米国では11月の第4木曜日(26日)はThanksgiving Day、いわゆる感謝祭だ。と言っても、ユダヤ教徒の多いニューヨークでは神への感謝より、コマーシャリズムを煽る休日という性格が強い。さらに翌日の金曜日(27日)はBlack Fridayで、百貨店をはじめとした主要小売店では大掛かりなセールを実施し、12月のクリスマス商戦に弾みをつける。ブラックフライデーはもともと黒山の人だかりを表すものだったが、次第に店舗が儲かって黒字になる意味に解釈されるようになった。
近年はAmazonをはじめとしたオンラインショッピングがブラックフライデーに続き、Cyber Monday(今年は11月30日〜12月1日)と銘打ってセールを始めるようになった。そのため、店舗での賑わいは筆者がいた90年代半ばに比べると幾分かは落ち着いている。ただ、今年は友人が撮った写真のようにコロナ禍が輪をかけて、マンハッタンへの人出はかなり閑散としていた。各店が例年のような混乱を避けようとセールを分散させたり、店頭展開の目玉商品をオンラインでも販売したことが奏効したかたちだ。
コロナ禍における感謝祭は束の間のガス抜きか
老舗百貨店の「Macy’s」は例年、感謝祭の午前中にパレードを行い、夜からセールを実施していた。今年のパレードは規模を縮小して行なったが店舗は休みで、ブラックフライデー早朝に開ける異例の営業にシフトした。ただ、オンラインサイトでは一足先にセールを始めており、事前に注文したお客のために受け取りコーナーを開設。それでも現物を確かめたいとか、試着をしたいお客が店舗を訪れたが、早朝から長蛇の行列になることはなく、買い物客が我先にお目当てのフロアに突っ走る光景は見られなかった。
他の百貨店で注目は、昨年の11月にウィメンズ館がオープンしたNORDSTROM。「マンハッタン中心部の大型百貨店がオープンするのは、ほぼ100年ぶり」というニュースが流れたほどの注目店だ。同店は高級店の魅力を打ち出し、「Cyber Deals」というセールで〜50%OFFの展開。ナイキやバーバリー、クリスチャン・ルブタンなど、この店限定の商品もあるので、それを目当てのお客が集まった。洋の東西を問わず、ブランドフリークにとって高級百貨店のセールは、コロナ禍だろうとマストバイなのだ。
米国の百貨店がここまでセールを行うのはなぜか。それは日本のような消化仕入れではなく、商品を買い取るのが基本だからだ。在庫はできる限り販売して現金化しなければならないので、バーチカルな商品消化のシステムを持つ。それが傘下に置く「リテイルアウトレット」だ。ノードストロムでは「NORDSTROM rack」という業態を展開している。マンハッタンではユニオンスクエア店の他に、Ave. of Americanと31丁目に囲まれたGreeley Squareにも新店がオープンした。
ノードストロムラックでは高級百貨店のノードストロムで売れ残った商品を安く販売するのだが、ブラックフライデー期間中には、通常のディスカウント価格よりさらに割引されていた。これから真冬に入るニューヨークでは欠かせなくなるコートやブーツ、乾燥による肌荒れを防止するコスメ、買い物の定番であるバッグやアクセサリーは人気アイテム。ただ、賢いニューヨーカーの間では、ブラックフライデーは安いから飛びつくのではなく、シーズンの必需品を低価格で購入する価値観に変化している。
グリーレイスクエアと反対側のヘラルドスクエアは1ブロックをメイシーズが占め、マンハッタンでは最も賑やかな一画と言われてきた。最近はかつてほどの勢いはなく、ブラックフライデーの集客も新参のノードストロムラックに奪われてしまった。筆者もメイシーズはサックスやブルーミングデールズと並んでよく覗いたが、実際に買い物したのは真向かいにあったスーパーの「F.W. Woolworth」だ。それも帰国後の1997年には全店が廃業し、スポーツ用品店のに「Foot Locker」転業した。
現在、ウールワースがあった場所にはフットロッカーと並んでディスカウントストアの「Target」が進出。そのターゲットですら「Cyber Monday Deals」というオンラインセールを展開中で、ビデオゲームから家電品までが30〜50%オフで購入できる。ターゲットはチープな生活必需品を揃えるので実店舗は集客力を発揮するが、衣料品、服飾雑貨しか扱わないForever21は2015年の約44億ドルをピークに売上げ減少の一途を辿っている。高額な家賃負担に耐えきれず、ヘラルドスクエアから撤退する日もそう遠くないと思う。
