2024年もあっという間に二月が過ぎた。メディアは物価高の影響からスーパーでは安さを訴求したPBの売り行きが良いと喧伝しながら、コロナ禍が終息しても割高なコンビニの弁当や惣菜はよく売れていると報道する。つまり、生活防衛のために自炊をして食費をできるだけ切り詰める層と、手軽に食事が済ませられる中食に利便性を求める層があり、双方の市場が共存していることを示す。消費構造は一律では捉えられないことになる。
そう考えると、スーパーや百貨店の売上げだけを基準に景気動向を判断することにどれほど意味があるのか。少なくとも、個人消費についてはミクロで、いろんな業種、業態の売れ行きを多面的に見て判断することも必要ではないか。
一例をあげてみる。今年のバレンタインデーだ。かつては女性から男性にチョコレートを贈るのが慣例化し、「本命」や「義理」といった目的別の贈答スタイルが定着していた。ところが、時代とともに目的も大きく変わっていった。他人へのプレゼントから自分へのご褒美としてチョコレートを購入している女性が増えているのだ。
そして、今年はそれが顕著になった。ある調査会社が行ったアンケートによると、女性がチョコレートにかける平均予算は2023年の1.3倍、金額で約1200円増えて、5024円だったそうだ。しかも、自分へのご褒美としてチョコレートを購入する女性が21.7%で、23年より大幅に増加。自分チョコの需要が増える一方、義理チョコに参加したくないと回答した女性は8割を超えたという。物価高が叫ばれているにも関わらずだ。
義理チョコにかける予算がまるまる自分チョコに流れたのか。詳細なところはわからないが、義理より自分用を購入する方がグレードが上がるのは間違いない。だから、購入単価もアップし、平均価格が5000円を突破したと見ることができる。大手百貨店はこぞって国内外の有名パティシエが考案した高級品のコーナーを開設している。価格を抑えたい義理チョコより自分用を購入する女性が増えていくのは必然でもある。
大手スーパーでもグレードアップした商品をエンド展開していた。東京白金の菓子メーカージェイズが作るタブレットチョコ(7~8cm四方)もその一つ。ブランド名は「メゾン・シロカネ」。キウイフルーツやオレンジ、ももなどの素材を組み合わせたグラフィカルなデザインが気に入り、価格も1枚180円と手頃だったため購入した。市販のチョコにはない趣のある味が家族にも好評だったので、輸入物のトリュフチョコでなくてもいいのかと感じた。
一方で、ディスカウントストアの店頭に並ぶ包装に凝ったチョコレートはどうなのだろうか。義理チョコを意識したギフト目的なのはわかるが、バレンタイン市場の変化を見れば大々的に展開する時代は疾うに過ぎたはずだ。NBの定番も大量展開しているので、こちらは手作りチョコ用の材料も兼ねていると思うが、それならまとめ買いを誘う割引き策が必要ではないか。どちらにしても、イベントに併せて商品そのものを練り直したり、売り方を一考するなど、工夫を凝らさないと消費者を惹きつけられないことは確かだ。
さらに近年の傾向として、単に既製のチョコを購入するのではなく、パティスリーでスイーツを楽しむスタイルも広まっている。パンケーキやフレンチトーストの延長線であり、これならバレンタインデーだけでなく、チョコメニューさえ準備できれば常時集客できる。スイーツビュッフェよりもグレード、客単価ともアップするだろう。「要予約」「限定○名」といったプレミア感を出せば廃棄ロスを抑制できる。SDGsが叫ばれる時代に合った手法だ。
女性層は老弱を問わず、甘いものには目がない。特に若い女性は外で食事を楽しむ場合、美味しいものにはお金をかける傾向がある。人気店に行列ができるのも、SNSでグルメ情報がたちまち伝播していくからだ。何も富裕層だけが食事にお金をかけるわけではない。安さだけが中間層を集める決め手だとの先入観を改め、価格が高くても「体験」という価値を伝えるコト消費にシフトする。売り方はそうしたフェーズに入っているのは間違いない。
ブランドを所有するのではなく占有する感覚
買い方の変化はZ世代にも表れている。従来、若者世代は収入が低いため、高額消費を牽引するまでにはならないとの見方が支配的だった。ただ、平成不況の中でもビームスやユナイテッドアローズなどのセレクトショップは、20代の若者世代に支えられ右肩上がりの成長を遂げた。お客の中には欲しいアイテムは無理しても購入するフリーターもいた。単価が高い高級ブランドには手が出ないが、値ごろなアイテムを購入するお客の絶対数が多いことで、セレクトショップでは高い売上げに繋がったわけだ。
