HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

+Jにみる企画の長短。

2020-11-25 07:01:23 | Weblog
 今回は、11月13日の発売された+Jで注目したアイテムを取り上げる。と言っても、発売当日はお客が殺到して完売した商品が多く、現物の入手はもちろん、チェックすらできなかった。そこで、記者向けに配信された情報と、今回運よく購入できた知人から見せてもらった1点に絞り、企画の方向性や商品のレベル、仕様など気づいた点を論じてみたい。




 アイテムはメンズの「ミドルゲージフルジップセーター」https://www.uniqlo.com/jp/ja/products/E435794-000/00?colorDisplayCode=69。これを取り上げるのは知人がたまたまゲットできたこともあるが、筆者はフランスのメーカーが企画した同系のアイテムを3年ほど前から着用しており、素資材からデザイン、仕様、編み立て、着用機会、ケア、価格までを比較しやすいからだ。



 ニットについて、それほど詳しいわけではないので、繊維流通研究会(http://www.apparel-mag.com/abm/content/about)発行の「ニットアパレルテクニカルブック」や、ニットメーカー・インプルーヴ(https://improve-knit.com)の鈴木弘美代表からご教授いただいた知識をもとに以下の項目で両者を比較する。


ジップセーター、ミドルゲージは企画の前進か

 まず、「企画」について。筆者はこれまでユニクロが企画した「ジップセーター」を見たことがない。ベーシックでコンサバ寄りを旨とする同社にとって、ニットにジップを使用するのは、企画の段階から却下されてきたのではないか。デザイナーズコラボならそのタブーにも挑戦できたはずだが、+Jの第1弾やクリストフ・ルメールとの協業でも見られなかった。それが今回実現した点は、一歩前進だろう。

 だが、ジップセーターはすでに多くのブランドが企画しており、別に目新しいものではない。しかも、+Jの「リブ編み」は複針床で編まれたダブルニットでは最もシンプルなタイプ。ユニクロの場合、デザイナーズコラボでも、ターゲットは世界中の不特定多数。サイズはXSからXXLまでの展開だし、尚且つゆとりを持って着てもらえるように横方向の伸縮性がいいリブ編みを選択したのだと思う。ただ、ジル・サンダーの監修ならば、編み地にももう少し工夫を凝らしても良かったのではないか。そこはマイナス点でもある。




 一方、仏メーカーのセーターは、インプルーヴの鈴木代表によると「ワッフル編み」(編組織は1×1の2コースタックを2コース毎に互い違いに編むスタイルか)との呼称とか。この編み地はSPAなどのプルオーバーで採用されているが、ジップアップ型は見たことがなかった。しかも、編み模様が幾何学的で小洒落ていたので、メーカーから送られた写真を見て即決した。ベタなリブではなく、ワッフル編みを採用したセンスの良さで、仏メーカーに軍配を上げたい。



 付属品のジップは+Jがダブル、仏メーカーはシングル。スライダーを適度に上げ下げしてインナーを見せるなど着こなしのバリエーションは、ダブルが勝る。ただ、アクセントになる色はユニクロはマットブラックで、仏メーカーはニッケル。どちらもYKKが製造する「エクセラ」のような高級品ではないが、ハイライトが効いてインスタ映えするのはニッケルの方だ。甲乙つけ難いが、コスト増を承知でダブルを採用したユニクロには天晴れだ。


毛80%、ナイロン20%の混紡率は邪道か
 
 糸は+Jが毛80%、ナイロン20%の混紡糸、仏メーカーが綿100%。ニットアパレルテクニカルブックによると、「基本的な混紡糸の組み合わせはポリエステルと綿や羊毛、レーヨンなどか、アクリルと綿、羊毛で、その他の組み合わせはほとんど見られない」とか。また、「ニットの方がピリング(毛玉)が発生しやすいため、ポリエステルと綿、レーヨンなどの混紡率はニット用で50/50%がほとんど」だそうだ。

 では、なぜユニクロがニット企画の常道を外れて毛80%、ナイロン20%の糸を選択したのかはわからない。ある識者はあくまで私見として、「ウール100%より、ナイロンをミックスした方が(マスプロダクトとしては)糸値(のコストが下がる)」「ナイロンを混紡することで糸の強度が増し型崩れしにくく、光沢が出るのでは」と語る。言われてみると、なるほどである。

 インナーにポリエステルやアクリル混のヒートテックを着用すると静電気が発生するかどうか。ユニクロのことだから、そこまで十分に検討したとは思うが、実際に着てみていないので何とも言えない。金属製のダブルジップを身頃に縫い付けるため、毛100%より身頃の耐性を高める目的でナイロン混を選択したとも考えられる。

 ニットでは編み目の密度を表すのに「ゲージ」という単位を用いる。前出のテクニカルブックによれば、ゲージは編機の針床1インチ(2.54cm)の中に何本のニードル(針)が入っているかを表すという。7ゲージの場合は7本/インチで1mに280本、10ゲージは10本/インチで同400本の針を持つとのことだ。また、5ゲージ以下はローゲージ、7、8、10をミドルゲージ、12ゲージ以上をハイゲージと呼ばれる。

