランスだ。しかも、百貨店の三越伊勢丹のビジュアルは、系列の岩田屋、福岡三越も同じだ。コスト削減の一環なのだろうが、だったらプロパーで売り切って収益力をつけろよと、突っ込みたくなる。

 SPA系では店頭のPOPには70%オフでさらにレジで30%オフになるブランドもある。それをみて、「タダじゃん」ってツィートするおバカがいると揶揄する諸兄も多いが、そんな商品を開発する方がよほどバカげていると言いたい。明らかに企画側に問題がると言わざるを得ないし、それでも売れていないブランドがあるのだから、どうしようもない。だから、小売りする店舗は完全に手詰まり状態なのだ。

 では、アパレル側はどう対応すべきかなのか。売れていないからとか、商品過剰だからとかで切って捨て、ブランドを閉鎖し、新たに開発するだけでは通用しない。プロパーでも売れず、セールにかけても売れないような商品は、端からお客は求めていないのである。また、セールにかけて売れるのは商品価値と価格のバランスをお客のニーズというか、懐具合に合致するからだ。そんなお客がセールで多く来店する=多数派ならば、原価率と値入れの部分にも踏み込んでいくべきではないだろうか。

 海外のラグジュアリーブランドはブランドバリュを維持するために広告など販促にも惜しみなく資金を投入する。だから、販売価格が高く、法外な利益を乗せていると断じるのは容易い。でも、企画デザインには自社で人材を割き、素資材の開発や調達、縫製、生産管理までにも十二分のコストをかけている。売価に見合うだけの原価率を維持している。だから、ブランドバリュ以上にクオリティも高い。それが少しでも安くなると、プロパーでは購入できないお客まで集客できるわけである。

 また、ラグジュアリーほどブランドバリュやトレンドにこだわりはないが、独自のデザインセンスと確かなもの作りで、高級ブランドと遜色ないクオリティを維持している海外のファクトリーブランドもある。原価率は高いが、価格がこなれている分、サイズさえ合えばお客は購入しやすい。50代のような成熟した大人の消費者はプロパーでもこうした商品を求めているはずだが、最近は個店のセレクトショップが仕入れなくなり、海外サイトしか頼る物がない。でも、試着ができないリスクから買い物にどうしても二の足を踏んでしまう。

 とすれば、セールで売れないブランド、売り切れない在庫は、根本的に原価率と値入れ率のバランスを組み替えてみる必要があるのかもしれない。利益を削っても原価率をあげると商品企画や素資材にコストがかけられ、少なくとも商品のクオリティや魅力が上がる。ならば、プロパー消化の途が開けてくるかもしれない。また、ブランド化、トレンド追いだけが売れる条件だとは思えない。成熟した大人向けの商品には、素資材や縫製に力を入れた国内ファクトリーブランドへの途も選択肢の一つだろう。

 なおさら、メーカー派遣による委託販売、売れ残りは返品、最初に利益という手法ではどう考えても原価率をアップできるはずはない。もちろん、何社も中間業者をかませることなど、問題外である。その結果がセール不振、ブランド再編なのだ。アパレルだけではできないのだから、売上げ不振に苦しむ百貨店などがチームを組んで、もっと踏み出すべきではないだろうか。

 値引きによって在庫を消化し、売上げを追いかけるだけはなく、プロパーで売るためのもの作りは何かを問いつめないと、先は見えて来ない。「誰がアパレルを殺すのか」の犯人を探すのではなく、誰かが生き抜くための主人公になることこそ、必要なのである。

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