全国各地で「地域活性化」というお題目を掲げたファッションイベントが盛んだ。それがついに九州・鹿児島にも上陸する。
第1回「鹿児島ニューイヤーコレクション」と銘打ち、 来年1月6日、栗原類、鈴木奈々、中村アン、加藤夏希など硬軟取り混ぜたモデル、タレントをゲストに鹿児島市民文化ホールで開催される。
今回もコレクションというクリエーションのお披露目やウエアのプロモーションは二の次ぎで、旬のタレントでお客を集めようというのが目的なのは、顔ぶれを見ればわかる。
また、「地場産業の活性化を狙う」という目標も、 鹿児島にはトレンドファッションを企画製造するアパレルメーカーなんてないだろうから、事業対象のメーンは小売業にならざるを得ない。
それが参加企業に名を連ねる山形屋、カリーノ天文館、ビーザワンってことだ。「大島紬」も地場産業だから無理矢理に加えられたのではないかと思えるほど、タレント頼みの客寄せ興行との整合性を欠く。
ただ、小売業主体のプロモーションといっても、前出の3社は百貨店、ショッピングセンター、セレクトショップである。今回のショーには全国的にも有名なブランドショップが集積する駅ビルのアミュプラザ鹿児島、ファッションビルの高島屋プラザが参加していない。
だから、ステージやランウエイを闊歩するタレントの衣装は、NBアパレル、チープなSPA、そして専門店系アパレルの商品になる。しかもプレス機能なんてないのだから、それらは「売り物」ってことだ。まあ、SPA、セレクトショップの商品は自社もしくは買い取りの商品である。
スタイリストの勝手なコーディネートで衣装が着崩されようと、間抜けなヘアメイクやフィッターのせいでファンデーションを着こうが、問題はない。
ところが、百貨店の商品はアパレルメーカーの委託商品や消化仕入れがほとんど。バックステージでのタレントの素行で、「汚れ」てしまえば買い取らなくてならないだろう。いくら山形屋と言えども、イベントによる販促効果以上に商品リスクを抱えなくてはならないのである。
セール真っ最中のイベントが販促に?
さらに問題はイベントの期日だ。今年の夏、三越伊勢丹グループなど数社が夏のセールを後ろ倒しした。しかし、それ以外の企業や商業施設は例年通り行った。おそらく冬のセールも同じになるだろう。
とすれば、イベント当日の1月6日は初売りがピークを迎える時期。ここで冬物をとにかく消化しなければならないのである。まだ、春物はほとんど入荷していないはずだから、セール対象品をイベント衣装のコスチュームチェック用として、暮れから確保しておかなければならなくなる。
つまり、販促目的で行うはずのイベントが「機会ロス」を生んでしまうという皮肉な結果にならないとも限らない。元来、この時期に行うイベントは春物のプロモーションであるべきなのだが、昨今メーカーはギリギリまで企画を先延ばししているので、欧米のコレクションのようには行かないのだ。
おそらく鹿児島の行政や商業界としても、とにかく「売り」や「客寄せ」につなげなくてはならないから、企画提案側のごり押しを飲まざるを得なかったのは、容易に想像がつく。
もっとも、ここまでは表というか、大人の事情である。では、一歩突っ込んで裏の事情も論じてみたい。今回の鹿児島ニューイヤーコレクションを制作するのは、神戸コレクションを仕掛ける制作会社のアイグリッツである。
このコラムでも何度も取り上げたイベント会社だ。神戸コレクションは、アパレルメーカーが集積する神戸ファッションの活性化を目的に、神戸市や神戸商工会議所を動かして、開催にこぎ着けた。プロデュースにはテレビ局の大阪毎日放送があたり、スポンサーなどを確保している。
その営業攻勢は2008年春に福岡県、福岡商工会議所が発起人となってスタートした福岡アジアファッション拠点推進会議にも飛び火。そのファッションイベントである「福岡アジアコレクション(FACo)」も手中に収めることに成功した。
こちらのプロデュースが大阪毎日放送の系列局であるRKB毎日放送であることからもその辺の裏事情は理解できる。ただ、地元福岡のファッション業界では、一応、事業企画はコンペで募集されたものの、それはアリバイづくりに過ぎず、県の担当者や商工会議所の幹部とRKB毎日放送トップとの蜜月で、はなから筋書き通りに事業が流れたとの見方が大勢を占めている。