その他、ソーホーやグリニッジビレッジといったダウンタウンにも買い物客は訪れている。サンクスギビングデーは日本で言うお盆の感覚で、仕事や学校で各地に移り住んでいる人々が休暇を利用して帰省し、家族や友人と一緒に過ごす。今年はコロナ禍が全米に拡大しているため、政府は旅行やパーティを自粛するように呼びかけているが、そこはコマーシャリズムの街ニューヨークだ。マンハッタンに繰り出す人出は例年より少なかったものの、感謝祭〜ブラックフライデーは消費者にとって束の間のガス抜きになったのも確かだろう。
日本はオンラインとリアルを融合させたサービスを
一方、オンラインショッピングは、実店舗とは違ってコロナウィルスに感染するリスクもないため、ネット事業者は一気呵成に出ている。有名ブランド各社が出店するサイト(https://www.rakuten.com/r/MIKIUS?eeid=28187)では「Cash Back」を採用。代表的なところでは、ケートスペードが20%、ブルーミングデールズやナイキ、ニューバランスが15%、GAPやメイシーズが10%をPaypal経由でキャッシュバック。ディスカウントストアでも、あのウォルマートが6%で、前出のターゲットでさえ1%を還元している。
しかも、サイトのFirst Purchase(新規登録者)には、40ドルのWelcome Bonusまで付けている。米国ではワクチンが急ピッチで開発製造されているとは言え、一般消費者の投与されるまでにはまだまだ時間がかかる。日頃はマンハッタンはじめ各地のショッピンセンターに買い物に行く人々も、多くがオンラインショッピングに切り替えていくと思われる。だが、その影響で破綻に追い込まれたところもあるだけに、景気の回復にはむしろ足かせだ。
ニューヨークのある経営者が語った「人は必ず外に出たくなる」が脳裏に浮かぶ。この言葉からすると、人々が巣ごもり消費やワーケーションだけでどこまで過ごせるかは不透明だ。しかも、これからクリスマスホリデーに突入する。商店は煌びやかにデコレーションされ、イルミネーション輝く街は浮き足立つ。人々のテンションが上がれば、衝動買いの誘発にも繋がる。だから、感染対策と実店舗への集客をいかに両立させるかがクリスマス商戦では最大の課題となる。これは日本の商業にも言えることだ。
11月以降、再び感染者が増加して、菅首相はGo toトラベルでは札幌発や大阪発の旅行を控えるよう要請した。コロナ禍はあと2年くらいは続くという専門家もいる。第三波の襲来は感染対策が中だるみしたからとの見方があり、密集、密接、密閉の回避やソーシャルディスタンスを再び徹底しなければならなくなった。景気の減速で失業や所得減の影響は非正規雇用や低所得層に集中するが、長期化、深刻化すれば雇用・所得格差はさらに広がっていくだろう。
なおさら、景気が後退すれば正規雇用や中所得者も安泰とは言えず、心理的な不安から消費は下振れする。そうなると、オンラインショッピングとて盤石ではなくなるかもしれない。もう国や自治体の施策頼みでは限界があり、自ら生き残るためのビジネスモデルを作り上げることが不可欠になる。非接触、ディスタンスを維持しながら、いかにお客にアプローチするか。難しいが、やるしかない。
アパレル小売業はオンラインとリアルの融合など販売面のサービスにもっと磨きをかけるべきだ。百貨店や駅ビルなどはノードストロムが行っているエクスプレスサービスこそ、導入すべきではないのか。密集や密接を避けるために店舗入口からすぐにアクセスできる地階にブランド横断のピックアップコーナーを設け、ECで購入した商品を受け取れたり、完全密室、抗菌のフィッテングルームでの試着を可能にする。その場で返品・交換の受付も行う。
人が介在すれば、それだけ感染リスクは高くなるから、その仕事はITに代行してもらう。買い物に時間をかけないサービスが感染対策では重要になるということだ。奇しくもブラックフライデーの当日、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は衆院厚生労働委員会で、感染防止対策について「人々の個人の努力に頼るステージは過ぎた」と述べた。政府や自治体が対策をもっと強化すべきとの要望と取れるが、強権を発動すればするほど雇用や所得が回復する足取りは鈍り、日本経済はますます厳しさを増していく。