もちろん、若年層の総収入には限りがあるし、非正規雇用から抜け出せない層も少なくない。そんな中で賢く生活する術としてどこかに投資をすれば、どこかを削ることになる。賛否は別としてブランドのTシャツを購入する割に、年金保険料は納付の猶予を受けていると嘯く若者もいた。昨今では収入が伸びないことが非婚化、ひいては出生率の低下、少子化を招いているとも言われている。ただ、個人の人生設計やライフスタイルに国家や企業がどこまで介入できるのか。これについては別の機会に書くとして、話を若者の消費変化に戻そう。
東京・渋谷の公園通りを上り、渋谷パルコの角を左に折れて宇田川町方面に歩くと、井の頭通りに下る路地坂がある。通称「スペイン坂」。かつてこの地にあった喫茶店のオーナーが開業するパルコから坂のネーミングを依頼され、自店の雰囲気にちなんで名付けたと言われている。ここはこれまでに何度も通り抜けているが、記憶に残っているのはガラス張りのDJブースくらいしかない。
そんなスペイン坂の井の頭通り角に昨年11月、中古品売買大手のコメ兵が「KOMEHYO SHIBUYA」をオープンした。売場はフロアごとにテーマが設けられ、全国から厳選されたアイテムが並ぶ。ボッテガ・ヴェネタ、ディオール、グッチ、ロエベなどのバッグのほか、「メゾン マルジェラ」「モンクレール 」といった若者人気のブランドアパレルがラインナップ。スニーカーやアクセサリーも充実する。
場所柄、明らかに若者をターゲットにした店舗になる。同社は若者向けに絞り込んだファッションアイテム主体の品揃えで、若者に人気のあるエリアで出店を進めている。有楽町にはすでにスニーカーの専門業態を出店したほど。そうした効果は歴然とあらわれ、2023年の客単価は19年対比で、29歳以下ではバッグが3.12倍、時計は7割も伸びたという。
背景には、Z世代では「せっかく購入するなら再販価格が高いブランド品の方がいい」という価値観の変化がある。ネットオークションへの出品やフリマによる中古品の処分が簡単にできるようになったことで、新品を購入する前に中古価格を調べるためにわざわざコメ兵を訪れて調べる若者もいるとか。ブランド品であればクオリティも高い。再販価値は十分にあるから、高値で売ることもできる。ならば、所有するのではなく、占有する感覚で着用することは十分にあり得るだろう。
もちろん、再販で現金化すれば、それは新たなアイテムの購入資金になる。その循環がうまくいけば、割高なブランド品の購入を後押しする。経済効果として捉えてもいいはずだ。現にメルカリの調査ではフリマアプリの利用者の63%が「中古品売買で得た資金を新品購入の原資に充てる」と答えたという。リサイクル専門誌は2012年から22年の10年間で2.9兆円と10倍に急増したリサイクル市場は、30年には4兆円まで伸びるとの見通しを立てている。
かつては「中古品ばかりが売れると新品の販売に影響が出る」と憂う向きもあった。しかし、「売れる中古品は再販でも価値があるもの。そのためには価格が高くても新品のブランド品が売れることが前提」という風に考えを変えるべきなのだ。平成不況の時代はコストパフォーマンスの良い商品と言えば、安くてオシャレなアイテムだった。それが令和の現在では、再販価値の高いものに変化した。そのためには原価率を上げた上質なもので、いかにブランド価値が高いものをいかに作っていくかにかかっている。
宝石・貴金属や高級時計は元々の価格が高いので、再販でも高値で販売することができる。ただ、業界の関係者からは、「海外ブランドのジュエリーは石のカッティングセンスがいいので、地金の台だけ溶かしてデザインを変えれば再生価値につながる」と、聞いたことがある。今では「サスティナブル・ジュエリー」というカテゴリーがあるほど。これも再販価値を生むかもしれない。
機械式の高級時計はメンテナンスすれば、再販は可能だ。国内メーカーの販売代理店の部長はかつてこう嘆いていた。「セイコーがクォーツなんて開発するから、時計屋が潰れるようになった」と。熟練技能士の雇用や育成がままならず、分解掃除の技術も伝承できなくなったということだ。再販市場が拡大すれば、日本人の技術者も必須になる。先日、高級時計のシェアリングサービスを謳った事件が発生した。防ぐには商品にシリアルナンバーをつけ、ブロックチェーンで管理することで所有者を明確にし、再販時にも確認できる仕組みが必要だろう。
国連が設定した2030年までの目標、SDGsが叫ばれる中で、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が浸透し、若者の間ではリセール消費は当たり前になった。中古市場を時系列で推計するリサイクル通信は、2022年度の市場規模は2兆9000億円としている。カテゴリー別では衣料・服飾品が5200億円、ブランド品3100億円とみる。今後も成長が続くとみており、30年には4兆円に達すると指摘する。
