セレクトショップの「URBAN RESEARCH/アーバンリサーチ」が「7月の商品仕入れを一旦すべて止める」という旨を一部の取引先に通知していた問題。(https://news.yahoo.co.jp/articles/135fd36efc76faeb5f529b0629eb218f79d8861c)
業界関係者からすれば、今に始まったことではないため、一時的な怒りや憤りはあるにしても、取引の停止を恐れて要求を呑むはずと、白けムードが漂う。しかも、今回は新型コロナウイルス禍という異例の事態でのこと。仕方ないのではとの雰囲気もある。
ただ、メーカー側としては製造した以上、換金できなければ、それは回収できない売掛金として経営に重くのしかかる。来シーズンまで持ち越してもらえる可能性はあるにせよ、その判断は小売側の一存に左右される。いきなりトレンドが変わると、「やっぱり、仕入れない」と言われることも、無きにしもあらずだ。
どうしてこんな問題が発生するのか。本来なら取引条件についてきちんと契約を結んでおくべきなのだが、業界の長年の商慣習(営業とバイヤーとのなあなあの関係)により、形骸化しているのである。というか、URBAN RESEARCHのような大手小売業はまとまった数量を発注してくれるし、受注するメーカー側も売上げを取るには、そちらの仕事を受けた方が効率がいい。結果的に発注側が「主」で、受注側は「従」という関係になっていく。
しかし、そんな取引慣行を続けると、上部だけの付き合いで信頼は生まれず、いつかは関係が破綻する。メーカーが孫請けに発注していれば、そちらにまでしわ寄せがいく。まして商品が売れずに余剰在庫が溢れると、持続可能な社会の実現は不可能だ。今回のように信用調査系のメディアが取り上げたところで、一過性の問題で終わってしまう。共存共栄、ウィンウィンの関係なんて、とうの昔に終わっているのだ。しかし、それでいいわけがない。
メーカーが従の立場である以上、最終的には法律(民法や下請法に抵触)に頼るしかない。しかし、その前にアパレル事業者が疲弊して調達先が限られてしまえば、小売り側にとっても好ましいことではないだろう。SPAに舵を切ったことで、そもそもの発注量が莫大になり、企画製造への取っ掛かりは1年以上前になっている。それにより売れないケースが出てきて在庫を残すハメになり、次の仕入れにも影響が出る。決してコロナ禍だけが理由ではないのだ。
D2CやC2Mでは解決できない
すでに小規模なアパレルは、ECの力を借りて小売りを介在させず、直接消費者に商品を届ける「D2C(Direct to Consumer)」に活路を見出そうとしているところもある。ただ、D2Cと言っても、完全受注生産ではないのだから、在庫リスクはメーカー側が持たなければならない。やはり「卸先なしの小売知らず」では、資金繰りに窮するところが出てくる可能性もある。
それを解決する手法として、インターネットやショールームで、商品サンプルの受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産し、お客に届けるC2M(Customer to Manufactory)も注目されている。だが、ここではこれらのシステム論に救いを求めることへの言及は控えたい。
むしろ、筆者が提起したいのは、卸と小売り、メーカーと中間業者や工場などの関係を維持したまま、悪しき慣習を変えるにはどうすればいいか、である。だいぶ前から言われている「CSR(企業の社会的責任)」。これを現場サイドでもう少し具体化し、監査体制を強化できるような仕組みに進化させられないものか。
日本アパレル・ファッション産業協会は、昨年の9月に開催したセミナーで、経営トップがCSRを企業戦略の一環として位置付ける姿勢を示した。また、協会はCSR委員会や工場監査ワーキンググループを立ち上げている。特に外国人技能実習生を雇用する工場について、発注者であるアパレルの対応が問題となっており、「発注者責任」として受注企業(工場等)の労務管理や労働環境、給与など国内法律に準拠しているか、協会は発注者にも管理するように促している。
欧米のスポーツアパレルの多くが第三者機関による「工場監査」を行っている。ブランドライセンスを取得している日本のアパレルも工場を監査しているが、「監査要求事項」の事項は機関によって様々なのが現状だ。協会では会員企業が統一フォーマットで監査を行えるようCSR工場監査要求事項を作成し、英訳や中訳にも取り組んでいる。
ただ、肝心な日本国内における大手対下請けの構図は、どうなのか。これについて協会に質問すると、「当団体ではこちら(大手による下請けへの不当な要求)も発注者責任と考えておりますが、CSR工場監査におけるサプライチェーン上の管理監査項目ではなく、下請法に抵触する案件と考えております」と回答した。国内問題ついては社会的責任の追及により、法的解決を向かわざるを得ないという立場のようだ。