そして、今回の鹿児島のケースはどうか。イベントそのものの内容は、衣装提供がアパレルメーカーから小売りに変わるだけで、大差はない。「地域活性化」をお題目に行政や商工会議所を味方に付け、公金や組合費からイベント事業費を拠出させる手法も同じだろう。
朝日放送系のKKBが参画する事情
しかし、唯一、違っているのは「事業」として当たる放送局だ。今回は「KKB鹿児島放送」が参画している。こちらはテレビ朝日、朝日放送系列だから、神戸コレクションや福岡アジアコレクションのにあたる毎日放送系ではない。
これまでの経緯を考えると、毎日放送系である「MBC南日本放送」が事業に参画するはずだろうが、そうならなかったところに何らかの事情があるのかもしれない。
ここからはあくまで推測の域を出ないが、かつて鹿児島経済界で一大勢力をもっていた南国殖産や林田グループ、岩崎産業のカゲは薄くなっている。代わって焼酎メーカーの薩摩酒造、本坊酒造が地場の政界、経済界に及ぼす影響力は少なくないようだ。
KKBの大株主が薩摩酒造であることを考えれば、今回のような行政や経済界を取り巻くイベントの力関係が変わったと、みることも出来る。また、鹿児島商工会議所の会頭は諏訪一族の末裔、諏訪秀治鹿児島トヨタ社長であり、活性化団体の「まちづくり鹿児島」の社長を務めていることをみても、納得できる。
MBC南日本放送については、代理店の「D」社と結びつきが強い。鹿児島で今回のようなファッションイベントを企画するのはD社の十八番だったから、MBCが代理店との営業的な不文律を破りたくなかったのではと考えれば、説明もつく。
しかし、一方ではそれはD社の凋落とともに、ダイレクトにイベント会社が参入するスキを生んだということである。
かつて熊本に本拠を置き、南九州一円に店舗網を築いていたスーパーの寿屋のグループ会社で、ファッション専門店チェーンの「ぶ~け」は、鹿児島でファッションイベントを開催していた。今回のイベントに参加するカリーノ天文館ももとはぶ~けの店舗で、この企画制作を手がけていたのはD社である。
当時、ぶ~けは地方チェーン店では隆盛を極め、販促にも経費を惜しまず投下していた。東京はもちろん、関西のアパレルメーカーも一目置き、鈴屋や鈴丹と並んでぶ~けのバイヤーの指示なら受けざるを得ないというのが、業界では専らの話だった。
筆者が懇意にしていた原宿のアパレルメーカーも、ぶ~けのファッションイベントのために、「プログラム上で必要なテイストの商品をわざわざ準備した」と言うほどだ。その背景にイベントを企画演出するD社の影響力がどれほどあったかは定かでないが、少なくとも地場企業と代理店がそれだけのイベントをやっていたのは事実であろう。
もっとも、昨年宮崎で東京ガールズコレクションのローカル版が開催されたが、後になってこの企画制作会社がかの国系企業だとの事実が週刊誌にすっぱ抜かれた。
ただでさえ保守的な鹿児島はこうした事情には敏感だ。だから、そこにさしてイベント企画の中身は変わらないものの、清廉潔白な神戸コレクション、アイグリッツが入り込めたということだろう。
一方で、スポット収入が激減するローカルテレビ局、特に鹿児島で下位にあるKKBがそれに替わる事業を進めたいのは当然のことで、アイグリッツの持ちかけは渡りに船だったのかもしれない。
所詮、ローカルテレビのプロデューサーなんて、ファッション業界もアパレル事情もほとんどご存じないのだから、派手なイベントにも触れるだけで舞い上がってしまうのはしかたないだろう。
筆者がコラムでこうしたファッション事業の問題点を指摘すると、「まともな反証も論拠もあげられず、コメントするだけありがたく思え」と捨て台詞しか吐けないのが、何よりの証拠である。
ファッション音痴で凡庸な思考力しか持たないローカルテレビがノウノウと事業にありつけるのは、関係団体とズブズブな間柄で、経営トップが団体幹部に働きかけて、プレゼンルール無視で事業を手中に収める過ぎないのだ。
まあ、それでも地場のファッション産業が「冬物在庫消化」とか、「売上げ増」とかの目的を達成すれば救いだが、それが絵に描いた餅であるのは、回を重ねる神戸コレクションや福岡アジアコレションを見れば一目瞭然である。
今、ファッション業界では、行政も商工会議所もローカルテレビ局もアイグリッツにうまく丸め込まれているだけで、代表のT氏が一枚上手なだけに過ぎないと言われている。鹿児島がそれに気づいた時にはすでに遅しかもしれないが。