リユース市場をアングライメージで見つめるのではなく、むしろ中古品市場の活況は再販価値をもつ商品作りがカギになる。そういう考え方に変えるべきなのだ。そのためには原価率が高くコストをかけた上質な商品を生み出す努力をすることが重要。若者には購入額に限界があるとは言えるが、消費そのものの動向から目が離せないのも確かである。
そう考えると、スーパーや百貨店の売上げだけを基準に景気動向を判断することにどれほど意味があるのか。少なくとも、個人消費についてはミクロで、いろんな業種、業態の売れ行きを多面的に見て判断することも必要ではないか。
一例をあげてみる。今年のバレンタインデーだ。かつては女性から男性にチョコレートを贈るのが慣例化し、「本命」や「義理」といった目的別の贈答スタイルが定着していた。ところが、時代とともに目的も大きく変わっていった。他人へのプレゼントから自分へのご褒美としてチョコレートを購入している女性が増えているのだ。
そして、今年はそれが顕著になった。ある調査会社が行ったアンケートによると、女性がチョコレートにかける平均予算は2023年の1.3倍、金額で約1200円増えて、5024円だったそうだ。しかも、自分へのご褒美としてチョコレートを購入する女性が21.7%で、23年より大幅に増加。自分チョコの需要が増える一方、義理チョコに参加したくないと回答した女性は8割を超えたという。物価高が叫ばれているにも関わらずだ。
義理チョコにかける予算がまるまる自分チョコに流れたのか。詳細なところはわからないが、義理より自分用を購入する方がグレードが上がるのは間違いない。だから、購入単価もアップし、平均価格が5000円を突破したと見ることができる。大手百貨店はこぞって国内外の有名パティシエが考案した高級品のコーナーを開設している。価格を抑えたい義理チョコより自分用を購入する女性が増えていくのは必然でもある。
大手スーパーでもグレードアップした商品をエンド展開していた。東京白金の菓子メーカージェイズが作るタブレットチョコ(7~8cm四方)もその一つ。ブランド名は「メゾン・シロカネ」。キウイフルーツやオレンジ、ももなどの素材を組み合わせたグラフィカルなデザインが気に入り、価格も1枚180円と手頃だったため購入した。市販のチョコにはない趣のある味が家族にも好評だったので、輸入物のトリュフチョコでなくてもいいのかと感じた。
一方で、ディスカウントストアの店頭に並ぶ包装に凝ったチョコレートはどうなのだろうか。義理チョコを意識したギフト目的なのはわかるが、バレンタイン市場の変化を見れば大々的に展開する時代は疾うに過ぎたはずだ。NBの定番も大量展開しているので、こちらは手作りチョコ用の材料も兼ねていると思うが、それならまとめ買いを誘う割引き策が必要ではないか。どちらにしても、イベントに併せて商品そのものを練り直したり、売り方を一考するなど、工夫を凝らさないと消費者を惹きつけられないことは確かだ。
さらに近年の傾向として、単に既製のチョコを購入するのではなく、パティスリーでスイーツを楽しむスタイルも広まっている。パンケーキやフレンチトーストの延長線であり、これならバレンタインデーだけでなく、チョコメニューさえ準備できれば常時集客できる。スイーツビュッフェよりもグレード、客単価ともアップするだろう。「要予約」「限定○名」といったプレミア感を出せば廃棄ロスを抑制できる。SDGsが叫ばれる時代に合った手法だ。
女性層は老弱を問わず、甘いものには目がない。特に若い女性は外で食事を楽しむ場合、美味しいものにはお金をかける傾向がある。人気店に行列ができるのも、SNSでグルメ情報がたちまち伝播していくからだ。何も富裕層だけが食事にお金をかけるわけではない。安さだけが中間層を集める決め手だとの先入観を改め、価格が高くても「体験」という価値を伝えるコト消費にシフトする。売り方はそうしたフェーズに入っているのは間違いない。
ブランドを所有するのではなく占有する感覚
買い方の変化はZ世代にも表れている。従来、若者世代は収入が低いため、高額消費を牽引するまでにはならないとの見方が支配的だった。ただ、平成不況の中でもビームスやユナイテッドアローズなどのセレクトショップは、20代の若者世代に支えられ右肩上がりの成長を遂げた。お客の中には欲しいアイテムは無理しても購入するフリーターもいた。単価が高い高級ブランドには手が出ないが、値ごろなアイテムを購入するお客の絶対数が多いことで、セレクトショップでは高い売上げに繋がったわけだ。
もちろん、若年層の総収入には限りがあるし、非正規雇用から抜け出せない層も少なくない。そんな中で賢く生活する術としてどこかに投資をすれば、どこかを削ることになる。賛否は別としてブランドのTシャツを購入する割に、年金保険料は納付の猶予を受けていると嘯く若者もいた。昨今では収入が伸びないことが非婚化、ひいては出生率の低下、少子化を招いているとも言われている。ただ、個人の人生設計やライフスタイルに国家や企業がどこまで介入できるのか。これについては別の機会に書くとして、話を若者の消費変化に戻そう。
