HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

スーツ不要と個性を混同するな。

2012-01-23 15:57:18 | Weblog
 ソニーがリクルートスーツ不要論を唱えているという。理由は「多様な人材がいるからこそイノベーションが生まれる」と、「それぞれの個性を大切にするため、日本特有の就活というルールを変える」のだそうだ。しかし、服装自由の就活が学生の個性表現につながるかと言えば、決してそんなことはない。

 ソニーはれっきとした製造業で、本社や営業部門ではスーツ着用が当たり前だし、研究開発の部門や工場ではユニフォーム(作業ジャンパーとスラックス)姿で仕事に勤しんでいる。
 そこでいつも疑問に思うのが、研究開発や工場の「管理職」のスタイル。彼らはジャンパーを着ている割に、インナーはドレスシャツで、ネクタイを締めている。そもそもテーラースーツだからシャツとネクタイを着用するのがファッションのルールだ。管理職のお偉方はブルーカラーと思われたくないから、ネクタイを締めるのなら、ジャンパーも脱いでテーラージャケットを着るべしと言いたい。
 大企業の幹部がドレスコードとTPOを混同しているのに、就活の学生に対し「個性表現」をたてにリクルートスーツ不要なんて打ち出す方が的外れである。

 そもそもスーツは欧米ファッションにおける「オケージョン」の一つ、オフィシャル場面で着用するアイテムとして伝来した。ホワイトカラーのビジネスマンが取引先との折衝やディーラー訪問で相手に対するマナーなど、立場や仕事で周囲や環境から一種の制約を受けている場面で、着用するのである。
 就活は学生が人事部の人間から話しを聞いたり、自分の思いや力量をプレゼンする「オフィシャル」の第一歩。だから、スーツを着ている方が自然だし、色もグレーや紺、黒ならどれでもでもいいはず。企業側が色一色による没個性化とか、スーツ不要にによる募集人材の多様化を口にする方が、採用ノウハウの限界、学生を見る目が退化し始めている証拠ではないか。

 ファッション業界では、20年以上前にリクルートスーツ不要を打ち出す企業があった。ファイブフォックスの上田稔夫社長が「企業や上司に“服従”の姿勢を示すためのスーツやネクタイなら、そんなものは捨ててしまえと僕は思う」「でも、それを捨てたところにもマーケットが出現する。人間にとって服の楽しみって何なのか、この先の商品にはレボリューションが必要だ」と語っていたのをハッキリ憶えている。
 これが言えるのはファッション業界のトップだからではない。 その先にあるのはイノベーションとレボリューションの違いこそあれ、目的は「何か新しいことを起こせ」という点で、双方とも変わらないはずだ。 むしろ、こちら方がソニーが言う「それぞれの個性を大切にするため、日本特有の就活というルールを変える」よりは学生にわかりやすく、ストレートに伝わると思う。

 だいたい、 ファッション業界ではないソニーが就活学生の服装を自由にしたからといって、その学生の格好と仕事に対する考え方や思いをどう結びつけられるというのか。斬新なファッションならイノベーターと判断するのか。所詮、既製服に変わりはないのだから、革新もクソもない。
 今は亡きアップル社のCEO スティーブ・ジョブスは、公式な場でも黒のニットとジーンズ姿だった。このニットはジョブス自身がイッセイミヤケ社のアイテムをえらく気に入り、自分のスタイリングのためにカスタムメイドで生産ロット分を発注したと、自伝に記されている。ここまで来ればたとえ既製服であっても、さすが革新的で個性ある人間の行動と言える。

 ソニーがリクルートスーツ不要論で、就活学生に多様化や個性を求めるのは、完全にアップルの後塵を拝する日本企業の引け目ではないのか。ただ、ソニー側が服装自由の学生にジョブスのような国際的で文化的なマナー、かつエモーショナルなコミュニケーション力を見いだせなければ、イノベーションも世界一を奪い返す技術も商品も生みだせないと思うが。
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