サンクスギビングデーは、神に感謝する日だが、今年は全ての小売業が神にも縋る思いではないか。しかし、神は自ら助くるものを助くるのだ。ネガティブ、深刻に考えても活路は見出せない。むしろ、ウィズコロナは続くと考え、新しいモデルを構築する好機ととらえるべきだ。それができたところが新しい時代を切り開くと言ってもいいと思う。
近年はAmazonをはじめとしたオンラインショッピングがブラックフライデーに続き、Cyber Monday(今年は11月30日〜12月1日)と銘打ってセールを始めるようになった。そのため、店舗での賑わいは筆者がいた90年代半ばに比べると幾分かは落ち着いている。ただ、今年は友人が撮った写真のようにコロナ禍が輪をかけて、マンハッタンへの人出はかなり閑散としていた。各店が例年のような混乱を避けようとセールを分散させたり、店頭展開の目玉商品をオンラインでも販売したことが奏効したかたちだ。
コロナ禍における感謝祭は束の間のガス抜きか
老舗百貨店の「Macy’s」は例年、感謝祭の午前中にパレードを行い、夜からセールを実施していた。今年のパレードは規模を縮小して行なったが店舗は休みで、ブラックフライデー早朝に開ける異例の営業にシフトした。ただ、オンラインサイトでは一足先にセールを始めており、事前に注文したお客のために受け取りコーナーを開設。それでも現物を確かめたいとか、試着をしたいお客が店舗を訪れたが、早朝から長蛇の行列になることはなく、買い物客が我先にお目当てのフロアに突っ走る光景は見られなかった。
他の百貨店で注目は、昨年の11月にウィメンズ館がオープンしたNORDSTROM。「マンハッタン中心部の大型百貨店がオープンするのは、ほぼ100年ぶり」というニュースが流れたほどの注目店だ。同店は高級店の魅力を打ち出し、「Cyber Deals」というセールで〜50%OFFの展開。ナイキやバーバリー、クリスチャン・ルブタンなど、この店限定の商品もあるので、それを目当てのお客が集まった。洋の東西を問わず、ブランドフリークにとって高級百貨店のセールは、コロナ禍だろうとマストバイなのだ。
米国の百貨店がここまでセールを行うのはなぜか。それは日本のような消化仕入れではなく、商品を買い取るのが基本だからだ。在庫はできる限り販売して現金化しなければならないので、バーチカルな商品消化のシステムを持つ。それが傘下に置く「リテイルアウトレット」だ。ノードストロムでは「NORDSTROM rack」という業態を展開している。マンハッタンではユニオンスクエア店の他に、Ave. of Americanと31丁目に囲まれたGreeley Squareにも新店がオープンした。
ノードストロムラックでは高級百貨店のノードストロムで売れ残った商品を安く販売するのだが、ブラックフライデー期間中には、通常のディスカウント価格よりさらに割引されていた。これから真冬に入るニューヨークでは欠かせなくなるコートやブーツ、乾燥による肌荒れを防止するコスメ、買い物の定番であるバッグやアクセサリーは人気アイテム。ただ、賢いニューヨーカーの間では、ブラックフライデーは安いから飛びつくのではなく、シーズンの必需品を低価格で購入する価値観に変化している。
グリーレイスクエアと反対側のヘラルドスクエアは1ブロックをメイシーズが占め、マンハッタンでは最も賑やかな一画と言われてきた。最近はかつてほどの勢いはなく、ブラックフライデーの集客も新参のノードストロムラックに奪われてしまった。筆者もメイシーズはサックスやブルーミングデールズと並んでよく覗いたが、実際に買い物したのは真向かいにあったスーパーの「F.W. Woolworth」だ。それも帰国後の1997年には全店が廃業し、スポーツ用品店のに「Foot Locker」転業した。
現在、ウールワースがあった場所にはフットロッカーと並んでディスカウントストアの「Target」が進出。そのターゲットですら「Cyber Monday Deals」というオンラインセールを展開中で、ビデオゲームから家電品までが30〜50%オフで購入できる。ターゲットはチープな生活必需品を揃えるので実店舗は集客力を発揮するが、衣料品、服飾雑貨しか扱わないForever21は2015年の約44億ドルをピークに売上げ減少の一途を辿っている。高額な家賃負担に耐えきれず、ヘラルドスクエアから撤退する日もそう遠くないと思う。