第1回「鹿児島ニューイヤーコレクション」と銘打ち、 来年1月6日、栗原類、鈴木奈々、中村アン、加藤夏希など硬軟取り混ぜたモデル、タレントをゲストに鹿児島市民文化ホールで開催される。
今回もコレクションというクリエーションのお披露目やウエアのプロモーションは二の次ぎで、旬のタレントでお客を集めようというのが目的なのは、顔ぶれを見ればわかる。
また、「地場産業の活性化を狙う」という目標も、 鹿児島にはトレンドファッションを企画製造するアパレルメーカーなんてないだろうから、事業対象のメーンは小売業にならざるを得ない。
それが参加企業に名を連ねる山形屋、カリーノ天文館、ビーザワンってことだ。「大島紬」も地場産業だから無理矢理に加えられたのではないかと思えるほど、タレント頼みの客寄せ興行との整合性を欠く。
ただ、小売業主体のプロモーションといっても、前出の3社は百貨店、ショッピングセンター、セレクトショップである。今回のショーには全国的にも有名なブランドショップが集積する駅ビルのアミュプラザ鹿児島、ファッションビルの高島屋プラザが参加していない。
だから、ステージやランウエイを闊歩するタレントの衣装は、NBアパレル、チープなSPA、そして専門店系アパレルの商品になる。しかもプレス機能なんてないのだから、それらは「売り物」ってことだ。まあ、SPA、セレクトショップの商品は自社もしくは買い取りの商品である。
スタイリストの勝手なコーディネートで衣装が着崩されようと、間抜けなヘアメイクやフィッターのせいでファンデーションを着こうが、問題はない。
ところが、百貨店の商品はアパレルメーカーの委託商品や消化仕入れがほとんど。バックステージでのタレントの素行で、「汚れ」てしまえば買い取らなくてならないだろう。いくら山形屋と言えども、イベントによる販促効果以上に商品リスクを抱えなくてはならないのである。
セール真っ最中のイベントが販促に?
さらに問題はイベントの期日だ。今年の夏、三越伊勢丹グループなど数社が夏のセールを後ろ倒しした。しかし、それ以外の企業や商業施設は例年通り行った。おそらく冬のセールも同じになるだろう。
とすれば、イベント当日の1月6日は初売りがピークを迎える時期。ここで冬物をとにかく消化しなければならないのである。まだ、春物はほとんど入荷していないはずだから、セール対象品をイベント衣装のコスチュームチェック用として、暮れから確保しておかなければならなくなる。
つまり、販促目的で行うはずのイベントが「機会ロス」を生んでしまうという皮肉な結果にならないとも限らない。元来、この時期に行うイベントは春物のプロモーションであるべきなのだが、昨今メーカーはギリギリまで企画を先延ばししているので、欧米のコレクションのようには行かないのだ。
おそらく鹿児島の行政や商業界としても、とにかく「売り」や「客寄せ」につなげなくてはならないから、企画提案側のごり押しを飲まざるを得なかったのは、容易に想像がつく。
もっとも、ここまでは表というか、大人の事情である。では、一歩突っ込んで裏の事情も論じてみたい。今回の鹿児島ニューイヤーコレクションを制作するのは、神戸コレクションを仕掛ける制作会社のアイグリッツである。
このコラムでも何度も取り上げたイベント会社だ。神戸コレクションは、アパレルメーカーが集積する神戸ファッションの活性化を目的に、神戸市や神戸商工会議所を動かして、開催にこぎ着けた。プロデュースにはテレビ局の大阪毎日放送があたり、スポンサーなどを確保している。
その営業攻勢は2008年春に福岡県、福岡商工会議所が発起人となってスタートした福岡アジアファッション拠点推進会議にも飛び火。そのファッションイベントである「福岡アジアコレクション(FACo)」も手中に収めることに成功した。
こちらのプロデュースが大阪毎日放送の系列局であるRKB毎日放送であることからもその辺の裏事情は理解できる。ただ、地元福岡のファッション業界では、一応、事業企画はコンペで募集されたものの、それはアリバイづくりに過ぎず、県の担当者や商工会議所の幹部とRKB毎日放送トップとの蜜月で、はなから筋書き通りに事業が流れたとの見方が大勢を占めている。