ただ、下請法の対象となるのは、発注元の親事業者が資本金1000万円を超え(3億円以下)、下請けは資本金1000万円以下という規定があり、今回のケースは含まれない(URBAN RESEARCHは資本金1000万円)。後は民法の契約不履行に訴えるしかなく、法的解決も中々容易ではない。だから、メーカーに製造を委託する小売側の発注者責任についても監査というか、業界全体がチェックを厳密にする空気を作り、不公正な取引を要求するところには、企業名を公表するくらいの踏み込んだ措置が必要ではないのかと思う。
日本アパレル・ファッション産業協会にはどこまでの強制力があるか。また、会員企業である大手セレクトショップなどにしても自社はもちろん、業界の社会的責任について、本当に多面的に考えているのだろうか。結局、寄り合い所帯、仲良しクラブの域を出ないのでは、メーカーと小売り、元請け対下請け、孫請けとの歪な関係を正しい方向に導くことはできず、産業発展や持続可能な社会なんて実現するはずはないのではないか。
アパレルを格付けできないか
個人的には、アパレル業界でも元請け企業や発注元の「格付け」を行ってもいいのではないかと思っている。ここで言うのは、金融界でいう「投資家の判断材料」という意味ではなく、消費者から下請け業者、取引関係者までの皆に対して公開する、元請け企業や発注元の経営の安全性や信用力を分析、評価した指標のことである。そのランキングというか、「⭐️印」を見れば、取引上優越的な地位にある「アパレルブランド」や「ショップ」、卸し、小売りが本当に真っ当なビジネスを行っているかを誰もが知ることができるというものだ。
もちろん、欧米アパレルのように格付けが単に証券市場からの資金調達の道具になってはいけないのだが。それが結果的に信頼に値して、安心して取引=購入につながるというバロメーターで、多くのステークホルダーにとって有益となるものにしたい。
例えば、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは上場企業で、四半期ごとに決算報告をする。しかし、それだけでは企業の真の姿はわからない。ユニクロの国内事業では、2018年8月期で店舗に約3割、国内倉庫に約4割、海外の生産地倉庫に約3割の「在庫」を抱えるとのデータがある。点頭在庫だけを見ても「本当に売り切れるのか」と思ってしまうが、それだけでなく倉庫にも膨大な在庫を積んでいるのだ。
それらはシーズンをすぎると、余剰在庫として翌シーズンに持ち越されるか、トレンドが変わって売れなければ処分されることになる。SDGsの流れからすれば、やはり逆行することだ。つまり、決算報告やバランスシートだけで企業の有り体をすべて把握し、分析するのは容易ではないということ。ならば、別の角度で企業の真の姿を判断できる材料があってもいいのではないか。
言い換えれば、いくら売れているブランドでも、いくら知名度をもつショップでも、力関係を背景にして取引先に対し、不当な要求をするのであれば、企業の格なんてダダ下がりで、社会的責任を問われて然るべき。法的解決にまで行かず、玉虫色でフェードアウトする事案があまりに多いのは、健全なビジネス環境とはいえず、業界が衰退する要因にもなる。ならば、格付けがあることにより、多くの利害関係者が真っ当な企業活動を行っているかどうかの判断材料になる。
格付けが三つ星クラスは健全なビジネスを行なっている。一つ星クラスは経営の面で注意が必要。星なしクラスに下がると、不当な要求があったり、支払いが滞ったりとその企業には何らかの問題があるということ。もちろん、経営を立て直し、是正すれば上がることもある。これは水面下での暴露合戦ではない。企業の安全性や信用度に対し消費者から下請け、孫請けの企業、取引業者までが注目することで、売上げやブランド力に影響を及ぼすのなら、企業は襟を正し、公正な活動に邁進するのではないか。つまり、旧来の慣行を脱して、近代化するのだ。
それをどこの誰が行うか。金融界の格付けは、複数の専門家が評価する。アパレル版では日本アパレル・ファッション産業協会が任意で選んだ大学教授や信用調査会社、フリーのファッションジャーナリスト、業界OBなどの識者だろうか。特定の企業に対する利害がなく、恣意的な評価にならない面々を選任し、現場から聞き取り調査し裏付けをとる。調査項目も細かく詰める必要があるし、下請けなど弱い立場の企業が専門家に問題を告発できる環境整備も必要になる。
日本アパレル・ファッション産業協会は、業界の理想ばかりを追求する団体ではないはずだ。アパレルビジネスの陰で、うやむやにされがちな問題にも目を向けて、それを解決に導いていくことも重要である。産業発展も持続可能な社会も、業界に身を置く末端までの事業者の安定無しではなし得ない。もちろん、本当に愛されるブランドやショップとは、健全な企業活動と公正な取引のもとで、醸成されるということを、問う時期に来ているのではないかと思う。