その他、ソーホーやグリニッジビレッジといったダウンタウンにも買い物客は訪れている。サンクスギビングデーは日本で言うお盆の感覚で、仕事や学校で各地に移り住んでいる人々が休暇を利用して帰省し、家族や友人と一緒に過ごす。今年はコロナ禍が全米に拡大しているため、政府は旅行やパーティを自粛するように呼びかけているが、そこはコマーシャリズムの街ニューヨークだ。マンハッタンに繰り出す人出は例年より少なかったものの、感謝祭〜ブラックフライデーは消費者にとって束の間のガス抜きになったのも確かだろう。
日本はオンラインとリアルを融合させたサービスを
一方、オンラインショッピングは、実店舗とは違ってコロナウィルスに感染するリスクもないため、ネット事業者は一気呵成に出ている。有名ブランド各社が出店するサイト(https://www.rakuten.com/r/MIKIUS?eeid=28187)では「Cash Back」を採用。代表的なところでは、ケートスペードが20%、ブルーミングデールズやナイキ、ニューバランスが15%、GAPやメイシーズが10%をPaypal経由でキャッシュバック。ディスカウントストアでも、あのウォルマートが6%で、前出のターゲットでさえ1%を還元している。
しかも、サイトのFirst Purchase(新規登録者)には、40ドルのWelcome Bonusまで付けている。米国ではワクチンが急ピッチで開発製造されているとは言え、一般消費者の投与されるまでにはまだまだ時間がかかる。日頃はマンハッタンはじめ各地のショッピンセンターに買い物に行く人々も、多くがオンラインショッピングに切り替えていくと思われる。だが、その影響で破綻に追い込まれたところもあるだけに、景気の回復にはむしろ足かせだ。
ニューヨークのある経営者が語った「人は必ず外に出たくなる」が脳裏に浮かぶ。この言葉からすると、人々が巣ごもり消費やワーケーションだけでどこまで過ごせるかは不透明だ。しかも、これからクリスマスホリデーに突入する。商店は煌びやかにデコレーションされ、イルミネーション輝く街は浮き足立つ。人々のテンションが上がれば、衝動買いの誘発にも繋がる。だから、感染対策と実店舗への集客をいかに両立させるかがクリスマス商戦では最大の課題となる。これは日本の商業にも言えることだ。
11月以降、再び感染者が増加して、菅首相はGo toトラベルでは札幌発や大阪発の旅行を控えるよう要請した。コロナ禍はあと2年くらいは続くという専門家もいる。第三波の襲来は感染対策が中だるみしたからとの見方があり、密集、密接、密閉の回避やソーシャルディスタンスを再び徹底しなければならなくなった。景気の減速で失業や所得減の影響は非正規雇用や低所得層に集中するが、長期化、深刻化すれば雇用・所得格差はさらに広がっていくだろう。
なおさら、景気が後退すれば正規雇用や中所得者も安泰とは言えず、心理的な不安から消費は下振れする。そうなると、オンラインショッピングとて盤石ではなくなるかもしれない。もう国や自治体の施策頼みでは限界があり、自ら生き残るためのビジネスモデルを作り上げることが不可欠になる。非接触、ディスタンスを維持しながら、いかにお客にアプローチするか。難しいが、やるしかない。
アパレル小売業はオンラインとリアルの融合など販売面のサービスにもっと磨きをかけるべきだ。百貨店や駅ビルなどはノードストロムが行っているエクスプレスサービスこそ、導入すべきではないのか。密集や密接を避けるために店舗入口からすぐにアクセスできる地階にブランド横断のピックアップコーナーを設け、ECで購入した商品を受け取れたり、完全密室、抗菌のフィッテングルームでの試着を可能にする。その場で返品・交換の受付も行う。
人が介在すれば、それだけ感染リスクは高くなるから、その仕事はITに代行してもらう。買い物に時間をかけないサービスが感染対策では重要になるということだ。奇しくもブラックフライデーの当日、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は衆院厚生労働委員会で、感染防止対策について「人々の個人の努力に頼るステージは過ぎた」と述べた。政府や自治体が対策をもっと強化すべきとの要望と取れるが、強権を発動すればするほど雇用や所得が回復する足取りは鈍り、日本経済はますます厳しさを増していく。
サンクスギビングデーは、神に感謝する日だが、今年は全ての小売業が神にも縋る思いではないか。しかし、神は自ら助くるものを助くるのだ。ネガティブ、深刻に考えても活路は見出せない。むしろ、ウィズコロナは続くと考え、新しいモデルを構築する好機ととらえるべきだ。それができたところが新しい時代を切り開くと言ってもいいと思う。