東京・渋谷の公園通りを上り、渋谷パルコの角を左に折れて宇田川町方面に歩くと、井の頭通りに下る路地坂がある。通称「スペイン坂」。かつてこの地にあった喫茶店のオーナーが開業するパルコから坂のネーミングを依頼され、自店の雰囲気にちなんで名付けたと言われている。ここはこれまでに何度も通り抜けているが、記憶に残っているのはガラス張りのDJブースくらいしかない。
そんなスペイン坂の井の頭通り角に昨年11月、中古品売買大手のコメ兵が「KOMEHYO SHIBUYA」をオープンした。売場はフロアごとにテーマが設けられ、全国から厳選されたアイテムが並ぶ。ボッテガ・ヴェネタ、ディオール、グッチ、ロエベなどのバッグのほか、「メゾン マルジェラ」「モンクレール 」といった若者人気のブランドアパレルがラインナップ。スニーカーやアクセサリーも充実する。
場所柄、明らかに若者をターゲットにした店舗になる。同社は若者向けに絞り込んだファッションアイテム主体の品揃えで、若者に人気のあるエリアで出店を進めている。有楽町にはすでにスニーカーの専門業態を出店したほど。そうした効果は歴然とあらわれ、2023年の客単価は19年対比で、29歳以下ではバッグが3.12倍、時計は7割も伸びたという。
背景には、Z世代では「せっかく購入するなら再販価格が高いブランド品の方がいい」という価値観の変化がある。ネットオークションへの出品やフリマによる中古品の処分が簡単にできるようになったことで、新品を購入する前に中古価格を調べるためにわざわざコメ兵を訪れて調べる若者もいるとか。ブランド品であればクオリティも高い。再販価値は十分にあるから、高値で売ることもできる。ならば、所有するのではなく、占有する感覚で着用することは十分にあり得るだろう。
もちろん、再販で現金化すれば、それは新たなアイテムの購入資金になる。その循環がうまくいけば、割高なブランド品の購入を後押しする。経済効果として捉えてもいいはずだ。現にメルカリの調査ではフリマアプリの利用者の63%が「中古品売買で得た資金を新品購入の原資に充てる」と答えたという。リサイクル専門誌は2012年から22年の10年間で2.9兆円と10倍に急増したリサイクル市場は、30年には4兆円まで伸びるとの見通しを立てている。
かつては「中古品ばかりが売れると新品の販売に影響が出る」と憂う向きもあった。しかし、「売れる中古品は再販でも価値があるもの。そのためには価格が高くても新品のブランド品が売れることが前提」という風に考えを変えるべきなのだ。平成不況の時代はコストパフォーマンスの良い商品と言えば、安くてオシャレなアイテムだった。それが令和の現在では、再販価値の高いものに変化した。そのためには原価率を上げた上質なもので、いかにブランド価値が高いものをいかに作っていくかにかかっている。
宝石・貴金属や高級時計は元々の価格が高いので、再販でも高値で販売することができる。ただ、業界の関係者からは、「海外ブランドのジュエリーは石のカッティングセンスがいいので、地金の台だけ溶かしてデザインを変えれば再生価値につながる」と、聞いたことがある。今では「サスティナブル・ジュエリー」というカテゴリーがあるほど。これも再販価値を生むかもしれない。
機械式の高級時計はメンテナンスすれば、再販は可能だ。国内メーカーの販売代理店の部長はかつてこう嘆いていた。「セイコーがクォーツなんて開発するから、時計屋が潰れるようになった」と。熟練技能士の雇用や育成がままならず、分解掃除の技術も伝承できなくなったということだ。再販市場が拡大すれば、日本人の技術者も必須になる。先日、高級時計のシェアリングサービスを謳った事件が発生した。防ぐには商品にシリアルナンバーをつけ、ブロックチェーンで管理することで所有者を明確にし、再販時にも確認できる仕組みが必要だろう。
国連が設定した2030年までの目標、SDGsが叫ばれる中で、サーキュラーエコノミー(循環型経済)が浸透し、若者の間ではリセール消費は当たり前になった。中古市場を時系列で推計するリサイクル通信は、2022年度の市場規模は2兆9000億円としている。カテゴリー別では衣料・服飾品が5200億円、ブランド品3100億円とみる。今後も成長が続くとみており、30年には4兆円に達すると指摘する。
リユース市場をアングライメージで見つめるのではなく、むしろ中古品市場の活況は再販価値をもつ商品作りがカギになる。そういう考え方に変えるべきなのだ。そのためには原価率が高くコストをかけた上質な商品を生み出す努力をすることが重要。若者には購入額に限界があるとは言えるが、消費そのものの動向から目が離せないのも確かである。