業界関係者からすれば、今に始まったことではないため、一時的な怒りや憤りはあるにしても、取引の停止を恐れて要求を呑むはずと、白けムードが漂う。しかも、今回は新型コロナウイルス禍という異例の事態でのこと。仕方ないのではとの雰囲気もある。
ただ、メーカー側としては製造した以上、換金できなければ、それは回収できない売掛金として経営に重くのしかかる。来シーズンまで持ち越してもらえる可能性はあるにせよ、その判断は小売側の一存に左右される。いきなりトレンドが変わると、「やっぱり、仕入れない」と言われることも、無きにしもあらずだ。
どうしてこんな問題が発生するのか。本来なら取引条件についてきちんと契約を結んでおくべきなのだが、業界の長年の商慣習(営業とバイヤーとのなあなあの関係)により、形骸化しているのである。というか、URBAN RESEARCHのような大手小売業はまとまった数量を発注してくれるし、受注するメーカー側も売上げを取るには、そちらの仕事を受けた方が効率がいい。結果的に発注側が「主」で、受注側は「従」という関係になっていく。
しかし、そんな取引慣行を続けると、上部だけの付き合いで信頼は生まれず、いつかは関係が破綻する。メーカーが孫請けに発注していれば、そちらにまでしわ寄せがいく。まして商品が売れずに余剰在庫が溢れると、持続可能な社会の実現は不可能だ。今回のように信用調査系のメディアが取り上げたところで、一過性の問題で終わってしまう。共存共栄、ウィンウィンの関係なんて、とうの昔に終わっているのだ。しかし、それでいいわけがない。
メーカーが従の立場である以上、最終的には法律(民法や下請法に抵触)に頼るしかない。しかし、その前にアパレル事業者が疲弊して調達先が限られてしまえば、小売り側にとっても好ましいことではないだろう。SPAに舵を切ったことで、そもそもの発注量が莫大になり、企画製造への取っ掛かりは1年以上前になっている。それにより売れないケースが出てきて在庫を残すハメになり、次の仕入れにも影響が出る。決してコロナ禍だけが理由ではないのだ。
D2CやC2Mでは解決できない
すでに小規模なアパレルは、ECの力を借りて小売りを介在させず、直接消費者に商品を届ける「D2C(Direct to Consumer)」に活路を見出そうとしているところもある。ただ、D2Cと言っても、完全受注生産ではないのだから、在庫リスクはメーカー側が持たなければならない。やはり「卸先なしの小売知らず」では、資金繰りに窮するところが出てくる可能性もある。
それを解決する手法として、インターネットやショールームで、商品サンプルの受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産し、お客に届けるC2M(Customer to Manufactory)も注目されている。だが、ここではこれらのシステム論に救いを求めることへの言及は控えたい。
むしろ、筆者が提起したいのは、卸と小売り、メーカーと中間業者や工場などの関係を維持したまま、悪しき慣習を変えるにはどうすればいいか、である。だいぶ前から言われている「CSR(企業の社会的責任)」。これを現場サイドでもう少し具体化し、監査体制を強化できるような仕組みに進化させられないものか。
日本アパレル・ファッション産業協会は、昨年の9月に開催したセミナーで、経営トップがCSRを企業戦略の一環として位置付ける姿勢を示した。また、協会はCSR委員会や工場監査ワーキンググループを立ち上げている。特に外国人技能実習生を雇用する工場について、発注者であるアパレルの対応が問題となっており、「発注者責任」として受注企業(工場等)の労務管理や労働環境、給与など国内法律に準拠しているか、協会は発注者にも管理するように促している。
欧米のスポーツアパレルの多くが第三者機関による「工場監査」を行っている。ブランドライセンスを取得している日本のアパレルも工場を監査しているが、「監査要求事項」の事項は機関によって様々なのが現状だ。協会では会員企業が統一フォーマットで監査を行えるようCSR工場監査要求事項を作成し、英訳や中訳にも取り組んでいる。
ただ、肝心な日本国内における大手対下請けの構図は、どうなのか。これについて協会に質問すると、「当団体ではこちら(大手による下請けへの不当な要求)も発注者責任と考えておりますが、CSR工場監査におけるサプライチェーン上の管理監査項目ではなく、下請法に抵触する案件と考えております」と回答した。国内問題ついては社会的責任の追及により、法的解決を向かわざるを得ないという立場のようだ。