そして、今回の鹿児島のケースはどうか。イベントそのものの内容は、衣装提供がアパレルメーカーから小売りに変わるだけで、大差はない。「地域活性化」をお題目に行政や商工会議所を味方に付け、公金や組合費からイベント事業費を拠出させる手法も同じだろう。
朝日放送系のKKBが参画する事情
しかし、唯一、違っているのは「事業」として当たる放送局だ。今回は「KKB鹿児島放送」が参画している。こちらはテレビ朝日、朝日放送系列だから、神戸コレクションや福岡アジアコレクションのにあたる毎日放送系ではない。
これまでの経緯を考えると、毎日放送系である「MBC南日本放送」が事業に参画するはずだろうが、そうならなかったところに何らかの事情があるのかもしれない。
ここからはあくまで推測の域を出ないが、かつて鹿児島経済界で一大勢力をもっていた南国殖産や林田グループ、岩崎産業のカゲは薄くなっている。代わって焼酎メーカーの薩摩酒造、本坊酒造が地場の政界、経済界に及ぼす影響力は少なくないようだ。
KKBの大株主が薩摩酒造であることを考えれば、今回のような行政や経済界を取り巻くイベントの力関係が変わったと、みることも出来る。また、鹿児島商工会議所の会頭は諏訪一族の末裔、諏訪秀治鹿児島トヨタ社長であり、活性化団体の「まちづくり鹿児島」の社長を務めていることをみても、納得できる。
MBC南日本放送については、代理店の「D」社と結びつきが強い。鹿児島で今回のようなファッションイベントを企画するのはD社の十八番だったから、MBCが代理店との営業的な不文律を破りたくなかったのではと考えれば、説明もつく。
しかし、一方ではそれはD社の凋落とともに、ダイレクトにイベント会社が参入するスキを生んだということである。
かつて熊本に本拠を置き、南九州一円に店舗網を築いていたスーパーの寿屋のグループ会社で、ファッション専門店チェーンの「ぶ~け」は、鹿児島でファッションイベントを開催していた。今回のイベントに参加するカリーノ天文館ももとはぶ~けの店舗で、この企画制作を手がけていたのはD社である。
当時、ぶ~けは地方チェーン店では隆盛を極め、販促にも経費を惜しまず投下していた。東京はもちろん、関西のアパレルメーカーも一目置き、鈴屋や鈴丹と並んでぶ~けのバイヤーの指示なら受けざるを得ないというのが、業界では専らの話だった。
筆者が懇意にしていた原宿のアパレルメーカーも、ぶ~けのファッションイベントのために、「プログラム上で必要なテイストの商品をわざわざ準備した」と言うほどだ。その背景にイベントを企画演出するD社の影響力がどれほどあったかは定かでないが、少なくとも地場企業と代理店がそれだけのイベントをやっていたのは事実であろう。
もっとも、昨年宮崎で東京ガールズコレクションのローカル版が開催されたが、後になってこの企画制作会社がかの国系企業だとの事実が週刊誌にすっぱ抜かれた。
ただでさえ保守的な鹿児島はこうした事情には敏感だ。だから、そこにさしてイベント企画の中身は変わらないものの、清廉潔白な神戸コレクション、アイグリッツが入り込めたということだろう。
一方で、スポット収入が激減するローカルテレビ局、特に鹿児島で下位にあるKKBがそれに替わる事業を進めたいのは当然のことで、アイグリッツの持ちかけは渡りに船だったのかもしれない。
所詮、ローカルテレビのプロデューサーなんて、ファッション業界もアパレル事情もほとんどご存じないのだから、派手なイベントにも触れるだけで舞い上がってしまうのはしかたないだろう。
筆者がコラムでこうしたファッション事業の問題点を指摘すると、「まともな反証も論拠もあげられず、コメントするだけありがたく思え」と捨て台詞しか吐けないのが、何よりの証拠である。
ファッション音痴で凡庸な思考力しか持たないローカルテレビがノウノウと事業にありつけるのは、関係団体とズブズブな間柄で、経営トップが団体幹部に働きかけて、プレゼンルール無視で事業を手中に収める過ぎないのだ。
まあ、それでも地場のファッション産業が「冬物在庫消化」とか、「売上げ増」とかの目的を達成すれば救いだが、それが絵に描いた餅であるのは、回を重ねる神戸コレクションや福岡アジアコレションを見れば一目瞭然である。
今、ファッション業界では、行政も商工会議所もローカルテレビ局もアイグリッツにうまく丸め込まれているだけで、代表のT氏が一枚上手なだけに過ぎないと言われている。鹿児島がそれに気づいた時にはすでに遅しかもしれないが。