 単純にこの理屈から考えると、針の数が少なければそれだけ密度が少ないので編み目が粗くなり、逆に多いと目が詰まってくることになるが、鈴木代表は「ゲージが粗くなることと密度の相関は一概に言えない」という。「12G→7Gは確かに1インチ間の針数は減るが、その分針も太くなるし、使用する糸の番手が太くなるので太い糸で度目を詰めて編めば、そこの密度が粗くはならない」そうだ。ニットのデザインを考える上では編み地が鍵を握り、それには針や編み目の密度が深く関わるということがわかる。

 糸の長さと太さを表すのが番手だ。1kgの中に糸が1kmあるのを1番手と呼ぶ。1/1と表記すれば1本の1番手の糸、2/12は2本の12番手の糸を表す。番手の数値が大きくなるほど糸は長くなるが、糸の太さは逆に細くなる。ただ、番手にはその糸に対して最も適したゲージの大きさ=適正ゲージがある。1/7(7番手)は7ゲージ、1/5(5番手)は5ゲージが適性となるが、あくまで目安で糸の素材や形、本数、編み方で変わってくる。

 +J、仏メーカーともミドルゲージ。見た感じでは両者とも8ゲージくらいだろうか。暖冬傾向が続いている最近は、SPA系の量販品ではミドル以下のセーターはほとんど見られなかった。ユニクロが企画するのもメリノやラム、カシミアなど梳毛系のハイゲージだ。ただ、これらは組織に変化がないので、デザインの面では特徴が出しづらい。だから「+Jは編み地で特徴を出せるミドルゲージを商品化しよう」と、企画が通ったのならば評価できる。レギュラーのセーターは代わり映えがしないため、ミドルゲージに飛びついたお客も少なくないと思う。


自分で「手洗い」するお客はどれほどいるか

 ニットの特性である保温力はどうか。+Jは編み地はやや粗いが、リブ=テレコの分だけ空気の層ができて保温力は高くなる。これをインナーに着て、アウターにダウンジャケットを重ねると真冬でも十分だろう。逆に九州のような南国では外を歩き回った後に暖房が効いた部屋に入ると、一気に汗ばむこともある。まあ、冬物なので、ナイロン混のウールは妥当なところだ。仏メーカーは目は詰まっているが、綿糸で保温力では劣る。だが、11月でも暖かい日が続くと、ウールより着用頻度は高い。筆者はレザージャケットのインナーで重宝している。

 もっとも、メンズ向けセーターなので、寒さ対策はレディスほど意識していないと思う。デザイン面で目先を変えたのと冬物としての保温力を両立させた結果、リブのジップアップセーターに落ち着いたのではないか。また、このアイテムは+Jという限定企画が希少性を生んで、店舗もネットも売り出し直後に完売している。毎年のように暖冬で冬物在庫を大量に抱えるアパレルが多い中、残品ロスを出さなかった意味は大きい。デザイナーズコラボは確実に在庫を捌くための戦術として、ユニクロも手応えを感じたのではないか。



 品質表示を見ると、+Jには「手洗い」と記載されている。つまり、ナイロンが入っていることから、汗など水溶性の汚れを落とすには水洗いが向くということ。ただ、ユニクロ級の商品を購入する層がニット製品をどこまでクリーニングするか。手洗いまで行って数シーズンも着用する人は一部のファンか、ユーズドとして売り捌くことまで考える層ではないか。

 最近はウール系のセーターでもニット専用の洗剤を使えば、ネットに入れて洗濯機で洗えるものが増えている。+Jはあえて他の方法を表示していないことから、手洗い以外での保障はないと受け取れる。まあ、手洗いするかどうかは、着用者の判断になるので、ユニクロ側も最適なケア方法を記したに過ぎない。仏メーカーは、液温は40 ℃を限度として洗濯機で洗濯でき、タンブル乾燥は禁止。またはパークロロエチレン及び石油系溶剤によるドライクリーニング可能の表示。筆者はネットに入れて洗濯機の弱回転で洗うつもりだ。

 最後に価格を考える。+Jは6990円(税抜き)、仏メーカーは49.99ユーロ(11月21日のレート(123.09円/ユーロ)換算で6153円程度)。+Jはジル・サンダー監修というプレミア価値が乗っているし、ダブルジップというプラスαを考えると、この価格にはお値打ち感がある。企画の面ではいろいろ課題もあるが、さすがユニクロのコストパフォーマンスだ。仏メーカーはモデレートの価格帯とすれば、こんなものだろうか。まあ、日本までの送料を考えると割高だが、グローバルな商品としてみると+Jとほぼ同等だと思う。



 以上、いろいろと比較してみたが、それぞれは同じターゲットに向けた商品ではないので、項目別で評価が違ってくるのは当たり前。ならば比較しても意味はないとも言えるが、そこはそれぞれの良いところも改善できる点もあることから、あえて論評させてもらった。今後の商品開発のヒントやニット選びの参考になれば、幸甚である。
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