ただ、下請法の対象となるのは、発注元の親事業者が資本金1000万円を超え(3億円以下)、下請けは資本金1000万円以下という規定があり、今回のケースは含まれない(URBAN RESEARCHは資本金1000万円)。後は民法の契約不履行に訴えるしかなく、法的解決も中々容易ではない。だから、メーカーに製造を委託する小売側の発注者責任についても監査というか、業界全体がチェックを厳密にする空気を作り、不公正な取引を要求するところには、企業名を公表するくらいの踏み込んだ措置が必要ではないのかと思う。
日本アパレル・ファッション産業協会にはどこまでの強制力があるか。また、会員企業である大手セレクトショップなどにしても自社はもちろん、業界の社会的責任について、本当に多面的に考えているのだろうか。結局、寄り合い所帯、仲良しクラブの域を出ないのでは、メーカーと小売り、元請け対下請け、孫請けとの歪な関係を正しい方向に導くことはできず、産業発展や持続可能な社会なんて実現するはずはないのではないか。
アパレルを格付けできないか
個人的には、アパレル業界でも元請け企業や発注元の「格付け」を行ってもいいのではないかと思っている。ここで言うのは、金融界でいう「投資家の判断材料」という意味ではなく、消費者から下請け業者、取引関係者までの皆に対して公開する、元請け企業や発注元の経営の安全性や信用力を分析、評価した指標のことである。そのランキングというか、「⭐️印」を見れば、取引上優越的な地位にある「アパレルブランド」や「ショップ」、卸し、小売りが本当に真っ当なビジネスを行っているかを誰もが知ることができるというものだ。
もちろん、欧米アパレルのように格付けが単に証券市場からの資金調達の道具になってはいけないのだが。それが結果的に信頼に値して、安心して取引=購入につながるというバロメーターで、多くのステークホルダーにとって有益となるものにしたい。
例えば、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは上場企業で、四半期ごとに決算報告をする。しかし、それだけでは企業の真の姿はわからない。ユニクロの国内事業では、2018年8月期で店舗に約3割、国内倉庫に約4割、海外の生産地倉庫に約3割の「在庫」を抱えるとのデータがある。点頭在庫だけを見ても「本当に売り切れるのか」と思ってしまうが、それだけでなく倉庫にも膨大な在庫を積んでいるのだ。
それらはシーズンをすぎると、余剰在庫として翌シーズンに持ち越されるか、トレンドが変わって売れなければ処分されることになる。SDGsの流れからすれば、やはり逆行することだ。つまり、決算報告やバランスシートだけで企業の有り体をすべて把握し、分析するのは容易ではないということ。ならば、別の角度で企業の真の姿を判断できる材料があってもいいのではないか。
言い換えれば、いくら売れているブランドでも、いくら知名度をもつショップでも、力関係を背景にして取引先に対し、不当な要求をするのであれば、企業の格なんてダダ下がりで、社会的責任を問われて然るべき。法的解決にまで行かず、玉虫色でフェードアウトする事案があまりに多いのは、健全なビジネス環境とはいえず、業界が衰退する要因にもなる。ならば、格付けがあることにより、多くの利害関係者が真っ当な企業活動を行っているかどうかの判断材料になる。
格付けが三つ星クラスは健全なビジネスを行なっている。一つ星クラスは経営の面で注意が必要。星なしクラスに下がると、不当な要求があったり、支払いが滞ったりとその企業には何らかの問題があるということ。もちろん、経営を立て直し、是正すれば上がることもある。これは水面下での暴露合戦ではない。企業の安全性や信用度に対し消費者から下請け、孫請けの企業、取引業者までが注目することで、売上げやブランド力に影響を及ぼすのなら、企業は襟を正し、公正な活動に邁進するのではないか。つまり、旧来の慣行を脱して、近代化するのだ。
それをどこの誰が行うか。金融界の格付けは、複数の専門家が評価する。アパレル版では日本アパレル・ファッション産業協会が任意で選んだ大学教授や信用調査会社、フリーのファッションジャーナリスト、業界OBなどの識者だろうか。特定の企業に対する利害がなく、恣意的な評価にならない面々を選任し、現場から聞き取り調査し裏付けをとる。調査項目も細かく詰める必要があるし、下請けなど弱い立場の企業が専門家に問題を告発できる環境整備も必要になる。
日本アパレル・ファッション産業協会は、業界の理想ばかりを追求する団体ではないはずだ。アパレルビジネスの陰で、うやむやにされがちな問題にも目を向けて、それを解決に導いていくことも重要である。産業発展も持続可能な社会も、業界に身を置く末端までの事業者の安定無しではなし得ない。もちろん、本当に愛されるブランドやショップとは、健全な企業活動と公正な取引のもとで、醸成されるということを、問う時期に来ているのではないかと思う。